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積水化学2連覇のカギを握る新谷の復活1月のマラソンで日本記録更新へ【クイーンズ駅伝2022プレビュー②】

 新谷仁美(積水化学・34)がすごい快走を見せるかもしれない。クイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝)は11月27日、宮城県松島町をスタートし仙台市弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmで行われる。
 2連勝を狙う積水化学は、10000m日本記録保持者の新谷の走りがカギを握る。2年前は3区の区間新、それも区間2位を1分以上引き離す快走で、積水化学の過去最高順位(2位)に貢献した。昨年は5区で区間賞と1秒差の区間2位で、初優勝を大きく引き寄せた。
 新谷は過去08年の豊田自動織機の優勝時に1区を、12年のユニバーサルエンターテインメントの優勝時に3区を走ってきた。新谷の走りが今年も優勝に大きく関わる。

●「2年前のスピードは死んでいません」

 新谷が完全復活へ秒読み段階に入った。
 昨年は東京五輪の不調(10000m21位・32分23秒87)から抜け出せず、駅伝を使ってモチベーションと状態を上げようとしていた。5区で区間記録を41秒も更新したが、区間賞は五島莉乃(資生堂・25)に1秒差で譲った。今年は3区で区間記録を1分10秒も更新した2年前と同様に、臨戦態勢が整ってクイーンズ駅伝を迎えようとしている。
 11月13日の東日本女子駅伝に出場し、最終9区(10km)で32分08秒。自身が2年前に出した30分52秒の区間記録には届かなかったが、「(6km手前で)トップに立ったので、余力を残してフィニッシュできました。良い意味で出し切った感がないので、クイーンズ駅伝に向けて手応えがあります」と明るく振り返った。
 2年前の11~12月は東日本女子駅伝に続きクイーンズ駅伝3区区間新、12月の日本選手権10000m日本新と絶好調だった。
「現時点の練習は2年前と、ほぼほぼ同じです。(1月のマラソンに出るため)気持ち、数本増えている感じです。今10000mの日本新を出せるかどうかわかりませんが、練習内容やタイムを見たら、あのときのスピードは死んでいません」
 クイーンズ駅伝で2年前と同レベルの快走をする準備が、新谷にはできている。

●距離にとらわれないマラソン練習

 新谷は来年1月のヒューストン・マラソンで日本記録(2時間19分12秒・野口みずき・05年)に挑戦する。マラソン2カ月前にはペースを抑えて距離を走る選手が多いが、新谷はスピードを落とさない。駅伝があるから、という理由ではない。
 今年3月の東京マラソンは2時間21分17秒で7位(日本人2位)。「月間1000km以上走ったり、40km走を当たり前にやったりはありませんでしたが、どこか距離にはとらわれてしまって、自分の良さを引き出せなかった」という反省がある。
「私の良さは速い動きの中でリズムをとることができ、試合ではそれが自動運転のようにできることです。10000mやハーフのような速いリズムを、マラソンでもやれるようにしようと思って練習しています。実際には10000mのペースでマラソンを走り切ることはできませんが、その動きのなかでマラソンに向けた練習をやった方が動きが良くなります」
 新谷と横田真人コーチの話を総合すると、東京マラソン前は距離を継続的に多く走ろうとした。疲れがなかなか抜けず、軽い痛みも何度か出た。“疲労がある中でも動かす”ことを目的にマラソン練習をする選手が多いが、新谷は「疲労の中で悪い動きでもいいから動かすより、疲労が少なく良い動きを毎日積み重ねる方がフォームが崩れない」という考え方で練習している。
 13年世界陸上モスクワ大会5位入賞、19年世界陸上ドーハ大会11位の新谷は、長年のトラックレースとそのための練習で、「1km3分5秒(10000m30分台後半ペース)が体に染みついている」という。しかし東京マラソンは「3分19~20秒ペース(マラソン2時間20分台)に変にはまってしまった。キツかった」という。悪い動きだったということだ。
 横田コーチも以下のように東京マラソンの練習の問題点を挙げている。
「マラソンを特別視してしまって、新谷を見るのでなく、“マラソンのトレーニング”を見て練習してしまいました。新谷が大事にしてきたものを崩してしまったんです。新谷の場合どんな練習でも全力ですから、同じ距離を走っても精神的な疲労、負荷が違います。1カ月に1、2回脚に痛みが出て練習が続けられませんでした。それではダメなんです。“マラソンのトレーニング”をするのでなく、“新谷のトレーニング”の中でどうマラソンを組むか、を考えないといけなかった。彼女の中で大事にしているのはリズムです。それが全てと言ってもいい」
 3分5秒ペースの動きがマラソンでできれば「3分20秒ペースがすごく楽に感じられる」(新谷)という。「どちらかというと、動きをよくするために練習をしています。少し中距離混じりで」
 新谷の目指すマラソンのためにスピードやリズムを維持し、良い動き重視の練習をしている。結果的に速いペースが求められる駅伝に合わせやすくなる。それが今の新谷が取り組んでいることである。

●新谷は5区希望だがチーム的には3区か?

 レース前日の区間エントリーまで確かなことはわからないが、新谷が走るのは2年前と同じ3区か、前回走った5区のどちらかだろう。新谷自身は「どっちも嫌ですね」と新谷節を口にする。
「3区だと自分の区間記録を目標にしないといけません。5区はタフなコースで、もう1回走るの? という気持ちになります。でも横田さんは(インターナショナル区間の)4区以外の区間記録を全部狙っちゃいなよ、と言うんです。もしそれに挑むなら(笑)、5区の区間記録がほしいです。ヒューストン・マラソンへの道筋を作ることを考えたときも、5区の区間記録は絶対です。(5kmの入りが前回は15分34秒だったが)15分20秒くらいで行かないと、ヒューストンにつながりません」
 横田コーチも、新谷のことだけで言うなら、と前置きした上で次のように話す。
「5区のあのコースで30分台で走ってほしいですね。去年の状態で31分29秒でしたし。できれば前を追う展開の方が、新谷が力を出しやすい」
 ただ、積水化学のチーム状況的には、前回3区区間2位でトップに躍進した佐藤早也伽(28)が、9月にマラソンを走ったこともあり、1年前ほど状態が上がっていない。野口英盛監督は「3区までに先行するしかない」と2連勝へのレースプランを描く。そうなると新谷の3区が有力だ。
 新谷自身は、そこまで起用区間にこだわっているわけではない。
「いつもと変わらず、最初から最後まで全力で走るだけです」
 3区で再び爆走してトップに立つ可能性もあれば、昨年と同じ5区で前のチームを「鬼ごっこ」(新谷)のように追う可能性もある。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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