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杜甫  月夜

月夜
今夜鄜州月    今夜の鄜州の月を
閨中只獨看    貴女も独りで見ているのだろう。
遥憐小兒女    子供たちはまだ小さいので、
未解憶長安    貴女が長安のことを思っている気持など解らないだろう。
香霧雲鬟濕    夜霧が入ってきて、貴女の髪は湿ってしまい、
清輝玉臂寒    月の光に照らされて腕は寒くなったのではないか。
何時倚虚幌    何時になったら月の光の入ってくる窓辺に立ち、
雙照涙痕乾    二人並んで月の光で涙を乾かすことができるだろうか

鄜州月夜

この月夜は、杜甫の詩というよりも中国の歴史を通じて作られた全ての詩の中で、妻への想いを語った詩として最高傑作であると思っている。

勿論、中国の詩の中で妻への想いを詠うことはあまりなく、女性はかなりが架空の存在に仮託してうたわれていることは承知している。
妻への想いを直接に述べているのは日本では紹介されることのあまりない悼亡詩があり、優れた作品も多くいずれは取り上げようとは思っているが、やはり死者を悼むという主題に沿ったものとなっている。

この詩は安禄山の乱を避けて鄜州に疎開していた杜甫が、玄宗の息子李亨(粛宗)が霊武で即位したのを聞き、家族を残したままそこに赴こうとして途中で安禄山の兵に捕まり長安に連れていかれた時の作である。

当時の鄜州は現在の延安市富県であり、長安(現在の西安)の約200km北にある。鄜州と杜甫との関係は不明であるが、使用人の出身地かなにかに仮住まいを拵えたのではないだろうか。

長安ー鄜州

当時の杜甫は無名だったので、長安ではあまり規制されなかったようで、彼の代表作といわれる「春望」「哀江頭」もこの時代の作である。

この詩の解釈が定説と違うではないかと言いたい方もおられるであろうが、一応は手元にあるものを調べたうえでの個人的な見解であるので諒とされたい。定説に沿いたい方は、下で参考に書いた本を見てください。

画像は Stable Diffusion で作成した。
地図は net で拾ったものである。

参考:
一海知義『漢詩一日一首』平凡社
黒川洋一『杜甫・上』岩波詩人選集
吉川幸次郎『杜甫Ⅱ』筑摩古典文学全集
鹽谷温『唐詩三百首新釈』書籍文物流通会
鈴木虎雄『杜詩・第二巻』岩波文庫
松浦友久編『校注唐詩解釈辞典』大修館書店

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