松岡広大『アラクオ』直己と瞬の一夜を振り返る「本能的な動きを見せた」【連載PERSON】

公開: 更新:
松岡広大『アラクオ』直己と瞬の一夜を振り返る「本能的な動きを見せた」【連載PERSON】

人生に影響を与えたテレビ番組を軸に、出演作品の話題からその人のパーソナルな部分にも迫るインタビュー連載「PERSON~人生を変えたテレビ番組」。今回は、9月3日に第7話が放送される佐藤大樹さん(FANTASTICS)主演のドラマL 『around 1/4(アラウンドクォーター)』(テレビ朝日、毎週土曜26:30~/ABCテレビ、毎週日曜23:55~)より、横山直己役の松岡広大さんが登場します。

緒之さんの同名漫画をドラマ化した本作。かつてのバイト仲間だった直己、新田康祐(佐藤)、平田早苗(美山加恋)、橋本明日美(工藤遥)、宮下一真(曽田陵介)の5人が、25歳前後(アラウンドクォーター/通称:アラクオ)を迎えて直面した“25歳の壁”や“恋の分岐点”などに焦点を当て、それぞれが、悩み、傷つきながらも答えを見つけていく様を描いた恋愛群像ストーリー。

第7話で目黒瞬(阿久津仁愛)とひとつになった直己。彼は、どんな気持ちで瞬と向き合ったのでしょうか。松岡さんには、直己の心情の解説はもちろん、テレビの話や俳優としての信念など、幅広く語っていただきました。

※以下、ネタバレが含まれますのでご注意ください。

再確認した「複雑な人間の感情」

――『アラクオ』の世界に飛び込んでみて、どんなことを感じましたか?

直己は、5人の中だと口数が少なくて、他人との会話を毛嫌いしている側面があったと思うのですが、瞬という存在がいることで、物理的に会話の量、感情の揺れ動きが増えていきましたよね。人の温かさも冷たさも感じたことで、直己の心が温度を持ちはじめたというか。台本を読んでいても、自分が触れたことのない感情に出会える感覚がありました。7話なんて急展開でしたし(笑)。

(『アラクオ』は)直己の成長物語でもあり、彼が“人間”になっていく感覚も感じられたので、そこは面白いし、やりがいもありました。

――松岡さんは、あの5人の関係性についてどんなことを思いましたか?

5人は全員壁が1枚ありますよね。聞かれるまでは自分のことを話さないし、聞かれたとしても全部は話さない絶妙な距離感。飲みに誘われたら行くけど、どこかで「退屈だな」と思っていると思うんです。楽しいというよりは、「行った方がいいかな」という感覚、「不安にならないように」という感覚ですよね。だから、空気を読んでいるようで、じつはすごく暴力的だと思います。

――5人それぞれに焦点を当てるのが、このドラマの特徴です。この作品を通して、何か気づいたことや感じたことはありますか?

「人間の感情ってシンプルだよ」とか「喜怒哀楽でまとめられる」とか言うじゃないですか。その実相はもっと複雑なものだ、と分かったというか……再確認ですよね。簡単に「〇〇だから〇〇」みたいな「述語」で語りきれないものが感情なんじゃないかな、と思いました。

――視聴者の方もそのあたりは考えるところでしょうね。

共感したり、「それを還元していったら〇〇なんじゃない?」と思ってみたり、その人なりの答えを見つけてほしいですね。

僕は何かを演じるにあたって「余白」「想像の余地」というものをすごく大事にしていて。もちろん、覚悟を決めて「このテーマで一貫して見せます!」ということもあるとは思うのですが、この作品はいろいろなテーマが偏在しているから、それだとブレてしまうんです。撮影しながら、いろいろなものがないまぜになっているからこそ、『アラクオ』は成立しているんだなと思いました。

――まさしく急展開の7話。直己は瞬のどういうところに惹かれたと思いますか?

(瞬は)裕福ですが、親の仕事を継がなければいけない。「自由にできるのは今だけだから」って……それってすごく悲しいですよね。自由を謳歌したいけど、家のことがあるから抑圧されているし、未来予想図がもう立ってしまっている。ですが、目の前にあるものは享受したいという(笑)。

だから最初は「無駄だと思うことも、無駄だからこそやる」という(スタンスである)瞬への単純な興味だったと思います。直己が「それは無駄でしょ。俺は俺のやりたいことをやる」と思っているときに、自分とまったく真逆の人に会ったら、それは気になりますよね。直己はそんなこと思わないし、行動には移せないから、その行動力も羨ましい。「嫉妬と羨望」という言葉が一番ふさわしいのかなと思います。

――2人が関係を重ねた場面について、あれは直己にとってどんな意味があったと思いますか?

