パーソナリティ理論

パーソナリティは様々な意味をもつが,ここにおいてのパーソナリティの意味は「性格」や「人格」を指すものとする.

個性記述と法則定立

個性記述
臨床心理学で用いられる,人の個性的な特徴に目を向け,詳しく記述しようとする方法.臨床心理学では,1人の人間としてクライエントを理解する必要があるためこの方法が基本となる.代表例として「事例研究」がある.

法則定率
基礎心理学で用いられる,多くの人々に共通する普遍的な法則.ここでは個人差は誤差として扱われる.

上記の2つは相対立しているように見えるが,普遍的な法則を理解したうえで個性記述的な見方をすることで,クライエントの特徴がより明確になってくる.

パーソナリティの科学

パーソナリティの科学とは?
「個人差」に注目して,個人差がどのように記述できるか,どのようなメカニズムで出現するか,どのように変化するかを調べるもの.

ではどのような視点から個人差をとらえるか?

類型論
パーソナリティのなかにある類似性を一定の基準でタイプ分けし記述する方法.ユング(C.G. Jung),クレッチマー(E. Kretschmer)はこの代表.
類型論における問題点
パーソナリティは1人ひとり違うため,少ない類型での記述には無理がある.
→特性論の誕生

特性論
活動性,社交性,まじめさ,創造性などといった,数多くの視点から人を捉える考え方. 
例)学校の成績表,企業の勤務評定,面接評価,コンテスト
特性論における問題
無数にあるパーソナリティの中から特性をいくつ選べばいいのか?
→因子論の誕生

因子論
特性論において特性をリストアップする際に,「因数分析」を用いて,重複も漏れもなく,必要最低限の特性リストをつくる方法.
リストアップされた因子の数について
キャッテル(R. B. Cattell):16因子以上
アイゼンク(H. J. Eyesenck):3因子
研究が進むとパーソナリティは5つの因子で記述することができるという考えが出てくる.
→性格5因子論(ビッグ5理論)の定着.

性格5因子論(ビッグ5理論)
人間のパーソナリティは神経症傾向(N)外向性(E)開放性(O)協調性(A)統制性(C)の5つの因子で記述可能であるという論.
これらの因子は生物学,心理学,社会学からの研究が進んでいる.
下の表はそのまとめである.

表ー1:性格5因子論の展開

性格5因子論1

→NEO-PI-R人格検査,5因子性格検査などビッグ5を測定するための質問用紙の発明.
従来のパーソナリティ心理学ではパーソナリティの変化について説明していなかったが,ビッグ5理論では個人差の心理的実体パーソナリティの変化に目を向けている.

パーソナリティ科学と臨床心理学

パーソナリティへの科学的理解は,臨床心理学や心理療法に多くの示唆を与える.今回は特に以下の3つをあげる.

1.異常心理学の理解
パーソナリティは異常心理学の基礎となっていることが表ー1からもわかる.特に,パーソナリティ障害とビッグ5の研究は大きく進歩し,DSM-5で大きく取り上げられた.また,自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害もパーソナリティと強く関係している.

2.心理療法について

神経症傾向(N)
神経症傾向は不安症やうつ病や多くのパーソナリティ障害と関連する.そしてこれまでの心理療法の主なターゲットは不安症であった.
→心理療法は神経症傾向との戦いともいえる.
行動療法
罰回避感受性によって過剰に学習された不安症の症状を,学習理論によって再学習させること.
認知療法
ネガティブ情動を認知によって変容させること.
クライエント中心療法
ネガティブ情動を受容すること.

外向性(E)
ユングは精神病理の発生について「外向性と内向性のバランスが崩れることで生じる.」と論じている.そして,心理療法とは「自己理解を深めバランスを回復すること.」としている.
つまり,崩れた外向性と内向性の対立軸のバランスを取り戻すことが精神病理を直すうえでは重要である.
→そのためには,自己理解が重要.

このことは
開放性(O)における独創性と平凡
協調性(A)における協調性と分離
統制性(C)における統制性と衝動性
についても同様のことがあてはまる.

開放性(O)
破局的思考の緩和,問題から距離を置く対処などの抑うつ,心配を低減する対処を行うかどうかにはビッグ5の開放性と相関が見られた.(杉浦・丹野,2008)『パーソナリティと臨床の心理学』
→開放性はストレス対処や心理療法がうまくはこぶために重要.

