公共施設の新たな民営化の手法として、運営権を民間に売却するコンセッション方式に注目が集まるなか、上下水道分野では議会の壁に阻まれて足踏み状態が続いている。

 奈良市では、上下水道のコンセッション方式導入に向けて条例改正案を提出したが、市議会の3月定例会で否決された。大阪市でも昨年に続いて今年2月、条例の改正案を市議会に諮ったが継続審議となった。いずれも、収益改善の見通しが不透明であることなどが理由だ。

 奈良市は、山間部に当たる東部、都祁(つげ)、月ケ瀬の3地域の上下水道で導入を目指していた。域内の給水人口は約1万3300人で、水道の管路1km当たりの人口は20~40人。いずれも市街地の約200人と比べて大幅に少ない。

奈良市がコンセッション方式の導入を検討している上下水道の区域(資料:奈良市)
奈良市がコンセッション方式の導入を検討している上下水道の区域(資料:奈良市)
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 これら3地域の収支を2014年度決算の値で見ると、料金収入が2億9000万円なのに対し、現金支出が4億9000万円と採算割れの状況。施設更新の余裕がなく、今後、維持管理が難しくなると奈良市企業局はみている。

 そこで、市企業局は官民共同出資で新たに設立する株式会社に3地域の上下水道施設の運営権を売却することを目指した。民間のノウハウを生かして経営を抜本的に改善しながら、新会社に市も出資することで料金などを市と同水準に保たせるつもりだった。

 市企業局は、新会社は市の機関とは異なって副業ができるので、経営が成り立つと説明していた。空き家対策や高齢者対策など、地域ビジネスの展開で、経営改善できるとしていたが、市議会の理解が得られなかった。再検討したうえで条例案を再提出する考えだ。

 大阪市では下水道を入れず、上水道事業だけでコンセッション方式の導入を目指している。昨年の市議会2月定例会に条例の改正案を提出したが、スケジュールが拙速であるなどとして否決。今年、改正案を再提出したが、より慎重な審議が必要だとして継続審議となった。