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安藤政信「20代の頃は許容範囲が狭かった」 家族ができて変化した仕事への向き合い方

映画、テレビドラマ、配信ドラマと、メディアフォーマットを横断して存在感を発揮し続ける俳優・安藤政信。北野武監督の『キッズ・リターン』(1996年)で鮮烈なスクリーンデビューを飾って以降、『バトル・ロワイアル』『69 sixty nine』『スマグラー -おまえの未来を運べ-』など、多種多様な映画に出演していたが、ドラマにコンスタントに出演するようになったのは、ここ数年のことだ。
 
安藤は、そうした若い頃のこだわりを「まあ、許容範囲がすごく狭かったんですよ」と苦笑いしながら振り返る。すでに25年を超えるキャリアで変遷してきた「役者業への取り組み方」とともに、もう一つの側面「写真家」についての熱い思いを掘り下げた。

■昔は“定住しない生き方”がカッコいいと思っていた

――2、30代の頃の安藤さんは、一年に1〜2本の映画出演のみでサイクルを回していましたよね。それはなぜだったんですか?
 
「当時はボヘミアン的な生き方に憧れていたのか、一度ギュッと仕事をしたら、流浪のように過ごすというのが、自分の中でカッコいいと思っていたんですよね。そのスタイルを続けようと思えば続けられたとも思うんですが、家族ができたことでマインドも一気に変わっていって」
 
――2017 年に、20 年ぶりの連ドラ出演がありましたよね(フジテレビ系『コード・ブルー』)。そのあたりですか?
 
「本当それぐらいですね。やっぱり、誰かを養うぐらいのお金を稼ぐには、これまでやってこなかったことをやらないといけないから。それこそ独身のときは、最低限の生活というか、貯金なんて全然してこなかったし。一本の映画に出て『あ、これで生活費できた』みたいな(笑)」
 
――裏を返せば、それほど安藤さんの中で作品選びを重要視していたのかなと。
 
「『キッズ・リターン』のあとはコンスタントに出ていましたけど、段々と日本映画界のルーティンがわかってきて、自分の中で“飽き”が来てしまったっていうのはありますね。そこからもっと海外に目を向けようと、中国、台湾の作品に挑戦したし。いまNetflixのような配信プラットフォームがあるのは、ひとりの映画人として、すごく良い環境ですよね。世界の三大映画祭に参加できるチャンスが増えるわけですから」

■映画『千夜、一夜』撮影前日に“とあるハプニング”

――実際に、連ドラ現場など、映画以外の現場に出演するようになって、気づいたことってありますか。
 
「やっぱりスポンサーが何社もついた上で、みんなが見る21時台とかに放送するわけだから、できる表現、できない表現っていうのがあるんです。その理解を深めるために、監督とはよく話し合っていますね。20代のころだったら理解しようとも思わなかったかも(笑)。用意されたセリフの中で、どういう風に自分を見せるか考える作業は新鮮です」
 
――現場では年下の制作の人も増えたんじゃないですか?
 
「自分が出ている映画を見てこの仕事はじめましたっていう人もいましたね。そういう話を聞いちゃうと、なんとかしようという気持ちになりますよ。『僕で良ければ最大限頑張ります』って。ただ物事は正直に伝えるんで、心が動かない作品だったらそのまま言いますけど(笑)」
 
――そんなやり取りをすることもあるんですね。
 
「気持ちが乗る、乗らないときはあるんで、そのあたりはまだプロじゃないのかなと思うけど……そういえば、いま劇場公開している『千夜、一夜』の撮影で、何回も新潟の佐渡島に通っていたんですよ。主演の田中裕子さんが本当に素晴らしい芝居をしていて、最後のシーンを撮るときかな。新幹線の乗り継ぎを間違っちゃって、島までは一日2便しかないもんだから、計7時間も遅刻しちゃって。すごく大切なシーンだったのと、これまでの撮影がすごくうまくいっていただけにすごく気まずくて…でも撮影はすごくうまくいって。遅れて迷惑をかけてしまった田中さんからも、その後お寿司をご馳走になって。まあ何の話だって感じですけど、心動かされる作品に出ると、すべてうまくいくっていうことですね(笑)」

■「食っていけるならカメラマン一本でもいい」

――俳優業とは別に、「カメラマン」としての安藤さんのこともお聞きしたくてですね。
 
「それは本当にちょっと聞いてもらいたいですね。もうそれで食えていけるなら一本でもいいっていうぐらい打ち込んでいます」
 
――いつぐらいからはじめられたんですか?
 
