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あげつらひ花心を以てしょたうせよ 芥川龍之介の俳句をどう読むか114

論して白牡丹を以て貢せよ

 この句も全地球人が無視している。

これらによりて支那は牡丹を以て國花とせること知るべし、されど井上哲次郞氏は次の如くいへり。支那に就いて之を考ふるに、古來、果して民族的の花ありや否や、固より疑はし。
然らば、牡丹を以て支那における民族的の花とすべきか。否々、牡丹は、假令百花の王と稱せらるとも、未だ支那に於ける民族的の花と稱するに足らざるなり。其の理由二あり。


女子国文読本備考 巻1 金港堂編輯部 編金港堂書籍 1926年

 しかしまずどう読んでいいのか見当もつかない。牡丹で貢というのは、

明皇時民間貢牡丹未及賞為鹿去

花史左編27卷 [3] 明王路撰 

 こんな文字列としては確認できるが意味はさっぱり分からない。

ろん‐ぱく【論白】 論じ言うこと。

広辞苑

 こんな意味がかかっているのかどうかも判断できない。


芸術資料 第三期 第二册 金井紫雲 編芸艸堂 1938年

 黒牡丹は牛である。これが

論して黒牡丹を以て貢せよ

 だったら、「相談してビステキでもごちそうしてくれ」というような句だと考えられなくもない。しかし白牡丹(はくぼたん)とは、


東京銀座商店建築写真集 : 評入 吉田工務所 編吉田工務所出版部 1929年

 松田白牡丹は袋物、小間物、化粧品を扱う店のようだ。どうも女性向で、すんなりはまらない。

 大正七年八月二十九日、恒藤恭あての書簡に添えられた句なので、「松田白牡丹」は違うとしても、本物の「白牡丹」でもなんだかそぐわない感じがしてしまう。広島の酒を松江出身の恒藤恭にねだるわけもなし、


発句類題全集 1-65 [28]


発句類題全集 1-65 [28]


発句類題全集 1-65 [28]

 白牡丹を詠んだ句は数多あるがいずれも富貴でゆかしい美しい花として白牡丹という植物を読み込んでおり、何か含みを持って詠まれているものは見当たらない。


芸術資料 第一期 第二冊


芸術資料 第一期 第二冊


芸術資料 第一期 第二冊

 ここはどうも釈然としないが、白牡丹に別の意味が見いだせない以上そのまま、そのまま、「白牡丹で貢してくれ」と解するよりない。不本意ながら。


M Kodak Gray Scale〓Kodak, 2007 TM: Kodak A 1 2 3 4 5 6 M 8 9 10 11 12 13 14 15 B 17 18 19 inches cm 2 3 4 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Kodak Color Control Patches Blue Cyan Green Yellow Red 3 4 10 5 6 15 7 8 11 12 13 14 16 17 18 19〓Kodak, 2007 TM: Kodak 3/Color Black Magenta White 555 SOTSTOTOR1200

