ムーンライダーズ+佐藤奈々子

ムーンライダーズ+佐藤奈々子

【ムーンライダーズ+佐藤奈々子
インタビュー】
その時代の豊かな音楽だったり、
輝きを楽しんでもらえたらいいなと

こんなにカッコ良いロックバンドが
日本にいるのか!?

さて、それでは話を『Radio Moon and Roses 1979Hz』のほうへ戻しまして、佐藤さんとムーンライダーズとの出会いについてもおうかがいしたいと思います。佐藤さんの3rdアルバム『Pillow Talk』に鈴木慶一さんが参加されていましたが、その時が最初の出会いでしたか?

いえ、最初に会ったのはCMの仕事でした。ムーンライダーズがアレンジと演奏をして、私が歌うTVコマーシャルで呼ばれたんです。それが音楽的に一緒に何かをした最初ですね。♪ちょうちょ、ちょうちょ〜っていう歌をロック調にアレンジして私が歌うお仕事でした。

そうなんですね!? その時の佐藤さんのムーンライダーズの印象はいかがでしたか?

私はその前からムーンライダーズのことは知っていて…『火の玉ボーイ』が大好きだったんです。

大好きなバンドとの仕事だったんですね。佐藤さんにとってムーンライダーズはどんなところが魅力的でしたか?

というか、“なんてカッコ良いバンドなんだ!?”と思って。曲自体も素晴らしいし、歌も最高で、“こんなにカッコ良いロックバンドが日本にいるのか!?”と超びっくりしました。

ベタ褒めですね(笑)。

あははは。でも、それは今でもそう思っています。

確かにカッコ良いですよね。それは『Radio Moon and Roses 1979Hz』でもよく分かりますし。

今のムーンライダーズもさらにカッコ良いです。

他にこういうバンドはいないと思うし、誰かが真似することもできないと思います。何でしょうね、ムーンライダーズのすごさって(笑)。

ひとりひとりの人間性が素晴らしくて、ひとりひとりが自由で、でも集まると絶対的にムーンライダーズになるというところですね。ひとりひとりの音楽を聴いてもムーンライダーズだし。本当に不思議で、ムーンライダーズという生き物がいるような(笑)。

『Pillow Talk』で慶一さんが参加されていらっしゃるのは、もしかして佐藤さんからのリクエストだったり?

よく覚えていないんですけど、その頃はムーンライダーズと仲良しだったから、自然の成り行きでそうなった感じですね。新宿LOFTで一緒にライヴをやったり、ムーンライダーズのワンマンライヴにコーラスで出たり、そういうのがありましたし。

そうしますと、本作のスタジオライヴも自然な流れの中で行なわれたことが分かりますね。佐藤さんのヴォーカルた歌声について、慶一さんをはじめ、ムーンライダーズのメンバーから何か直接お言葉があったことはありますか? 

あの方たちはシャイなので、改めてお言葉を言わないタイプなんですよ(笑)。ただ…ついこの間、ベースの鈴木博文さんが私のソロのライヴを観に来てくれて、“なんて素敵な歌声だ”ってポロリとおっしゃっていたのが渋かったですね。

ついこの間ですか?(笑)

はい。そのあと、一緒にライヴをやることになりました。

佐藤さんは“慶一さんのお声は素敵ですね”とか楽器の演奏について、直接メンバーにお伝えしたことはあるんですか?

それはいっぱいあります。今でも“素敵ーっ!”って言います(笑)。

そう言われた時のメンバーの反応はどうなんでしょう?

なんか“ふふふ”って感じで(笑)。

(笑)。本作の7曲目「火の玉ボーイ」もそうですが、まさに火を噴くような演奏が収録されていて。でも、演奏が終わってからの慶一さんのMCはとても落ち着いていらっしゃいますよね。あそこ、面白かったです(笑)。

一応クールに締めたいんじゃないですかね(笑)。

演奏はめちゃめちゃテンションが高いですけどね。

このアルバムの演奏は本当に素晴らしいと思いますね。間違っているところがあってもライヴってそういうものだし、その熱量、情熱、その全てがカッコ良いと思います。

「火の玉ボーイ」はオリジナルでは慶一さんが歌っていますが、このライヴテイクはAメロを佐藤さんが歌われていて、そこから慶一さんにつなぐというスタイルなので、テンションがリレーされていくようで、この演奏は本当にすごいと思いました。あと、テンションと言えば、8曲目「ジャブ・アップ・ファミリー」もすごい! 間違いなく、オリジナルよりもこのテイクのほうがすごいです。

“やっぱりライヴってすごいな”って思います。そういう意味でも、これは本当に貴重な録音だったと思いますね。どのライヴでもこうなっていたかというのも分からないし、これは本当にたまたまの奇跡なのかもしれないし。

以前、ムーンライダーズに取材させていただいた時、ライヴではアドリブやインプロビゼーションがあるから同じことはできないし、それがライヴの面白さだということをおっしゃっていました。「ジャブ・アップ・ファミリー」に限らず、本作はまさにそういう作品でもあるのでしょうね。

ムーンライダーズの音楽って全部そうだと思いますね。

あと、「ジャブ・アップ・ファミリー」に関して言えば、スタジオ盤はデジタル音も取り込んでいますが、ライヴでは入れていない。けれども、楽曲の骨子は変わらないと言いますか、その聴き応えはほとんど変わらない。その辺は実に手練れだなと思いました。

