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【座談】高木もえ×三谷知恵×秋山咲紀子"シタンダリンタに振り回された新旧ヒロイン「全方位的に意識の向け方が異常になってきてます」

『或いは。』(19)、『もしや不愉快な少女』(20)、『ミス・サムタイム』(23)、『ぼくならいつもここだよ』(23)など、これまで主に同世代の生活や苦悩を描き続けてきた19歳の映画監督•シタンダリンタ。そんな彼が、中学時代に制作した『或いは。』振りに幼馴染の"モエちゃん"こと高木もえとW主演で作り上げた『【Amour】アムール』(公開中)。18歳の少年少女を中心に繰り広げる結婚と離婚と再婚を描いたちょっぴりおませなラブストーリー。この作品では、主に学生時代の初期シタンダ作品でそれぞれ主演・ヒロインを務めた高木もえ(「或いは。」)、三谷知恵(「散ルカモネ」)、秋山咲紀子(「もしや不愉快な少女」)がおよそ4年振りに共演を果たした。そんな撮影中の3人とシタンダリンタによる座談会を敢行すると、学生時代から共に自主映画を撮ってきたからこそ知るかつてと今の違い、現場でのシタンダリンタの姿など、興味深いエピソードで溢れていた。(編集部)

◆年々撮影が大変になっていくシタンダ組

ーーまず、およそ4年振りの共演となる感慨をお聞かせください。
シタンダ
「まずみんなそれぞれお久しぶりよね」
秋山「私と知恵ちゃん(三谷知恵)は『もしや不愉快な少女』振りだから、いっても2年振りだけど、もえさん(高木もえ)はどうやら4年前を覚えてすらないみたいで」
高木「作品ではもちろん見てたけど、『或いは。』のロングヘアーのイメージでしかなかったから、その時と違いすぎてもう初対面な感じでした」
秋山「『或いは。』は同じシーンはいくつかあったけど別撮りとかが多くて実際ほとんど会ってないんだよね」
三谷「みんな受験生だったから。スケジュールがね(笑)」
シタンダ「家の前に立つ秋山とそれを窓から見るもえのシーンはスケジュール合わなくて別日だったから、誰もいない家の前を窓から見ながら芝居してたもんね」
秋山「そんなんだから一回しか会ってないんです、撮影中」
シタンダ「それも、朝秋山のシーンの撮影で、午後もえのシーンの撮影、っていう日に楽屋で着替える時にすれ違った程度だったよね」
三谷「その日に実は3人揃ってたらしいよ」
秋山「女子3人が着替えようとしてるのにシタンダがずっと喋ってるから私が出て行けって言いました」
シタンダ「その記憶が中学時代って、恐ろしいよね」
高木「そりゃ覚えてなくても無理ない(笑)」

左から、三谷知恵、高木もえ、秋山咲紀子

ーーそれぞれの主演作•ヒロイン作については、いかがですか?
三谷「高校1年生の時に出演した作品だから、もう今更何も言わないでほしい(笑)」
高木「分かる、私も中3だから(笑)」
三谷「いまだに監督から何を求められてるのか分からない(笑)」
高木「中学時代とか、すごい量の作品に出てたよね」
三谷「この人の作る量が異常だったからね」
シタンダ「それにほぼ全作出てくれてたよね」
秋山「シタンダが気に入ってるのは、なんか分かる気がする」
高木「一緒に演るのも多かったけど、監督と知恵ちゃんは相性がすごい良かった感じあった」
三谷「でもそれこそ咲紀子ちゃんの『もしや不愉快な少女』はそういう意味でも、この人の全作通してもまたちょっと毛色の違う芝居で、大変だったと思う」

元子役の少女の成長と再生を描いた大作『もしや不愉快な少女』

高木「聞くところによると撮影中一生情緒が不安定だったらしいよ(笑)」
三谷「よくやり遂げたなぁと思う。あのボリュームの作品を最初から最後までよく主演したよ」
高木「本当よくやったよ(笑)」
秋山「あれでかなり鍛えられた感ありますね」
シタンダ「それ以降の『ぼくならいつもここだよ』と今作の余裕ったらありゃしないっていう感じ(笑)」