9s-d2-I新潟県名古屋
着たそうに鹿のくはへるもみぢかな幀津田靑裝の ノ楓荷花
逸眞床のくえ倍ねう神(久保田秋雨氏藏)紀着たそうに鹿のくはへるもみぢかな蹟津田靑楓
魯祇短短卯木々の葉は戶に流たり初あらし册册4印の種よる啼や谷の花の花に鶯啼や谷の庵)太(武藤一郞氏藏)同祇魯大喜を〓大
川西和露氏
大魯誅(二柳筆)大害誄南行性の人せそら馬かっここはなせいかとしこうそのちカ/退きサラダとなるというの茲しお物大秀れキらカうん刀ななちらよなっくわ力をふゝ〓1くっさり店ものルクサミち1〓帰まよしゆつちやね〓〓カ何カとせやくここれを養やしと告する争よわーと笑でようにくておことそれよりろせつゆめよう}しみさしふゐみ圖用何〓いいと北起しいようんやろうにちなんふたして1つれの〓ふ〓しわ安ものは成あ二柳く(川西和露氏藏)
大江る影の地
江更短短ほとゝぎす聲ある影の地をはしる江丸(久保田秋雨氏藏)更大丸册册あがらしのあととのはもなかりけり大同闌
解題555-7蘇明山莊發句藻天明四年板中本-册犬公方綱吉の嬖臣として其の榮達を爪はぢきされた柳澤吉保の孫であるため、松平美濃守信鴻として政治的に才幹を現はし得なかつたが、江戶座の俳人月村所米翁としては平民的に寛濶な天分を以て風流に名を得てゐた。安永二年大和郡山の所領十五万一千石を嫡子甲斐守保光にゆづり、江戶下駒込の染井別莊に隱居後は殊に自由な生活に入つたので、そのころの俳書に米翁の落款ある序跋を屢〓見るように、大名なるが故の阿諛でも追從でもなく、沽德座の紫子春來を入門の師としたので生粹の江戶座育ちであり、大名なるが故の阿諛でも追從でもなく、職業的俳人の間に畏敬されて天明時代の一家をなして居た。同門の八樂庵米仲を後の師に招いて、米翁の表德も彼にあやかつて附けたらしいが、その後湖十座の洪珠來が常に出入して俳事に就いての祐筆の格で專らその用を辨じてゐた。この『蘇明山莊發句藻』は米翁が退隱十年の吟詠を「みづから彩毫をふるひ玉ひて、かれこれあつめさせ玉ひ」さて後、珠來をして適宜その中から選抄させた米翁の家集で解ある。その句作の着眼は自然の觀照よりは、人事現象の滑稽化にあるので、用語の俗に落るを嫌はず都會風俗の情調これは江戶座の通人趣味から生れたので、米翁その人の個人色もおのづからそこにあり、一面には江戶文學の門に入るにはこれ位の酒落を寛容する餘裕がなければな用語の俗に落るを嫌はず都會風俗の情調を本位としてゐる。句その者がその個人色によつて彩られてもゐる。題らぬ。かの抱一上人は米翁の感化によつて、『輕擧觀句藻』の題名を本集の句藻の二字から思ひ附いたのである。米翁
二父と同じく俳諧の愛好者の意を汲んで本集を板に起した珠成は、であつた。六角家の養子になつた第五子の信濃守里之である。系大書俳本日哲阿彌句藻寛政十年板大本二册黃表紙には喜三二、狂歌には手柄岡持で知らるゝ同じ秋田藩の月成は、哲阿彌が談林·正風の孰れにも依怙の心を持たずして、自ヲ高ニー株林→とする心境に同じで、その談林なり正風なりの一方から一方を笑ふ世俗の者は、「共に句藻くらへと云てやまんにはしかじ」と喝破してゐる。盖し「句藻くらへ」は汚い酒落だが「屎くらへ」に外ならぬ。かうして痛快がる通人の酒落氣分を頭に入れて讀めば『哲阿彌句藻』の一句〓〓が飛躍して來るが、その酒落を殺して句の境地だけを發見しようとすると、悉く謎のようなものになつてしまふ。月成の序文にもあるが哲阿彌は、朝四の號をやめて、三年その三年のうち桃栗と號して、三年過ぎると、もとの朝四に戾つたといふ桃栗三年の諺を酒落の材料にするため、正直に三年を限つて桃栗の號を用ひたような莫迦〓〓しさが、どこまでも酒落本位に人生を見る心事を强調してゐる。哲阿彌は佐藤氏、月成と同藩の秋田角舘の人で、佐竹家の江戶定府であつた。書〓や篆刻の技に通じて、俳諧は堪露とよび早く江戶座に入つたが、「後時〓庵が門に入つて北齋と云」とあるので、淡々系統の渭北に就いた事も疑ひない。「浪速の宗因が俳風を慕ひ」一に〓談林と號したのは、春來の『東風流』に刺戟されたので、いくつも號を持つてゐたが哲阿彌晩得を晩年まで用ひた。『哲阿彌句藻』は生前稿を脫して天明三年の月成の序文を添へ、その家に藏されたものを歿後七囘忌に抱一上人の跋を附して出板したのである。帝國圖書館の藏本は銀箔の雲母表紙の美本であるが、飛丁になつてゐるので、或は一枚挿み洩れがあるのでないかと疑はれたので、和露文庫の別本を借覽すると果して一枚の落丁を發見して、旣に校了となつたものを再び組直して、手落ちなき事を得たのである。瓢簞集明和六年板大本一册枕もとには門人の賈友が附添つてゐる。武然は炉に寄つて藥を煎じてゐた。病床の宋屋は指で蒲團に何か書いて見せる。賈友が鼻帋に筆を持添へさせると「西へ行ひがんざくらや道のつれ」と辭世を書いたが、紙も筆も疎末に過ぎるので、再びよき紙とよき筆をすゝめると起坐して、「西へ行ひがん櫻や······」と同じように書いて、あとは暫らく眠る風であつたが、やがて「······道案内」と墨をつぎ、「道のつれより此方然るべきにや」と言葉も爽やかに語つてその日、明和三年三月十二日故人となつたのである。武然の『香世界』にある此の終焉の模樣で見て、宋屋平常の純な氣持、態度が思ひ合される。蕪村と同じく巴人門から出たが、嘯山の題せる「身世一瓢、豈ニ住シシ哀哀樂一」の酒々落々たる人間で、行脚生活のうちに一生を過した。俳諧は師巴人と同じ道を履んで一歩もわき道に入らないので、自由に行く道を求めた蕪村とは同門ながら全然行き方を異にしてゐた。個人としての二人は生涯隔意のない友情を以て接近したので、その門人も互ひに提携して一方の功を嫉み、そねみ、傷つける事をしなかつた。これは宋屋の「貪ツテ財ヲ無貯フル〓、好レテ」ヲヲ不〓着セ」と嘯山の評せる恬淡な人格の現はれで、蕪村も亦年長の先輩なるが爲に數步を讓つてゐた故でもあつた。宋屋は別に百葉泉、富鈴房、机墨庵、と號したが、巴人の別號宋阿の一字を取つて通號となしたので本姓は望月氏である。『瓢簞集』は門人嘯山·賈友が編者となつて殁後四年にその初編として板行したので、雅因の序は「叟は句達者にして數萬の什あなれば、相續ひて二篇·三篇の出なん事また樂しからずや」とあるが、續刊に至らなかつたようである。遠藤氏舊藏本によつて原稿をつくり、それとは別の和露文庫藏本を以て校合したのである。三解題
系大書俳本日太祇句選明和九年板中本一册玉菊燈籠の趣向を嶋原の廓へ廣めて年中行事とさせたのも太祇なら、江戶座の人情味、氣分を京坂の人に傳へたのも太祇だつたのである。されば言葉を大きくして太祇は江戶情調の上方移入者であるといつても好い。つね〓〓廓の者や芝居道の人と往來して、華かに賑かな生活をしたらしいが、知己の望みでその子弟のため手習の先生ともなつて、いろ〓〓變化のある境遇に自分を置いたので、太祇の句には太祇その人の生活とも、又、世相の反映とも見らるゝものがあつて簡單に評されない。江戶の人で炭氏、水語といひ、紀逸の門に入つて太祇と號し、京の嶋原に不夜庵を結び、晩年發心して眞珠庵に法名道源で行ひ澄ましてゐた。俳諧道に精進して一七日の禁足に三味境に徹した事は、呑獅が居風呂を沸かし、それを男どもにさし擔はせて、奇拔な贈り物をしたので、「頭巾脫でいたゞくやこのぬくひもの」と詠んだ句の前書で知られる。居常「日課の句を怠らず」に吟じて、會があれば「一の題に十餘章をならべて」達吟を示し、趣向の取り方に苦心して「上に置、下になし、あるは中にもつゞりて、一句を五句にも七句にもなし」その意に適するまで倦怠の色のなかつたのを、嘯山は序文中に感嘆してゐる。蕪村も太祇の句稿を見て、「あなおびたゞし、人のイめる肩ばかりにくらべおぼゆ」と驚異した程の多作者であつた。呑獅から遺稿の選を托された嘯山·雅因は夥しい句に眩惑して、「たゞ四時のはじめごとに出せる五六帋がほどをゑらみ取つて初稿と題し」それを取敢ず出板して置けばよいでないかとの蕪村の勸告に從つて、殁後この『太祇句選』が板行されたのである。家藏本は茶表紙の初刷本であるが、嘯山の太祇像賛を除いた異本もある。多分後編出板の時に再刷したものであらうが本文に相違はない。太祇句選後編石の月安永六年板同二年板中本一册月二板同一册不夜庵二世は太祇の遺弟五雲が相續して、亡師の光囘忌に『太祇句選』に洩れた四季發句三十六句を錄して追善集『石の月』を出した。それ位の句を拾つたのでは、夥しい句稿に對して甚だ呆氣ないので、七囘忌に五雲は復『太祇句選後編』を選抄したのである。出板の順序からは『石の月』の方が四年前になるのだが、『句選』から『後編』への連絡を考へて、『石の月』を後廻しにした事を誤解のないよう斷つて置く。五雲は江戶の人、太祇を慕つて京に上り、その筑紫紀行に隨つて師弟の關係が淺くないので、呑獅のはからひで不夜庵をつぎ太祇の舊庵に入つて、寛政元年『ふた夜の月』を京への名殘に撰集して江戶へ歸るまで住つてゐた。後援者の呑獅は豪奢で聞えた茨木屋幸〓の孫で嶋原の廓中でも見世構の大きい桔梗屋の主人であつた。太祇のためには身後の世話までしてやつたので、『石の月』に其の亭に藏する太祇の短冊をかゝげて脇起しを行ひ、その席には蕪村や几董も列席して歌仙滿尾したものを載せてある。『太祇句選後編』も亦呑獅の援助で出來たので、蕪村も嘯山も雅因も五雲から序文を求められて、「祇と因み深きものをよしとす」といつて斷り、まはり廻つて呑獅が序を書く事になつたのである。『石の月』の太祇の句は『後編』に再錄されたのもあるが、句數からいつて前後兩編の比較にならない。『後編』は旣に嘯山、雅因が責任を以て『句選』を選んだ餘什なので、編者五雲の鑑識が乏しいといふ譯でないが、前編に對して遜色あるを免れない。『石の月』は『その秋』と共に太祇の追善集として知らるゝ二集で、『後編』と共に和露文庫にある珍本である。太祇の遺著は未發見の五解題
日もの尠くないが、俳句は本集に收めた三書で大して不足ないと思ふ。春泥發句集安永六年板中本二册蕪村は手紙を通じて見ると、その云ふ事に表裏があるので輕信されないが、『五車反古』の解題にも引用したように、召波の死を哭して「余三たび泣て曰、我俳諧西せり。我俳諧西せり。」とその淚滂沱たる告白は、彼が『夜半茗話』に特記した如く、永久に眞實な言葉である事を信じたい。召波は蕪村が夜半亭の文臺を立てざる以前、四條烏丸の三菓軒をもり立てゝ、百池の大來堂及びその春泥舍に社中を會し、蕪村の捌きに服してゐたので、洛西等持院の別業で蕪村より俳諧離俗の法を聞いて頓悟し、且つ終焉の期に蕪村の手を握つて「恨らくは叟とゝもに流行を同じくせざることを」とまで絕對に心服したのであるから、蕪村の愛惜も又思ひ量られる。その年忌〓〓の句もあまたあるが、殊に召波七囘忌の追善にいざ雪車にのりの旅人とく來ませ蕪村拜は既刊の蕪村文献にこれを逸してゐるが、蕪村の心から愛弟子の魂によびかけた句として强く響く。召波は黑柳氏、春泥舍はその別號である。遺子維駒また蕪村社中で、父の十三囘忌に『五車反古』を梓行した。召波はその句境閑雅に、描寫の線また太からず、柔らかくやさしいが豪宕の氣なく、深刻の情なく、淺近に低調になりやすいので、〓〓の才に於て几董に輸するところがある。其の『春泥發句集』は稀觀の書で、藤井紫影博士が挿架中より本大系のため特に貸與されたもので、題筌には明らかに『春泥發句集』とあり、立標題には『春泥發句選』となつてゐる。蕪村の序は難しい書躰でないから、原本の眞蹟板下を凸版として揭げたのである。太祇の「かの後家のうしろに踊る狐かな」が混入してゐるが、さうと氣が附けば太祇の小說的構想に類似の句もちらり〓〓見受ける。でその影響がある可き筈である。太祇とも常に同席したの井華集天明七年板中本二冊鶯の枝移りするような〓敏な凡董の書は、手刷の柔い紙に板下美を映發して、彼の撰集を通じて高雅な特色となつてゐる。『井華集』はその筆觸の快美なる上に彫刀の冴を添へ、鑑賞的に句品を高めるところがある。活字に組めばその幻影はあとかたもなく消えてしまふが、漢字と假名を巧みに書分けた文字の配置が、活字と活字とをうつり好く調和させて、氣分的に几董の藝術的關心をどこまでも幻滅させない。彼が『井華集』に注いだ彫琢の苦は慘憺たるもので、幾度か稿をあらためて漸く一編の『晋明集』となつたが、なほ自分にあきたらない處があつて、この『井華集』を別に書き起したのである。かつて二十年來の句帖を塗抹してしまふ決心をしたが、門人の諫めで思ひ止まり、舊知の上田秋成にその相談をしたところが、詩文·哥集さへ市に售らるゝに「俳士のみ壁に藏むべきにあらず」との言質を得たので、こゝに出板に着手したので、凡董の消極的な用意はかうした事にも行屆いてゐる。几董の句は桐火鉢を抱へて、庭前の梅を硝子越しに見てゐるような趣で、品の好い家庭向であるが、現實の生活に觸るゝ活動性がない。庭木らしき雅致はあるが、野生の梅の道勁な印象を得られない。又、蕪村を漢〓の山水を躰得した者とすれば、几董はやまとの繪の手法を寫生的にして、それに淡彩を施したとこころに〓新味があるとも評されやう。其角の本の體裁書風を慕つてゐたが、其角の放膽で自由な表現を模倣するには、几董は磊落性に缺けて居たといはねばならぬ。几董の位置と連句の技倆に就いては、第九卷の解題に述べて置いたから參照されたい。碧梧桐氏の所持さるゝのは丹表紙で七解題
八日あるが、本集の覆刻に用ひたのは和露文庫の藏本で、表紙はやゝ疎末であるが內容は同一である。蘆陰句選安永八年板中本一册大魯は陰性の人物である。其の『蘆陰句選』を讀んでの印象も、一句の境地よりは光りのない生活の陰に忍苦する彼が、じめ〓〓濕つた空氣を通して人生を灰色に見る痛ましさが後に殘る。感懷八句の在坂五年の芦陰舍を退去する時、庵中の竹を伐つて節にかへ、「妻兒が瓢泊ことに悲し」とふり向きふり返りつゝ、庵を出れば「行路茫々然たり」で、裏心せんばかりに「夏艸やまくらせんにも蛇嫌ひ」と呻吟した陰慘な場面は、全く性格的悲劇である。彼は阿波の藩士で蕪村の文臺を開く前、その社中に入つて馬南の号で京住居をしてゐた。安永二年薙髮して大魯となり、大坂に移つて芦陰舍を構へ、狂歌師の芙蓉花その他彼の社中が生活を扶けてゐたが、「さはる〓との侍りて」その芦陰舍を解散する事になつたのである。蕪村の東舊宛書翰に「もちろん芦陰法師不埒は嘸と存いへ共」と二人の絕交に驚いて仲裁に入つた事件が、「さはる〓との侍りて」の原因らしく思はる。その後兵庫に假寓して三遷舍と稱したが、一年後の安永八年十一月京都で死歿してゐる。大魯の姓には數說あつて、吉別氏-又は吉分といふのが通說で、兵庫筑嶋の大魯墳にはその子春魯が、今田氏、名は爲虎と記してある。『誹諧家譜拾遺集』には宋屋門文誰の系統に馬南の名があつて、司氏、号六月下菴〓寓舍、釜座通下立賣上町と出てゐる。此の司馬南は疑問があるが吉別氏、今田氏の兩說あるは確實で、大魯が世を避けてその孰れをも使用してゐたと見える。蕪村が彼の死後『蘆陰句選』の序を乞はれて、「遺稿は出さずもあらなん」と一度は拒んだのも、大魯のうしろ暗い事件を憚つて、婉曲に發企者を諷したのであらう。原本は和露文庫の藏本を碧梧桐氏が摸寫出板したものがある。本覆刻もそれに據つたので、彼の追善集『霜月十二日』と共に容易に獲難いものである。蓼太句集安永六年板中本一册師の吏登は「我に句なし」と謙遜して、たつた十八句しか短冊の類に書かなかつたようにいはれてる。『吏登句集』で見ても其の寡作であつたことが頷かれる。蓼太は多作である。そんな微溫的な「我に句なし」などゝ、或る意味での自己否定をすればこそ、どん〓〓發表して寧ろ一句でもよけいに、人の心を支配するものがあればいゝ事を望んで居た。それでも『蓼太句集』を出板する段になつて、いたづらに句數を貪るのを制して、「俳士に句のおほきは、硯に筆のおほきに似たりと誰やらもいはれき」と、その編輯を托した吐月をいましめて、手許にある句帖の十分が一をあたへたに過ぎない。『蓼太句集二編』の編者三駱は「明和のむかし吐月·月巢が拾ひ」と記して、蓼太は二人の選ぶがまゝに關渉しなかつたようにいつてゐるが、蜀山の序文には「蓼太載け酒ヲ顧余ヲ牛門一一請レ序ニシ〓ヲ其集一」とあるから、決して門人まかせにしたのでなく、我が家集として充分洗練をした上で、みづから蜀山の許に赴いて序文を囑したので、その「載じチ酒〓」といふのが、すべてに如才のない蓼太の交際振りを見るようである。『蓼太句集』は前記三略が天明五年に編集した二編、及び歿後寬政五年に同じく、三駱の拾遺した三編と合せて三部存在する譯であるが、蓼太の句の傾向を知るにはこの『蓼太句集』が一部あれば澤山で、二編·三編は彼の「硯に筆のおほきに似たり」の不感服なものなので、本集には除いて載せなかつた。その方が蓼太の本懷でもあるであらう。蓼太は作者である。俗惡といはれようが、月並者流と罵られようが、中興時代に逸する事の出來ない人物である。その連句の技倆に就ては第九卷の解題に述べたが、發句は蕪村一派の眼前致景の趣を得て〓雋なるとは反對に、萬人向で低俗なるは疑ひのなき定評でな九解題
一〇ければならぬ。白雄句集寛政五年板中本一册高踏的な白雄は一盃又一盃その憂鬱な生活を酒にまぎらし忘れたので、一酒百詠の評さへあつて頗る享樂的な人物らしいが、內心は限りなき寂寞を感じてゐながら、その感情を自制してさり氣なきを得たのである。彼のこの性格は俳諧の上に再現されて、迫眞的に對境を寫生する事なく、對境はあるがまゝに手を觸れず、たゞ感情の動きを內面的に暗示しようとしたので、客觀的主觀ともいふ可き句が多いのである。白雄はまた感情の純ならんがために內容の洗練につとめたが、その表現に就いて形式的の技巧を求めなかつたので、同語の繰返しを厭はない。あの時代の人の關心した切字の如きも問題としてゐない。白雄が系統的には伊勢風である可き筈で、その支配と色彩とを免れたのは、彼の自由を掣肘する師鳥碎の故人となつた結果であるが、蓼太のように一門の宗家となる野心もなく、同派の者との交際もなる可く避け、それが爲め誤解されて惡評を受けたのが、伊勢風と義絕する導火線となつたのである。高踏的な白雄は春秋庵を開いて以後も門戶を張るやうな事をしないのは當然で、俗世間的の事件には一切無關心であつたが、其の門下によい人物のあつまつたのは彼の人格の力である。『白雄句集』は生前出板する意志はなかつたので、其の三囘忌に門人の碩布が發企して、これも門人の巢兆が板下を書き、道彥の序文を得て板行したのである。白雄の号はしら尾坊昨烏の前号をあらためたので、「しらを」と訓讀するのは疑ひないにもかゝはらず、「はくいう」と音讀す可きであると强調する人があるのを聞いて意外としたが、道彥の序文に「しらをの翁」とあるので、「はくいう」說の成立しない事は明瞭であらう。家藏本は上下の二册であるが、全編四卷づゝ分册になつた四册本もたま〓〓見受けるので、逐一對校したら假名の異同位はあるかも知れない。樗良發句集天明四年板中本一册愁じ、家集を出して力量を輕んぜらるゝより、そんなものは拵へないがよいと考へる者が多かつたが、一册の句帖もない樗良のような潔癖の人も變つてめづらしい。樗良の言葉として或は「むさしのゝ露に」或は「越路の雪に」吟魂をなやまして「言出せることぐさもあめれど」それも「忘れがちにして」書止めて置いたものもない。「今はたおもひいでんもむづかし」とうるさがつて、頻りに句集を望む門人玄化に「心とめたるほ句百吟かいつけてくれぬ」とあるのが、『樗良發句集』の根本資料となつて、その玄化も樗良もなくなつた後、玄化の弟甫尺がさらに諸集から拾遺して編集出板したのである。句帖さへない樗良の句をこれだけ集めるには苦心を要した事と思はれる。樗良の發句は茶人の庭の飛石一つの置き方も約束に叶つてゐるように、そつのない言ひ廻しで、どこといつて點のうち處がない上、一脈の細みもあり、蓮の糸のような巧緻さを持つてゐるが、平板で變化のないため、伊勢風を蟬脱したものとは評し難い。京都で蕪村一派の知己を得たが、樗良自身の勢力は中興諸派の中で最も微小で、門人にも振つた者は出なかつた。『樗良發句集』は別に編輯した樗良の附合及び文集と共に、『樗良三部集』として合册した後刷本が行はれたが今はこれも尠い。又、樗良の句集にはこの外、蘇室久安編の『八瀨』と題して元治元年の板本があつて、句數は相當增補されてゐるが、出板の時代から見て天明板の方により多くの信用が置かれるので、『八瀨』の方は見合せて本書の覆刻を決定したのである。原本は和露文庫に藏するので、天地の二卷、題筌も完全して元表紙の初刷本である。甫尺の序、奏夫の跋、樗良の行狀の一部を傳へてゐるが、此の二人とも伊勢に住せる樗良門人である。解
一二靑蘿發句集寛政九年板中本三册俳諧の系圖の上で靑蘿を美濃派に入れて取扱ふのは當り前である。靑蘿入門の師江戶の玄武坊は、支考の直系魔元坊の弟子であるからである。その一事で以て中年以後の靑蘿が、美濃派に反抗した如くに考へるのは誤解である。靑蘿の玄武坊に入門したのは十三歲の時で、彼が江戶の酒井邸から姫路の本藩に引移りを命ぜられた後まで、玄武坊門下にあつて美濃派に心服してゐたとは思はれないのと、靑蘿が蕪村その他に接近して中興諸派の運動に加はつたのは、俳壇の形勢に刺戟されたので、美濃派の非を意識して蹶起したものとは考察されないからである。靑蘿が明和五年、明石に蛸壺塚を建立した山李時代、その靑蘿と改號してからも美濃派とは沒交渉で、『靑蘿發句集』の中にも美濃派臭味は全然ないといつてよい。それと同時に靑蘿の中興俳諧史に於ける位置は蕪村や樗良より遙に後輩で、几董か、やゝ下つて月居あたりと同格と見るのが公平であらう。二條家の允許で栗の本となつた晩年の靑蘿を考へると、その事が一そうはつきりして來る。『靑蘿發句集』は彼の門人で栗の本を繼承した玉屑が編集したので、江戶の成美及び江戶談林から義絕されて中國流浪中の花縣の序があるが、二人とも靑蘿の親友といふのではなく、玉屑の知己で序文をたのんだ譯であらう。靑蘿の句は流石に其の交際した人々が中興時代の俳傑であつたので、鏘々たる天明調の響きをつたへて、後の月居のごとく俗了しなかつたが、彼の勢力が播磨一國に限られたので、全國的に反響を與へなかつたのは殘り惜しくも思はるゝ。原本は遠藤氏舊藏本により、校正の際は更に和露文庫本を借覽したのである。玉屑の序に「栗のもと靑蘿ほ句集前の卷とし」とあるが、前編だけで後編は終に出板に至らなかつたのではある。半化坊發句集天明七年板小本二册北越に蟠屈した美濃·伊勢の餘風を打破した關更である。古蕉門の逸事に感激して、その高潔な心境に徹した筈の蘭更である。彼の作品の甚だしく通俗的なのは不審である。同國麥水の『新虚栗』が餘りに古調で信屈なため、反感的に平明な調子を專一にした結果が流俗になつたのであるか、花の本の允許を得て世俗的宗匠になつたので、彼の趣味が一般的に低下したためでもあるのか、『半化坊發句集』に收めた句はまだ〓〓よいとして寛政以後は殊に嫌味が多い幡水の序に舊作としてはぶくとあるが、「宵闇波に眠らんとすれば月我に照る」のやゝ虚栗的な句調を持續したならば、晩年のあゝまでの俗情にはならなかつたであらう。復古調の成功して關更も、其の一人にかぞへらるゝ天明年間に編集されたものとしては『半化坊發句集』中の句と雖、推讚の辭を呈する譯にいかぬ。半化坊は關更の別號である。幡水は「我半化翁も、其はじめ中比の風に遊び」加賀の淺野川に二夜庵を結びて三年、「古調の爲に」その夢を破られて復古に志し、諸國を旅して洛東山に芭蕉堂を構へた事を記して、幡水自ら關更の「年比よみ捨られし」句を拾ひつゞり、「好士の爲にもやとおもふ折ふし」同門の車盖か「東行脚のかへるさ、四山に一囊をひらき、師の句ある事を〓る」といひ、舊作の數句を除いて「千餘章に及ぶ」と序に述べてあるので、關更の自選ではないが、その一代に渡つての句集と見て差問ないもので半紙二つ折の二册本である。これも和露文庫の藏本で、奧附に「半化發句集後編未刻」とあつて車盖の編集で出板の見込みであつたが、後編は出板にならなかつたようである。原本は流布の範圍が狭かつたものか、『中興五傑集』のようなものも本書によつたとは思はれないし明治の活字本に覆刻された事を聞かない。關更の事は『落葉考』の解題にも一言して置いた。解題三
一系大書俳本日曉臺句集文化六年板中本二Ⅲ蕪村をかな書の詩人といふならば、曉臺はまな書の歌人と評したい。この二人を對句として品隣するのでないが、曉臺の句を鑑賞するには蕪村と對照して見る事が必要である。蕪村の線は太くてつよい。弓の弦をぴんと張つたようである。曉臺の線は弱さうでつよい。筬の糸の一本々々が緊張してたるみがないようである。蕪村の着眼は遠心的である。曉臺の焦點は求心的である。其の構圖は蕪村は寫生的であり、曉臺は印象的である。境涯から見ると蕪村は江戶座から出て京都に夜半亭を結び、曉臺は美濃派から分れて同じく京都に龍門を構へたので、蕪村は流浪困苦したが、曉臺は安易平坦であつた。〓債を負うて死んだ蕪村と、二條家から花の本の中興を許されて俳諧一道を以て世を終つた曉臺とは、現世的には曉臺の方が幸福であつた。蕪村に凡董あれば曉臺に十朗ありで、門系はほゞ同樣であるがこれも曉臺の方が勢力があつた。『曉臺句集』は蕪村の〓究に追はれて看過されて來たが、かうした二人物の比較對照からいつても、もつと重視されなければならない。士朗の序文によると、編者臥央は『俳諧三傑集』に揭ぐる曉臺の六百餘句中、過誤の甚だしきもの百七十餘句ある。「いかにして其謬を正すべき」と慨歎したので、士朗は「暮雨巷句集を木にえらば、世おのづから其訛を知べし」と、臥央、師在世の時その許しなきをいひ、士朗、「其事ありてそのとをなす、はゞかりなかるべし」と勸說したので、亡師曉臺の机下の一册子、自筆の句帖を以て編集開板したのが此の『曉臺句集』二卷である。家藏本と共に和露文庫の板本を借覽して校合したが、和露文庫には別にその稿本を所藏するが、板本の方が類題別に整つて、讀むにも便利である事を思つて、稿本は一部分をたゞ參照したゞけであつた。葎亭句集享和元年板中本五빠俳句の正しき鑑賞と正しき批評と-その精神を俳壇に招來したのは葎亭嘯山である。嘯山が一片の學識のみで俳句を理解し得なかつたなら、かの『俳諧古選』の如きも支那詩文の評語を轉用したものに過ぎなかつたらう。幸ひ嘯山は俳諧の愛好者だつた。中興各派に關係のある宋屋に師事したので、その時代精神ともいふ可き天明調に觸れる機會が多かつた。蕪村より太祇の方に接近してゐた。『平安廿歌仙』で見ても連句の呼吸がしつくり合つてゐる。嘯山の評語は漢文ながら流暢で誰にも解るものであつたのが、彼の古選を啓蒙的の意味で有名にしたのである。『新選]及び『獨喰』がその後出來たが句ばかりで評語がない。尤も『獨喰』には漢詩風の批圈が附いてゐる。嘯山その人の句は『葎亭〓賛集』正續でほゞ窺はれるが、彼は古い俳書を讀んだので、後年は俳諧を字義通り滑稽と解するようになつて、可笑味を覘ふ事に興味を持つたので、頗る不感服のものになつたのは惜しい。『葎亭句集』は歿後その男李流の校定で出板されたので、その可笑味もそんなに目につかない。藝術的に蕪村や太祇とは同視し得ないが、闌更あたりよい價値の低い句集とは思へない。別名を『鈴鹿越』といふのは嘯山が太ヽ講に加つて伊勢參をした紀行に、冷泉爲村が題號を與へたので、その紀行を第一卷としたからである。第二卷よりは彼の發句集で四季に類題してあるが、詞書のあるものを除いたので、嘯山知己の消息を知る資料とならないのが遺憾である。三宅氏、葎亭は別號である。嘯山、滄浪居、橘齋の諸號を有し、跋に「書法奇雋」とあるように能筆で、且つ詩に巧みで『嘯山詩集』の遺稿がある。俳諧は前述の宋屋門人であるから、蕪村一派の巴人系統と親類筋にあたつてゐる。詩人呑響は嘯山の女婿であつた。解題三一
二系大書俳本日葛第嘉永二年寫一册樗庵麥水の句集である。麥水は伊勢風の平話調を詠んだ後に、かの虚栗調の復古を叫ぶ事になつたので、寛政二年に遺弟其叟の板行した追善集『落葉かく』には前躰·後躰として彼の句境を一一期に分けて百句かゞけてある。麥水の句集としては此の『葛箒』あるのみで、『落葉かく』の如く後躰卽ち新虚栗時代の作と思はるゝものゝないのは、麥水の本心に添はないかも知れない。併しこの『葛箒』すら安全に保存されて來たのでない。靑城の後記にあるように屏風の下張から發見されたのである。金澤の俳人靑城が古い屏風を張替へるつもりで、紙を剝して行くうちに其の張交ぜの反故に、發句の書いてあるのを怪しみ、熟視するとまさしく麥水手記の句帖である。「こはよき得ものを」と喜んで、汚れたるを洗ひそゝぎ一册子としたが、旣に屏風に張られる位であるから、ところ〓〓缺丁が出來て句帖の體裁に復し得なかつた。『葛箒』の發見は全く偶然で、もし靑城の目に觸れなかつたなら、永久に屏風の下張になつてゐるか、破毀されたか、孰れにしても其の運命は決定的であつたのである。靑城は大橋氏、加賀金澤の人で明治になつて後も存命であつた。本集は靑城の發見した『葛箒』の寫本で、藏月明氏の少年時代に手寫して置いたものを借覽したのである。四季に類題された原本を屏風から剝して一册とする際、數枚の綴違ひをしたと見えて、春の部にある可き同旅の部が夏の部に混入して居り、春·夏は完備してゐるが、秋·冬は類題の本句集を逸して旅の部ばかりで句數もはるかに尠い。藤井紫影氏の『有朋堂文庫』に收められたのは、此の寫本とも相違した別本のようで、順序井に句數も同一でない。校正の際は『有朋堂文庫』を參照して、明らかに誤寫と思はるゝものは訂正したが句意の孰れにも解さるゝものは寫本通りにして置いた。案丸發句集寛政八年板中本二冊江戶へ、いつのまにか闖入した美濃·伊勢の俗談平話が、江戶座の下り坂になつたのに原因して、『五色墨』時代から侮り難い浸潤力を以て、雪門·葛飾派を同化した事は前卷の解題に辯じた。蓼太は俳論に支考の說を失敬したのみで、その句境を侵される事はなかつたが、葛飾派の素丸になると、まぎれもない俗談平話で、俳系は素堂の直統であるように高く標榜したが、句作の技巧は全く田舍蕉門化したと評して過言でない。その方が人氣に投じたと見えて葛飾派は世間的勢力を得て、江戶及び近國へ傳播して美濃·伊勢の兩派を地方に於て壓倒する立場になつた。素丸の句集を『天明名家句選』に收めるのは藝術的見地からは多少憚かられもするが、歷史的に同時代の江戶俳壇を見るには、その勢力と影響を看過し難い事も認めねばならぬ。素丸は溝口氏、『五色墨』の素丸が馬光となつて後、その二世の号をつぎ、且つ其日庵三世として葛飾正風の宗家となつたので、幕府に仕へて御書院番を勤めた家柄が、俳諧の宗匠には過ぎたような感じを以て畏服する者もあつたであらう。『素丸發句集』は門人絢堂の編集したもので、春夏秋冬の類題別で、その季每に目錄があり、〓賛·神釋·餞別留別·懷舊追善の部を季末に別錄して、句集の體裁は頗る整備してゐる。素丸の句に對して嚴正な批評を下したので、人格的にも疑はれるかも知れないが、素丸は學識ある士で芭蕉の發句を詳解した『說叢大全』の如き立派の著書があつて、名家の躰面を傷けるような人物ではない。一茶が素丸の意にそむき、葛飾派を勘當された說もあるが、一茶は素丸の同門竹阿の弟子であるからその事は信じられない、序ながら附記して置く。(勝峯晋風)解一七
日本俳書大系第十一卷天明名家句選目次蘇明山莊發句藻三〓哲阿彌句藻瓢簞集七一八九太祇句選二五太祇句選後編三一一石の月ニテル春泥發句集七七井華集三蘆陰句選蓼太句集ニル白雄句集參樗良發句集三二靑蘿發句集三七
葛素丸發句集箒葎亭句集曉臺句集半化坊發句集筆蹟蘇明山莊發句藻米翁太祇·大魯·關更·大江丸-短册受百三七豆腐,三八山三六、系大書俳本日紀逸-色紙そめいささやうほさ
句藻序昔誰やらむが硯銘をよみ侍りけるに、硯〓與墨氣類にして獨天壽不相近といひ、はた天壽は數也といへるを、つら〓〓おもひめぐらし侍るに、物を不朽に傳ふるにおいて、三のものゝちから、ひとりもかけ侍りては、こととゝのひ侍らず。さてそれをなしおゝするにいたりては、今やひとり筆の壽をかぎりしられぬものとなん申侍らむかされば月邨公、はやくよりなしおかせ給ふける寧樂の都のさくら、武藏のゝ月はことをまたず。くはゝれる春の猫も、やくしも、やらひすて給はで、時につけつゝものし玉ふ陽春白雪若干句、みづから彩毫をふるはせ玉ふて、かいあつめさせ玉ひ、小生をめして、雨夜のつれならむ折ふし、よしあしにつけて踏襲左典厩し、かたはら、藤黃門の日を經て染る靑柳のいとぐしを、とつ。つ。それとても世のわらへなるものには侍らねど、よきが上にもなほさらにと、老婆心やむにやまず、かくゑらび侍るが、おそらくはひがめにあやまりやし侍りつらん。とぢふみやいとゆふ長く見れどあかずとしるしつけ侍り。かのふみに添てまいらせければ、日あらず上梓の功なりにき。是一時の佳興にして、强て不朽に傳へさせたまはんとには侍らねど、おのづから滑稽の龜鑑とはなれり。於是乎かの三の物の殊にながく傳はらむものは、管城子の壽に侍らずやと、其命毛のみじかゝらぬためしをつゞくり、序と名づけ侍りてまいらするよきことととしるしつけ侍り。日かくはゝれらむものは、ゝらぬためしをつゞくり、ことしかり。于時天明四年甲辰春城南洪珠來謹撰かたはら、發句藻序嚐管塔焉としてつら〓〓世の風雅をさぐるに、にとりとゞめず、いな妻の雲間にうつり行て、莊山明蘇藻句發きまいらせよと仰らるゝより、おこがましくつら杖に曲肱、めがねに鼻つまゝせ、うちかへし〓〓し侍るほど、帋の手すれ、于思〓〓と毛ぬきもてぬき盡すべきものかは。髮そりにそりすてまほしきばかり、もゝに一二つを除き陽炎のおゝ空何かまたにとりとゞめず、それならん。さればほどにつけ、それならん。さればほどにつけ、心を染てひとりごちたらむこそ、おり〓〓の花もみぢに限なき友とも云べき。