協調性(A)
セラピストにとって「共感性」は必要不可欠.
→セラピストがクライエントに共感できるほど,治療がうまくいくため.
また,ロジャース(C.R. Rogers)は「パーソナリティ変化の必要にして十分な条件」の中に,共感的理解をあげている.

3.新たな心理療法の技法開発への貢献
ビッグ5以前のパーソナリティ心理学は,パーソナリティを固定的なものとしてとらえていた.
→パーソナリティの変化について言及していなかった.
ビッグ5後の研究では,
神経症傾向(N)とネガティブ情動性
外向性(E)とポジティブ情動性
開放性(O)と拡散的思考
協調性(A)と心の理論や共感性
統制性(C)と達成動機
のように,パーソナリティの実態が明らかになってきたことで,パーソナリティの変化についても理解が進み,心理療法の新たな技法のヒントを得ることができた.
いくつかの例を挙げると

メンタライゼーションにもとづく治療
協調性の低い境界性パーソナリティ障害の治療において,メンタライゼーション(共感性)の向上を図ろうとする.

自閉スペクトラム症
「心の理論」の能力を高める訓練によって治療を行うこともある.

どの次元のパーソナリティが強いかによって,心理療法のどの技法が効果的なのか調べられるかもしれない.

パーソナリティ障害をビッグ5から理解する

パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
ビッグ5にもとづいたパーソナリティ障害の研究をDSM-5ではA~C群にわけて表している.

表ー2:パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル

パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル1

DSM-5の診断基準では「カテゴリー分類」を採用している.
※カテゴリー分類
10個のパーソナリティ障害を羅列し,それぞれの基準に従って質的な判断を行う技法.
→統合失調型であれば統合失調型の基準,反社会性型であれば反社会性型の基準に従う

これに対して,代替DSM-5モデルでは「次元基準」を採用している.
※次元診断
ビッグ5の高低によってパーソナリティ障害を定義している.
→それぞれのパーソナリティ障害の基準をビッグ5の高低に統一

次元診断によるメリット

1.パーソナリティ障害の関係が明確になる
カテゴリー分類では,各障害の相互の関係については明らかでない.
しかし,次元分類では各障害の相互関係が明らかになる
例)同じクラスターCの回避性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害では,神経症傾向(N)が高く,外向性(E)が低いことは共通するが,強迫性では加えて統一性が高いという点で回避性とは異なることがわかる.(表ー2参照)

2.健常なパーソナリティとパーソナリティ障害との関係が明確になる.
カテゴリー分類では健常なパーソナリティとパーソナリティ障害は別物として分けて考えられていた.
しかし,次元分類では健常なパーソナリティの延長線上にパーソナリティ障害が位置すると考えた.
つまり人は皆高低あれど,ビッグ5の因子を持っているが,どれかの因子が極端に高くなったり,低くなったりすることでパーソナリティ障害となると考えられた.

パーソナリティの臨床

心理療法とは,パーソナリティを望ましい方向に変えることである.したがって,心理療法においては変化しないパーソナリティよりも変化しうるパーソナリティに関心がもたれる.
臨床心理学は,パーソナリティがどのような場合にどのような方向に変わるかを問題としてきた.
ここでは代表としてユングの向性理論とクレッチマーの気質類型理論を記す.

ユングの向性理論

ユングは神経症の治療体験をもとに,「内向型」と「外向型」を区別した.

内向型
関心や興味が,自身の内面や主観に向いている人.

外向型
自分以外の客観的な物事や他人に関心が向いている人.

例として,何かを決める際に内向型の人は自身の考えに従い,外向型の人は他者の考えに従う.

では内向型の人は外向性を持たず,外向型の人は内向性を待たないのかというとそんなことはない.

意識と無意識の向性の逆転
人は本来内向性と外向性の二つを併せ持っている.しかし,内向型の人は外向的な関心外向的な人は内向的な関心を意識下に抑圧してしまう.
したがって,内向型の人の無意識は外向的に,外向型の人の無意識は内向的になっている.

つまり

内向型の人
意識上では自分自身のことをよく知り自己分析が洗練されている.しかし,意識化の対人関係は未熟であるため,権力欲求や他人への不安や恐怖が強い.意識が内向に偏りすぎると,バランスを取るために不安や恐怖に満ちた無意識の外向性が顔を出す.
神経症や不安症になりやすい

外向型の人
内向的な関心を意識化に抑圧している.意識上では人付き合いの技術や適応力がよく発達するが,意識化の内向性は幼稚で自己中心的である.意識が外向性に偏りすぎると,バランスをとるために,幼稚な自己中心性が顔を出し肉体の障害を作り出し意識を内向させようとする.
転換症状の現れ

このように内向性と外向性のバランスが崩れると神経症が生じる.
→神経症から脱するには意識が内向性,外向性の両方に偏らないことが重要.

