アートも、街あるきも、建築めぐりも。街とつながる展覧会|New Horizon―歴史から未来へ (アーツ前橋)
群馬県前橋市にある美術館「アーツ前橋」で、開館10周年の記念展「New Horizon―歴史から未来へ」がはじまりました。
アーツ前橋の中だけでなく、近辺の徒歩でまわれる6つの会場に現代アート作品を展示。半日くらいで回れるコンパクトな芸術祭のようなイメージの展覧会です。
この展覧会について、3つのポイントで会場ごとのみどころをご紹介します。
※ 会場に入る前に 気になるアレコレまとめ ※
撮影可否:基本的に撮影OK(一部NGの作品あり)
入館予約:不要(予約システムなし)
会期中展示替え:なし(会期途中から展示の作品あり)
音声ガイド:なし
図録:制作中
その他:有料の会場と無料の会場があります。(記事内の会場ごとに記載)また、街を歩くのでぜひ歩きやすい靴でお出かけください。
おすすめポイント1:観て楽しい、考えても楽しい。 新鋭からベテランまでの作品群。
今回の展覧会では、テクノロジーを用いた作品や、イマーシブな映像インスタレーション、次代を担う若手アーティストの滞在制作などが展開されています。
まず、目で観て楽しむことができ、そこから感じられるちょっとした違和感を探ってみると、もっと楽しく観られる作品が多いのが特徴的です。
①アーツ前橋 (※要チケット)
まず、アーツ前橋でチケットを購入。こちらでの展示は、絵画や映像の作品が中心。はじめの展示室には、五木田智央、蔡國強、、松山智一らの平面作品が並びます。
目を引く武田鉄平の作品は、遠くから見ると分厚く絵の具を乗せたような大判のポートレート作品。
でも、近づいてよく観ると、あたかも厚く塗ったかのような絵の具の様子が緻密に描かれ、実際の画面はフラットであることに驚きます。(写真で撮っても立体的に見えますね・・・)
続いて、階段を降りて地下の展示室へ。アーツ前橋は、もともと商業施設だった建物が、建築家・水谷俊博によって改装され生まれ変わったもので、ユニークな展示室自体も魅力的です、
吹き抜けの広い空間で展開されるのは、ザドック・ベン=デイヴィッドのインスタレーション作品。6000個もの金属シートをカットし、年齢も国籍も多様な現代人をつくりだしています。タイトルは《出会ったことのない人びと》ですが、どこかですれ違ったことのあるような感覚になります。
撮影はNGだったものの、光を使用したジェームズ・タレルの作品も、視覚の感覚を揺さぶる印象的な作品でした。
横9M, 高さ3Mという巨大なLEDディスプレイに映されたレフィーク・アナドールの3つの映像作品は粒状や板状のものが滑らかに波打つようにうごめくもの。そのダイナミックで美しい映像に、飲み込まれるような気分になります。
CGの映像でありながら、海や森林のようにも見えてくるのが不思議でしたが、これらの映像は、数億枚のイメージをもとに、AIによって作り出されたものだそうです。これからの新しい自然の風景といえるのかもしれません。
おすすめポイント2:美術館を飛び出して。独創的な建築を巡る。
美術館周辺の建築も含めて楽しめるのが、この展覧会のもうひとつの魅力。ホテルの内部やマンションの部屋など、普段は立ち入れない場所で作品を鑑賞できるのも嬉しいところです。
②白井屋ホテル (無料)
アーツ前橋を出てすぐの場所にあるのが「白井屋ホテル」。設計を手がけたのは、建築家・藤本壮介。江戸時代から300年続いたものの、2008年に廃業した「白井屋旅館」の建物をリノベーションし、2020年12月12日にオープンしました、
こちらのロビーに展示されているのは、蜷川実花による作品。その作品は、写真作品ではなく…生花?