俊稜うたの高みにより、かの目に見へぬ鬼神を泣しめむ沙汰ぞ及びなかるべし。只いもとせの中だちにのみもて行もあさましくや。扨から歌のからび過て、平仄とやらんもむづかしう、對·不同はたうるさからむ。そも〓〓俳諧は和哥より出て、其源久しく猶ひろくもあり。南花實をそなへ、作法正しう、一句またをかしくもあれさるを、世の心のわたくしにもてひがめる人の、鄙言·俗話をはぶかざる姿に寄て、只くだれる道にのみおとしめ咲せむ事かは。三綱·五常はもとより、世法よくかなへる業なりかし。貴となく賤となく、雨雪のつれ〓〓を忘れうちかたらひ、淡き〓何かか比せん。一机一室の上には、千山万水をおもひめぐらし、遠つ八嶋のさかひも眼裏にちゞめ、袂には露もはらはず、草鞋のほつれもなく、あらぬ浦山を心に奔走し、秋はつる案山子の身の果、章魚壺の底のそこ迄尋もとめ、みる物·聞もの無碍自在にして、其情及び詞たれらん。おのづからの際には、其德もいかであだならむ。幽なる家居しづかに、はかなき身のくいもなくて半時を樂るなど、俳諧とて何ほどもなき益なしごととばかりはいかむ。淺きに似て、道なりけん。大人若うより此道に一步を起して、紫子·八樂の道しるべにしたひ、巍をよぢ解をこへ、塵をうかゞひ、細に入て問尋し、春のうらゝかなる、秋のさびしきに付て俳筵をのべ、其餘かれにひとしき輩つどひ集め、句〓に頭をひねり、工夫に首をしびらかして解脫せむとするに、二師世をふり捨行、いかむせん、もたる杖うしなひ、むすべる栞あと絕にたり。さるからいとゞたゆめがちに成ゆけど、あら玉の年のあしたに朝せしより、かしこき君をことぶき奉り、身をも祝そめ、春風千里に光わたり、柳さくらのこびさかえたる前栽に沓の底をきらし、例のさみだれ降しきり、ほとゝぎすおり得顏なる比は、たれこめて尙も沈思に睡をさそふ。秋の雁江天に聞へては、〓樓に足を爪だつ。名に滿る月光にうそぶきては、すめる隅田川·くまなきむさし野をおもひやり、あられ亂るゝタ·雪つめるあしたは、炉邊に硯の氷をくだく。又一とせおきづゝ故〓へのいとまくだし玉ふる旅すがらは、ふじの雪·淺間のけぶり、をかしとうちながめ、あるは女川のわかなに春色をあじわひ、あるは木曾のまそばに旅情をやしなふ。美濃むまや路·い賀の山ごえあまたゝびしつゝ、かくてしるよしは、花の都に隣るものから芳野·たつ田遠からず。春日の里いやちかく、三輪の神がき·初せのみてらも餘所ならねば、おりごとにぬかづき、そこら耳なし山のみゝなれたらん處〓〓まで見めぐり、常に此ものゝ滑稽を提撕して、とさまかうさま行かひ、いとま少きにも、事として倦時なくあかしくらしつゝ、朝に文をとゝのひ、家に武を講ずるなど、何くれと五十霜はた弓を擲ち、世をわすれて、ひた山里に引籠り、月花三味に打傾けることこゝに十有餘歲、わくらはに訪ひ來れるは、洪珠來のみはやくよりのちなみに、心をも合せぬるはとて、定めかねたるくま〓〓、いさゝか事迄語かはし侍る。予閑おほかる春の一日、梅が香ふかく霞る月村所の柴扉をうかゞふに、ふどのに數筐をひらき、依然として端坐す。やがて見おこせていふ、是はこれきしかた物したる俳調、ものさがしのまぎれ取出たるなり、つどひてよと有に、いよのゆげたの數かさね行うちより、其折のふとおもひ合らるゝあり。亦まれ〓〓をかしと見あつるもあれば、さしものくさ〓〓終に帋魚が粮に投ぜんもくちおしからむ。いでやこゝろに世〓の人〓をかうがえ侍るに、是かれ通はして道〓〓あまねかれと、只み〓ぬ諸こしの人すら面影もまの前にそふばかりおぼへ、心こと葉の忍ばれもうらやまれもすれ。皆〓〓おしなべて、絕ぬ鳥のあとのみ、えもしらぬ昔のかたみにして、盡せぬ世〓の寶とも是なむいふなるべしなど、そゝのかし聞ゆれば、さかし、さればよ、露の世の生涯、何かはきえずもあらん。實や其世に名もうとからぬすら、しのばるべきかたみもおかず成行もあれ。せめてがな有りとだに、後の世にはかなき名をも詞をもとゞめむにはと、思ひ寄ぬる心のいさおしに、よきあしき共に知らさで、例の洪に挖し、ゑらび出つるを、みづから走筆をくだして、同じうとゞむと也。さはいへ俳諧の風姿のかはり安く、きのふにけふの趣ありて、明日香川の淵瀨にもたぐへつべく、まいてその世の花に愛うつり、此道に入やすしとみて遊ざるもなく、物定の師と呼るゝ輩迄、げにや野邊のかつら·五
蘇明山莊ホ句そうとよべ、是はこれ世とも風雅とも思ひためらはず。年比公私のいとま〓〓、心の顯る〓にまかせて、只忘師の口まねにひとしきのみ。その風情時めく家に散らんもはぢかゞやかしけれ。また小子が卷端の詞筆おこなるをも、みむ人ともにゆるさしめ玉へかしと、ことはりいへるを唯してしるす〓とになむ。天明甲辰夏日城東桂花園星羅珠成書林の木の葉にして、其好るやうもおなじからず。いはゞたゞ世の交りをかしとて是にもとづき、いとなみ世に盡てこれに入る有。是にいりて風雅をうかゞひ、風雅に世やふらんと是にさまよふなど、みな山ぐちにイむらむ。ひたすら世の中の俳諧に遊んで、風雅をこゝろにわびしまむとするはた〓〓おほからずとするも、かゝるも風雅を出ざれば、よし、さはすつる方、拾ふかた、又一かたならじと、やがて梓にちりばむる〓とゝは成けらし。後の好士らが手にふれらんよしもあらば、大人の此志の時を得て、いかばかり面おこし侍らむ。返〓〓かゝるほゐたがはで、水くきの沫ともきへ行ず、人しらぬ山松の名はうづもるゝとも、〓との葉の散うせずして君が代の長くとゞまり、竹の千とせの春秋をかけて、露しのばるゝ一ふしも侍らば、さばかり此道に遊るいたずら事も、などや空しとおもほへざらましかも。かゝる人わらへのこと加へぬるは、先に集いまだしきほど、此おこりをとけよと承るに、ありのまゝを記し付參らすれば是を糸ぐちには物さめ。其まゝ城東桂花園星羅珠成書直垂·狩衣ほこらかにそうぞき、初春の壽き申さんとて、此山里へもうち連つゝ來れるさま、御めぐみの身にもあまれるをよろこび謠ふ。子寶のいはれとけたり今日の春舊としは月くはゝり猫も抄子も、といへることはざのごとく、いづこも〓〓むまごあまた生れぬれば、孫の顏行さき〓〓に花の春初朝日老を養ふ脊中かな此三年ばかり、双白鶴庭樹に來りすみ、雛を育し。人を怖れず、飼たるがごとし。たつ春や鶴の伸する宿の松才藏になじみのはやき童哉喰摘へさそひ出るやまめ鼠鶯の喰ふにはあらずむめの花七蘇明山莊發句藻春部改正初富士や八幡大名見あげ皺鸞鳳の羽裏うつくし初日の出(大)大郞冠者けふ元日ぞ鼻の穴片肌と襷と井戶の御慶哉元日やにらみの助が梳油かはらず君恩をいたゞきて初時服手にしだり尾の抱心知命の年、仕へをかへして君恩にまづ元日の朝寐かな宿の春烏帽子の夢も五十年隱者氣の出ぬも愛たし宿の春兒輩みな官位たまはりて、此春は藻旬發莊山明蘇万喰梅歲摘
さま〓〓の梅に驛使の薰哉閑居春興我庵は鶯ござれ梅御座れよき人や羽織かさねて梅見船梅の風今日剃たてのぼんの窪澤庵の塩まだからし梅の花棒ほどの梅の薰りや針の穴嚏〓はし居初めや梅の花銀鵞のもとより、閑居さぞ園の鶯窓の梅と申こされければ梅鶯其隙〓はあくびかな世捨酒さてお肴ははつ音かな鶯がこはすべらせつ雪解道黃鳥一聲酒一盃二盃めは隣の藪のはつね哉左儀長の煙につゞく柳かなまだ暮ぬあすか井殿の柳かな北野の神詠に寄る。むめ咲や家をはなれて三四間竹の戶や梅に小さき草履取御床机や梅の正面松のわき三里丈みす卷れたり御所の梅流しけり御詰の外に梅の枝雪をさそひし筑波颪も、やゝ春風に吹かはり、軒端の梅もほころび初て、人もかずまへぬ山住も、やぶしわかざる長閑さに晝ははや裸巨燵のむめ見かな我すむあたりは梅若菜巢鴨染井のすべり道神風や伊勢の波民がもとへ、無音房が頭陀をとゞめけるころ、發句せしとて梅のすりものを、買賣のたよりにおこせたるを、無下に見てやまむも本意ならねば、發句かきて贈る。と申こされ鶯柳彼雪霞岸解丸かれや彼岸團子の娵姑頭巾きてふみこむ僧や雪解川遠がすみ笊程黑し三上山關札や霞む驛路の水尾つくし米洲がもとより白魚をおくりけるに白魚の眼ばかり黑し春のゆき糸ゆふや六〓の家根さとのやね陽炎や此跡きれてうつされず雨の雉離宮の築地倒れけり聞すさむ我も蛙も眞むき哉ほれなき蚯蚓〓〓力なきかはづの身すら軍哉脊松のもとより、烏より早き櫻の夜明哉といふ句を見せたまふ。その弟にとて烏より遲き蛙の日くれかな東風とくやつり花生の薄氷目印の木瓜咲にけり村酒屋十牛費野面もうら〓〓と靑みたるに、世の業も忘れはてゝ、をのれ〓〓が生涯を樂むもめでたし。草笛や人牛ともに春ごゝろ園中の土筆を菊堂へ贈る。喰ふ程にこそ隱家の春の色彌生末つかた、菊貫の主、はる〓〓此山里を訪ひたまふ。かの〓女が杜鵑聞んとて北山里へ行しに、下蕨を調じてあるじまうけしたりしを、都人のわらひ興ぜしもかくや。大名に蕨おませむ世すて酒賣きりて蝶に別る〓花荷哉莊子曰、藏天下於天下。大海を大海がのむ汐干かな唯今海路に赴い。僕が脊を五丈の鰐や汐干狩傳奏と吾妻へくだる雛かな九陽炎雉蛙蝶汐干藻句發荘山明蘇雜春雛
二一あはれ親なしとも花の子順禮上野にて花一面中堂ひとり舌を吐く藩城の東南なる內山の永久寺にて山寺や法螺貝にちる花もなしゑいとう〓〓田樂火鉢庭の花毛虫わく其いろとしも櫻かな銀鵞の許より、吉野の種とて櫻の花な筒にいけて、先達に見て貰ひたき櫻哉といふ句を贈られければ御祕藏を木守かつてや櫻がりねがはくば花のもとにて春死な2、と西上人はよみたれど、予は散らず死なず花の下にて晝ねせん似たものゝ中にも雛の夫婦哉犬の前犬つくばひの雛見哉鼻かけは下段にならぶ雛かな雛の兒卵の売に目鼻かな宗盛を餓鬼大將やゆやが雛みな人にまいらせあけて尼が雛晋子が墨をすらせし梅の頃もすぎ系大書俳本日櫻御祕藏に駕をかゝせて雛見哉人かずに檜扇たらぬ雛かな君の臣をつかふ夏.薪を積がごとしと、賈誼がいさめを思ひ合せといふ句新雛ののしあがりたる上座哉雛幕や此御やかたの桃華源宿下りを賓人さねや乙が雛雛さまの河原院や丁子釜花滿り池を鏡の女子たち花覺束なく、時鳥しきりに啼く。枕紙に涎かけたかほとゝぎす上野に詣て靑葉若葉大師やいづこ杜宇さみだれの晴間なき頃、往來の人の、吉祥閣の茶うる翁がもとに雨やどりするを見て山門に耳をあつめて子規我が上館は、西は日吉山王のしげみ深く、愛宕の山の梢より南につゞく。杜宇雨の火の見の如意が嶽晴間なきさみだれの雲間の、すこしあかみたるさへうれしきに、折ふし一聲音づれければ月を少し目に掛たかと子規幽人眠覺時杜鵑啼や加賀ど の和泉殿月か雨かさは卯花かほとゝぎす二夏部花御むかひの奴黑主はな卯木葉所詮なく若葉喰ふたる女かな岡釣に毛虫あびせる若葉哉屬の夜は出る森も若葉かな柊を鬼のあなどる若葉かな焚捨の草鞋ふすぶる若葉哉郡山に夏をむかへて喰はず聞かず日には素堂が若葉哉雜司谷にて神鏡の底まで靑葉若葉哉丹御亭主を驕者とや夕牡丹〓賛むかし男の俤を今も殘して華も葉も冠の巾子や燕子花ほとゝぎぬり桶のうしろ姿やほとゝぎすす子規占は雨なり月の量卯月の末つかた、有明の月影いと卯若花葉牡丹藻句發莊山明蘇
三鷲のすむその梢とはかしは餅人眞似に猿もさするやかしは餅そとに寐て藥降夜の乞食哉はつ幟一日親のはなの穴米道、男子をまうけられし時御幟の赤きを見れば金太郞犬蠅をふりこぼしたる〓水かな吾妻堤に杖を曳く葭雀の中に鼾や捨やかた閑子鳥似合ぬ僧の胡弓哉紫陽花やのろま遣ひのさし扇酒中花は萍よりの案じかな探題宇治螢へんぐへに娘とられな螢狩時しらぬ布子羽織や富士詣後水尾の御製によりて白瓜も塩のひかたのあつさ哉乘掛の鼻で蚊を追ふ合羽哉松松魚吾妻にて梅の花とは鰹かな大宮のうち迄聞ゆ、との御歌もおもひ出られて御曲輪の內迄鰹〓〓うりあかずも有哉とおぼめきて猶めづらこゝらの年を松魚哉初鰹祇王召されし初めかな左琴右書皆押やりて鰹哉蓬萊山の賛はつ松魚是も蓬が嶋つもの竹の子聾の筍守がめざしかな四つ這に筍盜む座頭かな筍を在轉に贈る。筍や夢ほど老がちから瘤捨人の役は竹の子めぐり哉また珠來に贈る。筍や爪木の道の手むだごとかしは餅いとし子の手の筋見ばやかしは餅魚系大書俳本日端午〓水雜夏竹の子富士詣蚊やしの玄關に東しらみたるは、ゆやがもとのつかひかとをかし。朝がほやまいりてい藥とりある人、句台の点をこひける時、卷末に句合や西瓜なりせば擲き見む老がれ覺の曉を待つけて、國家私押ひらけば霧一面夜明がらすを目鼻哉魚遊が孫女を預りし頃、柴扉を音づれければ、萩の枝にむすびつけて預りて風にも見せぬこはぎ哉一度女の手より、ものを取れば、五百生が間手なきものに生ること聞けば、此虫いかなる僧の後身ぞや。芋虫や女の手から何とりて日ぐらし蜩の小便ふかんぼんのくほ三ゆ五月の末つかた、暑さいと堪がた福き夜、〓の外に蚊の聲かしまし。昔梁の孔稚珪が蛙聲を愛せしことをおもひ出て蚊の聲を鼓吹にかへて寐ぬ夜哉町すゞみ十步に團子五步に瓜凉船尿念じたる座頭かな御門の御目には、龍田河の紅葉をにしきと見たまひよし野丸人丸が目に雲五色納凉秋部道哲へ横すぢかひやあまの川寐勝手の後ろさびしや銀河蜻蛉つれ我も昔は盆しらず白瓜の馬の行衞や佃じま朝皃の鼓の胴はこぶし哉曉の露をふくむ花のつるもの、あ七タ藻句發莊山明蘇盆朝顏
一四荏苒として繩にもなりぬ。さなきだに物さびしき隱家なれば、朝な〓〓在五中將の、起ていにけん朝ぼらけ、もおもひ出らる。露秋霧ひぐらし寒き朝戶哉晝つかたはその聲の無常や責る秋の蟬夜にもなれば蜂や秋の一夜を下駄の下日照雨聟の住家は花すゝきひき船や尾花の浪の首ッ丈鴈の聲木賃とまりの片〓寐園中の芋を米洲へ贈る。君がため我衣手は芋の露公菜、炒釣に行しとて小鮮か贈らる。紗釣や御手を戴く竿の露名月や心の牛もねそべらし系大書俳本日朝覲の日數ちかづきぬる頃いでや月團子喰ふ里五十三今宵一輪滿り、〓光いづれの所にかなからん、と口ずさみて足で太鼓尻を鼓の月見かな初カレト四十何くらがりどこにけふの月山姥は腮に杖つく月見かな名月や式部が肘のつくへず染井の山里へ退隱の後、草村ごとの虫の聲も、おりからの情にかなひ、心すむ幽居のさまも、太田持資の詠吟には事かはりて海遠く松原近き月見かな大和哥には、海の原振さけみれば、と思ひをのべ、詩には牀前月光をみると慷慨を吐く。名月や頭を低て三笠やますゝき鴈な十五夜やま名月や物くさ太郞居ざり這七賢の竹に生る〓月見かな名月のいよの湯桁や栗團子月は昔の月ならねば、秋も昔の秋にあらず。我身ひとつとよみぬれど、歲く年〓人同じからず。本の身は松ばかり也けふの月白雪園主人より消息あり。良夜は宵のほどは雨さへこぼれしが、忽〓光にかはりし卽興など見せものしたまふ。返事に、庭の面はまだ乾かぬ、の古歌も思ひ寄せしなど書續けて賴政の氣でさりげなき月見哉寐よ〓〓と曉の鐘を月見哉花は盛に月は隈なきをのみ見る物かは。今日を最中の秋しり顔に各〓興趣を設け、盃盤取ちらし、糸竹の音いろをかしう調べ合たるなど、世にあるとある今宵の遊び、みなまことに月を賞する徒にあらす。月見する人に月見る人はなし名月の滿珠投たり上總沖寛美が柳橋に新居をもとめし時家見客最中の月を上座哉壬寅の秋、良夜蝕なりければ名月の中の曇や世界の圖近江の玉河の萩の文臺の裏に文臺に色なる波や月の下武藏野はむさし野程の野分哉吉原を宙につゝむで野分哉燒栗に大藏流のあぐら哉冬映へ園中のくりが贈る。路次下駄の跪くさきやこぼれ栗珠來、金澤紀行瀨戶の秋我も〓中のあたま數一五哉の圖野分栗藻句發荘山明蘇
あたり近き村落の菊を見めぐりて酒の香や虻をさそふて菊めぐり秀國が菊見に來りし時心ある目を待得たり菊紅葉返しに蝸牛秋に長居はをそれかな栗むしの果は有けり十三夜月に問へ其夜此夜の八仙歌嶋臺に啼蚊すくなし十三夜足袋の色も黃菊白菊月見哉秋もやゝ更行山里のさま、五郞氏生の田園にもかなふべし。松菊に下戶を疵なる月見哉中秋は曇がちなれども十三夜雨月の姥が機嫌かな今年は太郞より三郞·四郞迄たかき位給はり、玉敷のあたりを立ならす事、類ひまれなる君恩を忘れざれと、膝下に並べ置初だけを園中にとりて、在轉に贈る。秋もはや終初茸夢ばかり此かへしに夢かとよきのこたふべる露の恩とかや聞へし。武田長春院、山住をとぶらひ來りし時、初茸取て參らせんとて、かなたこなたもとめしかど、あへにくに求め得ざりしに、その明る日十ばかり出たりしを取て贈るとて初茸や夜の間の雨のこぼれ物是させと尾花招くや菌がり長月の頃.銀鷲、公朶など伴ひ、隱栖を訪ひたまひければ村酒や鴈も紅葉も亭主がた菊を出格子にいけて南山をみる。此虻の後更に虻なし菊の虻在轉に贈系大書俳本日ばかり在轉秀國十三夜たけ狩て子ども見よ滿ぬ〓へぞ十三夜致仕の表奉りし日、九月盡なりければ此夕ぐれ大名と秋の名ごり哉四郊に出て秋を惜む。三夕の果の果見る野ずゑ哉秋の盡る日、珠來を伴ひて園中をめぐりて秋も終烏見けしつ雲の末木がらし閱伽桶に凩氷る月夜かな木枯に九輪つれなし七大寺枯野吼つきて犬の目赤き枯野かな火繩の火藥にほしきかれ野哉蓑かりて我を句にする枯野哉草よりも人目ははやく枯野哉落葉仁王はけ堂守迯て落葉哉大根曳朝比奈が尻のひゞきや大根曳惠比須講夜をこめて鯛のそらねや夷講冬籠蘭菊に馴染返しつ冬籠り大素より、園池の事など思ひやりしとて、芦眞菰枯ても鴨のたち居かなといひ贈られしに冬籠鴨にくれた る芦間哉爐邊の句家內寐て中〓寒き巨燵哉はね炭に小野共云ぬ圍爐裏哉一七枯野冬部馬の蓑西日さながら村しぐれ水海に見るや時雨の尻かしら関栖卽興富士を軒端筑波の時雨ぼんの窪庭の殘菊を公栄へ贈る。殘菊やさらでも虻の喰あまし時雨芦間哉
六猿も子を誤にはさむか夜半の雪雪御覽太刀持一人手傘哉雪見廻咫尺千里の隣かな海原の音や埋れてけふの雪月雪や更て柱の破れる音煤とりの日、書齋に入て會哲が杖のしなへや古疊雲あらざるにいか成雷ぞ煤のをと煤はきや親父が枕ものぐるひ革頭巾ちよつぺい頭巾すゝ退治世の塵の煤掃竹は 拂子哉師走の半過る頃、雨夜菴の扉を音信しに、いづこも同じ年の急ぎとて、庭も籬も取ちらして、けさの程疊の表かへたるに、はや大名の來りたまふは、來んとしの吉兆ならんとよろこぶ。置霜にあぐらの跡や疊の粉片〓は夫の足袋ぞとしの足置頭巾天のゆるせる師走かな年の瀨の渡りも入間言葉哉馬にて海を渡すよりも年の瀨や月のすゑには錢に在鬼神の心をも和ぐると聞けば掛こひよ是がよめる歟古今の序園中假山の絕頂に上りて靜さよ江戶の師走を高みから雪の降日は寒くこそあれ、とすさみしは、何所へ逃れても一圓相の中はのがれぬこゝろなるべし。西行は四行ほどの師走かな六祖すら足のひまなき師走哉爰もとへ寄や年浪見上皺掛乞に憂き中川の宿もがな年の尾を各〓朕にはさみけり素堂が靑葉の空も昨日けふ也。一八日一升は炭に拙しあはび貝川よりも巨燵にはまる紙子哉賢をさけて愚にかへりたる紙子哉光陰に驚く。いつのひま我に似合し紙子哉老生と靜なる山居風か人か柴の網戶の干菜哉火桶抱き帋子を脊屓ふ姿哉灰がちに座禪の尻の火桶哉あら不沙汰烏帽子の下の角頭巾探題ニ句寒卵 霰喰盡て籾にゑくぼや寒卵捨船を憎さげにふるあられ哉一汐に殖二汐に減る千鳥哉須磨颪衞も星もふる夜かな九郞兵衞が城森〓と千鳥哉木兎と雀に見せて雪見かな女房に尻たゝかるゝ雪見かな年の市黄衣にはふすべの革羽織老の冷水ながら、もゝひき穿、しり引からげてさし艾ごまめも年の市交り雪に餅に苦は色かはる柳かな吹風も二十五番や餅に花年の瀨の蛇籠に錢を積上たり年もはや緡の尻尾の行衞かな掛乞に門はづかしや于定國かけ乞もあるか師走の無盡藏下馬ゆるせ伊勢の御が家年の馬年の尾を引ずり御前夕化粧行年や源の內侍が寐ほれ顏掛こひに佛性ありや趙和尙目でつかふ小冠者もがもな年の昏頰ばらぬ昔慕はし年の豆迦葉は笑ひ維摩は默る師走哉取て置て翌剃腮ぞ年の髯帋子火桶頭巾ちどり雪年市餅花歲暮
目に門松山折敷賣塩松魚鏡餅年の五菜が重荷かな政仕ののち塵中の苦をしらざれば、身にいたつきの侵す事もなきをよろこびて喰はゞ喰へ百まで年の日の鼠鵠の產家も年のいそぎかな世中を何に譬へん朝ぼらけ昨日の非みな年の瀨のあとの浪年。暮ぬまた月花につかはれん行年に賣居へはるや伊勢が家行年に面隱しして木偶つかひ乾鮭に垂氷からつくしはすかな夜座自閑行年に古めき人の薄茶かなる。翌からは七里が外のかすみ哉米叔が乙未の年二月初つかた、雞が啼吾妻の空を跡になして、玉櫛笥箱根の霞を分、箸鷹や鈴鹿の小ぬか雨に笠うち傾け、足曳の大和路さして、影とともに四人連にて首途せしに吾妻出て吉野見る日や幾日頃木下絮水歸藩を送る。梅雨晴の富士を御後ろ姿かな靑木三花、なにはへ赴くを送る。御とまりか御晝休みか雲の峰赴一萬坊が菊貫に從ひ、信濃に趣くを送る。さつき空淺間かくすな五六日保牛、信濃へ旅だちける時馬の沓蹴こむ碓井の若葉哉米叔がふたゝび大和へ赴しに系大書俳本日離別部米道が大和より浪華にかへるを送太郎米德が初めて大和へ趣く時餞別の辭帝王の籍田を耕し、皇后の桑葉を採給ふも、下の勞を知召むためとかや。晏子が曾子に馬の餞せしごとく、小むづかしき事をいはんとにはあらず。是より旅のうさをもしり、從駕の勞をも思へかしとて可愛子に今ぞ見せたる旅の月菊貫歸藩に鴈鹿虫秋に富たり御旅日記片岡菊圓が君より先だちて信濃路へ趣けば、例の心設けの柄短き筆の用意もあるまじ。惟光が懷ろ輕し秋のたび古〓へ旅だつとて、西尾の君秀井のもとへ膓がねに成て上うぞ三河まで銀鷺の姫が城へ趣給ふ時唯薰れ江戶な忘れそ富士南甘棠歸藩を送る。日和旅蟬ばかりこそ時雨けれ在轉、卯木咲空に浦嶋が箱根路を越て、はる〓〓の都路に第を曳き、我古〓へも足を留め、泊瀨やよし野の葉櫻見むとて旅だちぬる馬の能·と蟻の羽も旅も身がるし薄衣保牛が、たち歸り又もきて見む、とよみし松が浦嶋へ旅だちし其雄嶋のとまやよりも檜木笠旅にあらすなさつき雨菊貫、信濃路に旅だち給ふ。予も程なく同じ山路を分ぬれば花薄君が枝折の御あとから長月の頃、斗來、宇都宮へ旅だちたまふ時旅の酒他〓の菊はけふばかり藻句發莊山明蘇ニ
二二御句もさぞとのお泊や九月盡壬寅の秋、米德が大和へ旅だつ時、米叔も供して上りぬ。凡古〓を出る人は、箱根の峠を越て家を忘れ、大井の逆浪を渡りて江戶をわする〓ならひなり。今秋日和の晴たる頃は、いつも吉田·二川のあたりまで、十峯の蒼天を摩して見ゆれば秋の富士江戶を忘るゝ日數迄神無月朔日、菊貫、松代に旅だちたまふ時日和風神に連だつ首途かな小夜·宇津谷の北時雨、樫木·さるすべりの雪吹にも瞑眩る事なかれと、米蛙が首途な壽ぐ。月も雪も江戶迄くすと頭巾哉米何が旅だちに寐ずに聞け興津の衛久能の鐘〓旅部八月十六夜、梅澤より日は入りぬ。月に興じて歩行し、鴫たつ澤の菴を敲きて、一ぷくの閑に昔をしのぷ。僧は明る鴫たつ澤の月下の門歸藩の旅だちしける時、桶川の驛まで米仲の送來り、宵間過るほど酒汲かはして、旅の酒猩く菊を捧うよなど聞へければ馬の尾に振捨られて龝の蠅生麥村のほとりの賤が垣根に白く咲るは何の花ぞも。夕がほの能にも似たり野雪隱良夜、さよの中山を越ゆ。新月に高挑灯をくもりかな一とせ三枚橋の落て、はからずもなど聞へけ早雲寺に信宿せしに、けふは九日にあたりしとて、主の僧の菊の花をいけて見せたるを、供なる米洲に贈るとて旅幾日菊が〓へて九日かな美濃路をすぐる頃、重陽にあひていけながら胡座の瞑やかゝへ菊大津の郵亭の樓に登りて唐崎の秋は花よりゆふべかな鳴海にて重陽にあふ。馬柄抄に菊折そへて長柄かな二月のむまし乙女やおふく女郞雨夜庵、牛天神奉納梅さくや和光の風も東より長門國住吉法樂紅梅や海を守りの目あての燈石壽觀、江嶋奉納法樂待得たる已の曉やほとゝぎす山口瀾長、澁谷氷川社奉納冥加あれや露のまに〓〓菊の幣釋〓部達磨賛糸遊や空ふく風も無一物やよひの頃、雜司谷にて櫻たもみな長房や雜司が谷布袋賛和尙〓〓、囊中何物あれば行住坐臥に身をはなさゞるや。世智賢き者は天地萬物の無盡藏といひ、愚ニ三神祇部玉馬上邸稻荷年〓初午奉納の句初午や作事奉行を神司初午にもまれ初めや國家老初午や夫は因幡の上やしき町くの稻荷祭を見めぐりてはつ午や負れて歸る武者一騎物藻句發莊山明蘇
二者は金銀寶貨の入物と美む。迷へる哉〓〓。囊中本來廓然たる大空、色もなく香もなし。此中別に何物かいべき。月華にくゝりめもなき袋哉城西の靈仙寺へ松茸取に行侍しに、此寺は古へ婆羅門僧正の竺土より渡りて、行基菩薩にあひ給ひし所ときけば松茸や眞如朽せず雨の後月ごとの中の八日には、淺草の大悲閣に歩みを運びぬるに、乞食法師の、朝は霧を戴き、夕は露にしほたれつゝ物乞ふを憐む。物貰ひさせもが露のいのち哉各〓眉毛橫眼上師は吟じ弟子は指す月夜哉きみが心をとりに來たればぬす人といふは若衆か梅の月降くらしたる宵の雨、是ぞ雨夜の物がたり。喰つみを燒や藻しほの妹が許長恨歌の古事をおもひて梨花一枝其雨ふりや局下り扇面賛三句其角が鶴の曙を此夕暮におもひよせて八法の春の日永きあゆみかな夕簾かゝげて人待風情、ねたしや。又連歩して出來るもなつかし。駒下駄に降るやむら雨櫻陰札付の君狩くらす櫻かな神樂坂の茶〓に休みて藤咲て四五日郞に佳人哉黄昏にほの〓〓見ゆる。卯花を見眞似に妹がけはひ哉系大書俳本日戀部盜人といふもことはり小夜中にある侯の許にて、主のしめゆひ給ふ婦人の、牡丹を一輪おりて、是に一句をと所望ありければ、彼天寶年中貴妃の一捻香の事た思ひ出て楊貴妃に又つめらるゝ牡丹かな英氏〓賛蓮の船西施ふりたる妾かな淺卓川の早舟も、おもふ人には又遲しと、三枚かたに袖すりの宮をしのぶらめ。蠅帳を顏にかけてや夕頭巾鬼灯鬼灯やかぶろが帶に一つづゝ源氏探題山路露文やある小君にすがる筆つ虫秋は三笠とよみしゆかり深し。是は〓〓とばかり花にめでしも、檜笠のてがらぞや。月花のよき宿りあり笠の下浦夕、新宅へ移し時新宅の釘にめでたし古團扇吾山が庵を移せしに略詞書有新宅の竈拂ひや誰が御秡笠志が万句せし時、十德姿のつき〓〓しきを是は〓〓世を空蟬の点者振寛美が万句に父に似て翔れかひこの杜鵑易難が万句腸の土用ぼしする万句かなやう〓〓九夏の空にもうつり行まゝに、魚游が、何ばかりもなきたぶさもうるさくや有けむ、やがて剃こぽちて俗塵を離れ、風流三昧の二〓藻旬發荘山明蘇雜躰部笠志が俳名を改めし時申つかはす。春はぬふてふ鳥のゑにし淺からず。
二六浪に躍る魚は月下のなよし哉山花が万句せしとき膝の月文臺わきの羅漢たち沾宿が万句に木まふりの先目立けり文臺坐月村所の号を師より請て寒梅や日增年增下手にさへ菊堂、初めより金丸を恐るべき身にもあらねば、菊いたゞきの友雀、住吉の隣をトして、小石川餌さしてふ里に雨夜菴の柴扉を開く。かくするより倍く鵬〓の間に世情をとゝなへ、二つ梟三つ木兎のをかしみに遊び、軒の滴りに時雨の琴筑を味ふ。予その壽きを物せんとて、似げもなく斗放の俤を書くろめて、側のひさご引寄するに、例の米駒つと走り出たり。門の守りにもといひふくめて贈る。しぼち入道となりしをよろこぴて汗とりをかぶれば本の魚游哉人はいさ心もしらず、と貫之はよみぬれども、古き昵近のよしみわすれず、中澤勝博が許より、古〓の名たゝる團扇てふ物を、よき便り求めて贈りぬ。實手馴す風も昔の香に匂ふこゝちせられ、〓女が過にしかたゆかしき物の譬へも思ひ出られてなら團扇雛祭より葵より梅動、癸巳の秋、かしら丸めて、名も〓鏡とよぶを賀して宿の月初めて壁に坊主くりおぼこてふ魚の、次第〓〓に長じて伊勢鯉に至れば、夫を名よしと呼びて目出たき魚とす。今才魚も米魚と改め、今宵三五の荒海にひれふらん事を祝壽。系大書俳本日寒梅をあうんに植よ風雅門曾嵐新宅の賀あるじ振疊の霜のおきな錆囘向院にて翁の像開帳ありし頃、翁の忌日に詣て兩國に瀨田のゆふ日や翁の忌杠春禪吾先師の道を慕ふあまり、万句興行の卷頭の發句を予に請ふ。辭するも亦風流にたがひぬれば、先師六盌の、下手にさへ道はつく也雪の人といへろ發句が思ひ出て風雅門上手につけよ雪の道自在菴千頂が万句せしときつよからぬは女のほ句よ雪柳其夢の其覺ぎはやほとゝぎす四時菴甘棠は竹馬の俳友也。病賴みすくなきなど聞え給ふける頃、人まいらせたるに、頓て歸來りて、今朝の程に卯華の雪と共に消たまひぬと聞ゆ。友鳥の八千八聲啼日かな同じ十三囘 詞書、追善集に在。靑嵐無絃の琴の調べかな亭龜十三周風雅の名殘して君がもぬけ哉亡師のしるしに詣てなれひとり花咲がほや塚の苔十七囘追薦子規あれといふ間や遲八刻古雨夜庵龜成十七周忌に、門人菊堂追善の句もとめしに在し名をせめて夏書の筆の留樂山觀拾翠身まかり給ひしときかなかな藻句發荘山明蘇哀傷部月日は磨盤のごとく廻り、春秋は白駒の影より速なり。指を屈すれば、師沒して十三周に成ぬ。二七
犬の伯母は今年も死ず降にけり妻に後れし歲の暮に鴛鳥の巴も出來ず年の浪露や夢ゆめの世や露けさの秋冬映、壬寅の冬家を移して、隣家なる梨樹を憐める隣梨菴と有のまゝに表し、その額は予に書てよと、かれていひおこせつれど、強化、まだ終らず、其事にも及ざりしが、此八月末の四日身まかりぬと、雨澤五陵が消息にうち驚かされ、今更世の定なきを悲泣してありの實もみな水梨の一字哉蜃水の許より、古蜃水十七囘とて追薦の發句求めらる。此君は同齡同嗅のよしみ深ければ、懷舊の情押へがたし。僞りのなき泪かな初しぐれ先師六盌靑峨居士十三囘冬籠る茶碗の昔其むかしおばの裏に籠りし頃、雪のふりければ系大書俳本日の浪慶賀部森米洲四十の賀に百はまだ躍盛りぞ春すゞめ樓川八十賀三老の上座しめたり福壽草土肥其流が七十賀百に手を伸せば屆く柳かな米洲五十賀鶯や万年枝上のちよつほ先百福壽の文字の數く、蒼頡が筆をたて初しより、史籍·鼎文など樣く分れ、世〓をこめたる竹の節に似たるも有、千年ふるてふ鶴の舞ふ姿になぞらへたるも有。是を以て西都が六十をことぶく。梅に似た枝振もあり百福壽山口瀾長四十の賀に三十九を越え給ふても花の春一万坊菊堂六十の賀祝壽盃先とれ花のせうと役若菜卷に、若く〓らにて、かく御賀といふ事は、僻かぞへにやと覺ゆ、と有。意をもて菊貫の初老を壽く。御四十と申せど御德若菜哉老蚕·冬映六十賀7玄中記に、松脂淪而入于地千年にして茯苓に幾十かへりぞ老がはる岱翁七十の賀壽饅頭一畑書けよ紅の花高野氏某六十一の祝ひに澁ひきて壽命目出たき團哉中村無扇七十賀親骨は千代ませと開く扇哉祇井のもとより、秋の季にて祝辭の發句需められしに此殿は宜も百きく百もみぢ在轉、編集功畢りし賀筵の發句菊の宴こは亭坊の彭祖ぶり竟宴小生年をかされて、染井隱君の恩顧を蒙る事淺からず。常に參通ひ、花の朝·月の夕の宴席に連りぬるに、こたび發句の集撰たまへば、其竟宴か物し給ふか賀し奉りて、神風やいせをの三熊野に生ふてふ草のしげり行御ことの葉のすゑを祝しまいらせて濱木綿の百重やうるふ春牡丹烏帽子のおもくひかたそよふく飛石をたどる手燭の朧にて二九在轉米翁仝
泄瀉まします敗軍の宮せつくろしいつのまにやら舟のあか三つ目四つ目のたれやかれ時辻君の手拭ふはと面はゆげねこの爪をと幽篁の隈酒の池肉のはやしのとし儲飛〓かへのたゝみ蜘手に本陣の星と移りて月漏てうるまの芋の蔓も出來秋ウ歸去來のきの字もしらぬ菊作針もやらる〓とは無分別猿樂の世はならはしの大醫異ならざりし白き襪子御秣もよしとて花の御座所いしくもぬるむ四の澤水碁は白かちに月のぼるなり斧の刄に袋掛たるすさまじやをちの摺臼も是秋の聲室の戶の唯心經にいまぞかり頭痛いぶせく有爲の浪たつ勾當の妻になどゝは聞も憂やくすと着溜て奥の奉公御百度を標茅が原の縉買んまた一しきりくらき秋霧やゝ月の筧に洗ふ鼠わな大學寮の庫の秋ほし古くよりきつゝ菜賣が翁さび手折たまゝの梅の年だま吾國の富士を花とも筆初め間ごとに霞む書院小書院ナかゝる寺持た所が眉に霜此穴しめて狸さぶらふ絃音もよつぴきひようとから風に轉仝翁仝轉翁轉翁轉翁轉翁轉仝翁轉翁轉翁轉翁轉翁轉翁轉翁翁轉翁轉翁轉延享·寬延の頃は米德·拾翠·蜃水·甘棠·鸞臺·〓秋と、花にむつび月時雨雲船待人も立さはぎ小あげのこゑのとがる木枯抄子迄あほう烏やさらへけむ隣れる庵に朝寐つゝまし畠から重げに妹が紅粉かたみ馬上の若衆袖は蟬の羽川ぞひの物見西日をいとはめや生洲と沖を喰ひ分る鯛山獨活の座頭が鼻に春も早綿ぬきいそぐ花の此やど竹たるきかぞへて虻の穴這入御名唱へ來るまろかしら共月明て汲涸したる秋〓水鹿も通はぬ城をせめぬくナ消殘る露よと老をけなせ共祕曲終れば卷上る雲汐風やしとゞに須磨の床たゝみ繪をかきたむる忍ぶ身のほど三成翁翁成秋翁成秋翁秋仝翁秋成仝秋翁成に語らふ友どち六人なん有ける。鸞ははやく飛去、棠もいくほどなく常なき風に散行、水·翠の二人も終に泉に歸り、今や米〓とやつがれとのみぞのこりける。齡も同じ友千鳥、北に南に餐れども、裏なき心は明暮行通ふて、互に額は渭濱の浪をよせ、眉に商山の霜をたれ、腰に梓の弓ははれ共、俳諧の矢たけ心は、かたみに替らずなむ有ける。今年此翁の年月つめる所の發句を、息の珠成、櫻木にきざみ、紙に押て、世に廣くせんの願ひをゆるされ、せちに物したまへば孝心に驚かされて先見たき校合ずりの一葉哉蔦のかつらにうそくらき窓露の月虫すらすだく所得て鎌のさがる用心の腰秋〓珠米成翁秋
二ニ干返す筵にきくの殘を見る他の子を育つる宿の露けくてくはら〓〓と終日橋のむな車醉しれて何が家中の小侍伊達にせし蓑の襟元見てくれとさしかゝる日待狂言書かねて摺燧是仙術のひとつなり兄弟は網もて出る生身魂生壁に匂へる月もあらたにて血煙咽をうるほす故事は何やらやつとで起し野渡の棹取我身世にふる秋のてふ〓〓はれぬ應仁の 月原註)空毛請に〓きさんだはらかな冬田の塵に流す黐藁うかり〓〓と來れば吉原小豆の色もつや〓〓と秋近習廻りのちやうのさや〓〓物讀の座に積りけり花の雪はべりければ竟宴の句つかうまれとおほせごと菜種につゞく四方の八重山しるよしの花の大和へ貰ひ繪符くさき雜煮に向ふきさらぎあらぶさた妻の祥月かい忘れ腹卷ながら傾城がもと嗽ぐ水に秋なをしみわたり潜り〓〓くゞる長露地の萩今月の入る山の端を高廊下帶しめなほす酒のさめぎはしれ者と知てすられし無念やな鴛も御法にむれつゝの寺薄雪の松のあたりを掃のこし徒士の目見の威風揚〓面瘡の跡耻しき鬢はづれ珠來難洲魚來翁禪洲難抄成來洲禪魚成抄堂翁翁秋成翁秋成翁秋成翁秋成翁秋三僧向ふ〓は襷をときながらはやく戶をさせとや雪の北風眞先に獲の雉子ふら〓〓と軒並の物みな賣れる神の花下簾源氏の御すそ露ばかり雷の音はるか遠くに暮の月鍬鍛冶の業に矢の根は覺束な日和よくて事少ななる早どまり流行出す驗者も物や付ぬらむ機あやまる馬士も棒下の禪十万石ヘ三井寺戾り女はら〓〓ひけこぢれたる役所むしつく箒をかりて居る熊野玄關の硯首のない筆音方角もよし日あたりもよし豆腐の外に釘はあがらず寒き郡まはる春水內の三町路武藏鐙かけの弓弦喰しめしいづれ戀病隱しめさるな尼君へ附〓の衆のあでやかに扇が谷の風ひかるなり鶴龜を兼て手飼の松の世を模に餅をいたゞく年〓にいさむ昔のいくさの日舞囃子にて夜はふけにつゝすでの事二階の額で御つぶりはれなば富士は雲のあそこら供船の添て洲崎へわたり鳥鱸鱠にひやりおぼ ゆ竹箆で柿わる興を月のさはぐばかりで果ぬ夜普請智惠袋よき錦にも限るまじさせば刀と見ゆるつり竿けふも亦霞汲むと野ら掛て朱にまじはれや眞白なる蝶春る前三二梅米易白春米珠米成魚來翁洲難魚禪翁成抄來禪抄來魚成翁難禪抄堂洲難魚來翁成堂魚難抄禪洲成翁
