終身雇用が崩れ去った現在、キャリアアップのためには当たり前となった転職活動。ポータルサイトに登録して、企業とマッチングするという方法がメジャーだが、それ以外にも企業側やエージェントから勧誘を受ける「ヘッドハンティング」で転職をする人も。

ヘッドハンティングをされれば年収や役職が現状より好条件となる可能性が高くなるため、キャリアを伸ばしたい人にとっては理想の転職方法だろう。しかし、ヘッドハンティングの対象となるには、どのような技能や能力を伸ばせばいいのだろうか。

今回は、これまで数千人以上のキャリア支援に携わってきた、株式会社プロフェッショナルバンク 取締役常務執行役員 組織開発本部 本部長の髙本尊通さんに、現在の転職市場の状況やヘッドハンティングの概要、そしてヘッドハンティングされるために転職希望者がすべきことについて、インタビューを行った。

今回お話を聞いた、株式会社プロフェッショナルバンク 取締役常務執行役員 組織開発本部 本部長の髙本尊通さん
今回お話を聞いた、株式会社プロフェッショナルバンク 取締役常務執行役員 組織開発本部 本部長の髙本尊通さん【撮影=福井求】


企業が求める人材を確保!ヘッドハンティングとはどんなサービス?

ーーはじめに、貴社の事業内容を教えてください。
【髙本尊通】弊社は、大手人材紹介会社で経験を積んだメンバーたちが創業したヘッドハンティング会社です。主なサービスとして人材紹介事業とヘッドハンティング事業を展開し、企業のコアとなる人材をメインで取り扱っています。

【髙本尊通】人材紹介事業では転職市場に出ている人たちのなかから、企業に見合う人材を紹介しています。主な対象は経営人材や次世代経営人材と呼ばれる人たちですね。人材紹介事業のターゲットは40~50代、ヘッドハンティング事業が30~40代となります。

【髙本尊通】2023年現在、転職活動をしている人の割合は労働力人口のうち約5%程度と言われていて、人材紹介事業ではこの5%に当たる人を対象にサービスをしています。ですが、もうひとつの主要サービスであるヘッドハンティング事業では、約95パーセントの転職活動をしていない、いわゆる「転職潜在層」と呼ばれる人たちにオファーを行い、新たなキャリアの提案や企業の紹介をしています。

ーーヘッドハンティングの対象となるのはどのような人たちでしょうか?
【髙本尊通】企業によって求める人材はさまざまですが、弊社が手掛けた案件のうち約83%が技術職や専門職に就いている人たちでした。ヘッドハンティングといえば50〜60代の経営者層を対象にする印象があると思いますが、弊社では30〜40代の知識や経験が豊富な即戦力となる人材がコアターゲットです。また、IT業界などについては20代や新卒者に声をかけたりもしていますね。年々、ヘッドハンティングの対象となる年齢層は下がってきています。

2021年度の業界別契約件数の割合
2021年度の業界別契約件数の割合【画像提供=プロフェッショナルバンク】


ーー意外と若い人たちもヘッドハンティングをされているのですね。逆に、企業側からはどのような依頼が多いのでしょうか?
【髙本尊通】企業によってさまざまですが、やはり技術職や専門職の人材はどこの企業でも確保が難しいので、ヘッドハンティングを依頼されることが多いですね。なかには、企業が極秘で採用したいポジションの人材を求められることもあります。また、ご依頼いただく顧客としては知名度や採用力の低い中小企業、人口の少ない地方の会社が大半を占めています。

【画像】ヘッドハンティングにおける年齢の割合
【画像】ヘッドハンティングにおける年齢の割合【画像提供=プロフェッショナルバンク】


コロナ禍で価値観に変化?増えるミドル層の転職者

ーー近年、35歳以上の転職者数が年々増えていると聞きますが、なぜでしょうか?
【髙本尊通】総務省統計局による2021年の労働力調査では、35歳以上の転職者数の割合が約6割を占めました。35歳という年齢は、大卒でしたら社会人になって10年以上になりますよね。かつ結婚して子どもができたり、または子どもが成長してきたりなど、人生の節目が多い時期でもあります。そのようなタイミングで自身のキャリアと向き合う人が多くなっていますね。

ーー今の時代、ずっとひとつの会社に勤めているのは不安ですものね。
【髙本尊通】そして、もうひとつはコロナ禍の影響があります。リモートワークや時短出勤が一般的になりプライベートの時間が増えたことで、家族との時間や自分の時間を大事にしたいという価値観が広がりました。これらの要因によって、これまで転職を考えていなかったミドル層が自身のキャリアを見直し、転職活動への一歩を踏み出し始めています。