ーーそんな皆さんが久々に一堂に会す今作『【Amour】アムール』ですが?
高木
「けどあれだよね、3人での共演シーンはないんだよね」
秋山「ないね」
シタンダ「もえと秋山、もえと三谷、はあるけど、秋山と三谷、はないね」
三谷「『もしや不愉快な少女』ではちゃんとね、親友だったから(笑)」
高木「私咲紀子とガッツリ絡むのは今回が初だったから、緊張しました」
秋山「どういうきっかけでスタートしたんだっけ?」
高木「多分あれだよね。なんかやろう、っていう話はもうずっと1年2年くらい前からしてて、やっと企画が決まりそうっていう連絡が去年頭くらいに来て、そこからちょくちょく会って、そうこうしてたら企画書届いて。私は個人的にどっちかなって思ってたんですよ。『或いは。』と似た空気のものをやるのか、全く違うものをやるのか。それで届いたのが、後者だったので、うわぁこんな感じかぁ、って構えました。楽しみだったけど、4年前と台詞量が比にならないって噂は聞いてたので、台詞覚えられるかなぁっていう不安でしたね」
三谷「私は単純に企画を聞いた時に、もう早くホンを読みたくて。ほぼ読者として楽しみにしてました」
秋山「そういう意味では私は、前作『ぼくならいつもここだよ』の現場で次の話されて、ほぼ流動的にこっちに入った感じで。だから企画もギリギリに聞いて、もうあらすじとかも全部一緒に届いたかな」
高木「えーそうなんだ」
シタンダ「ずっと膨らませてた感じですね」
秋山「あなた『ぼくならいつもここだよ』やってたしね(笑)」
シタンダ「そう丁度『ぼくならいつもここだよ』のイン前とかで、もう申し訳ないけどそれどころじゃなくて、企画書が仕上がるまでも相当時間かかっちゃった」
高木「だからやるとは言われたけど、この人も色々他やってるし、本当にやるの?ってすごい思ってたよ。一生ホン来ないし(笑)」
シタンダ「今回も皆さん台本が遅れに遅れてすみませんでした」
秋山「もはや近年はもう恒例よね」
シタンダ「いやダメダメ、本当に良くないそれが恒例になるの。善処します」
高木「まぁ無事届きましてね。どうだった? ホン読んで」
秋山「またなんか、新しいことしようとしてるなと思ったね。捻くれてるっていうか。また突っかかって来たな、みたいな」
三谷「普通にありそうな話と、ちょっと浮世離れしてる話の、その絶妙なバランスで来たなっていう印象ですね」
高木「未成年の結婚と離婚と再婚っていう。なかなか思いつかないけど、まぁ考えてみればあり得なくはないのかって。描いてる感情についても、ほぼ全部の感情やってない? みたいな特大ボリュームだし。それがやってて面白いですね」
三谷「設定は非現実的というか、リアリティー満載ってわけではないけど、描いてるテーマは日常的な人間ドラマで、あぁこれはザ・シタンダリンタ作品だなって思いましたね」
秋山「うん。なんかシタンダ独特の、あぁこういうのがやりたいんだなっていう明確な色々が詰め込められた、"っぽい" 映画ですね」

