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サイドバック論~現代サッカーで進化し続ける唯一無二のポジション~


近年、重要度が増すサイドバックについてポジション上の特性やプレータイプから解き明かしていく。サイドバックを知ることでサッカーの見方が少し変わり、サッカー観戦の手助けになればと思う。


サイドバックというポジションとは

 サイドバックはサッカーにおけるポジションのひとつであり、サイドバックとは4バックまたは5バックの左右両サイドに位置するディフェンダーのことである。

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4バックのサイドに位置するサイドバック

根底にあるのは持久力

 サイドバックになくてはならないものは持久力だ。試合が終わるまで上がったり下がったり、走る距離は尋常ではない。1試合を通して最も長い走行距離をサイドバックの選手が記録するというのは稀ではない。長い距離を走れる持久力に加えて、強度が高い状況で冷静な判断と正確なプレーを可能にする持久力が必要なのではないか。サッカーには交代できる選手の数が決まっている。負傷や退場などのイレギュラーな場合を除いて、前線で攻撃に違いを生み出せる選手に交代枠を使うことが多く見られる。なぜなら、サッカーは相手より多くボールをゴールに入れないと勝つことができないからだ。そのため、サイドバックは交代でピッチに入ってきたフレッシュな選手とマッチアップしなければならない。判断のミスやプレーの選択を間違えると失点に直結してしまうのがサイドバックというポジションである。したがって、試合を通して冷静に判断ができ、正確にプレーすることができるスタミナが欠かせない。

求められる能力

 1.守備力
 
ディフェンダーのひとりとして最終ライン(DFライン)に入るため、一定以上の守備力を有していることが必要である。その守備力は大きく2つに分けられる
 一つ目は、対人守備力だ。現代サッカーでは豊富なスピードを生かしたドリブルが得意なサイドアタッカーが攻撃の中心的役割を担うことが多い。そのサイドアタッカーと対峙するのがサイドバックである。サイドバックがサイドアタッカーのドリブルを止め、ボールを奪い、1対1に勝つことができれば試合を優位に進めることができる。一方で、サイドの攻防で負けてしまうと相手チームに主導権を渡してしまう。したがって、サイドの局面で対面する相手に1対1で勝つことができる対人守備力は必要である。
 二つ目はスペース管理力だ。サイドバックの背後、つまり裏には大きなスペースが広がっている。その裏のスペースにロングボールを蹴ることで深い位置への進入を試みる。素早く後ろへ下がり、スペースを埋めることでロングボールへの準備をする。そして蹴られたボールに対して、ヘディングでのクリアまたはパスに変えて対応する。

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 ケアしなければならない背後のスペース

 サイドバックがケアしなければならないスペースは縦(背後のスペース)だけでなく、横にも存在する。それは、センターバックのカバーリングだ。
サッカーはボールを中心に守備をするスポーツだ。例えば、相手の右サイドハーフがボールを保持しているとする。味方の左サイドバックがボール保持者にアプローチすると、DFラインはボールサイドにスライドする。そこでボールと逆サイドのサイドバックが中に絞らないと、ペナルティエリア内に危険なスペースが生まれてしまう。そこにクロスを蹴り込まれると失点のリスクがかなり高くなる。

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センターバックをカバーする横へのスライド


2.攻撃力
 サイドバックはディフェンダーのひとりではあるが、守備だけをやればよいポジションではない。近年、サイドバックが担う攻撃における役割は大きくなっている。サイドバックが攻撃をする際に必要な能力は3つ考えられる。
 一つ目は、パス精度だ。サイドバックは自陣の低い位置でのビルドアップに参加する。自チームのゴールに近い位置でボールを扱うため、パスミスが失点につながる可能性は大きい。したがって正確なショートパスで安全にボールを前進させなければならない。
 二つ目は、クロス精度だ。サイドバックは自陣でのパス回しだけでなく、前線に攻め上がる攻撃参加もする。前のサイドハーフを追い越して、ペナルティエリアにクロスを送る、よく見るサイドバックのプレーだ。この時キックの精度が低く、得点の匂いや予感を感じさせない”可能性の低いクロス”を蹴っていては意味がない。サイドバックが攻め上がることで、一時的に数的優位を作り、クロスを上げる攻め方は実に効果的で多くのチームで使われている。よって、ペナルティエリア内で待つ味方にピンポイントで合わせる正確無比なクロスを蹴ることができればチームとしての得点数は増える。しかし、近年のサッカーではクロスボールに対応するディフェンダーやゴールキーパーのレベルが向上したことにより、正確なクロスだけでは得点にならないことも増えてきた。ここでは正確性だけでなく、ボールスピードにも焦点を当てたい。依然として、ディフェンダーとゴールキーパーの間は守備対応が難しく、ゴールが生まれやすいポイントであることは間違いない。そのポイントに正確かつ、速いクロスボールを蹴ると守備対応はさらに難しくなり、得点機会は格段に増える。速くて正確なクロスボールを蹴ることはとても難しい。だが、このような難しいことをできるようになれば個人としての、サイドバックとしての価値や評価が高まることは間違いない。相手チームに脅威を与えるスーパーな選手になることができるだろう。
 三つ目は、ドリブル。ドリブルは大きく2種類に分けられる。相手を抜くためのドリブルボールを運ぶためのドリブルだ。
 まずは相手を抜くためのドリブル。高い位置に攻め上がりボールを持つと、相手はもちろんプレスをかけてくる。その際にクロスを上げるために1対1で縦に仕掛けて突破するドリブル、またはシュートを撃つために中に切れ込むカットインのドリブルという選択肢を持つ。相手ゴールも近い状況で、どちらのドリブルでも、対面する相手を突破できれば大きなチャンスになる。ここで抜くためのドリブルができなければ、後ろにボールを下げざる負えなくなり、攻撃はやり直しだ。
 運ぶためのドリブルはパスワークで相手のプレスを掻い潜ると前にはスペースが生まれるためドリブルで前進する。また、数メートル前に運び、他の選手にパスを出すことで、相手のプレスの形を変化させて、異なる局面でスムーズな前進を可能にさせる。


