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日本文学研究者ロバート キャンベルさんがTikTokで話題。人気の“銀座シリーズ”が生まれた背景

「『小腹が空く』っていうのは英語に翻訳できないんですね…」

そんな「えっ?」と耳を傾けたくなる日本語のトリビアルな情報を提供し、いまTikTokで人気を集めている意外な有名人アカウントがあるのをご存知でしょうか。

それが日本文学研究者として早稲田大学の特命教授を務めるロバート キャンベルさん(@robertcampbelltokyoです。

日本文化の発信地へと実際に足を運び、その凄みや深みをディープに、かつテンポよく伝える動画は、TikTokで新鮮な驚きをもたらしています。

今年64歳になるキャンベルさんは、なぜTikTokを始め、いかにして人気動画を発信するに至ったのでしょうか。

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TikTokは“柵の外側から眺めているだけ”だった

日本文学研究者として早稲田大学の教授を務めるのみならず、テレビ出演や講演にも引っ張りだこで、映画やドラマといったお芝居の世界でも活躍。

さらにはTwitterのフォロワー数も10万人に迫る、各種SNSでも人気を集めるキャンベルさん。

まさに多方面に才能を発揮するマルチプレイヤーですが、実はTikTokへの進出には、初めはあまり前向きではなかったと言います。

「もともとTikTokはたまに見ていましたが、いわば“柵の外側から眺めている”ような状態で、自分からアクションを起こそうとは思わなかったです。だから、今は不思議な気分です」

そこからなぜ、TikTokを始める方向に舵を切ることになったのでしょうか。

「理由は大きく分けて2つで、ひとつは自分の裁量でコンテンツを作れること。私は研究者とは異なるキャリアを歩んできた分、同世代や同分野の人にはなかなか気づかないような多くの切り口を持っていて、能動的に『こういうことをやったら面白いんじゃないか』と考えるのも好きなんです。自由に動画を作れるTikTokなら、自分の頭や心、時間といった有限の資源を無駄にせず、楽しく取り組めると思いました」

「もうひとつは、これまで声が届かなかった人にリーチできること。世の中のほとんどの人は、自分の興味ない分野に目を向けないし、耳を立てません。でも、実はその人たちのなかには、知らない分野との接点を持つことでキャリアが変わる人もいるかもしれないし、私自身にとっても新しい出会いは勉強になります」

「つまり、リーチを広げるのはとても有意義なことなんです。若年層の多いTikTokは、それにうってつけのフィールドでした」

@robertcampbelltokyo

"日本人に時間の価値を広めた人"を知っていますか?#tiktok教室 #銀座 #和光 #時間 #seiko #ロバート視点

♬ 春を告げる - yama

自分の裁量を発揮できる余白と、未知のユーザーに対する期待感が、大きな決め手になったんですね。

短いながらも濃密なコンテンツ。人気の「銀座シリーズ」

こうして始まったTikTokでの活動。キャンベルさんは、従来のTikTokのイメージを覆す異色の動画を、次々と世に放っていきます。

特にメインとなっているのは、銀座の名店にスポットを当てたシリーズです。

たとえば、こちらの動画では、昭和6年から続く銀座の老舗料亭「割烹 中嶋」の料理に舌鼓を打ちながら、割烹料理の語源について解説しています。

「銀座は明治初期に生まれた個人商店の街で、池袋や渋谷などと違って大手開発の資本が入っていないのが特徴です。いわゆる若旦那と呼ばれる人たちが、それぞれのお店の伝統を守り、磨き続けています。そんな銀座のキーパーソンを通じ、どう“本物”を感じてもらうか。そこは動画制作において、大切にしている部分です」

現地の生の声を届けるのも、それをシネマティックな映像に収めるのも、“本物”を感じてもらうための仕掛けのひとつ。

「教養系のコンテンツをTikTokで発信する場合、クリエイターがカメラと向き合って情報を伝えるスタイルが主流です。確かに、たくさんの人に見てもらうためには、その手法は近道なのかもしれません」

「ですが、私はその場の音や空気感、リアルな人の表情、さらには動画を見直したいと思えるような密度のある言葉が、学びにつながると思っています」

では、視聴者からの反響が良いのは、どのような動画なのでしょう?

「老舗文房具店『銀座 伊東屋』さんを訪ねたシリーズは人気でしたね。なかでも注目を集めたのが、アメリカで日常的に使われている黄色いメモ帳『リーガルパッド』を紹介した動画です。学生も多く見るTikTokにおいて、文房具は身近でキャッチーな存在。さらに他のSNSでも動画をシェアしたところ、大きな反響が得られました」

@robertcampbelltokyo

アメリカでは日常的に使われている黄色のメモ帳🗒懐かしい思い出が蘇ります!#tiktok教室 #銀座 #伊東屋 #メモ帳#ロバート視点

♬ 아무노래 - ZICO

リーガルパッドのルーツを語ったこちらの動画には、「だから黄色いデザインなのか」と腹落ちしたコメントが殺到。ユーザーにとって身近なものを紐解く動画は、ヒットする傾向にあるようです。