ーー皆さんが思うシタンダ映画の印象などはありますか?
三谷「脚本に年々磨きがかかり過ぎて、もう毎作これが1番最高って言ってます」
高木「台詞の言い回しとかね」
三谷「自分は絶対言いたくないような、これを言うのかっていう台詞が年々増えてる。けど、読んでて、この言い回し良いな、みたいなのが多いですね」
高木「台詞ひとつひとつに魂込めてるんだろうなっていう(笑)」
シタンダ「なんかダサい言い方しないでよ(笑)」
三谷「適当に流してる台詞がないよね。いちいちちゃんと考えてるな、っていう」
高木「ここのニュアンスがちょっと違ってくると、意味が違う、みたいなのが本当に多いから、丁寧ですよね」
秋山「全シーンこだわりが強くて、本当大変です」
三谷「年々撮影が大変になっていく」
高木「咲紀子とかはさ、それこそ近年のシタンダリンタに1番振り回されてる人じゃん(笑)どうなんですか実際、演出とか」
秋山「もうみんな言ってるけど、厳しいですよね」
三谷「納得行くまでが長い」
シタンダ「悪口じゃん」
秋山「でもだからこそ、見た時に、"これ良い!" みたいなのがみんなで共有できてる。めちゃくちゃ良い作品は出来てるけど、本当に撮影は大変ですよね」
高木「ちょっとでも台詞のニュアンス違ったら、個人的には"一緒やないかい"って思うことはあるけど、なるほどね、って最終納得行くところに演出をつけられるから、こう言って欲しかったのか、っていう」
秋山「それこそ映像的にも、最初は"どんなブスな角度から撮んねん"って思ってたけど、実際撮った素材とか見ると、確かに良いかも、って感じになってきて、ちょっとムカつきますね」
高木「分かる」
三谷「分かる」

最新作では親友同士(高木と三谷)、ある男の元妻•現妻(高木と秋山)という関係性を演じる3人。

◆3人がシタンダリンタと映画を撮ることになったきっかけ

ーーまず、各々どのような流れでシタンダ組に参加することになったのですか?
秋山「私は『或いは。』からなので、現時点で世に出てる彼の作品にしか出演したことはなくて。このお2人は、小学生中学生時代の一切世に出てない作品から出演してたんですよね」
三谷「私のイメージでは、咲紀子ちゃんは撮影期間の割と後半にいきなり参加が決まった感じだったよね」
シタンダ「色々あってね(笑) 途中参加だったよね」
秋山「なんか1個役が空いたから、これやってみない? っていきなり言われて」
三谷「イメージが合ってたんでしょ?」
シタンダ「受験の時期だからね、色々予定も変わるじゃんみんな。それで急遽スケジュール的に1人キャストが参加できないかもってなって、切羽詰まってたからもう見た目のイメージとかだけで声かけたんです学校で(笑)」
秋山「それで2人で、シタンダとちょっとお出かけするみたいな感じで、一緒に制服で河川敷行って」
高木「あー!」
三谷「うんうんうん!」
高木「その出来立ての映像を撮影中に見せられた気がする。ヤバいから見て!って言われて、興奮してた」
シタンダ「ほぼノリで、もうええやん出ぇや!みたいな感じで河川敷行って、ほぼもう遊びでワーワー撮っててさ」
秋山「なんか最初もうめちゃくちゃ適当に、はいそこ動いてみて!飛んでみて!暴れてみて!みたいな」
三谷「そんな感じだったんだ。でも出来上がったあそこのシーンのインパクト凄くて。見て見て見て見て見て!みたいに見せられた」
高木「本当に興奮してたよね」
秋山「あれがデビューですよね(笑)」
三谷「面白いなぁ」
シタンダ「その次がもう2年後とかに『もしや不愉快な少女』だね」

ーー三谷さんはどのようなきっかけですか?
高木「いつからなの?」
三谷「そもそもなんか中2の時に、学校の体育祭で応援団が一緒になって」
シタンダ「やめてすっげぇ細かい話始めんじゃん(笑)」
三谷「それでなんか色々決めなきゃいけないからってことで、電話番号を交換したんだよね。それで電話番号を渡した私が悪いんだけど(笑)。そしたらいきなり日曜日の朝に電話かかってきて、なんか今日来れない?みたいな、スタッフ1人足りないってなって、みたいな。多分たまたま誰か呼ぼうってなった時に私の電話番号があったからってだけだと思う最初は」
高木「何の作品だろう」
シタンダ「あの中2の秋くらいの、ボツの嵐みたいな時期(笑)」
高木「懐かしい、じゃあ多分その作品もボツだったんだろうね」
三谷「それでそれまでのこの人の作品は見たりしてたから、もえさんに会って、芸能人に会う感覚だった」
秋山「その時はスタッフだったんだ」
三谷「なんか行ったその日に、エキストラ的に出てみてよって言われてノリで」
秋山「全部ノリじゃん(笑)」
三谷「意外といけんじゃんって言われて、いけるのかな、って乗せられてしまって、今までズルズルと」
高木「すごいよねそれ(笑)」
三谷「そういう感じで入って、今でも一緒にやってたり本当にそっからそっちの道を目指し始めたりしてる人がシタンダ組には多い」
秋山「ヤバいよ本当、それはマジですごい」
シタンダ「一部では被害者の会とか言われてるけどね(笑)」

