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ゲーム本編よりも発売前のUXに力を入れる時代?

前回の記事で『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(以下『ポケモンSV』)のタイプアイコン1つについてかなり熱く語りすぎてしまったせいか、今回UXに関するものを書くとなると……

「UX最悪な広告コレクション」とか、「なかなかスクロールできない横スクロール」とか、「目的のボタン10秒以内で見つけさせてー」とか色々悩みましたが、なかなか「これっ!」といったテーマが見つからず、最近一番印象に残っているUXと考えると……

やはり『ポケモンSV』ですね。(ノ≧ڡ≦)てへぺろ

( ずーっと離れてくれない野生のニンフィアかわいいすぎる…… )

ただゲームそのもののUI/UXについて語るなら、おそらく前・中・後編くらいの大作になってしまいそうですし、ゲーム自体プレイしていない方には分かりそうにありませんし、それから「Webこれっぽっちも関係ないじゃん」と怒られそうなので、やめておきます……(;^ω^)

( 長くなりますのでWebのお話だけ読みたい方は目次から「感動すら覚えたWebを使った面白いアプローチ」へどうぞ…… )



当たり前になりすぎたアップデート

ゲーム、特にコンシューマーゲームのUXといえば、昔と比べてずいぶん変わってきた印象があります。

ネットを通じて友達や全く知らない他人と遊ぶようになったり、スマホアプリゲームのように基本無料でアイテムに課金するシステムになったり、検索すればいくらでも攻略サイトが出てくるようになったり、リモートプレイで外出先でもゲームできるようになったり、生配信で視聴者と一緒にプレイして盛り上がったり…… マーケティング戦略も、ゲームそのものの形も変わったと思います。

『ポケモン』に限った話ではありませんが、現在のゲームは良くも悪くもアップデートしやすくなっています。本来のアップデートの意味を考えると、ゲームを良くするもののはずですが、発売当日に「いざ遊ぶぞー!」と思ったら、バグを修正するためなのか、アップデートしないといけなくて少し冷めてしまう時も多々あります。それはもちろんUX的には良くありませんが、宣伝・流通・販売など様々な企業が関わっている以上、バグが発覚していても発売を延期するなどそう簡単にできません。

仕方がないこととはいえ、きちんと完成したものを提供するのではなく、「何かあればアップデートで解決すれば良い」というのが当たり前になってきて、コンシューマーゲームとして本当にこれで良いのかとも思ってしまいます。

無料でダウンロードできるものが多いスマホアプリゲームと違って、プレイヤーは期待しているからこそ数千円を払ってまで遊ぶわけですから、もちろん楽しくあってほしいですし、バグがある前提で遊ぶわけもなく、まともにプレイもできないなど考えるはずもありません。修正アップデートが来る前に、モチベーションが持つかどうか……

(最近ゲームによっては1万円近くもしますからお財布が痛い……)

発売当初は進行不能になったり、セーブデータ破損などのバグだらけで
返金騒ぎになった上、アメリカで集団訴訟まで提起された『サイバーパンク2077』

『ポケモンSV』に関しては発売してすぐのアップデートがなかったものの、様々なバグでSNSでは大いに盛り上がっていました。他人の動画を見て面白くても、自分でそういったバグにはもちろん遭遇したくありません。アップデートによって重大なバグは修正されたようですが、発売されて一ヶ月経った今でも、ポケモンが壁の中に嵌ったり変なところから落ちたり、レイドバトルに参加したプレイヤーが消えたり、まだ暫くはバグと遊ぶことになりそうです。

『ポケモンSV』のバグ例(Twitterより)



許せる?許せない?具なしハンバーガー

修正目的のはさておき、より一般的なアップデートといえば追加ダウンロードコンテンツ(以下DLC)のことを思い浮かぶ方のほうが多いではないでしょうか。

段階的にメインストーリーなどを追加していくことが多いスマホゲームと違って、従来のコンシューマーゲームは購入したディスクなどに始めから全てが入っていることがほとんどでしたが、1本のゲームをより長く楽しんでもらうためにも定期的にコンテンツを追加する方針を取るものが多いのが現状です。

無料アップデートで様々な季節コンテンツを追加した『あつまれ どうぶつの森』

『あつまれ どうぶつの森』のような、「こんなボリュームなのに無料でいいのか」と思ってしまうくらいのアップデートを行っていたゲームもありますが、追加するコンテンツごとに購入する必要があるゲームのほうが断トツに多いでしょう。

