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リストラ渦中のシリコンバレーにいて思うこと(2023年)

あれだけ勢いの良かったアメリカのIT企業の業績・株価が、2022年からにわかに雲行きが怪しくなりました。さらに2022年の後半に至っては、Facebook (メタ)をはじめAmazonやTwitterが社員の雇用削減をするLay-offs (レイオフ・リストラ)に取り掛かりはじめました。私の所属する企業においても、大規模レイオフがまさに現在進行形で行われています。アメリカのIT企業における大規模リストラが行われている今、渦中の従業員は何を感じてるかについて書きたいと思います。


解雇通知は突然に

まず、アメリカの会社の場合、解雇通知は突然やってきます。本当に突然です。上場企業の場合は、あらかじめ「従業員の約X割を解雇予定です」というのを社内外に告知することが多いですが、実際に自分が対象となるかどうかはある日突然分かります。通告のされ方には様々ありますが、メールでの通知が多いです。一部では、告知当日からコミュニケーションツール等の社内システムへのアクセスが禁止されることもあるようです。

映画では、会議室で解雇通告された従業員は、警備員に付き添われて速やかに荷物をまとめ、出口までエスコートされるといった場面がよくあると思います。ですが、最近は(少なくともIT業界では)リモートワークが主流となってきている、また、コロナにより一人一人の人としてのWellnessを重要視するようになってきているため、当日いきなり「解雇」で明日から無一文で生きていくことになるという話はあまり聞きません。

ではどういう制度になっているかというと、解雇告知が行われた日から3~6か月程度は現行の給与が支払われることが多いです。その期間、引継ぎ作業等の仕事は実際にはなく、(解雇通知された時点で職務は終了しているため)次の仕事を見つけるまでのサポート費用、という形での支払いです。さらに、その期間中は医療保険やその他の福利厚生も継続することがあり、給与と福利厚生等を含めて「Severance Package(解雇手当・退職条件)」と呼ばれます。

解雇された人への思いやりが盛ん

社会人生活は7年間の中で、買収する側、される側も経験してきましたが、レイオフは今だに経験がありません。セールスエンジニア職は往々にしてセールス部門内に存在することが多く、セールス = Revenue Generator (収益増収の基幹となる部門)なため、比較的レイオフの影響を受けにくい(少なくとも今後も事業を継続していく可能性のある企業では、むしろ注力されられる部門)と思いっています。そのため、今回のレイオフは免れましたが、残念ながらそのほかの様々な部門で直接的・間接的に一緒に働いてきた人たちのレイオフのニュースを目の当たりにしました。

近しく一緒に働いていた人もいるものの、解雇されてしまった人には一体どう接したら良いのだろう・・・(というかリモートワークなのでメッセージをそもそも送るべきか否か)と悩んでいたところ、Linkedinを見てみると、解雇を免れた人たちは、解雇されてしまった人たちに向けて

「今日のレイオフのニュースを見て心が痛みます。対象となってしまった方は心からサポートさせてもらいたいと思ってます。私に出来ること - 例えば自分のネットワーク内で募集している求人とお繋ぎする、Linkedinの推薦文を書く、コーヒーやランチをご一緒する、ただ聞き役に徹する - 何でも言ってください。」

といった趣旨のメッセージを書いている人が大勢いました。それも解雇通知があった当日からです。こういう緊急事態になると、被害にあってしまった人たちに向けてどうコミュニケーションすればよいのか私は分からなかったのですが、アメリカ人の困っている人には手を差し伸べる文化を目の当たりにし、これは良いなと思いました。

レイオフ発表後、荒れる社内

なんとかレイオフを免れたと思い、ほっとしたのもつかの間、一緒に働いていた人たちが急にいなくなるのは思った以上にメンタルに堪えることに気づきました。チームメイトを失った喪失感、やるせなさ、不安、悲しさなどが渦巻きます。それは同じくレイオフを免れた他のメンバーも同じで、解雇通知があった当日は仕事に手がつかない人が多かったです。

また、レイオフに関する社内外のメッセージも重要だと思います。これは一社員にはどうしようもないですが、幹部レベルが発するメッセージ、特に社内に残った従業員向けてのメッセージは丁寧に送るべきだと思いました。他の会社は分かりませんが、私の会社においては、レイオフ後にあったAll Hands Call (全社集会)でトップがそもそも会議に20分も遅れる((数万人が集う全社集会で、です…)、レイオフに関する質問にほぼ答えず、自分が話したいことだけ話す - といった態度だったため、残された従業員は集会参加前よりまして不安が募り、大失敗だったなと思います。

ビジネスを継続していく上で、なぜレイオフが必要だったのか、どういう基準で対象者が選ばれたのか、レイオフ計画はまだ近い将来もあるのか、など、先行きの見えない不安を抱える従業員に寄り添ったメッセージを出すと社内の雰囲気も少しは違ったように思います。

景気減速の足音に耳を傾けるか否か

大規模レイオフは渦中の中にいると、どうしても感情論に寄ってしまいますが、マクロ経済的な観点から見ると、2023年は確かに先行きが不透明であり、上場企業として株主の期待に応えないといけない中、コストをカットする、というのは合理的な判断に思えます。

金融の専門家ではないのであくまでも個人の意見ですが、問題は、今回レイオフを実施している大手IT企業はコロナ渦においても積極採用しすぎたという点だと思います。他業種がコロナの影響を直接受けて、事業が大幅縮小していった中で、IT企業はどこ吹く風でどんどん新規採用を増やしていました。そして2022年に利上げが行われた結果、景気減速となり株価が下降しました。2022年の年初と年末を比較しても約20%の株価下降です。(S&P500の数字から簡単に計算したものなので、多少の誤差はお許しください)

2023年も引き続きインフレと雇用改善により利上げは続きますから、株式市場は控えめとなって大きな上昇は見込めないかもしれません。つまり会社の業績見込みも立てにくいなか、コロナ渦で採用しすぎた従業員は経費削減の見直しの対象となったという形だと思っています。

おわりに

実は、レイオフが通知されるずっと前から、優秀だなと思っていたチームメイトたちは、積極採用している企業にたくさん転職していっていました。レイオフは、ビジネスが絶好調の時期に突然やってくるものではありません。やはり、ここ一年間は景気減速の話がニュースになっていましたし、実際に株価も下がっています。四半期ごとの収益が前年度に比べて減少した企業もあるでしょう。

大規模レイオフがあるような企業は、やはり安定した大企業が多いかと思いますが、前述したようにレイオフ発表後の社内の荒廃具合は、経験してみないと分からなかった、なかなかひどいものです。

景気減速をいち早く察知し、社内の収益動向に目を光らせ、こんな時期でも会社運営がうまくいっている企業に移るような人たちはなかなかセンスが良いなと思いました。景気減速もレイオフも初めての経験でしたが、これを糧に次はもっと良い判断ができたら良いな、と思っています。お読み頂きありがとうございました :-) 

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