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ドイツの炭鉱産業遺産群ツォルフェラインへ

安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄があるのは北海道の旧産炭地空知地方、炭鉱遺産と切っても切れない関係です。以前から炭鉱遺産再生の先進地として有名なドイツ北西部にあるルール地方を視察したいと思っていたので、2017年6月、ヴェネツィア・ビエンナーレのあとにドイツへ向かいました。目的地は世界遺産「ツォルフェライン炭鉱産業遺産群」です。

宿泊したデュッセルドルフから電車で一時間ちょっと、最寄駅からのアクセスもちょっとした散歩で気持ち良かったです。

デュッセルドルフ駅を出発
最寄のエッセン・ツォルフェライン北駅、電車の自転車乗車もドイツらしい
矢印に立坑のマークが
遺構が見えてきました

1847年から炭鉱業が稼働、最盛期には5000人が働き、工業大国ドイツを支えていました。1932年にはデザイン性を重視したバウハウス様式の第12採掘坑が作られ、「世界で最も美しい炭鉱」と高く評価されています。しかし、北海道と同じく石炭から石油へのエネルギー政策が転換されると衰退、1993年に全ての施設が閉鎖されます。

第12採掘坑

操業停止後から全体を産業遺産としての整備を開始し、2001年世界遺産登録されます。第12採掘坑は現在デザインミュージアムに、選炭場がルール博物館になっており、近くにはSANAAが設計したデザイン・スクールも。博物館的に古いものを見せるだけではなく、常に人が出入りしたくなるような工夫がなされていました。

SANAA設計のツォルフェライン・スクール

訪れる前に『IBAエムシャーパークの地域再生―「成長しない時代」のサスティナブルなデザイン』 を読みました。エムシャーパークはルール地方も含めた広い地域の再開発計画の名前です。

この産業建造物の保存利用プロジェクトでは、新たな利用法の発見が最大のテーマとなった。このテーマに沿った現実的な対応として、完全保存と完全取り壊しの二者択一ではなく、あらゆる保存の可能性を探る姿勢が求められた。この現実的な取り扱いについて、2つの方向性が指摘できる。1つは、保存すべき建造物群の部分であっても残せるのであれば残すという方向。もう1つは、オリジナルに対する忠実な保存を絶対条件としないという方向である。共通していえることは、保存物件を使って直接的にでも間接的にでも、とにかく経済行為に結びつけて考えることが求められるようになったのである。

永松栄編著『IBAエムシャーパークの地域再生―「成長しない時代」のサスティナブルなデザイン』
(文化とまちづくり叢書、2006年)
選炭場がミュージアムに
攻めたデザインのエスカレーター
ピシッとしてシンプル
質実剛健
「世界で最も美しい炭鉱」と称されている

せっかく来たので、ドイツ語が全くわからないのに、ドイツ語のガイドツアーに参加、炭鉱施設をゆっくり見学しました。言っていることはわからなくても、美唄や夕張で炭鉱を見ているので話している内容は想像できました。

ストラップをしている女性がガイドさん
使われていた道具
「触ってごらん」
機械に絵が描かれている?
プロジェクションマッピングを使い、機会が動いているかのように見せる展示でした
石炭が流れていたベルト

ツアーは屋上へ。北海道の産炭地とは違い平地にあるんですね。遠くに見える白い円屋根はサッカースタジアム、内田篤人もプレーしていたシャルケ04の本拠地です。チームの愛称が「炭鉱夫たち」だったり、エンブレムにハンマーが描かれていたり、チームにとっても炭鉱誇りになっているんですね。

屋上からの眺め
香川真司がいたドルトムントもこの地域のサッカーチーム
火の事故が起きませんように「水の女神」

ツアーを終え、美術館に移動。外観からは想像できない広さのスペースに多くの展示品が並びます。

地域の歴史の展示品
内部の階段も特徴的
思い出の炭鉱写真展ですね

どんなプロジェクトであっても文化的価値や美的価値を持たねばならないこと。なんのメッセージも発信せず、見た目にも醜いプロジェクトであることを止めること。機能的であり、経済性の高いことは当然で、文化やアート面の価値が発揮できなければ、住民に支持されなかったであろう。

永松栄編著『IBAエムシャーパークの地域再生―「成長しない時代」のサスティナブルなデザイン』
(文化とまちづくり叢書、2006年)

過去に行われた数多くのイベントの写真が目を引きました。

また外へ出て周辺を散歩、緑豊かな歩道がメインで車の危険を感じさせません。

地域に存在しなかった高い質を持った建築、都市空間、ランドスケープが生まれることは、住民、関係者の心理的状態を改善することに寄与し、ランドスケープパークとの相乗効果で地域イメージを大きく改善し、全体として大きな成果を上げたといえる。

永松栄編著『IBAエムシャーパークの地域再生―「成長しない時代」のサスティナブルなデザイン』 (文化とまちづくり叢書、2006年)

歩き疲れたので、ビールで喉を潤します。この地域の名物カリー・ヴルストが
合うのなんの。

ショップも充実、この場で版画制作をしていました。

小さな立坑の版画を購入

IBAエムシャーパークでは生態的次元と文化的次元を一体的に扱うことにより、エムシャー沿川とこれを含むルール地域全体を「住民が偉大な産業の歴史に誇りを持てるようなところ」、つまりサスティナブルな地域につくり変えることに成功している。地域にアイデンティティと唯一性を与えること。これがグローバル化社会における都市や建築の文化的役割であろう。

永松栄編著『IBAエムシャーパークの地域再生―「成長しない時代」のサスティナブルなデザイン』
(文化とまちづくり叢書、2006年)

現地を見て納得しました。グローバル社会が今後進むかどうかは別にしても、地域にアイデンティティと唯一性を与えることは、文化なくしてできないでしょう。立ち寄ってよかった、ツォルフェライン。

また行けるかな?