追加のサイドストーリーやキャラクター、着せ替えコスチュームやゲームを楽に進められる強力なアイテムなど、様々なDLCが存在しています。ゲームにもよりますが、DLCの購入だけでゲーム本編よりも高くなってしまう場合も珍しくありません。

1つのアイテムだけでゲーム本編より高いゲームも

もちろん面白ければ喜んで買いますし、オプションアイテムである以上強制ではなく、「欲しい人だけが買えばいい」と聞こえは良いですが、「ゲーム本編でもなかなかの値段がするのにそれ以上取るのか?」と抵抗感を持ってしまうのは仕方がないとも思います。

DLCゲームの代表例とされる『アイドルマスター』シリーズの中には、DLCを全て購入するためには10万円以上かかる作品もあったとか……

シリーズ最新作『アイドルマスター スターリットシーズン』もある意味でファンを裏切らず
DLC第1弾だけでゲーム本編の値段を超えてしまう

同じバンダイナムコから去年発売された『テイルズ オブ アライズ』は、希望小売価格7,980円(+税)に対して、発売当日から既にコスチュームやレベルブースターなど、総額14,300円のDLCが販売されていました。もっと驚くべきなのは、まさかのゲームの中でうんざりするほどのDLC宣伝があって、多くのプレイヤーの反感を買ってしまったこともありました。

冒険の一息つくところに
過剰にDLC宣伝してくる『テイルズ オブ アライズ』

発売して3ヶ月後にようやく宣伝ポップアップを削除するアップデートが入りましたが、『テイルズ オブ アライズ』はゲームそのものはなかなか高評価だった分、DLCを必要以上に押していたことでプレイヤーのやる気をガクッと下げてしまった残念な事例でした。

( もう十分儲かったしお前らうるさいから仕方なく削除してやろ、という意見もちらほら…… )

さらに悪質なものは、そもそもゲーム本編が不完全だと思わせるくらいボリュームが非常に少なく、DLCがないと満足に遊べないゲームもあったりします。

もちろんそういったゲームは少数ですが、前述のような要因も合わせてDLCに対して悪いイメージを持つ人が多く、昔と比べて現在のゲームを具なしハンバーガーに例える画像は数年前に出回って、国を問わず多くのゲーマーに刺さってバズりました。

昔と今のゲームの比較をハンバーガーに例える画像(日本語訳)

クスッと笑ってしまう画像ですが、残念ながら現実です…… (´・ω・`)
もちろん全てのゲームの話ではありませんが、DLC商法によってコンシューマーゲームのUXが悪くなることが多いのは事実です。

1本のゲームの開発にかかる費用がどんどん大きくなるにつれて、確実に利益になるDLCを販売するのは仕方がないことですし、好きなゲームをどう楽しむかはプレイヤー次第なので、決して悪いことではありません。問題となるのはDLCの内容と値段が釣り合わなかったり、普通にプレイするのに必要なものをわざわざ別に買わされたり、ゲーム本編とのバランスが悪かったりすることです。

そして多くの場合、いずれは販売されていた全てのDLCを含んだ、または新しい要素を追加した、全く同じゲームを別バージョンとして販売する、いわゆる完全版商法にも、不満を持つゲーマーが多いでしょう。

本編発売わずか1年強で本編、過去のDLCと新しいDLCパックをセットにした
完全版として販売された『ファイナルファンタジーXV ロイヤルエディション』



ゲーム本編よりもわくわくする?『ポケモンSV』の宣伝手法

あっ、ここまで読んでいただきましたが、この記事は別に今のゲームをディスるためでもなく、DLCを否定したいわけでもありません。(ノ≧ڡ≦)

( DLCあまり買わない派ではありますが…… )

『ポケモンSV』のゲーム内では一部のエリアが進入不可となっており
今後のDLCで解禁されると予想される

ゲーム本編のUXも、いずれ発売されるであろうちょーっとお高いDLCのこともひとまず置いておいて、個人的にすごく好きなのは『ポケモンSV』の発売までの様々なプロモーションです。

