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世界301(1)の自転車団体がCOP26参加首脳らに送った共同書簡cop26cyclingと自転車政策における公平でサスティナブルなインフラストラクチャの必要性

Plat Fukuoka cyclingは福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となるための様々な提案を行っています。

 bicycle friendlyというと「自転車にやさしい都市」となると思いますが、私は「自転車がやさしい都市」になってほしいと考えています。それは歩行者に対しても、バイクやバス、自家用車…つまりは都市に対して、自転車がやさしくできる都市でありたいと思うのです。

 これまでのPlat Fukuoka cyclingは下記の目次よりリンクしていますので、ご覧ください。

0.Plat Fukuoka cycling vision
1.Copenhagenize Index2019を読む
2.Plat Fukuoka books&cycling guide
3.Plat Fukuoka cargobike style
4.Fecebook ページ
5.Instagramページ
6.twitterページ
7.Plat Fukuoka cyclingの本棚(リブライズ)
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2021年11月31日からイギリスのグラスゴーで始まっている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。その会議に先立ち、EUROPEAN CYCLISTS’ FEDERATION(欧州サイクリスト連盟(以下「ECF」という。))を筆頭に、COP26参加国の首脳らにむけた共同書簡が行われ、すでに世界の301の団体(1)が署名しています。

今回はその書簡文の紹介と、自転車が都市問題にコミットしていくための方法について考えます。
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(以下はリンクサイト:https://cop26cycling.com/の内容を筆者が意訳しております。転載等する場合は本サイトのプライポリシーを参照ください)

COP26に出席する政府の指導者たちは、炭素排出量を削減し、世界の気候目標を迅速かつ効果的に達成するために、自転車政策のレベル向上に取り組む必要があります。

COP26出席の政府各位へ

世界の政府の指導者の皆さまは、炭素排出量を削減し、世界の気候目標を迅速かつ効果的に達成するために、各国の自転車政策のレベル向上に取り組まなければなりません。

私たちが気候変動と向き合うためには、世界はよりもっと多くの自転車に乗ることを必要としています。 輸送により発生する炭素排出量を削減するため、各国の政府による、より迅速で断固とした行動がなければ、私たちは現在および将来の世代を、より敵対的で居住性の低い世界に導くことになるでしょう。

これが、署名した251(1)の組織が、グラスゴーで開催される第26回国連気候変動会議(COP26)に参加するすべての政府と指導者に、自国で自転車を利用数を大幅に増やすことを約束するよう強く訴える理由です。

政府と指導者たちは、自国において、より高品質の自転車の走行環境を整備し、自転車と公共交通機関との接続を強化し、道路交通の安全を改善することで、これまで人々の日常的な移動やビジネスにおいて、自動車によって行われてきた移動から、自転車や徒歩、公共交通機関などへの転換を奨励する政策を実装することで目標を実現できます。 自転車や徒歩などの能動的・アクティブな移動の促進と実現は、ネットゼロカーボン目標を達成するためのグローバル、国、およびローカル戦略の基礎でなければなりません。

世界の輸送は、化石燃料による燃焼からの直接CO₂排出量の24%を占めています。自動車は、輸送CO₂排出量のほぼ4分の3を占めており、これらの数は減少していません。また地球の気候変動を引き起こしている持続不可能なレベルのCO₂排出量以外にも、自動車は、前例のないレベルで大気を汚染しており、世界中で毎年推定700万人が死亡しています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5°Cの地球温暖化」特別報告書は、自転車を利用促進は、現在および将来のすべての人に安全で持続可能な世界を確保するための道であると認めました。 自転車利用はゼロエミッションを生み出し、自転車を利用することは、汚染の削減に加えて、広範囲にわたる社会経済的プラスの影響をもたらします。

自転車を利用することは、ゼロカーボンの未来への移行に対する人類の最大の希望の1つです。 最新の調査によると、ライフサイクルのCO₂排出量は、自転車を利用した移動ごとに14%、回避された車を利用の移動ごとに62%減少します。車から自転車に切り替えると、1キロメートルあたり150gのCO2を節約できます。 Eカーゴバイクは、ディーゼルバンと比較して炭素排出量を90%削減します。

都市において、週に1日でも自動車から、徒歩や自転車の移動にすることで、1年間でCO₂排出量を約0.5トン削減できます。公共交通機関などの他の移動モードとの相乗効果を構築することで、この可能性を大幅に高めることができます。

私たちの世界は危機的状況です。自転車を利用することでできる気候変動対策を、緊急促進的に拡大する必要があります。 私たちが今必要としているのは、政府が政策的および財政的に、私たちの国、都市、地域に住むすべての人に公平な、より安全で統合された自転車政策に取り組むことです。よって私たちは、COP26のすべての政府と指導者に次のことを要請します。

