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【日本団地巡り】その④ ハイタウン北方

約8ヶ月ぶりのシリーズ第4弾です。今回は、正月に地元の岐阜に帰省したので、公営団地建築としては著名な「ハイタウン北方」をご紹介します。

基本情報

・来訪日:2024/1/3
・場所:岐阜県北方町
・アクセス:JR東海道線、岐阜駅からバスで約30分
・開発時期:2000年竣工
・開発主体:岐阜県
・規模 430戸(南ブロック)
・人口:不明
・価格帯:家賃7,800円〜17,100円 ※2023年度
・コンセプト:21世紀に向けた居住様式。

成り立ち

県営住宅の建て替え

ハイタウン北方は、上記の通り岐阜県が運営する県営住宅です。つまり公共事業なので、成り立ちについての情報はネットだけでもある程度出てきます。岐阜県のページによると、元々は1960〜1965年にかけて建設した県営長谷川団地について、2つの理由から建替事業が推進され、現在のハイタウン北方が形成されたようです。その2つの理由とは、「物理的な老朽化」と、「社会的な老朽化」です。特に、後者の社会的な老朽化、という問題意識から、特徴的な建替えが行われました。

先鋭的な建替えコンセプト

社会的な老朽化についての問題意識は、以下のように表現されています。

住宅の狭さ、間取りの古さから、今日の生活様式や高齢化社会に向けての対応がなされていない等の社会的な老朽化もみられ、

県営長谷川団地を作った当初の1960年前後から、建替えが行われた2000年前後の40年間で、社会の様相が変わったとの捉え方です。この認識に基づき、来る21世紀に向けて、以下の建替えコンセプトが置かれました。

  1. 21世紀に向けた居住様式を提案し、素材の使い方、建築技術においても他の先導的モデルとなりうる設計

  2. 岐阜は日本の東西文化の交差点であることから、その考え方を広げ、東西文化の調和なども考慮した斬新な建物

  3. 地域・住民と融合できるようなオープンな空間

  4. 地元の人にとってのステータス・シンボル、ランドマーク的モニュメントにもなりうる団地

特に、この1点目が特徴的だと思います。そもそも、ハイタウン北方のような公営住宅は、公営住宅法という法律に基づいており、公営住宅法第一条にある通り、低所得者に向けた生存権の保障がその目的です。

(この法律の目的)
第一条 この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

公営住宅法

最低限生活できる住居を提供すればよいとも捉えられる中で、「21世紀に向けた居住様式を提案する」という、ただの生存権保障にとどまらないコンセプトが形成されたのは特筆する点だと思います。この政策決定過程は深掘りすると面白そうですが、リサーチが及んでいないのでまたの機会に。当時の岐阜県知事が建設省出身で、公共建築に力を入れた梶原拓だったことも影響がありそうです。

4名の女性による設計

上記のコンセプトに基づいて、磯崎新さんという方がコーディネーターを担い、4名の女性建築家が設計を行うことになったようです。ここで突然、「女性」という概念が登場します。

女性の持つ優しさ、感性、アイデアを活かした住まいづくり・街づくりを推進する観点から、国内外で活躍中の4名の女性建築家と1名の女性造園設計士により基本設計が行われました。

ここで突然出てくるジェンダー観点については、批判的に分析した論文は見つけたので貼っておきます。

いずれにせよ、公共政策論的にも、建築学的にも研究対象になっており、その辺に論文やニュース記事もたくさん転がっているので、インプット情報は一旦これくらいにしようと思います。

行ってみての感想

今回は南側からアプローチしてみることにしました。まずはクリスティン・ホーリィのS-2棟です。

ちょっと遠くからですが、かなり目につきます。レゴブロックのような感じです。

次に、妹島和世のS-4棟です。

オブジェ越し

ところどころ穴が空いているところが「テラス」で、洗濯機置き場はこのテラスに定義されているようです。冬は寒いのではないでしょうか。妹島さんのコメントはこちら

次はエリザベス・ディラーのS-3棟です。

ギザギザでちょっと傾いているように見えます。なんか強そうではあります。

最後に、高橋晶子のS-1棟です。

大きく見ると、斜めに3本かかる階段がとても印象的です。細かく見ると、外壁がカラフルでおしゃれです。高橋さんのコメントはこちら

最後に中庭です。色んなオブジェや集会所がありますが、特に人もおらず、なんというか、馴染んでいる感がありません。とまあこんな感じで、色んな記事を見ている限り、部屋の中の住みやすさはかなり疑問があるものの、外観は個性的で面白く、建築として一見の価値はあります。周辺にはスーパー等の商業施設も充実しており、入居率が比較的高い(約90%)のも頷けます。

今後の展望

ここまでで見てきた「県営住宅という行政的観点」と「新たな居住様式を目指す建築的観点」のそれぞれの視点から見てみます。

県営住宅という行政的観点

まずは管理者である県について、岐阜県は2011年に「岐阜県地域住宅計画」を策定し、現在に至るまで4回の見直しをしつつ維持しているようです。基本的には住宅セーフティネットとしての役割は維持しつつ、少子高齢化への対応(高齢者向けの対応、空き家対策など)を行う計画に見受けられます。

次に、ハイタウン北方が位置する自治体である北方町の都市計画マスタープランを見ると、特にハイタウン北方自体への言及は特にありません。ハイタウン北方が属する北方・柱本地域は、「緑あふれ清流の流れる活力ある市街地の整備」という整備テーマが掲げられており、こちらも住宅地の機能はそのままに、質を向上する方向であると読み取れます。

北方町議会においても、入居者の高齢化は問題提起がなされてもいるようです。公営住宅という性質から、若い世代を流入させる難しさも垣間見え、時代の変化に伴って、公営住宅のあり方そのものが問われているのだと思います。

新たな居住様式を目指す建築的観点

建築家たちが志した新しい居住様式が、25年ほど経った現在でどれだけ成果をあげているのか、あるいはギャップがあるのか、といった情報は、ぱっと調べるだけではなかなか出てきません。居住者の声や実際の生活様式を誰か研究していただけるとありがたいです。(他力本願寺)少なくとも、ハイタウン北方の居住様式が現在一般的になっていないことは事実だと思います。

まとめ

なんか、良くも悪くも情報源が多く、底辺文系大学生が単位を取るためだけに作るレポートみたいになってしまいましたが、こういう場所があるんだへぇー、くらい思っていただけていたら嬉しいです。

おまけ

ネットに転がってる論文、記事を紹介します。

公共住宅の行方を探る:岐阜北方集合住宅の試み
→2001年のシンポジウムの様子。上野千鶴子さんってこういうところにも出てきてたんですね。

ハイタウン北方の評価の視点 刺激的な公共私の関係性
→居住様式の解説

陽のあたる洗面台──ジェンダーが裏返したプラン | 鈴木明
→妹島棟を「核家族の娘」として捉えている。興味深いので引用

娘は、コンパクトのように取り出したケータイの小さな液晶画面で外に繋がり、自らのアイデンティティにチェックを入れる。同じことが、岐阜の住戸内の陽の当たる洗面台の前で繰り返される、というわけだ

文春オンライン
《写真多数》奇抜!? それともスタイリッシュ!? 日本とは思えない“お洒落すぎる外観”の“団地”を訪ねてみると…
→コンパクトにまとまった記事

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