東京オペラシティタワー内にあるNTT東日本の文化施設「NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)」(東京・西新宿)。その中に設置された325型の巨大モニターに、2022年8月16日から28日までゲルニカがほぼ実物大の8K映像で映し出された。このスペインの誇る傑作、人類共通の財産ともいえる作品を多くの人が食い入るように見つめた。

NTTインターコミュニケーション・センターで2022年8月16日から28日まで公開された「ゲルニカ」のほぼ実物大の8K映像。325型の巨大モニターが使われた
NTTインターコミュニケーション・センターで2022年8月16日から28日まで公開された「ゲルニカ」のほぼ実物大の8K映像。325型の巨大モニターが使われた

両手を突き上げる人、逃げ惑う人、死んだ子どもを抱えて天に向かって泣き叫ぶ女性、いななく馬、牡牛、光を放つ電灯のようなもの――。ピカソは色彩のないモノクロの絵の具で阿鼻叫喚の地獄さながらの世界を描き出した。

8K映像が映し出す現実の世界を上回る「リアリティ」

85年前の1937年4月26日、スペイン北部にあるバスク地方の小さな町ゲルニカがナチス・ドイツに空爆される。人類史上初めて子どもを含む一般市民が犠牲になった無差別攻撃だった。フランスのパリでこの恐るべき暴力を知ったピカソは、すぐに絵を描く準備を始め、最初に習作(45枚残る練習用の下書き)を描き、5月11日には大きなキャンバスに向かったとされる。通常の油絵の具のほかに工業用ペンキも使われたといい、ゲルニカは1カ月弱という短い期間で完成した。

325型巨大モニターでは、様々な部分がクローズアップされ、そして全体が映し出される。 「絵は見る人によって初めて命を与えられる。牛は牛、馬は馬だ。鑑賞者は結局、見たいように見ればいいのだ」と語ったピカソの言葉もあわせて紹介される。

人間や動物たちが描かれている中で、ただ一つだけ、こちらを見つめている牡牛がゆっくりと拡大表示されていく。次第にキャンバス地の模様が浮き上がり、意外に薄塗りの印象を受けるなど筆のタッチや画面の材質感が手に取るように分かってくる。おそらくスペイン・マドリードのソフィア王妃芸術センターで展示されているゲルニカを実際に見る時よりも細部にわたって詳しく鑑賞できたのではないか。

8K映像の世界は、その意味では、現実の世界をはるかに上回る「リアリティ」を表現できる可能性を秘めている。圧倒的な迫力、現実感を持って、遠く離れた日本にいながら世界の名画を鑑賞できる。これが「実物大の8K映像」でゲルニカを目にした時の最初の率直な感想だ。