見出し画像

⑪心停止の判断は?- 即座に判断できるようになるために -

ミュージカル好き救急医の独白 vol.11
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

みなさん, 目の前の人が心臓が止まったらすぐに判断できますか?
”息をしてないからわかる?”
”首の動脈を触ればわかる?”
”手足が冷たいからわかる?”
どれも間違いではないのですが, 結構難しいのです.
”わからなかったら救急車呼ぶから大丈夫?”
これもまた間違いではないのですが, 救急車が来るまでに約10分, 待っていていい場合とそうではなくやるべきことをやらなければ救えないこともあるのです.
ってことで, 今回は心停止(心臓が止まった状態)をその場で判断し, 最低限やるべきことを理解しましょう!!


今回のミュージカル

デスノート, レ・ミゼラブル, エリザベート, ミス・サイゴン, マリーアントワネット, ジキル&ハイド, 1789 -バスティーユの恋人たち- etc., 素晴らしいミュージカルでは, 多くの死者が出ます. しかし, 胸骨圧迫(心臓マッサージ)をするシーンは一切出てきません. もしも出てきたら, それは本当に緊急事態なので, 客席で座っている場合ではないかもしれません. 笑
私はいつも劇場に入ると, 自動体外式除細動器, 通称AED(Automated External Defibrillator)の位置を確認しています. 仕事柄, なにもないとは思ってはいますが, 劇場というのは数百人以上の方が集まる場所であり, 何かあったときのために気にかけるようにしています(いままでに使用する機会はありませんでしたけどね).


救急外来あるある

今回もまたよくあるケースを. 70歳男性(Jさん)が自宅で倒れ救急要請されました. 高血圧や糖尿病の治療中ではありましたが, 本日まで特に大きな病気はなく元気に生活していた方です. 救急車に同乗していた奥さんから話を聞きました.

Dr.S:「どのような状態だったのですか?」
妻:「散歩から帰ってきたら突然倒れて, 呼んでも起きなくて…」
Dr.S:「全く反応がなかったですか?」
妻:「はい. 呼吸はしていたようだったので, 少し様子を見てたんですけどなんかおかしくて…, 119に電話して, 反応がないなら心臓マッサージするように言われてやってました. なんとかしてください!さっきまで元気だったんですから!!!」

心停止を判断するために大切な2つのこと

Jさんの様に, 倒れた人がいたら, どのように対応するべきなのでしょうか?ドラマなどで, 病院のベッドでモニターがついていて, ピーっと横一直線の線がでていれば誰でも判断可能ですが, 自宅など病院の外ではそんなものはありませんよね. ここでは自宅で, よく知る家族が倒れたときのみるべきポイントとして以下の2つを覚えておきましょう!

画像1

①意識を確認
倒れている方の両肩を叩きながら, 「わかりますかぁ」と呼びかけましょう. 全く反応がなければまずい状態です. この段階で救急車を呼びましょう.
呼びかけで反応し, 会話が成立する, 会話は成立しないものの反応がある場合には, 多少余裕はありますが, 普段と異なる状態であれば救急車を呼びましょう. なんでもかんでも救急車を呼ぶのは困りますが, 急に意識が悪くなった場合には, 脳の病気(脳卒中)や心臓の病気(心筋梗塞)などのまずい病気が原因の可能性が高くなりますから.

②呼吸を確認(救急車を誰かに呼んでもらっていると仮定して話を進めます)
意識の次に確認するのが, 呼吸の状態です. 要は息をきちんとしているのか否かを判断します.
みなさん, 息をしているか否かはどのように判断しますか?自分の呼吸は判断できると思いますが, 他人の呼吸が正常か否かは意外と判断が難しいものです. 口元に手を持っていき吐息を感じますか?それでもOKですが, 可能であれば胸の上がりを確認しましょう. 寝ている家族をよく観察するとわかると思いますが, 通常仰向けで(寝ている状態)息を吸うと胸の辺りが挙がります. これを確認してほしいのです. 胸郭挙上といいますが, 十分に胸が挙がっている状態であれば, きちんと呼吸をしていると判断します. それに対して, 胸郭挙上が不十分, もしくはよくわからない場合には, ”正常な呼吸ではない”と判断します.

心停止と判断したら速やかに胸骨圧迫

反応がなく, 呼吸が正常ではない場合には, 心停止と判断し胸骨圧迫(以前は心臓マッサージと呼ばれていた)を開始します.
え?意識と呼吸だけで判断していいの?と思うかもしれませんが, いいんです!医療者は頸動脈(首の動脈)を触れるなど, いくつか確認することはありますが, このような状況では気が動転するでしょうし, 評価する項目が多いと大切なことが実施できません. シンプルに理解しておきましょう.

心停止に陥ってしまうと, 残念ながらその後10分間なにもしない状態が続くとまず助かりません(1分毎に救命率は10%低下すると思って下さい). 迷ったら胸骨圧迫をするのです.
胸骨圧迫が不要かもしれないけれども胸骨圧迫をしてしまったとしても, 必要なのにやらなかったよりは圧倒的にいいのです. 大切な家族の急変を適切に対応するためには, この判断が大切なのです. もしも胸骨圧迫が必要のない状態の場合には, 胸骨圧迫を開始後に, 身体が動くなど反応が認められるはずです. そうなったら止めればいいのです.

癌などの大病を抱え, かかりつけ医の先生と, 状態が悪化した場合の話がなされている場合にはその限りではありませんが, 予期せぬ急変でJさんの様になんとか可能な治療を施すためには, 現場での対応が極めて大切となります. 日本の救急車は地域によって多少の違いはありますが, 10分以内で到着します. 救急隊が到着すれば適切な処置を施してくれますが, それまではみなさんが行うしかありません. ぜひ, この機会に整理しておきましょう.

胸骨圧迫の具体的な方法はまた後日…


♪神よ 我が主よ 祈りをきかせ給え 若い彼を救い給え♬
『彼を帰して』

ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!