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【技術者が教える】飛行機の基本【どうして飛ぶの?】

ご安全に!現役機械設計者の竹の子です。
今回はいつも海外国内を移動するために乗っている飛行機について、技術者として関わっていた4年間の知識やノウハウをまとめました。
今回の内容は専門的なので、工業系の学生さんや製造業に携わっている方向けに書きました。
画像を多めに分かりやすく解説していますが、あまり初心者さん向けな内容ではありません。

記事の内容としては、下記になります。

1.飛行機と航空機の違い

飛行機と航空機の違いについて解説していきます。
航空機は、飛行する機器全般を意味しています。
それに比較して、飛行機は一部の機器を指します。
つまり、航空機の中の一部が飛行機と分類されています。

01_航空機と飛行機の関係

航空機に含まれる、飛行機以外の分類は、空気よりも軽い軽航空機と空気よりも重い重航空機に分けられます。

軽航空機には、空気よりも比重の小さい気体で飛行する飛行船やガス気球、
温めた空気で飛行する熱気球などが分類されます。

重航空機はさらに、回転翼機、固定翼機、羽ばたき機に分けられます。
回転翼機は、翼が回転して飛行する機器の事で、ヘリコプターやオートジャイロ等が分類されます。
固定翼機は、翼が固定されて稼働しない機器の事で、動力から推進力を得る飛行機や動力を持たないグラインダーが分類されています。
(ちなみに、オスプレイの愛称で呼ばれる、V-22は固定翼機と回転翼機の二つの特徴を併せ持っています。)
羽ばたき機は、翼が鳥や虫の様に羽ばたき飛行する機器の事で、レオナルドダヴィンチの考案したオーニソプターが分類されています。

02_航空機の分類

ちなみに、日本の航空法 第一章 第二条では航空機の定義として
「人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船その他政令で定める航空の用に供することができる機器」
とされており、グラインダーと同じ滑空を行うパラグライダーやハンググライダー、気球やロケット等は航空機には含まれていません。

また、上記の航空法 第一章 第二条から、ドローンも航空機には含まれませんが、2015年12月10日から施工された、航空法改正により、
「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって、構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(200g未満の重量(機体本体の重量とバッテリーの重量の合計)のものを除く)」
と無人航空機の定義がされました。
200g以上のドローンは無人航空機に分類されるので、航空法によって規制がされています。
200g未満のドローンは無人航空機に文されないので、航空法によって規制はありませんが、航空法とは別に、小型無人機等飛行禁止法によって規制がされています。
ドローンは重量によって、規制法が違うので注意しましょう。

03_航空法の範囲

以上が航空機や飛行機の違いとなります。
今回の記事は、航空機の中でも、固定翼機に分類される飛行機にフォーカスした内容となります。
他の重航空機や軽航空機、無人航空機には言及しないのであしからず。


2.飛行機はどうして飛ぶのか

まず、飛行機に働く4つの力を解説していきます。
飛行機から見て前方に働く力を推力、後方に働く力を抗力と呼びます。
推力はエンジンやプロペラ等の動力によって、飛行機本体を前方へ押し出す力です。
日本で一般的に使われている飛行機には、ジェットエンジンが2発搭載されている機体が多いです。
最大では6発搭載されている超重量輸送用飛行機もあります。
前方へ働く推力に、逆らうように働く抗力には、空気の渦から発生する誘導抗力や、形状による空気摩擦や気圧の低下による有害抗力、超音速飛行での衝撃波を伴っての、後方流速の低下による造波抗力などがあります。
これらの抗力に推力が打ち勝って、飛行機は前に進んでいます。

また、飛行機には下方に引っ張られる力を重力、上方に浮かび上がろうとする力を揚力と呼びます。
重力は、地球に引き付けようとする力のことです。
揚力は、飛行機の翼に対して空気の流れから発生する力のことです。
この揚力が発生する仕組みは、大変難しいので、後述します。

04_飛行機の4つの力

これら推力、抗力、重力、揚力の4つの力のバランスで飛行機は飛んでいます。
離陸の際には、抗力や重力よりも推力や揚力が勝っているから、
飛行機は前に進み、滑走路から飛び立つことが出来ます。
着陸の際には、抗力や重力が勝っているために、速度を落として、高度を下げて滑走路へ降りることが出来ます。

飛行機が飛び立つための力「揚力」が発生する仕組みを解説していきます。
「飛行機はどうやって飛んでいるのか分かっていない」
こんな事を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
私もドヤ顔で言われた事があります。
これは間違いであり、かつ正しい認識でもあります。
どうゆう事かと説明すると、視点の違いからこういった事が起きています。
視点の違いとは、工学的物理の視点数学的物理の視点の違いです。
工学的視点では、飛行機が飛ぶ理屈は100年前から分かっています。
しかし、数学的視点では飛ぶ理屈は厳密に解かれていないとなるのです。
視点の違いによって答えが変わってくる理由は、後半で述べていきます。

ただ視点の違いだけではなく、流体力学の書籍や、講義などで間違った認識や不足している場合が、散見されることは実態としてあります。
よく耳や目にする間違いは、翼の上下を通過する空気は、翼後端に同時に合流しなければならず翼上面が膨らんでいる事によって、上方を通過する空気の距離が大きくなり、翼下面より上面の空気の方が速度が上がるといわれる事です。

05_間違った認識の空気の流れ

この認識では、どうして通過した空気は、翼後端に同時に合流しなければならないのか。
また、どうして上下反転の背面飛行が可能なのかが、説明が出来ません。
翼上面の膨らみが空気の速度上昇を引き起こしているのなら、背面飛行時には、重力と下向きの空気合力によって、急速に落下していかなければなりません。
よって、翼上面の膨らみによって、空気の速度が上がるという事は否定されます。

