7月 02, 2017 17:21 Asia/Tokyo
  • イスラム世界におけるモスクの重要性

今回から、新番組「モスク、神と人間の約束の場所」をお届けしてまいります。この聖なる場所では、政治や革命の成り行きを決める最も重要な決定、さらには軍事的な協議さえも行われています。さらに、モスクはイスラムの文化、芸術、文明という遺産が込められ、そして民生における人々の団結や協力を促してきた場所でもあります。

この番組では、イスラム世界におけるモスクの重要性と、それが現代の世界に果たす役割に注目し、モスクの様々な機能について考えることにしましょう。さらに、世界有数のモスクの一部についてご紹介してまいります。

 

人類の歴史は幕開けから現在まで、神を崇め礼拝する文化と混ざり合ってきました。神への礼拝の方式は、時代や民族によりそれぞれ異なってきたものの、世界の絶対的な創造主である、神との関係における一般的な精神は一貫したものでした。イスラムは、最も完成度の高い最後の啓示宗教として、神に近づくための特別な慣習や服従の方法を提示しています。こうした聖なる行為の中で、特別に位置づけられている重要な行為として、礼拝が挙げられます。

全ての啓示宗教、さらには神によらない人間が起こした思想の多くにおいても、独自の儀式や慣習、礼拝を行う特別な場が設けられています。偶像崇拝者でさえも、過去から現在に至るまで礼拝や願掛け、いけにえの儀式や祈祷、崇拝の対象を称賛するといった儀礼の全てを執り行う場所を有しています。キリスト教徒は教会を、ユダヤ教徒はシナゴークと呼ばれる会堂を、そしてゾロアスター教徒はアータシュキャデと呼ばれる拝火教神殿を、自らの崇拝の対象を崇める場としてきました。そして、人類を指導する責務を担うイスラム教は、信者たちの礼拝場所にモスクという拠点を定めています。

 

モスクは、アラビア語でマスジェドと呼ばれ、神に向かってひれ伏す行為・サジダを行う場所を意味します。このことから、この聖なる場所は神に向かってひれ伏し、へりくだる場所という位置づけにあります。礼拝は、イスラムで最も重要な宗教的行為とされ、イスラム教徒にその実施が強く奨励されているとともに、礼拝行為の中でもひれ伏す行為・サジダは特に重要とされています。サジダは、地面にひれ伏すことで、偉大なる唯一神に、全ての創造物が服従しへりくだりる最大級の行為なのです。

 

コーラン第16章、アン・ナフル章「ミツバチ」、第49節には、次のように述べられています。

“誠に、天地にある凡ての生きとし生けるものも、また天使たちも神の御前にひれ伏す。彼らは決して主の御前で高慢になることはない”

サジダという行為は、服従の表現であり、全ての宗教的行為の中でも、また礼拝中のほかの動作の何よりも、栄誉ある傑出した行為とされています。このため、モスクはサジダを行い礼拝をする場所、即ち崇高なる神を思い起こし、崇める場所を意味しています。また、イスラムの文化においては神の家ともみなされています。

 

天地に存在する全ての創造物は、神に属しています。しかし、モスクは表面的には物理的な存在に過ぎないものの、人間がモスクの重要性をよりよく理解し、ここに集うことで神の恩恵にあずかれるよう、神はモスクを自らの家であるとしています。このため、人間はモスクにおいては神により近づいたことを実感するのです。

もっとも、モスクはそれらの間で格付け上の違いがあり、一部のモスクは、より重視されています。イスラムの伝承においては、数あるモスクの中でもサウジアラビアの聖地メッカにあるマスジェドル・ハラーム・カアバ神殿が最も重要であり、次いでメディナにある預言者のモスク、その次にイラクの町クーファにある大モスク、さらに聖地・ベイトルモガッダス・エルサレムにあるアクサーモスクが重要とされています。そして以下順に各都市にある大モスク、その後に地域・地区内のモスクとバザールにあるモスクが続きます。

メッカにあるカアバ神殿は極めて重要であり、このためイスラム教徒は毎日の礼拝をメッカの方向に向いて行うことが義務付けられています。さらに、他のモスクで礼拝を行うよりも、カアバ神殿の中で行うほうが、数千倍ものご利益があるとされています。

しかし、カアバ神殿以外のほかのモスクにも、ご利益があることは言うまでもありません。

 

ここからは、イスラム教の総本山として最も重要とされる、メッカのカアバ神殿について詳しくご紹介することにいたしましょう。このモスクは、マスジェドル・ハラームとも呼ばれ、イスラムの歴史上最も古く、知名度の高いモスクとされています。また、このモスクはその壮観さから神の家とも呼ばれています。

カアバ神殿は、サウジアラビア西部の町メッカにあり、常に特別な敬意の対象とされてきました。複数の伝承においても、天地創造が始まったばかりのころ、全ては水に覆われ、現世に初めて出現した陸地がこのカアバ神殿のある場所だったとされています。神がこの場所において陸地を拡大したことから、イスラムの聖典コーランでは、メッカは諸都市の母とされています。これについて、シーア派6代目イマーム・サーデグは次のように述べています。

“地上において、最も愛すべき場所はメッカである。神のもとでは、メッカより愛すべき所は存在せず、メッカにある石や樹木、山、水よりも愛すべき石、樹木、山、水は存在しない”

 

イスラムの伝承によれば、カアバ神殿の建設に初めて着手したのは預言者アーダムだったとされています。それが破壊されてからは、預言者イブラーヒームが息子のイスマーイールとともにこれを再建しました。預言者ムハンマドが預言者に任命される前に、カアバ神殿は再びムハンマドの協力によりクライシュ族の手で再建されています。それ以来現在まで、カアバ神殿は何度も改修・拡張工事が行われ、現在も拡張されています。

現在のカアバ神殿は、大理石が敷き詰められ、礼拝に使用されている屋上をあわせて、3階建てとなっています。この神殿の周辺に新しく作られたテラスのある地下を含めると、4つの階が存在することになります。

もっとも、カアバ神殿の壮観さは、その簡素な外観にある事に注目する必要があります。また、カアバ神殿の聖なる存在としての秘密は、神の命令により預言者イブラーヒームとイスマーイールの手で再建されたこと、この場所でシーア派初代イマーム・アリーが生誕したこと、そして伝承によれば、イスマーイールの母、ハージャルや預言者一門の多くがここに埋葬されていることにあります。

しかし、残然ながら現在、この聖なる場所を管理する人々が過剰な改築工事を施したことから、この聖なる場所の精神性や厳粛な雰囲気が薄れてしまっています。現在、カアバ神殿のある地域には、豪華な高層ビルやタワーがそびえ、幾つものプールが存在することから、聖地というよりは観光客向けの娯楽施設に近いものとなっています。ですが、古代建築や重要な宗教関連の建造物のある場所では、その周辺により高さのある建造物を作ることはもとより許されていないのです。

 

 

 

 

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