3つのタイプから見るサイドバック

 サイドバックにはさまざまな選手が存在するが、ここではプレーの特徴から3つのタイプに分けたい。

1.攻撃的サイドバック
 主にサイドの大外に張り、上下のアップダウンを繰り返してクロスを上げる。豊富なスピードとスタミナを持ち、相手を抜くドリブルや高精度のクロスを武器としている。一方で、守備時の対応でやや欠落が見られることもある。ウイングやサイドハーフなどの攻撃的なポジションからコンバートされることが多い。
 例)室屋成(FC東京)、永戸勝也(鹿島アントラーズ)、北爪健吾(横浜FC→柏レイソル)、トレント・アレクサンダー=アーノルド(リバプール)など


2.守備的サイドバック
 サイドでの1対1の守備や空中戦の強さが武器。チームとして守備力を上げるという効果をもたらす。前線のサイドの選手の後ろに位置し、安全なパスコースを提供するなど相手陣地の深いところまで攻め上がらない。攻撃から守備の切り替え時に素早く下がり、危険になりうるスペースを埋める。センターバックを本職にしている選手が務めることがよく見られる。
 例)佐々木翔(サンフレッチェ広島)、小林祐三(サガン鳥栖)、増谷幸祐(ファジアーノ岡山)、セサル・アスピリクエタ(チェルシー)など


3.司令塔的サイドバック
 近年、徐々にみられるようになったタイプ。正確なパスと高い配球能力と戦術理解力を生かして積極的にビルドアップに参加する。サイドに張って高い位置を取りパスを受けるのではなく、内側のスペースでビルドアップの出口になる。内側でパスを受けるので角度が生まれ、サイドでパスを受けた場合よりもパスコースを多く確保でき、ボール支配率を高められる。個人技ではなく、ユニットで連携して局面を打開する。ボランチの選手がコンバートされることもある。
 例)内田篤人(鹿島アントラーズ)、西大伍(ヴィッセル神戸)、ティーラトン(横浜F・マリノス)、ヨシュア・キミッヒ(バイエルン・ミュンヘン)


右(左)サイドバックは右(左)利きが望ましい理由

 現代サッカーでの守備のトレンドはDFラインに前からプレスをかけて高い位置でボールを奪い、ゴールに迫るチームが多い。一方で、攻撃は自陣からパスを丁寧に繋ぎ、相手ゴールへ前進するスタイルが主流になっている。前からのプレスを受けながらパスを繋ぐDFラインには、相手のプレスを掻い潜るビルドアップの出口が存在する。その出口の役割を担うことが多いのがサイドバックだ。サイドの高い位置を取るサイドバックにパスを出すことでプレスの包囲網を潜り抜ける。しかし、サイドバックの利き足が逆足(右サイドバックの利き足が左足、左サイドバックの利き足が右足)だと内側に視野を取りながらボールを持つ。そのため横と後ろへのパスコースのみになってしまい、パスコースが減ってしまう。利き足が同サイドの足(右サイドバックの利き足が右足、左サイドバックの利き足が左足)だと身体を開いて視野を確保することができる。したがって、横と後ろに加えて前や斜め前のパスコースが増える。プレー選択の幅が広がることで優位にプレーすることを可能にし、スムーズな前進を促す。


サイドバックの進化は止まらない

 フルバックと呼ばれていた守備専門の選手から、攻撃に参加しアシストするサイドハーフやウイングの要素を取り入れながら、ゲームをコントロールし攻撃を司るボランチのようなプレーメイカーとしての役割を担うまで進化してきたサイドバック。多種多様な働きが求められるようになったポジションは現代サッカーにおいて非常に重要な存在だ。チームで最も上手い選手が務める日が訪れるということに何の違和感や疑問も感じない程に。しかし、一定以上の運動量とスピードをサイドバックの選手が持っていなければならないというのは不変であることは間違いない。アスリート的な能力をベースに、優れた戦術眼や繊細なボールコントロール技術を兼ね備えた選手を育成するのは極めて難しい。ゆえに人材難のポジションでもある。日本が優れたサイドバックを育成できるようになれば、サイドバック育成大国になることができれば世界のサッカー界での立場を変えることができるのではないか。相手の攻撃をことごとく防ぎ、ゲームをコントロールし、チャンスを作り、さらに得点まで奪う試合を決めるサイドバックの誕生がそう遠くはない将来に訪れるだろう。



 



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