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【architecture】ニコラス・G・ハイエック センター|坂茂

銀座は有名建築の玉手箱と言っても過言ではない

華やかな銀座通りには競い合うように装飾的な建築が並んでいる

昔ながらの碁盤の目の区割りが張り巡らされている
小さな路地も多く、大きなメインストリートと路地の対比が面白い
また古い建物が残っているところもあり新旧の建築の対話も銀座の街の特徴とも言えるだろう

そんな銀座であるが、ここでの建築はやはり商業建築である
通りに対してどのようなファサード(外観)で人を建築に引き寄せるかがキーポイントになる

そのため皮膜(外壁)のデザインに特化した建築がひしめきあっている

逆に建築の内部のつくりについてはナンテコトハナイものが多いように思う
内部についてはハイブランドの商品の方が余程価値があるのかもしれない


私が銀座建築で最も好きなのが建築家の坂茂氏が設計した『ニコラス・G・ハイエック センター』である

(写真はHPより引用)

近年完成した『GINZA SIX』のビルの新橋寄りの銀座七丁目に位置する

ちなみに坂茂氏は建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞している世界的な建築家である
災害支援のために世界中を飛び回る建築家として評価されているが、通常の建築作品はまた違った品の良さがある
私のnoteでも以前取り上げているので良かったら読んでいただきたい


さて『ニコラス・G・ハイエック センター』であるが、このビルの敷地も銀座特有で間口が狭く奥行きが長い

このビルはスウォッチのビルで時計ブランドの「ブレゲ(Breguet)」「ブランパン(BLANCPAIN)」「グラスヒュッテ・オリジナル(Glashütte Original)」「ジャケ・ドロー(JAQUET DROZ)」「オメガ(OMEGA)」「ロンジン(LONGINES)」「ティソ(TISSOT)」の7つの高級時計ブランドのビルとなっている

当然商業ビルであるので人を惹きつけるファサード(外観)が求められる


ここで商業ビルについて述べておくと
商業ビルはテナントが入居して、その家賃収入を得るという言わば収益物件である

ビルであるので階数によって家賃も違えば入居するテナントの用途も異なる
人気はやはり通りを歩いている人がスッと入れる1階である
ウィンドウショッピングを楽しむ銀座にあっては最も家賃が高いところである

しかし1階には向かない業種もある。フィットネスジムなどは1階だと人目に晒されて恥ずかしい思いをすることになることもある
美容院なんかも女性からしたら、パーマを当てている姿やカラーリングの様子など見られたくないこともある

わざわざ銀座の家賃の高い1階で中の見えない店舗をするくらいなら2階以上が好まれることもある
とは言え2階は目立ちにくかったり、階段が面倒だったり、看板費用がかかったりと欠点もある

外食チェーンの『大戸屋』さんは女性のおひとり様ランチを狙って地下に構える店舗が多いと聞く
敢えて人目を避けた家賃の比較的安い地下に注目したのは鋭い視点だろう


というように商業ビルには階数によって差が出るという難しい問題があるのである
しかも銀座は間口が狭いので、この問題はより顕著である
銀座で空室のテナントはオーナーからしたら金銭的にかなりの痛手である

そんなことを考えながら設計されたのがこの『ニコラス・G・ハイエック センター』である

このビルは思い切って1階部分は全テナントのショールームを兼ねたエレベーターホールになっている

それぞれのブランドは2階より上にあり、1階で御目当てのブランドを見つけると、直接そのブランドのある階に向かうエレベーターに乗るシステムなのだ

各ブランドに専用のエレベーターが設けられているので、階による差はない
しかも1階はそれぞれのブランドのショールームのようになっているのでウィンドウショッピングに対する利点も備えているのだ

高級時計ブランドの店舗というだけあって専用のエレベーターというのは最高の”お・も・て・な・し”である

銀座通り側はシャッター付きの半外部空間になっており、銀座の街を上から眺めることができる

数百万もするような買物をするところであるからには、これくらいの贅沢な演出があって良いだろう

かと言って嫌味があるようなギラギラした感じはしない

学生時代から気に入っていた建築だけあって、ゆるい服装で客を装って行っていたが、よく止められなかったものだ(笑)


銀座という土地ならではの敷地形状や用途、客層などを掴みながら、機能とデザインを融合した建築である

今月から新たにリニューアルされているようである
しばらく東京には行けていないので詳しいことは分からないが、銀座に行かれた際はぜひお目にかかってもらいたい


ちなみに坂茂氏はスイスにあるスウォッチ本社の設計もしている

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