ーー高木さんはもう10年近くの仲なんですよね?
三谷「単純に幼馴染なんだもんね」
シタンダ「そう(笑) 家が近所でね」
高木「もう最初を辿れば、小3くらいの時に、なんか遊んでるところを定点カメラで撮ったりしててこの人」
シタンダ「やってることほぼ変態と変わんないよね」
三谷「変な趣味」
高木「それでそれにいつしか芝居をつけ始めて…」
秋山「『激レアさんを連れてきた。(テレ朝)』でこの人が特集されてた時にその話出てたよね」
高木「それでこの人がそれくらいの時に転校して、転校した先の友達とまたなんか撮ってるからもえも来てよって言われてよくそっちに通って一緒に撮ってました」
シタンダ「転校した先にいるのが三谷とか秋山なんだけど、当時はまだこの2人とも一切撮ってなくて、また全然別の友達とかと一緒にやってたね」
三谷「じゃあもう本当に10年近くだね」
高木「知恵ちゃんは?」
三谷「6年くらいかな。咲紀子ちゃんは?」
秋山「知り合ってからは長いけど、一緒にやり始めたのは、『或いは。』からだから4年くらいかな」
シタンダ「みんななんだかんだ長い付き合いになってきたね。言っても所詮数年だけど(笑)」

ーー皆さんは、こんなに続くなんて想像はしてましたか?
秋山「想像もしてなかったし特に考えてもなかったかな。本当にノリだったから」
三谷「私は『或いは。』で終わりだと思ってました。高校生になったら連絡なんて来ないと思ってた。だから『散ルカモネ』でまた声かけてくれてから、それ以降はもう、とにかくプロットが面白いから出たい、みたいな感じですね」
高木「私もここに来て、また2時間強の映画を撮ることになるとは思わなかった」
シタンダ「回り回ってまたもえとやることになったのは、面白いし、わざわざやるからにはちゃんと意味のあるものにはしないとだから、その辺りすごい探り探り進めてますね」

◆シタンダ作品の過去と現在、そして未来

ーーこれまでのシタンダ作品の中で印象に残ってる作品はありますか?
三谷「私は、自分がガッツリ出てるってのもあるかもだけど、やっぱり『散ルカモネ』ですかね。グロめのシーンも多いのに、全体としては爽やかだし。狂気的な空気が個人的には好きで、頭おかしいなぁと思える世界観というか、初号試写で見た時に、単純に好きな作品として楽しめました」
シタンダ「終わってからめちゃくちゃ絶賛された記憶があります。自分が出てる作品でよくもそんなに目キラキラさせられるな、と思いました(笑)」