視点を変えて観ると、半分は枯れた植物のようです。この風景は、後ほど別会場の蜷川作品にもつながってきます。
なお、こちらの建物内には、五木田智央、武田鉄平といった、アーツ前橋で展示のあったアーティストのほか、レアンドロ・エルリッヒ、ライアン・ガンダー、杉本博司らによる作品も。ホテル内ですが、ダイニングなどを利用しても作品を鑑賞することができます。
③まえばしガレリア (※要チケット)
2023年5月にオープンした「まえばしガレリア」は、建築家・平田晃久による建築。1Fはギャラリー、上のフロアはレジデンスになっています。
今回、展示が行われるのは、レジデンスのスペース。通常は入れない場所で鑑賞が出来るのも嬉しいです。
こちらで展示されるWOWの作品《Refrection》は、映像に歪みのあるガラスを被せることで新しい観え方を与える作品です。
なお、まえばしガレリアの1Fには2つのギャラリーがあるので、こちらもあわせて楽しめます。
④HOWZE (※要チケット)
インパクト大!の金色に輝くこのビルは、キャバレーなどが入居していたというバブル期を象徴するような7階建ての廃ビル「HOWZE」。この3フロアを使い、5名のアーティストの作品が展示されています。
印象的なのは、キャバレーだったスペースを使った蜷川実花の作品。当時のお店のネオンサインや設備に、金魚や花などの写真と映像が展示されます。
また、一部屋だけ雰囲気の異なる部屋は、花を並べた撮影スタジオのようになっています。ここにあるのは、本物の花と造花を並べたもの。いつまでも美しい造花と、徐々に朽ちていく生花の様子が日を追って記録されています。
いつまでも美しい造花を観ながら、「生きているからこそ、老いるし、死んでしまう」ということを実感します。白井屋ホテルの作品にもつながりますね。
また、別のフロアのWOWの作品は、一面に白熱電球のスタンドが並び、ばらばらに明滅しています。
アナログな雰囲気の作品で意外に思いながらその灯りの間を抜け、部屋の奥にある大きなスクリーンの映像を見ると…あ!っという驚きが。ばらばらに見えていた灯りの明滅が、ある地点から観ると、1列に並んだ鏡のなかで様々な規則で明滅しています。
2022年に開催されたWOWの個展では、同じ《Viewpoints》というタイトルで、プロジェクタを使った作品がありましたが、今回は物理的な電球の明滅を用いていることで、全く違った印象を与えます。
おすすめポイント3:作品を通じて見えてくる、前橋のまち。
建物だけでなく、商店街などの街なかでも作品を楽しむことができます。
⑤Maebashi Works (無料)
商店街の中にある、空き店舗のような小さなスペース。こちらで展示されているのは、メディアアーティスト・木原共の作品《Future Colider》。
「顔認識中」などと書かれた看板はSFのようですが、実は前橋は、顔認証と組み合わせた自動運転バスの実験を行うなど「スーパーシティ構想」として、デジタル先端技術と規制緩和を活用したまちづくりを行っているのだそう。
ひょっとしたら、こんな看板も、遠くない未来には必要になるのかも?と、ちょっと怖い感じもします。
これらの看板は、ARで風景と合わせて撮影することもできます。街の中に看板をたてるち、先ほどまで観ていた風景も、少し違って見えてきますね。
⑥スズラン前橋店 (無料)
百貨店の店内を使った展示も。演劇団体 マームとジプシーの映像をつかったインスタレーション作品《瞬く瞼のあいだに漂う》です。作品の中には、特別な場所ではない、前橋の風景の写真や映像が、ことばと組み合わされています。
自分の地元でなくても、街歩きをしてからこの作品を観ると、作品に登場する風景もどこか懐かしく感じられるようです。
このほか、商店街のなかには関口光太朗やハシグチリンタロウら、複数の作品が展示されているほか、パフォーマンスも開催されていました。
まとめ
アーツ前橋とその近辺で開催されている「New Horizon―歴史から未来へ」展は、半日ほどで回れるコンパクトな展示ながら、作品を楽しむだけではなく、建築を楽しみ、街のことを知る、小さな芸術祭のような雰囲気の展覧会でした。
会期中にはナイトミュージアムツアーやワークショップなどのイベントも開催されますアート作品と建築と街歩きをあわせて楽しんでみませんか?2024年2月12日[月・祝]まで開催されています。
開催概要:アーツ前橋 開館10周年記念展 「ニューホライズン 歴史から未来へ」
URL:https://www.artsmaebashi.jp/?p=18770
ガイドマップ:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.artsmaebashi.jp/cms/wp-content/uploads/2023/10/f89c503cd03888e4e8b9fef714a6a35e.pdf
会場:アーツ前橋と前橋市中心市街地
会期:2023年10月14日[土]-2024年2月12日[月・祝]
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日(年末年始の休館は12/27[水]~1/4[木])
入館料:一般 1,500円、学生 / 65歳以上 / 団体(10名以上) 1,000円、高校生以下 無料
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