「『キッズ・リターン』の取材を受けたとき、荒木経惟さんとか、篠山紀信さんに撮ってもらって、それで興味が出てきた感じですね。そこからはもう、ずっと撮っている気がします。(北野)武さんの楽屋に遊びに行って撮影したり、知り合いの女優さんとか、友人のラッパーのライブカットだったりとか、最近は人物が多いかな」
 
――今年は女優の森川葵さんを撮影した個展もやられてましたね。
 
「そうそう。いまは香港とか韓国とか、海外でもいつか個展ができたらと考えていますよ。もうはじめて20年以上になるけど、いまだに飽きずに撮影しているってことは、本当に取り憑かれているんでしょうね。映画監督もこの間やったんだけど、演じるときよりも集中力があったかもしれない(笑)」
 
――また役者とは違った海外との関わり方ができるのは、安藤さん自身も願ったり叶ったりのような気がします。
 
「そのためにも、クリエイティブは磨いておかないといけないですよね。日本って、まだまだ素敵な女優さんとか、素晴らしい景色がいっぱいあるわけで、それをちゃんと作品に昇華して海外に紹介していきたい。問題としては、それをどうやってお金にするかっていうことですかね。仕組みを整えて、関わってくれる人が涙を飲むようなことはないようにしたい」
 
――今後、俳優、カメラ、監督のバランスはどうしていこうと考えていますか。
 
「3つとも同じぐらいのバランスでできたらいいなとは思っています。たまに『いろんなことやっていて器用ですよね』とか言われるんですけど、一貫して表現の世界だからあまり分けている感覚はないですね。これでステーキ屋とかやり始めたら、『俺、器用だな』って思うけど(笑)」

【リーズンルッカ’s EYE】安藤政信を深く知るためのQ&A

Q. 「友人のラッパーを撮影している」っていうのが新鮮だったのですが、具体的にどういう方たちとの交流があるんですか?


「BAD HOP、JJJ、Jin Doggとは仲良くしていますよ。ライブって、一期一会のアートみたいなもので、その時にしか生まれない美しさがあるんです。特に彼らは、ライブを見ているとグッと胸を掴まれるものがあるから、撮影もやりがいがあるんですよね」

Q.安藤さんの中で、今ハマっていることはありますか?

「本当、さっき話した3つのこと(役者、カメラ、映画撮影)しか興味がないんですよね。この年齢になって車を1度も所有したことがないし、趣味も全然ない。昨日もカメラ関係のことで打ち合わせしていたんですけど、ライティングのこととか考えているほうがずっと楽しいですね」

<編集後記>

「40(歳)にして惑わず」という古い言葉があるが、安藤さんを見ていると、20代の頃から“不惑”は続いていたんじゃないかと思う。自分の感性の軸からブレることを良しとせず、それが軋轢を生んだこともあるかと思うが、今の引く手あまたな立ち位置にいるということは、貫いてきたことが間違っていなかった証でもある。筆者も不惑の年齢が近づいているが、「バカ野郎、まだ始まっちゃいねーよ」と、『キッズ・リターン』の“超名ゼリフ”を胸に、ブレずに突き進んでいきたい。

<マネージャー談>

すべてのこと、人に対して、まっすぐな人。
クリエイティブのことをいつも考えていて、気になることはとことん突き詰める。
本当にすべての部分が素敵で、それでいて少し不思議で。尊敬しています。
あと、ラインの返信がすごく早いです。(笑)
 

【プロフィール】
安藤政信(あんどう まさのぶ)
1975年神奈川県川崎市出身。1996年、北野武監督の映画『キッズ・リターン』で主演を務めデビューし、多数の映画賞を受賞。その後も俳優として活躍する一方、近年は雑誌・広告で写真家としても活動。現在出演映画『千夜、一夜』『蛇のごとく 鳩のごとく 斜陽』が公開中

<衣装クレジット>
ジャケット¥61,600〈saby〉シューズ¥39,600〈YOAK/ともにHEMT PR ☎︎03-6271-0882〉、セーター¥42,900〈HERILL/にしのや ☎︎03-6434-0983〉、パンツ¥50,600〈VALAADO/サカス ピーアール ☎︎03-6447-2762〉
 
写真/玉村敬太
取材・文/東田俊介
ヘアメイク/naoko matsuoka
スタイリスト/ Nobuyuki Ida

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