そもそも1本のゲームのUXはどこから始まるのかを考えると、前作が終わって次作を期待するところと言いたいですが、普通だとそのゲームを知った時からでしょう。

継続的な課金を収入源とするスマホゲームと違って、コンシューマーゲームの場合、ゲームを知って、面白そうだなと興味を持って、実際に新品のゲームを購入してもらえば、ある意味「勝った」と言えるでしょう。そのため宣伝に力を入れるのが当たり前ですが、『ポケモンSV』の力の入れ具合が今まで以上にすごかったとの印象を受けました。

( その分ゲーム本編が弱く感じたかもなんてとても言えませんが…… )

新宿での3D広告もなかなか好評

雑誌や店頭のポスターなどのメディアがメインだったのが少し懐かしいくらい、今では生配信するなど、ゲーム会社自身が真っ先に情報を発信するところも多くなってきました。

『ポケモンSV』の場合、公式サイトやゲーム内の映像を使ったトレーラーの公開はもちろんのことですが、より印象に残ったのはリアルなCGを使うようになったことです。

2nd トレーラーの最後に2匹の伝説のポケモンがリアルに朝日に向かって立っている映像は、多くのファンを魅了したでしょう。

他にも2本、新ポケモンを紹介するためのCG映像が公開されました。

2匹だけなのは少し物足りない気もしますが、ポケモンの紹介だけのためにここまでするのはさすがの資金力です……

『ポケモンSV』以外にもこうしたCG映像を使わったポケモンの関連商品のPVや、ショートアニメなどもありますので、意外性としてはイマイチですが、主観視点になっていて没入感が最高です。

CGを使った「ディグダのやさしいTシャツ」のコンセプトムービー

ですが、ゲーム本来の映像より遥かにきれいすぎて、ゲーム画面ではないとしっかり注意書きがあるとはいえ、いささか詐欺っぽい感じも否めません。いつかこんな『ポケモン』をやってみたいものです。

他にもゲーム内でVTuberをしているキャラクターが配信しているような動画もあったり、方向性がバラバラな感じもしますが、今作の世界観を大事にしているのが伝わります。


感動すら覚えたWebを使った面白いアプローチ

お金がかかっていそうなCG映像よりもすごく面白く感じたのは、何の説明もなく、突然公式ツイッターで「??????」というタイトルの謎めいたサイトが公開されたことです。

現在では更新が終了していて、新ポケモンの紹介サイトだと分かりますが、公開した当時は『ポケモンSV』と関連があるかさえ分からずただそこに箱があるだけでした。

そして時間が経つとカウントが増えて、箱が勝手に開いたり動いたり、よく見ると中にコインが少しずつ貯まってきたり、カウントが999に近づくと謎な音もしたりしました。

「箱」のサイトのスクリーンショット(スマホ版)

謎のサイト公開から25時間が経って、ようやく更新が終わって新しい動画とともに新ポケモンの紹介も公開されましたが、あまりにも不思議なサイトで世界中のファンが色々な推測を立てたりして盛り上がりました。

仕組みとしてはすごく簡単なものですが、それまでの新ポケモン紹介は動画の公開、ツイッターでの紹介、公式サイトの更新、という同じ流ればかり取っていたため、突然すぎた一風変わったアプローチが良い意味で裏切られました。発売日が近くなったというのもありますが、シリーズのファンなので「どうせ買うことになるから」とあまり情報をチェックしてなかった分、この企画には正直一気に『ポケモンSV』への関心が高まりました


さらに追い打ちになったのが発売数日前に公開された「ポケモンオンラインギャラリー」というサイトです。

「Pokémon Online Gallery」
ゲームボーイを思わせる導入部分

入り口の文章だけで全ポケモンファンが泣きました…… (´;ω;`)
( あっ、嘘です、ごめんなさい。)

簡単に説明すると、このギャラリーサイトはポケモントレーナーを模したアバターを自由に動かして、『ポケモン』シリーズのそれぞれの世界を感じでもらうWebアプリです。

入ってみると、一直線になっている道のそばに歴代のパッケージやゲーム内の建物、代表的なポケモンやアイテムなどが、まるでおもちゃのようにたくさん並んでいます。

興味のあるものをクリック(またはタップ)すると、ポケモンの鳴き声が再生されたり、実際関連しているゲームの中のシーンを見ることもできて、道を進んでいくと発売された順番でシリーズの各作品の世界を一通り覗いてみることができます。

( 順番ではなく、左下にあるワープのボタンで特定のエリアに飛ぶことも可能です。)

