ベトナムで扁桃腺切除手術をした話(前編)

海外で手術、ましてや発展途上国にて全身麻酔を行った上で体の内部を触らせる経験をした日本人の割合は少ないと見ている。
この投稿は、僕の経験を語った上で海外で手術するのはリスクだよというのをわかってもらうために書いたものだ。

僕は元々体があまり強い方ではなかったが、2017年のベトナム移住をきっかけに、環境の変化からか毎月のように喉が痛い、腹が痛い、怪我をする、事故に遭うなど、様々な理由で病院に通うようになった。
少なくとも2ヶ月に1度は病院に行っていた。
今思えば、そんな病院に慣れていた、というか慣れたつもりでいたことが災いしたのかもしれない。

きっかけはふとしたことだった。
ベトナムに移住してから約1年が経過した2018年10月、うっかりオフィスの壁に掲示してある自社のロゴに軽く頭をぶつけて出血をした。
自分では見えない位置で、どれだけの深さの傷か分からないため、消毒と手当てをしてもらおうと病院で診察と処置を受けたところ、「頭部の怪我だから念のためCTスキャンをしましょう」となった。
結果は、もちろん頭部には異常なし。
ただ、その後に続く言葉は予想外だった。
「副鼻腔炎ですね」
頭部の検査をして何故か副鼻腔炎が発覚する。
よくわからないが、見つかってしまったものは仕方ない。
改めて耳鼻科の予約をして翌週に検査をすることになった。
翌週に耳鼻科を訪れて、内視鏡で隅々まで見ていく。
なぜか通訳とドクターが不思議がってモニターを指さしている。
結果を聞くと、
「副鼻腔炎ではありません」
なんやねん。じゃあ断定するような言い方しないでよ。と先週診察されたドクターにイラッとしていると、
「ただ・・・」とドクターが話を続け、通訳はこう言った。
「喉がおかしいです」

「喉がおかしいとはなんだ」と詳しい説明を求めると、逆に質問をされた。
今までたくさん酒を飲みましたか? - Yes
酔っ払って嘔吐する機会が多かったですか? - Yes
あなたはシンガーですか? - Noだが、毎日のようにカラオケに行っていた
それらが原因で扁桃腺が肥大しているそうだ。
通訳が続ける
「これだけ肥大していると、手術した方がいいそうです」
え?
手術?
そんな大事(おおごと)なの?
予想外の単語にびっくりしつつ、ドクターの説明を通訳が追う。
「喉の扁桃腺を切除し、腫れて痛くなる部分がなくなれば、今までのような喉の痛みを毎月のように感じることはなくなります。全身麻酔をしますが、これはとても簡単な手術なので、そんなに心配しなくて大丈夫です。1時間もかからずに終わって、入院も1日でOKです。」
説明をすべて聞き終えたあと、ドクターが男前だったことで説得力があるように感じた僕はこう言っていた。
「なんかよくわからないけど簡単ならOKです。手術お願いします。」
すると通訳が焦りだし、
「一応日本でセカンドオピニオンをもらってください」
と言う。
「なんだよ面倒だな」と思いながらも、ちょうど翌週に日本出張があったため、そのタイミングで行くことにした。
日本に帰国後、都内の大きめの耳鼻科に診察を受けに行った。
そこの医者に「ベトナムでこういう診察をされ、手術をすることになったんですが、妥当ですか?」と聞くと、
「概ね妥当だね。術式がどういうものを選択されるかは日本とベトナムで違うかもしれないけど、いずれにせよ難しい手術じゃないから、失敗して後遺症が残るとか、何日も痛みが取れないことはないと思うよ。」
とのこと。
やっと大手を振ってベトナムで手術ができるということで、病院に連絡を入れて手術の予約をした。

日本出張を終え、ベトナムに到着した翌日に手術予定の病院で手術1週間前の最終検査を行った。
「ここからはタバコもお酒も控えてください。最悪5日前には止めてください。」
と言われたので、控えるようにした。
このときまでは全く余裕の気持ちだった。

そして手術前日。
入院してしまうと、ほとんど仕事もできなくなるだろうということで、年末に合わせてスケジューリングし、僕が休む間の仕事の流れはアシスタントにきっちりと説明を終えていた。
ついに明日、人生で初めて全身麻酔、手術の経験をすることに少し興奮していると、通訳から電話があった。
「手術する予定だった病院で、やりたい手術のライセンスがないため、できなくなりました。今、別の病院を探しています。」

ライセンスがない?
どういうことか確認すると、医者には、どうやら行う手術によって認定のようなものをもらう必要があり、僕を執刀する予定だったドクターはそれを持っていると思ったら持っていなかったことが前日にわかったそうだ。
そんなこともっと前にわかっとけよという気持ちを抑えつつ、「手術できそうな病院が見つかったら連絡ください」と手短に通訳へ伝えて電話を切った。
他の病院を探すなんて、そんなすぐにできるはずがない。
せっかくスケジュールをここしかないというところでセッティングしたのにと、少しイライラしていると、1時間後に再び電話が鳴った。
「明日、手術できるところがありました。」

そんな馬鹿な。
今日の明日でいきなり手術する病院があることに不安がっていることを察したのか、
「とても大きくて日本人もたくさん受診しているので、安心できる病院です。」
と通訳は続けた。
そう言われたら特に断る理由もないので、「OK。では明日そこに行きます。」と答えて電話を切った。
日本では考えられないスピード感ある対応に感心していた。

翌日、念のため手術する部位はどこか、内視鏡で検査を行い、改めて扁桃腺肥大を起こしているからそれを切除する手術だと説明を受けた。
最初に手術を行う予定だった病院のドクターとほぼ同じ内容を話していたため、半分ほど聞き流していた。
「残念ながら病室が空いていないため、今日ではなく明日手術をして入院してください。」
と話されたのだけ確認して、あとは全身麻酔へのアレルギーがないかなどを検査して帰宅した。
その翌日、早朝6時に病院に到着すると、水や歯ブラシ、着替えなどのアメニティを渡され、とりあえず手術の時間である12時まで寝ててくださいと促された。
ベッドで横になっていると、自然と寝に入っていて、目が覚めると時計は11時半を指していた。
エアコンでカラカラになった喉に水を通して、そろそろ手術の時間か・・・と少し緊張してきた。
ナースがちょうど病室に入ってくると、手術用の服に着替えるよう言われた。
下半身は何も着用せず、上半身のみ割烹着のようなものを身に着けると、少し油断するとめくれて股間が見えてしまいそうな着丈。
「これ合ってる?」と聞くと、
「合ってます。」と。
よくこれでみんな文句言わないな。
恥ずかしくないんか。
無事に?それを着て、股間が見えないように細心の注意を払いながら手術室に向かうストレッチャーに乗り込む。
ガラガラと手術室に運ばれながら、体調はどうか、不安なことはないかなど、いくつかの質問をされた中で、水を飲んだか確認された。
「さっき飲んだよ!バッチリ!」
と自信満々に返答すると、ナースたちがざわざわし始めた。
リーダーらしきナースにどうしたか聞くと、
「手術は延期です。」
「なんで?」
「あなたが水を飲んだからです。手術の2時間前から水を飲んではいけません。」
怒り気味に言い放たれた。
そんな説明を聞き流していたらしい。
無駄にストレッチャーで手術室と往復をして、申し訳ない顔で2時間を病室で過ごすことになるのだった。

後半へ続く


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