三四矢立で一句つくばふてかくあひしれる爰の小娘眉とりて蜥蜴のこなをうち捨にけり鳳巾花の木の間に遠近の尋て三里桃のみなもとナ夕霞賑や吐しかくれ里犬はしらする兒共ひなびす辨慶は砂の黑汗をし拭ひ珠數さら〓〓は茶漬にもあり明烏御夜詰觸はいましがたはらませらるゝ猫も抄子も繪曆の拙いところしほらしやさゝらへ男いつかのぞきて雪隱はしげり倒れの八重葎幻住菴の秋の夕ぐれ奥州の紀行泣く事笑事落馬の打身雨間風間に拔影のみもひも寒き土用〓有がたなみだ膝にぼつちり百しきは此川西に古都平家ばかりがわるいでもなし入むことそゝのかしてもいかな吏おもひに重き彫ものの槌今日もきて郞をふさげる点者殿禁酒破るゝ月の此ごろ鮭の魚布川の秋の色に出て在所のわすれられぬかりがね笈摺に改元の字はまだしらず團子の木鉢幾世經ぬらむ牢〓の劍を彈じて人宿にずんずとのびるばかり若竹あの見ゆる注連が苔路の行留リ華山院のおみあし(の痘多葉粉迄翌の用意は無ぞよき長鯨のごと馬檜杓の水幕打て月見る狩の山寒し抄難洲禪難翁成魚來抄禪洲抄來洲禪翁難魚成來抄禪翁成洲難魚翁來洲成魚禪抄難堀出しをする石菖の鉢くり〓〓と車をかけし朝より獨居たがる山水の癖筆結が來て明て行湊筒持佛ばかりをわざと煤とるもりながら霰聞なるあられ酒短冊ほしとしる〓顏つき寐匍匐ふ花にまさなき丁ども東南のかすみことさら來洲難抄成魚來翁禪名に高き〓と葉の花 や風薰父君の玉句あまた、珠成公櫻木に載せらるゝ事を許され給ひ、彼是文飾まします端に、やつがれが一句も加へ給はむとの仰もいなみがたくて桐一葉天下にしるや色表紙竹によしある此君のおぼしたち、庭松の鶴によせられ、御句巢を春に改められむとて册子なりぬ。其竟宴の瓊筵にもまじらひ、人〓と共に句〓仕りぬる事を名月やその一籠の花千種おなじく霧晴て仰げばたかし秋の山一集を撰たまへば、菊を竹によせて此君の千年や花のおきな草御ふづくえのかたはらにはべりて靜さの御伽は御桐火桶哉三五秀國易難染井の山莊にて集つくらせたまふに、彼小倉山の昔をおもひよせて花なれや筆を染井の山屋敷月に滿ち雪につむ君が佳作の無盡藏なるを染井のやかく咲花も涌にこそ御發句集を賀し奉りて花千種春禪冬映藻句發莊山明蘇笠志雪齋梅堂米伯
今年霜ふり月の牛、四年ぶりにて東へかへり、染井の草菴に移住しぬるに、旅衣をぬぐ間だにあらで老君に侍座す。御かたはらのふづくゑなるみづからの發句集一册を、くりかへし校したまふ。拙衲も拜覽を許され參らせて、眼鏡に鼻はさみて沉吟するに、くさ〓〓貫玉の高調なれば感伏のあまりに水仙やこがね白かね玉のかず遙に賀し奉りて園の雪御發句藻の貢哉父の年頃佳致を得給ふけること種をとりかさねて、やゝ冬のほどにいたり、一册子にはとゝのひはべりければ、なをくちせで殘らん事を壽てかきまぜし松葉よ千代の門の雪此十年餘り八重櫻奈良の古〓を離れ、夕紅葉染井の隱家に世をのがれ、風流三昧を己が役とし、春の雨の〓め難きも、秋の夜の寐覺がちなるも、口重くなほ〓〓しき發句をうめきて、老らくの至るをもしらず。物の端にそこはかとなく書集し句〓の、いつしか塵泥と積りぬるを、物の序に例の珠來に見せて、是が中に浪華の濱のあしきを捨、伊勢をの浦のよきを撰てよとて屬しぬれば、日をへず撰定終りぬとてかへしぬるを、五郞なる珠成らが、世籠り埋れんもやくなしとて勸めぬる程に、世上の譏笑をうくる媒としりつゝも櫻木にちりばめはべる。甲辰の夏桑門米翁儈米叔米洲翁珠成てさ哲阿彌句藻乾·坤晩得
哲阿彌句藻序我滑稽の先生〓談林主人、初の名を堪露といふ。後時〓菴が門に入て北齋と云。又、朝四と改む。故有て朝四の名を息る事三年、桃栗と号す。三年を終て再、朝四に一號木雁哲阿彌と云。會て寶曆の末明和の初めよ句を笑ふべく、正風をしたふ人は古調の句を笑ふべし。共に句藻くらへと云てやまんにはしかじと、雨後莽月成腰押して白す。時に天明三癸卯年〓明前一日復し、り古調の風雅を甘んじ、中にも浪花の宗因が俳風を慕ひ、紫隱春來ひそかに古調に志ある事を東風流にかゞみて、彌この道の高きを說く。されども諸の楚人に交る。折〓〓は桃靑が說く所の正風をもつらねもてゆくといへども、何かは本意なるべき。よて自高談林の額を製して壁上に掛く。宗因末流一陽井素外、此額を見てせちに乞得まくほしと、朝四の男仰鼻に書を寄せて、主人の留守を計り推て携去なんことを通ず。朝四許してこれを素外にあたへ、ふたゝび〓談林の文字を解菴に書しめ、彼素外が仰鼻に寄せたりし書翰を其しりえに繼て、又壁上にかけて、今は素兄が号となせり。將此稿や、朝四壯年より云出たる句〓の幸に忘ざるを、新古の風調をえらばずかひつけつゝ哲阿彌句藻とありの儘に題す。古調を慕ふ人は正風のしと、
四〇給仕には若衆ぞよけれ梅の宿晝までは皆素機嫌の梅見哉蝦夷紅毛の器に投入て春といふ通辭は入らじ梅柳帙入のいつ見る本ぞ梅の宿鬚そらぬあるじ馨し梅の宿春のよのやみにも梅や白魚や出違ふは梅のあるじや志野俗魴〓のひらき乾けり梅の軒睾丸の鳴る馬せめつ梅の門梅さくや昨夜のあたゝかにめでて壬寅二月廿九日、梅翁の百年忌とて寳馬·素外など百川亭に集會す。予も是につらなるうれしさを花の日や念佛衆生拙者風情梅散や既に宗因矢ごとし戊申春餅ほどに雪山のこれ菴の春〓談林哲阿彌句藻(前)春之部万歲や皷も例のつかみどり山出しが稽古の酌や花の春初空や〓少納言おもふ戀賣酒に下馬は幾重の霞哉下駄のはも餅を喰たる若菜哉外の樹はまだ墨〓なり梅花春風の苦みや少し蜆汁梅さくや土間に屏風の片田舍梅が香や我行かたに人も往くかつしかの香や行とゞく梅の時いつ梅にふれたる袖やたもと屎龜井戶參詣二十四や二十五日の梅の風飛〓〓にすくも俵やむめのみち此ほとり御師龍大夫梅の花肌に負ふ乙が眠りやむめの花あみ笠のむかし男や梅の道十分に梅の咲く日や大皷賣すき〓〓の頭巾かむりて梅見かな手本にもかくは有りけり梅やしきかひ燈す狐の尾久や白魚船火もらひやしら魚船に夜の聲今の海老藏に與ふ。文机に可愛のものや福壽艸鶯や里馴そむる乳母が子も一休の杖は似氣なし雪若菜春を見よ大空よりも庭の土春風や長吉やあの船よばひ捨がねのあとのふたつや雉子の聲片肌は脫ぐ女あり雉子の聲はつ午や穴一ゆるす宮所初午や飛〓〓雨後の道〓水初午や是ぞ薄着の始なる遲〓〓も足は持たる田にしかな涅槃會の場にも水戶の目附哉きりぬきてほしきもの有涅槃像春雨の一枚ぬれぬかはらかな錦織いとのはじめや春の雨初午やおさな馴染の宮も有はつむまや年をも化て二十題駕籠昇に見覺られつ朧月やぶ入を客あしらいの硯かな母の薙髮ありし時如月や風新買の さかな尼朝鮮人來朝之春高麗人よ覺て歸れ犬櫻〓見榮軒を悼む。直傳の百囀もむかしかな花よりも此きさらぎは柳哉四二かな尼藻櫻
四二船唄や帆は八合の東風靜らうそくのかひなく立や四日の雛前書有略すまたことし阿ほうよばりや初烏ふみ惜しむ土筆の原や堇艸万歲は兄弟よりも從弟かな音のして雪をくゞるや春の水柳見る人の風情や杖と笠散る花に韻字も踏て惜けりすごろくすりもの土山を題す。地をみれば柳を見れば雨が降寬美万句万天の雲もさくらの荅より錢醉武賤別ゆく春やまて芝小鯛ひとつ汲ん茶わんを贈りてちんと鳴りて花を惜や茶碗酒伯牙〓鐘子期がことを前書して白壁の江戶の中にも柳かな傾城のたまりしあとを蛙かな三日月の船見なくすや汐干狩初雛はふき合せずの尊かな名月の出處さがせ潮干狩汐干るや十里もゆかば初鰹ちりひぢて雲を手に取花見哉日も永し雛の壺中の造り花潮干貝とるや濡手に安房上總行合ふてかたるや花のもと旦那寛永の錢を蒔てや山ざくら花に樽荷ふや誰か歌のさま散れと吼る鯨や花の波間より三月廿一日ほとゝぎすを聞。彌生にも雨のふる瀨歟ほとゝぎす山更に粕煮の鰤やはなの春葉に落て夫から落る椿かな泰琳が母の八十を賀して系大書俳本日鷽とりの琴彈やまんことしより二代目木奴參宮賤別旅は寶目に諸〓〓の貝盡し西外を送る。見送るや笠間ふかくも夕雲雀八人生は雲かとよ花の梢もしら幣おもひ出の字を浮たる蛙かな離〓大地皆黄金なりと、僧の〓けるをこばみて山吹や離るべからず馬の口長崎屋后班が額に月に寐ぬからすよ花の夜も啼大藏何がしを訪ふ。陽炎や有かと見へし太郞冠者甲辰の春致仕の願ひをたて、病の床に臥て龜の尾の山師が髭や千代の春薙髮の朝水も汲め佛の弟子の坊主風誓願寺存義居士墓前日暮までは居られぬ春の寒哉牡蠣売に船着く音や朧月漁火に續く湯舟やおぼろ月庭に見てもとの坐敷や春の月庭までの御ふみ使やおぼろ月菜の花や橋から見れば明屋鋪足輕の花見て行や高畫間鶯や船から聞ば峰の聲苗代や檜抄も立ん水のたけ三月十六日松魚到來天晴をのれは春に魁の鰹かな花守と成る古雛や棚のすみ桃源をおもふ。雛見の出所迷ふ御舘かな弘法大師九百五十年忌.眞言一派四三哲阿な
四四鶯に脊中をあぶる茶無垢哉ぬくとさや梅の日向の猫背中不空居士墓前から臼の音は合點歟春の月白魚や塵も吸べき玉の肌菜の花や長者が家のあとならん池溶て桃に登れる緋鯉かな喧嘩する兄弟もある蕨かな村長が水籠ふるしつばくらめ富士うつすまでは春けき田打哉兎來が伊勢より戾しか賀す。ふだん着に成ても匂ふさくら哉賑ふや雛のへつつゐ雛のかましゞみをも買に往けり梅の時悼木丹所齊日や焰魔の廳に一句せよ藤浪や名殘のうらの花處淺艸人丸堂奉納、雪溪願主大法會、於護國寺興行花ちるや佛きざめるけづり屑野遊びの土筆擲つ童かな鶯や終日汲める井のほとりうぐひすの門には除けよ馬車初春やまだ鶯はサ井屋鋪より若菜つみにと女かなかつしかの菴中むづかしや七種菜めし豆腐汁想捨かねて沽るやうき世に懸相文遠州屋權四郞が雜煮の中に錢の入たるを賀す。此もちの御あしは强し宿の春井戶ありとうしろに〓る菜摘哉半隱といふ額を和田某に贈る。牛部屋のなかばかくれつ桃の花牛嶋のほとりに菴を結し時、三圍奉納此神の田にしも習らへ歌の端妹とよむ癖はゆるすや櫻がり麥はむぎ菜は菜としるや春の雪あくがれし日頃や嶺にけさの花瀨のつくものにはあらじ種卸苗代に遣ひそめたる附木哉妹がりの雛のおましや繻子の帶はご板の懺悔ばなしや雛の前艸もちに黄粉の色や何がさね二代目穴山源大兵衞七囘忌淚ぐむ七合入のかすみかなはるかに人家を見て花あれば則入る、といふ事を書て路丸に與へられしをおもひ出て珠來叟を悼む。花散らぬ佛の國に入る日哉吉原の鳥籠廣し夕ざくら大こく屋七五郞が藤を紅毛がいて來し珠歟雨の藤鳥追やふり袖はさむ諸つばきとり追のゑりまきしたる娘かな和水新宅春風櫻と云澄む水や春は四澤に三ッ葉芹出代やいく夜歟寐たる夜着包菊武老母年忌 前書略ほろ〓〓となるや雉子の空車長松院三囘やく瓦ともへの紋のかすみ哉行脚の後、歲旦見しや夢松が浦島太郞月鶯の弓にも矢にも茶抄かな福壽草硯にあまる水かけむ三河稻荷から衣きつねも二月はれ小袖初午や我は藤棚かきつばた老猫の戀や巨達の醉まぎれ我を見よことしも有て初櫻雲とよむさくらに啌の上手かな四五藻
四六賤が家に庖丁光る蚕かなうぐひすや土鍋の欠は藪の中帳かきの竹の雫や春 の雨風鈴を別のかね や猫の戀しのぶにも藁屋は安し田舍猫神稻判者披露ひとり手に淺瀨は見ゆれ春の水あめ色の花瓶ねぶる胡蝶哉蝶ひとつ野ごゝろ誘ふ小庭哉遠からぬ彼岸の道や西が原初午の三味線交る夜更かな前書あり略菜のはなや皃は嵯峨野の女郞花梅に折る膝を伸たるさくらかな內に居て雪見し人歟初ざくら身の丈を枕に曲て櫻かなきげんよく旅人立し蚕かな一しきり波たて打や桑子棚曲笠万句初虹や長点かくる筆はしり手習のまき閨のつまちかき紅梅の色も香もかはらぬを、春やむかしの、とこと花よりも是に心よせのあるは、あかざりしにほひのしみけろに中。手習の反古ひらくや梅の墻棚かりて藤も世に住姿かな三月十五日白魚や此川岸にちからなき三月盡、本久寺會鶯のしはがれ聲や作禮而去松葉屋の瀨川、劔に伏せしは、今より五代ばかりもむかしの事也。其年回にあたりて、墓画誰人の作りたる歟七言絕句のからうたを手向られし、いとあはれなるしらべにて、手も老筆と見へたれば、とゞ音もおもひやられ侍る。其光はや幾と せ歟忘れ霜系大書俳本日れ霜漢漢句惠方先徒囀竹生黃鳥笛醉花有頂天僧厭人來鳥手拭に帋衣濡たる初湯かなはんの木の小枝集て霞かないつの日に笑顏見するや野老賣初午やはつかに見する帶の伊達秋は野菊初午頃のよめ菜哉聲ふるくいきとし池の蛙かな二月十五日、春來忌きさらぎや色則是空あめの鳥芳川子更名曲水の居處替てもらひ鳧洲さき村名主平十郞初雛鍬鎌の調度もあらん雛の鯛山吹のなきにも耻ぬなたね哉來何万句かげ長き池のおしてや藤の花淺艸觀音開帳かん木の削り屑もや花ざかり普買ぼさち奉納花に茶屋かりのやどりもよし簀哉夏之部ほとゝぎす聞ての後の朝寐哉桑人や羊さがりの衣がへよし切や得もの〓〓に船の飯宿とりも逆さに掛る扇かなほとゝぎす揚屋に聞し人は誰夜も船も三十石やほとゝぎすやみの夜も甍は見へつ郭公母の勘氣をかふむりたる者に寐處に幾夜迷ふぞほとゝぎすほとゝぎす屋ねなき船の手がら哉四七哲阿彌句藻鳧
四八のほる日や靑田の中の戾り駕田樂の御秡の串や角田川芳野川花なつかしき御秡かな生肝を乾す日やなくて時鳥むし干や通鑑の中の裸むし永代の沖にや雨の幟竿ぬけがらも共に並ぶや蟬の聲また水のすなほに習ふ靑田哉(き)愛岩香せん湯目には白壁ほとゝぎす菴よりはふとき牡丹の柱かな短夜を茶屋は水鷄の空ね哉何貢ぐ四手の駕や不二まつり瘦馬の重荷憐め草いきれすし賣のすの字も高し夏の月兩國橋上空に投る礫の玉や夏の月或人の子の異見に賴れて宣時が夜更て捜す茄子かな砂糖なき賤が垣ねのいちご哉我罪を燈して見せるうぶね哉もろこしの土間にもの食ふ牡丹哉霞曉が名あらために名に狂へ人間十九や廿日艸歌人より子持ははやし蜀魂うら店に其佛やなすび漬芳澤五郞一に申遣す。五月雨や虎が樂屋は漏る斗巴屋の虎に題して引置の茶は覺束な郭公靑樓にてやれば又貰ふ夜も有鰹哉生垣の蜘の巢けぶるあつさかな夕立の浴せて廻る七溫泉哉山駕の息や集て雲のみね墻と成り橋となる夜の扇かな引郭公横町に飛事はやしほとゝぎす江澤屋が酒店をひらきし時呑口の音を水鷄に聞せばや送別鍵や〓〓やりや皐月の旅裝ひ二番目もありと聞ゆる松魚かなかつほいわし初がつほいなとはいわし伊勢が錢浦島が直やつけかねて初がつほ捨置ししのぶ見出すや椽の下寶鐸の湯と成日あり蟬の聲大名小名揃ふて待やほとゝぎす子規耳にもほしき目がねかな土用洗ひ百人前の暑かな五月雨や降晦日のやみかけて送別來る秋の風の枝折や雲の峰蟬の聲は木の間に湧る泉かな行水は寒き日もあり佛生會子雀の日がらは立ぬ誕生會ほとゝぎす人の聞日に聞がよしお寺からさかなの來たる牡丹哉花街百花歷亂おのづからなるや旅寐のかしわもち若竹のふし事習へ奧坐[頭唇に殘る花柚や小さかづき夜啼は淋しさいかにかんこどり歌よみは鬼の首獲つ時鳥凉しさや江戶にもひとつ椎が本寐はまして先手や後夜の時鳥二の腕に笑ひつゝむやかしは餅身をいろ〓〓五百羅漢の暑哉隱題一聲のほと時酒や過るとも哲阿藻
五 〇近付を旣に返しつほとゝぎす白壁にまた取付きぬ蝸牛蚊屋釣りてうき世遁るゝ稽古哉むく起の豆腐の耳や時鳥ばかまちの耳をこく日や郭公十七家引わかるゝ時むつかしの離れ加減やかしは餅聞ほどに十聲に過つ時鳥米仲追悼松魚好おもへば是もかたみぞと送別荷印の軒端につゞく幟哉武藏野や何疑ん雲の峰初袷いかに淋しき膝小僧卯の花の雪にもそゝげ古布子ほとゝぎす朝陽斗の揚屋町〓讚立とまり連におくるゝ〓水かな誰袖を落て手鞠の花や咲く服紗にも肴籠にも粽かなむづかしき事有りて女客を得たる時初夏の天糸を解にも能日かな獻上五月雨や松の御間のさぐり足帷子の鎧をきたる節句哉雞口牛後にはあらで蚊の觜とならでうれしき螢哉寐冷して人の暑を見る日かな樽ニが新宅足る事を知れ三郞兵衞夏坐鋪山彥源四郞が妙手を感じて帶曳の其手も薰れ夏の風御祭に追ひ廻さるゝあつさ哉くつさめの暑わするゝ事暫く六月なかばやうやく稀也。系大書俳本日夏の夜や鐘の聲短うもなしいたゞくやけふの佛の御はな屎佐野氏を悼。よしきりや是も血に啼おもひ有ほとゝぎす隱居の後の朝寐哉湯島蓮光院晝は口に土用が入歟ほとゝぎす雨に聲をむらなく蒔や郭公染井竹の子も御家の子也半夏生五月雨やおもふ事有古小袖乘掛や五月雨こぼす油紙いかめしき夏桃うりの楞哉二度たかぬ飯のかはりの蚊遣哉釜かけて暑忘るゝ嘘もがな忘れんと暑に釜のかけ直哉蜀魂腐りし墨の枕もと雞冠を訪ふ。まだ花のあらば尋むほとゝぎす燕もはたらき顏や 早苗時新宅おもひつゝぬるや五月の泥大津夜ほどに晝の靜やかんこ鳥坂田杉曉に與ふ。二句鬼か人歟遠目に風の幟哉田舍にも男壹疋かつほかな聞送る山の端にげよほとゝぎす誰が方にさす盃やほとゝぎす聞初て來ぬ夜待るゝ水鷄哉龜文新宅ふく軒のあやめも三葉よつば哉杵屋佐吉に與ふ。御秡せん佐吉は杵やつゞみ唄ほとゝぎす是をや江戶の鉢扣かや釣りて身は飼鳥や郭公ほとゝぎす江戶は入べき山もなし三一哲阿彌句藻
遠雷ばせを葉の松魚と聞て開けり二日めは板はしまでも松魚哉かつほ見て參れと寮の御馬哉御次にもあらめづらしの鰹哉送米瀝を前書あり略す見送の星歟ほたる歟銀こじり郭公飛耳鹽ほとゝぎすとつてかへす歟海の上細腰のはちすにさすや船の棹彫殘)梅雨藪醫寐まきより移れば寒き袷かな今ぞ啼花の唇ほとゝぎすつく這て侍すゞむ川邊かな夫水三千句ふしつけて發句も唄へ田植どき蓮開泥龜中薪水婦人追善梅の雨しめらぬ菓子はなかり鳬百萬十三囘冷しおく瓜なつかしや爪印座禪六月寒布袋の讃夏の日を袋にいれて風やかぜほとゝぎす帶を掛たる屏風かな病人の見ゆる二階の若葉かな朔日の袷さよりや笊の尻大根のことし子賣るや佛生會一日づゝ越る暑や雲のみね片手にて波を文どる鵜川哉五月雨やまくらに飽て机さみだれの晴間極よ三郞兵衞紅ゐの舌も喘ぐや富士詣守る人の是も碎くや心太いくち小左衞門を憐む。系大書俳本日皿山や素麪上手今はなし雨を得て涼しき土の匂ひ哉歷〓になる心な き暑かな船頭に多葉粉のかゝる凉かな悼龜岱蛸とらへんといもの葉がくれといふ句をして手がら有しも、きのふけふの事なりけり。蓮は何いもの葉がくれ失にけり(税抜)築紫の秋水子より朝くらの蔦を、からの帋にすりて送られたるに神馬藻の玉もの得たり夏の月天明八年奥羽行脚さき觸もなき旅人や郭公鮨川の波の幾重や夏ごろも白川市中むかし朱の椀を洗ふや杜若關明神にて、はじめて聞。ほとゝぎす奧ある聲の始かな二本松釋迦堂川ゆび指すや藁屋に鳶尾の花御堂辨慶すゞり石墨色の曇やいかにほとゝぎす夏川の糸はみだれぬ柳かな旅十日まだ綻ぬぼたむかな多賀城しのぶ草取盡して や古瓦ゑさしや文十郞勸進けし散や緒絕の橋の鉋屑鞍に寐て何も岩手の夏つゝじ新庄關守佐藤久七所望通れとの聲につゞくや郭公金三郞といふ男を倶せしが、一日はやく此ものた先へ遣す。予は橫手に逗留。斯人をもつて初音や時鳥小野村古瓦哲阿藻や時鳥三五
五四早乙女の袖をもかりて淚哉此土も序に返せ田植ども法燈寺といふ處に晋子の塚あり。寶永四丁卯二月二十九日皐鶴の手跡と見へたり。五月雨や障子の反古よみ盡し早乙女は遠目ながらも女哉八郞湖、鮒の名物なれば近江にて五郞よく聞け郭公柳町といふ所、遊女とつかぶし·まかきなどいふ哥をうとふ。其唱哥に君はさま野のきり〓〓すといふ。啼ぬこそうけれ夏野のきり〓〓す江口のさとのむかしもおもひやられて、法師が袖もうく斗になむ覺うちと。まきのとのまいる夜くもれ夏の月と書てとらせゅ。芍藥や似たる姿は皆老女强からぬは田舍造りや一夜酒蚕飼ふ生れのまゆの女かな橫手蛇が崎中村忠七を憐む。旣に手を掛んとするや蛇いちご院內山中木曾に似たり箱根に似たり花卯木橫手大燈國師の詠によりて万石の靑田障子の引手より牛嶋といふ驛にて牛嶋と聞ばふるさと五月雨能登屋喜衞門亭にて死なで我百里若葉にうかれ鳬おもひ出し〓〓卯月の寒哉山屋鋪岩屋何がし別莊を守る男に麥の穗のあとへすさらぬ男かな蚊もひとつはや近付の聲す也天德寺參詣あさはかな咒ひ事や夏はらい然云君が鬚無きが如、と聞へしは万葉の上世、今のよには逆さまの宵に髭剃る蓮見哉晋子の風や學ぶ自賛。三世流通の御眼にもおはぐろの柄抄ともしらず佛生會賣水のふもとや路次の井戶印水賣の額もかけけり不二祭是も雨けふの艾の虎御前なを人がらのなつかしきかな喜八よべおもとは來ずやほとゝぎす〓讚ほとゝぎすはやから衣から簟笥泰室更名新麥や道中腹の手際見んほろがやの身は山住歟ほとゝぎす蒼海の匂ひ嗅出す凉かな祇園會や御歴〓〓の腕まくり六月やしぶき眼鏡の厚氷祇園會や江戶は引べき山もなし染井翁御百箇日けふも啼け般若波羅蜜の蟬の聲句彌阿哲藻旺盛
米國の米の精なる角力哉菊作我家を旅寐こゝろかな溫泉の山や肌骨に徹る鹿の聲かよひ路や馬追ひ虫は有ながら十寸見蘭洲名あらため蘭の香や障子を透し幕を拔け此すりもの、龜成のし〓にて見事なる事なりけり。眞夜中に釣瓶の音や天の川初雁や雲井に文字の一くだり名月や駒とめ石もあからさま降はるゝ花野を雲の罔兩傘ともにかつぐや生姜市の人生姜市千早振着の店迄も脫といふ狂言せし時池ちかき下部が酒の紅葉哉江戶繪圖の赤處は紅葉かな射稽出精の人に〓談林哲阿彌句藻1 H秋之部驚けと七夕竹のそよぎかな初秋の旣にはら〓〓扇哉桐一葉撫とも石の井桁かなみそ漉に膝を容るやきり〓〓すあらがねの土にうへたるすまひかなもゝ種の花に碎くや角力の手踊らせぬ親しなければ魂祭土器のゆかしき土や魂まつり大道寺遊翁老人入道せられし時氣にかゝる蜘の巢拂へ月の秋朝顏の蔓やきのふの古元結天津星入の小袖の膝や菊の酒强く引く鹿驚の弓やあたり年たゆむなよ殊に八幡の竹の春こと國の尺を遣ふ歟きく作り蚊屋を漏る銀の調度や天の川良夜海望くまなしや月の八ッ山九品佛おどり見は御江戶の人ぞ合點歟椋鳥や何を松戶の一やすみ千代帋に折ばや菊ののし包買色、地名の題を探て洗濯島を得たり。月一夜爰も仕舞へのゆるしぶみ又、音羽を得たり。きぬ〓〓や九町は〓の深如海名月や梣にとゞく湛汐悼旣醉帷子もけふ脫すつる別哉おもへばの人と成けり片月見九日是も又黃ぎくしら菊足袋の節悼木奴惜しや此人も三十九月盡旣醉一周忌醒て後しるや月日も走り酒三囘の追善會けふをまた八月盡と惜みけり伊丹の人のもとにてけふ浸す酒や故園の菊しるし飛石も藥の臼やきくの庭もみぢある寺の枝折や賣紅葉耳ひとつ枕につぶすきぬた哉裳裾ふみ又はふまるゝ踊かな月におもふ昔は爰も海ならむ狂ひしをぬきも捨ずや菊作り旣醉七囘艸雨に臥て鬼灯ほどの淚かな煙草にも名あるをのむや菊の宿哲藻
秋かぜに凋まぬや此男へし辻番も薄一株月見かな百菴八十、翁五十、夢また八十。ちふ屋の店に居並びて俄を見る。据邯鄲の夢のまつりや九月〓本立山の和尙は越の產近寄て越のすが目や夜の菊仙境はひとへ隣やきくの籬靑樓のうしろなればなるべし。玉などの降るべき夜かも星祭七夕の〓書見せよ小傾城百和が退役のしらせを驚く。七夕の短尺飛ばす風にくし箕作貞曉を悼む。ほや〓〓の團子も淋し盆の棚秋を知るや蕣は葉を以て鳴秋水如練川は又しら鮨ねるや龍田姫置く露や石にも見ゆる國の風俗人も來ず夜食もはてつ暮の秋白露や有ほどの葉にひとつ充喰あたる眞珠めづらしけふの月角田川月に柳の有やなし三圍奉納春は初午秋は羊の田面かな眞崎奉納掛稻やかけてぞ賴む御瑞籬初雁や文月過て廿日あまり其數も珊瑚珠とりや海の月四間五間宿の月見や芳野丸谷千尋手の舞茸や足かゝり題〓うす頭巾かづくや月の維摩暮初鴈や都の人は腹を見る木奴十三囘阿羅漢を今や集て西の關系大書俳本日落栗や先とり敢ず從者が笠幾秋や硯洗の水白ししかばねや瓦やあはれ花野原前文あり略すかりがねの我腮長しアまつ空中村慶子七化浪華の名殘、摺ものあり。七種や秋もめでたき拍子事朝顏や隣家の讀書同じ處夜中より荒手加はる躍かな五十年稽古の下戶や月の秋菜汁せし僕が手がらや末の秋禪刹看板に夕日を掛て紅葉かな河東上るり本したゝめ遣す。前文略す汲や月としもますみのかゞみ樽前書あり略す石となる星もあるよし漢河星合や四ツ谷の宿は馬斗我宿もむさし野近し女郞花よつく見よ目はぢき草に秋の風去ながら白髮は見せぬ月夜哉丁子屋雛在が盃をひらく。秋の蚊に額撫るやしたみ酒公家衆、秋參向あり。土御門月見かとこそ聞へけれ隅田むらや月の夜頃も十二三万古燒秀平薙髮よく澄むや嵐の後の秋の水題虫籠松むしや宵の間の一とちろり五九藻金烏飛で海に入れども紅葉哉藥研堀不動奉納山ほどに動かぬ時や秋の水
六〇魂棚やせまい處は御堪忍朝皃の花をほり出す葉の後ろ六十年石垣よ瓦よ露の秋をしれ秋の日や欄に暫く樹〓に暫し新月や萬戶頃しも磨の聲松島をこゝろに〓く月夜哉病人は起すもいかゞ夜半の雁船中對禪僧秋の海隻手漕なる小船かな醉ざめの又の夜食や後の月點滴の痕にはあらじ菊の露名月に瓦を江戶の眞砂かな秋葉万願寺三尺に足らざる丈の案山子哉弘福寺せがき火とも見へ水ともおもふ西瓜哉押上普現菊咲くや淺黃に置る幕の露鹹香草秋の野や頓て枯野の御用心新宅や建もの足らぬ今朝の秋枝豆のさやかに見るや今朝の秋七夕や夕顏棚の舌つゞみ淚落ていし〓〓と成ぬ魂まつり名月や蚯蚓の唄に蜘の舞世〓の人は遠し去年のけふの月悼宗芸初雁のまだ聞足らぬ日數哉ひやゝかを知るや瓦に篦の音小町〓賛手燈の移りにけりな夜半の菊一時を我揚詰やおみなへし姫糊の身に知る衣や今朝の秋索麪は糸に似むとの願ひかな半造作引越菊は花の又其上の野ぎくかな船頭は帶をかしてや漢河立出て見れば我家は虫籠哉俵に大黑〓讀物成や杉をこゝろの秋の月乙矢にて速矢を立たる蜻蛉哉蜻蛉や待合せては先へゆく洲走や臍もかくさぬ生身魂病後の吟明ば又花見る慾や秋の月家橋追善馬貝も雲井にかけれ秋の月羊田や三膳喰ふて今少し掛稻や先豐年の餝藁悼蓼太水蓼の花にかげ見ぬ小川哉連馬三回何〓〓と聞く人戀し虫の聲六しら萩や足もと迄も象の鼻三阿坊が同菴を悼む。秋風やされば屆かぬ舟よばひ名月やおの〓〓虫の神調北川子に一宿朝霧や帆を手拭の寐起顏名月や瞿麥の中なる世界まで初雁やわんばくものが灸の聲菊といふ宗旨の花の咲にけり悼連馬極樂へ迎ふる駒の別かな秋は又菊を本尊 の菴哉七十年賀きせ綿に壽の字書べし菊の宿洪水後、菴室再興の奉加片手にて夜食ほどある零餘子哉御屋鋪に聞ゆる夜有遠きぬた月のある秋とおもはぬ野分かな哲阿彌句藻
毒むしの藥施すはな野かな合羽干す旭に赤き蜻蛉哉赤壁のはたごや淋し梅もどき二代目連馬を悼む。うき世何糸瓜のとくり酒德利夜は灯のもるゝ垣根やからす瓜川海老のくもらぬ腹や秋の月うたるゝは古き棊盤の碪哉中屋しき上やしきより野分哉名月やうかれて岸の川鼠たけ狩やひとゝせ京にありし時茸狩や松原遠く川近し前書略す羸得たり梶原二度の梅もどき筌鵬對坐膝組にながき夜かたるいとゞ哉聖天葉を抱て通夜する合歡の紅葉哉日蓮の御へらず口や后の月前書略此事よ人の言けむ秌の暮傾城と腰掛て見む秋の暮つら杖や眼鏡の裡に秋の空朝皃の晝顏に咲を名殘かな何處となく月夜とみゆる野分哉おもしろう賴ぬものゝ砧かな茸狩や被めしてもかくれなし新そばや聟の河津は勝手詰むしこよりさきに崩るゝ燈籠哉燈籠見や硝子世界羅綺世界かさゝぎのさゝぎの橋歟天の川白露や眠れる雀の羽にも置く猪牙といふ船はしらずや男七夕是迄の念佛はうそ歟今朝の秋初秋やまた一手からほとゝぎす柿ひとつ殘る梢や百舌の聲沾山玉兎集名月や春は戀せし屋根の猫菊の露にうたれて窪き硯哉伊豆石に漉たる酒や菊の宿甲長子駿府御番奉送月に見ん誠の眞乳すみだ川傾城の〓賛鼈甲のくもらぬ峯や秋の月倒れぬも中〓〓耻のかゝし哉笑ふ齒のこまかにみゆる角力哉乳をのみし昔もありや角力取拂へどもとりつく子あり小夜磁〓賛三客にもてなす柚子の鼎哉無常かの事の夕を諭せ風のつゆ郊原に口なき虫の行衞かな訥子賤別熊手をこめた事を聞せよ遠碪掛稻の屏風立けり后の月同菴が薙髮を憐む。かゝれとて霜の色見る冬瓜哉名月の手拭掛や利根の船落栗のうれしき道に出にけり起よきは寐よき始ぞ月の秋此句に鬼つらは何を得たるぞ菌狩曲笠菴同案の句也。亡人の爲にこひ受ぬ。男素兄冬之部帆ばしらは沖に時雨のしの字哉しぐるゝや顏に笘ふくものゝ本時雨〓〓朧夜も有るしぐれ哉茶の花にひとつ見知らぬ小鳥哉聲しぼる鳴海の沖の千鳥哉〓黨のへんくつやめよ河豚汁山里や雪もいろりのこぼれものあじろ守口びる動く斗なり哲阿彌句
美濃帋の力聞ゆるあられかな芭蕉忌や其こんにやくの薄曇はせを忌や十七文字の作り花芭蕉忌や南无妙俳諧連華經夜半に見し心つもりや今朝の雪はたご屋の夜明のさまや煤拂うそつかぬ侍おかし惠比壽講つらみせや茶賣が股もくゞる時雪の日や觀音のうらによき泊色分る五日十日の落葉かな蹴ものゝ氷にはしる月夜かな而月君に御名を奉る。盆山や千里の居間の冬籠老らくの玉を抱ける火桶哉大雪や淺黃にみゆるものゝ隙業平是ぞ此つもれば雪も佛かな康秀遠乘にそば屋が城の落葉かな方便のむだ口たゝけ鉢叩かほみせやいはゞ神代の山かづら皆枯し埜中を月の桂かな夷講やがて役者に打手哉使者馬に歲の岡見や駿河臺橙やながれて年を待乳川兩國の鑓の間に〓〓時雨哉人に能くもまれた上の帋衣哉北へむくあたまも持たぬ海鼠哉送別おこたらぬ旅や六からむつの花更名鈴鴨の名やふりはらん終夜山出しが的の稽古やとしの暮長唄の引のばしても師走哉おし鳥や三人は乘らぬ池の船鍋の中はいさしら粥や夜の雪吹からに爰は日本のちどり哉塩はゆき夜食や須磨の浦衞はせを忌や茶飯ながらもみの尾張蕎麥前にこのわた入よふとん酒日の延をはつかに知るや歲の暮伊介が來りし暮來かゝりし角力雇はむ追儺能登屋路丸松島行脚より、予がかたに笈をおろせし歲待春や爰も小島のとまり客狆の〓しのべとのうれしさ寒き時雨哉山田氏屏風、傾城の〓沖までは暫く返す千どり哉古寺のかなものかるゝ落葉哉大々保主膳正殿三回忌おとゝしの寒さほどには無り鳧そば粉を人のもとへ送る。うす墨にかく玉章の氷かな若ひ衆に誘ひ出されて寒哉餅花の指に忘れぬ乳房かなハルシヤ國より十寸六寸の馬を貢す。年の背をはるしやの馬や一またぎ靑木氏加增が賀す。そのむかし拾ひたる扇のもよふ富士なるに書す。不士高し雪の力はからずとも木曾旅行の人に寒しとも起よ寐覺の床離れ蛙鳴に送る。撓まじやゆふき紬の冬籠言子送別明がたは猶いさましや鴨の鈴越前家の臣大道寺遊翁、九十二にて身まかりたまふ靈前に備ふ。此翁常に盧山烟雨湘江潮といふ句を瞼ぜられしによりて句藻六五
六六盜むとも歲の尻目や市みやげ福內年蹤押発鴛央や凡夫の目には鴨番ひ初雪やみそ漬の鯛もちたるぞ.はつ雪やけふは隙有金もあり船よりも筏に見する時雨哉宿かさむ我にひとしき一しぐれ雪の日を番頭いかに樽拾ひ百菴叟追悼冬籠もう引越さぬ菴かな貞德忌立鴫の白く聞ゆる霜夜哉とふふいと冬の旭や二寐覺所思かほみせや休のとしは曠帋子初雪や詩の引出しに歌の棚世の師走唯しら著や〓〓壯士をいましむ。雪と雨と交ぜて浮世や墨流し兒見世の東方朔や馬の足かほみせや雪の花道からす飛春禪万句長安の大根漬や何萬本千頂万句けふ得たる友や何万何千鳥堅氷御用馳丁子屋もちつき餅つきの唄は夜明ぬに出來にけり歲關冠化革求年疾如砲達磨忌や亭主の尻の重き事雪花店突崩す炭は流れて雪の音一体のからす扇おもひ出て雪にも月夜からす哉達磨の〓讃系大書俳本日や何萬本何万何千鳥用馳かな雪の音心にもことしは着する帋衣哉木がらしや椎の木の間の星一ツ慾築やこがらし通る跡の聲捨し世に何が怖ふて頭巾哉帆立貝を送るとて豆腐煮て聞けや霜夜の板屋貝三介がもどりし音や雪の暮短尺稻荷奉納拍掌や是も凋まぬ冬木立鉢たゝき里に何乞ふ山の鹿飯田水靜老人年囘今朝筆もかまれぬほどの氷哉渡部氏初七日乘捨し手綱に殘る 水かな時雨るや沖にもなやむ船の脚芭蕉忌や晝短ふて句を不成悼白抄二句ぬけがらと成て冷き巨燵かなけふ見れば鼻毛も白し雪佛かくれ家は袂にもある頭巾哉かくれ家の心に淺き落葉哉探題關羽臥て見る偃月刀や竹の雪探題風鎭しのぶうち胸の板間の寒哉夜のうちのいたづら者や門の雪五色はむづかし歲の坐禪豆ひとりよし二人は憎き巨燵かな水鳥の胸はあし分小船かなよの鳥のひとつ交ぬ千鳥哉炭がまや里より白き水の筋人の世のあなかしましや帋衾馬乘のすゝ掃しかる大路哉北風のちからや見ゆる不士の雪起されて起たはむかし年の暮古亟賤別水仙の折句はいかに旅ごろも旅送る小春や老の 目は霞ナ七雪哲阿
十月晦手を取てけふや小春の別れ霜國家方弘く說く花のひもんや冬至梅行脚の後足の出ぬとしの泊のふとん哉茶は母に千種は醫者に衣配大隱は懷中にある頭巾かな山里や世のよきよりもこぼれ炭かた炭のたどんに添ぬ夜中哉子光追善くだら野の招き返さむ艸もなし染井落葉まで手厚き御下屋鋪哉檻干を折る顏見世の勢ひ哉かほみせに起る家あり鉢たゝき待人は轉んで來ぬ歟雪の宿めし鉢をたゝく夜寒し鉢叩宋の世の鷹の〓〓や枯かしは掛取に松魚合せん繪空事ふろ吹のあまり養るやみそさゞゐ一蝶がかしま躍やすゝ拂ひくらき夜ぞ靜にまはれ鉢たゝき使者の間に使者の心や年の暮〓讃猫は寐て鼠の音の時雨哉むらさきのゆかしきものや昔足袋白足袋や室町どのゝ埃だらけ海鼠かな汝元來痰氣の時海鼠たゝみやこがね花咲むしり菊しぐるゝや是も枯葉の駕桐油岡持の形にしたがふ海鼠哉埋火やいざ明方のみやこ鳥うづみ火や曉ごとの探りむめ埋火や先鼻をよせ耳をよせ芭蕉忌や鯛喰あきし人の果(一字關)拍子ぬけたる朴の落葉かな朝比奈の賛醉ざめやかたじけ菜汁今朝の霜白猿に送る。朔日や聾棧敷は音にも聞け賀雪のみのかけても强き屏風哉古札よまてこと傳ん發句屑能く買うて往けや師走の發句屑〓讃忘れよや年の上るり十二段かゞみとぎ加賀までさせや年の關たま〓〓書を披て燈下に讀む。子列子居鄭圃四十年、無識者。國君卿大夫肺之、猶衆庶也。嗚呼露入道晩得、はゐかいに遊ぶ事四十余年、人その高調を知らず。積年の草稿むなしく〓談林の文庫におさめて、盡魚の膓をこやさんとす。晩叟世を去て星霜旣七年。門人等是を歎き、ひたすら素兄に乞ひて書寫せしめ、やがて梓に行〓とにはなりぬ。蒿目の俳遊客あながちに是を誦讀せよと言にあらず。伯牙が調をよく聞知たらん人には、花晨月夕の友ともなるべしと、こゝに筆を置くものは誰や、千庭束の隱士抱一堂屠龍。柏子寬政戊午秋日東武淺艸諏訪町彫工星野寛政十年戊午玄冬〓八六九
簞たんし系大書俳本日瓢集初編賈友嘯山編
瓢簞集序人生百年にて七十古來稀なり。宋屋叟と子は四十年風雅の友たり。指をかゞめてかぞふれば、其餘には類ふべきもあらず。それがあいだに假初の爭ひをだもせで、明くれ墨筆に膝を組けん事、實に渺茫として又まのあたりの樣におもほゆるは、またく老屈の故にやあらん。叟沒してすでに四とせ、其徒葎亭主人遺稿をさぐつて、ほくの初編なるものを選み出し、梓に鏤んとす。予その志の厚を感じ、且交りの久しきをもて、爲に序してこれをひろむ。瓢簞は其居を用ひて題号とせるなるべし。叟は句達者にして數万の什あなれば、相續ひて二篇三篇の出なん事、また樂しからずや。嗚呼ひようたん〓〓、果報人なるかな。かの張果郞が瓢簞より出せる駒は何にか用ひけん。ひようたんしうの月花は、永く世に傳へて朽ざらむ。予蠅拂ひを斜にかまへて曰、善哉〓、瓢簞集辨道吐眞。又曰、葎亭主人是瓢簞先生之千里駒、喝。明和六歲丑五月上浣西山隱士雅因印〓瓢簞集
