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危機感ドリブンによるキャリアアップ

2020年11月27日に開催された「情シス転職ミートアップ #1」の基調講演で発表した内容ですが、私のキャリア観を語る上で欠かせない話なので、ブラッシュアップしてnoteにまとめておきます。

情シスやエンジニアに限らず、「意識高い系ではないけど、かといって漫然とした今の生き方にもモヤモヤしている」といった方々が行動を起こしてキャリアアップしていくための参考になれば幸いです。

仕事に対するモチベーションの源泉は何なのか

本題に入る前に、「自分はいったい何のために働いているんだろうか」という根源的な問題について考えてみます。

■マズローの欲求5段階説
ビジネスや心理学の分野で昔からよく用いられる「マズローの欲求5段階説」という有名な理論があります。
※「マズローはもう古い!時代はケンドリックだ!」という論もありますが、個人的にはマズローの方がしっくりくるのでマズローを用います

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この図のように、人間の欲求は5段階に分かれており、上にいくほど高次で強力な欲求とされています。
詳細な解説は割愛しますが、下から順に以下のような意味合いです。

生理的欲求 : 食事、睡眠など生命を維持するための本能的な欲求
安全欲求 : 病気や事故の心配なく、安全に暮らしたいという欲求
社会的欲求 : 家族や社会など集団に所属したいという欲求
承認欲求 : 所属する集団の中で他者から評価されたいという欲求
自己実現欲求 : 自身が目指す世界や自己像を実現したいという欲求

これらの欲求を仕事(待遇)に置き換えてみます。

生理的欲求 : 食っていくのに困らない収入がほしい
安全欲求 : ブラックではない環境で安定した収入がほしい
社会的欲求 : 結婚して家族を養うくらいの収入がほしい
承認欲求 : 会社やコミュニティの中で一目置かれる存在になりたい
自己実現欲求 : 世の中の課題を解決するあたらしいサービスを作りたい

これらの欲求はライフステージによっても変化していきます。
たとえば結婚して家庭を持った途端に今までは別人のように成長した同僚や、起業するために他人の評価は顧みずひたすらに猛進する人を目の当たりにしたことはないでしょうか。
また、「自己実現欲求」より下の欲求は外的要因であることも特徴的です。
他人の評価によって影響を受ける欲求と異なり、実現したいビジョンが明確になった人の自己実現欲求の方が圧倒的に強く、更にそのビジョンもアップデートされていくという好循環に入ります。

このように自己実現欲求に辿り着いた人は非常に強い原動力を持ち、能動的に行動や研鑽に励みます。
起業家やつよつよエンジニアがエネルギッシュに活動や研鑽に励んでいるのは、自己実現欲求が明確になり、それがモチベーションの大きな源泉になっているからでしょう。
まだ自己実現欲求に辿り着いていない人たちがそのような人たちを目の当たりにすると、「自分とは違う人種だ」と感じてしまう人も多いと思いますし、私も実際にそうでした。

「なりたい自分がまだ見つからないけれど、どうすれば頑張れるのか」
そんな人たちにぜひオススメしたいのが危機感ドリブンです。

危機感ドリブンとは

危機感ドリブンとは、その名の通り「危機感をモチベーションの源泉にして行動する」という考え方です。
※私が勝手に名付けただけなので、具体的な定義がある訳ではありません

先述の自己実現欲求が見えてくるまでは、それなりに人生経験を積む必要があります。強烈な原体験がある人は10代〜20代から見えてくるかもしれませんが、そうでない人は30代〜40代になるかもしれません。
しかし、だからといって「なりたい自分」が自ずと見えてくるまで何も行動をせずに年齢だけを重ねてしまうと、後から取り返しのつかないことになります。時間はお金で買えない最も重要なリソースです。

そこで「なりたい自分」が見つかるまでは「危機感ドリブン」でアクションを起こし、経験やキャリアを積んでいくことをオススメします。

少し話は逸れますが、自分自身のこれまでのキャリアを振り返ると、以下のように危機感が大きな原動力でした。

・新卒で入社したSIerで8年間勤めたものの、独自の文化に不安を抱き転職
・「情シスのプロフェッショナルになりたい」と方向性は見えたものの、
 情シス以外の仕事がメインになってきたので転職
・自身のスキルや経験が社外でも通用するか不安になり、
 アウトプットや社外コミュニティでの活動を開始
・ひとつの会社に属すだけでは知識や経験が偏る危機感があったので、
 副業などで複数の会社で働ける環境にシフト

今は「世の中の情シスのスキルアップに繋がるアウトプットを続け、社会に広く貢献したい」というビジョンが見えてきて、自己実現欲求に半分足を突っ込んだような状態ですが、そこに辿り着くまではやはり時間がかかりました。
もし1社目のSIerで危機感を持たずに転職していなかったら、
もし社外活動やアウトプットを開始していなかったら、
きっとここまで広く活動も成長もできていなかったでしょうし、危機感に従って行動しておいて本当によかったと思っています。

本題に戻ります。
危機感ドリブンは以下の3つのステップで構成されます。

1.危機感を持つ
2.危機感の解像度を上げる
3.危機感を解消するアクションを実践する

各ステップの詳細を順に解説していきます。

STEP1.危機感を持つ

最初のステップは「危機感を持つ」ということ。
このステップが一番大事です。
そして感じる危機感が大きければ大きいほど、大きな原動力となります。

私自身が危機感を持ち、人生観に大きく影響を与えたのが、ベストセラーにもなった『LIFE SHIFT』という本です。
ベストセラーにもなったので、読まれた方も多いのではないでしょうか。
「人生100年時代」という言葉が使われだしたのも、この本の影響です。

