散居村

「散居村」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態のことを言います。農村の集落は、民家がひとかたまりになる形態が一般的ですが、散居村は1軒ずつ孤立して散在しています。日本にはいくつかの地域に散居村がありますが、富山県西部の砺波平野は国内最大級でおよそ220平方キロメートルの広さに屋敷林に囲まれた約7000戸を超える民家が点在する散居村が広がっています。

 

 

■水に恵まれた異色の扇状地、砺波平野

 

富山県の西部に位置する砺波平野は主に庄川が形成した扇状地です。扇状地とは川が山地から平地へ流れ出た土砂が、扇状に堆積した地形のことで、河川が山地から平野や盆地などに流れ出る所にみられるものです。庄川は、かつては堤防がなく主流と幾筋もの支流に分かれており、長い時間をかけ、川筋を変えてこのような広大な扇状地を形成したのです。

扇状地の特徴の一つに水の得にくさがあります。扇央部分では砂質の土壌が厚くその水はけの良さから水が地下に染み込んでしまい、川から水が消える「水無し川」になることがあると言われていました。水田は「ザル田」といわれるほど水もちが悪く、稲作には不向きとされる地形です。実際に全国では扇状地では果樹などの栽培の方が盛んなことが多いのが実情です。

しかし、砺波平野は水に恵まれていました。山地からの水が豊富で、地下に染み込む以上に水が供給されていました。これは庄川流域が降水量や降雪量に恵まれており、年間を通じて水を得やすかったこともあります。

庄川・小矢部川の豊かな水と土壌に恵まれていたことで他地域に比べ水田が盛んになったと言えます。

 

■加賀藩の治水事業でさらに広がりをみせる

 

扇状地は一般的に地表の土層が薄く、その下は砂や小石が堆積していますが、河川の力によって、ところどころに土が堆積して表土の厚いところが形成されました。散居村は、その周りより少し高いところに家を建て、洪水の害が及びにくい周囲の土地を開墾していったのです。

庄川は氾濫するたびに土地や家屋を流し、土砂を堆積してきた歴史があります。

そんな中、近世に入り統一した支配による加賀藩の治水事業や農民の力によって庄川本流の流れを固定し、支流の川跡を基幹用水として利用し、さらにその用水より網目のような小さな用水路網が造られました。この用水路網が整備されたことによって散居村は広がっていきました。

人々は自分の土地の中央に居住して、それぞれの家の周りの土地を開拓して米作りを行いました。農地が自分の家のすぐ周りにあることは、朝夕の水の管理や刈り取った稲の運搬など、あらゆる農作業において効率がよく、それを重視した農民が増えたことも散居村の形態が広がった要因の一つかもしれません。

 

 

■富山の厳しい冬を乗り切るには

 

砺波の散居村の特徴の一つが「カイニョ」と呼ばれる屋敷林です。

散居村では家屋が点在していることから、冬には厳しい風雪、春にはフェーン現象による強風に晒されることがしばしばあります。カイニョの役割のひとつは、強風から家を守ること。屋敷林には、スギ、ケヤキ、アテ、タケその他多様な樹種が植えられました。よって、もうひとつの役割として燃料や食料となり、建築用材になるので農民の暮らしには欠かせないものでした。それを表すかのように「高 (土地)を売ってもカイニョは売るな」「塩なめてもカイニョを守れ」といった言葉が残るほど、カイニョは大切にされてきてこの地で生きていくうえでの財産であったと言えます。

 

 

■散居村の歴史、当時の暮らしを体験しながら学ぶ

 

砺波平野の散居村について、歴史・景観・民俗・古民家施設・現代生活を体感しながら学べるのが、「となみ散居村ミュージアム」です。

見どころの一つとして、散居村の代表的な家屋様式のひとつである「アズマダチ」の見学が伝統館にて可能です。「アズマダチ」という呼び名は、家が東(アズマ)側を向いていること、また武家(アズマ)風屋敷をまねたことに由来します。散居村の家屋の多くは正面玄関が東を向いています。砺波平野の冬の季節風は主に南西から吹くので、屋敷林は南西側に厚く植えてあります。正面玄関は屋敷林の少ない東側に配置され、清々しい朝日を燦燦と受ける設えとなっています。建物の中は無料見学でき、当時の暮らしの様子を想像しながら観て回って頂きたいです。

 

 

 

また、民具館では国の重要文化財に指定された農具や生活用具など約1000点が展示されています。砺波地方で古くから使われたものを実際に見ることができ、その多様さは目を見張るものがあります。

入館料は個人100円で20名以上の団体は80円で見学可能です。

 

 

■雄大な大地と人々の暮らしを感じさせる羨望スポット

 

散居村は展望台など丘陵部からの眺める一面の美しさが有名ではないでしょうか。

富山県には「ふるさと眺望点」にも選ばれている砺波市の散居村展望台・展望広場の他、南砺市、小矢部市に展望施設があります。雄大で美しい散居村の風景を一望することができる絶景スポットです。

標高433mの鉢伏山にある展望台からは、広々とした砺波平野が見渡せ、天気が良い日は遠く立山連峰や富山湾も望むことができます。

5月上旬の田植えの頃には、水が張られ光きらめく田んぼに夕日が差し込み、黄金色に染まります。その光景は幻想的で、郷愁を誘います。

人々の暮らしと自然が共存し織りなす散居村の美しさは、自然に寄り添った人々の歴史を感じさせてくれます。

 

 

散居村はその広がる景観の美しさを取り上げられがちですが、その美しさは決して自然が生み出したものだけではありません。実際にその土地で生き抜くための人々の暮らし、自然に寄り添った自給自足の生活がありました。

しかし、現在は住民の生活様式が大きく変わり、農業と散居村の住民との関連性が次第に薄くなり、貴重な伝統家屋や屋敷林が減少しつつある、そんな問題も抱えています。

古くからのこの地域における人々の暮らし、そして、現在この景観を守ろうとしている人々の思いを理解すると、またその雄大な景観はより深く、私たちの心に訴えかけてくるのではないでしょうか。


 

■となみ散居村ミュージアム アクセス

●所在地:

〒939-1363 富山県砺波市太郎丸80

TEL 0763-34-7180 FAX 0763-34-7182

 

 URL https://sankyoson.com/