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地震情報アプリ開発者必見!予報業務許可とは?

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はじめに

地震アプリを開発していると、多くの人が「予報業務許可」に出会います。しかし、私のような人間には法律の話はちと難しい...そこで、「予報業務許可」についてわかりやすくまとめました。

記事の内容には万全を期していますが、私は法律および気象の専門家ではないので、解釈の誤り等が考えられます。ご自分でよく確かめて行動してください。

予報業務許可とは?

まずは気象庁HPを見てみましょう。

気象庁以外の事業者が天気や波浪等の予報の業務を行おうとする場合は、気象業務法第17条の規定により、気象庁長官の許可を受けなければなりません。これは予報業務が国民生活や企業活動等と深く関連しており、技術的な裏付けの無い予報が社会に発表され、混乱をもたらすことを防ぐ必要があるため、予報業務を許可制としているものです。
(気象庁HPより引用)

...つまり、無責任な”予想”が社会に悪影響を与えないように、気象に関する”予想”をするには許可が必要ですよ、ということです。

上記でも触れられていますが、気象業務法 第十七条によって、以下のように定められています。(リンクから条文を確認できます)

気象庁以外の者が気象、地象、津波、高潮、波浪又は洪水の予報の業務(以下「予報業務」という。)を行おうとする場合は、気象庁長官の許可を受けなければならない。

法律ですから、知らなかった、では済まされません。先の章で、予報業務について詳しい知識を見てみましょう。

予報業務って?

言葉の意味

聞いたこともない単語にたじろいだのは私だけでしょうか。予報業務という言葉の意味するところは、予報+業務で考えます。予報とは、「観測の成果に基づく現象の予想の発表」つまり、実際のデータを基にした予想。業務とは、「定時的又は非定時的に反復・継続して行われる行為」つまり、「繰り返し行うこと」。実際のデータに基づく予想を、繰り返し提供することは、予報業務となるわけです。

「業務」というと、営利目的のものを想像するのですが、非営利だから許可は不要、なんていうことはもちろんありません。

予報の内容

予報には許可が必要、と一口にいっても、許可が必要な”予想”には多くの種類があります。予報するのに許可が必要な事象を挙げると、気象及び地象、補完観測、火山現象(降灰等)、土砂崩れ、津波、高潮、波浪、洪水、そして地震動。そう、地震の予想にも許可が必要になります。

ポイント

アプリの機能として、地震に関する予想をする機能を搭載することは、「観測データをもとに繰り返し予報を行うこと」つまり予報業務にあたるでしょう。この点に留意が必要です、

以下のページで、予報業務の概要がQ&A形式でわかりやすくまとめられています。予報業務について、詳しく・正確に知りたい方は、ご覧ください。

地震動の予報業務

前の章で予報業務のあらましを説明しました。こんどは、地震動の予報業務に注目して、詳しく見ていきましょう。

概要

気象庁HPより要約すると、「個別地点の震度や地震動の到達時刻」を予想し、即時的に発信する、もしくは、予想する装置を販売すること等が地震動の予報業務にあたります。

地震情報アプリで例えると、現在地の予想震度や、現在地に揺れが到達するまでのカウントダウンを表示することは、予報業務に当たります。気づかずに無許可で実装してしまいそうな機能もありますね。

「即時的」って?

上記の通り、即時的な発信でなければ、予報業務に当たりません。では、即時的とはいったいどんな条件でしょうか。
これについて、以前気象庁に問い合わせた1ところ、「情報が直前の地震のものだと推測できる時間内を即時的としている」(意訳)とのことです。具体的に「何時間」などと示されていないので判断に困りますが、状況に応じて判断するほかありませんね。

勘違いしがちなこと

予報業務について、私が一時勘違いしていたことを挙げておきます。聡明な皆さんにはわかりきったことかもしれませんが、少し難解なところなので、お役に立てばうれしいです....

予報業務許可の要・不要に「方法」は関係ない

地震情報アプリで例えると、気象庁による緊急地震速報と、同じく気象庁が提供するJMA2001走時表を使って、地震の揺れの到達時刻を予想するケースです。一見、気象庁が出している資料だけを使って予報しているため、問題ないように感じますが、やはりこれにも許可が必要です。
また、独自のアルゴリズムを開発して推測するとしても、やはり許可が必要です。

どんな手法で予想しても、予報業務は予報業務、許可は必要ということです。

個人でも予報業務許可は取得できる

「どうせ大企業じゃないと予報業務許可を取得できないんでしょ...」
と思ったそこのあなた! あなたでも予報業務許可は取得できる(はず)!

実際に、この間「Project DM-D.S.S(dmdata.jp)」の運営者 そうし様が、予報業務許可を取得されました。尊敬の限りです...

