見出し画像

変革に必要なのは「危機意識」ではない

企業変革の代表的なフレームワークである「コッターの8段階のプロセス」のうち、初手である「危機意識を高める」という部分の真意が、自分の理解とはちょっと違ったということを知って「えっ」と衝撃を受けつつ、腹落ちした、という話。

「コッターの8段階のプロセス」とは、企業の変革を成功させるために重要な8つのステップのこと。

画像1

出所:GLOBIS 知見録

■「Sense of Urgency」は危機感のことではない

この中の「1.危機意識を高める」について、こちらの書籍の中で触れられていた

危機感は真の変革のトリガーになりえない。この通説の誤解を払拭することが、変革を仕掛ける際の最大のポイントとなる。~中略~
危機の動力は恐れ(fear)である。しかし恐れが遠のくと、危機感は跡形もなく消えてしまう。危機を変革のテコにするのは、極めて稚拙な経営手法である。
コッター教授は確かにSense of Urgencyが変革に不可欠と説く。しかしよく読めば、それは危機感のことではないとも語っている。むしろ、危機感を煽ると組織は硬直化するため逆効果とも説いている。

「え、そうなの?」と驚きつつ、納得はいった。
なぜなら、大学院の授業でこのフレームワークを学んだ時には「なるほど」と思ったものの、実務で企業の人材開発プログラムを設計していると「なんか、使いづらいな」と感じていたからだ。簡単に言うと、単純に危機感を煽るだけでは、人は前に進めない。ビジョンや戦略とは言わないまでも、大きな方向性がセットで提示されないと、どうすればいいかわからない。そればかりか、いたずらに現状を否定するような働きかけをされるとストレスを感じるし、反感も覚える。「恐れ」というネガティブな感情に働きかけるアプローチだから運用が難しいな、と思っていた。

他方で、今の時代に目を向ければ、間もなく今の「コロナウィルス大狂騒曲」が次の局面に移って、あらゆる産業の多くの企業が大変革に取り組むことになる。
Beforeコロナと異なるのは、そこに強迫的な「危機感」が伴う点だ。それは企業変革のプロセスが(強制的に)進む、という点ではポジティブだが、その原動力が現状を否定する「恐れ」だとすれば、かなり気が重い。そして、そんな感情に支配される変革はきっとあまり良いものを生み出さない。

■初手で欲しいのは「切迫感」と「期待感」

企業経営ではないけれど、自分にはそんなことを体感した経験がある。
数年前まで社会人のサッカーチームの監督をやっていた。アマチュアながらそれなりに競争的なリーグで、降格しそうなこともままあった。自分としては厳しい見通しは予め持っていたので、開幕前からあれこれ伝えたり、施したりする。でも、どうも上手くいかない。選手たちに響いている感じがしない。選手たちに本格的にエンジンがかかってくるのは負けが込んで降格の懸念も出てくるリーグ中盤で、危機感が共有されてから。そうなると、ようやく活性化して、規律めいたものも生まれてくる。つまり一種の「変革」が起きる。一方で、チーム全体の余裕は無いので、コミュニケーションはきつくなる。そして、展開するサッカーは、非常に「堅い」サッカーになる。
結果、最終的には残留はするのだけれど、変なもので、それで一息つくと次のシーズンにはまた頭がリセットされている。これを何度か繰り返した。

一方で、こんなこともあった。
リーグの中でも選手層がダントツに厚く、優勝・昇格の筆頭候補と言われるチームと対戦することになった。相変わらず我々は勝ったり負けたりで下位に沈んでいたが、そのチームと戦うのをみんな楽しみにしていた。それに加えて、運営としてはその試合をJリーグでも使用するスタジアムのメインピッチで行えるように調整していた。アマチュアリーグでそんなスタジアムでできることはなかなか無いし、少ないながら観客も入る。選手にとってもハリになれば、という思いで演出した「ビッグマッチ」だったが、結果として、シーズン通してベストの内容で勝利した。望外の結果だった。
あの日、自分は最低限のこと以外、何もしなかった。あとは選手が自分たちで考えて、動いて、見違えるようなパフォーマンスを発揮して、勝った。
その時、チャレンジしたいと思える課題があって、それにふさわしい場、ワクワクするビジョンが描ければ、人はかくもすごい力を発揮し、組織は強くなるものなのかと強く感じさせられた。
再度書籍から引用する。

(Sense of Urgencyの)日本語訳は危機感となっているが、これは明らかに誤訳である。正確には、緊急意識。人気予備校教師の林修氏流に言えば「今でしょ!」である。
コッター教授自身、Sense of Urgencyを以下のように解説している
大胆、かつワクワクするような機会に向けて変革することの必要性を理解させ、今すぐ行動することの重要性を訴求すること
脅威ではなく機会。それも大胆で「ワクワクするような」機会。

大事なのはワクワク。つまり、変革を始めるためには、まず「今、変わらなければならない」という切迫感と同時に、「これはなりたい自分になれるチャンスだ!」という期待感も併せてもつ必要がある。
言ってみればこれも「危機意識」だろうが、随分質感が違う。コッター先生が言わんとしていたことはこうだったか。これなら前に進めそうな気がする。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?