七四貪貯每貯好色不著身世一瓢豈住氣樂晴山謹〓義寫東隄富之書〓瓢簞集水音や野咲の梅の右左梅咲て火桶の繪の具さめに鳧藪陰に風を握るや夜の梅編笠は望ある身歟むめの花さく梅の梢も白し都富士紅梅や手染のきぬの潦靑柳をくはへて長し馬のつら馬の尾に柳の風や今出川鳥たつて雨のこぼるゝ柳哉初午や畠兀ゆく水藥師初午や鼠も空へ深草野春雨や蒲團に落る鼠の子春雨や待も惜むもあらし山麥菜種見分て蝶の行衞かな日をたゝむ蝶の翅やくれの鐘鷹司殿へはじめて召れし時拱ひて雨の蛙や書院迄炭賣の通ひの上やつく〓〓し七四初編平安望月宋屋著春春部歲首初空や机にうつる日枝の影昨日は忘れ翌を笑へ花の春幾年歟流れ次第の水若き蓬萊のかざりすがたや朝朗菟角して今朝と成けり門の松門松や我衰へのわすれ草奥羽の行脚二とせを經て草庵へ歸り、新年た迎へて愚さは旅と思はず宿の春雜鳥の聲は分れてうめの花はなれ鵜の岩に頰出すや梅の花行暮てうめに動くや馬の鼻柳初午春雨蝶瓢簞梅集
七六巳の春又よし野へ行、多武峯を越るほど、烈しき風雨にあふて谷川(焼き)しばらく氣を失ひて蘇る。面あまた所疵つき、辛き目見ながらし養ひつ殺す歟花の雨おろし足もとの怪我もよし野の盛哉吉野出て虻の離れぬ袂かな奥仙臺國分寺木下藥師如來の堂前に石碑を建て、不斷塚と号す。其壷中へ、曇るまじ木の下陰に月不斷石面に自ら筆せし句極樂や人の願ひの花のかげ琴佐子が越前に歸るを送りてやがてきく聲に名殘や歸る鴈再び住吉浦に遊びて覺ある石迄ゆかん汐干哉出替りや古主の門を三ッ輪組殘る雪消て濁すか賀茂桂白魚のいかで遊ばぬ京の水拍子なき涅槃參や方廣寺弓張にむかふて入りぬ夕雲雀わか草のすら〓〓樂し雨の明春の野やしらぬ男に借火繩見る度に藥共思ふ櫻かな雨の日やさくら案じて暮に鳧方丈へしらぬ人ゆくさくら哉國分子水滔〓松も櫻もゆすりけり嵐山網打や花にまぶれし女客花ともに戶無瀨汲とる野風呂哉川上は何を炊ぐぞ花の波花筒の靑侍や築地の內庚申花の道三のましらが枝折かな系大書俳本日櫻安良の御代のすがたや荷ひ太刀遲日日に花に物忘草昨日今日子園母七十賀養ひに程こそあめれ菊の苗鳴海龜世七十賀升搔を松の影なる種下し山吹や窓に非人のさし向ひ明方や互に手帋ほとゝぎす夜盜にも天の與へや郭公下闇や乞食の灯すほとゝぎす白鷺も袂をけがす田植かな老が腰共にまぎれて田植かな松江すり物に假初の門田となりぬもらひ苗追つめて要のはしる螢かな飛下りて肴につかむ螢かな因幡へ出火見舞に棚橋に怪我はあらじな螢の火せめてもの鳥きく夜あり五月雨五月雨や夜かと思へば炊ぐ音さみだれや川を隔し友心臺雨を薪屋丁に訪て川音や寢覺に變る梅の雨假橋や人に抱つくさつき川望月庄左衞門が家が買けるに旨日今日田植螢夏部人の氣に風や通ひてころも更寐所へ袷はいかに朝ぼらけ花の後世にゆるさるゝぼたん哉見る人の手を拱くや牡丹畑戀わたる雨夜になりぬほとゝぎす杜宇まつや鼠のかぢる音ほとゝぎす額へかゝる夜の雨隣にも雨夜の手燭ほとゝぎす更衣五月雨牡丹瓢時鳥簞集
七八雲の峯嶮しくも日の光かな印籠の藥も湧や雲の峯巡禮の浴衣おそろし雲の峯我家に居所搜すあ つさ 哉炎天に美人の兒の 定りぬ柊を蜂の飛のくあつさ哉蓮の葉の裏迄しらむ暑さ哉糺森水すくふ我手にある歟蟬の聲儘ならばこゝに寐もせんすゞみ床日盛リや乞食の奢る賀茂の水とろ〓〓と扇も眠るすゞみ哉相國寺懺法松風の鉢や聞知る蟬の聲薩摩の猪云を送りて帷子のうらなくぬるゝ袂かな武侯賛優〓と羽扇に〓を拂ひけり月に蝙蝠の〓に雨に猶自由をしる歟蝸牛日盛りや一足づゝにかたつぶり白鷺の芦間がくれや水粽伏見夜舟蚊の聲や酒うる舟に附て來る武然がさぬきより歸りし日雨をうけ日に補ひや蔓の瓜閨怨誰思ひ齒形の殘る塗團六朔鶯も連て歸る歟氷室守掛鯛の煤は流れて暑さ哉水書の偏を失ふ暑さかな楔うつ車大工のあつさかな珍客に下座をまいらす暑さ哉塩鳥や水にうきたつ雲の峯凌霄の一輪光るあつさかないけながら炭火の消る暑さ哉系大書俳本日誰塗團炎天る蟬の聲圓光寺智山禪師迂化魂棚の中に紛れぬ佛かな世を見れば乳を土器に魂祭山の端に殘る暑さや大文字しらぬどし夫婦と妖て踊かな秋戀殘る蚊もせめて待夜の力かな一生を判じ兼て や捨團直にたつ竈馬の髯や風の中八朔や秌を定し虫の聲搗臼を見こして蓼の盛哉撞捨の芭蕉に障る夕かな芭蕉翁五十年忌道側の槿はみちのあかり哉雪銀京の氣のはなれ切たり鹿の聲溪川や氣に流れこむ鹿の聲吸壳の膝に烟るや鹿の聲七九誰やらん扇のうごく月の影小槌より人を數百うち出したる圖古家に皆主つかん飛蟻かな福祿壽の頭に綱付て布岱の引繪にから入梅の舟引人よ荷にまけな千而が娘の死せしをいたむでほり捨し靑鬼灯もしなへけむけふ〓へ越すや茅輪の〆くゝり送火御祓秋部はつ秋や自然と蟬の聲變リ桐の葉を被きて墓の命かな梶の葉に何を遊女の願ひ書獨寐やふけて見に出る天河織女に見せたき裂や本國寺星合に雲な汚しそ瓦やき六道老が手に誰から呼ん迎ひ鐘初秋七タ瓢單集
八〇關取も得手は有けり左さし未滿ぬ月に余波や人ごゝろ捨人も看經遲し後の月かくしけむ桂男の額際老懷身の程もいつ究むべき種茄子東京都秋たつや末摘花の屋敷跡山崎尤最を悼む。謠師なれば叢や一ふしづゝをよるの虫土佐の筆粟に鶉賛深艸や鳴子も付ぬ人ごゝろ月旅一夜草履求る月見かな人もしれ今宵を月の晴曇年に一夜晴のもの哉月見哉名月や花には關す隱家も名月や夜すがら替る水の面名月に囉ひ合せり須磨の塩布〓賛名月や子ども寐させてよい機嫌堀川牛房引都女やタ月夜見臺に向ふ圖月影に尋入ばやむかし道杖をつく友は誰〓〓けふの菊山城の谷や久しき菊の露信濃の大鶴、任官が賀して〓深く錦となりぬ位山取盡す梢に柿の入日かな爲朝像系大書俳本日十三夜跡牛やタ月夜重陽冬部山姫の手をこぼるゝや初時雨雞の尾に入日はさしてしぐれ哉馬の尾に拂ひ行なる時雨哉軒口の亂るゝ穗屋のしぐれ哉時雨山なしぐるゝや机に上る鷦鷯さよしぐれ又寐覺けりたばこ盆麥蒔や五人が中に五升樽凩や北より動く馬 の耳こがらしや松前物の魚むしろ仙鶴七回忌埋火の底に殘りし光かな友送る手燭の影や石蕗の花鶴の田に遊ぶ繪に鷹匠も囘らぬ道や神の領明心居士百年忌霜と月行道やすし十五日〓賛五位鷺の流れに添や北まつり朱英子に訪れて聞初て忘ぬ物ぞ鷹の風石龜の世へ手も出さず冬構初雪や風にもまるゝ櫻ほど初雪やいか樣草の有所はつ雪や器量の分る沙の上はつゆきや居所替る蘭の鉢雪ふりやよごれをかくす草の庵寬保二年十二月五日の夜大雪ふる。折しも草庵歲暮の會にして、人ミあまた頭さしつどへて酒くみ居たりしに、ふくるに隨ひて次第に深う積來る程に、はし居して部さうじ明はなし、こや豐年の瑞ならまし、越路の空はいかゞあるらんなど云もてさはぐが中、近き限はいぬるもあり。牙院のぬし、予が簑を打かけ杖取て出しが、とみに立歸り、穴うしや〓〓、はや此わたりにてころびにたり。よしや今宵はこゝに泊り定めてんと、わらぢとくぬぎて、こたつに踏こめる、いとおかし。たゞにやはと、殘れ八一麥木蒔枯瓢簞集雪
八一厄拂こゝろの鬼も連て行年內立春鞍馬荷に花の匂ひやとしの內煤取てみどりやうつる靑疊老懷雷木の減つゝも亦春ちかしる人と共に又放言す。雪二尺花のみやこのよし野哉すゝ掃や榮螺の奥に水の音すゝ掃や菴に過たる大階子一とせの手柄は老ぬ物わすれ捨人の何買に出る年の市花も實も忘て年を糸瓜の皮月花の女少ナしとしの市鴨の脚繼やうき世のとしの波住馴て尊き除夜の日枝おろし一とせの胎內潜り滿にけり稻妻の隱れすますや年の底とし波や芦の達磨の風まかせ章駄天の足弱つれてとし暮ぬ年もはや賣るゝ馬の蛭子薦幾年歟光の陰にふるや帋一年も十綱の橋の手ぐり哉節分も佛と誓ひ老にける煤掃歲暮雜躰北野曙や梅より分る一夜松月雪に見しられ衣きそはじめ雲水の今年すがたや日の烏奥に春を迎へし歲はつ空や松に輝く金華山犬の猿引を吠る繪に福引に何を爭ふ嫁舅春情聲なふて思ふ方より小蝶哉巴人師の幼息を悼みて福ふ嫁舅節分唯歩め終には解ん雪の道仁和寺夕暮や帶〆直すさくらかげ野村又三郞追悼(20)出替りを誰もおしみぬ太郞官者故〓二哥がすり物せしに月花の種や難波津淺香山旭峯をいたむ。長旅やわがぬる甲斐も玉柳堀川や柳をはさむたゝみ傘山寺の帋帳まで來る蛙かな謠師のもとより盃の賛賴み來りしに(廻シ待チ呑ミ)月花に〓3舞うたふ梅爾風鶯の來啼や補之が硯まで賈友が薩摩へ下るを送りて御代の春鬼界が島も市たゝん葉櫻や志賀の都の莚織八三草の芽にうたてき暮の蹄かな西賀茂神光院弘法大師四十二歲像摘草の芹は除る歟祖師の膳〓水坂紅梅やゆかり久しき阿古屋株半身達摩圖川越の尻を見せぬやはなの浪富士〓賛春の日やすそ野を渡る鶴の聲多武峯紫や雲と抱あふ藤の門花〓〓と花をちからの一期哉感ずる事ありて月花と一日借りの座鋪かな宮嶌奉納神灯の影や朧に蟻の浦元御室裏御所やさくらの匂ひ靜なる窗鳥初ての日山ふ瓢浦簞集
屋根葺が釘もこぼれつ郭公母の五十年に五月雨や晝寢の夢と老にける寛留妻をいたみて入相に思はず咽ぶ蚊やり哉やどなき御會席に侍りて茂リ葉のひとつになりぬ雨の後敬雨七回忌うの花や暮ても人の目に殘る申輔を悼む。人に馴て消し螢よ水むけん弟に別れし人のもとへ一雫かゝへて蓮のうき葉哉千梅松島行脚集へ菅薦の三苻に寐る人蚊や追し夏野繪賛山路來て心便りや瓜ばたけさみだれや常來る人を思ひ出す壬戌の六月六日、宋阿老師の計を東武より告來りしに驚さて鉾鬮もおくれ先だつ南無佛追悼數ふれば花の數ある紫苑かな去年に似ず昨日に變る雲の峯壽老人川わたりの圖夏川にこゝろまかせやはなし龜布〓、子をつれて川渉の繪に水艸やこゝろの闇を飛ほたるさよふけて居所替る凉かな野蝶がはじめて來しに雨を得て追ぬく物よことし竹長崎繪の蘭に秋來ぬと鼻に〓るや草の風羅人一周忌目にありや去年わかれし組踊旣老境に入て中村先生へまみへ、書ミを學ぶの日、みづから嘲り自ら祝す。誰と見てよけて通るぞ厄拂河津·朕野角力〓めざましや雪をかつぎし竹の音いたゞくは我失物やすゝ拂奥羽行脚首途の吟夜となく月に喰入れ杖の土白河關白河に袖かき合すしぐれ哉淺草莓冬枯にいづれと分ん花かつみ佐藤兄弟婦人像里人もこゝへ手向よ寒の紅脂實方馬塚くだら野や杖に音ある馬の骨羇中物音の夜な〓〓變るしぐれ哉松島嶋泉亭へ麥飯にて招れしに、廿一日なれば御影供やいろはの恩も麥めしも八五道筋よ深々なばてらん十九初夜秋田湊三島明神領地藏堂に、社中余が石碑をたてゝ行脚の節の句を刻む。秌田領の穗波に寐るや鳥おとし心あれ今宵の星に鐘つく事(計)さぬきへ趣く首途吟降ながら小春の笠に入日かな漕出すや賀茂ははるかに川千鳥姫路にて同行八百彥象友に分れて、金毘羅へ趣く留別千鳥ひとつ山路へわたる心しれ室明神室に詣賀茂の時雨ぞ思ひ出る白峯君やよしと捧げし僧も神無月丸龜留別吟順風也頭巾御免と立わかる鍾馗贊瓢簞集
八六魂祭ぬしは誰を歟くりや川角舘の道にて大風雷雨にあふ。晝夜の艱難言語を絕す。したらてん尾花に虫の命哉湊の渡川亭に舍りて川隈を便りに鴫の假寐かな象瀉象浮の冬は美人の墨繪にて尼剝川の實を記す。北國や女の髣をわり頭巾亡師墓、淺草卽隨寺に詣て袖しぐれ百二十里を墓參り袋井川茶の花も帋子も見へて冬近し柴屋寺物音は木の葉ばかりぞ柴屋寺衣川蟬の羽やこぼれて戰ぐ衣川石の卷にて四朔にあふ。人並に旅馴衣更てけり小野の途中に時鳥を聞て馬上也初ほとゝぎす御免〓〓九十九橋栗さくや白髪ばらけてつくもばし達谷窟日盛に角は出さじかたつぶり二六十いかならむ太子の耳へほとゝぎす江刺机墨菴に碑をたつ。假初を大木の陰、や蟬の宿同所留別帷子の袖をさかるゝ別れかな南部病中吟旅に病て蚊の臑見るも心ぼそ孟蘭盆系大書俳本日蟬の宿遺集校考なるの日懷舊兩吟月花にほつくり往生せられたり壬生千本の念佛も西1 (原註)懷稚達を肩車ほつほ長閑にて又鶤がりん氣いさかひ濱風の朦吹拂ひ 〓〓松こんもりと生つゞきぬる的場から反箭尋ねに奴ども飯綱のはやる家中そは〓〓着の儘の帷子ながら連て出て空おそろしやアノ雲の峯ゆら〓〓と鹿頭橫たふ勢田の橋鯉の鱗を壁に黏らん板疊それさへいたきから風に御文尊や御開山樣まのあたり越後の國の七不思議武者修行とて野の月に寐る露霜に禪の虱さらしおき鉢唐がらし扨も照たはナ山も川も古き都の道なれや揉にもふだる衆徒五六百つら〓〓と今見る如く講じけるやつぱり降歟傘抑く音夜興引る狸の圏に餌を入て系圖が武士を捨させぬ也妾)には摑取なる口もあれとあかずめでたき髮のかうたう新艘の船美〓しくも柳ちる大内崩れの世をうたふ〓印刷れ裂のみ月の鏡にてそりや繋驢〓の屋破が起つたかくまふてあろとは本に神もいさしら重ね哉靑簾哉嵯峨淳和〓味陽成後陽成さは去ながら白氏文集八七嘯賈山友濱瓢箪集
明和六年己丑春三月猶や祝せむ行末の 春選なす心の花の匂えとぞ太祇句選京油小路下立賣上ル町編たいせん彫工西尾西尾重助雅嘯因山
に、に、わきて嵯峨の宛在主人と子と三人雅延を共にせし事、亦復他に類ふべきにあらず。あるは雨しめやかなる春の夕、はた雪面白き冬の夜など硯にむかひて、おのがじゝ得たると得ざるの自らなるをしらべ合、巨燵に倚居て櫓の上に杯をめぐらし、果〓はなき跡の事まで語出て、吾儕かうやうに此道に執深うとゞめぬれば、誰にまれながらへ殘たらん者、志を一にして草稿を選出、世に殘さましかば、生に死に改ざるの交ならんかし。實もさ也やなど、互に契り約せし〓とも亦幾度にか及けん。されば今雅因とゝもに遺草數十卷を閱して、その中より先初稿を編緝して世に廣うせんとす。事成の日雅因亦來會し〓、一は此功を終るを喜び、一は多からざる心友の欠ぬるを嘆じけるに、予頭を掉て、それもさる事なれど、兄も我も元來二腰を橫たふ身ならねば、生前刎頸の交は思太祇句集序交は易からぬもの也。始は刎頸にして半に寇讎たるの類、古より少からず。太祇はもと江戶の產にて、中年都に上り、住心やよかりけむ、其まゝに廿餘年の春を迎へ、妖風のたつを、さまで蓴鱸をも思ず。本より山水の癖ありて、みちのく·つくしの果迄も杖を引、弱かりしより好る俳諧をもて生涯の樂とす。はた其好るや樂るや尋常にかはりて、行住座臥燕飮病床といへども、日課の句を怠ず。まいて誰某が會など云には、一の題に十餘章を並ベ三に五に及るにも此規矩を違ふ事なく、もし趣を得れば上に置下になし、あるは中にもつゞりて、一句を五句にも七句にも造りなし、唯意をうるをもてせとす。故に其篇什佳境に入もの許多也。又連ね句をなすにも、いつも沉唫する事他に倍せり。こゝをもて何れの卷にも造語連續の率易なるを見ず。惜哉去年の秋文月の半より半身痿るのやまふを感じて、幾程なく葉月上の九日に、折からの草の露と消失ぬ。平生友とせる人あまたなる中り、て、かはりて、されず。ベ〓、るを嘆じけるに、予頭を掉て、それもさる事なれど、兄も我も元來二腰を橫たふ身ならねば、生前刎頸の交は思懸ず、されど風雅の可否を討論せしより外、さらに市道の交をなさゞりしがうへ、契し事のかうなんとみに成ぬ太懸ず、祇句るは、るは、易からぬ交のよく終あん也と、倍ざるのこゝろを、祇もまた我等が相黄壤の下に眉を開ざらましや。遂にシル
此語をもて序とす。明和九年壬辰夏五月洛嘯山書太祇師年ごろいひ捨をかれしほくの草稿なるもの、みな我に讓られ侍る。帋魚のためにむなしくせむ事本意なく、選を葎亭·夜半亭の兩匠へまかせ、老師生涯のあらましまで序跋に述、一册となして給りぬ。さるが竹護叟の〓書を乞.さくら木にゑるとて、今の不夜庵のあるじ、師の佛をいたづらに書うつし置れし反古を、あながちに所望して、こゝに彫刻し侍りぬ。呑獅朱雀〓巷歌酒常酣叟之雪月〓不夜菴肅山題太祇句選五雲坊必化寫九五
日太祇會而小言すらく、靑丹よしなら漬と云んより、なら茶と云んこそ俳諧のさびしみなれ。焦遂が五斗はそちにさはがし。蕉翁の三斛こそ長く靜にして鉄杵を鍼に磨し、點滴の石を穿つをしへにも叶て、我業の卒る時もありな황かりにもおこたりすさむべからずとて、佛を拜むにもほ句し、神にぬかづくにも發句せり。されば祇が句集の艸稿を打かさね見るに、あなおびたゞし、人のイめる肩ばかりにくらべおぼゆ。げにやいせのはま荻のおきふしにもふんでをはなたず、勃窣として口よりいづるにまかせ書おけるものにしあれど、なにはのあしのいづれ刈すつべきも見へねば、葎亭·宛在の撰者も眼つかれ、こゝろまどひて、まめやかにゑらみ得べうもあらじかし。余二子にいふ、さははつべき期あらめや。大かたにこそあらまほしけれ。たゞ四時のはじめごとに出せる五六帋がほどをゑらみ取て初稿と題し、木にきざみて世にひろうし、二稿·三稿といへるものは、年を經てもほゐとぐべきわざなれとすゝめければ、二子もうけひて、かしこうこそ申つれ、さらば其ことを世にことはり聞へよとあるにぞ、やがてしりへにかいつく。明和壬辰九月蕪村書不夜菴太祇發句集羽つくや用意おかしき立まはりはねつくや世ごゝろしらぬ大またげ北山やしさり〓〓て殘る雪家遠き大竹はらや殘る雪梅活て月とも佗んともし影虚無僧のあやしく立り塀の梅春もやゝ遠目に白しむめの花な折そと折てくれけり園の梅紅梅の散るやわらべの番つゝみ整備專紅梅や大きな彌陀に光さす東風吹とかたりもぞ行主と從者春風や薙刀持の目八分糊おける絹に東風行門邊哉投出すやをのれ引得し胴ふぐり情なふ蛤乾く余寒かな色〓〓に谷のこたへる雪解かな里の子や髪に結なす春の草九五春目を明て聞て居る也四方の春腹喰し我にもあらぬ雜煮哉元日の居ごゝろや世にふる疊元朝や鼠顏出すものゝ愛年玉や利ぬくすりの醫三代とし玉や抄子數添ふ草の庵げにも春寐過しぬれど初日影七草や余所の聞へもあまり下手子を抱て御階を上る御修法哉初寅や慾つらあかき山おろし春駒や男顏なるおゝなの子春駒やよい子育し小屋の者萬歲や舞おさめたるしたり顏万歲やめしのふきたつ竈の前太祇句選
野をやくや荒くれ武士の烟草の火畑うつやいづくはあれど京の土耕すやむかし右京の土の艶山葵ありて俗ならしめず辛キ物春雨のふるきなみだや梓神子はる雨や芝居みる日も旅姿春雨や晝間經よむおもひもの德門より春雨の句聞ツ。それに對す。春雨やうち身痒がるすまひ取聲眞似る小者おかしや猫の戀草をはむ胸安からじ猫の戀おもひ寐の耳に動くや猫の戀諫めつゝ繋ぎ居にけり猫の戀遲き日を膝へ待とる番所かな春の日や午時も門掃く人心扨永き日の行方や老の坂遲き日を見るや眼鏡を懸ながら丸盆に八幡みやげの弓矢かな元船の水汲うらや蕗の臺花活に二寸短し富貴の臺朱を〓や蓬萊の野老人間に落こゝろゆく極彩色や涅槃像ねはむ會に來てもめでたし嵯峨の釋迦引寄て折手をぬける柳かな( )善根に炙居てやる彼岸かな起〓に蒟蒻囉ふ彼岸かな川下に網うつ音やおぼろ月海の鳴南やおぼろ〓〓月月更て朧の底の野風哉島原へ愛宕もどりやおぼろ月欺て行キぬけ寺やおぼろ月連翹や黄母衣の衆の屋敷町實の爲に枝たはめじな梨の花皮ひてし穢多が入江や芦の角江をわたる漁村の犬や芦の角長閑さや早き月日を忘れたる矢橋乘る嫩よむすめよ春の風春風にてらすや騎射の綾藺笠燕來てなき人問ん此彼岸ゆた〓〓と畝へだて來る雉子かな雉子追ふて呵られて出る畠哉葉隱れの機嫌伺ふ桑子哉髪結ふて花には行ず蚕時華稀に老て木高きつゝじ哉蚕飼ふ女やふるき身だしなみ小一月つゝじ賣來る女かな御影供やひとの問よる守敏塚菜の花やよし野下來る向ふ山猪垣に余寒はげしや旅の空川の香のほのかに東風の渡りけり東風吹や道行人の面にも下萠や土の裂目の物の色やぶ入や琴かき鳴す親の前出替や朝飯すはる胸ふくれ親に逢に行出代や老の坂出替りの疊へおとすなみだかな春江華月夜花守のあづかり船や岸の月きさらぎの比嵯峨の雅因がいとなめる家見にまかりけるに、いまだ半なり。木の工〓ともきそひはげみぬる其かたはらに、むしろ設、酒うち呑居たるに、句を乞れて大工先あそむで見せつ春日影又彌生廿日餘行ぬ。元の竹林にあらず、もとの水にあらず、おかし(三)う造りなして宛在樓にたり。すみけりな椀洗ふ水もありす川中風めきて手痿ける春不自由なる手で候よ花のもと付まとふ內義の沙汰や花ざかり九七太祇句選
九八來るとはや往來數ある燕かなあなかまと鳥の巢みせぬ菴主哉落て啼く子に聲かはす雀かなあながちに木ぶりは言ず桃の花大船の岩におそるゝ霞かなふりむけば灯とぼす關や夕霞つぎねふの山睦じきかすみかな田螺みへて風腥し水のうへ山獨活に木賃の飯の忘られぬ崖路行寺の背や松の藤朝風呂はけふの櫻の機嫌哉したゝかなさくらかたげて夜道かな塵はみなさくら也けり寺の暮咲出すといなや都はさくら哉京中の未見ぬ寺や遲櫻身をやつし御庭みる日や遲櫻あるじする乳母よ御針よ庭の花兒つれて花見にまかり帽子哉鞦韆や隣みこさぬ御身躰ふらこゝの會釋こぼるゝや高みより寒食に火くれぬ加茂を行や我介子推お七がやうになられけむうぐひすの聲せで來けり苔の上うぐひすや聟に來にける子の一間うぐひすや葉の動く水の笹がくれ江戶へやるうぐひす鳴や海の上鶯の目には籠なき高音かな人をとにこけ込龜や春の水行舟に岸根をうつや春の水堀川や家の下行春の水穗は枯て接木の臺の芽立けり接佗ぬ世になき一穗得てしより奉る花に手ならぬわらびかな紫の塵やつもりて問屋ものつみ草や背に負ふ子も手まさぐり摘草やよそにも見ゆる母娘ちる花の雪の草鞋や二王門齒をたゝく事三十六、我白樂天にならふ。齒を鳴し句成先立り花の陰宋屋は杖引ことまめなる叟、みちのく·西の海邊より近所はさら也、花に涼に我わたり灯籠の夜までもらさず。此春身まかりけるを猶幻に有心地す。死れたを留守とおもふや花盛蛙居て啼やうき藻の上と下出代や厩は馬にいとまごひ出代やきのふからいふいとまごひ養父入の兒けば〓〓し草の宿やぶ入の寐るやひとりの親の側商人や干鱈かさねるはたり〓〓長閑さに無沙汰の神社囘りけりからくりの首尾のわるさよ鳳巾落かゝるタドの鐘やいかのぼり屋ね低き聲の籠りや茶摘哥世を宇治の門にも寢るや茶つみ共桃ありてます〓〓白し雛の殿華の色や頭の雪もたとえもの御僧のその手嗅たや御身拭百歲賀口馴し百や孫子の手毬うた太宰府の神池に鳬·膓群をなす。飛ヒむめにもどらぬ鴈を拜みけり陽炎や景〓入れし洞の口墨染のうしろすがたや壬生念佛爐ふさぎや老の機嫌の俄事春の夜や女を怖す作りごと節に成る古き訛や傀儡師山吹や葉に花に葉に花に葉に腹立て水呑蜂や手水鉢人追ふて蜂もどりけり花の上聲立て居代る蜂や花の蝶れ九太祇句選
甘き香は何の花ぞも夏木立高麗人の旅の〓や夏木立子子やてる日に乾く根なし水景〓は地主祭にも七兵衞呑獅參宮を送る。餘花もあらむ子に〓へ行神路山西風の若葉をしほるしなへかなみじか夜や今朝關守のふくれ面ある人のもとにてめかしさよ夏書を忍ぶ後。向靑梅のにほひ佗しくもなかりけり抽てむめ勝けり な寺若衆靑梅や女のすなる飯の菜傘燒し其日も來けり扁が雨さみだれの漏て出て行庵かなつれ〓〓に水風呂たくや五月雨歸來る夫の咽ぶ蚊やりかな蚊屋に居て戶をさす腰を譽にけり見初ると日〓に蝶みる旅路かな苗代や日あらで又も通る路御供してあるかせ申汐干哉女見る春も名殘やわたし守春ふかし伊勢を戾りし一在所夜步く春の余波や芝居者行春や旅へ出て居る友の數夏物かたき老の化粧や衣更いとをしい瘦子の裾や更衣綿脫ておます施主有旅の宿かしこげに着て出て寒き袷哉行女袷着なすや憎きまで能答ふわか侍や靑すだれ盜れし牡丹に逢り明る年猫の妻かの生節を取畢夜渡る川のめあてや夏木立事よせて〓へさし出す腕かな蚊屋くゞる今更老が不調法やさしやな田を植るにも母の側早乙女や先へ下りたつ年の程蚊屋くゞる女は髮に罪深し蓴菜やしるよししける水所閨怨飛螢あれといはむもひとりかな三布に寐て蚊屋越の蚊に喰れけむ御卽位きのふありて、けふは庭上の御規式の跡拜し奉るとて、みなつどひまふのぼるを聞て蚊屋釣て豐に安し住る民蚊屋釣や夜學を好む眞ッ裸蚊の有に胯るふりや稚がほ蚊遣火もみゆや戶ざゝぬ門並び下手乘せて馬もあそぶや藤の森妾が家は江の西にあり菰粽武士の子の眠さも堪る照射かな月かけて竹植し日のはし居哉しらで猶余所に聞なす水雞かな妾人にくれし夜ほとゝぎす追もどす坊主が手にも葵かな葵かけてもどるよそめや駕の內碓の幕にかくるゝ祭かな低く居て富貴をたもつ牡丹哉こゝろほど牡丹の撓む日數かな門へ來し花屋にみせるぼたん哉切る人やうけとる人や燕子花深山路を出拔てあかし麥の秋麥〓や馬に出て行馬鹿息子笋を堀邊彌兵衞や年の功筍のすへ筍や丈 あまり白罌粟や片山里の朦の中牡丹一輪筒に傾く日數かな麥打に三女夫並ぶ榮へかな一〇一太祇句選
一〇一雷止んで太平簫ひく凉かな蠅をうつ音も嚴しや關の人夜を寐ぬと見ゆる步みや蝸牛有佗て這ふて出けむかたつぶり怠ぬあゆみおそろしかたつぶり引入て夢見顏也かたつぶり折あしと角おさめけむ蝸牛水の中へ錢遣リけらし心太もとの水にあらぬしかけや心太蚊屋釣てくるゝ友あり草の庵偶成よしはら鳥のよしとおもへばこれも鳴音のあらぎやう〓〓し氣のゆるむあつさの顏や致仕の君世の外に身をゆるめゐる暑かなめでたきも女は髮の暑サ哉あつき日に水からくりの濁かな朝寐してをのれ悔しき暑さ哉さつき咲庭や岩根の黴ながら濡ともと幟立けり朝のさまくらべ馬顏みへぬ迄譽にけりなぐさめて粽解なり母の前物に飽くこゝろ耻かし茄子汁列立て火影行鵜や夜の水舟梁に細きぬれ身やあら鵜共いで來たる硯の蠅の一つかみひとくゝる繩も有けり瓜作り姫顏に生し立けむ瓜ばたけ盜人に出合ふ狐や瓜ばたけ二階から物のいひたや鉾の兒あふぎける團を腕に敷寐かな書棄し歌もこし折うちは哉風呂布のつゝむに餘る團かな〓ごしに柄から參らすうちはかな扇とる手へもてなしのうちは哉貯ともなくて數あるあふぎ哉病で死ぬ人を感ずる暑哉色濃くも藍の干上るあつさかな釣瓶から水呑ひとや道の端虫ぼしや片山里の松魚節かこつ〓とある人の許へ來し跡のつくが淺まし蝸牛草の戶の草に住蚊も有ときけ水練の師は敷革のすゞみ哉空をみてすゞみとる夜や宿直の間前鬼にも呑せて行や香需散川狩や夜目にもそれと長刀あしらひて卷葉添けり瓶の蓮蓮の香や深くも籠る葉の茂寄蓮戀蓮の香の深くつゝみそ君が家百圃より東寺の蓮贈られて先いけて返事書也蓮のもとたつ蟬の聲引放すはづみかな澤浮や花の數そふ魚の泡かたびらのそこら縮て晝寐かな畫顏や夜は水行溝 のヘり夕兒やそこら暮るに白き花夕顏のまとひも足らぬ垣根かな白雨や膳最中の大書院白雨や戶さしにもどる艸の庵ゆふだちや落馬もふせぐ旅の笠白雨やこと鎭めたる使者の馬橋落て人岸にあり夏の月琴泉と東寺へ蓮見にまかりて醉中の吟引寄て蓮の露吸ふ汀かなふ汀かな太祗旬選秋すゞしさのめでたかり覺今朝の秋初秋や障子さす夜とさゝぬよと七夕や家中大かた妹と居す-〇〇三
月入て闇にもなさず銀河家づとの京知顏やすまひとり裸身に夜半の鐘や辻相撲勝迯の旅人あやしや辻角力引組で猶分別やすまひとり山霧や宮を守護なす法螺の音さし鯖や袖とおぼしき振あはせ明はなし寐た夜つもりぬ虫の聲城內に踏ぬ庭あり 響むし(附近)見かけ行ふもとの宿や高灯炉夕立の晴行かたや揚灯炉聲きけば古き男 や音頭取彼後家のうしろにおどる狐かな末摘のあちら向ひてもおどり哉番椒疊の上へはかりけりつる草や蔓の先なる秋の風痩たるをかなしむ蘭の荅けりあるかたより蘭を贈らるゝに、名立事ありて蘭の香や君がとめ奇楠に若も又長月の末、召波訪來りし時何もなし夫婦訪來し宿の秋行先に都の塔や秌 の空岩倉にて雨にあひ、金藏寺大德の情に一夜の舍り免され、嬉しと這上りて笠ぬけば鹿の聞度夜とぞなる南谷上人の書の額あり。藥師の寶前に二種の草あり。南無藥師藥の事もきく桔梗をぐら山のふもとなる湧蓮子の庵を、卯雲子と共に尋侍るに、あらざりければ扉にかいつく。留守の戶の外や露をく物ばかり此鱸口明せずと足ンぬべし畠から西瓜くれたる庵かな遺言の酒備へけり魂まつり懸乞の不機嫌みせそ魂祭おもへども一向宗やたま祭魂棚やぼた餅さめる妖の風たま祭る料理帳有筆の跡送り火や顏覗あふ川むかひいなづまや舟幽靈の呼ふ聲鬼灯や摑み出したる袖の土產乞ければ刈てこしけり草の花二里といひ一里ともいふ花野哉鮹追へば蟹もはしるや芋畠餓てだに痩んとすらむ女郞花其葉さへ細きこゝろや女郞花鷄頭やはかなきあきを天窓勝鷄頭やすかと佛に奉る蜘の圍に棒しばりなるとむぼ哉靜なる水や蜻蛉の尾に打も荻原に棄て有けり風の神荻吹や燃る淺間の荒殘り椋鳥百羽命拾ひし羽をと哉經師何がし、芭蕉〓る扇に賛望れて裂やすきばせをに裏を打人歟秋さびしおぼえたる句を皆申す築をうつ漁翁がうそやことし限ものゝ葉に魚のまとふや下簗京へのぼりし時蕣に垣ねさへなき住居かなみどり子に竹筒負せて生身魂野分して樹〓の葉も戶に流れけり淺川の水も吹散る野分かな渡し守舟流したる野分哉片店はさして餅賣野分かな芋莖さへ門賑しやひとの妻おもはゆく鶉なく也蚊屋の外畠踏む似せ侍や小鳥狩一〇五太祇句選
うかれ來て蚊屋外しけり月の友後の月庭に化物作りけり灯の屆かぬ庫裏やきり〓〓す雪ふれば鹿のよる戶やきり〓〓す大根も葱もそこらや蕎麥の花うら枯ていよ〓〓赤しからす瓜萩活て置けり人のさはるまで石榴喰ふ女かしこうほどきけり喰ずともざくろ興有形かな菊の香やひとつ葉をかく手先にも見通しに菊作りけりな問れがほ菊の香や山路の旅籠奇麗也旅人やきくの酒くむ晝休み殘菊や昨日迯にし酒の禮朝露や菊の節句は町中も古畑の疇ありながら野菊かな泊問ふ船の法度や秋の暮有佗て酒の稽古やあきの暮身の秋やあつ燗好む胸赤しいとわかき大女に秋來て、極限公才も一葉と散行、蘭蕙の質も芳しき名のみに歸り來ぬ。道のくま〓〓問よる中に交りて、父の蘭而によす。此夕Fぬしなき櫛の露や照花燭をゝくりて靈前にさしよするは、いさゝか其情を慰するにあり。みそなはせ花野もうつる月の中あさがほに夜も寐ぬ嘘や番太郞ミか月やかたち作りてかつ寂し三日月の船行かたや西の海みか月や膝へ影さす舟の中雨に來て泊とりたる月見かな狂はしやこゝに月見て亦かしこ來ると否端居や月のねたり者名月や君かねてより寢ぬ病名月や花屋寐てゐる門の松おどり人も減し芝居や秋のくれひとり居や足の湯湧す秋のくれ夕露に蜂這入たる垣根哉出女の垣間見らるゝきぬた哉泊居てきぬた打也尼の友菊の香や花屋が灯むせぶ程剃て住法師が母のきぬた哉寐よといふ寢ざめの夫や小夜砧夜あらしに吹細りたるかゞし哉やゝ老て初子育る夜寒かな旅人や夜寒問合ふねぶた聲舟曳のふねへ來ていふ夜寒哉水瓶へ鼠の落し夜さむかな朝寒や起てしはぶく古ごたち椽端の濡てわびしやあきの雨茄子賣揚屋が門やあきの雨夜に入ば灯のもる壁や蔦かづら引けば寄蔦や梢のこゝかしこ町庭のこゝろに足るやうす紅葉銕槌に女や嬲るうちもみぢ空遠く聲あはせ行小鳥哉露を見る我尸や草の中靑き葉の吹れ殘るや綿畠柿賣の旅寐は寒し柿の側關越て亦柿かぶる袂かな殘る葉と染かはす柿や二ッ三ツかぶり欠く柿の澁さや十が十戀にせし新酒呑けりかづら結よく飮〓ば價はとらじことし酒きりはたりてうさやようさや吳服祭新米のもたるゝ腹や穀潰しどうあろと先新米にうまし國芦の穗に沖の早風の餘哉迷ひ出る道の藪根の照葉かな掘藥堀蝮も提てもどりけり身ひとつをよせる籬や種ふくべ二·〇太祇句
口を切る瓢や禪のかの刀此あたり書出し入もふくべ哉ひとつ家に年あるさまや若烟草夜の香や烟草寐せ置庭の隅事繁く臼ふむ軒やかけたばこ小山田の水落す日やしたりがほ永き夜を半分酒に遣ひけりあきの夜や自問自答の氣の弱長き夜や夢想さらりと忘れける寐て起て長き夜にすむひとり哉永き夜や思ひけし行老の夢落る日や北に雨もつ暮の〓長きよや餘所に寢覺し酒の醉壁つゞる傾城町やくれのあき塵塚に蕣さきぬくれの〓行〓や抱けば身に添ふ膝頭孳せし馬の弱りや暮の〓系大書俳本日冬玄關にて御傘と申時雨哉うぐひすのしのび歩行や夕時雨濡にける的矢をしはくしぐれ哉しぐるゝや筏の棹のさし急ぎ中窪き徑わび行落葉かな米搗の所を替る落葉哉盜人に鐘つく寺や冬木立冬枯や雀のありく戶樋の中爐開や世に遁たる夫婦合川澄や落葉の上 の水五寸麥蒔や聲で鴈追ふ片手業達磨忌や宗旨代〓不信心おどらせぬむすめ連行十夜哉なまふだや十夜の路のあぶれ者夜步行の子に門で逢ふ十夜かな追〓〓に十夜籠りや遣リ手迄あら笑止十夜に落る庵の根太荅しはしらでゐにけり歸花京の水遣ふてうれし冬ごもり身に添てさび行壁や冬籠冬ごもり古き揚屋に訊れけりなき妻の名にあふ下女や冬籠尻重き業の秤やふゆごもり僧にする子を膝もとや冬ごもりいつまでも女嫌ひぞ冬籠來て留守といはれし果や冬籠それ〓〓の星あらはるゝさむさ哉帋子着てはる〓〓來たり寺林紙子着しをとや夜舟の隅の方わびしさや旅寐の蒲團數をよむ活僧の蒲團をたゝむ魔風哉足が出て夢も短かき蒲團かな旅の身に添や鋪寐の駕ぶとん夜明ぬとふとん剝けり旅の友人ごゝろ幾度河豚を洗ひけむ死ぬやうにひとは言也ふぐと汁腹喰ふて酒呑下戶のおもひかな鰒賣に喰ふべき顏とみられけり河豚喰し人の寐言の念佛かな意趣のある狐見廻す枯野かな不夜庵に芭蕉翁を祭る。塀越の枯野やけふの魂祭行〓てこゝろ後るゝかれ野かな行馬の人を身にする枯野かな分稻一周の忌となりぬ。此叟のすゝめにて、大原野吟行せし往事を思ひてなつかしや枯野にひとり立心鼠喰ふ鳶のゐにけり枯柳目にぞしむ頭巾着て寐る父が兒新尼の頭巾おかしや家の內頭巾をく袂や老のひが覺へニール祇句選
口切や花月さそふて大天狗口きりやこゝろひそかに聟撰ミ菊好や切らで枯行花の數ちどり啼曉もどる女かな爐に銚子かけて酒のたゝむる自在の竹に、鬼女の面かけたるを、人の仰ぎ居る圖に賛をせよと、田福より賴れて吹きやす胸はしり火や卵酒鴨の毛を捨るも元の流かな胴切にしもせざりける海鼠かな海鼠だゝみや有し形を忘れ顏身を守る尖ともみへぬ海鼠哉うぐひすや月日覺へる親の側大食のむかしがたりや鰤の前剛の座は鰤大ばえに見へにけり立波に足みせて行ちどりかな莖漬や妻なく住を問ふおゝな法躰をみせて又着る頭巾かな庚寅冬十月、亦例の一七日禁足して俳諧三昧に入に、草の屋せばく、浴も心にまかせねば、やう〓〓かゝり湯いとなむに、時雨さへ降かゝりて、いとゞ寒きを作ゐしに、呑獅より居風呂わかして、男ともにさし荷せ來したり。贈ものゝ珍らしくうれしと、やがてとび入て、心ゆく迄浴しつゝかく申侍る。頭巾脫でいたゞくやこのぬくい物眼までくる頭巾あぐるや幾寐覺歸來て夜をねぬ音や池の鴛草の屋の行灯もとぼす火桶哉塩鱈や旅はる〓〓のよごれ面手へしたむ髪のあぶらや初氷朝顏の朝にならへりはつ氷勤行に起別たる湯婆かな茶の花や風寒き野ゝ葉の圍"系大書俳本日草の庵童子は炭を敲く也水仙や胞衣を出たる花の數膳の時はづす遊女や納豆汁曲輪にも納豆の匂ふ齋日哉僧と居て古び行氣や納豆汁御命講の華のあるじや女形人の來て言ねばしらぬ猪子哉喜介を江戶へ下せしあくる日初雪や旅へ遣たる從者が跡はつ雪や酒の意趣ある人の妹木がらしの箱根に澄や伊豆の海陰陽師步にとられ行冬至哉野ゝ中に土御門家や冬至の日雨水も赤くさび行冬田かなたのみなき若草生ふる冬田哉木がらしや柴負ふ老が後より今更にわたせる霜や藤の棚腰かける舟梁の霜や野ゝわたし鶤の起けり霜のかすり聲笘ぶねの霜や寐覺の鼻の先行舟にこぼるゝ霜や芦の音耻かしやあたりゆがめし置火燵埋火に猫背あらはれ玉ひけり埋火にとめれば留る我が友あてやかにふりし女や敷巨燵火を運ぶ旅の巨燵や夕嵐淀舟やこたつの下の水の音草の戶や巨燵の中も風の行攝待へよらで過けり鉢たゝき曉の一文錢やはちたゝきはげしさや鳥もがれたる鷹の聲鷹の眼や鳥によせ行袖がくれ雪やつむ障子の帋の音更ぬ小盃雪に埋てかくしけり汲公と葎亭に宿して、そのあした道にて別るとて太祇句選一=