1つの事件によって混沌を極めていく少年の心を描いたサスペンス『散ルカモネ』

高木「これって、『或いは。』以前の作品も言って大丈夫なのかな」
三谷「それ以外ってなったら今作しかないもんね(笑)」
シタンダ「作品名くらいなら大丈夫なんじゃない?」
高木「中学2年生くらいの時に、なんかこの人が舞台にハマってた時期があって、WOWOWの舞台映像みたいな作品を作りたいって言って、『貴方からも一言』っていう舞台作品をやったことがあるんですよ」
シタンダ「その話すんの…」
三谷「でも私好きなんだよねコレ」
秋山「どういう作品なの?」
高木「一幕ものの会話劇で、親が離婚して離れ離れになった兄弟が雨の日に一晩喋ってるだけの話なんだけど、ステージにちゃんとセット組んで、ちゃんと演劇をしたんですよ。それをお客さん入れずに定点で撮影して、拍手とか笑い声とかは効果音で、みたいな(笑)」
シタンダ「舞台収録された演劇が、映像作品としてリリースされたっていうテイのものを作ろうとしてたの」
秋山「なんか見たことあるかもそれ」
三谷「聞いた話によると、1日前とかに台本渡されたとか…」
シタンダ「よく覚えてるななんで知ってんの(笑)」
高木「そうそう。ある日召集がかかるわけじゃないですか。舞台やるとは言われてたけど、いまいちよくわからないまま呼び出されて、そしたらそこでぶっとい台本が来るわけですよ」
秋山「昔からぶっとかったんだ」
シタンダ「それを1日稽古して、翌日に舞台でまた稽古して、それで夕方くらいに撮影。もちろんワンカットというか、ぶっ通しだからお互い始まるギリギリまで台本読んでてみたいな」
三谷「すごいな本当に。よく覚えられたね」
シタンダ「騙し騙しやってたね多分(笑)」
高木「それも世に出せないって、悲しい話だよね」

ーーその時期のシタンダ組というのは、どのようなものだったのですか?
三谷「もう本当に今とは大違いですよ。その舞台の話もそうだし、本当に昔は適当というか、適当ではないんだけど、情熱と他の色々が全く見合ってないというか。作る作品自体は勿論センスがあったと思うんだけど、撮影日数とか、現場の動かし方とか、やっぱり下手でしたね」
シタンダ「いや本当そうだったと思う」
高木「だから成長度合いがもう異常よね」
三谷「台本がない日も余裕であったし、その場でああしてこうしてって言われてやるみたいな。でもそれで完成したもの見せられたら、台本がしっかりあるような映画にちゃんとなってて、むしろ怖かったです」
高木「撮影期間とかもね」
三谷「短いものだと1日で1時間弱の作品撮り終えたりとかしてた。それ以外でも、大体は2、3日とか長くても1週間弱で2時間近くの映画を撮ってました」
高木「なんか毎週新作撮ってたよね」
三谷「平日に脚本書いたりして、土日で撮る、翌週には完成、みたいなことをホントずっとやってました」
シタンダ「その分クオリティーは今だと見てられないレベルなんだけどね」
三谷「でもその当時で言えば、ちゃんと映画にはなってた。量産しまくってる割には、完成した作品が破綻はしてなかったんですよね。それが今は一作一作丁寧に作ってる印象ですね。その分勿論作品のクオリティーも格段に上がってるし、元々破綻させずに撮れてた分、余裕を持って制作出来てるなとも感じます」