あのシーンって、「なんでも分かったみたいな口聞いて」とか「もっと料理と向き合え」とか、ほとんど瞬には言葉をかけていなくて、大きい独り言を言っているんです。

(康祐ら)4人にも、瞬にも見せていない、これまで溜まっていた自分の気持ちをぶちまけたことで、すべてのタガが外れた。直己にとって「感情が生まれた瞬間」なのかもしれないですね。だから、挑発に乗ってキスもしてしまう。論理とか合理性じゃなくて、感情だけで動いたのがあのシーンだと思います。

――直己にとってもいいきっかけになったと。

そうですね。今までは「〇〇だからこうしよう」だったけど、もう「する」「しない」だけ。本能的な動きを見せたのが、あのシーンだったと思います。

――松岡さん的にも力が入ったのではないでしょうか?

途中で何を言っているのか分からないぐらい、すごく感情的になりました。

――今後、2人がどうなるか楽しみです。そんな直己と瞬が働いているサパークラブ「クロマニョン」は、すごい場所だなと思いますが(笑)、実際どんな雰囲気なんですか?

酒池肉林というか(笑)。華やかで、ギラギラしているし、ブーメランパンツを履いた男の人が踊っているし、もうとんでもないです。本当に別世界の場所なので、 現実ではない感覚で撮影をしていました。

――本作は、5人の恋愛観も描かれています。各シーンを見て、松岡さんは、ご自身の恋愛で、どんなことを大切にしたいと思いましたか?

人との対話を大切にしたいし、「はい」「いいえ」の意思表示をはっきりしたいなと思いました。曖昧にするからずっと平行線のままだったり、泥沼化したりする。自分の意思があるのに、なかなか本音を言えないのは、相手のことを考えるからなのですが、誰かのせいにしているところもあるな、とも思うし……。恋愛は、持ちつ持たれつで、一方的でもダメ。だから「ちゃんと対話をしよう」と思いました。

役者として「一生勤勉でありたい」

――ここからは、松岡さんとテレビとの関わりを教えていただきたいです。ご自身が影響を受けたと思うテレビ番組を教えてください。

ガイアの夜明け』と『情熱大陸』ですね。たとえば『情熱大陸』だったら、別の職種のプロが、どういった考えで、どんな理念で働いているのかを知れますし、『ガイアの夜明け』を見ていると、経済や日本の社会などを論じている中で、数字と向き合っている人も、国と向き合っている人も、一人ひとりプロフェッショナルで、その分野ごとに熱量を持った人がいる、と実感できるんですよね。

僕は11歳から俳優をやっているのですが、俳優って特殊な仕事だと思うので、普通の感覚も忘れてはいけないと思っていて。そんな意味もあって、この2番組は学生のころから見ています。

――いま、よくご覧になっているテレビ番組を教えてください。

テレビ千鳥』ですね。大悟千鳥)さんのドリフイズムというか。志村けんさんのことを尊敬していらっしゃるんだろうな、と感じることが多々ありますし、テレビを拝見していても、コンプライアンスとかいろいろある中で、すごくせめぎ合っているなって思うんです。でも、そこで「笑いに変えられる力」が発揮されるので、すごいなと思っています。

――『テレビ千鳥』で好きな企画はございますか?

「喫煙所探訪」ですね。大悟さんが灰皿に抱きついちゃったり、レモンサワーに話しかけたり。もう、正直くだらないのですが(笑)、テレビで「え、これできるんだ!」って思うんです。
面白いのはもちろん、カッコいい感覚に近いのかもしれないです。

――最後に、松岡さんが、役者として大切にしている信念を教えてください。

「天才型」と「努力型」ってあると思うのですが、僕は天才ではないし、天才でいたくないんです。

僕は、できないことがある方が、上に行き続けられると思っていて。そのためには、一生勤勉でありたいし、努力を惜しまないで生きていきたい。たくさん学ぶからこそ「これを伝えたい」と思ったときに、お客様にそのテーマを感じてもらえて「考える余白」もちゃんと確保できると思うんですよね。

フィクションをフィクションとして楽しめる人って素晴らしいし、それって才能だと思うんです。物語に没入して、涙したり、笑ったり、怒ったり、「自分と一緒だな」と共感したり……。僕は、その効果で、人生も変えられると思っているので、そのためにも、(視聴者やお客様に)自由度を与えられる俳優でいたいです。

取材・文:浜瀬将樹
写真:フジタヒデ

画像ギャラリー

PICK UP