二二氷つく芦分舟や寺の門御手洗も御燈も氷る嵐かな垣よりに若き小草や冬の雨父と子よよき榾くべしうれし顏勤行に腕の胼やうす衣几圭、師走廿三日の夜死せい。節分の夜明なりければ死ぬとしもひとつ取たよ筆の跡梅幸へ言遣る。積物や我つむ年をかほ見せに大名に酒の友あり年忘れ夢殿の戶へなさはりそ煤拂聲立る池の家鴨やすゝ拂煤を掃く音せまり來ぬ市の中剃こかす若衆のもめや年の暮褌に二百くゝるや厄おとしすゝ掃の埃かつぐや奈良の鹿怖す也年暮るよとうしろから見返るやいまは互に雪の人宿とりて山路の雪吹覗けり空附の竹も庇も雪吹かなうつくしき日和になりぬ雪のうへ降遂ぬ雪におかしや簑と笠御次男は馬が上手で雪見かな足つめたし目におもしろし手にかゝむ里へ出る鹿の背高し雪明り長橋の行先かくす雪吹かな交りは葱の室に入にけり寒垢離の耳の水ふる勢かな寒月や我ひとり行橋の音(G)寒月の門へ火の飛ヲ鍜治、〓哉寒月や留守賴れし奧の院駕を出て寒月高し己が門鍋捨る師走の隅やくすり喰日頃經て旨き顏なり藥くひ枯草に立テは落る〓かな年とるもわかきはおかし妹が許寶ぶね譯の聞へぬ寐言かな聲よきも賴もし氣也厄拂拂年とりて內裏を出るや小姚灯谷越に聲かけ合ふや年木樵兼てよく兒見られけむ衣配唐へ行屏風も〓やとしの暮雅因た訪ふ。年の暮嵯蛾の近道習ひけり年內立春歲のうちの春やいざよふ月の前室町中立賣上ル平野屋京善書林兵衞太祇句選二二
系大書俳本日太祇句選たいせん後編五雲撰
(太祇句選後編)春小書院のこの夕ぐれや福壽草二日には箒のさきやふく壽草七くさや兄弟の子の起そろひ初寅や賴光しばし市原野鉢の子に粥たく庵も若なかなあら手きて羽子つき上し軒端かな萬歲のゑぼし姿やわたし船穴一の筋引すてつ梅が下若くさや四角に切し芝の色若草ややがて田になるやすめ畑旅立の東風に吹する火繩かな駕に居て東風に向ふやふところ手紅梅や公家町こして日枝山嚙れしが思ひもすてず猫の聲白魚やきよきにつけてなまぐさき閑かさを覗く雨夜の柳かな不夜庵太祇句集を撰して序を夜半翁にもとむ。翁曰、序はかりそめにすべからず。祇と因ミの深きものをよしとす。これを葎亭·宛在に歸せよ。退て葎亭·宛在の二翁にはかる。二翁曰、序はかりそめにすべからず。祇と因ミの深きものをよしとす。これを呑獅に歸す。退て序つくる。意匠万端つゐに章をなさず。ひそかに思ふ、序の〓と旣前集に盡たり。今はた何をかいはん。たゞちに三翁の言をもて序とす。不夜城呑獅
はる風や殿まちうくる船かざり濡れて來し雨をふるふや猫の妻挑灯で若鮎を賣る光かな拾ひあげて櫻に珠數や御忌の場餅やくをおいとま乞のどんど哉籠耳に山の名を問ふかすみ哉陽炎や板とりて干す池のふね踏つけし雪解にけり深山寺うぐひすや君こぬ宿の經机(十)初牛や狐つくねしあまり土はつ牛やもの問初る一の橋おそろしの掛物釘やねはん像ちるなどゝみへぬ若さやはつ櫻見へ初て夕汐みちぬ芦の角すみの江に高き櫓やおぼろ月春寒し泊瀨の廊下の足のうら陽炎や筏木かはく岸の上かげろふや夜〓の網干す川の岸嫁入せし娘も多し御忌詣はる寒く葱の折ふす畠かな白雲や雪解の澤へうつる空芹の香や摘あらしたる道の泥ぬす人の梅やうかゞふ夜の庵うつくしき男もちたる雉子かなつみ草や馬のはせきぬ馬場の末鶴を〓く雲井の空や雞合物音は人にありけりおぼろ月歸來て灰にもいねず猫の妻髭につく飯さへみへずねこの妻漏る雨をひとゝかたるや春の宵はる雨や風呂いそがする旅の暮水吸に鼠出けり瓶の花宵月や船にもさくら打かたげ女を供して旅だつ人へつかはす。女にかはりて枕香の梅をみよとの旅路かな涅槃會や禮いひありく十五日はる雨や音もいろ〓〓に初夜のかね今日は身を船子にまかすかすみかな若鮎や水さへあれば岩の肩散てある椿にみやる木の間かな蝶飛ぶや腹に子ありてねむる猫うばかゝのさくらを覗く彼岸かな歸る雁きかぬ夜がちに成にけり吹はれてまたふる空や春の雪いろ〓〓の名は我言はすさくらかな情なの荅さくらやひなの前むかひ居てさくらに明す詞かなあらし山の花みにまかりて筏士よ足のとまらぬ花ざかり釋はる雨や講尺すみて殘る顏三日月に木間出はらふ茶つみ哉行雁の高キや花につりあはず地借衆へ一枝づゝやもゝの花掃あへぬ桃よさくらよ雛の塵紙びなや立そふべくは袖の上照り返す伏水のかたやもゝの花二里程は鳶も出て舞ふ汐干哉勝雞の抱く手にあまる力かな下手の焚くひなの竈ぞ賑はしき巢を守る燕のはらの白さかな山吹や腕さし込て折にけり船よせてさくらぬすむや月夜影塀ごしやさくら斗の庭の躰半ば來て雨にぬれいる花見哉狂言は南無ともいわず壬生念佛暮遲く日の這わたる疊かな口たゝく夜の往來や花ざかりしなへよく疊へ置や藤の花遲日の光のせたり沖の浪几巾持て風尋るや御伽の衆山路きてむかふ城下や八巾の數一一九
家內して覗からせし接木かな永日やいまだ泊らぬ鷄の聲堀川の畠からたつ胡蝶かな寄添て眠でもなきこてふかなひと眞似のおぼつかなくも接穗哉泊らばや遲き日の照る奧座敷膝たてゝおそき日みるや天の原池のふねへ藤こぼるゝや此タベ蕨採て筧にあらふひとりかな几巾白し長閑過ての夕ぐもり諸聲やうき藻にまとふむら蛙京へきて息もつきあへず遲ざくらのびよかし藤の荅の咲かで先寒食や竈をめぐるあぶら虫はるの行音や夜すがら雨のあし下戶の子の上戶と生れ春暮ぬ夏立むかふ廣間代りや更衣ほとゝぎす今見し人へ文使ひ卯の花はまはりこくらの垣根かなかきつばたやがて田へとる池の水切るひとの帶とらへけり杜若湖へ神輿さし出てほとゝぎすほとゝぎす江戶のむかしを夢の內布子賣囘國どのよころもがへ江戶雅光訊來て旨原·珠米などが噂申いでゝ、予が顔の年よらぬ事、おもひしにたがへるなどゝむかしかたり出て興じける。年よらぬ顏ならべたやはつ鰹など我は寢ざめぬ老ぞ時鳥灌佛や假リに刻し小刀目新茶煮る曉おきや佛生會麥〓や埃にかすむ晝の鐘あまた蚊の血にふくれ居る座禪哉蠅を打おとや隣もきのふけふ年よれば疲もおかし更衣濃く薄く奧ある色や谷若ばほり上てあやめ葺けり草の庵川風に水打ながす晒かな用意せし袷出す日や晝旅籠葉ざくらのひと木淋しや堂の前川留の伊東どのやな乕が雨あら浪に蠅とまりけり船の腹麥を打ほこりの先に聟舅穗にむせぶ咳もさはがしむぎの〓みじか夜やむりに寐ならふ老心雨に倦く人もこそあれかきつばた泥の干る池あたらしや杜若寐た顏へ〓吹あてるはし居哉斯飮きりし旅の日數や香需散みじかよや來ると寢に行うき勤うつす手に光る螢や指のまた音はして行みづくらき木がくれをてらすほたるの影もすゞしき通村螢火や岸にしづまる夜の水柳みんよそに夕立あまり風帷子や明の別のすそかろきヽ蝙や千木みへわかる闇の空白雨はあなたの空よ鷺の行みじか夜や雲引殘す富士のみね雨の日は行かれぬ橋やかきつばた蚊の聲は打も消さぬよ雨の音一日は物あたらしき五月雨たけの子や己が葉分に衝のぼる笋やおもひもかけず宇津の山底見へて鵜川あさまし夜の水八重雲に朝日のにほふ五月哉手から手へわたしわづらふ螢かな若竹や數もなき葉の露の數一二一
蝙蝠やけいせい出る傘の上わびしげや麥の穗なみにかくれ妻麥埃樗にくもる門邊かな思案して旅の袷にうつりけり側に置て着ぬ斷や夏羽織ひるの蚊の顏に鳴り行廣間かなかやり火のうたてのこるや夜の儘とりにがす隣の聲や行ほたる寺からも婆を出されし田植哉白雨のすは來るおとよ森の上雨あれて筍をふむ山路かな隣には木造のほる新樹哉子子やなまなか澄るくされ水囘國の笈にさし行團かな竹醉日草の戶や竹植る日を覺書物あぶる染どのふかし五月雨漣にうしろ吹るゝ田植かなゆふだちの月に成ぬる鵜川かな今朝みれば夜の步みやかたつむりさみだれや夜半に貝吹まさり水笋やほりつゝ行けばぬいた道早乙女 下りたつあのたこの田哉旅びとや曾我の里とふ五月雨みじかよや旅寐のまくら投わたし古き代を紋に問るゝのぼりかな幟たつ母なん遊女なりけらし塩魚も庭の雫やさつきあめ岩角や火繩すり消す苔の花ほうふりや蓮の浮葉の露の上呑獅またことしも旅立を人もうらやむ袷かなほとゝぎすきくや汗とる夜着の中影高き松にのぞむや蝸牛君めして突せられけりこゝろぶとかはほりや繪の間みめぐる人の上汗とりや弓に肩ぬぐ袖のうちはや鮮の蓋とる迄の唱和かな早鮓に平相國の鱸かなひとり言いふて立さる〓水哉關守の背戶口にたつ凉み哉片道はかはきて白し夏の月屋根葺は屋根で凉の噂かな醉ふして一村起ぬ祭かな虫ぼしのすゞしさかたれ角櫓(拔カ)むし干や秡身をさます松の風まし水にあやうき橋を凉かな鉾處〓にゆふ風そよぐ囃子哉老たりといふや祭の重鎧まつりの日屏風合の判者かな花鳥もうら繪はうすき扇かな酒藏に蠅の聲きく暑かなかたびらの癖はつきよき腕まくり凉風に角力とらふよ草の上二二三さみだれや夜明見はづす旅の宿掃流す橋の埃や夏の月五月雨や川うちわたす簑の裾角出して這はでやみけり蝸牛化猫も置手拭やむぎの秋かたびらの無理な節句や傘の下松陰に旅人帶とく暑かな飛石にとかきの光る暑かな松明に雨乞行やよるの嶺夕立や扇にうけし下り蜘木枕に耳のさはりて暑き也向陽軒にてあつきひや明放す戶のやらんかた鵜ぶねみる岸や闇路をたどり〓〓ゆふ顏のまとひもたらぬ垣根哉帷子や蠅のつといる袖のうちかゝる日や今年も一度心太松かげにみるや扇の道中記
手習子やの門うつ子あり朝さむみ夕されや軒の烟草に野分ふく朝さむく蠅のわたるや竈の松刀豆やのたりと下る花まぢり夜の間の露ゆりすふる廣葉哉吹倒す起す吹るゝ案山子かな片足は踏とゞまるやきり〓〓す初鴈や遊女にあぶらさゝせけりはつ鴈や夜は目の行ものゝ隅さはがしき露の栖やくつわ虫脫すてゝ角力になりぬ草の上着物のうせてわめくや辻角力鬼灯や物うちかこつロのうちはつ雁やこゝろつもりの下リ所かけ稻や大門ふかき並木松鉢の子ににへたつ粥や今年米里の燈をちからによれば灯籠哉立寄ば椎はふりきぬ雨舍土照りて裂るや草の生ひながらむし干やむかしの旅のはさみ箱水打て露こしらへる門邊哉草の戶や疊かへたる夏祓秌眼ざましにみる背戶ながら今朝の露木戶しめて明る夜惜むおどり哉船よせて見れば柳のちる日かなたま祭持佛に殘す阿彌陀かな駕に居て挑灯もつやはつ嵐君こねばあぶら灯うすし初嵐めでたくも作り出けり芋の丈浦風に蟹もきにけり芋畠初戀や燈籠によする顏と顏稚よひやみや門に雅き踊聲狼のまつりか狂ふ牧の駒はつ〓や團扇の風をひいた人猪の庭ふむ音や木の實ふる待宵やくるゝにはやき家の奥手折てははなはだ長し女郞花蚊のありつなかりつ月の船路哉呵程舳さきへ出たき月み哉あさ皃や小詰役者のひとり起稻妻の無き日は空のなつかしきいなづまのこもりてみゆれ草の原いなづまやなきとおもへば雲間よりいなづまやよわり〓〓て雲の果芋むしはいものそよぎにみへにけりもるゝ香や蘭も覆の紙一重芋の露野守の鏡何ならん降れても行や月見の泊客いなづまや雨雲わかるやみのそらあと追ふてわめきくる也橋の月名月や船なき磯の岩づたひ日は竹に落て人なし小鳥網聞はづす聲につゞくや鹿の聲名月の晝迄大工遣ひかなくさの戶の用意おかしや菊の酒朝市や通かゝりてけふの菊ひとり居やおもひもふけし十三夜田舍から柿くれにけり十三夜十三夜月はみるやととなりから表から出汐告來つ十三夜おもはずもよそに更しぬ十三夜朝市や虫まだ聲すものゝ下あさ寒や旅の宿たつ人の聲碪打やまぬ堪たのもし夜の旅枝裂てしろりと明る野分哉よる浪やたつとしもなき鴫一ツ白き花のこぼれてもあり番椒中入に見まふ和尙や茸がりうかれ女や言葉のはしに後の月一葉さへかさなりやすき日數かな
家〓や銚子のきくの咲さかぬしづめたるきくの節句の匂ひ哉臺灣を當推量や十三夜いく浦のきぬたや聞てかゝり船馴て出る鼠のつらや小夜ぎぬた庭のもみぢの染たるとて、魯庸もちきたりける。やゝあつて水に生たるもみぢ哉哲哉、卷を袖にし來て引墨を乞つでて.菊をおくりけるに、哲哉もときくを養ひつくり得しが、今は平常のきくのみ愛すなどゝかたり出たるに、予も同意なるよし答て中菊や地に這ふばかり閑なる曉の籠をぬけけんむしの聲寒きとて寢る人もあり暮の〓氣のつかぬ隣の顏や暮の秋雞頭やひとつはそだつこぼれ種冬水仙を生しや葉先枯る迄木戶しまる音やあら井の夕千鳥水仙や疊の上に橫たをしよるみゆる寺のたき火や冬木立一番は迯て跡なし鯨突宵やみのすぐれてくらし冬の雨十月の笹の葉靑し肴籠つめたさに箒捨けり松の下人顏も旅の晝間や神無月かみ無月旅なつかしき日ざし哉御築地に見こす山邊やいく時雨ひとの子の惡處戾りや門の霜千人の日用そろふや雪明り人去て曉くらき十夜かなとする間に水にかくれつ初氷千本をもどる。霜をける畠の冴へや鍬の音下戶ひとり酒に迯たる火燵哉木葉散雨うちはれて夜明たり人踈し落葉のくぼむ森の道木がらしや手にみへ初る老が皺絆木枯や大津脚件の店ざらしぬれいろをこがらし吹や水車晝になつて亥子と知りぬ重の內炭賣よ手なら顏なら夕まぐれたそがれに吹おこす炭の明り哉獺に飯とられたる網代かな水指のうつぶけてある寒かな花もなき水仙埋む落ばかな起うきを起出て冬のいさみ哉飯喰ふて隙にしてみる冬至哉掃けるが終には掃ず落葉かな壁までが板であられの山居哉鳴ながら狐火ともす寒かな初霜やさすが都の竹箒はつ雪や町に居あはす桑門初ゆきや酒の意趣ある人の妹末摘や炭吹おこす鼻の先はつ雪や醫師に酒出す奥座敷醫師へ行子の美しき頭巾かな盃を持て出けり雪の中ゆきをみる人さわがしや夜の門犬にうつ石の扨なし冬の月かさの雪たがひに杖で打はらひよるのゆき寐よともいわぬ主哉口切のとまり客あり峯の坊寒ぎくや垣根つゞきの庵の數一とせ翁をゆめみ侍をおもひよせて其魂の朱雀もめぐる枯野哉今朝は先消てみするや初氷冬の朝ひのあはれなりけりとは二二〓編後選句祇太
關守へ膳おくり來つゑびす講句を煉て膓うごく霜よかな枯くさや藪根の椿落る迄雪見とて出るや武士の馬に鞍ゆふ風や木咲といふて梅持參獵人の鉄飽うつや雪の中うまきとはいつはりがまし藥喰稚雅子の寐て物とふや藥くひ手燈しの低き明りやくすり喰盃になるもの多し卵酒魚ぬすむ狐のぞくや網代守髮おきやちと寒くとも肩車町中のあられさはがしひとの顏かみ置や、かゝへ相撲の肩の上髪おきやうしろ姿もみせ步くそれとみる松の戶尻や莖の桶顏みせや狀を出しあふ宇津の山嫁みせに出て來る茶やの落ば哉せを翁の句をおもひよりて身をよする冬の朝日の草のいほ藤棚のうへからぬける落ばかな水せんや幸あたりに草もなきHANくらがりの栖抄にさはる氷かなさむき夜や探れば窪き老が肩水仙や莖みじかくと己が園腰かくる舟梁の霜や野のわたし顏みせの難波のよるは夢なれや寒聲や親かたどのゝまくらもと寒菊や茂る葉末のはだれ雪苞にする十の命や寒雞卵親も子も醉へばねる氣よ卵酒腰かけて紅葉みつらん炭俵かれ芦や鴨見なくせし鷹の聲鶯に藪の掛菜のにほひかな木葉ちる風や戶をさす竈の前あるほどの水を入江の氷かな對にしてかぞへて步く鴛見哉霜の聲ひとの斯で寐ぬよ哉咲ている梅にもあふや寒念佛冬ごもる心の松の戶をほそめかたちして孤屋までぞ水の色節季いややむときはやむ物の聲狐なく霜夜にいづこ煤はらひ樓に哥舞妓の眞似や煤拂とし〓〓や煤よう掃て手向水道ばたの天秤棒や大根引爼板に這ふかとみゆる海鼠かな餅つきやものゝ答へる深山寺とし忘扨もひとには精進日餅の粉の家內に白きゆふべかな二階から土器投やすゝはらひ居風呂の底ふみぬくや年の暮わびしさや思ひたつ日を煤拂すゝ拂てそろりとひらく持佛哉すゝはきの中へ使やひねり文煤拂のあら湯へ入る座頭かなすゝはきや挑灯しらむ門の霜山ぶきのいわぬ色あり衣配とにかくにたらぬ日數や年忘眼に殘る親の若さよ年の暮年とるや帆柱の數ありそうみ安永〓酉炸八月不夜庵五雲撰
石の月つき五雲撰系大書俳本日
(石の月)もとしのぶ草にぞ露のたまよばひさは是を序とやいはん。東武散人耄多少於花洛旅寓漫述故不夜菴太祇居士は、そのさき東武詞宗の員につらなりし身の、いかに都の風土やこのもしかりけん、中年の頃杖を起し、この地に居をト、ほどふるにしたがひ、鳴もこの地に居をト、鳴も老師太祇三周の忌にあたれば、いゝさか上薦の一句をなし、はた太祇句集の初餘稿にもれし三十章あまりのほくを祿し、知己および社中の人〓の秋興の句を乞ふ〓、これを手向草となし侍りぬ。不夜菴いよゝやすし蓮のうへにも妖三とせ五いゝさて行ぬるもとしあり。て行ぬるもとしあり。さるを古〓の五雲も何となく京住にかねて、友むつびむなしからず。遠き筑紫の船にも起臥をひとつにかたらひ盡せし果は、居士がいざなひにまかせ、文臺の主とはなりぬ。さてぞ往し卯の中秋初九、はからずも居士世を辭しける其跡うちすてがたく、人〓〓とゝもに五雲をして舊菴に移住せしめ、かたのどく俳事をとりはやす〓とにぞ、今はた三とせの懷旧に、こゝら門人·知音の吟を一册となす。子もふるき因あれば、これがいとぐちを解よかしと菴主せちに勸られしが、老行としの〓とに懶く、もとより才薄く識なきをいかにせん。されど又あながちにいなむべきなからひにもあらねば、只ありのまゝをかひつけて、彼靈をなつかしむのみ。居士がいざなひにま〓、人不夜菴五雲かたのどくこゝこの
系大書俳本日月の落る汗もの書上へほつたりと鉄劵も月に似た弓も俗して靑き葉の吹れ殘るやきら〓〓敷も銀燭のさま片歌山里に行わた る仙綿秋畠峯入の强力來たり煤夜あけぬと蒲團刷けり旅の友云繼をこゝろの友や冬ごもり一輪をつまみ歩行や歸り花初雪やこちへござれと老が文けふの日もはや夜着かける巨燵哉醫者へ行子にかぶせたる頭巾かな口切のとまり客あり峯の坊冬剝拂日〓に切茄子に富る庵かな眼の覺る時を朝なり五月雨短夜や雲引殘す富士の老て我うたがふ耳やほとゝぎす夏峯藤いけてしほれしまゝや旅の宿海棠や紅粉少しある指のはらちりのこるほどの櫻は雨おもし情なの莟さくらや雛の前嫗嚊がさくらを覗く彼岸かな川越の肩で空見る雲雀かな朝がすみ都は所〓〓に塔の尖はるの夜に飯綱の出した溫飩かな院〓〓の春は見え來ぬ梅椿春炭太祇四季發句丑渡嘯五太二牛山雲祇あるへい糖せめて思ひの胸にさへいつ上る雨ともしれずほとゝぎす春からの新參ながら御意に入花迄に紺屋の染の出來合ず將棊ゆへ半年ばかり留られて活僧の庵のぐるりは番椒美しく夜は紫に明はなれ角內も少し出世の角左衞門足引の漸〓來れば間の宿ニ三五讀さしてある桐壺の卷溫〓泉場へ飛脚の味噌も醬油も几巾に心はうはの空なる雪踏の音の村に珍しあれ三ヶ月といそぎあわてる後の袷の襟におもたき吉原好の大殿ぞかし是が酒かと言つゝも呑あそこやこゝに飛違ふ蠅何事ぞ坐敷をはづす秋の暮燒過た尻を〓とはる柚味噌かな明月や家にうたてきものゝ影今朝みればこちら向たる案山子かな萩の花盜て迯るしなへかな朝兒やはかなさいふはあとのことあたらしき板もまじりて鳴子哉白露のしろきは假の光りかなもぎ盡す梶のもとつ葉秋もはや駕籠に居て挑灯持や初あらし秋手習子やの疊は黑きあつさ哉土照りて裂るや草の生ながら身ひとつをやるかたもなき暑さかなこけとまる瓜にむかふて這子哉むし干に雪沓かゝる垣根かな文管春舞渡德錦丑吳斜渡明舞德管文德春皮鳥爾閣牛野嶺二〓天光五閣圃鳥皮野爾
茶にかうしたるよ詩にある住居也親も子も鷹野の供に召れつる三日月の舟もろともに棹さして蕣やはかなさいふは跡の事太祇居士魂棚にはや來迎歟夢、の音(草カ) (草カ)夢に見た晝より明し夏の月しやんと繻伴の糊が能きくとらへて來れば狐付なり絆千早振神に仕ふる古烏帽子臼うたも關のひがしは聲高にしきりなる稻妻寒し瀧しぶき下駄はいて世界囘つた花行脚眠り〓〓銚子を替にいく度歟百石のうちが半分山と川(土)夢履から艸鞋になると其かるさ水もあづまの方へ流るゝ人のとふまでに細りし食の味香のもの刻て喰ふこそわりなけれ月朧宗祇をとめて輕い寐道具霰こぼして雲は晴行有やなしやと振る五舛樽人のこゝろの撓む白露杉薹に立たる若衆見初る何やらゆかし越方の春あたらし家の今に匂へり雪の噺 の啌も一丈八聲の雞や一聲 の雉子今日で幾日の碧巖の席何をたのみの寺よりの狀町苗にて卽興の短册あり。太祇師いつの妖にか有けん、我亭秋興社中の匂ふ中行流曉の川雨呑獅吾琴多少几董五雲嵐山蕪村呑獅吾琴多少几董蕪村嵐山五雲呑獅丑二渡牛銀獅雅因明五渡牛春爾管鳥舞閣明五文皮花袿丑二德德甫野)興盡る頃の咄しに實が入りて懇なくすしも年の老にけるあはや焦ぬと見ゆる焼灯挑句作りのおかしからざる秋くれて恨顏なき月の松しま錦木ゝのこけてわびしき露霜に能キ鎌ほしく思世の中は爰に日和のふ百譽性姓譏豐に翌の御幸觸來る藥鑵とはあまりの事の藥好名もなき樹〓〓の立伸る頃日來我が小太刀うれしき更衣金の箱を積かさねたり莚帆も追風うけて奇麗也音色も若き法螺の厚總花は櫻さくら散ともよしの山ゆくと來の人を土俵や辻相摸聞に來ぬきのふや鹿の聲の數撰くちなわをことしもころす花檀哉八朔や嵐のあしの供廻り芋の葉の露もかたむく日ざしかな猿の毛のあらくれたつや初嵐抱籠のうき世はなれて今朝や秋筈あげてもり來る月に素讀哉朝兒や間に〓〓花の咲揃ひ秋風や切籠のふさのみだれより霧深く都の富士や數十程落かたを寐ものがたりや雁の聲灘越てのこる暑をゆふべかな朝かぜや落穗の雀さはがしき風の行聲や二夜の月の跡操珠數の露のしめりや朝な〓〓朝日に消ぬる雪の玉水すなをにはしる亭の戶障子一二九一三六呑獅多少几董吾琴五雲几董多少呑獅蕪村多少五雲嵐山几董蕪村嵐山五雲吾琴几董明五漢年井魚魯計雨朝舞閣管鳥德圃文皮德野德門芋冉吾琴銀獅雀皐春爾
朝手燭して能ふとん出す夜寒哉明月や酒癖なくて七ツ迄隣にも木魚うつなり秋の暮夜寒來ておれがからだを覺へけり繪行器の使に逢ひぬ古みやこ霧長うなる夜とや語らん星の閨秋や二人起たる 臺興所蕣のはなや硫黄のほの移り寐た人の家根へ石うつ月見かな中〓〓に遠きが花の友なれや摘む初むかし挽後むかし春泥發句集〓ほ上·下召五呑蕪多武嘯嵐几雅嵐蕪雲獅村少然山山董因山村跋火燼"未〓央〓而〓"以〓他燭〓貧素ノ之家モ亦ケ〓シテ及ノ「跋ニ太祇處士四時詠其徒乞フテテニ爲ニシム之レガ跋余謂フ跋ヲル者、猶シル過數言言噫癸巳之秋七月寸ナレバ則ヲ復々換フィ之之レヲ而已不佞寒陋#今〓爲シー「之レガ跋フールーニシャ燭燭之之跋ノ也富貴ノ之家、宴飮シテトール夜ヲ大ィニ設シ燈燭フ而波印葛陂野人題印
抑維的〓ろき〓を〓〓魚子寿也金のテラル全品にゆるか西の別業に會す消するぞ金に俳諧を同苦四船借に俗語を用て俗を離るもと〓ふ俗配て俗を用の離俗法最じうの何も彈劾ヲ隻毛孔超身を以てもの則佛諧弾て離俗則波彭惜丁部問空うそもところのの離留ろ說其肯玄ちうとい(と田〓〓是〓〓ニ〓〓をもうて殺すかぎ
とて一位したる我もき子自れる化し宮俗を離もろ提径あくね~日日巧詩を倍とし子をにある道を能す他にすぎむだろうそうだね散〓夫〓と俳消とそこう其致を重いすさんと俳協をすそし〓を吊れてい(う)ノれらにあらすね苔日〓家去俗論あー日画〓俗血袍法多讀書則書巻之氣上升市俗之氣下降矣學者其慎旃哉必画ろ俗を去たる事を投を書を後-ひ况〓と俳消と何の遠い事あらんやゆとち悟す〓日又〓いヲゑより俳指ろめ家各、門戸を分ち風調を〓すんりてた英堂異さんやんや吾日俳皆に門戸昨日産他初間といつでステ門子ま見論日諸名家不分門立戸門戸自在其中100始めうのうと諸別でも花を一嚢中に貯へみつのらサスようき撰ひ用に値て出す唯自己胸中い人と韻了外他の法を〓〓とも常に其友をつてて
サヘくにおふにあらくれもこと郷は至ること彼開真友を守るもの八淮や着其雨を気すべ嵐雪を幼ひ素堂を偈の思貴な佛日 て此四老を會こつた市場名利ろ減を離。林園に花い山水みこ酒を励て諾旬を得るともハ專不意意を貴小如日と或日又四老る今日實推懷とし眼を開て苦吟し旬を得て眼を開く各四その所至を矢すそすいつれのところに仙化~うとく一く自由吋子花香わし月光小子ほふ是子ク俳消乃郷くら微微笑すつのに救社良る帰~~をを8最麦林支考を非行を余曰麦林文艺其〓としてもユみに人情世〓」〓〓〓〓〓ニューされそやしちの〓ろ向法做了。又ユ案の一切なしゃくちまあら子詩家子李在を貴るに論すれ先白ををてきるっどく
をよ波日間沈をあといきそ堅板禅まことをひれるある呉張を画魔よ支麦ハ則佛〓なくくのみや2てくち麦を罵て進て他岐を顧をゐに俳省の佳境をねむあなし一旦施にめて起こうとあん可形容日こにうけん栗ほら雇うそのまちめ發售入期をさし金招てくをきたて日恨らくハゆうとこもにほりをと言れて優腎外して泉トに帰して余してい泣て日我俳習西をうふ优沙西せく七のハ夜半若〓いつ みるのゆに記せる文之夜キ苦〓ハ余クル邊ろ〓〓にするくもかく人と討論をうとを雜混とてもものや三くるに其を其ずしてててててて此集ろ席とそるといやとに故あうは文を見ては子清韻酒落をする茶知てその勺といをしろと
席のやを引きてる半に類をへらをというこう妙治下ろ在半亭に於て六十二翁蕪村書千時穿永イコ〓年十二月七日春泥發句選(上)羽子板猿曳年玉羽子板の一筆書や內裏髮猿引の村へ來たるよ呼子鳥とし玉や抱ありく子に小人形年だまやわび寐の菴の枕上小わらはの物は買ひよきわかな哉ほとゝぎすわたらぬさきに薺かな御飛脚の堀河出てなづな哉掘ところ堀おのれが髪も結ふる此日ごろ梅にながるゝ野河哉宦高き人のにがみや梅花うめ生て是より瓶の春いくつ梅白く藪の綠にさす枝哉梅ぼしの酒しほすゝめ寺の梅梅折て斜にし見る木曲哉(月)梅の月源氏の噂女芳達御室の僧、梅花一枝をたまふ。衣裡よりも得たりかしこし梅の珠梅折ば先夕月のうごく也一四九春之部元旦こと〓〓く申は盡じ花の春けさ春の氷ともなし水の糟春たつや靜に鶴の一步より素袍着た酢賣出こよ花の春等持院寓居の頃元日や草の戶越の麥畠元日雪ふる野一遍雪見ありきぬ離煮腹ひともとはかたき莟やふく壽中うれしさや養君のかゞみ割學寮や祖師の鏡のあぶり喰寶引の味方にまいるおとな哉若菜野梅老元麥畠春發句集強硬貨車鏡開寳引
うぐひすや銅蓮水を湛ぬる無人境うぐひす庭を歩りきけり八郡の空の霞や御忌鐘つく〓〓しほうけては日の影ほうし爼ばしやかづき上ゲしはうどの線所思土筆經木のかゝる河邊哉東風うけて川添ゆくや久しぶり飮過た禮者のつらへ余寒哉いかづちの後にも春のさむさ哉思ひ出て藥湯たてる餘寒哉からびたる竹の寒や春いまだ自悔四十にも餘る寒さやものゝ悔底たゝく音や余寒の炭俵望汐の遠くも響くかすみ哉日三竿雨になり行霞かな波の寄ル小じまも見えて霞哉醍醐出て二度に囉ひぬ梅二本二日目に葛家は成りぬうめの花伏見鶴英、任口上人の眞跡を惠ければ短冊と伏見の梅を一荷かな梅花美人來れり漸二更咄されぬ梅のあるじや道心者歸さの棒の片そぎんめの花さし柳五尺の春を見せにけり五條まで舟は登りて柳かな靑柳や堤の春の いく所かたり合いかにもそこの柳哉我庭を瓶に憐む椿かな里の子が拾ひ首する椿かな落なむを葉にかゝへたる椿かな鶯につめたき雨のあした哉うぐひすの聲あはせけり春の奥鶯の聲は戶にあるあした哉系大書俳本日御土獨忌筆活東餘風寒柳椿黄鳥霞海若苔鮎生海苔の波打際や東海寺點〓と折敷に見せる小鮎哉汲鮎や靑山高く水長し柴にとる海苔大分も見えぬ也おぼろ月獺の飛込水古し我影や心もとなき朧月田薗の趣さらにおぼろ月土とりのあとの溜リやおぼろ月囀に獨起出るや泊客撫あげる晝寐の顏や春の風暮かゝる空をかこつや几巾里坊に兒やおはしていかのぼり朝東風に几巾賣店を開きけり此糊のひるま過せよ紙鳶几巾買て子心ぞ憂雨つゞきいかのぼり遠まさり行反古かな白魚に余寒の海やいせ尾張しらうをゝめづるや老のうん呑にしら魚やつきまとはるゝ海の塵こもり江や雲母うく水に啼蛙西行の席さはがしき蛙かないづちともなくや蛙の在所はじめから聲からしたる蛙かな江の蛙生駒の雲のかゝる也木づたひにいどみより來ぬ猫の夫思ひかね夜〓寐ぬ猫の眠哉よく見れば乞るゝ妻やこちの猫あたゝかな雨間を雁の呼夜哉沖に降小雨に入や春の雁北そらや霞て長し雁の道古き戶に影うつり行燕かな酒簇につばめ吹るゝタかな幢の佛間へ這入乙鳥哉みづうみの淺瀨覺えつ蜆取わかめ刈乙女に袖はなかりけり春深く和布の塩を拂ひけり一一二蛙朧月猫戀囀春帋風鳶歸雁燕泥春旬發集蜆和海藻白魚
痩脚や畑打休ム日なたぼこ地車に起行く草の胡蝶哉はかなしや蝶の羽染る鳥の糞屋根ふきのあがれば下るこてふ哉雛の宴天井に雲〓せん曲水に病後の僧の苦吟哉曲水や江家の作者誰〓〓ぞ有常は娘育てゝ家の雛雛の宴五十の內侍醉れけり桃花盃疊のうへを流めり雛店に彷彿として毬かな鷄合左右百羽を分チけり暹羅がしは桃花の雨のみだれ哉鶤のしはがれ聲に名乘けり劉阮の桃に泊るや撞木町風呂に見る早き泊りやもゝの花立よりて苣な荒しそ桃の花庵室や雲雀見し目のまくらやみわかめ刈竹枝の〓とば習けり酒いたく呑ておかしや蕗のとう(現金晋人の味曾の酒落や蕗の臺梅生てねじめに折やふきのたう初むまや足踏れたる申分鴛の衾に二日やいとかな天人の肘に泪やねはん像悼北邑幸順苦き手の其人ゆかし蕗のとう大原や木の芽すり行牛の頰蕎麥打テば山葵ありやと夕かなおもしろうわさびに咽ぶ泪かな摘中やいとはしたなき包もの野の河や蕨さはしてひたしもの古箸に人をよけたるさし木哉すゞめ子や書寫の机のほとり迄人の手に巢へ戾されつ雀の子雀子や並ビ居つゝも黃ナル觜畑蝶打系大書俳本日蕗薹初午二日灸涅槃上巳木山芽葵鷄合摘草蕨さし木雀子草桃雲雀北谷は南谷はいま山ざくらやま櫻うつぼに折て歸也須磨寺のめしのけぶりや山ざくら晚望燒火かと夕日の藪や花に鐘落る花ひとかたならぬ夕かな莖ながら雨の日頃や落る花菴の雨花相似ざるきのふには御室にて仁和寺やあしもとよりぞ花の雲脫かけの袖や花見る舞子どもことしまた花見の顏を合せけり西陣や花に夫婦のにしめものいとゞしく花に怠る箒哉花踏て戾る公卿の中履かなその寺の名はわすれたり糸ざくらさくら狩古き手代や飯奉行遲櫻驗なる聖住おはす一三五島原に田舍の空や夕ひばり耕に馬持る身のうれしさよたがへしやいづこ道ある谷の底耕や矢背は王氏の孫なりと十津河や耕人の山刀片口のわぶと答へよ田にしあへ泥澄てそこらに見ゆる田螺哉鳥の巢や誰か髪もじの一摑此殿の古巢たづねつ鳥二ツ舟橋の勅使まうけや花の雲定リの花見の日あり家の風佗人の虱盡して花ごろもいで花に君粮包め我は酒花のため家に釀する主かな哀れなる瘦地の麥や花の道嵯峨にて材木の上にあらしや山櫻むかし道見上て過ぬ山ざくら耕田螺鳥巢花櫻集句發泥春
春の雨あるじは猫でおはす也春雨や財布ぬらして節句前春さめや暮を約せし妻戶口春雨や谷の古葉も流出ツ春雨の泥や棧敷の階子まではるさめや柳の雫梅の塵春雨に鐘のうねりや障子越しづかさや雨の後なる春の水玄水七十賀まな鶴をほとりの友や春の水探題春の燈油盛リたる宵の儘春深く部に透るともし哉浴して蠶につかふ心かな月更けて桑に音ある蠶かな背のひくき木瓜に身を置雉子哉いで其頃竹拔五郞きじの聲菜の花の道行人の岡見哉壬生念佛御身拭御影供人丸忌出代發夫人山吹やいはでめでたき壬生ねぶつ乘物で優婆夷も來るや御身拭北面の御堂かしこし御影供石見のや月も朧の人丸忌出代や人の心のうす月夜やぶ入の枕うれしき姊妹養父入や行燈の下の物語折ばちる八重山吹の盛かな山ぶきや雨水ひかぬ地のひくみ宵月や苗代水の細き音里の犬苗しろ水を啜けり松遠し苗代水に日の當る春の夜や足洗はする奈良泊春の夜もかたぶく月や連哥町春雨や野老喰ふて見る女あり最前に起きてもよきを春の雨文ぬれしことはりいふや春のあめ迎待つ母よ娘よ春の雨日書系 大山吹春水苗代春燈春夜蠶春雨雉子菜花なのはなや此邊までは大內裏菜の花に春行水の光かな白雲の根を尋けり岩つゝじ荅には皺を見せたるつゝじ哉かげろふや燃えてはしさる物のひま陽炎に兎出てゐる檜原哉かげろふを搔出す鷄の距かな陽炎に美しき妻の頭痛かな遲日を追分ゆくや馬と駕枕して遲キ日を行のぼり舟寒食や饐に馴れたるひとり住爐ふさぎや旅に一人は老の友物くさく爐塞ぐとしも見えぬ也爐塞て主おかしや力あし爐ふさぎや招隱の詩を口ずさむしら藤や奈良は久しき宮造白藤や開帳前のひらき道なつかしき湖水の隅やふぢの花藤棚や小詰役者の草鞋がけ橋守の錢かぞへけり春夕大原の千句過たり春のくれ公家町や春物深き金屏風ゆく春やいづこ流人の迎舟狩倉の矢來出來たり暮の春春をしむ人や落花を行戾リたんぽゝもけふ白頭に暮の春ほし衣も暮行春の木の間かな行春に流しかけたる筏かな題鞅馬ゆく春のとゞまる處遲ざくら鷲尾は親子住居て春おしむ八專の空たのめなくゆく春や野に山に閑人春を惜みけり春晚暮春躑躅陽炎遲日寒爐食塞泥.春發藤夏之部あかつきの一言ぬしやほとゝぎす郭公
灌佛や雲慶閑に刻け ん灌佛やわらぢも許す堂の椽さびしさの中に聲ありかんこ鳥日くるればあふ人もなし正木ちる峯のあらしの音ばかりして晝日中逢ふ人もなしかんこどりあはしまを女の出る若葉哉水音も若葉も木曾の日〓〓〓に題橋虹たるゝもとや樗の木の間より加茂衆の御所に紛るゝ祭かな大坂の牡丹さゝげぬ本願寺おめかけを牡丹の花の主かな夜ををしむ筒のぼたんや枕上嘗見しぼたんにめでゝ入院哉御出入の李白を搜すぼたん哉園廣し黃なるも交る牡丹哉人しらぬ不犯誓ふて夏書かな似合しき聟おもふ身の夏書哉烏帽子にも耳は出るよ時鳥ほとゝぎす我も都のうつけ哉今宮の煤掃しばしほとゝぎす貧乏性いたゞく星や蜀魂うぐひすの箱根や伊豆の子規ことかたを歩行て訪ふや杜宇ほとゝぎす啼やあふみの西東ほとゝぎす夜もいろ〓〓の物の音更衣遣唐のいとま賜ひぬ更衣更衣ひそかに綿を着します親殿の御物めかしや更衣馬場騎の背中ふくるゝ袷哉うのはな卯の花や茶俵作る宇治の里卯の花に貴舟のみこの箒哉うのはなやかきあげ城の湛水道のべの低きにほひや茨の花桐花逞しき葉のさまうたて桐の花ぎやう(ぎ〓〓しぎやう〓〓し日高に着て伏見哉佛生會系大書俳本日閑居鳥若葉更衣祭牡丹茨桐花ぎやう〓〓し夏書夏書さへ晝に成けり妾覆面の內儀しのばし麥の秋痺麥や我身ひとりの小百姓麥秋や聟殿ことしはじめぢやの十津河や見込の武具も麥埃題豆查余花いまだきのふの酒や豆査汁短夜や老しり初る食もたれみじか夜をしらで明けり草の雨短夜の獲見せうぞ桶の鮒みじか夜や宿立出て小石原かたつぶりけさとも同じあり所夜〓の雨馬藺に殖ぬ蝸牛靑んめや黃なるも交雨の中かきつばた深く住む戶に鳴子哉鍵の手の寺前の池やかきつばた小瓶もてみやげにくれし杜若杜若門から覗く賣屋鋪女薦なら舟へと申せ杜若重五齋に來て幟うらやむ小僧哉ことし又おと子うみけん幟數凄哉競馬左右の兒合せ我牛をめでゝやふけるあやめ中題依舊此日よと竹移しけり玄關前醫者どのと酒屋の間の杏かな山城へあふみの早苗移けり白雲や早苗とりさす水の面早乙女やひとりは見ゆる猫背中けふも又田植あるやら竹の奥笋やしづかに見れば草の中笋や脚の黑子も七十二日も暮ぬ人もかへりぬ水鷄なく月の出に川筋白しくゐな鳴百姓の弓矢古たるともし哉杜若麥幟競菖馬蒲短夜杏早苗蝸牛田植靑梅燕子花筍春泥水雞射照