ーー当時は完成した映画はどうなさってたのですか?
シタンダ「あんまり大きな声では言えないんですけど、正直なところ当時は世に出すなんてことは一切考えてなかったしやってなかったんです。だから撮った作品が今出せない理由っていうのが、いわゆるサントラとかいろんな権利関係をガン無視してたんですよね。一般的に出さないから自分の好きな音楽を勝手に使ってたり、映画の始まりのロゴとかを勝手に使ってたり。身内で見ることしかしてなかったからそれが出来た。でも次第に撮っていくうちに本当にこれを仕事にしたいと思い始めたし、もっと多くの人に見てもらいたいってなったんです。ちょうど中学の卒業のタイミングも重なって、色々先のことを考え始めまして。それで音楽面とかいろんな面をちゃんとして世に出せるものを作ろう、ってなって制作したのが『或いは。』以降の作品なんですよね」
三谷「『或いは。』以前の作品は、完成したら監督の自宅で上映会がありました」
シタンダ「でもこれ我ながらですけど、映画撮ったからみんな見にきてー!って感じのノリだけではなかった」
三谷「もうちょっとしっかりしてたよね。部屋のテレビで見る、って感じではなくて、完成して公開日が設定されて、その日に行ったら、数畳の部屋が丸ごと何もなくなってるんです。そこにスクリーンがあって、スピーカーがあって、座席があって。なんなら入る時にドリンクとかポップコーンとかもあって。ドリンクもコップとかじゃなくて本当に映画館みたいなカップとストローで蓋がしてあって」
シタンダ「入ったらその映画の関連楽曲が小さく流れてるんです。それで自分の他作品の予告編が流れて、劇場マナーが流れて、段階的に照明が暗くなって、最後は真っ暗になって本編スタートなんです。今思ったらすごい恥ずかしいくらい馬鹿げてるけど、でも楽しかった」
秋山「知ってる私も見に行ってた」
三谷「小さい部屋だったから1回で10席くらいしか入れないですけど、何作目かでなんかすごい連日満席みたいになって、学校の同学年の半数以上が見てるみたいな。なんか普通に学校で、今日この後シタンダの映画見に行こうよみたいな話がされてるんです。昨日見てきたよーとか言われるんです」
シタンダ「友達のインスタとかで、明日これ誰か一緒に観にいこうーとかって言ってポスター載せられてたり、感想みんながシェアしてくれてるから公開中とかはインスタに結構僕とか三谷さんとかの顔があちこち載ってたりね(笑)」
三谷「本当に変な感じだった。作品によっては、全然入らない作品もあったし、逆にこれは当たったねぇなんて話せるくらい、それこそトータルだと100人以上見に来てくれてた作品とかもあったり。作品数が多い分、毎作一喜一憂してましたね」
三谷「リピーターとかも結構いて、同じ作品を4、5回見に来てくれてる人もいたよね」
シタンダ「言っても同じ学校のほぼ同学年でしかないから勿論狭い世界ではあるんですけど、自分で意識的にそういう、外に向けての作品作りというか、外って言っても友達たちでしかないけど、お客さんというものを意識して作品を量産してたのは、今にすごく活きてる気がします」
三谷「なんかちょっと嫌な話ですけど、キャスティングとかも、そういうのをやらなそうな友達を敢えて招いて、あいつがなんか出てるらしいよ、みたいな面白さで見に来るお客さんを獲得してたりしてたんです」
秋山「昔からそういうプロデュース力はあったんだね(笑)」
三谷「普段だったらシタンダと絡まない人とかもガンガン来てた。本当にこの人の家が人だらけみたいな日もザラにあったんです」
シタンダ「一軒家だから出来たことでもあるよね(笑) 親ごめんって感じ」
三谷「ちなみにその時にキャスティングされたのが、サッカー部で人気者だった長谷川悠くんで、今作でも主人公の友達•伊東を演じてるんだよね」
秋山「本当にすごいよねそれは(笑)」
シタンダ「でも本当に今も、作りたいものを作るっていうのは最大級にあるんですけど、やっぱりちゃんと外に向けての作品制作を心がけてて、人にどう思われるかを気にするわけじゃないけど、人に見せる作品、人に見てもらう作品、として作ることには同じくらい心血を注いでるつもりです。そういう面は、やっぱり中学時代の小さいコミュニティーではあるけど、その時のことがしっかり芯にある気がしてますね」
