野生動物の研究には危険がついてまわる。ツキノワグマ研究者の小池伸介さんは、冬眠中のクマを調査していて何度も間一髪の目に遭ってきたという。「思い出すたびゾッとする」というそのエピソードをお届けする――。

※本稿は、小池伸介『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

あくびをするクマ
写真=iStock.com/BirdImages
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冬眠中のクマの動向はほとんどわかっていなかった

クマの研究を始めたときは、周囲から「クマは冬眠するからクマ研究は季節労働者だね」といわれたものだった。でも、私は探検部で雪山登山の経験があったので、冬眠中のクマの調査も行ってみようと思ったのである。

冬眠穴の研究は、私の前には1人しかやっている人がいなかった。海外では何十年も前からわかっていたのに、日本ではほとんどわかっていない。

そりゃそうだろう。クマが生息しているような山奥を真冬に探索するのは、それなりの技術と経験が必要だ。冬山に入る装備も必要になるし、一式揃えると結構お金がかかる。私のような気軽さでやってみようと思った人はまずいなかっただろう。

初めて冬眠穴の調査に出かけたのは、修士1年生のときで、調査場所は山梨だった。山梨の会社の社員の人で興味のある人と連れ立って、ワカン(「輪かんじき」の略称で、雪の上を歩くときに足が埋まりにくくするために靴に取り付ける道具)を付けて雪山に入った。

冬眠中なのでクマは動いていないはず。ということは、発信機を付けた個体ならば簡単に探せるだろうと期待していたのだが、甘かった。