エリアごとに各作品のBGMになったり、ポケモンが隠れていたり、ポケモンとアバターの高さの比率がちゃんとしていたり、横にある文字がロゴそのものだったり、様々な細かい表現がされていて、こだわりと愛がぎっしり詰まったサイトで泣きそうです。

「こんなのあったなー」という懐かしい気持ちになったり、もともとドット絵か2Dでしか見たことのないアイテムや建物が3Dモデルで再現されて、新しい発見もあったりします。

「昔のゲーム知らなかったらこのサイト楽しめないのかなー」と思ったら、ツイッターの反応を見るかぎり、そうでもないようです。

どの作品からポケモンに触れたとしても、必ずそのゲームに対する思い出はあって、それこそ一人ひとり違う体験していたからこそ、誰でも楽しめる、別の意味で面白いサイトになっている気がします。

以前の作品を知らなくても、「昔はこんなだったのかー」と興味を持ってもらったり、「ポケモンセンター」などの建物のデザインを見比べてみたりして、ちょっとした時代の流れも感じられます。

そして道の最後には、発売予定の最新作のパッケージが、「この先は自分の目で見届けろ」と言わんばかりにまるで扉のように立ち塞がっています。これもまた粋な演出で、こんなの見たら絶対『ポケモンSV』やりたくなるのではないですか……!

( スタート地点はともかく、「ここにもBGMがあればいいのに」と少しだけ残念な気もします…… あとそのうち『SV』の分のギャラリーも更新してほしいなー )

『ポケモン』を遊んだことがあってもなくても、すごく楽しいサイトですので、せび一度は遊んでみてください!(๑•̀ㅁ•́๑)✧



最後に

面白かった『ポケモンSV』のプロモーションサイトを紹介するつもりだけでしたのに、書きたいことを書いているうちにまたエラいことになってしまいました…… (´・ω・`)

ちなみに紹介した2つのサイト以外にも、ポケモン紹介の特設ページや、まるでオンライン会議のようなサイトなどあって、様々な方向性のアプローチがありました。

ゲームの宣伝の一環として公式サイトとツイッターはもちろん、動画や生配信などが当たり前になってきて、スマホゲームのほうが普及している今、ユーザーを引きつけるために、そしてコンシューマーゲームとして「勝つ」ためとはいえ、世界中に絶対買ってくれるコアなファンがいるにもかかわらず、『ポケモンSV』の宣伝は本当に今まで以上に力が入っていた感じがします。

その甲斐あって世界累計売り上げ2537万本の前作にあたる『ソード・シールド』を大きく越える勢いで、『ポケモンSV』は発売3日間で1000万本を突破し、任天堂のゲームソフトとしても過去最高の記録だそうです。

前述のように、ゲーム本編を遊んでいる間だけでなく、ゲームを知った時から発売するまでの間も、クリアした後に追加コンテンツがあるから戻って遊ぶ時も、あるいは友達とゲームの感想を話し合ったりする時も、そのゲームに関わる全ての時間をひっくるめてUXと言えるでしょう。そしてゲームそのもの以外にも、それを良くしたり悪くしたりする要因が色々とあります。

( 例えばもともとは『ポケモンSV』のダウンロードカードを買おうと思っていましたが、デザインがあまりにも手抜き感満載でガッカリしました…… )

宣伝というのは、ゲームそのものやゲームの内容を知ってもらうことももちろん目的の1つですが、『ポケモンSV』はそれ以上にプレイヤーにゲームの世界の中に登場するポケモンやキャラクターに愛着を持たせるのに重点を置いているように感じます。いざゲームをプレイすると、「ナニコレ知らない…… とりあえず図鑑を埋めるために捕まえとくか……」よりも「あっ、知っているポケモンだーかわいいー」のほうが良いゲーム体験に繋がるに決まっています。

公式サイト以外にも、紹介したもののような、「楽しくて遊び心のあるサイトが、他のゲーム、ひいては他の業界にももっとできたらいいのになー」、「自分でも作れるようになりたいなー」という、細やかな願いでした。

( ただし『ポケモンSV』の公式サイトに関しては個人的にすごく使い勝手が悪かったです… はい…… )

こんなわけの分からない長文を読んでいただき、本当にありがとうございました!お疲れ様と感謝を込めて、みんな大好きなお寿司(?)を置いておきます!

ではでは~ノシ


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