三谷「私すごい覚えてるのが、初めて50人近く集客出来た映画があって、そのすぐ後にこの人は、ラインのタイムラインで1話5分から10分くらいの全30話近くの連続ドラマをやるって言い出して。勿論私たちも参加したんですけど、それをやったんですよ。そしたら結構みんな見てて、学校でもよく来週どうなんのみたいなこと聞かれたりしてたし、友達だけじゃなくて友達の親御さんとかも見てたり。この人はシメシメみたいな顔をしてましたけど」
シタンダ「それで、そのドラマが終わって次に出す映画は絶対今までのお客さん以外の新規の友達も来ると踏んでたんです。だから、その時もう世間では考察ブームみたいなものがじわじわ来てた時で、それに乗っかって、考察できるようなちょっとホラーテイストのサスペンスを撮って。それが異常なくらい当たった(笑)」
秋山「当たったって(笑)」
三谷「いやあれは当たってた(笑)」
高木「中学生の友達たちの話とは思えないね」
シタンダ「本当に100人以上来たし、1週間上映する予定が1ヶ月くらいのロングランよ(笑)」
高木「面白すぎる」
シタンダ「でもその後に三谷さん主演で3時間の笑いとかホラーとかゼロの暗くて重いテイストの、人の死にまつわる人間ドラマを撮ったんです。そしたらそれがびっくりするくらい大コケした(笑)」
三谷「あれはマジでコケた。誰も見てくれてなかった。本当にすぐ上映終わったし、勿論一定数は来てくれてたけど、でも全然盛り上がらなかった。撮影も本当に暑い中しんどい中やったのに、全然コケた」
シタンダ「自分的にはあの時期に撮った中ではかなり好きな作品なんですけどね」
三谷「ホンはすごい良かったし、映画としても、中学生にしてはかなり良いものを撮れた自信はあったんです。でもこの人の趣味全開すぎて、なんかダメだったね」
シタンダ「今ならいける!と思ったんだけどね(笑) あそこでまた学びました」
三谷「でもその後だよね。ちゃんと映画をやる!って言い出したのは」
シタンダ「そうだね。実際その後に数ヶ月撮影も上映もストップした末に撮ったのが『或いは。』だもんね」
高木「へーそうなんだ!」
秋山「よくそんなに大コケした後に映画監督をやろう!って思ったね(笑)」
シタンダ「むしろ冷静になったかも(笑) コケたとか言ってるけど所詮地元の中学校の同学年のコミュニティーでしかねぇじゃんと思って。都合良く解釈してました」
三谷「『或いは。』もしっかりイベントスペースで中学の友達以外に向けての上映会とか映画祭に行く前に、まずは監督の自宅でいつもみたいに上映やってたよね」
シタンダ「ちょうど中学卒業のタイミングで完成して、春休みに公開したんです。中学の友達たちが、春休み遊ぼうってことをよく話してたから、じゃあこのタイミングで上映したらいっぱい来てくれるかなって思って。本当に過去1で集客出来ました。勿論それは中学の友達たちでしかないけど、トータル200人以上」
高木「そんなに来てくれてたんだ」
シタンダ「それまでの作品は学校もあったから夕方に1回上映するだけだったんだけど、それはもう春休みだから、朝から晩まで連日上映してて、1日に3回も4回も上映があったんですけど、僕もかなりプロモーション(笑)頑張ったんで、全回満席の日とかもめちゃくちゃありました。身内ノリでしかないけど、『或いは。』でそういったのは終わりにしたから、有終の美を飾れましたね」
高木「それでそれが後から映画祭とか東京で上映とかテレビでも取り上げられるとか、ムカつくけどカッコ良いよね(笑)」
シタンダ「やっぱりみんな中学生だし、僕も中学生だし、みんな純粋に見に来てくれるし、純粋に広めてくれるんです。褒めてくれるし、素直な感想をくれる。自分も分かりやすく調子に乗れるし、身内ノリでしかないのは分かってるけど、ちゃんと個人的な制作以上の気持ちで作れる。その期間があったから、今こうやってもっと沢山の人に見てもらいたいと思って作れてるなと感じます。もう無理だろうけど、あんな感じの上映、またやってみたいなとは思っています」

