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【新刊試し読み】『ふるさと再発見の旅 九州2』|撮影 清永安雄

残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ『ふるさと再発見の旅 九州2』が2023年10月13日(金)に発売されたことを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

〈ふるさと再発見の旅〉第8弾は九州地方!
日本の原風景に出逢う旅へ
もういちどニッポンをひもといてみませんか―
日本全国津々浦々、歴史ある門前町や港町から、知られざる漁村や在郷町まで。残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ。
第8弾「九州2」は熊本、宮崎、鹿児島、沖縄を収録。
コラムでは地域に伝わる祭りやノスタルジックな商店街をピックアップ。各県の重要伝統的建造物群保存地区も全て掲載。
――掘り起こせば私たちの国は、虚実入り混じった、数えきれぬほどの歴史や伝説、言い伝えに彩られています。そんなふるさとの町や村に埋もれてきた、歴史譚や懐かしい原風景に出逢う旅――


試し読み

加世浦かせうら(天草市牛深町加世浦)

「お前の家、おれの家」が軒をくっつけて暮らした「せどわ」の集落

 天草市牛深町は、東シナ海に面した天草下島の最南端に位置する。三方を海に囲まれた天然の良港で、昔は小さな一漁村だったが、江戸時代に漁業基地として大きく発展した。現在も漁業従事者は1000人を超え、熊本県内でもっとも漁業が盛んな町である。
 その牛深町の南、山と海に囲まれた谷あいのわずかな平地に、加世浦という小さな漁業集落がある。
 ここには「せどわ」と呼ばれる昔ながらの家並みが今も残っている。「せどわ」の語源は瀬戸(家の裏口の意)で、狭い場所、という意味もある。その言葉通り、人ひとりがようやく通れるくらいの迷路のように入り組んだ細い路地に沿って、何軒もの家が軒を連ねている。これは、同じ船に乗る漁師たちが近くに集まって住んでいた集落の名残りで、奥の方から海に向かっていくつもの「せどわ」が伸びている。こうして密集して居住することで、かつては海側の路地の入り口で船頭が大声で出漁の合図をすると、ほんの数分で全員が船に集まることができたという。想像するとなかなか楽しげな光景である。
 この「せどわ」を舞台にした映画がある。2013年公開、大竹しのぶ主演の『女たちの都〜ワッゲンオッゲン』で、築百年の元遊郭「三浦屋」が解体されるという噂を聞いた地元の女性たちが、三浦屋を料亭として生まれ変わらせ、町おこしをするという話である。「ワッゲンオッゲン」とは「お前の家、おれの家」という意味だそうだ。家の軒と軒がくっつくように建っている「せどわ」を表現したものだろう。言い得て妙なタイトルだ。
 映画に出てくる三浦屋は実在した遊郭で、今もその建物は残っている。ここには他にもいくつかの遊郭があった。漁に出られない日は風待ちの港となった牛深の港町には、当然ながら花街が生まれた。大漁の日には大漁祝い、シケの日にはゲン直しの宴会が行われ、三味線の音の聞こえない日はないと言われた。
 歌人で詩人の与謝野寛が、北原白秋、木下杢太郎、平野万里、吉井勇と共に天草を旅した日々を記した紀行文『五足の靴』には、明治40年頃の牛深の漁村風景と花街のようすが描かれている。


目次

【熊本】
加世浦/杖立温泉/佐敷/馬見原/緑川流域のアーチ式石橋
コラム:北里柴三郎生家/『るろうに剣心 京都大火編』/魚良/子飼商店街/牛深ハイヤ祭り
【宮崎】
細島/西米良村/折生迫/油津
コラム:若山牧水生家/『ひまわりと子犬の7日間』/若草通商店街/味いち中央市場店/米良神社例祭
重伝建:美々津/飫肥/椎葉村十根川
【鹿児島】
小浦/伊座敷/福山/市比野温泉/鰻温泉
コラム:寺島宗則生家/『007は2度死ぬ』/一番街商店街/薩摩海食堂/佐多御崎祭り
重伝建:出水麓/入来麓/加世田麓/知覧麓
【沖縄】
久高島/奥武島/金城町/喜如嘉/伊部・安田/備瀬のフクギ並木
コラム:『涙そうそう』/むつみ橋通り商店街/きらく/奥武島ハーリー
重伝建:竹富島/渡名喜島


著者紹介

清永 安雄
1948年、香川県生まれ。写真家。京都写真美術館代表。公益社団法人日本写真家協会会員(JPS)。 写真集に 『日本人の道具』、『パリスケッチ』、『樹々変化』、『古鎮残照』、ノスタルジック・ジャパンシリーズ、『美しい日本のふるさと』シリーズなどがある。


ふるさと再発見の旅 九州2
【判型】A5変型判(200mm×148mm)
【ページ数】198ページ
【定価】2,640円(税込)
【ISBN】978-4-86311-383-1


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