自国での自転車政策のレベルを大幅に向上に向けた宣言文
・サイクルツーリズム、スポーツサイクリング、自転車シェアリング、職場や学校までの運動としての自転車利用など、あらゆる形態の自転車利用を促進します。
・自転車利用を気候変動対策の1つとして位置づけし、自転車利用の増加と自家用車利用の低減がCO₂排出量をどのように削減するかを明確に関連付けます。
・国の自転車利用のための戦略と予算措置を行い、自転車利用に関するデータを収集し、自転車の利用環境の活用と改善策を構築します。
・安全で高品質の自転車の走行環境の構築と、これまで自転車利用が困難とされていた地域への自転車利用を促進するための投資を行います。
・人々の日常的な移動やビジネスでの移動の多くを、自動車から自転車に切り替えるための直接的なインセンティブを提供します。
・すべての人々が自家用車に使わなくても代替が可能となる、公共交通機関や複合移動手段を包括する経済システムのための相乗効果を促進します。

より高い自転車政策のレベルにおける気候目標を達成するためには、各国の協力が必要です。少数の国で自転車利用を増やすだけでは、世界のCO₂排出量を削減するのに十分ではありません。すべての国が貢献しなければならず、これらの努力は国連レベルで追跡されなければなりません。

各国が大幅に自転車利用を増やさなければ、早期に最悪の気候危機を回避するのに十分なCO₂排出量を削減する方法は考えられません。自転車利用は、私たちの惑星が将来のすべての世代に居住可能であることを保証するために、私たちがすでに持っている最良の解決策の1つです。

署名者
上記の共同書簡は、以下の301(1)の組織によって署名されています。

署名リストへの参加について
あなたはプロサイクリングNGOまたは協会ですか? 政府へのこのメッセージを支持しますか? 完全な組織名とロゴ(PNG形式)をECFのメンバーおよびネットワークマネージャーであるFroso Christofides(f.christofides@ecf.com)に電子メールで送信することで、手紙に署名となります。

(意訳はここまで)
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世界的な脱炭素社会への移行において、自転車が果たせる役割は非常に大きいとPlat Fukuoka cyclingも信じています。2021年6月9日に政府の国・地方脱炭素実現会議(2)において、脱炭素に向けたロードマップが作成されています。自転車に関する記述も見られるものの、移動に関する項目は既存自家用車やトラック、バスなどの電気自動化の記述が並びます。いくら自動車を電動化しても、都市の空間は自動車で占有されているのが、日本の脱炭素社会将来像のようです。

 この点は、輸送の脱炭素化を目標とした時、自動車が最もその割合を占めており、輸送の脱炭素化には、自動車をいかにガソリンから電動化して脱炭素化するかのみ焦点を当てているために起こっています。
 脱炭素化で必要なのは、「#07デンマーク・コペンハーゲンのスマートシティと自転車政策@ケンジーズドーナツ」で紹介したような、物事を多面的に捉えて、その問題の本質に迫る方法・「包括的アプローチ(holistic approach)」ができなければならないと思います。人々の移動がどうあるべきかという課題を、包括的アプローチでももって考えれば、移動空間、特に道路空間がどのようにデザインされるべきかの議論となるでしょう。そこでは、1人当たりの移動面積(3)がはるかに大きい自家用車ではなく、公共交通や自転車などが活用され都市空間が効率的に活用されることになります。そして、余剰の空間を気候変動対策や都市環境の改善のための空間へ転換していくような議論が必要と思います。

 すでに道路空間を交通空間から人びとの憩いの空間へと転換する取り組みは、国土交通省の道路局所管の「ほこみち制度(歩行者利便増進道路制度)」や都市局所管の「居心地が良く歩きたくなるまちなか形成(いわゆるウォーカブル政策)」、住宅局所管の「市街地整備2.0(「機能純化」を基礎とした「合理的な市街地」から「様々なアクティビティが展開される、持続可能で多様性に富んだ市街地」へ)」など個別事業としてすでに実施されつつあります。

 一方で、これらの国の取り組みに自転車がどのようにコミットできるか、この点が常につきまとう課題と感じています。

交通戦略に自転車位置づけるためMobility Oriented Neiborhood(移動性を重視した地域)戦略について

 自転車は環境にやさしく、健康にもよいことは概ね理解されている事実と思います。しかし、都市が自転車の移動できる範囲を越えてスプロール化してしまった都市では、特に人びとの移動に関する政策実行の際、同じ都市部においても、中心市街地とその周辺部では、所得格差や生活利便性施設へのアクセス格差などが顕在化してしまうことも事実です。