他にも、約50の企業・個人が地震動の予報業務許可を取得しています。どうしても予報業務にあたる機能をアプリに搭載したい場合、予報業務許可をとるという手もあります。

予報業務の許可事業者一覧:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan_jishin.html

予報業務じゃありません

予報業務の線引きを紹介しましたが、以下に「予報業務にあたらないこと」を示します。意外なものもありますから、判断に迷ったら、独断で判断せず、法律の条文を確認するか、直接気象庁に確認するのがよいでしょう。参考までにご覧ください。

震源要素の推定は予報業務ではない

実際の観測データを用いて、震源要素を推定することは、予報業務にあたりません2。ただし、その震源要素を使って、個別地点の震度や地震の到達時刻を推定すると、予報業務となります。

予報円表示は予報業務ではない

予報円表示は、強震モニタでもおなじみで、地震波の広がる様子が直感的に理解できる表現手法です。

image.png

JMA2001走時表を使って地震波の到達時刻を推測することは予報業務に当たるということでした。

では、地震波の予報円を描画することも予報業務でしょうか?否、予報業務にあたりません。名前に「予報」が含まれており、JMA2001走時表を使うということもあって、一瞬不安になりますが、許可なしで実装して問題ありません。どうぞ、安心して実装してください!

その他、現在地への地震波の到達状況を、プログレスバー等、他の表現で表示することも、予報業務に当たりません。

予報資料の”伝達”は予報業務ではない

予報業務許可業者が予報した資料(震度や到達予想)を取得し、他者に伝達することは予報業務には当たりません。自分自身で予報することに許可が必要、ということです。

地震の到達・未到達の予想は予報業務ではない

驚きの事実です。現在地等に、すでに地震波が到達したか否かをリアルタイムに知らせることは、なんと予報業務に当たらないのです3

到達したか否かを表示するには、内部的に到達時刻を予想する必要があります。しかし、到達時刻を表示せず、「到達」「未到達」の形での表示なら、予報業務に当たらないということでしょう。

※疑われるかもしれませんが、気象庁に問い合わせた結果です。

例外

予報業務に当たる予想でも、個人や家族の範囲内ならば合法ですし、即時的に発信しなければ許可は不要です。それに、当然ですが、日本人以外にはこの法律は適用されません。

また、予想したデータを基に構造物の応答計算をして、その計算結果のみを表示する場合も予報業務に当たらないようですが、これは地震情報アプリの範疇ではないため、詳細な説明は省略します。

事例

ここまでの章で、予報業務について理解できたかと思います。実際の地震情報アプリを例に、各アプリの予報業務許可との付き合いを見てみましょう。

NERV防災 など

言わずと知れた、地震情報アプリの代名詞、NERV防災。多機能で、地震の到達カウントダウンや現在地の予想震度表示機能も搭載します。やはり法律面もしっかりしていて、運営会社のゲルヒン社が、予報業務許可を取得しています。(許可第214号)

ナンバーワンの風格ですね...

その他、「The Last 10-Second」のウェザーニューズ社や、「SignalNow」シリーズのストラテジー社も、予報業務許可を取得しています。

JQuake

パソコン用地震情報アプリの最大手、JQuakeも、地震の到達カウントダウンや、設定地点の予想震度表示に対応しています。しかし、このアプリには変わった事情が。

製作者のFrançois LN様は、なんとフランスの方で、予報業務許可を取得できないそうです。そのため、気象庁に確認し、予報業務許可なしで予報業務をしてもよいとのお墨付きをもらったそうです。外国人なので無許可でもOK!ということ。ウラヤマシイ!

これを読んでいる方は、大半が日本人でしょうから、真似をすると犯罪です。素直に法に従いましょう。

EQMax

到達カウントダウンなど、魅力的な機能を搭載していますが、予報業務許可を取得しておらず、ハッキリ言って違法です。4
独自の手法で到達時間を求めているため、合法という主張ですが、解説した通り、予報業有無許可の要・不要に手法は関係ありません。

Zero Quake

私の開発するアプリ「Zero Quake」では、気象業務法を遵守し、以下のように対応しています。(予報業務許可未取得)

  • 緊急地震速報で予想震度・到達予想時刻が気象庁から発表された場合、それを表示(伝達)
  • S波の到達・未到達を予想して表示(先述の通り合法)
  • 地震のシミュレーション時に予想震度・到達予想時刻を予想(架空の地震に対する予報のため合法)

さいごに

地震アプリを開発されている皆さんは、おそらく「被災地に貢献したい」「地震被害を少しでも減らしたい」という思いが少なからずあると思います。しかし、それ以前に、法に反していては、無責任な情報の流布により、その目標への前進どころか、後退することになってしまいます。法を守り、気持ちの良い開発を心がけましょう。

また、この法律の趣旨を考え、無責任な情報の発信は控え、アプリの制作時にも誤りの無いように気を付けましょう。

この記事の内容に補足や訂正があれば、コメントをお願いします。

  1. 気象庁 情報利用推進課にメールにて確認。確認した内容について、こちらでは責任を持ちませんので、ご自身で判断する判断材料としてください。

  2. 許可が必要なのは、「個別地点震度」「到達時間」の予想のみ。震源要素の予想はこれに当たらない。

  3. 地震の到達までの時間をカウントダウンすることは予報業務にあたる。あくまで到達・未到達の真偽値表示のみ。

  4. 記事作成時点での情報

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