元旦恒例の第129回ローズパレードにアジア代表の私立京都橘高校吹奏楽部が参加した。OGを含む男子10人、女子105人のグリーンバンドは、パレード前のバンドフェストで大観衆を前に一糸乱れぬステップを披露し、演奏後には観客総立ちの大歓声を浴びた。(麻生美重)

バンドフェストで演奏する金丸さん
 世界でも最多のステップ数で知られる橘高校のバンドに、片脚が義足のフルート奏者、金丸仁美さん(18)がいる。生まれつき左脚は膝までの長さ。だが、山吹色のユニホームから伸びた両足は、他のメンバーと少しも変わらない動きを見せる。白いサポーターを手がかりにして大勢の中から仁美さんを見つけるのだが、すぐに見失ってしまう。
 3人きょうだいの末っ子で、幼少のころから音楽のある環境で育ったという仁美さん。フルートを始めたのは中学になってから。その後、橘高校で吹奏楽部に入りたいという夢をかなえたが、厳しい練習を続けるうちに左脚に痛みを覚え、手術、入院となった。だが、高校1年のその期間以外は、3年間部活動に没頭した。
 部長の石田亜海さん(18)は「クララ」の愛称で呼ばれる仁美さんについてこう言う。「クララの脚のことは今では全く気にとめない。同じステップを踏むし、他のみんなと変わらない動きができる。ここへ来るまでクララは一生懸命頑張ってきたと思う」
 クリスマスの日にロサンゼルス入りし、ディズニーランドのパレード参加やオレンジ郡のリハビリ施設への慰問など、各地で演奏してきた。リハビリ施設では「みんなの励みになった」と感謝を伝えられ、温かい気持ちになったという。
 バンドフェストの後半に橘高校が登場すると、仁美さんは中央に呼ばれ司会者からの質問を受けた。やや緊張した面持ちで立つ仁美さんに、観衆から盛大な拍手が送られた。
フィールドから退場する京都橘高校グリーンバンド
 トラックを退場する 京都橘高校吹奏楽部[/caption] 「スターウォーズ」や「ジュラシックパーク」、「小さな世界」など当地ではおなじみの楽曲を多彩なステップとともに披露する橘高校吹奏楽部。ほかのメンバーと同じ速さで何十メートルにもわたる距離を駆けめぐる仁美さんを多くのカメラが追いかけた。橘高校がフィールドから退場してもなお、拍手は鳴り続けた。 
他校の生徒と交流する金丸さん
 ローズパレード当日、初日の出を待つ空には薄いバラ色が広がった。賑やかにオープニングの楽曲が流れパレードが始まった。開始約30分後、橘高校の演奏する「スターウォーズ」のテーマが聞こえてきた。山吹色のユニホームの先頭に「京都橘、グリーンバンド」のバナーが見え始めると、周囲からは口笛や歓声が起こった。
 曲がり角で多くのバンドが歩幅を調節する中、橘高校は自慢のステップを変化させ、軽快にカーブを回って見せた。ひとつひとつのフォーメーション、足の動き、手の振りなど、ほかのバンドには見られない橘高校独自のパフォーマンスに、観客からはどよめきが上がる。
 隊列の反対側に仁美さんの姿も見えた。全長5・5マイルのコースを2時間半無事にステップし続けてほしいと願った。
 
  
 大きな舞台は卒業前の演奏会を残すのみとなった。バンドフェストの終了後、仁美さんは額の汗をぬぐいながら笑顔で語った。
 「短大進学後はバンドを続けるかわからないので、今回の演奏旅行はとても良い記念になった」
 バンド仲間から「クララ」と呼ばれる日も、あとわずかだ。

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3 Comments

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  1. 素晴らしいお話です。仁美さんの努力に頭が下がります。そしてオレンジの悪魔にパチパチ、私も最初Youtubeで拝見した時、観客に笑顔を持って手を振り演奏する姿に目頭があつくなりました。こんな素晴らしい高校生が米国で交流していることに、そして、ロースパレードをつぶさに拝見するとそこにスパンサード HONDAを知り、日本人として誇りに思います。

  2. 以前から京都橘のマーチングに感動して大ファンで、中でもシング・シング・シングはずっと見てられます ある日、義足の娘がいるのに気づいたのですが、おどろいたのは彼女のコメントです男子でも人の目を気にしてコンプレックスを感じるだろうに これは自分の個性って堂々としてる事 中々言える事でもできる事でもないと思います。残念ながら年下の彼女に教えられました・・・これからも彼女と京都橘マーチング・バンドのファンでい続けたいと思っています