こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

皮肉なことに、新型コロナウイルスにより人間の産業活動がストップしたことで、世界のあちこちで大気がきれいになったり、川の水質が改善したりと、環境面に良い変化が出ているところもあるようです。人間活動がいかに環境に負荷を与えているかがわかります。

ところで、植物には汚れた大気や水、土壌を浄化する力があることをご存知でしょうか？もちろん、「光合成で二酸化炭素を酸素に～」といったようなことは皆さまももご存知かと思います。ですが、今回はあまり耳慣れないであろう、ファイトレメディエーションというものをご紹介したいと思います。

1．「ファイトレメディエーション」とは

植物を植えることで汚染された土壌が浄化される…実はそんな夢のような話が本当にあるんです！
それは、植物を用いた環境浄化技術、ファイトレメディエーション（Phytoremediation）です。
「ファイト(Phyto)」はギリシャ語で「植物の」という意味、「レメディエーション(remediation)」はラテン語で「修復」という意味を指します。

太陽エネルギーを利用する植物を用いているので、環境に優しい浄化技術として注目されています。

植物のなかには、汚染物質を体内に吸収・蓄積したり、根っこで安定化(汚染物質の根への吸着、汚染物質を土壌中で動きにくい形に変化させる)したりして、周りの環境への汚染の拡がりを防いでくれる機能をもっている植物があります。

以下は植物を植えることで土壌中の汚染物質がどう変わるか、を簡単に示したイメージ図になります。

　ファイトレメディエーションによる土壌の浄化イメージ図(筆者作成)

2．ファイトレメディエーションのメリット

汚染土壌の処理方法としてはこれまで、
物理的に土壌を除去したり、化学的に汚染物質を浄化したり
といった方法が中心でした。
このような従来法は迅速な処理が可能ですが、
・処理コストが高い

・エネルギー消費量が大きい

・土壌本来の機能を破壊する恐れがある

・二次汚染の懸念がある

などといったデメリットがあります。
環境への悪影響を低減するために処理を行っているのに、処理工程においても環境負荷がかかってしまっている可能性があります。

一方、ファイトレメディエーションは、
・比較的低コスト

・環境負荷が少ない

・従来法では難しかった低濃度・広範囲の汚染サイトに対応しやすい

というメリットがあります。
また、植物を植えることで景観が良くなったり、その土地の生態系を豊かにする効果も期待できます。

3．日本はファイトレメディエーションの需要がある

そもそも汚染土壌ってどこでどれくらい発生しているものなの？
…あまりイメージが湧かないかもしれません。しかし、実は日本において結構タイムリーな問題でもあるんです。

例えば、東日本大震災で発生した原発の事故は、現地の放射性物質による深刻な土壌汚染をもたらしました。この事故を機に、放射性物質のファイトレメディエーションに関する研究が盛んに行われています。

ヒマワリによる放射性セシウム除去能力の実証試験風景(出典-1)

また最近では、トンネルを掘るときに出てくる土が問題となるケースが出ています。日本には、ヒ素や重金属などの有害物質を含む地質帯が広く分布しているからです。

リニア中央新幹線の工事でも汚染土壌が発生しており、適切な処理が求められています。

トンネル工事は工事面積が大きいため、発生する土壌も膨大です。
現在建設中のリニア中央新幹線は東京―名古屋間の約9割の路線がトンネルですし、北陸新幹線の石川―金沢間においても、大掛かりなトンネル工事となるルートが予定されています。
汚染サイトでの簡易で安全な土壌浄化方法の確立が課題となっている中、ファイトレメディエーションはとても期待されている技術なのです。

リニア中央新幹線のルートと土壌の発生量(出典-2)

4．おわりに

ファイトレメディエーションは、従来の物理化学的な土壌浄化方法のもつ課題を解決するメリットが多く、実用性が高い技術といえます。
原発の事故による放射性物質の汚染や、トンネル掘削による汚染土壌の発生など、人間の活動により環境が変わることで、環境汚染のリスクが出てくることがわかります。
これ以上環境負荷をかけないためにも、植物のすばらしい力をうまく利用していけたらいいなと思います。

[出典]
1：農林水産省「東日本大震災　被災地の復旧・復興に向けて」
2：朝日新聞デジタル(2019年12月22日投稿記事)「リニア開業、遅れに現実味　「水」「土」…問題山積み」

＊　＊　＊
今回の記事を書いたのは
yuri
自然と動物が好き
自分らしく生きたい