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【演劇】若手構成作家が描く、ライブシーンから消えていった芸人の物語とは。

取材・文:谷口由佳

 20代編集ライターが、個人的に気になっているひとに突撃インタビューしにいく「佳日Interviews」。第一回は、構成作家の星野佳人さんです。

構成作家
星野 佳人(ほしの かいと、1995年生まれ)
劇団星乃企画・主宰。ワタナベエンターテインメントライブ演出・ネタ見せ、ゼンモンキーなど芸人の単独ライブ構成、ハナコ秋山主催ライブ「秋山と100人」構成、ワタナベコメディスクール講師などを務める。自身のYouTubeチャンネル「酒とタバコと暇つぶし」も配信中。

時折気恥ずかしそうにしながらも、質問に真っ直ぐ答えてくださった星野さん。

 構成作家とは、お笑いのライブシーンやラジオ番組など、多岐にわたるコンテンツの構成や演出に関わるお仕事。各界の演者とコミュニケーションをとりながら、その「面白み」を引き出していくことを生業とする星野さんには、今年、新たに始めたいことがあるといいます。


学生時代から運営する劇団の活動再開

星野「大学卒業後、構成作家として約3年間活動をしてきました。芸人とネタを作ったり、ライブやラジオの台本を書いたり、養成所で講師をしたり、YouTubeを手伝ったり、番組の企画や案出しをしたりと……仕事は日々楽しくて、刺激的なことばかりです。だけど、それらは自分が0から作り出したものではないなと思っています。何か出発点を与えられた状況下でしかものづくりができない人って、優秀かもしれないけど、面白くない。尊敬はされるかもしれないけど、憧れられない。自分はもともと、0からものを作ることが好きだったので、そろそろ初心に戻ろうかと思ったのが活動再開の一番の理由です。」
(以上、敬称略)

 劇団星乃企画は、星野さんが明治大学文学部文学科演劇学専攻に入学した2015年に発足して以来、計10回の公演で35作品の発表を行ってきた演劇団体。しっとりとした雰囲気の会話劇のなかに、クスリと笑いが混じるラジオドラマ的作風が特徴で、第4回公演「憧れは車窓の中に」は、「全国大学生演劇選手権 演劇インターカレッジ2016」で演劇大賞を受賞している。

 今回お邪魔したのは、そんな劇団星乃企画の約4年ぶりの公演となる「背景、無色の君へ」の制作現場だ。

【あらすじ】
ライブシーンでカリスマ的な人気を博すも、そのさなか、芸歴3年で突如解散、そして引退を発表したコンビ「モーニング・ムーン」。 それから3年、ある若手作家がモーニング・ムーンの取材に訪れる。 解散前、最後に行われた単独ライブの周辺で起きた真実と偽りの物語。
演者の(左)浦野朋也さん、(中)むらまつさん、(右)秋野ためいきさん。

 カリスマ的人気を誇った若手コンビ「モーニング・ムーン」の伊吹役を演じるのは、結成1年目にして「ワタナベお笑いNo.1決定戦」で優勝を飾ったゼンモンキーのむらまつさん。そのほか、同社所属の若手芸人・セイギさん(ボシマックス)、秋野ためいきさん、ヒラールさん(トウイン)や、福島県出身のシンガーソングライター・にゃんぞぬデシさん、星乃企画に馴染み深いメンバーらと多彩な出演陣の演技にも注目が集まる。

演者の表の顔と、裏の顔の”あわい”を描く

 通し練習前の稽古場に足を踏み入れると、そこには若手芸人を中心とした稽古場ならではの活気が。初めて演劇の舞台に立つ方も多く、「座組以外のひとに演技を見られるの初めてで…」と若干緊張の面持ちだったが、さすがは日々ライブを生業とする演者たち。何気ない会話を交わすなかで、現場の空気をうまく和らげようとしているのが伝わってきた。

 これから売れていく時期に突如解散してしまったお笑いコンビを取り巻く群像劇を、ワタナベエンターテインメント所属の若手芸人らが中心となって演じるこちらの舞台。筆者が、この物語を立ち上げようと思った理由を尋ねると、「知らない芸人の解散報告を聞いたとき、街中で、行ったことのないお店の『閉店しました』という張り紙を見つけたときのような悲しい気持ちになるんです」と星野さん。

星野「行ったことはないけど、食べたこともないけど、思い出もないけど、『閉店』に至るまでにそこにどんな過去があって、店主たちのどんな人生があったのか想像してしまうんです。」

と語る。また、「今回の作品では、舞台における”表”と”裏”のあいまいな境目を描ければいいなと思っています」とも話してくれた。

星野「SNSを通じたプライベートの発信までもがコンテンツとして売られる昨今、どこまでが演者の表の顔でどこからが素の顔なのか、たまにふと考えるのですが、未だによくわからなくて。その曖昧さにまた想像を掻き立てられて、一層彼らに興味を惹かれてしまうのかもしれません。」

 リアルな口調や間合いで繰り広げられる会話が持ち味の本公演。日頃、コントやパフォーマンスを繰り広げる演者たちの姿に馴染み深いファンの方々からすれば、いい意味で「ギャップ」を味わえる舞台であること間違いなしだ。もちろん、演者たちが纏っている姿は”役”であって、本来の彼らそのものではない。だが、我々観客が「あの人、こんな喋り方もするんだろうか」と役の向こう側にも思いを馳せてしまうのは、演者各々が持つ魅力のせいであり、もはや星乃企画が試みる表現の術中にはまっているということなのかもしれない。

新進気鋭の構成作家×若手芸人らで臨む下北沢の地

 今、勢いのあるワタナベエンターテインメントの若手芸人らほか、あらゆる所属を持つ演者たちが日常に近いトーンで演じる注目の舞台は、今年2023年のゴールデンウィークに下北沢で上演される。約4年ぶりの再旗揚げ公演となる本作を見届けに、演劇の聖地へぜひ足を運んでみていただきたい。

劇団星乃企画 第11回公演「背景、無色の君へ」
2023年5月5日(金・祝)~7日(日)@東京都 シアター711
【上演時間:約90分】
作・演出:星野佳人
出演:むらまつ(ゼンモンキー)、にゃんぞぬデシ、秋美慧、浦野朋也、夏アンナ、セイギ(ボシマックス)、秋野ためいき、ヒラール(トウイン)

映像出演:金井球、小日向星一、秋山寛貴(ハナコ
【ご予約】http://ticket.corich.jp/apply/254063/

CoRich!舞台芸術 公演詳細ページより




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