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大人のおしゃれ手帖 5月号

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大人のおしゃれ手帖
2024年5月号

2024年4月6日(土)発売
特別価格:1360円(税込)
表紙の人:南果歩さん

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【特別対談】安藤サクラさん × 是枝裕和さん
「信頼って、力になる」
ものづくりの醍醐味と心のつながりの大切さとは?

【特別対談】是枝裕和さん × 安藤サクラさん  「信頼って、力になる」 ものづくりの醍醐味と心のつながりの大切さとは?

たとえ立ち位置が異なっても、気持ちさえひとつにできれば―。
人と人との関係の基本は、いつも、どこでも同じなのかもしれません。
新作映画で再びタッグを組んだ、感情豊かな俳優と、鋭く優しく人と時代を捉える監督。
その微笑ましいやりとりは、ものづくりの醍醐味と心のつながりの大切さを物語っているようでした。


—嘘や建前はなしで、虚勢を張らないことが基本です

安藤サクラさん(以下、安藤)
『怪物』の初号(編集後の完成作)試写を観て、号泣したんです。脚本を読んだ時や現場で撮影していた時に私が想像していたものとはぜんぜん別次元の、本当にいい作品でした。

是枝裕和さん(以下、是枝)よかった。

安藤 タイトルの「怪物」について聞かれるたびに「私の中に怪物はいないし、人の中にも怪物を見ることはない」って答えてたんですけど、観終わっても、やっぱり怪物はいなかった。登場する、生きとし生ける存在すべてが愛しくて、抱きしめたくなりました。監督には、出演者の魅力を最大限に活かす力があるんだなぁって。

是枝 (背中をすくめて)ありがとうございます。安藤さんは、何と言うか、「探してくれる」人ですよね。一緒に現場で答えを模索する、あの感じが好きです。『万引き家族』の時も「監督……ここ、えっと、こうじゃなくて……あっ、いや、でも、やってみます!」って、その繰り返し。

安藤 アハハ、今回もそうじゃなかったですか? 普通、お芝居のテイクを何度も重ねると「私の何がいけないんだろう」って不安になったりするんですが、是枝さんの場合はそれがまったくない。新しいものを探していくのが、ただただ楽しかったです。

是枝 前半の大事な場面で、いろいろ考えた末に後日撮り直しをしたでしょ? スタッフ皆が気持ちを合わせてくれて、お芝居もすばらしかった。辛いシーンだったのに、安藤さん、すごくうれしそうだったよね。

安藤 覚えてますよ! 大人も子どもも、誰もがそれぞれの意見を言って、それを聞いて表現し合える、それが普通なんだっていう現場で……。ああいうのを信頼って言うんですか? とにかく、人と一緒に何かを作り上げていく時に、すごく力になるものなんだなと思いました。

是枝 意見が言いやすい環境を作るのは、まず大事ですね。あと、嘘や建前なしに、わからないことはわからないと言う。虚勢を張らないということは、基本にしていて。

安藤 そう、嘘つくと私、「嘘ついちゃった!」ってすごくストレスに苛まれるんですよ。だから、健康のためにも絶対に嘘はつけない。周りは大変かもしれないけど。

—年齢も立場も関係なく、誰もがお互いを尊敬し合える。そんなことが普通になればいい。

是枝 もちろん、嘘をつかざるを得ない状況に追い込まれる場合もある。今回の物語も、ある人物がついた嘘がきっかけになっているけれど、そういうところからきっとモンスターが現れるんだろうなと……。

安藤 私は嘘や勘違いが本当に怖いから、極力、それが生まれない状況に身を置こうとしてます。そうだ、私、『怪物』を撮影してる時、ずっとメモしてたんですけど……(手元のスマートフォンを探る)。

是枝 (不安そうに)えっ、何それ?

安藤 ……あった! えーと、「年齢、性別、役職関係なく、互いに尊敬し合い、とても楽しく撮っていました。ストレスを感じるような空気を一切なくしてくれるのが、是枝監督の現場です」。

是枝 (苦笑)

安藤 信頼のことも書いてある!「是枝監督には人を動かすパワーがあります。座組を信頼して動いちゃう、みたいなパワーが是枝組にはあるんです」。

是枝 (編集部に)これ、書かなくていいですからね……。

安藤 でも、本当だから! つい空気に合わせて調子いいテンションで言っちゃったりするとうまく気持ちが伝わらないから、夜な夜な自分の言葉を探して……だから、いちばん嘘がない、本当の気持ちなんです。

郊外で暮らすシングルマザーの早織と11歳の湊。息子の変化に戸惑う母の視点で綴られた物語は、ゆっくりと変容し始め……。誰の心にも潜む「怪物」の存在を重層的に描いた坂元裕二脚本を「人がちゃんと生きているように撮れれば大丈夫だと思った」と是枝監督。今年3月に逝去した故・坂本龍一の静謐な旋律が、深いシンパシーを誘う。 出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子 監督・編集:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一 企画・プロデュース:川村元気 山田兼司 製作: 東宝、フジテレビジョン、ギャガ、AOI Pro.、分福 配給:東宝 ギャガ 全国公開中

〔 映画 〕『怪物』

郊外で暮らすシングルマザーの早織と11歳の湊。息子の変化に戸惑う母の視点で綴られた物語は、ゆっくりと変容し始め……。誰の心にも潜む「怪物」の存在を重層的に描いた坂元裕二脚本を「人がちゃんと生きているように撮れれば大丈夫だと思った」と是枝監督。今年3月に逝去した故・坂本龍一の静謐な旋律が、深いシンパシーを誘う。

出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広
中村獅童 / 田中裕子
監督・編集:是枝裕和
脚本:坂元裕二
音楽:坂本龍一
企画・プロデュース:川村元気 山田兼司
製作: 東宝、フジテレビジョン、ギャガ、AOI Pro.、分福
配給:東宝 ギャガ
全国公開中


俳優・安藤サクラ
2007年、映画『風の外側』でデビュー。『百円の恋』『万引き家族』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、昨年公開の『ある男』で同最優秀助演女優賞に輝くなど多彩な役柄で評価を受ける。

映画監督・是枝裕和
1995年、第1回監督作『幻の光』を発表。代表作に『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『万引き家族』。『真実』『ベイビー・ブローカー』では海外を拠点に作品制作を行う。


撮影/平岩亨 スタイリング/坂上真一[ShirayamaOffice](安藤さん) ヘアメイク/星野加奈子(安藤さん) 文/大谷道子

大人のおしゃれ手帖2023年7月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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