2008年12月にオープンした札幌市民ホール(カナモトホール)は、老朽化で2007年3月に閉館した札幌市民会館の代替施設として同会館の跡地に建てられた。当初、新しい市民会館ができるまで暫定的な代替施設として位置付けられていたが、オープンから15年目を迎えた現在も現役のホールとして運営されている。同ホールは、PPP(公民連携)の観点から注目すべき2つの大きな特徴がある。1つは整備手法。リース方式を採用し、建築構造に鉄骨造を採用したことにより低コスト・短納期を実現した。もう1つは「運営重視型」の事業者選定だ。

 札幌市営地下鉄の大通駅は、市営地下鉄3路線(南北線、東西線、東豊線)のすべてが交わる唯一の駅だ。札幌市民ホール(現在はネーミングライツにより「カナモトホール」と呼ばれる)は、市の中心部に位置するこの大通駅31番出口正面に位置する。

 2008年12月にオープンした札幌市民ホールは、老朽化で2007年3月に閉館した札幌市民会館の代替施設として同会館の跡地に建てられた。鉄骨造・地上4階建て、延べ面積は5947.28m2。大ホールの席数は旧・市民会館とほぼ同じ1500席を確保している。会議室は5室(大会議室を分割使用すると6室)。そのほか、コンビニエンスストアが施設内に入居している。

札幌市民文化センター外観と位置図。敷地面積7194.30m2・延べ面積5947.28m2・鉄骨造地上4階建て。大ホール約1500席+車椅子スペース16席分・楽屋4室・会議室6室・収益施設(コンビニエンスストア)などで構成されている。札幌市民会館の敷地に代替施設として建設された。写真奥の高層ビルは札幌市民交流プラザ(写真:新・公民連携最前線、出所:札幌市民ホール)
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札幌市民文化センター外観と位置図。敷地面積7194.30m2・延べ面積5947.28m2・鉄骨造地上4階建て。大ホール約1500席+車椅子スペース16席分・楽屋4室・会議室6室・収益施設(コンビニエンスストア)などで構成されている。札幌市民会館の敷地に代替施設として建設された。写真奥の高層ビルは札幌市民交流プラザ(写真:新・公民連携最前線、出所:札幌市民ホール)
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札幌市民文化センター外観と位置図。敷地面積7194.30m2・延べ面積5947.28m2・鉄骨造地上4階建て。大ホール約1500席+車椅子スペース16席分・楽屋4室・会議室6室・収益施設(コンビニエンスストア)などで構成されている。札幌市民会館の敷地に代替施設として建設された。写真奥の高層ビルは札幌市民交流プラザ(写真:新・公民連携最前線、出所:札幌市民ホール)

 札幌市民ホールは当初、新しい市民会館ができるまで暫定的な代替施設として位置付けられていた。6年~10年程度の利用が想定されていたが、オープンから15年目を迎えた現在も現役のホールとして運営されている。周辺の環境が変化したためだ。札幌市民ホールの敷地が市役所の移転候補地として浮上したのである*1。同じく札幌市中央区にあったホール「さっぽろ芸術文化の館」の2018年閉館も決まった。こうしたことから、札幌市民ホールは運営継続ということになったのである。

*1 市役所移転は、札幌市民ホールの隣地との一体的な再開発を行う構想だがまだ確定していない。計画が動き出すまでは、札幌市民ホールはこのまま続けて運営されそうな情勢だ。

 現在、札幌市民ホールの運営・維持管理は指定管理者である大和リースが担っている。指定管理料は年間2840万円(2020年度)。一方、市に入ってくるネーミングライツ料*2の収入が年間2000万円、そして、事業者が市に支払う入居するコンビニ部分の目的外使用料を合わせると、市の支出は差し引きでほぼ相殺されるという。

*2 建設機械器具レンタルのカナモト(札幌市)と契約。愛称名:カナモトホール、使用期間:2019年4月1日~24年3月31日(5年間)、協賛金額:年間2000万円(5年間総額1億円)

 コロナ禍以前、札幌市中央区の好立地ということもあり、札幌市民ホールの稼働率は高かった。2018年度の実績を見てみると、大ホールの稼働率は平日が47.5%、土日祝日は90.1%。週末はおおむね利用されている状態だ。会議室の稼働率(全日)は79.0%と多くの人に利用者されてきた。

1階と2階の配置図(出所:札幌市民ホール)
1階と2階の配置図(出所:札幌市民ホール)
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 2020年度はコロナ禍の影響で国内のホールは軒並み厳しい運営を強いられた。札幌市民ホールも例外ではない。臨時休業を余儀なくされた時期(4月14日~5月31日)があり、さらに公演中止も相次いだことから、稼働率は27.5%(全日)まで落ち込んだ。

 その後、世の中の新型コロナ対応も落ち着きを見せるにつれ、札幌市民ホールの利用状況も回復してきている。2022年10月~12月の四半期を見てみると、稼働日数だけならコロナ禍前の2019年同期を上回る。ただ、「声掛け禁止の状況が続いていることなどから、集客はまだ回復し切ったとはいえない」(札幌市教育委員会生涯学習部生涯学習推進課の逸見知之推進担当係長)という面もあるという。コロナ禍の影響は現在もまだ出ているようだ。

 とはいえ、今年5月8日には新型コロナウイルスの感染症法上の5類となる。これを機に、全国的にホールでの掛け声は解禁になる見通しだ。札幌市民ホールに限らず、今後のホール運営にとっては明るい材料だ。

公民連携の面から見た2つの特徴

 札幌市民ホールの特徴は、立地の良さや稼働率の高さだけではない。PPP(公民連携)の観点から注目すべき2つの大きな特徴がある。1つは整備手法。リース方式を採用し、建築構造に鉄骨造を採用したことにより低コスト・短納期を実現した。もう1つは「運営重視型」の事業者選定だ。施設を設定・整備したリース事業者を指定管理者に選定することによって施設のポテンシャルを引き出したのである。

 以下、これら2つの特徴について、それぞれ詳しく見ていこう。