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膃肭獣(おとつじう)おっとせい

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

これ松前まつまへ産物さんぶつとはいへども、蝦夷えぞ●● ヲシヤマンベ といふところにてるなり。寒中かんちう三十日より二月におよぶ。されども、はるものしほきゝあしきとて、貢献かうけん かならず 寒中かんちうものをよしとす。

膃肭獣をヲツトセイといふは誤なり
獣の名はヲツトツ なり

蝦夷えぞ運上屋うんじやうやといひて、松前まつまへより 七八十里 東北とうほくにあり。もつとも  舟路ふなぢその とほきこと、七八百里もあるごとしといへり。この 運上屋うんじやうやは、松前まつまへ奥州おうしう近江あふみなど、そのほか 商人あきひと出店でみせありて、まづ 松前まつまへより有司やうし くだり、その 交易かうゑき校監こうかんす。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]
< 同 運上屋 >

日本につぽんよりわたものは、こめしほかうじ古手ふるて、たばこ、器物きぶつ とうにて、刃物はものはなし。また蝦夷えぞさん海狗かいく膃肭おつとつくま、同鹿しかかはたらさけ昆布こんぶあわびます、ニシン、かず とうなり。そのうち蝦夷えぞにしきは、満州まんしう韃靼だつたんにて ヱソ へちかし)のさんにして、蝦夷地ゑぞち、ソウヤ といふところへ、もちわたる、またくままづ手取てとりにして、その 翌日よくじつ おやれり。婦人ふじんやしなひ、ふるにいたりて、雜物ぞうぶつしよくせしめ、成長せいちやうのち材木ざいもくにてしめころしたるを、さらにこもにのせ、酒肉しゆにくそなまつりてのちにくくらふ。

※ 「かうじ」は、こうじのことと思われます。
※ 「古手ふるて」は、古くなって不用になった着物、道具などのこと。古着、古道具。
※ 「海狗かいく」は、おっとせいの異名。

蝦夷の産は 海狗 膃肭 熊 同膽
鹿の皮 鱈 鮭 昆布 蚫 鱒 ニシン 數の子等なり

膃肭獣おつとつじうを ヲツトセイ といふは あやまり なり。けものの名は、ヲツトツ なり。あるしよ膃肭臍おつとせいとかきしは、外腎ぐわいじんことにして、睾丸きんたまなり。薬用やくようこれようとして、にくろんはすくなし。ゆねに、陰茎たけりといひて、貨賣くわばいするものこの 外腎ぐわいじん間違まちがひなるべし。津軽つがる南部なんぶよりも いでて、真偽しんぎ  はなはだ  まぎらはし。これ種類しゆるい あるゆへなり。海獺かいたつ海狗かいく、一めうとはすれども、これ 種類しゆるい惣名そうめうなるべし。その海狗かいびよう葦鹿あじか同種どうしゆなるべし。

※ 「海獺かいたつ」は、アシカ(葦鹿)の異名。海獺(うみうそ、うみおそ)。
※ 「葦鹿あじか」は、アシカ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

海獺かいたつは、うみの カハヲソ にて、 まつた形状ぎやうぜう 膃肭おつとつあいたり。これわかつには、まへじうふるものしん膃肭おつとつとす。また一説いつせつには、二じう上歯うはば ばかりなりともいへり。また頭上ずじやうしほもふく一穴いつけつり。にかくれて見えがたし。にくにても、ひやくヒロにても、寒水かんすいうちとうじて、そのみづ 温暖うんだんにして こほらざるものしん膃肭おつとつるべし。

※ 「ひやくヒロ」は、百尋ひゃくひろ。きわめて長いことから、腸、はらわたのこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

陰茎たけりといふにも、偽物ぎぶつ ありて、ひやくヒロをもつつくるといへり。ゆへに、なし。なづけて、ひやくヒロ タケリといふ

しんなるものは、三寸 ばかり赤色あかいろにして、もとあり。全身ぜんしん 灰黒うすくろ水獺かはおそにおなじくして、すこながし。かほねこて、ちいさしくち吻鬚ひげ はなはだ おほきし あぎとつぎ左右さゆうあしあり大鰭おほひれのごとし。うしろあしは、尾前をのまへありて、ともにながさ一尺 ばかりその とがりに 五ツのつめあり。ほそし。海底かいていもつふかき ところすむまたは、海邊かいへん 石上せきじやう鼾腄ひすい(いびき)す。あるひは、ぐんをなしてながらながる。そのうち一疋いつひき ねむらずして うかゞひ、もし ふね きたれば、たちまこへをあげて、ねむりをさまさせ、水中すいちうかくるみづときは、半身はんしん水上すいじやういだして、およぎ、なみること もつとも さかんなり。海獺もすべて、右にいふがごとく、今膃肭といひて来る物多くは、海獺かいたつにて、その しんがたし。南部なんぶ一粒いちりう金丹きんたんも、これをゑらふを 第一だいいちとはきこへたり。本草ほんざう集解しうかいに、東海とうかい水中すいちういづるとしるせしは、これ 中華ちうくわまれにして、すなはち 日本につぽんより わたすとはえたり。

蝦夷えぞには、たいを 子ツフ、ちうを チヨキ、せうを ウネウといふこれしん膃肭おつとつなり。ひれを テツヒ といゝ一疋いつひき一羽いちわいふ津軽つがるにて、此 テツヒ をりて、サカナとす。そのなかだいなるを、トといへり。いま女児じよじことばうををさして  トゝ といふは、もしや、これより いひきたりぬるもしるべからず。中華ちうくわにも このことあり。

※ 「水獺かはおそ」は、かわうそのこと。
※ 「あぎと」は、あごのこと。あぎとあぎと

また夫木集ふぼくしう ざつ十八ゆめだいに、建長けんちやう八年 百首ひやくしゆ  歌合うたあわせ  衣笠きぬがさ 内大臣ないだいじん


 わがこひ海驢とどながれ さめやらぬ
  ゆめなりながら たへやはてなん

みたるは、海馬かいば種類しゆるいにて べつなり。また海驢かいろ文字もじ日本記にほんき神代じんだいまき 龍宮りうぐうしやうミチ海驢かわともよめり。


捕猟ほれう

蝦夷えぞひとこれとらふに、なわにてからみたるふねりて、かの ながれのむれれば、きつねもつてふりて、かの起番おきばん一羽いちはすれば、おほきおそれて こへてず。るをちて、たるところゆみあるひは、ヤス などにてること、その 手練しゆれんおよところにあらず。ふねは、すべてさほさすことなし。前後ぜんごぐなり。

あるひは いふ膃肭臍おつとせいといへば、ほぞなるべし。しかるに、外腎ぐわいじん 也 とするは、如何いかんあるしよに、かの ほぞゑんほつして、松前まつまへ南部なんぶひともとむれども、兎角とかくして がたし。このころ土人どじんいふけば、ほぞ陰茎いんきやうはなはだちかし。ゆへに陰茎いんきやうときかならず  ほぞそんじて●つたくなし。あるひといふなり。その 雌は、かならず  ほぞあらんか。



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