ーー最近では少しずつコロナ禍も落ち着いてきましたが、転職市場にはどのような変化がありましたか?
【髙本尊通】アフターコロナの流れとして、コロナ禍以前のフル出社に戻す会社も出てきて、これに不満を覚える人や生活リズムを戻せない人が転職を考えるようになっていますね。また、2023年春にはベースアップが行われ、大手企業を中心に従業員の給与が上がりました。その反面、給与据え置きだった企業も多く、「うちの会社には将来性がない」という理由で転職活動を始める人も増えていますね。

 資料を交えて事業の説明をする髙本さん
資料を交えて事業の説明をする髙本さん【撮影=福井求】


ーー世の中の流れ的にも、転職を考える人が増えているのですね。
【髙本尊通】そうですね。転職はリスクがありますが、転職活動そのものにはリスクはありません。むしろ今の時代は転職活動をしないことのほうがリスクになると思います。大企業でも潰れる可能性がある今、安定は保証されているものではありません。むしろひとつの会社に固執するのは、ほかの会社の就労環境や雇用条件を知る機会を失っているといえるでしょう。

【髙本尊通】どんな動機であってもいいので、一度、転職活動をしてみるのがいいと思います。転職サイトに登録するだけでもいいし、実際にエージェントと付き合って相談するのもありです。そして、さまざまな会社の選考を進めてみて、採用が決まったら現在の会社と比較をすればいいと思います。「今の会社が合っている」や「転職先のほうがいい」といった自分なりの答えを出すことが大事ですね。

ーー今の会社に勤めるための説得力をつけること、納得するための材料としての転職活動でもあるのですね。
【髙本尊通】一番よくないのは「このままでいいのだろうか」と悶々として時間を過ごしてしまい、転職の売れ時を逃してしまうことですね。転職市場で最も重宝されるのは27歳から35歳くらいまで。36歳からは転職のバリューが下がる一方なので、なるべく早めに転職活動を始めて、自分のキャリアの伸ばし方にアンテナを張っておきましょう。

定着率99%!ヘッドハンティングでの入社は満足度高め

ーー転職市場が伸びると同時にヘッドハンティング市場も急成長していると聞きますが、状況はいかがでしょうか?
【髙本尊通】2023年6月現在、ヘッドハンティングの需要は年々高まっていて、2021年10月〜2022年9月での依頼件数は2019年の同時期と比べると、約2倍に増加しました。その原因として、コロナ禍で採用を避けていた企業たちが、2022年の秋ごろから一斉に採用を始めたことが挙げられます。業界や職種によって人気の濃淡はありますが、転職者の売り手市場になっています。

【髙本尊通】逆に、多くの企業が一気に採用を再開したため、企業側は人材不足に陥っているのが実情です。そのため、通常の仕方では希望の人を確保できないので、ヘッドハンティングの需要が伸びているのです。弊社ではこのような採用難の企業に寄り添いながら、その企業のため“だけ”に必要とする人材をサーチして見つけ出し、こちらからアプローチする攻めの手法によって紹介を行っています。

ヘッドハンティング依頼件数の推移(作成=プロフェッショナルバンク)
ヘッドハンティング依頼件数の推移(作成=プロフェッショナルバンク)【画像提供=プロフェッショナルバンク】


ーー具体的にはどのように紹介をするのでしょうか。
【髙本尊通】弊社は採用を希望する企業の代理として動くため、ターゲットとなる候補者には原則その企業のみをご紹介しています。彼らにとって、現職に残るか紹介された会社に行くかの2択となるので、結果として、一般的な人材紹介に比べて6〜7倍ほど高い採用成功率を実現しています。

【髙本尊通】ヘッドハンティングでは主に転職活動をしていない現職者を対象に会社紹介をするので、入社するという意思決定をするまでに何度も話し合いを行います。そして、現職と比較して慎重に検討したのちに転職するので、入社後の乖離やギャップが少なく、入社後の定着率が99%ととても高いことも特徴です。年収も基本的に上がり、役職やポジジョンがつくことが多いのも満足度が高い理由ですね。

ヘッドハンティングにおける移籍後の年収の割合
ヘッドハンティングにおける移籍後の年収の割合【画像提供=プロフェッショナルバンク】


ーーこれからはヘッドハンティングをされる人材を目指すとキャリアップにつながるかもしれないですね。
【髙本尊通】本当にそう思います。