 この課題は「ストリートファイト」にて、紹介したニューヨークにおいても、課題として挙げられています。

「公平でサスティナブルなインフラストラクチュアの必要性」
グラン・ミルズ、ラファエル・ウラデ、アダム・ルビンスキー(WXYスタジオ)
 多くの人々が自転車で市内を移動するようになるとともに、ニューヨークのサイクリングはいくつもの新たな課題に直面し、そして新たな機会を得ている。街が不動産価格の高騰と気候変動という待ったなしの課題に直面するなか、解放と自己実現の力をもたらす手段としての自転車がもつ可能性は、これまでになく重要になっている。
 近年、インフラの大規模な拡充が進められているが、徐々に郊外に広げていくことを意図しながらも、事業は街の中心地区で優先的に進められてきた。(中略)最も混雑し多くの旅行者が集まる地域のサイクリング環境は大きく改善したが、多くの地区は今もなお、安全な自転車インフラへの最低限のアクセスを欠いている。
 現在、そのパタンは明確である。高所得で通勤距離が短い地区の人々が充実した自転車インフラにアクセスしその恩恵を受ける一方で、所得が低く長距離通勤をする人々は、自転車レーン、自転車シェアなどのサーヴィスを利用できないことが多い(それに比例して、これらの地区では公共交通の選択肢も少ない傾向にある)。不平等が高まるなかで、自転車はおそらくその恩恵を最も受けることができるはずのニューヨーク市民に届いていない。これらのコミュニティにとって、自転車インフラは解放ではなく、排除を象徴するものになっており、それゆえに彼らは時として、新たな自転車道路に反対している。
『a+u』2021年1月号「特集:バイシクル・アーバニズム」P87

 ニューヨークと同様に、日本の都市も比較的土地価格の安い郊外部に住宅地が広がりました。しかし、近年の都心回帰の流れにより、郊外部よりも都心部の不動産開発が活発となり、人口も都心部へ移動したため、かつての郊外住宅地や団地は高齢化と空き家の増加で、移動の多くを自家用車に頼らざる得ない地域が多いく、既存の公共交通が撤退し、課題となってきています(4)。

 引用したエッセイの後ろでは、郊外(当該エッセイでは、ニューヨークのマンハッタン島外)の交通機関と自転車インフラの結節が弱い地域に対しては、これまでのTOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型開発)では限界があり、その代替として、Mobility Oriented Neiborhood(移動性を重視した地域)による開発へと転換していくべきと指摘しています。

 つまりは、自転車をはじめとしたパーソナルモビリティと公共交通の接続性を高めつつ、公共交通自体も速達性や定時性を高めていくことで、郊外部の通勤距離が長くなり、自転車のみ通勤を行うことが難しいエリアにおいては、自転車インフラを公共交通機関と繋げていくという政策も必要となると思います。それは都心部における自転車インフラの整備とのバランスを取りながら実施していく必要があるということと思います。

 福岡では、鉄道とバス、シェアサイクルなどの移動手段を総合的に判断して、ルート案内を行うmy routeといういわゆるMaas(Mobility as a service)機能が充実しつつあり、ソフト面のシステムは確立されています。今後は、脱炭素社会に向けて、ハード面(道路インフラ)が変われるかが大変重要になると感じています。

 Plat Fukuoka cyclingは、福岡での過去に行われた社会実験やワークショップの内容を掘り起こし、福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となり、脱炭素社会と、豊かな都市空間のための方法を探っていきます◎

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〈参考文献等〉
(1)筆者がこの記事を拝見した時の賛同団体は117団体でした。記事の最終校正をしている2021年11月11日時点では301団体までになっています。すべての団体を確認できていないのですが、アジアからの賛同は台湾のみです。Plat Fukuoka cyclingは、ここにあるプロサイクリングNGOでもなく、協会でもないため、加わることが叶いませんが、ぜひ日本の他の団体方の署名を強くお願いしたいところです。

(2)内閣官房 国・地方脱炭素実現会議取りまとめ「地域脱炭素ロードマップ」2021年6月9日とりまとめ報告書https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/index.html

(3)村上敦(著)『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのかー近距離移動が地方都市を活性化する』(学芸出版社、2017.3)P101より、1人あたりの移動における空間専有面積は、自家用車(時速50キロ)で199㎡、(時速30キロ)で75.3㎡、(駐車・停止中)で10.7㎡。バスは(時速50キロ)で8.8㎡、(時速30キロ)で4.1㎡、(駐車・停止中)で1㎡。自転車は(時速30キロ)で6.7㎡、(停止)で1.2㎡。徒歩は(時速4キロ)で0.95㎡、(停止)で1㎡未満。いかに自家用車が都市空間を消費しているかわかるかと思います。

(4)#12Plat Fukuoka books&cycling guideコンパクトシティ政策を進める ドイツの都市・交通計画と自転車政策@かどや食堂で、紹介したとおりです。

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