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初の感動作『なくなQちゃん』を読んで泣く/泣ける!オバケのQ太郎①

藤子不二雄というと、読者の年代によって「オバケのQ太郎」派「ドラえもん」派に大きく分かれる。1974年生まれの僕は当然後者で、おそらく自分より下の年代はほぼ全員が「ドラえもん」に愛着を覚えることと思う。逆に自分より少し上の年代は、オバQが大好きだという人が多いようだ。

1965年にスタートして一世を風靡した「オバQ」は、僕にとって「少し前」の作品であり、正直あまりのめりこんでいない。子供の頃、藤子不二雄ランドでマンガを読み、新作のTVアニメも見てはいたが、「ドラえもん」に較べてそれほど面白いと思わなかったのである。

これは、半年前、このFノートを始めた時も同じ印象を持っていた。オバQへの思いも深くなかったので、特別記事にしようとも思っていなかった。

ところが、このnoteを続けていく中で、「全ての藤子F作品を記事化する」という大目標を掲げたため、「オバケのQ太郎」に向かい合わなくてはならなくなった。藤子先生の作家史において、オバQは最も重要な作品であり、ここを無視することはできないのだ。

そういうこともあって、ここ最近まっさらな気持ちで読み返していったのだが、これが実に面白いのである。「ドラえもん」とは少しアプローチの異なる日常系ギャグマンガで、「笑わせる」という目的においては、文句なしに藤子F作品でNo.1であると思う。

「オバQ」は「ドラえもん」と違って、毎回異なるひみつ道具を出したりすることはない。お馴染みのキャラクターが、毎回、何かのテーマの中で徹底的に遊び倒すのが王道パターンである。ドラえもんがひみつ道具を起点にしたストーリーマンガと位置付けるのならば、オバQはキャラクターの魅力を全面に押し出したドタバタ基調のギャグマンガである。

「オバケのQ太郎」は、キャラクターの面白さを存分に活かして、一直線に進行していく。伏線を張るなどの組み立てを用意するわけではなく、あくまでキャラ押し

「ドラえもん」では、ドラえもんではなくのび太が主人公となっているが、「オバケのQ太郎」では、Q太郎自身が主人公である。Qちゃんが自分のために自分で行動する。それに周囲は巻き込まれていく。


そんな「オバケのQ太郎」の中には、笑いを畳みかけていきながら、最後に読者を泣かす人情もののようなお話が稀に存在する。初期の「男はつらいよ」のようなハチャメチャさと、ペーソスが見事に重なり合った作品があるのだ。

そこで、ひとまず二回にわたって「泣ける!オバケのQ太郎」と題して、ラストで思わず涙をこぼしてしまう感動作を紹介する。徹底したギャグマンガとしてスタートしたオバQは、涙の要素が加わることで、芸風を一気に広げることに成功した。そんな作品群を、是非とも堪能いただきたい。


『なくなQちゃん』「週刊少年サンデー」1964年37号/大全集1巻

まずは一本目『なくなQちゃん』から。本作はオバQの連載開始から28作目にして、初めてラストで感動を狙いに行った作品となる。それまでの27作は、全て全力のドタバタ・ナンセンス・コメディであった。

Qちゃんは、今でこそオバケファミリーの一員で、オバケ仲間もたくさんいる。パパ(X蔵)・ママ(おZ)・妹(P子)・弟(O次郎)・アメリカの友人(ドロンパ)・ガールフレンド(U子)・世界中のオバケたち・・・。大勢のオバケに囲まれている。

ところが、初期のオバQでは、まだ家族の設定などは固まっておらず、たった一人のオバケだった。そういう背景を押さえて本作を読み進めたい。

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冒頭、Q太郎がTVを見て泣き出す。みなしごがよその家でいじめられるドラマであったらしい。Qちゃんは、自分も親がいないことを自覚する。(ちなみに80年代のアニメでは「おしん」らしき作品が放送されていた)

正太が「センチになるな」と声をかけるが、ママが二人におやつのスイカを出してきたのを見て、それを定規で丁寧に測って

「僕のが3ミリ小さい。やっぱりここの子じゃないからだな」

とひがむ。その後いじけてしまい、自分の部屋(注:木の上から正太の家に地下につながっている)に戻り、「父恋し、母恋し」と落ち込むQ太郎。

正太はQちゃんが可哀そうと思い、白いシーツを改造して、Q太郎のお父さんのコスプレをする。「わしはお前のパパじゃよ」と近づくと、まんまと騙されるQ太郎。何の疑いもせず「会いたかったよ~」と正ちゃんパパに飛びつく。

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嬉しくなったQちゃんは、さっそく皆に紹介すると言って、正ちゃんパパを部屋へと連れていく。なぜか正太の家族も正太の変装を全く疑わず、本当のQ太郎のパパと勘違いして、挨拶したりビールを飲ませたりする。(そして酔っぱらう正太)

するとQ太郎は今度はママに会いたいと言い出す。仕方なく、正太はシーツの顔をママバージョンに代えて再登場すると、Qちゃんが「正ちゃんには兄さんがいる」と言って兄をねだる。そして兄バージョンに代わると、今度は「みんなで記念写真を撮りたい」と言い出す。

エスカレートする要求に困り果て、正太はパパたちに自分の正体を明かし、Qちゃんを騙すのを手伝ってくれるようお願いする。

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ここからはナンセンスギャグがエスカレート。パパ・ママ・兄の伸一がそれぞれオバケのパパ・ママ・兄に扮して、集合写真を撮ったり、外へ遊びに出たりする。すぐに3人は恥ずかしがって家に戻ってしまい、正ちゃんがパパになって、「オバケの法律で二人以上は外出してはいけない」と出鱈目を言って、なんとかとりなす。

Q太郎はパパと散歩するのが楽しく、あちこちを歩き回るのだが、崖から空を飛ぶところで正ちゃんパパは落下してしまい、気絶してしまう。Q太郎は倒れたパパを助けに行くと、シーツの中に正太が入っていることに気がつく。

「そうか僕を慰めるために、こんなことを・・・。ひがんだりして悪かったよ」

状況を全て理解するQ太郎。正太が目を覚ますと、知らないふりをして、パパをおんぶして家に飛んで帰る。

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帰宅すると、Qちゃんは面白かったと大喜び。ママや兄さんにも話してやろうと部屋を出ていくと、正太が使っていたオバケシーツに風船を入れる。

扮装するシーツが無くなっていることに気がついた正ちゃんたちは大慌てとなるが、Q太郎は「僕の家族は帰ったよ。皆によろしくって」と言って、風船の入ったオバケシーツが空を飛んでいく様子を見守る。

「僕、もう寂しがらないよ。正ちゃんたちがいるんだもの」

と、泣かせるQ太郎なのであった。

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本作が描かれた頃から、いよいよオバQ人気は上昇していき、数か月後には小学館の学年誌と幼年誌で一斉にオバQが連載されることになる。また、本作がきっかけとなったのかは不明だが、約1年後に本当のオバQ一家が登場する話『オバQ一家勢ぞろい』が描かれ、Q太郎の世界・キャラクターが一気に幅を広げていく。

次回では初期オバQの傑作と呼ばれる作品を見ていきたい。



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