「Get Along Together」だけで
山根康広を語るなかれ
『BACK TO THE TIME』に
彼のロックな本質を見る
下地にはブルース、ソウル、ファンク
M1「BACK TO THE TIME」からして、それを感じる。ロッカバラードである。ブラスがあしらわれているものの、派手さはなく、いい感じに抑制が効いている。エレキギターがブルージーに鳴り、そこに渋めのピアノが重なる。ソウルフルなコーラスも歌を邪魔しない。スネアが若干硬い気がしないでもないけれど、1990年代のサウンドメイクにしてはドンシャリ感が薄いところは好感が持てる。オープニングナンバーにしては、いい意味で落ち着いており、大人がロックを奏でている印象である。
M2「Good-bye Love Road」もまた渋い。ざらついた音のアコギのアンサンブルから始まり、バンドサウンドが展開していく。そのアコギが全編にフィーチャーされているのが何ともいいし、オルガンもいい味を出している。過度にゴリゴリではないけれど、間違いなく質感はロックである。いずれも、M3「Get Along~」を待つまでもなく、やわらかいけれど、確かなメロディーを持っていることも付け加えておく。
そのM3を挟んで披露されるM4「お元気ですか?」はアップチューン。ブラス入りのファンクナンバーだ。ブルース、ソウルのフィーリングがしっかりと感じられ、明らかに米国の音楽、とりわけブラックミュージックがベースにあることが分かる。“こういうこともやっていたのか!?”と驚くやら、それを今頃、知ったことを恥じるやら…だが、この辺りから“山根康広=ロック”を確信する。
続くM5「おちこぼれのMerry X’mas」は出だしこそ、ドラムレスで、「Get Along~」からイメージするバラードシンガーの側面を感じるところではある。しかしながら、その浅はかな考えもBメロで一転。重いビートとエレキギターが鳴り、ロックなサウンドが登場。切ないメロディーからすると、しっとりと聴かせることも充分に可能だったと想像できるけれど、そうしなかったところに、彼の本質が垣間見えるようでもある。
M6「聞かないで」もまたファンクナンバー。カッティングのギターが冴えわたり、女性コーラスもブラックミュージックへのオマージュを如何なく感じさせる。ラテンっぽく入るパーカッションも面白く、サウンドメイキングに対する意欲もうかがわせる。
M7「夏の日の中」はストリングスが全体的にフィーチャーされたミッドチューンで、これは紛うことなき、バラードではあるものの、聴き逃せないのはアコギだろう。明らかにブルージーなフレーズが歌に絡んでくいる。パーカッションが配された2番ではそれをより強く感じさせるところだし、間奏のブルースハープというのも、彼の資質を感じさせるものではなかろうか。
そして、M8「君がいるから」以降は、はっきりとロック色が強まる。M8は、シンセにやや時代がかったところを感じるものの、エレキギターは明らかにハードロック調である。M9「抱きしめて」は再びロッカバラード。間奏がピアノというのも渋いし、サックスはアルトだろうか(バリトンか)、低めの音がしっかりとした存在感を示している。M10「時の河を越えて」は、どっしりとしたドラミングが根底を支え、ツインギターで迫るバンドサウンドで、アルバムのフィナーレを飾っている。突飛な派手さはないものの、間奏のツインギターのユニゾンはハードロック由来だろう。『BACK TO THE TIME』を聴き終わるまで、山根康広についての詳細は調べなかったのだが、本作はどこからどう聴いてロックでしかない。のちに山根康広の公式サイトを訪れると、プロフィールに“中学生の頃、70年代のアメリカ・イギリスの 『洋楽ロック』に強い影響を受ける”とあった。納得しかない。