翼前端で上下に分かれた空気は、翼後端に同時に到達するというのは誤っていますが、翼上方を通る空気の流れは、下方よりも速度が上がっているのは事実です。
この事実は、様々な実験から確認されています。
一例として、スモークワイヤー実験の動画をご紹介します。

https://www.youtube.com/watch?v=3_WgkVQWtno&feature=youtu.be

この動画の2分53秒辺りから、翼形状の空気の流れが見られます。
こういった実験、検証によって、上下を通る流れは速度が違う事が確認されています。

では、なぜ翼上方の方が速度が速くなるのか。
それは、クッタ・ジュコーフスキーの定理で説明がされます。
クッタ・ジュコーフスキーの定理とは、流体中の物体が揚力を発生する原理を、物体周囲に発生する循環流によるものとする式です。
この循環流がもっとも重要で、また難しい部分でもあります。
クッタ・ジュコーフスキーの定理で説明されている循環流は、仮想的な流れです。
流体中を物体が左へ移動すると、物体周囲に時計回りの循環流が発生します。
循環流が発生する条件を、クッタの条件と呼びます。
このクッタの条件が満たされるのは、翼の後端形状が尖っているからです。
どうして、後端形状が尖っていると、循環が生まれるのかは、後述します。
この循環流は実際の空気の流れとは、違った流れをする為イメージがしづらいと思います。
循環流は目には見えませんが、空気の渦です。
ケルビンの渦定理から、渦の発生には、必ずそれを打ち消す渦が繋がって生まれます。
また、渦の中心"渦糸"は端がなく、輪になっている必要があります。
翼の周りの循環流にも、必ず打ち消すような渦が繋がっています。
それが出発渦と呼ばれる、飛行機が滑走路へ残してくる渦です。
また、循環流と出発渦を繋ぐ様に、翼両端へ出来る渦を翼端渦といいます。

06_翼の渦の繋がり

翼端渦は目で確認が出来ます。
この動画は、NASAによって飛行機が通過した後の翼端渦を、煙で可視化した実験です。

この翼端渦が翼の周りの循環流を証明するものになります。

先ほど、クッタの条件を満たすのに、翼後端が尖っている必要があるといましたが、理由を説明します。
翼によって、上下に分かれた空気の引き裂かれた点と合流する点を"よどみ点"と呼びます。
このよどみ点は飛行機が出発時、翼後端部より上面前方にあります。
この時、後端をぐるっと周って下方からよどみ点へ空気が流れます。
翼後端が尖っていると、この周ってくる空気の半径が小さくなり、速度が増します。
よどみ点は空気が合流するので、圧力が高く、後端部は速度が速いので、圧力は低くなります。
この圧力差によって、渦が発生し、翼の後へはがれた渦が先ほど述べた出発渦です。

07_よどみ点と渦

この動画は、出発渦の発生する過程が見られる流体解析シュミレーション動画です。
半時計周りの渦が出来ているのが、確認できると思います。

この翼の周りの循環流によって、翼の上下を通過する空気は速度の差が生まれてきます。
翼上方では、循環流が順流となり、速度が増します
翼下方では、循環流が逆流となり、速度が落ちます。

08_循環流と速度

ここまでで、翼上方と下方の速度が変化する理由が分かっていただけたと思います。
では、速度が変わったら、どうして揚力が生まれるのか説明していこうと思います。
ここでは、ベルヌーイの定理が重要となります。
ベルヌーイの定理とは、運動、位置、圧力のエネルギーの和は一定とする式です。

09_一定=運動+位置+圧力

このベルヌーイの定理を用いて、揚力を考えると、翼上方の速度が上がることは、運動エネルギーが増しますので、圧力が下がります。
圧力下がったことにより、翼は上方へ引っ張られるという事です。
電車がホームへ来たときに、線路側へ引っ張られるような感覚があると思います。
それも、電車によって空気の速度が増し、圧力が下がっているからです。
この圧力の低い箇所へ引っ張られることで、飛行機は揚力を生んでいます。

まとめると、翼形状によってクッタの条件を満たし、クッタ・ジュコーフスキーの定理の循環流を発生させている。
循環流によって、翼上方を通過する空気の速度が上がり、ベルヌーイの定理から圧力が下がり、揚力を生んでいるとなります。

これらの定理、条件使って解析し、飛行機は設計されています。
ただし、前半でお話しした視点の違いから答えが変わる理由は、この解析の部分にあります。
現状、飛行機の翼の設計には、コンピューターでの流体解析が使われています。
コンピューターでの流体解析には、ナビエ・ストークス方程式という式が使われています。
このナビエ・ストークス方程式はいまだ一般解がなく、まだ解かれていません。
流体解析をする際には、ちょっとした裏技を使って計算をしています。
この解かれていない方程式を使って、解析された結果は果たして正しいと言えるのでしょうか。
様々な実験、検証から、この解析結果と実際の揚力との誤差は1%未満であることが確認されています。
工学的視点で言えば、1%未満の誤差は許容範囲内であり、設計は可能。
よって、飛行機が飛ぶ理由が分かっているし、実際に飛んでいるとなります。
数学的視点で言えば、まだ解かれていない方程式を使っていて、誤差が1%もある。
よって、まだ完全に理解がされておらず、飛行機が飛ぶ理由が分かっていないとなります。
こういった、視点の違いから、前述の一言は生まれています。

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