生々しいロック感ですよね? もともとが生々しいロックな方々だと思うんですよ。何を味付けしても、あれだけセンスのいい人たちが集まっているから、それを自由にやるとどんどんアバンギャルドになる。そこもカッコ良いと思います。

ムーンライダーズのお話になると、佐藤さんはいちファンに戻るようですね(笑)。

もうずっとムーンライダーズのファンですから(笑)。

了解です(笑)。佐藤さんはこの『Radio Moon and Roses 1979Hz』は貴重なものだとおしゃいました。それは冒頭で語ってくださったライヴ音源が発掘された過程を鑑みても貴重なものであることは間違いないのでしょうが、本作は佐藤さんが大好きなムーンライダーズと一緒に、1970年代後半に生演奏したという記録ですから、その意味で佐藤さん自身にとっても貴重なものであるし、とても喜ばしいことなんでしょうね。

何かね、これは私とムーンライダーズに限ったことではなくて、アルバムの一番大きな意味というのは、その時代そのものの輝きであったり、その時代の豊かな音楽として記録されているものなので、その輝きを楽しんでもらえたらいいなと思います。

分かりました。せっかくですから、取材の最後に本作の歌詞についても訊かせてください。3曲目「コインランドリー」の《ナプキンについた/ジャムみたいなジェラシー》とありまして、4曲目が「ブラックペッパー・ジェラシー」で“ジェラシー”というワードが出てきますよね? ジェラシーと言っても、ともにちょっぴりな感じではあって、奥ゆかしさといったものを感じるところでもあると思うのですが、この辺りの歌詞については、佐藤さんご自身はどのように振り返られますか?

振り返るというのであれば、“なんて可愛らしい”って思いますね。ブラックペッパーをひょいひょいってかけるくらいのジェラシー。そんなにドロドロな感じじゃないし、ほんのちょっとやきもちを焼く…くらいの意味合いで。《ジャムみたいなジェラシー》もジャムだから甘くて美味しいもので、それがイチゴジャムにしても何にしてもそれを拭いた時に“あら、こんなだったわ”くらいな感じで、両方ともドロドロしていない。“可愛いなぁ”って思います(笑)。そのくらいがちょうどいいというか。

いろんなタイプの歌詞があるかと思いますが、この頃は女性の可愛らしい恋愛観を描くことが多かったでしょうか?

あの頃は歳相応でそういう感じだったと思います。22、23歳頃でしたね。

《ジャムみたいなジェラシー》って可愛らしいですよね。個人的には、あそこの歌の背後を支えるコードが若干不穏なところも面白いと思っていて。あれは佐野元春さんの仕事なのかもしれませんが、あの不穏なコード自体に“ジェラシー”を感じたところです。

そんなこと全然思ったこともなかった(笑)。…あぁ、なるほど。そうやって聴かれるんだ。

サビ後半でちょっとコードがマイナーになりますよね?

それは次に転調するからそういったほうが転調の具合が良かったんだろう…くらいに思っていて、私は不穏だなんて思ってもいなかったので面白いです(笑)。

完全に個人の感想です(笑)。

でも、いい! いいです! 今のお話は面白かったです(笑)。

恐縮です。でも、そういったことも含めて、『Radio Moon and Roses 1979Hz』収録の全8曲、めちゃめちゃ楽しく聴かせていただきました!

ありがとうございます(笑)。それは何より嬉しいです!

取材:帆苅智之

アルバム『Radio Moon and Roses 1979Hz』2022年8月3日発売 日本コロムビア
    • COCB-54348
    • ¥3,300(税込)
ムーンライダーズ プロフィール

ムーンライダーズ:1976年のデビューから45年以上のキャリアを誇るロックバンド。70年代前半に活躍した、はちみつぱいを母体に1975年に結成される。76年に鈴木慶一とムーンライダース名義でアルバム『火の玉ボーイ』でメジャーデビュー。翌77年にムーンライダーズとして初のアルバム『MOONRIDERS』を発表し、以降コンスタントにリリースを重ねる。86年から約5年間にわたり活動を休止したが、91年にアルバム『最後の晩餐』で活動を再開。常に新しい音楽性を追求するサウンドは、同年代だけでなく数多くの後輩アーティストにも影響を与えている。また、各メンバーが積極的にソロ活動も行ない、それぞれプロデュースや楽曲提供など多方面で活躍中。ムーンライダーズ オフィシャルHP

佐藤奈々子 プロフィール

サトウナナコ:大学在学中に佐野元春と出会い、歌や詩を書くことを教わる。大学主催の女性シンガーソングライターコンテストに出場し、「綱渡り」で最優秀作詞賞受賞。このコンテストを機に1977年6月、佐野との共作によるアルバム『Funny Walkin'(ファニー・ウォーキン)』で日本コロムビアよりデビュー。79年までに4枚のソロアルバムをリリースし、ムーンライダーズや加藤和彦など、当時の先鋭的なアーティストの作品に参加、楽曲提供するなど活動の幅を広げる。日本のみならず世界的に幅広く音楽を発信し、独特のコケティッシュなウィスパー・ヴォイスは渋谷系の元祖とも言われた。佐藤奈々子 日本コロムビアアーティストページ

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