特集

期待高まる「海洋温度差発電」、農水産業と共存共栄

久米島で100kWプラントが連続稼働10年、世界が注目

2022/09/19 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ
印刷用ページ

世界68カ国から視察団

 沖縄県の久米島は、那覇市から西方100kmの東シナ海に浮かぶ離島。63.65km2の面積に約8000人が暮らしている。サトウキビやサトイモなどの農業が盛んで、黒潮による豊かな漁場にも恵まれるが、最近ではクルマエビなどの養殖も発展している。

 世界に先駆け、同島に「海洋温度差発電(OTEC:Ocean Thermal Energy Conversion)」が稼働を始めたのは2012年6月。沖縄県が佐賀大学の協力を得て設置した出力100kWの実証設備で、実際の海水を使って発電に成功した世界初のケースという。稼働して9年目になるが、順調に運用を続けている(図1)。

図1●沖縄県の久米島で稼働する海洋温度差発電の実証設備
図1●沖縄県の久米島で稼働する海洋温度差発電の実証設備
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 「OTEC」とは、表層海水と深層海水の温度差を使って発電する。海深くに潜っていくと水深200m程度で太陽の光はほとんど届かなくなり、約1000mの深海では年間を通じて海水温は4~5℃と冷たく保たれている。一方、太陽が照り付ける海水面は、沖縄近海で約26度、ハワイなど赤道近くでは年間平均で約30℃と温かい。

 久米島のOTEC実証設備では、沖合2.3kmの水深612mの海底から汲み上げた8~9℃の深層水と、約26℃の表層水との温度差を利用する。低沸点の作動流体を表層水で気化させ、その膨張する力でタービンを回して発電し、その気体を5℃の深層水で冷やして再び液体に戻し、それをまた表層水で気化させるーーというサイクルになる(図2)。

図2●海洋温度差発電(OTEC)の原理
図2●海洋温度差発電(OTEC)の原理
(出所:沖縄県/海洋温度差発電実証設備のパンフレット)
クリックすると拡大した画像が開きます

 次世代の再生可能エネルギーとして、OTECへの期待が高まっている中、久米島の実証設備は、その実用性を実際の海水で示したとして注目され、運転開始以来、これまでに世界68カ国から1万2000人以上の視察を受け入れている。

 OTECは、革命的な要素技術によって実現したわけではない。蒸発器→媒体蒸気→(タービン回転)→凝縮器という循環は、一般的な蒸気タービンによる火力発電と同じだ。これを「ランキンサイクル」という。ランキンサイクルは、化石燃料を燃やして数百℃という高温高圧の蒸気を使えば、環境温度との差が大きく、相対的に効率よく発電できる。だが、20℃程度の温度差では、効率が低く実用にならない。

 実際に、海水による温度差で一般的なランキンサイクルの設備を回しても、生み出した電力は深層水を汲み上げるポンプ動力に使われてしまい、正味の電力は得られない。OTECの原理自体は、1880年代にフランスの物理学者が提唱したものの、実用に至らなかったのは、こうした背景があった。

  • 記事ランキング