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旅を思い出す印。パスポートに押された、思い入れのある「5つのスタンプ」

海外へ旅に出ると、いつも手に入れる特別なお土産がある。

パスポートのスタンプだ。

いろんな国で押してもらった色や形の様々なスタンプは、僕にとって1番大切なお土産かもしれない。それを見返しているだけで、旅のあれこれを思い出せるからだ。

最近はだんだんとスタンプを押してくれる国が減ってきた。だからこそ、訪れた国でスタンプを押してもらえると、得したような嬉しい気持ちになる。

今日は手元でパスポートを広げながら、思い入れのある5つのスタンプについて語りたい。

韓国・釜山~2010年6月12日

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もしもひとつだけ、忘れられないスタンプを選ぶなら。

きっと、初めての海外一人旅でパスポートに押された、韓国・釜山の入国スタンプだ。

海外そのものが初めてだった僕は、釜山の空港で入国を待つ列に並びながら、とても不安だった。

なにか韓国語で聞かれたらどうしよう。別室にでも連れて行かれることはないだろうか……。

僕の番になって、男性の審査官に恐る恐るパスポートを渡した。

すると、顔写真のページを広げ、目の前の僕の顔とちらっと見比べただけで、何も質問することなく、ポンッとスタンプを押してくれた。

ホッと安心すると同時に、あまりにあっけなく入国できて拍子抜けしたのを覚えている。

でも、そのとき僕は知ったのだ。海外を訪れるって、そんなに難しいことではなかったんだ、と。

そんな韓国の旅を始まりに、僕は世界の各地を旅するようになる。その勇気をくれたのは、あの日の入国の「あっけなさ」だった気もする。

気づかないうちに、あの釜山の男性審査官は、僕を見果てぬ世界へと、そっと後押ししてくれたのかもしれなかった。

マカオ~2010年12月14日

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今も見返すと、恥ずかしい気持ちになってしまうスタンプがある。

2010年12月14日に押された、マカオの出国スタンプと入国スタンプだ。

その日、僕はマカオにいて、リスボアのカジノで遊んだ後、香港へ帰るためフェリーターミナルへ行くバスに乗った。……と思っていた。

バスを終点で降りて、ターミナルの中へ入ると、さっそく出国審査がある。あれっ、フェリーのチケットも買ってないのに変だなと思ったけれど、そのままパスポートにマカオの出国スタンプを押してもらった。

さらに歩いて行くと、なぜか今度は入国審査がある。

わけがわからないながら女性の審査官の前に立ち、言われるがまま入国カードを書いていると、とんでもないことに気がついた。

その入国カードに「CHINA」と記載されていた。ここは中国・珠海との国境だったのだ!

慌てて不慣れな英語で説明し、どこからか現れた怖い男性に連れられて、マカオの方へと引き返した。そして入国スタンプを押してもらい、再びマカオへ戻ったのだ。

もし、あのとき気づくことなく中国に入国していたら、そこからどんな旅が始まっていたんだろう……。

2つ並んだマカオのスタンプには、若い未熟さと、それ故の煌めきが、今も滲んでいるような気がする。

アメリカ・バッファロー~2012年10月31日

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パスポートのスタンプの押し方には、お国柄が表れる。

そのハロウィンの日、僕はカナダのトロントから、陸路でアメリカのニューヨークを目指していた。

国境に位置するナイアガラの滝を見た後、アメリカ・バッファローの入国審査へ向かった。

出迎えてくれたのは、どこか陽気な男性審査官だった。入国カードを渡し、簡単な質問に答えると、その審査官は「OK!」と言って、僕のパスポートをぱらぱら捲った。

そして何を思ったか、前半部分に空白ページがたくさんあるのに、そこを全部すっ飛ばして、ICチップの次にある27ページ目に入国スタンプを押したのだ。

それまで概ね、前のページから順番に押されていたスタンプの流れが、そのとき崩壊した。

「サヨウナラ!」と日本語で見送ってくれた審査官と別れ、僕はスタンプを見つめながら思った。

これがアメリカなんだなぁ、と。

最初にアメリカを感じたのは、マンハッタンのビル群でも自由の女神像でもなく、陽気な審査官が押してくれた入国スタンプだったのだ。

フィリピン・マニラ~2018年9月29日

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スタンプの色や形に、それほど好みがあるわけではない。

でも、フィリピンで押してもらったスタンプだけは、色も形も不思議と心惹かれる。

とくに好きなのは、帰りのマニラの空港で押された出国スタンプだ。

丸く押された小さなスタンプは、美しい緑色をしている。その優しい緑色が、フィリピンの旅で見た草木の色に似ているような気がするのだ。

その旅で訪れたのは、パナイという名の島だった。バスに乗りながら、そして町を歩きながら、僕は草木の美しさに目を奪われていた。

道端にそびえるヤシの木、公園の大樹、教会を彩る草花……、どれも豊かな緑色に輝いていて、美しかった。

その緑色と、スタンプの緑色は、ちょっと似ている。

あるいは緑色のスタンプが押されたのは、ただの偶然だったのかもしれない。

それでもスタンプを見つめていると、あのパナイ島の風に揺れていた美しい緑を思い出して、なんだか懐かしい気持ちに包まれる。

中国・深圳~2020年1月11日

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海外へ行けなかったこの2年間、引出しの奥からパスポートを出すことはほとんどなかった。

今日、久しぶりにパスポートを広げて、思わず手を止めたスタンプがある。

中国・深圳で押してもらったスタンプ。それは世界が一変する前、最後に押された異国のスタンプだった。

2020年1月11日。その日付を見ていると、まるで時間がそこで止まっているかのように思える。

そして空白のページに、押されるはずだった旅のスタンプを想ってしまうのだ。

僕にとって海外への旅は、生きる上で大切なテーマのひとつだ。きっとパスポートのスタンプは、旅の軌跡であるとともに、人生の軌跡でもあるのだと思う。

だからこそ、その軌跡をまた描いていきたい。

この赤いパスポートに、新しいスタンプをいっぱい押して、自分だけのパスポートを作り上げたい。

深圳のスタンプの、その次のスタンプが押される日を、2年以上も待っているのだ。

旅の思い出が込められた、特別なお土産

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パスポートのスタンプには、自分を過去の旅へと還らせてくれる、不思議な力がある。

それを見返しているだけで、旅で感じた光を、風を、香りを、鮮やかに思い出せる。

旅先でお金を出せば、素敵なお土産は手に入るかもしれない。

でもパスポートのスタンプは、お金には代えられない、特別なお土産なのだ。

たとえ淡く滲んだスタンプだったとしても、そこには一生の宝物みたいな、大切な旅の思い出が込められているのだから。

旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!