むせるなと麥の粉くれぬ男の童梅漬にむかしをしのぶ眞壺哉むら雨の離宮を過る靑田哉ゆりあまた束子て凉し伏見舟脛高く摘をく蓼や雨の園夏木立いつ遁失て裸城下闇の三輪も過けり泊瀨の町谷河の空を閉るや夏こだち市人の爰見立けり夏木だち夏木立阿閣梨の供の後ばせ人妻のこれを饗應す茄子漬茄子ありこゝ武藏野ゝ這入口なすび賣一夏の僧を音信るゝうき人に蚊の口見せる腕かな雪隱に信玄おはす蚊やり哉世やうつりかはらの院の蚊遣かな翌までと括りよせけり幅の破燈に書のおぼろや蚊屋の中十五から列卒にさゝるゝ射照哉一兩を擲つ木香のともしかな鹿遠しいでや射照の手だれ者さみだれの石に鑿する日數哉五月雨や畫寐の夢にうつの山兒につく〓のしめりや五月雨農業笠に入て燧うちけりさ月雨雨の夜や猶おもむろに行螢行螢夜のみかうしまいりけり夏草に狩入犬の見えぬ也夏野ゆく村商人やひとへもの夏の山しづかに鳥の鳴音哉我井戶に桂の鮎の雫かな水渺〓〓河骨莖をかくしけり藻の花やわれても末に舟の跡若竹に蠅のはなれぬ甘み哉わか竹や村百軒の麥の音麥梅靑百合蓼夏木立木下暗粉漬田合系大書俳本日五月雨螢夏夏夏鮎河藻若草野山茄子蚊〓骨花竹早鮓に王思は飯をあふぎけり酒呵る人もや鮓に小盃曲リ江にものいひかはす鵜ぶね哉早瀨とは鵜の火に見ゆる遙也吐す鵜と放ッ鵜繩のいとまなみ夏の月よき人加茂の步わたり涼しさの日枝をのぼるや夏の月少年の犬走らすや夏の月ほのめけるはし居の君や夏の月檀林に談義果しよ夏の月河狩や身にそふ陰間かたらひぬ水更ぬ岸をうちゆく網の音ゆふだちや市の中ゆくさゝら波君王のゆふだち譽る臺かな雨乞に夜ひと經よむ僧徒哉暑日や產婦も見えて半屏風町あつく振舞水の埃かな假そめの油廣がる雲のみね待戀苦しさや幅へも入らず蚊屋の傍植込の蚊に罵レる女かな物得たり〓のかくれの妹が文いぶせきや子のあまたある〓の內淋しさは天井高し寺の〓蚊の聲の目口を過るうき世哉蚊やりして武士守りぬ崩レ塀淺ましや蚊屋に透たる夜のものはづかしや朝ゐの〓を覗く人詩にあらず錦にあらず機の蠅あさましく蠅打音や臺所羽子もいだ蠅步行けり誰が所爲桃原の岸に流るゝけむし哉交れば世にむつかしや薄羽織かたびらや浴して來し人の兒新尼の着つゝおかしや繪かたびら鮓壓て我は人待男かな鵜夏月蠅川狩白雨雨乞毛蟲頁羽織帷子春泥發旬集暑飾雲峯
もろこしの夢はさめたり簟他質人、抱籠や誰に倦れて拂もの虫拂筆のもの忌日ながらやむし拂上野や足利代〓〓の虫拂祇園會かしこくも羯皷學びぬ鉾の兒祇園會に曳や手摩ッ乳あしなづち畫顏晝がほや子を運ぶ鼬垣根より蓮とく起よ花の君子を訪日なら麻頭巾蓮見にまかる小舟哉瓶の蓮〓としも卷葉ばかり也何いふて叫く舟ぞ採蓮哥瓜先すゝめ東寺はちかき瓜所瓜刻むあした隣を聞れけり冷し瓜加茂の流に枕せむ醴あまざけや盒に居並ぶ父と母海松汐滿ぬ雫うれしや籠のみるところてん旅人の買はじめけんところてん心太酒の肴にたうべけれ良の〓にに恐し雲 の峯兀山のうしろをのぼる雲の峰題斧つゝ立て雲の峰見る五鬼善鬼目ざましに水ひてゝ來よ汗拭うす雲に哥や望まむ白うちはまらう人へ團まゐらせん白き方前帶の友むつまじき團かな面頰をはづして將の扇哉さまかへて御庭拜むや蟬の聲蟬鳴や晝寐しばらく旨かつし啼蟬の岩くらたどる目疾哉せみの聲茶屋なき岨を通りけり夏むしや夜學の人の兒をうつ凉舟いとし若衆の小皷は水練を舟の御遊やゆふ凉うか〓〓と南草に醉ふや朝凉浴して且うれしさよたかむしろ系大書俳本日他質人、虫拂汗團拭扇祇園會畫蓮顏蟬瓜夏納虫凉簞タ顏ゆふがほや古君今の名はしらず夕兒や用所見て置旅の宿宿腰ぬけの僧扶ヶ來る施米哉なつかしき闇のにほひや麻畠あさかりてかつはり淋し門の外川上は溫泉の涌なる〓水哉旅人の藥たてたる〓水哉かけ出の髭を絞リて〓水哉なでしこや美人手づから灌ぬるあひにあふ氷をろしやこほり餅兒つれて法師のしのぶ御祓哉白幣のはや西を吹みそぎ哉春泥發句選(수)施麻米秋之部白馬寺に如來うつしてけさの秋今朝の秋を遊びありくや水すまし荒海に題目見えてけさの秋秋たつやさらに更行小田の泡初秋や藥にうつる星の影六月閏ありけるとし水なしの繼橋越ぬ今朝の秋厭はるゝ身を起されつけさの秋水底に靑砥が錢やけさのあき褌の竿を落けり桐一葉古御所の寺になりけり散柳七夕やよみ哥聞に梶が茶屋きぬ〓〓に鵠尻を向ヶにけり一六、清水常氷夏夏餅祓春泥發ー葉散柳七夕
一八、花火舟遊人去ッて秋の水花火舟家老ながらも叔父の殿朝がほや日剃の髭も薄淺黃ひともとの葬や日に出來ふできあさがほや盥の前に新也明暮と朝顏守るいほりかな蛛の巢に露ふりよする〓かな露けしや朝草喰ふた馬の鼻草高く露も穗に出る夕かな庭ゆくも露に裾とる女哉松明に露の白さ や夜の道蓙撫て驚たちぬ月の露狩入て露打拂ふ靱かな膏藥になる草とはん原の露むさし野や合羽に震ふ露の玉ほろ〓〓と秋風こぼす萩がもと爰かしこ小家隱して岡のはぎ似合しき萩のあるじや女宮七夕や藍屋の女肩に糸あまさかる鄙を川下天河とかくして夜とはなりけり天の川槇買て方士戾りぬ玉まつり佗しさや寐所ちかき魂祭行ほどに上京淋し高燈籠長旅の城下へ出れば灯籠哉高燈籠寺前の池に移りけりつと立てあぶら浴たる切籠哉乙の君ある夜ひそかに躍かな母式ド闇よりやみへ踊かなうかと出て家路に遠き踊哉かの後家のうしろに踊る狐哉,霜天にみち〓〓明るをどり哉うき人の兒猶深き躍かな賭の御馬ひき出すすまひ哉老にきと妻定めけりすまひ取弓張に暮行角力柱かな花火系大書俳本日舜魂祭燈籠露踊相撰萩明ぬとて萩を分ゆく聖かななつかしき荻の葉伸や塀の上一本の荻にも秋のそよぐ音山犬のかはと起ゆくすゝき哉身がまへて芒かる也下男鬼灯や老ても妓女の愚かしき白木槿夏華も末の一二りん物換る壁の夕日やあきの風子の兒に秋かぜ白し天瓜粉秋風や蚊屋に刀の鎭置ん秋かぜの閨に殘せし要哉とんぼうや飯の先までひたと來る白壁に蜻蛉過る日影かな秋の蚊や默〓〓として喰ひ行かゝる日に貰ひ鱸や生腐リ八朔や四座の登城の袖かへすいなづまや雨月の夫婦まだ寐ず稻づまにあやしき舟の訴哉いなづまや其はゝ木ゝの梢まで稻妻や夜もをり〓〓の橫涉し霧雨の外面にうごく曇哉石火矢に出行船や霧のひま山霧の梢に透る朝日かな入相や霧になり行一ツづゝ霧立て遠里小野となりにけり二色の繪具に足るや秋の雲稻の香やゆりもて運ぶ行違めでたさよ稻穗落ちる路の傍稻ぶさや誰むすび置宮柱何かせん稻刈比のかゝり人あしあとのそこら數ある落穗哉野ねずみの迯るも見ゆる鳴子哉水盡て引とる息や引板の音加茂の町樂も聞えず秋の暮婚禮の家を出ればあきの暮寺子屋のてら子去ニけり秋暮一八五荻霧薄苦木秋蔵槿風秋稻落雲穗秋蜻扇蛉秋鱸八稻蚊鳴引秋子板暮春泥發句集朔妻
ありときく兼栽松や月の前後の月何か肴に湯氣のもの悼移竹叟一硯箱ふたよの月を見納めぬ同十三回忌乙御前や顏見ぬばかり月の前曉の霧しづかに神の下山哉浪黑き鰻十荷や放生會山崎へあまれる鳩や放生會秋の夜をあはれ田守の皷かな秋の夜に江帥兵を談じけり畑ものに秋の夜を守燒火哉長き夜の寐覺語るや父と母永夜にやゝ讀盡ぬ若菜の下題妓秋の夜を何かしろ女が丸行燈長き夜やあらまし成ぬ翌の業夕日影道まで出るかゞし哉短冊の屏風を見たり秋のくれしられじと旅の身に添ふ金氣哉名月や此松陰の硯水唐租に駒や繋ん野路の月名月や懷帋拾ひし夜の道名月に辻の地藏のともし哉百貫の坊に客ありけふの月橋の月裸乞食の念佛かな東寺寓居にて山ぶきは社家町に似てけふの月名月や厠にて詩の案じくせ名月や瓶子奪合ふ上達〓夕月や驢鞍過ゆく驢鞍橋月影や田をゝちこちの水の音見るものにしてや月見の小百姓名月や金拾はんとたち出る月かけて砦築くや兵等湖を月見の旅や友二人系大書俳本日秋月旅林主義秋夜案山子立されば形*なしたる鹿驚哉をちこちのたづきなき身のかゞし哉編笠の〓とにわびしき案山子哉二ッあるかゞし容を違へけり題俵腰を折五斗の脫のかゞしかな朝風に弓返リしたる案山子哉よきものと冬瓜勸るくすし哉汁菜にならでうき世をへちま哉あめ來るや普請半の川堤またしては狐見舞ぬくだり築そばの花畠の秋も後段哉花を見て蓼の多さよ此邊あつめねば花にもあらぬ小草哉折よりは行に慰む花野哉かたはらにかぼちや花咲野菊哉藪疊半は蔦のもみぢけり代なしに讓らんといふ蘿の宿野分まひといき野分吹らん薄月夜子狐を穴へ呼込のわき哉雪隱のかきがねはづす野分かな獨居の野分ながらに朝寐哉宿までは闇の野分や馬の上白髭の笠木も見えて秋の水送蕪村先生之讃州江山の助況 や秋添てくずの葉も吹や鳴子のうら表栗に飽て蘭につく鼠とらへけり秋されや柿さま〓〓の物のしな年よりの唇いやしとうがらし蕃椒常世が鉢にちぎりけりた葉ことりて荒に就たる畠哉南草干すとしても繩の中たるみけいとうの宿や窻から答へけりぶどうめす水銀盤をうたれけり乾きたる虫籠の草やあら無沙汰一六年秋水冬瓜糸瓜江鮭下築蕎麥花穗蓼草花葛蘭柹蕃椒南艸春泥發句集野蘿菊雞頭花葡萄虫
虫聞てたつや野人の怪しむまで虫籠の總角さめぬ致仕の君秋風に涕すゝりけりきり〓〓す人心しづかに菊の節句かな宿のきく陶にさして憐まん櫻井が跡に宗長菊持參すがりかと思はるゝ菊の開きけり菊の香や花賣が身の袂にも初ぎくや九日までの宵月夜土龍妹が黃菊は荒にけりうたゝねの顏に離騷や菊の花雞老ぬ茄子黃ミぬきく畠とく遲く菊此比のたのしさよ草の戶の酢德利ふるや菊膾見る時は殘菊としもなかりけり菊の香や十日の朝のめしの前料足に栗まいらする忌日哉落栗や墓に經よむ儈の前いがぐりに鼠のしのぶ妻戶哉題老坂毬栗に踏あやまちそ老の坂埋み置灰に音を鳴くみかん哉いねかしの男うれたき砧かな小ともしの油あやまつきぬた哉相住や砧に向ふ比丘比丘尼山うばと兒見あはしてきぬた哉油斷して京へ連なし牛まつり船頭に乞とるめしやことし米燒米や其家〓〓のいせの神父が醉家の新酒のうれしさに買ほどは盡さぬ旅の新酒哉新酒や天窓叩てまいる人つけざしの穗に出る君やことし酒母衣かけて新酒に醉る祭哉いづちよりいづち使ぞ初もみぢ切溜につふと見せたる照葉哉北は黄にいてふぞ見ゆる大德寺系大書俳本日蜷九菊蟀日窒檮柑衣牛新祭米新酒殘菊栗初紅葉照葉銀杏秋雨秋雨や四方椽にも濡るゝ方揚屋から旅乘物や秋の雨秋雨や旅に行あふ芝居もの墓の背にばせをの雨の雫かな何となき綿のにほひや宿通うづら籠棚の皷に並びけり明ばまた夜寒の雨戶繕はんふさとめす地藏の綿も夜寒哉怪談の後更行夜寒哉月の洩穴も夜寒のひとつ哉あとさして夜寒に慮外申ばや題妖もの炭とりに早足のつく夜寒哉鹿寒く月輪どのゝ寐覺哉鳴川の戶に寄鹿や下駄の音ぬれ色に起行鹿や草の雨賓主鹿聞ぬ夜をかこちぬる身は痩て草嚙ム鹿の思かな小鶉鵙鳥川上や黄昏かゝる小鳥あみ遁とぶ鶉一群や森の月鬼貫も哥よみにけり鵙おとし鵙鳴くや黍より低き小松原種瓢斑なつらを見はやさんいつしかにうとろなものよ種瓢木樨や禪をいふなる僧と我大宮や南がしらに雁の聲初雁や目に相手なき海の月はつ雁も春の覺えの舟路哉低く飛雁あり扨は水近し探題鍛冶月山の梢に響く秋の聲唐櫃の北山戾るきのこかなさし上て獲見せけり菌狩降出して茸狩殘す遺恨哉茸山や壳鐵砲の一けぶり紅葉見や小雨つれなき村はづれ芭新鶉夜蕉綿瓠瓜寒木雁樨鹿茸春泥集紅葉
しぐれする音聞初る山路かな傘の上は月夜のしぐれ哉三度まで時雨れていとゞ黑木馬生て世に寐覺うれしき時雨哉夕しぐれ古江に沈む木の實哉雲母行豆腐にかゝるしぐれ哉江戶住やしぐれ問こす人ゆかし衰やしぐれ待身となりにける喘息に寐つかぬ聲や小夜時雨山城のとはかは急ぐ時雨かな妻木とる內侍の尼のしぐれ哉むらしぐれ古市の里にしばしとて寺深く竹伐音や夕時雨爐びらきやけふも灯下に老の日記爐開や庭はあらしの樅を吹資產業冬の雨しぐれのあとを繼夜哉嵐雪祥忘山づとの紅葉投けり上り口吹さます酒や紅葉の燒過し花の時は氣づかざりしが老母草の實梅もどき我あり顏や暮の秋長き藻も秋行筋や水の底枯てたつ草のはつかやくれの秋四町なる御哥使や昏の秋題關月影の不破にも洩らず九月盡禪に贈別の詩や九月盡石女と暮ゆく秋を惜みけり時雨系大書俳本日老母艸梅嫌暮秋冬之部初冬や兵庫の魚荷何〓〓ぞはつ冬や戶ざし寄たる芳野殿初ふゆは曇とのみぞ障子越はつ冬や空へ吹るゝ蜘のいと爐開其集に洩せし十夜袋かな人聲の小寺にあまる十夜かな燒寺の早くも建て十夜哉口切や寺へ呼れて竹の奥口切や彈正といふ人のさま前髪に戀はありけり夷講蛭子講火鉢うれしとこぞりぬる達磨忌や和尙いづちを尻目なる茶の花にきゞす鳴也谷の坊茶のはなに文覺のやうな庵主哉かへり花蟬のもぬけに薰すはゝ木ゝの梢はこゝぞ歸花雨雲の梢は奇也かへり花咲出て心ならずや歸ばな歸花桃李の美人覺束ないさゝかな草も枯けり石の間日三竿檜原に耐ぬ霜の色羊煮て兵を勞ふ霜 夜哉手してうつ鐘は石也寺の霜織殿の霜夜も更ぬ女聲あちこちとして居りたる落葉哉篦深にも射たる垜の落葉哉寺ゆかし山路の落葉しめりけり水含む落葉わび行草履かな宮つこの闇の顏うつ落葉哉冬偈ある寺にひかるゝ大根かな胡蘿も色こきまぜて大根曳納豆汁比丘尼は比丘に劣りけり反椀は家にふりたり納豆汁翌といふ隣の音や納豆汁齋腹の便〓たりや 納豆汁麗しく玉堂佳器にこたゝみぬ憂〓とを海月に語る海鼠哉i3r海鼠たゝみの饗應しのばし聚樂御所煎蠣に土器とりし采女かな雨ながら朔旦冬至たゞならね一六九十夜落葉ロ切夷講湊、風忌茶花大根納豆汁歸花海鼠春泥發句集艸霜枯蠣冬至
水とりや心の闇の流し黐浮鳥を石とあやまる水遠し毛を立て驚く鴨の眠かな水鳥に唐輪の兒の餌蒔哉鴨の毛や笊打たゝく軒の水かたよりて島根の鴛の夕かな江南は烏飛也むら千鳥初雪に人寒からぬ御宴かな客去て寺しづか也夜の雪何を釣沖の小舟ぞ笠の雪羽織着て門の雪掃く女房哉雪の日や笠着た人をみさぶらひ袖を出る香爐も雪の衞哉ぬけがけの手綱ひかゆる雪吹哉物焚て夜すがら雪の乞食哉山買ふて我雪多きあるじ哉都邊や坂に足駄の雪月夜雪の日や隣家の童子欠木履よそながら冬至と聞や草の庵天文の博士ほのめく冬至かな百姓に浴ほどこす冬至哉禪院の子も菓子貰ふ冬至哉御火燒や積上し傍へ先よるな輪番にさびしき僧やびはの花こがらしや瀧吹わけて岩の肩凩や花子の宿の戶にさはる木がらしの夜にゆたふる菴哉顏見せや伏見くらまの夜の旅浪花顏みせや空性ものゝ舟一片さす敵に矢をとり落す寒かな本陣に鼠の糞のさむさ哉鐘氷尾上の寺や月孤ツ初氷許由此朝掬すればうすら氷や格子 の透の器琥珀には蟻氷には紅葉哉水鳥やかねて〓士の聟撰び系大書俳本日鴨御火燒枇杷花木枯鴛千雪鳥兒見世寒鐘氷氷水鳥村人に雪の見所習らひけりよき君の雪の礫に預らん夜着を着て障子明たりけさの雪初雪や既に薄暮の嵐より雪の朝童子茶臼を敲く也霙して海老吹寄る汀かな遠忌その夜半の啼音は遠し浦衞仙鶴追善弔へば今もきませる頭巾哉冬がれの里を見おろす峠かな家遠し枯木のもとの夕けぶり枯野していづこ〓〓の道の數伯樂が鍼に血を見る冬野哉生て世に古錢堀出す冬野哉枯野して松二もとやむかし道上京の湯どのに續く枯野哉枯野のや簑着し人に日の當る關屋より道のさだまる枯野哉あたゝめよ瓶子ながらの酒の君冷めしの霰たばしる鷹野哉鳥叫や鷹にあたへる肉一變艸の戶に茶ひとつ乞リ狩の君炭うりや京に七ッの這入口うき人の顏にもかゝれはしり炭消炭に薄雪かゝる垣根哉炭を挽く下〓ゆがまぬ心かな炭取に佗しき箸の火ばし哉榾の火にあやしき僧の山居哉榾けぶる住居佗しや疊なきうづみ火に我夜計るや枕上おの〓〓の埋火抱て繼句かな冬ごもり五車の反古の主哉仁齋の巨燵に袴冬ごもり思ふ事戶に書れたり冬籠住つかぬ歌舞妓役者や冬籠一七一鷹霙炭冬枯榾冬野埋火泥春集句發冬籠
綿帽子士農工商の妻の體小夜更て帋子まいらす迎かな弓の師の家中をありく帋子哉ながらへば紙子を貰ふすまひ哉帋衣着てふくれありくや後影紙子きて嫁が手利をほゝゑみぬ扨あかき娘の足袋や都どりあさましや足袋に足袋はく虚勞病子の母よいく度結ぶ足袋の紐革足袋で村あるかるゝ醫師哉競べあふ賦の手先や寮の尼凩に頭巾忘れてうき身哉頭巾さへ多田の新發意の左折酒臭やうかれ頭巾の行違ひ異見など投頭巾着て馬の耳頭巾着て法師か知らじ安良殿頭巾深しとても聞えぬ老の耳揚虎ぞと取違たるづきん哉雉子一羽諸生二人の冬ごもり隔なき友とさし向ひ、おろ〓〓のみたるいとおかし。何なりと薄鍋かけん冬座敷水仙や室町殿の五間床水仙や藥の御園守あたりすいせんや先揚屋から生ケそむる水仙や引きさき紙に珍重す寒菊や猶なつかしき光悅寺寒菊やわきてかしこき荅がち寒きくや四ッまで園の日のあたる冬つばき難波の梅の時分哉郊外に酒屋の藏や冬木だち孟子讀む〓士の窓や冬木立蔕見ゆる貧乏柿や冬こだち垣結へる御修理の橋や冬木立里下リの野ひとつ越ュや綿ばうし留主がちの夜を守妻の綿子哉系大書俳本日紙子水仙足袋寒菊「氏頭冬椿冬五巾胡同牛綿子學して寐ずや頭巾の影ぼうし袂なる頭巾さがすや物わすれ頭巾着し冶郞に逢りうつの山引かふて棧敷に忍ぶづきん哉光茂が膠兀たる火桶哉火桶はる曆わびしき月日かな山伏も舞子も住て火桶哉炭をふく紀の關守が火桶かな身に添はで憂しやふとんの透間風輕井澤君がきませるふとん哉紡績に妻老けるよ敷ぶとん旅の夜の我瘻る蒲團哉巨燵してくれる驛の馴染哉山鳥の病妻へだつ巨燵哉佗しさや巨燵に焦る蜘の糸大原女の足投出していろり哉しづかなる柿の木はらや冬の月質置のイむ門や冬の月寒月や穢多が虎竹に肉の影溫石の百兩握るふゆの月氈帳に短檠くらし藥喰純あらふいつもの男まいりたりふぐと汁我が使に我ぞ來ぬ歸らめや鰒喰ぬ家によせし身を河豚汁鯛は凡にてまし〓〓ける河豚しらず四十九年のひがどよ廻文の點の長さよふぐと汁佐殿に文覺鰒を進めけり玉子酒賓主を分ツ小盃沫を消す內儀老たり玉子酒草の戶や盃足らぬ鷄卵酒寐酒せむ先たのもしき鷄卵百玉子酒十重たる小さかづき煮凍を旦夕やひとり住煮凍にともに箸さす女夫かな長言す人去レけり藥喰塞上燈河豚火桶蒲團雞卵酒火燵春泥發句集圍爐裡冬月煮凍藥喰
一種類鏡とらば兩の鬢や枯尾花門口に歩ミの板や煤拂煤拂あやしの頭巾着たりけり平仲が皃ともはやせ煤拂一凾の皿あやまつやすゝ拂すゝ掃や宵のさむしろ大書院煤掃やいつから見えぬ物のふたきぬ〓〓の駕も過けり煤拂何やらむ妻火ともして翌の煤家中衆のしのび〓〓や年忘玉子吸ふ女も見えつ年忘宮方の武士うつくしや年忘國衆は舞子が好で年忘貝で呑ム人をあふぐや年忘腰越や鎌倉は嘸年わすれ醉臥の妹なつかしや年忘燭まして夜を續にけり年忘寒聲や京に住居の能太夫夕K誰疊焦しつくすり喰小灯に葱洗ふ川や夜半の月僕等のよゝと盛けりねぶか汁重箱に縮て贈る莖菜哉後妻の〓〓〓〓に問ふ莖菜哉莖おしに寺中をめぐる老女哉鯨舟新島守を慰めつ一のもり突や日來の飯の恩めでたしな御子達からの臺の鰤碓の十挺だてや寒づくり佛名や柿の衣の僧ばかり鉢たゝき頭巾まくれて髪の霜愚なる御僧と申せ鉢叩鉢たゝき右京左京の行戾無緣寺の夜は明にけり寒ねぶつ茶を申をうなの聲や寒念佛寒垢離の風に乘行步ミ哉病中唫系大書俳本日葱煤拂莖菜鯨鰤寒造御飲食鉢敲年忘爽一帶寒垢離寒聲春正があつらへ來しぬ年暮ロ上のせいぼ使や古男年のいそぎ聖の衣みじかしや馬の背にまたるゝ銀やとしのくれ行としやたゞならぬ身の妹分錢はさむ下部の腰や年暮ゆくとしや六波羅禿おぼつかな常よりも遊ぶ日多しとしの暮年の市や馬士によみやる送リ狀名の高き茶入も見けり年の暮竈塗の心しづかにとしの暮衣配配橘のむかし文庫やきぬくばり百疋は握る使や衣くばり搗餅つきや焚火のうつる嫁の皃恥しらぬ老の戯れや節季候乞掛乞や雪ふみわけて妹が許書出しに小町が返事なかりけりうれしさよ御寺へ年木まいらせて見此村に長生多き岡見哉儺追儺うらの町にも聞えけり先生も人のすゝめや厄おとし厄落し石女年をあかしけり分節分やよい巫女譽る神樂堂寳舟御枕香ぞい や高きやごとなき一筆がきや寶舟節分をともし立てたり獨住年內立春宵闇に春ぞ立ゐる十日ほど年ごもり 月もなき杉の嵐や年籠歲暮行としや月日の鼠どこへやら餅搗節季候掛乞年木樵岡見追儺節分春泥發句集一種
い華集春夏·秋冬几董系大書俳本日井せ
(井華集春夏)とるべきかは。我友几董は、御溝水の流にうぶ湯をひき(墨消シ) T、みどろが池の蘆の角髮より、俳句の長短は口に絕る日なき好士なりけり。しかも其雅致を師にまなび、酒落は父に傳ふのみならず、かねては晋子が風韻を宗とせり。むべなるかな、師は蕪村、父は几圭、此二老が師なる巴人は、むかしの晋子が徒弟にしあれば、墨繩の筋たがはずもぞある。畸人このごろみやこに遊びて夜半亭をとむらふ。何くれ物がたりのついで、一部の册子をとう出ていふ、是我二十年來の句帳也。社友らこれを江湖にせよとすゝむを、我まどひてはたさず、幸に事さだめせよと。畸人云、兄しらずや、世を見れば、詩文の自撰日を逐て戶〓にいづ。和歌に市賈の撰集あり、俳士のみ壁に藏むべきにあらず。さらば是をはしにことわれと也。あゝさしでの磯·川瀨の古杭、うたていはずばとひとり言しつゝ、この夜の旅寐に筆をとり侍る。此篇や師が雅致父が酒落、かつ師祖達の風韻をも備へて、卷をひらけば彩色まばゆきばかり也。これやゐなかのはいかいの、今は都におよぶべからぬを、うまく讀て知る人はしらむT、蕎麥と俳諧は田舍ぞよきとや。しかつぶやかれし世をおもへば、都はなほ柿園のむかし口なる人もこそおほからめ。我難波のうら人も口網おもからぬ西山ぶりをまねぶには、蕉翁の雅致高情をも、人妻のよそばかりにや見過しけむ。是を恨みと歟、何某が十論·古今抄、俳家の說難數万言、むなしく紙墨を費えたりな。いでやそのかみの都人は、和哥の風姿に椋のはをかけ、手に葉は鼻油をすりみがけるも、きのふは里村の月次にひねもすうめきくらし、けふは貞室·重賴らが扉を推て更る夜を惜みしとか。今や和歌·連哥道場、おのがどち〓〓立わかれて、かりにも隣に遊ばぬげなり。於是みやこの俳諧もひとかたの道と成んてより、何がしくれがしの統をよばゝる人も、おほかたは蕉門の風韵をうつしまねぶには、爐邊のかけこ碗に信濃」·伊吹の挽おろし、又なつかしまるゝみやびわざとなりんてぞ、夫も是もみやこゐなかに おり。め。とむらふ。よと。らし、井華集みやびわざとなりんてぞ、今は都におよぶべからぬを、二·九
かの人とみに井華集と号く。いかなる故やらむ我知らず。しらざれども何となくこゝろにかなひたれば、漫に表題となし置ぬ。于時天明七年丁未穗長月のはじめ、洛東聖護院の杜陰なる春秋菴にして、几董詐善書ものぞ。かくいふは長柄の濱松陰なるゐなか人無腸居士といふものなり。自叙明和庚寅のとしより、かりそめに記し置る家集めけるもの數册子になれりけり。此頃秋の夜のつれ〓〓なるまゝ、とうでゝをり〓〓よみゝるに、うたて庭の木草のいや茂リにはびこり、古井の水のながめに溢るゝが如く、いとわづらはしきばかり多かりければ、やがて筆とりてかたはしに墨ぬり打消しぬべくおもふを、其をりし人ありて、あなむざんや、そが中には年ごろひとの聞知たるもあらむ、又みづから頭いたむまで案じこうじたるも有べし。いかにさばかり無下の事はなし給ふやと、泣ばかり制しとゞめらるゝにぞ、亦此志をもうばひがたくて、さらば是を二卷ばかりに書約むべしとて、昔のも今のも、鈍き·拘さかしきに抱らず、淡き濃き打まじへ、つき〓〓しく撰びあらためつゝ、扨此双帋に名をかうぶらせよといへば、鶯よ何がこはうて迯じたくうぐひすの影ぼし見えて初音哉狂雲妬佳月梅がゝに狂ふがどし月の雲埒もなき荊が中の野梅かな見ぐるしき疊の焦や梅の影梅ちるや京の酒屋の二升樽山人に花咲めやとたづぬれば咲散もいさしら梅の伏見人をちこちや梅の木間のふしみ人遠望しら梅に餘寒の雲のかゝる也墻を蹈で罪得べしこの梅が宿(前)狼籍を從者〓とはるや垣の梅白梅にこはそも氷雨の降日哉但聞人語響梅寒し奴にくるゝ小盃ぬつくりと寐て居る猫や梅の股一八、うぐひすの卯時雨に高音哉鶯の隣へ迯てはつねかなうぐひすやいせ路を出る曆彫感偶羽洗ふ鶯も見ゆ帋屋河鶯の脛にかゝるや枯かづら市中鶯の二度來る日あり來ぬ日がち鶯のたつ羽音して高音かな初音して鶯下リぬ臼のもと金衣公子うぐひすや小太刀佩たる身のひねり鶯や日の出の後の霜ぐもり筥根にてうぐひすに松明しらむ山路哉新鶯うぐひすの訛かはゆき若音かな梅花見にこそ來つれ、とうたひて井華集
辛崎の松は花より朧にてといへるは、さゝ浪やまのゝ入江に駒とめて比らの高根の花を見る哉。たゞ眼前なるはとありけるとぞ。比良の雪大津の柳かすみけり犬に迯て庭鳥上る柳かなさし木の柳の生立たるを愛して寓居の柱に書。老そめて〓とにめでたき柳かなしばし見む柳がもとの小鮒市春風如刀兒いたき風のよそ目に柳哉子日手を添て引せまいらす小松哉まないたの七野に響くわかなかな七草に鼠が戀もわかれけり蛤の煮汁かゝる や春小袖寶引の宵は過つゝあはぬ戀さめたらんほど念佛し給へと、法かから駕や梅の中行懷手とりべ野·舟岡の煙立さらでのみと、無常迅速の世のならひながら、春の日のうらゝかなるけしきには、人の命ものばはる心地す。野梅咲て挽哥きこえずなりにけり耕さぬ人に見らるゝ野梅哉木に殘るこゝろや手折梅の花梅の春鰒かくばかり白かつし詩をうたひ、〓を工のあまり、阮成が風流をたしむ者あり。梅の窓に三線ひくや毛唐人離別戀々として柳遠のく舟路哉若柳枝空さまにみどりかな春水わたりふたつ見えて夕日の柳哉靑柳やはつ神鳴の雨の後寒かりし月を濁らす柳かな手系大書俳本日然上人の答給ふ。いとたふとかりけり。氣にむかばねぶつ申せよ御忌の場着だふれの京を見に出よ御忌詣やぶ入の脛をしかくす野風哉やぶ入や命の恩の醫師の門藪入やついたち安き中二日やぶ入の我に遲しや親の足五雲、東府の俳士を催して、北野聖廟奉納の句勸進し侍りけるに白梅や機婦にねたまぬ花一重田家大事がる柿の木枯て梅の花園日渉以成趣荒につく畠の柳みどりせり賣家のいせが軒ばや猫の戀轉び落し音してやみぬねこの戀琴の〓に足繋がれつうかれ猫余寒よき衣に春の寒さをしのびけりいとたふとかり正月や胼いたましき采女達春寒く二ツ殘りし鷄卵酒春水滿四澤あふれ越野澤や芹の二番生日は落て增かとぞ見ゆる春の水さす棹の拳にのるや春の水五器皿を洗ふ我世やはるの水川風寒み千鳥鳴也といへば、人をして炎暑にも寒からしむとかや。あるは蛙飛込と、水音を觀じたる言外の金情、それらの妙境は及ぶべくもあらねど夕されば千鳥とぶ也春の水磯山や小松が中をはるの水野も山も冬のまゝじやに春の水雪に折し竹の下行春の水〓に光琳有、俳諧に魚貫アリ。行水や春のこゝろの置所市陌重井華集一八五
一八酒むらさきに夜は明かゝる春の海春の夜や連哥滿たる九條殿欠盆のよし野もゆかし蕗のとう物咎ム伏見の畑や蕗の臺南都にて熊坂に春の夜しらむ薪かな元日の醉詫に來る二月哉二日灸花見る命大事也如月や一日誕す海の凪傾城に菎〓くはす彼岸哉一休は何とおよるぞ涅槃の日或山寺にとまりて水に落し椿の氷る余寒哉奉納いせ太神宮有がたさ余リて寒し神の場〓賛紅梅に睡れり衞士の又五郞紅梅に衣もどし行や盜人等繪草帋に鎭おく店や春の風春風のこそつかせけり炭俵途にあふて手帋披ケば春のかぜ小五行春雨や簑の下なる戀ごろも春雨に似氣なき雷の響哉春雨や造化へもどす莖の壓春雨や鼻うちくぼむ壬生の面薄く春雲籠皓月おぼろ夜や南下リにひがし山戯男に道蹈かへんおぼろ月あじろ木のゆるぐ夜比や朧月三盃の酒にうかれて風雲の癖しのびがたし。しやせまし志賀の山越おぼろ月塩山亭落ぬべき西山遠しおぼろ月春の夜や柚を蹈つぶす小板じき海邊の曙といふ題に野烏の巢にくはへ行木芽かな田家乙鳥や雪に撓みし梁の上燕や流のこりし家二軒むら燕牛の胯ぐら潜りけり市廊つばくらや夜の酢買の驚かす村深し燕つるむ門むしろ淀·鳥羽のわたりにて乙鳥や轍の小魚つかみゆく旅意三條をゆがみもて行霞かなこたつ出てまだ目の覺ぬ霞哉待日には來であなかまの蜆うり干鱈やくつゝじの柴や燃んとす遊糸白日靜いとゆふにいとしづか也松の風陽炎や酒にぬれたる舞扇まさご路や陽炎を追波がしら土脉潤起燒寺も春來て萩のわか葉哉掘かげろふや泥脚かはくくわい堀晋子七十年懷古夕がすみおもへば隔ッむかし哉几巾の尾の我家はなるゝうれしさよ海士の子や舟の中より帋鳶廳のそなた長閑にいかのぼり西行忌骨をもて作れば和哥の聲美也點印営の裏書を望れて濱の眞砂路の遠き近きをうかゞひつ、句の甲乙を撰に、元世の色をもて分ち侍る。えりわけむ眞蘇枋の小貝海苔の屑倣素堂口質雁がねも春の夕暮となりけり風呂の戶をあけて膓見る名殘哉一八井華集
客中野遊吟紅裏は屋敷女中歟遠雉子きじ鳴や暮を限の舟わたし虹の根に雉啼雨の晴間かな每日1三井寺の鐘はくるゝに雉子の聲小松野ゝ蕨葉廣に成にけり土を出て市に二寸のわらび哉野を燒や小町が髑髏不言野行拔捨し野葱土かはく春日かな摘草や印籠提し尼の公道の記に假の栞やつく〓〓したんぽゝや五柳親父がしたし物芭蕉菴の松宗和尙へせうそこに椎の葉に盛こぼすらし春の雪山かげの夜明をのぼる雲雀かな起臥や身を雲介が友ひばり應擧が〓に春のあはれ雉子うつ音も霞けり嶋原の歸さ桐油嗅き駕に蛙を聞夜哉飛〓〓に芹の葉伸や鳴かはづ啼蛙神もはじめて鳴ル夜かな三日月の影蹈濁すかはづ哉村落さむしろや蝶も卷込俄あめ舟につむ植木に蝶のわかれ哉蜂の巢に爰源八の宮居かな畑をうつ翁が頭巾ゆがみけり苗代やある夜見そめし稻の妻初草に心づよさよ春のしもはづかしと客に隱すや田螺あへ亡母二十五回忌花の雲ぼさちの數と經りにけり咲をさへおどろくに散はつざくら禁城の御みぎりた徘徊していとまあるけふまだ咲ぬさくら哉散と見し夢もひとゝせ初櫻そゝこしきあるじが接木おぼつかな僧に成兒にはくれじ雀の子上巳雪信が屏風も見ぇつ雛祭うら店やたんすの上のひな祭雛酒や汐干を語る國家老雛の日や翌旅にたつ客もあり桃の日や雛なき家の冷じき墨よし浦にて落かゝる日に怖氣だつ汐干哉鯛を切鈍きはものや桃の宿もゝ咲ぬ誰喰さしの實生より加持すとて群來る人や桃の宿初瀨にてこもりくの蜂にさゝれないと櫻淵靑し石に抱つく山ざくら松伐しあとの日なたや山櫻雨中多武〓雲を蹈山路に雨のさくら哉咲出てあらせはしなの櫻かな夜は嵐の吹ぬものかはけふ來ずて見ぬ友ゆかし山櫻月のあかき夜はたのみある櫻哉東山吟歩大坂の遊女かしらずさくら狩さむしろに錢置花のわかれ哉勅額のたふとくかすむ櫻かな絕壁懸河を凌て日毎に越來るは、いと危き世わたり也けり。筏士の嵯峨に花見る命かなはじめて吉野山に遊びける時、あけぼの·夕暮の花をありきつゝ二日見ていかさま花のよし野山一八五井華集
元日の雲かさなりてさくら哉夜櫻に靑侍が音頭かな分題飮中八仙宗之滿洒美少年擧觴白眼望靑天醉て猶眼凉しやさくら人慮外して祿かづきたる花見哉植木屋の花うれぬ間に盛かな觀想廿とせの小町が眉に落花かな花競ふ寺としもなしひがし山底たゝく春の隅より遲ざくら六五行花手折美人縛らん春ひと夜打とけて我にちる也夕ざくら君見ずや花に我等がおとし文西行上人の意を追て魚貫が口拍子に倣ふ。來たか來い見ずに置てもちる花ぞ芭蕉翁百年忌花といふ論定りぬさくら 人大和の何來といふ人、はつせ山のかたはらに蕉翁の碑を封溝し、こもりく塚と号く。翁や生涯漂泊を恒とし、五天に白髪の勞をいとはず。片雲の風にしたがひとゞまる所を知らざるがどし。雲水の香をせきとめて花の塚雨日仁和寺に遊ぶ。晴るよと見ればかつ散雨のはな門賣の花屋が手よりちる櫻かしこくも花見に來たり翌は雨花過て雨にも疎くなりにけり花に來て詫よ嵯峨のゝ艸の餅葉櫻の中〓〓ゆかし花の中須磨秋といひし哀をすまの山ざくら女夫して住持醉しぬ花に鐘系大書俳本日識盈處之有數百花咲てかなしび起るゆふべ哉花過てよし野出る日やわすれ霜長き日の脊中に暑しおそ櫻遲き日やひとへからげる草履道影遲し魚餌について日三竿對酌遲き日や〓ルハ昇る酢あへもの長日 や宿替の荷の 殿ス長日を羽織着ながら寐たりけり題しらず蹇の顏ほがらかに春日哉出代の跡濁さじやぬか袋出かはりし身のかたづきや草枕佐久良太比之辭かの大臣の都に潮が汲せ給ひし風流には似氣なけれど、鯛の塩竈燒といふ物を製して、をの〓〓箸を下し、盃が街むの興に乘じつ、やがて醉中の吟を諷ふ。其吟二句。膓を牡丹と申せさくら鯛山葵酢に肝をねらふや丸炙春眠不覺〓春の泊鯛呼聲や濱のかた門口に風呂たく春のとまり哉關札やどなたのとまり春夕僕妻の絹着て歸る春のくれ今着キし澤菴漬て春ゆふべ無香料山吹や胡粉の見ゆる雨の後方程式山吹やさしぬき濡るゝ步わたり棣棠の影さす扨は夕月夜逆旅山吹にめで損ひやわるい宿白馬金鞍入誰家すみれ蹈で今去馬の蹄かな一八八井華集
菜の花や雲たち隔つ雨の山菜の花の紀路見越すや山のきれ雪蹈にて辷る山路のつゝじ哉尋蝶夢不遇草の戶や藥を嘗に蝶の留主爐ふたひで棊といふ病うつりけり表具師が無沙汰呵リつ爐の名殘芳野の山廻りして春過て夏箕の川や藤のはな藤咲て田中の松も見られけり白藤や猶さかのぼる淵の鮎源氏などほのめく藤のあるじ哉誰願ぞ地藏縛りし藤の花藤橋やおもき身を越す孕鹿花に醉、鳥にうかれ、あるは靑樓の宿酒に三春の曉をおぼえざるも、又風流洒落のためにつかはるゝ奴なるべし。死なでやみぬいたづらものよ暮の春菫踏で石垣のぼる戀路かな菫野や今見し昔なつかしき五加木垣都の客を覗きけり家ぬしの摘にわせたるうこぎ哉奉納玉津島おもしろき名の有がたやわかの春靑海苔や石の窪ミのわすれ汐鮎汲や喜撰が嶽に雲かゝる柑子を惜しみて砌を圍たる人の心こそいやしまるれ。あだ花と聞ばけだかし梨のはないざ春に生のうら梨花は今紺かきが竹虎がくれや花林檎月中の盜人落よ李花白し安良居祭やすらゐや鬼も籠れる若草野ばゝ嚊の肩ぬぐ空や御身拭朱雀野にてほとゝぎす啼かと待ば蛛の糸芭蕉菴にて時鳥あとは松吹あらし哉ほとゝぎすいかに若衆の聲がはり明ほとゝぎす咒祖の釘うつ梢より詩仙堂の邊にて子規のしきりに鳴けるにぞ、丈山先生の、わたらじなせみの小河の、といへる哥をおもひ出てほとゝぎす鴨河越えぬ恨かなあかつきや地震の後の杜鵑ほとゝぎす天、狗の礫ゆるせかし丹靑の彩をからず、うす墨を引はえたるどきよこ雲のたえ間より探幽があけぼのゝ夢や子規伏見の夜急に更たり杜鵑峨山聞子規まぼろしの花忘れめや蜀鳥かさればうとしいざ二人れん園の戶に鎖おろす春の名殘哉春暮ぬ醉中の詩に墨ぬらん對友人行燈をとぼさず春を惜しみけり大名のひと夜島原くれの春暮んとす春の狂ひや雹ふる草臥て寐し間に春は暮にけり還俗のあたま痒しや暮の春行春や狸もすなる夜の宴めづらしと見るもの每に春や行おこたりし返事かく日や彌生盡ほとゝぎす古き夜明のけしき哉月よりは上ゆくものかほとゝぎす子規〓おとしの折からに靜座睡氣さす魔を蹴て行や子規井華一八一
