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梅田俊明先生インタビュー(特級レポ2023)

本番前日のリハーサルの合間にも気さくに対応してくださった梅田先生。
指揮者を志しはじめた頃の先生ご自身のお話や、未来の音楽家たちへの熱いメッセージなど、たくさんお話を伺うことができました。

過去のコンクールでは1日5時間にも及ぶ審査での指揮を6日連続でしたこともあるという、若い未来の音楽家たちを熱くサポートし続けている梅田先生だからこそのメッセージをお届けします。

インタビュー前に撮影した梅田先生のメッセージ動画はこちら。




梅田先生が指揮者を目指したきっかけ

5歳からピアノを習っていた梅田先生がオーケストラの生の音楽と出会ったのは、小学校の高学年頃だったそうです。それ以来、誕生日プレゼントやお年玉でレコードを買い、FMラジオを炊飯器のタイマーにセットして録音していたほど夢中になったとお話してくださいました。大きな転機は高校生の時。スポーツでの怪我で3カ月の入院生活を送ることになり、それまで自由に聴けなかったFMラジオでありとあらゆる音楽を浴び、どうしても音楽をやりたい! と決意。音大ではピアノだけでなくオーケストラでコントラバスを弾きながら指揮の勉強を。あの忙しい毎日の経験が今に繋がっている、とおっしゃっていました。



梅田先生からの熱いメッセージ

・4名のファイナリストの成長
昨日からの変貌ぶりがね、良い経験をすると化けていくんだなというのは流石だなと思いましたよ。
昨日今日でご覧になったように、リハーサルをすると上手く合わないようなところも出てきますよね。それを、それぞれに『これは良い方向に持って行くために言うよ』と伝えましたから、凹んだりもしたでしょうし、寝ている間もきっといろんなことを考えたでしょうね。
それで一晩寝て今日。ホールもピアノも違うけれど、合わせてみたら皆さんしっかり修正してきていて、その上で自分の良さも出てきたという成長が素晴らしい。
皆さん、昨日よりゲネプロよりも本番がベストでしたよ。できていなかったところが本番ではできるようになっていたり、どう弾きたいのか見えてこなかったものが少しずつ見えるようになってきたり、エモーショナルな面が見えたり。短時間でこれだけ変われるっていうのは、可能性がいっぱい見えますね。

・経験の数ではなく経験の質
時間をかけてゆっくり学んで進んでゆくのも良いです。人生は長いですからね。うさぎとかめのようにね、早ければ良いというものでもない。
ただ、ことコンチェルトに関してとなると、歳を取ったら経験できるかというとそうではなく、限られたチャンスをモノにしていかなければならない、狭き門ですよ。今回のような(短い時間の中で起こる)経験を自分の宝にして、糧にして、吸収していけると良いですね。それが経験の数ではなく質なんだと思います。

・コンチェルトを弾くならピアノ作品以外の曲も
大曲を仕上げていくときには、ディテールを磨き上げていくことは必須だと思います。さらに最終的にはその作品を俯瞰して、構成やその作曲家のスタイルというものを理解して演奏できたかというところが問われているように思います。

コンチェルトを書いた作曲家はピアノ作品ではないものも書いているわけです。交響曲だったりオペラだったり、そういった様々なジャンルに触れることで、その作曲家の知らない面が見えてくる。
もちろんピアノ曲だけでも一生かかっても弾ききれないぐらいの曲があるので、何にどれだけ触れるかはバランスの問題ですが、コンチェルトをやるとなったらオーケストラの曲も知ると、そこに作曲家がピアノを入れた狙いは何かという、もう少し広い見方ができると思います。

他楽器のコンチェルトや、その作曲家が影響を受けた作曲家などへと、自分の中で興味が広がっていくことが素晴らしいと思います。誰かがおすすめしてくれるのを待つのではなく、探求心と欲求でサーチしてみてほしいです。

・共感と理解
皆さん曲への共感はあると思いますが、共感だけだと我田引水で自分のものにしようとして、作品を自分側に引き寄せてしまうことがあります。しかし全世界で度重なる演奏の歴史があるわけです。時代によってテンポ設定ひとつとっても変わってくると思うんです。そういった歴史を知った上で、広い視野で作品と作曲家に向き合うと、理解の向こうに共感があるはずなんです。共感が先に立つのではなく。理解があれば、それが根拠となり、我田引水にならずオーケストラがなるほどと納得できるものを一緒に作っていけます。

・コンチェルトでは一人で背負わなくてよい
なので、そのようにしてもう少し作品を深く理解すると、(コンチェルトの中で)役割が見えてきます。ピアニストが全部自分で背負うような、そんな大変なものではないんですよ。ここはピアノが主役でオーケストラは休憩とか、ここはオーケストラが主役になるところと、作曲家が役割分担して書いている。
だけどスコアを見て一緒に勉強しながらリハーサルをしていると、(今回に限らず)全部自分に引き寄せようとする人がいる。
そうすると、僕たちオーケストラは別にいなくてもいいのでは、というふうにもなってしまいます。力配分でも駆け引きでも会話でも何でもいい、オーケストラと対話をしましょうよ、と思います。

・ピアノはオーケストラから最も遠い楽器
ピアノはひとりで完結できてしまうし、(特級ファイナルのような)機会がなければ接点を持ちづらい。だからやっぱりオーケストラの曲をたくさん知ってほしいし、こういう(コンチェルトの)機会を掴んだらオーケストラや指揮者と一緒に音楽を作っていくんだという気持ちもとても大切。挨拶だったり振る舞いだったり。音楽をやるのは人間ですからね。

・振り返って稚拙だったと思えるような歩みを
今回ご一緒した皆さんには、何年か経って振り返ったときに、あの時は若かったな、稚拙だったなと思えるくらい、これからもしっかりと歩んで欲しいです。ここが頂上ではないのですから。今日だけの結果に終わらず、頑張ってください。



インタビューを終えて

お話を伺った中で、梅田先生ご自身も大学時代を振り返り「恥ずかしいくらい下手で、周りは上手で」と当時の稚拙さを語っておられました。インタビューが終わって帰り支度をしているときに見えた楽譜は、何度も使用して紙が広がっていたり表紙が外れてしまっていて、背がリングになっている楽譜を指して「背が外れてしまったから製本し直してもらってね、これ(今回表紙が外れた楽譜)も同じようにしてもらうんですよ」と。
私は小説を書いたり読んだりしますが、背が外れるほど読み込んだ本は1冊もありません(製本の違いもあるとは思いますが)。
そんな楽譜から窺えるのは、名だたるオーケストラと共演をする梅田先生ほどの地位にあってなお、研鑽を怠らない姿勢。
そんな梅田先生だからこそ「ここが頂上ではないのですから」というお言葉が真に胸に響きました。

梅田先生、ありがとうございました。


(写真提供:柚子と蜜柑)


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