この本の内容を要約すると以下の通りです。

・医療技術や健康志向の向上により長寿化が進んでいる
・年金や退職金だけでは老後の資金としは足りず、定年を過ぎても
 働き続けられる能力が必要
・カネやモノといった有形の資産だけでなく、スキル・人脈・経験などの
 無形の資産を築いておくことが大切
・それができなければ、「不快で残酷で長い老後」が待っている

内閣府が2010年に発表した『平均寿命の推移』によると、日本の平均寿命は2010年時点で80歳を超えており、2050年には90歳を超えると予測されています。

日本の年金制度が開始した1961年の平均寿命が65歳でしたが、その頃よりも長寿化・高齢社会化が進み、制度として破綻しつつあります。
また、誰でもできるような単純な仕事は、若くて安い労働力やITにどんどん奪われていきます。
つまり、65歳以降も価値のある仕事を続けて収入を得られるようにスキル・人脈・経験を積んでおかないと、悲惨な老後が待っているかもしれないということです。

さらに追い打ちをかけるように、世界情勢も不安定になりつつあります。
もともと「VUCA(*)な時代」と言われたいたことが、現実味を帯びてきてきました。
*Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、
 Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)がいずれも高い状況

新型コロナウイルスにより世界中が大きな被害を受け、経済も不安定になり、大手企業でさえ先行きが見えない状態で、能力がある人とない人の格差や分断はますます深くなる一方です。
「大企業に入社すれば生涯安泰で、年金と退職金で余生を過ごせる」
という時代は終わりました。

かなり不安を煽るような書きぶりになりましたが、まずは「危機感を持つ」ということが何より大切なので、ご了承ください。

STEP2.危機感の解像度を上げる

将来に対して大きな危機感を持ったところで、次のステップでは危機感の解像度を上げていきます。

「65歳以降も働き続ける力を持つためにはどうすればいいのか」
をベースに、自身の能力やキャリアを定期的に振り返るのが良いでしょう。
「今の仕事を続けていて、自身のスキルやキャリアアップに繋がるのか」
「自分の知識や技術は、社外でも通用するものなのか」
「キャリアを積めないまま年齢だけ重ね、転職が困難にならないか」
といったことを定期的に見直す習慣が大切です。

具体的な内容は職種によっても異なりますが、どのような職種においても共通して言えるのは、「変化のない環境に留まり続けることは大きなリスク」だということです。
同じ会社で長く働くことで、以下のような状況に陥りがちです。

ガラパゴス化 : つぶしの効かない技術や処世術ばかり習得してしまう
ルーチン化 : チャレンジや成長の機会を失ってしまう
慢心化 : 「社内評価=市場価値」と思い込み、井の中の蛙になってしまう

これらの問題を解消するには、「外の世界を知る」ということが重要です。
転職がわかりやすい例ですが、社外のコミュニティに参加するといった活動も有効です。
同じ環境の中で偏った視点や思考しか持っていないとバイアスがかかりますし、外の視点から自分の状況を俯瞰して見つめ、中長期的に今後のキャリアを考えることが大切です。

同じ会社でも新しいことにどんどんチャレンジしたり、並行して社外活動もできるような環境であれば問題ないのですが、そうではなくマンネリを感じてきた場合は、危機感を持った方がいいかもしれません。

STEP3.危機感を解消するアクションを実践する

最後のステップでは、明確になった危機感を解消するためのアクションを実践します。
せっかく危機感を持ってもアクションまで実践できなければ、「不安ばかりが膨らんでいく」というメンタルに良くない状況に陥るので要注意です(詳細は後述)。

このアクションも職種によって様々ですが、「自分が今できることより少し難易度が高い仕事を積極的に拾いにいく」という姿勢がどのような仕事でも重要です。

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上記の「学習度と負荷の相関図」もよく言われる話ですが、人はどうしても楽をしようと負荷の小さな「コンフォートゾーン」に留まろうとしてしまいがちです。
コンフォートゾーンでは新しく学ぶことはほとんどないので、少し難易度の高い仕事を見つけてラーニングゾーンに積極的に居続けることが大切です。
ただしいきなり難易度が高すぎる仕事にチャレンジしてしまうと、パニックゾーンに陥って学習どころではなくなく場合もあるので注意しましょう。

先述のように転職などで環境をガラッと変えることも有効ですが、まずは今の環境で最大限できることはないか、改めて見直してみましょう。
大切なのは他責にせず、「今の環境で自分ができることは本当にないのか」と自責で考えることです。

危機感ドリブンの注意点

ここまで危機感ドリブンをオススメしてきましたが、注意点もあります。

まず、危機感を常に持つということで心配性になりがちです。
その状態のままSTEP3の解消のためのアクションが実践できないと、危機感や不安ばかりが膨らみ、ふさぎ込んでしまうという負のループに陥ってしまい、メンタルに悪影響を及ぼす可能性があります。
また、心配性になって失敗を恐れるあまり、フットワークが重くなったり、イノベーティブな発想や行動が苦手になり、保守的になってしまう側面もあります。

これらの注意点も意識しながら、能動的にアクションを起こしていきましょう。

まとめ

・「人生100年時代」を生き抜くための力が必要
・そのための危機感を持ち、解像度を上げ、解消していく
・危機感を原動力として行動に移していく

危機感ドリブンによるキャリアアップは、あくまでも私自身の経験をベースにした持論です。
既に自己実現欲求が見つかっている人や、他の方法で高いモチベーションを保ちながら行動できている方々には不要な話かもしれません。
しかし、自分と同じようになかなかその域まで達せず、漠然と将来に不安を抱きながら働き続けている人も多いはずです。
そのような方々が一歩先に踏み出せるような、ひとつの例として参考にしていただけると幸いです。

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