学問が継承されないとこうなる
地質調査や山中の温泉調査等で不可欠なのは地形図と方位磁石(クリノメーターなど)です。ここでやっかいなことは、地形図の真北(しんぽく)と方位磁針が指す北(磁北)にずれがあることです。
このずれのことを偏角といいます。上の地図は日本の偏角を示したものですが、日本国内ではすべての場所で方位磁針は真北よりも西を指します。私の住む岐阜市の場合、現在の偏角は8.1度であり、方位磁針が示す北は、真北から8.1度も西へずれています。これをあらゆる場面で考慮する必要があります。
方位磁石の示す磁北と、真北にはかなりの差があるわけですので、本来、下の図のような「北を示す記号」も区別されていました。
上の左側の図は「磁北を表す時に使う記号」です。先っぽの角度は、その土地の偏角を表します。すなわち真上が磁北で、左側の斜線の延長方向が真北になるように作成します。日本ではどの場所も磁北は西に傾きますので、矢印を数字の4のように西側(左側)に出っ張るように描きます。外国では方位磁針が東側に傾く地域もありますので、そういった場所は右側に出っ張るように描きます。
一方、「地図の真北を表す記号」は右側の図のように、矢印の形が左右対称になるように描きます。それさえ押さえておけば、デザインは自由です。
残念なことに、現在はそういった意味があることが全く反映されることがなく、両者を区別することなく、感覚的というかデザイン的な好みで地図上で使われているようです。これは、義務教育の学習内容に取り入れられなかったことや、大学の地質学教室や自然地理学教室のような場で重要な基礎教育の内容として継承されていくことができなかったことが原因ではないかと思われますが、とにかく残念なことです。
学問がきちんと継承されていくということは、重要なことだと思います。学校教育に携わっていらっしゃる方に期待しますね。