TikTokで紹介するモノや文化のなかから、“普遍的な真実”を見つけ出す

とはいえ、まだキャンベルさんはTikTokを始めて4ヶ月ほど。

現在はトライ&エラーを繰り返しながら、攻略法を模索している段階だといいます。

「たとえば、美味しい料理や素敵な空間を紹介しても、『自分には無縁の世界だな』と距離を感じてしまう人は多くて。もちろん、“本物”の凄みをしっかりと伝えられれば、距離を感じても面白いコンテンツには仕上がると思うんですよ。でも、30分枠のテレビ番組と違って、それを1分程度で表現し尽くすのは難しい。なので、TikTokではお店の魅力を全体的になぞるよりも、ひとつの料理や食器などにフォーカスするのがよいのかなと考えています」

情報を詰め込みすぎず、文脈を絞って動画を作る。菓子パンの歴史について語ったこちらの動画は、その代表例とも言えそうです。

菓子パンという言葉は海外には存在せず、日本独自の文化である。そんな驚きの事実に、つい耳を傾けてしまいます。

さらにキャンベルさんは動画を作る際、自分自身に“あるタスク”を課しているそうです。それが色濃く出ているのが、洋菓子になくて和菓子にはあるものを紹介したこちらの動画。

@robertcampbelltokyo

洋菓子にはなくて和菓子にはある重要な要素@kobikichoyoshiya #tiktok教室ᅠᅠᅠᅠᅠ #銀座 #和菓子 #どら焼き

♬ 初夏の雨 - KOZO

「洋菓子になくて和菓子にあるものは“時間”です。たとえば、この動画を撮影した『木挽町 よしや』のどら焼きは、紫陽花や紅葉など、季節に応じて焼印の模様が変わります。言い換えると、和菓子は時を閉じ込めることができるお菓子なんです」

「そんな和菓子を手土産として渡し、一杯のお茶を飲む。それは大切な時間を一緒に過ごしたいというメッセージにもなると思います」

「このように、動画で紹介するモノや文化のなかから、普遍的な真実を見つけ出して伝えること。それが動画を作るにあたって、私が徹底しているタスクです」

TikTokは“ピースフル”。「でも…」

現在、キャンベルさんはさまざまなプラットフォームで発信を続けています。その中で、TikTokと他のSNSの違いはどこにあると感じますか?

「たとえば、他のSNSだと自分の立場から世の中に対して物申すようなツイートは、反響を生みやすいです。ただし、批判に賛同して増えたフォロワーは、引き潮のように去りやすい性質も持っています。もちろん、それが悪いわけではないですが、そうしたSNSは意見をぶつけ合う場所として機能しているということです」

「そういったSNSと比べると、TikTokはすごくピースフル。他人の揚げ足を取ったり、足りないところを指摘したりするクリエイターは、少数派なのではないでしょうか」

「むしろ、日本の学校教育にフィットできなかった若者が、自己表現の場としてTikTokを活用して、ユーザーから応援を受けているようなケースも見かけます。悪質なユーザーもゼロではないと思いますが、私にとっては心落ち着くプラットフォームとなっています」

あくまでもキャンベルさんの私見ではありますが、それが本当なら、TikTokには他のSNSよりも挑戦しやすい土壌が整っているのかもしれませんね。

では、最後の質問です。

今後、TikTokを通じて目指していきたいものを教えてください。

「でも…今の発言と少し矛盾するようですが、実はTikTokをあまり居心地の良い場所にはしたくないと思っていて。私はTikTokのエネルギーや空気感は好きだけど、視聴者として他のクリエイターのコンテンツを湯水のように見ているわけじゃありません。あくまでも“アウェーの地”として、今後も一定の距離を保ちたい。そうすることで、新鮮な風を感じ続けることができ、自分自身の研鑽につながると思っています」

さらにキャンベルさんは、今後の動画投稿が楽しみになる言葉も残してくれました。

@robertcampbelltokyo

単価の安いものを地価の高いところで売っているとはどういうこと?!#tiktok教室 #銀座 木村家#パン屋#一等地#ロバート視点

♬ そよ風 - SHISE

「最近は日本文学の解説動画の投稿もスタートしました。単に面白い書籍を紹介するだけでなく、作品に対する自分の解釈を、ユーザーの皆さんに問いかけてみたいなと。動画で取り上げたい銀座の名店もまだまだ多いし、アイデアが枯渇することはありませんね。今後も切り口を柔軟に変えながら、私にとっても視聴者にとっても面白いスイートスポットを見つけていきたいと思います」

 キャベルさんの銀座紹介動画は、まるでひとつの短いテレビ番組のよう。その切り口や構成には驚かされます。ぜひ一度覗いてみてはいかがでしょうか。

クリエイタープロフィール

ロバート キャンベル Robert Campbell(@robertcampbelltokyo

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日本文学研究者
早稲田大学特命教授
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問
東京大学名誉教授


ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学、特に江戸中期から明治の漢文学、芸術、思想などに関する研究を行う。 主な編著に『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫、編)、『井上陽水英訳詞集』(講談社)、『東京百年物語』(岩波文庫)、『名場面で味わう日本文学60選』(徳間書店、飯田橋文学会編)等がある。YouTube チャンネル「キャンベルの四の五の YOU チャンネル」配信中。

【 主な出演番組 】
「スッキリ」(日本テレビ系)コメンテーター
「Face to Face」(NHK 国際放送)MC


【 主な編著 】
『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫)
『井上陽水英訳詞集』(講談社)
『名場面で味わう日本文学60選』(徳間書店、飯田橋文学会編)
『東京百年物語』(岩波文庫)
『ピンクはおとこのこのいろ』(KADOKAWA 邦訳)

禁無断転載

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