また,環境に適応するだけでなく自己理解を深めるバランスをとることも重要.
→心理療法の実施

クレッチマーの気質類型理論

クラッチマーは臨床体験をもとに,「循環気質」と「内閉気質」を提案した.

循環気質
基本的な特徴は同調性.周囲の人たちにうまく溶け込み,愛想よく,裏表がない.協調性(A)はこれをさす.
この基本的な性格の上に「高揚気分」と「抑うつ気分」の相反する気分がある.
循環気質の人はいろいろな割合で2つの気分を併せ持っている.その割合によって,高揚性が強い多弁陽気者から,抑うつが強い無口で情趣豊かな人と幅がうまれる.
また個人の中で変動することもある.→躁うつの波

内閉気質
基本的な特徴は内閉性.自分の内と外を分けて内面の殻に閉じこもりやすい.分離性はこのことをさす.
この基本的な性格の上に「敏感性」と「鈍感性」という相反する感性を同時に持っている.その割合は様々で敏感性の強い人は,感覚的で繊細,鈍感性が強い人はおっとりとした人.
また同時に持つことが大きな特徴であり,例えば,外から見ると鈍感そうな人でも,内面には非常に敏感な面を持っていて,ある特定のことには敏感に反応したりする.

上記の2つは健常範囲のものであり,極端になると「循環気質」は躁うつ気質とよばれ双極性障害の原因に,「内閉気質」は精神分裂気質とよばれ統合失調症の原因となる.

また気質や病質が,体格や体質と密接に関連することをみつけた
→気質や病質の基礎には,遺伝や内分泌などの生物学的過程があると考えられる.

健康なパーソナリティ

健康なパーソナリティについては多くの心理学者や精神医学者が考察してきた.

オルポートは成熟したパーソナリティとして以下の7つをあげている.

1.自己感覚の拡大(多くの場面に積極的に関与する.)
2.他人と温かい共感的関係を持つ.
3.自己受容し,情緒が安定している.
4.現実をあるがままに知覚する.
5.仕事に没頭できる.
6.自分を客観化でき,ユーモアがわかる.
7.統一的な人生哲学.

また,マズローは自己実現する人間として以下の15の特徴をあげている.

1.現実をありのままに認知する.
2.自己受容し,他人も自然も受容する.
3.自発性を持つ.
4.仕事に熱中する.
5.孤独と独立を求める.
6.自立的である.
7.斬新な観賞眼を持っている.
8.至高体験.
9.社会に対する関心を持つ.
10.親密な対人関係が結べる.
11.民主的な性格をもつ
12.目標を達成する経過自体を楽しむ.
13.敵意のないユーモア感覚がある.
14.創造性がある.
15.慣習よりも自身の内面に従う.

フランクルは自己超越した人間として以下の7つをあげている.

1.自分の行動方針を選択する自由を持つ.
2.自分の態度に対する責任を引き受ける.
3.外部の力に影響されにくい.
4.自分に合った人生の意味を見つける.
5.人生を意識のレベルで統制している.
6.創造などにより自分の価値観を表現する
7.自己への関心を超越しようと努める.

バールズはいま,ここに生きる人間で以下の10の特徴をあげている.
1.現在の瞬間ということを重視する.
2.自分自身も十分に意識している.
3.衝動や願望を表現できる.
4.自分自身の人生に責任を負う.
5.自分の世界と生きた接触を保つ.
6.怒りを表現できる.
7.自分に頼り,外的な基準に頼らない.
8.その瞬間瞬間の状況に柔軟に対処する.
9.自分のすべての面を受容している.
10.幸福の追求それ自体を目的としない.

ロジャースは「十分に機能する人間」(また別のNoteで詳しく記載する予定です.)をあげ,シュルツ(Schultz,1977)はそれらをまとめ共通点を引き出している.

まとめると精神的に健康な人間とは

自分の生活を意識レベルで統制でき,自分を客観的に見,自らの運命を引き受け,仕事に没頭し,目標や使命を持ち,創造的で,自ら内的緊張を作り出そうとする人物である.



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