そしてこの取材をきっかけに、シタンダリンタ自身のセルフプロデュースによる映画館"的"個展の開催が決まり、中学時代のようなムードで自ら映画館"的"興行を行い、本作を公開することが発表された。

些細な嘘から地球の存続を担うことになるSF青春エンターテイメント『或いは。』

ーーそんな時代からの今ですが?
高木「『或いは。』は現場的にも見知った人だけだったけど、今作とかはこの作品で知り合う同い年とか、ご一緒させていただく大人の方とかがいて、もっとより気合いを入れるというか、身が引き締まる感じはありますね」
三谷「やっぱり分かりやすく身内ノリから脱却しましたよね。今回とかも、言っても主に友達なもえさんとか私とか咲紀子ちゃんと一緒にやりながらも、身内ノリな作品作りは一切してないですよね。そんな気がします」
高木「台詞はどんどん言いにくくなってくるし、言い回しが独特になってくるし、長いし、イントネーションとか間とか、全方位的に意識の向け方が異常になってきてますよね」
秋山「もうとにかく何回も何回もリハするし」
高木「そうねリハ増えたね」
秋山「リハがすごく大事ですよね特にこの人の映画は」
三谷「『或いは。』以前とか、リハなんて概念なかったよね(笑)」
シタンダ「やばいね本当に。リハないって意味わかんないよね」
高木「ガッバガバでゆっるゆるだったからね」
三谷「楽しい思い出ですよね」
秋山「私はそんな時代を特に知らないから。今の空気しか知らないから、逆にイメージが湧かないです。でもそういう時があったからこその今なんだなって、それしか思わないですね。やりたいとは思わないです(笑)」
シタンダ「このインタビューが掲載されるってのが今は1番怖いですね。恥ずかしいです(笑) けど、本当に、今の自分も数年後に見たら恥ずかしいことだらけだろうし、情けないとか感じるんだろうけど、でも少なくとも現段階では楽しくやれていて、それはやっぱり自分が落ち着いて余裕を持って楽しく作品作りを出来るようになるほどに、この3人を始めみんなが協力してくれたり、一緒に楽しく乗っかってくれてたからこそだと、すごく感謝しています。そんなみんなで久々にしっかり集まって、ここに来て一緒に撮ったのが、何回も言ってますけど、不思議だし本当にただただ面白いです。その楽しさが上手く作品を彩れたら良いなぁとワクワクしています」

本作で4年振りに集結となった秋山咲紀子、シタンダリンタ、高木もえ、三谷知恵(左から)。

ーー最後に、本作を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
三谷「お話もそうだし、芝居的にも、彼が求める絶妙なニュアンスをこれまで以上にみんな丁寧に作り上げていったと思うので、本当に楽しみにしててほしいです」
秋山「キャラ設定だったり、台詞だったり、ロケーションだったり、映像的なことだったり、めちゃくちゃ細かいこだわりがこれまで以上に詰め込まれていますね。個人的には近年のシタンダ作品に比べて、カラッとした印象を受けたので、肩の力抜いて楽しく見てもらえればと思います」
高木「私自身は『或いは。』振りなのですごく久々の出演となるんですが、シタンダ作品の特徴とか良さは残りつつ、登場人物それぞれの心情に寄り添った描写の積み重ねで物語が加速していく感じがこれまでの作品とはまた違った空気を持ってるので、この恋愛模様がどこに着地するのかを見届けていただければと思います」
シタンダ「えっと今更何も言うことはないんですけど、一見これまでの作品にも通じるテーマや空気感を纏った自分らしい作品にはなっているかなとは思ってるんですが、個人的に色々とチャレンジをしている作品でして。いつもは言いたいことをなるべくはっきり言う作り方をしていたんですが、今回は外堀だけ埋めて、この作品を見たお客さんの印象そのものが僕の言いたいことなんです、という作り方をしていまして。何を言ってるかは分からないとは思うのですが、こんなに友達同士でダラダラ話しているインタビューを最後まで読んでくださった皆さんにだけこっそりお伝えしておこうと思いました。喜怒哀楽詰め込まれた恋愛活劇ですが、その恋愛活劇に込めた僕のいくつかの思いをチーム一丸となって体現してくれてますので、良ければ是非見に来てください。よろしくお願いします!」

企画・監督・脚本・編集/シタンダリンタ 出演/高木もえ、四反田凜太、西崎達磨、秋山咲紀子、築地美音、長谷川悠、三谷知恵 他 音楽/megumi otsubo 制作・プロデュース/Rinta Shitanda's New Play/2023年/カラー/アメリカンビスタ/159分 ©︎2023『【Amour】アムール 』 8月20日(日)~27日(日)上映中

photo:bibi nakao


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