牡丹二代連哥は劣るあるじ哉百兩のなき魂もゆるぼたん哉ぼたん畑小草に箸を下す也或御方にて牡丹芳御坊主蜂にさゝれたりねたまるゝ人の園生のぼたん哉此寺のぼたんや旅の拾ひもの閨怨短夜や妹がほむらの有あかしみじか夜に敵の後を通リけり旅泊曙短夜や空とわかるゝ海の色みじか夜を四郞兵衞が假寐かな短夜や蠏の脫に朝あらし後朝短夜や伽羅の匂ひの胸ふくれみじか夜は犬の鼾に雀かな兵庫にて寒しとは小町が嘘よほとゝぎす曉のかねてしゞまやほとゝぎす子規けふはきのふと成夜かなあればとてたのまれぬ哉翌はまたきのふとけふは西行上人亂鶯欺ニ子規飛啼の若音あやなし時鳥松浦佳則亭にて、短冊かけに句を望みけるにとばしりし墨も頓阿の杜鵑ほどゝぎす路通はもとの乞食哉五斗俵の地をはなるゝや更衣袷着てむかしごゝろや花の塵病ム人のうらやみ顏や更衣誤落塵網中町內に家振舞ありころもがへ馬の脊にかろく胯る袷かな小褄より針ひねり出す袷哉ある家にて短夜や蛸這のぼる米俵短夜の香をなつかしみひと夜莖今少しなれぬを鮮の富貴哉なれきとやいざとけ眞木の柱鮓兼好法師の口まねして下B等に酒もり過そ鯖のすしほとゝぎす待比、北浮にて漁し鯖のうをに、活ながら薄しほきりたるものを旦鯖といふて、都かたにて初がつほに代るもの也。沖塩のはやせを戀や蓼の雨卯花に加茂の酸莖のにほひ哉千里尊羹未下鹽鼓といふ題をもて、おの〓〓句を合せけるに幽菴が便ゆかしきぬなは哉かきれにきえぬ雪と見るまで、と詠じけんうのはなに寒き日も有山里は明いそぐ夜のうつくしや竹の月白罌粟に煤はく家や加茂の里たれこめて祭見る家や薰す荒たる家の籬さし覗きたれば、いやしからぬ女の里居とおぼしくてイみゐたる、いとゆかしくおぼえけるに卯花や薄痘がほにしろいもの筍に括り添たりしやがの花鳥散餘花落かきつばた魚や過けん葉の動き等閑に杜若咲く古江かな伏水任口上人の旧房にてよし吹やわか葉ながらの靑簾嵐して藤あらはるゝわか葉哉崇なす樹もえだかはす若葉哉わか葉して親と子踈き雀かな葉櫻に一木はざまやわか楓囀に虫も聲添ふわかば哉奉納石〓水井華集一八三
しのぶ艸顏に墨つく夏書哉すゑ摘の母屋の柱に飛蟻かな小角力が旧きにかへる酒煮哉端五髭黑の上手又出よくらべ馬此非吾所以居處ブ子菖蒲太刀芝居に近き家かへむさみだれや船路にちかき遊女町五月雨の猶も降べき小雨かなさみだれの夜は音もせで明にけりさみだれの空や月日のぬれ鼠二日とまるは下〓の下の客宗鑑が竹の挽香を蚊遣かな蚊やり木にたま〓〓沈の匂ひ哉我につらし起て蚊をやく君が皃蚊柱や蜘蛛の工のうら手より鷄の寐つかぬ宿の蚊やり哉蚊はつらく蚊遣いぶせきうき世哉君が代や今もわか葉の男山むら雨の音しづまればかんこどりかんこどり樹下に虱を捫る時ねぶの木のその花鳥や布穀布引瀧山鳥の尾上に瀧の女夫かな瀧見して袖かき合すあはせ哉郊外麥うたや野鍛冶が槌も交へうつ麥哥の聲まね行や琵琶法師麥秋や埃リの中を薩摩殿麥秋の草臥聲や念佛講泰里が姉古友洛にて薙髮し侍るにうき草を拂へば凉し水の月家事の公務に就て東武に赴く菱湖に餞す。旅涼しうら表なき夏ごろも戀系大書俳本日君が手のつめたさ見たり幅の月吹折て墓のむせびしかやり哉夕殿螢飛思悄然あるじなき几帳にとまる螢かなうき舟や痞おさへてほたる狩水うみの低きに就て行ほたるみたらし河に遊て行水に誘れがほの花藻哉川越し女の脛に花藻哉葭雀や曉て一二のみをつくし川風や鵜繩つくらふ小手の上に廣ごらぬ網や貴人の肱白しえものある網やうれしきひそみ聲有ノ感生て世にひとの年忌や初茄子初瓜の價きのふのむかし哉白砧百ヶ日に橘のかたみの衣に夏書せん放參の鐘鳴かたや夏木立神鳴の上りし松や夏の月古君の化粧上手や夏 の月拔身歟と鞘のひかりや夏の月堀川百首に、ゆひもやとはで早苗とりてむ、とあるに雇はれて老なるゆひが田哥かな湖の水かたぶけて田植かな玉苗やけふ手よごしの二三反村居かしこくも盜人は來で水鷄哉神樂岡崎の隱士高橋氏、住る庵の四隅より望るところの山岳を題して、詩哥連俳の詠を集めらるゝに、予は生駒山を得たり。角豆とる籬のそなたやいこま山金福寺芭蕉菴再成角文字のいほりに題すかたつぶり一八五井華集
すゞしさや絹着ておはす老和尙雨後、大德寺に遊ぶ。凉しさやこぼれもやらぬ松の露凉しさや花屋が店の秋の艸醉登高閣すゞしさや遣水うつるかけ鏡凉しさや再びともす燭の下あかしに遊ぶ。こよろぎのいそ魚買んゆふ凉夏痩やあしたゆふべの食好み撫子に霜見むまでの暑かな水のめば腹のふくるゝあつさ哉あつき日の都や鯛の耻さらし金剛杖いかめしく突ならし、法螺貝かまびすく吹立行つらつき、いと愛なし。暑日や御嶽まうでのさばき髮難波橋の邊に舟泛て遊びけるに、三日月の木ずゑに近し蝸牛ひよんの葉の落てありくや蝸牛罪深く夜を寐ぬ蠅や瓜の皮毛虫這背中おかしや郭索駝いとし子に毛虫とりつくはし居哉代官に妖て瓜喰ふ狐かな扇合に流れ來てなでしこによる扇かな夜步行の露にとぢたる扇哉讀李斯傳厠なる扇も喰らふ鼠かな暗がりへ要のはしるあふぎ哉うたゝ寐の夢想書とる團かな秋ならぬ閨の團扇や君と我祇園會うす痘の見えずていとし鉾の兒酒ゆるす醫師も見えてゆふ凉凉しさや遠く茶運ぶ寺扈從系大書俳本日江南江北の遊客の舟花やかに、所せきまで漕出たり。我を招く玉むし出よ凉ぶね夜凉や露置く萩の繪惟子醉中葛水や王敦を憎む女ありくず水やうかべる塵を爪はじき我等亦佛子譬喩品の虫殺さじと拂けり贋物のいく代めでたし虫拂着すぐれぬ伯母の小袖や土用干かなしくす小姫が兒の熱病かな汗拭や左袒 ぐ夏芝居あとさまに小魚流るゝ〓水哉山寺や緣の下なる苔しみづ穢多むらのうらを流るゝ〓水哉山吹のわすれ花さくしみづかな田中勘左衞門が愛蓮は、周茂叔を所あざむくと聞え侍りしか。茂助田に愛すともなき蓮かないゐの香に朝氣の蓮を愛す也わけ入や浮葉乘越蓮見舟けふもまた午の貝こそ吹つなれひつじの歩みちかづきぬらし夕だちやけふのあゆみも未申ゆふ立やよみがへりたる斃馬白雨や水晶のずゞのきるゝ音夕だちや傘を借す世は情夏日雲峯大工屋根やを憐めり勝のおし動かすや雲峯かげろひし雲又去て蟬の聲手に持ば手にわづらはし夏羽織わすれゐし惟子ありぬ妹が許難波梅女が母薙髮しけるよし告こしけるに井華集二九七
たる五十串を拾ひて農家の守護となす事、かれて近在の土人川岸に聚り居て、我一と爭ふ事也。いぐし奪ふ人の羽音や御秡川剃捨し髮や凉しき蓮の糸夕がほや鼠葬るめくら兒万民雨を悅ぶ。喜雨亭に夕風わたる靑田かな難題を集て探リけるに桑の實や兒にまいらす李氏が環瓜冷す井を借リに來る小家哉待うけて醫師にすゝむる甜瓜哉酢陶を水主あやまちそ沖膾夏日鳥卵の羹を愛し、冬夜鯉鮒の冷味を賞す。よろづに珍しきを好むは、長安繁華の人氣なりけらし。新芋に先六月の月見かな夕がほやくれど呼るゝ油賣晝顏にしばしうつるや牛の蠅孤村禰宜ひとりみそぎするなる野河哉名越の神事終は、やがて水面に立系大書俳本日髮とくをせめて願や星あふ夜星合も山鳥の尾のわかれ哉乙未〓十唱よみ哥をひそかに星の手向哉瘧落てあさがほ〓し幅の外彩らぬ切籠の總に秋の風島原や躍に月のむかし皃(〓)桔更ならをみなへしなら露にぬれてやはらかに人分行や勝角力花火盡て美人は酒に身投けむ乞兒かへる徑の木槿しぼみけり虫ノ聲非一ニおほとのあぶらしろき迄賭にしてとうがらし喰なみだ哉感懷松風にかなしき聲や高姚籠宵闇の氣のおとろひや高姚籠死なでわれむかしの戀を魂祭玉棚の親に見せけり錢五貫一·九(井華集秋冬)あかつきの神鳴はれてけさの秋秋たつや宵の蚊遣の露じめり形影自相憐起〓〓の鏡するどし今朝の秋馬鹿づらに白き髭見ゆけさの秌立秋の翌庚申なりければ明てけさ鍋の尻かく秋の聲初秋や旭出ぬ間の寺まいり日々醉如泥今朝麻の腹に酒なしものゝ味乞巧奠振袖の憂をはたちやほし祭梶の葉に配あまるや女文字浪越さぬかさゝぎの羽や天の川事しげき女をあはれむ。井華集
り。かれが所緣のもの追悼の句をもとめけるにむらさきに見よや桔更を手向艸きちかうの露にもぬれよ鞠袴朝がほや稚き足に蚤のあとあさ顏や恪氣せぬ妻うつくしき朝いする人をおどろかして蚊屋はづせ蕣の花の赤むほどに鉢植の蕣も見ゆれ檜垣舟墅ある人の別埜にて葉がくれに虫籠見えけり庭の萩おもかげの幾日かはらで女郞花生添ふや小松が中のをみなへしいせのつと入といふ事を頓入て望一に誰とさゝれけり市に隱る二百十日はきのふ也又平が〓もぬけ出ておどり哉ふり附のめし喰こぼす躍かなつゝみ合し夫婦出くわす踊哉魂だなや腰ぬけどのゝ居はからひ攝待の茶にかき立る藥かなやぐら·かたすかしなどは聞なれたる手なるを、著聞集に古き名の見えたるぞいとゆかし。〓ししてきやつに勝れな腹くじり御相撲や五年前見し美少人胸あはぬ衣かづきけりすまひ取關取や妻は都のをみなへし遊高臺寺萩に遊ぶ人たそがれて松の月御しのびの下山や萩のから衣荻の風北より來リ西よりす優妓中村鯉長はかねて佛の道に志深く、四天王寺の邊に終の栖をもとめ、柴の戶に明暮かゝるしら雲をいつ紫の色にぞなさむ、きも、る法然上人の御詠哥た念じつゝ、終にめでたき往生の素懷をとげた系大書俳本日電光石火の世を觀ずる人あれば、一戀暮の闇に身を惑ふもの有。いなづまやみそか法師は老なりき稻づまや隣の藏も修覆時いな妻や壁を迯さる蜘のあし雨後いなづまや空にも雲のわすれ水稻妻や山城の山河內の河稻妻のおさまるかたや月の雲鬼貫五十年懷旧淋しさのとし〓〓高し花すゝき刈とりてもとのみだるゝ薄哉東武よりの歸さ、しらすか·ふた河の際より、松間の不二をかへり見る所あり。伸上る富士のわかれや花すゝき朝露や膝より下の小松原夜坐閑虫の聲艸のふところはなれたり鳴神のたえ間や夜半のきり〓〓す蘭の香や雜穀積たる船の底蘭を愛す賓主の座いまだ定らず窩居園中十三唱之内物しらぬ妻と撰ぶや虫の聲今借した提灯の火や草の露旅せよと我脊にあまる蒸哉税込山とんぼうに螽飛かつ朝日かな古墳添新土なき人のしるしの竹に蜻蛉哉燒捨の人のむくろに秋の風つり鐘に椎の礫や秋の風秋風や捨ば買うの越後縞たかうなを握もちてといへる兒とは、またやうかはりにたれど露草や家中の兒の剃こかし二〇一井華集
まつ毛にも露おく秋や夜半の月〓夜の吟うち曇秋は多けれ月今宵名月や蟹のあゆみの目は空に良夜雨見ぬ月の千〓に悲しき雨夜哉船頭と月見あかしや肴きれ淺河や月をよけ行步わたり駿府の旅寐をおもふ。名月に富士見ぬ心奢かなわかのうらゆく月や國なきかたに田鶴の聲欠して月譽て居る隣かな待宵は曇、良夜は雨を帶たり。いざよひは雲ひとつなき寒さ哉十六夜や闇より後の月の雲いざよひやかざめを迯す汐がしら悼太祇朝ぎりや施米こぼるゝ小土器あさ霧や二人起たる臺所霧こめて途ゆく先や馬の尻〓深し何呼りあふ岡と舟八月十四日新居會八九分に新酒盛ベし菴の月待宵をたゞ漕行や伏見舟月前懷古名月や朱雀の鬼神たえて出ず新月に蕎麥うつ草の庵かな水ばなに月澄わたるひとり哉湖上名月や辛崎の松せたのはし靑樓曲二句名月や金でつらはるかぐや姫月今宵やり手がうたのむかしぶり送夕陽迎素月艸の戶や秋の日落てあきの月な十六夜やひとり欠たる月の友臥待月の夜、湖邊の水樓に遊びて月しろや金の波をまくら上黑谷の初夜きく月の野川哉返照らす有明の月や小便所戀夜F逢ていとゞなつかし秋の暮何いそぐ家ぞ火とぼすあきの暮かなしさに魚喰ふ秋のゆふべ哉旅思馬下リて馬夫がわかれも秋のくれ朱をそゝぐ入日の後は〓の暮衣着よと母の使やあきの暮述懷老そめて戀も切なれ秋夕白箸の翁といへるものは、元五十人の隱逸傳にも見え侍りしか。とうがらし賣白頭の翁かなうき旅や酒に擲ツとうがらし待戀幾度歟碪うちやむよそごゝろ人妻の隣うらやむきぬた哉熟柿の落てとばしる砧かな遊子ひとの國にやゝ馴るゝ夜の磁かな比叡に通ふ梺の家のきぬた哉指うちてしばらくとやむ砧哉行舟に遠近かはるきぬた哉仁和寺や門の前なる遠碪衣うつよ田舍の果の小傾城矢背の竈風爐に、ある人を訪ひて養生の夫婦別在鹿のこゑ西行上人の、世にこのもしき住居也けり、とよみ給へるに柴の戶にいやしくもあらず鹿の聲戀〓〓て田に蹈かふる男鹿哉二〇三井華集
乞食にも臥戶のあればのはき哉雨風の夜もわりなしや雁の聲題雁字きれ〓〓の雲や鴈ゆく五字七字米蹈の腹寒き夜や雁の聲井伊殿の御拳見ばや小鷹狩落鮎や畠もひたす雨の暮今は身を水に任すや秋の〓澁鮎を炙リ過たる山家哉捨るほどとれて又なし江鮭鶉わたる桂のあした加茂の暮信濃路を過るに駕界は畠ぬし也蕎麥の花花そばや立出て見ればましろなる二三升蕎麥粉えまほし我畠花か穗かもみぢ歟の紅ヰは山河の野路に成行や蓼の花九日月と成闇となりつゝ鹿の戀旋轉俯仰發揮我巨巨之聲聲韻不凡立されば五歩に聲ある添水哉案山子から苗一筋や秋の雨草取し笠の辛苦をかゝし哉田疇荒蕪燒帛のけぶりのすゑに野菊哉あし早き雲の蹴て行鳴子かな早乙女も引板曳秋と成にけり題美人ことし米西施が胸に痞へけり馬わたす舟にこぼるゝや〓とし米聟入に樽提て來る新酒哉駒迎當時の哥仙誰〓〓ぞ源氏物がたりをよみける折ふし物のあやも暮て猶吹野分哉かなしさもやぶれかぶれの野分かな野分の夕杜子美が褌はづれたり系大書俳本日けふの菊秋の泣顏洗ひけり太刀持の脊中に菊の日なた哉愛菊掛乞に八日の菊を見せにけり不遠慮に公家の來ますや菊の宿菊を見つ且後架借ル女哉酒を出すうしろの音やきく畠秋悲し白菊の色に染む事田家今いぬる隣の客に門の菊此隣きくに琴彈ク門徒寺丸盆に白菊を解く匂かなわざくれに小菊買けり宵藥師雲母坂を下りに手折捨る山路の菊のにほひ哉紫に似ずてゆかしき野.菊かな時雨のいそぎに此夜の月も曇勝なれば空暗し月や最ひとつ牛祭秋の月千〓にこゝろをくだきゝてこよひ一夜にたえずもある哉月にたえぬ今宵ひと夜の寒かな蕪叟判句合後シテの面や月のやせ男加賀の千代尼身まかりしと、息白烏よりせうそこせしかば來る雁にはかなき〓とを聞夜哉二柳が東行に椎の實の落て音せよ檜笠芭蕉菴にて白露の百步に茸を拾ひけり紅茸やうつくしきものと見て過る嵐山一周忌鴫立てひとゝせふりぬ此ゆふべ夕間暮鴨たつ澤のわすれ水おもひ出ても袖はぬれけり慈鎭和尙せ男息白井華集蕪翁と曉臺が湖南の旅舍に遊ぶ。二〇三
さす月もあな冷じの九月幅後苑ひとりはえてひとつなりたる瓢かなタかぜやしぶ〓〓動く長ふくべ草枯て人にはくずの松むしよ渭堤の輻湊亭に、東行の離盃をとりて殘菊にさめじと契る欝金香艸菴を立出るとて歸來る日も松に見よ月の秋於粟津芭蕉堂薙髮稻刈て麥に田かへす我世哉大魯判句合痩臑に落穗よけ行聖かなしばらくは北へ流れつおとし水亡父二十五回法會小山路雨露の舍あればぞ法の秋由男が舞臺納に色かへぬ松のはれ着や蔦紅葉山莊手折置し紅葉かげろふ障子哉桂州和尙の隱栖を尋て何の木ぞ紅葉色こき草の中さながらに紅葉はぬれて朝月夜遊仁和寺君知や花の林をもみぢ狩梅ヶ畑といふ山里にて薪樵る山姫見たりむら紅葉高雄山二句よし野ゝ櫻は一目に千もとの花を見そなはす。一もとのひとめに余る紅葉哉紅楓深しみなみし西す水の隈長月の末木曾の溪に分入に、丹山碧水羇旅の目をよろこばしめ、將また迅速の感をなさしむ。かけはしにけふも翌あるもみぢ哉周防國より信州へわたる天產僧と系大書俳本日同行して、途中に別るとてわかれ路や草の錦を裁おもひ鳥〓嶺橡の木の秋を剝るゝあらし哉一ノ)朝寒に鉈の又にぶきひゞきかなあさ寒や水曜ふ家まだ起ず咳く人に素湯まいらする夜寒哉めかれたる松茸市の夜さむかな不淨說法したる僧にはあらで市に出るひら茸うりは法師かな茸狩の柴に焚るゝさくら哉傚七歩詩柚を燒や味會は釜中にありて泣柿割て君おもふやのうらとはむ懷古むかし誰この堀越えし鴨脚ぞも出るかと妖物をまつ夜長哉たばこ干す寺の座敷に旅寐哉秋聲逢坂の町や針〓夜半の秋わすれられし女の暫く北嵯峨のしるべに身をよせゐしに妓王寺へ六波羅の鐘や夜半の秋長月三十日須磨の浦づたひしてはる〓〓と來てわかるゝやすまの秋さらしな·姨捨の邊に杖曳けるは九月盡の日也。月の夜を泣盡してや果の〓あはれ〓としの秋もいぬめり勾當の身をなく宿や暮のあき蕣に鶯見たりくれの秋醫得眼前瘡劍郤心頭肉行秋や五月に糶し〓しし冬を待といふ題にて小鍋買て冬の夜を待數奇心井華集初しぐれ今日菴のぬるゝほど三〇五
東武にありて深川芭蕉菴の正當會にあふ。はせを忌や木曾路の瘦も此ためぞ善光寺の路人が家に客と成て、かゝる尊き御佛の邊近く旅舍せし因緣のありがたさに朝每の法リや旅寐の一大事布子着てうれし兒なる十夜哉藪寺や十夜のにはの菊紅葉上京や月夜しぐるゝ御妙講春坡が小松谷の別莊に遊て紅葉ちるこのもかのものわすれ花散はてぬもみぢもあるを冬の梅稻づまの見えし夜明てかへり花愚なる僧の祈リや歸花蓼太と東海寺に遊ぶ。澤菴をやらじと門の紅葉ちる東叡山下リざまに又鐘きくや冬もみぢ野風ふく室町がしら初時雨吹上るほこりの中のはつしぐれ信濃ゝ文兆が夕陽樓にて雪見ゆる峯をかくして初時雨難波女の駕に見て行しぐれ哉遊金福寺しぐれ過て草に落來ぬ松の風杉たつる門に蚊の鳴しぐれ哉羽織着て出かゝる空の時雨かなしぐるゝや南に低き雲の峯ゐなかうどを西陣に伴て錦織家見によればしぐれ哉梅の樹の容すはつしぐれ疊屋のいなでぞありぬ夕しぐれ甘蔗糖俳諧に古人有世のしぐれ哉義仲寺枯〓〓て光をはなつ尾花哉系大書俳本日天府公侍座しぐれ來て園のにしきを蹈日哉長閑さに落もさだめぬおち葉哉迯足に落葉蹈ゆく烏かな此かぜの夏はふかいで落葉哉草菴二度までは箒とりたる落葉哉伏水下村氏にて日の影の枯枝に配る落葉哉大村鶴汀興行元服の面起すや ゑびす講貞柳が哥よまぬ 日や夷講淺艸寺前紫陌紅塵十月の春吹風や海苔の屑三阿法師が喫茶會に招かれしに、あるじの風流、有馬涼及の趣にさもにたり。口切の菴や寐て見るすみだ河成美、あるじゝて、墨水の流に舟が泛ぶに、冬枯のけしきいと閑に、幽懷却客情を燐す。我舟におもて合せよ都どり闇を鳴く沖のちどりや飛ぶは星水鳥や墓所の火遠く江にうつる野の池や氷らぬかたにかいつぶり春坡興行に影うつる鶯のふすまやよばひ星貫之が船の灯による千鳥哉明石の浦浪夕陽に映じ、淡路島山咫尺に有。夕衡手にも來るかと淡路しま鎌倉の袖が浦にて裾ぬるゝ浪や七里がはまちどりゑのしま霜いたし草鞋にはさむうつせ貝不騫公へはじめて召されけるに、季吟·芭蕉·其角の三筆を御床にかけられたり。びやす夷講講屑井華集二〇〇
はた松島と申銘字御名判等も御染筆のよしきこえさせ給ふに、いと(前)有がたく頂裁し侍る。わが庵ににほひあまるや冬牡丹水落石出冬川にむさきもの啄む烏哉初霜や烏を懼すからす羽にはつ霜や野わたしに乘馬の息舟慕ふ淀野の犬やかれ尾花芝泉岳寺懷古石寒し四十七士が霜ばしら民上級此かねや袖が摺てもさゆる也紙衣着ていろは〓る御僧哉遠く遊ぶ子に囉ひたる帋子かな四ツに折て行李にあまる〓かな戀恨寐の蒲團そなたへゆがみけり疊むとて主客爭ふふとん哉俳諧の三神こゝに冬ごもり書棚に塩辛壺や冬籠さかしらいふ隣も遠く冬籠長榮八尺空自長短繁は二尺のものでふゆごもり自悔冬の夜や我に無藝のおもひ有まらう人に炭挽すがた見られ鳬碧雲引風吹不斷白花浮光凝碗面茶の花の香や葉がくれの玉川子茶のはなに喜撰が哥はなかりけり對漆翁紹朴爐びらきや紅裏見ゆる老のさび口きりや此寒空のかきつばた白石城主君の御需により、二見文臺のうら書をつかふまつりし御報ひに、竹島といふ所の竹をもて爲に製せさせ給ふ花器を給はりけり。晝も見るつれなき人の蒲團哉花美を好む老人の剃髮したるに丹頂の頭巾似あはむ霜の鶴箱根にて關越えてうれしく被く頭巾哉內立方頭巾くれし妹がりゆく夜霙ふるづきん懶く切られし髪を懷におちぶれて關寺謠ふ頭巾哉頭巾着し〓男うつる鏡かな紅閨の足につめたき頭巾哉野行皆に比叡のはなれぬ寒かな明ぼのやあかねの中の冬木立冬木だち月骨髓に入夜哉草の葉の霜より明て山かづら佛結講な天氣つゞきや艸の霜海寶禪寺鶯のうしろ影見し冬至哉いまぞかりし師の坊に逢ふ枯野哉鰒喰し犬狂ひ臥かれ野かな皮剝の業見て過る枯野哉大佛を見かけて遠き冬野かな大根引といふ事を水風呂の貝ふく迄や大根曳大根引こゝら畠 の字かな淺間の禁を通けるに、燒亡の後三とせの春秋を經けれども、本田上ぜず、大石なども灰にうもれて、うすひ峠を越に、駕かくものゝ申けるは、一丈斗も下に赤き土の見え侍る邊りそ其昔の道也と。田畑などは燒砂を高く搔よせたるまゝにて、只いたづらに茫〓たり。土までも枯てかなしき冬野哉柏山眺望こがらしや三ツに裂たるちくま川二一井華集
凩にあらそふごとし鐘の聲慶子上京に顏見せや北斗に競ふ炭だはらかほみせや矢倉に起る霜の聲江戶にて顏見せやしばらく冬の初日影煎蠣に咲や此花蕗のとう鰒を煮る汁なむ〓〓とこぼれけり河豚好む家や猫迄ふぐと汁燈下獨酌煮凍や精進落るかねのこゑ煮氷やもろく折たる萩の箸活て居るものにて寒き海鼠哉敏馬浦客中瘦葱にさかな切込磯家かな砂を吹家の棟川や冬下風島田の千布は驛吏也ければ、臺興など下知して嚴重に大井河の岸まで送らる。やすき瀨や冬川わたる鶴の脛金谷の庄家河村氏は古舟といへる俳士にて、曾祖父は如舟といふ芭蕉翁の門人也。一とせ嵐雪此家にとまりて、大井川に舟あるごとし花の雪といふ句を殘せりとぞ。予もせちにとゞめられてかさゝぎの霜のひと夜をやどり哉駿府の時雨窓に三日杖をとゞめて、一夜葛人が樓上に更る迄酒うちのみて沖津鯛冬の山葵もたゞならね熱田奉幣馳折をしばらくおろす神樂哉夜神樂や水沸拭ふ舞の袖葬大魯人をして哭しむ霜のきり〓〓す系大書俳本日初雪のしるしのさほや艸の莖はつゆきや靑物市のよめがはぎ甲辰冬、別莊にをの〓〓をまねき、一夜はいかい催しけるに、明がたより初雪の降出ければ幸のこぼるゝ雪や草の戶に商人のよき藏いやしけさの雪恐是五侯家誰門ぞ雪に寐ぬ夜の魚の骨盤銅の火は炎〓〓と雪見かなたゝずめば猶降ゆきの夜道哉原驛富士に添て富士見ぬ空ぞ雪の原薩埵峠望嶽亭晴る日や雲を貫く雪の富士鮮き魚拾ひけりゆきの中〓賛鳥羽殿へ御哥使や夜半の 雪池水にかさなりかゝる深雪哉駕の戶の右も左もみゆきかないたく降と妻に語るや夜半の雪靑樓曲二日見る雪の迎や手代ども倣古今集物名茶屋價しなのぢや小田は粉雪に蕎麥畠題田家柊の角をかくすや今朝の雪旅人に我糧わかつ深雪哉歸樂、孝子を養て老の後な樂しまるゝを、竹によせてことぶくとて杖と成たかうな得し や雪の中浪速人、手飼の犬を亡ひしを深く惜みて、追悼の句を乞けるに足跡の梅花なつかし雪の朝古硯銘鈍きもの先氷るなる硯かな題墨平仲が空泣おかしうす氷二三三井華集
辭義をして皆足出さぬ巨燵哉夜着かけて容いぶせきこたつ哉朔日や聟どのわせてたまご酒納豆汁必くるゝ隣ありをの〓〓の喰過がほや鯨汁むづかしと今宵はやみぬくすり喰藥喰おぼつかなさに人誘ふ鳴海の千代倉が門前を乘打すとて盃は預けおくなり冬の梅所思桑名にて白魚やさぞな都は寒の水寒月や行ひ人の赤はだか寒月に照そふ關のとざし哉寒聲やあはれ親ある白拍子寒垢離やひとゝせ見たる角力取〓讃守武の水沸おとす火桶かな火桶抱て艸の戶に入あるじ哉出る日や風に吹るゝ薄ごほりかたぶきし水彌氷る盥かなわぎも子が油こぼれり玉櫛笥郊外寒き野を都に入 や葱賣春秋をぬしなき家や石蕗花炭屑に小野ゝ枯菊にほひけり苦哉名利人樂矣乞兒身から鮭に名利のあぶらなかりけり乾鮭や挽ば木のはし炭の折去來七十年忌まねし人のゆかしや夜半の鉢扣戀凍へ來し手足うれしくあふ夜哉胼の手を眞わたに恥る女かな樗良が僑居が訪てうづみ火を手して堀出す寒かな妻の留主に煮凍さがすあるじ哉系大書俳本日(三四)駢拇の身を黑染や桐火桶足袋賣の聲うち曇師走哉水仙にたまる師走の埃かな英が〓に枯尾花醜き小町臥りけり酒を聖賢として口かしこき男あり。師走ぞと呵る妻あり舌ありや餅搗の日も幸齋が茶湯かな醉李白師走の市に見たりけり亡父大祥忌俤の三とせをいだく帋衣哉十三周月雪に集てかな し筆の物右は其雪影集に遺句七十余をもて、を述侍る也。二十五囘寒月にうつし見む我かこち顏哭亡師終焉記略之から檜葉の西に折るゝや霜の聲期年おこたらぬ月日の數珠や一廻り松浦公甫還暦賀寄松祝松千とせ算へもどせや古ごよみ人住ずなりぬはしらの古曆老懷わかき人に交リてうれし年忘除夜、靑樓に遊ぶ。年かくすやりてが豆を奪ひけり醉て寐た日の數〓〓や古曆うそ寒う晝めし喰ぬ煤拂行としや古傾城のはしり書としの暮さる御方へ招かるゝ春屆く文したゝめつとし籠大路のさま松立わたし、行かふ人のあはたゞしげなる中に、家〓〓の神わざいとまめやかに見ゆるぞ、またなくめでたき心地のせら三一の物百韻を綴りし意井華集
る。年ひとつ老ゆく宵の化粧かな八十の老に親ありとし木樵跋昔の五元集は其角先生自撰び、みづから淨寫して匣底にありしを、傳て人の祕藏し侍し也。さるを年經て延享の比旨原なる人乞得て梓行し、世にあらはれしもの也とぞ。夫よりかみつかた、あるは今の人も、家〓〓の句集すくなからずといへども、多くは後人の意に預る所にして、晋子自撰の如き花實配當變化自在なるは、彼五元集を權輿と謂つべし。吾師や春夜といひし弱冠の比より蕉門の深きを探い、晋子のひとゝなりを慕て筆意〃摸し風韵を學のこゝろざし大なりしかば、彼五元集に倣ひ家の集を筆記せり。人たま〓〓乞て閱せんことを望めば、師云、いまだ稿を脫せず、自得の期を待べしと。余其春秋を待に日あらんことを歎じ、しきりに勸て先初編を木にゑらせ、三都の書肆に託す事とはなりぬ。下村氏春坡識寬政元年己酉春門人平村氏杜栗書夜半亭藏板京室町通中立賣上ル橘仙堂善兵衛寬政元年己酉春門人せん蘆陰句選大魯
る。しかしてふたゝび序を予にもとむ。こゝにおいてやむべからず。取てその草稿を閱す。予嘆じて曰、遺稿出すべし。遺稿出て人いよ〓〓その完璧をしるべし。是大魯が身後の榮、ます〓〓そのひかりを加ふるに足らん。門流微笑して去。このこと又序とすべし。むかし丹波のくにゝ、大なる璧もたるおきな有けり。そのたまうちにひかりをかくして、ゆかしさ云んかたなし。人其玉を百貫にかはんといふ。翁おもふやう、かくてだに有を光まさば、あたひなをかぎりあらじとおもひて、百貫にはえぞとてうらず。さて夜に日にすりみがきけるほどに、はつかに瑕あらはれ出ぬ。おきな、あさましとまどひて、いよゝすりみがくにしたがひ、きず大に玉はまめばかりになりぬ。はじめかはんと云し人も、今ははなおほひつゝさたなくなりけるとぞ。されや大魯が門流、芦陰遺稿といふものを出さんとして序を予にもとむ。予が曰、遺稿は出さずもあらなん。いにしへより作者のきこえ1회/あるもの、遺稿出て還て、生前の聲譽を減ずるものすくなからず。大魯はもとより攝播維陽の一大家と呼れて、我門の嚢錐なりし。さればその佳句秀吟は、人おの〓〓膾炙す。たれか遺稿の出るを期せんや。はた遺稿を出して、か十カの玉もたる翁に倣ふことなかれ。門流肯ず。ひそかに草稿をあつめて、凡董に託して校合せしめ、彫刻半ょにいた安永己亥孟冬夜半翁識に、蘆句ニ九
黄昏や楳が香をまつ窓の人ちる槑よ春のゆくゑの始なる浪花吳服町にト居せし春(春)寒からぬはじめや曽の吳服町野諺春が來た梅じや芝居じやうかれ人古草に陽炎をふむ山路かな物おもふ人のみ春の巨燵哉仲春きさらぎや人の心のあらたまり鴈歸る夕や小田のはつ蛙雉啼やけふも人なき關を守双親の日に當りたる彼岸哉春雨の奈良茶は古き趣向かな埜外田の蛙足ぬるゝほどの水に啼畔道やほの見て過る雉の聲うしろより雨の追來ル燒野哉蘆陰句選系大書俳本日春之部初空や月にもよらずさくらにも福壽中咲や後に土佐が鶴四十九のはつ春にひがどのきのふのむかし明の春人妻の老けり御忌の朝詣高倉帝陵にて宿直誰鶯とても留主の 谷うぐひすの呑ほど枝の雫かな糸柳みじかきえだの狂ひ哉崖落て半は水の柳かな梅岡本の槑此梅や摩耶ふく夕海にほふ雨の梅しづかに配る薰かな歸雁けさ見れば今朝たちけるよ小田の雁等閑に立ゆく鴈も日和かな耕すや世を捨人の軒端までをみなへし薄も春の小艸哉いとまある春邊や水も田に遊ぶ埋れ井の水あらはるゝやけ野哉混合費尼達の古き淚やねはん像我友の鼓ふりけり暫の雨上〓己古雛や櫻がくれのうらみ顏難波津の春四五日やかし座鋪ふりたてゝ角落したる男鹿哉正月を遊ばぬ人のさくら哉三月九日兵庫七宮の祭禮、町〓〓幟·挑灯、神輿御幸の行粧いと見事也。糸櫻神輿にかけん祭かなこゝも又峠にあらず花の雲桃さくやよき家建し梓巫女海は帆に埋れて皆の夕かなきれ風巾や沖中島の船だより足袋脫で小石振ふ や堇草鼻帋に物かく春の詠めかなおもひ出て庭掃春の夕かな入たる事を知べし花鳥の揃へば皆 の暮る哉けふ限の春に駈騎武士よ山陰や菜の花咲ぬ春過ぬゆく春や藤にかす日のはつか也松の月それさへはるの名殘かな閏三月の唫花過て春にあまれる日數かな春盡京上りして筍のふし見を春のひと夜かなうかむ瀨四郞右衞門に遊て蘆陰句選二二
笋やひとり弓射ル屋鋪守そら豆の花散里やいせまいり謝友人ゆかしさの心とゞきぬひと夜鮓鮓の蓋とるや晝寐の夢心病中とら雄が三囘忌を弔ふ人の爲に枕しながら夏書かな夏籠や小瘡煩ふ御僧たちしらぬ字の大きに成し夏書哉皐月待時宗やたけごゝろかな夏草や野武士が持る馬の數亡母正當國夏日首筋の今猶寒し羽ぬけ鳥念佛して庵の窓さす燈かなとら雄一周諱雨そへて一とせを經さつきかな夏草や花有ものゝあはれ也重五うつゝに蝶となりて此盃に身を投む系大書俳本日夏之部ほとゝぎす二羽啼雨後の月夜哉すくなしと山僧いへりほとゝぎす懷舊牡丹折し父の怒ぞなつかしき簾して厠かくせしぼたんかな一もとはちらで夜明ぬけしの花愛すべき中にも芥子のひとへ哉雨を帶し若葉に春もきのふ哉雨覆ひの廿日過ゆく牡丹哉白勝ずくれなゐ負ず夕ほたん西行菴にて人去てあたら櫻のわか葉哉澁柿の花落したる若葉かな脫置し家わすれたる袷哉酢莖見て茶漬所望の御醫者哉さればこそ幟立たりおもひもの風下の黃檗寺や麥ほこり〓を出て物あらそへる翁かな蚊やりして師の坊をまつ端居哉感懷 八句浪速津に庵求て五年の月日を過しけるに、さはる〓との侍りて、やどりたち出る日、友どちに申す。濁江の影ふり埋め五月雨久しく召遣へる少女に暇くれて中〓〓に忘れじ瓜の漬かげん庵の竹を切て節となす竹の子を殘してなれも旅のそら妻兒が飄泊ことに悲し我にあまる罪や妻子を蚊の喰ふいほりを出る長明がやどりさへなし皐月空行路茫く然たり夏艸やまくらせんにも蛇嫌ひ舍もとめるさへ心をかれて麥の粉をけふはいたゞくやどり哉是よりしていづ地に行んと我に問ば、我答萍に乘てわたらん風次第右難波を出る日.一本亭の賢息野外迄送られける。其すがたさへ我にひかれてかなしくはるれどもさつきの簑の雫哉たま〓〓に團扇もつ日を我身かな夏川や棹さし得たる人ばかりさみだれや三線かぢるすまひ取河狩や廿チあまりの國の守早乙女やそこかしこ爰そこかしこ參宮の足引ずつて田植かな京に遊びて目ふたひで鉾下リにけり兒の親三三五蘆陰句選
趣病少し愈と思ふ初秋百日の枕洗はんけふの秋星合の名所ならばよしの川鵠の長柄もかけよほし一夜ほし合や詩作る妹がつらがまへ秋暑盆過の都はげしきあつさ哉凉しさや秋の日南の人通りうかれ女の黑髮焦せ散花火さればとて凋も果ぬ木槿哉とんぼうや聲なきものゝさはがしく蜻蛉や施餓鬼の飯の箸の先僧正の榎實こほすやはつ嵐躍子や夕間昏して狂はしき兵庫なる馭にて活魚のけふと過けり秌の風七尺と巷の說や關角力六に成子を失ふ人にうそ〓〓と旅人ありく納凉哉夕顏や浴をかくす古すだれ兵庫に移て海を出て砂踏蜑が暑かな午眠さむれば眞桑よき程に冷たりかたはらに童手をきる甜瓜哉旅人の錢おとしたる〓水哉惡僧の天窓冷せし〓水哉ふたゝびす夕立月のうしろより西吹や白雨せまる野路の人此里に醫師やおはす日の盛系大書俳本日秋之部すゞろたつ秋や翁が珠數の音華ながら断と成けり池の蓮浦邊初龝浪ひとつ岸打こしぬ今朝の〓朝東風やほのかに見ゆる秋日和聞てさへ秋の暮むつあはれなり稻妻の兒ひく窓の美人哉いなづまや波より出る須磨の闇きのふけふ靈棚にありきり〓〓す鱸の膾おもへども任せず老杜親なし秋風を人の國に泣眼の限り臥ゆく風の薄かな釣瓶にてあたま破れし西瓜かな正名、世をゆづりし賀田も畔もとしある秋を讓けり旅人よ何〓〓花の草まくら女鳩が兒喰ぞめによき年の米喰そめつ豐の秋秋興八句家在紅塵陌夜は相撲晝は踊の噂さ 哉草生ふるに園なし(原註)經露結ぶ夕あしたのつるべなは出戶澱河流秋の河うき世の人に遠ざかるかねてひがめる身なれば蓼喰ふ虫花に來て遊ぶか遊ばぬ歟夜坐妻子にこたふうき秋の長物がたりきく夜哉老杜が擣衣に傚ふよその夜に我夜おくるゝ砧かな一身有止處ふらついて瓢かたまる軒端かな國が辭して九年の春、都を出て一とせの秋われが身に故〓ふたつ〓の暮田家良夜夏からの蚊屋はづしけり今日の月名月や塵打拂ふ摩耶おろし風たちて月うち曇る門茶哉衣擣女疲れて月は西追風や夜すがら月の走ふね中秋夜半翁に申遣しける蘆陰句選さ 哉三一五
廣澤はいかに敏馬の月〓し朝戶出に露引おとす鳴子哉山畠や茄子花ちる〓の風出て見よ秋の野守のしたり顏賑はしや螽飛ぶ屋のあきの昏草菴小集端居して主わするゝ月見哉朝風や大名連てわたる雁小原野や花喰ふ馬の親子連(原註 孤宗高に妻射られしかひとつ雁兵庫草庵脊戶の半夜船每に蕎麥呼ぶ月の出汐哉十三夜二句名月や兎煮た家の豆の出來入までの夜も長月の光かな目覺して旅僧坐レ居ル夜寒哉雨風の日和おさまる夜寒かな禁城ちかくやどい求て、病を守る意麵になめて見むかならず菊の御溝水けふと成菊作らんと思ひけりその翌日より菊つくりておもひ出て菊作りけりことしより約束の菊見に來たりよしの人落柿や水の上また石のうへかつ散て盛まだ來ぬもみぢ哉雨の鴨一羽もたゝず暮にけり家ぬしを大工の譏る夜寒かな惜秋起出て月を尋ん秋の果社頭殘月殘月や一夜の松の木の間より系大書俳本日果冬之部蔓ものゝつるのゆるみやはつ時雨初時雨眞晝の道をぬらしけり慈悲ふかき代官たちて初時雨客中(三)北陰や冬と成來るものゝの音よしなしや火箸ゆがみて炭われず閨怨夢やぶれ衾破れて君見えず洛東金福寺の芭蕉庵にして探題山畑や麥蒔人の小わきざし橋守よ霜掃をろす誰が爲霜に歎ず蜂髭を握りけりあさ每や同じ道來る霜の市病中京師の客舍に、視翁の祥忌を勤て十月や翁もとしをふる佛梵論が笠吹上し枯 埜かな冬夜ともし火に氷れる筆を焦し鳬世の人の數にはもれぬ寒かな凩や障子の弓のかへるをと楠公碑啞〓と啼鳥の聲も寒さ哉河內女や干菜に暗き窓の機我ものと雁がね落る冬田哉かたはらを雁がねすぐる千鳥哉うめひらく軒に追るゝほし菜哉深草元政上人の寺にて月雪に竹三竿のあるじかな早瀨川見るほど雪の流れけり山風や霰ふき込馬の耳荒畠やはつかに霜の折葱船中あら海へ打火こぼるゝ寒かな着心のきのふと過し帋衣哉埋火に梁の鼠のいばり哉眼さませと母のきせたる蒲屯哉二·七蘆陰句選るか佛な
りて再び洛に旅寓をもとめ、もしや此まゝに身まかりぬ〓ともあらば、金福禪寺なる芭蕉庵のかたはらにはふりしくれよなど、いと賴なきとまでつぶやき置しも、俳諧に因と緣との深きなるべし。されば朝夕起臥の勞をと扶、終に遺言にまかせ、霜月十三日の夜野邊の露踏分つゝ、しも枯の草引はらひ、かの山のほとりに亡骸をおさめ侍りぬ。かくて月日のうつるにつけつゝ、疎なるならひなるを、いひ殘せる句〓〓を打うめき出ては、唯現に向ひ語るやうに覺え、親しみは在しにも猶まさりて、かなしきわざに侍れば、いかにやむべき。やがて草稿をつゞり合せて蘆陰句集と題し、門葉旧識の人〓と志をおなじうすといふ〓とを、しりへにかいつけ侍る。病しきりなるころ京師に旅寐して初雪じや大きな雪じや都かなみやこに田舍に、かれに心せかれ、是に心せかる。我にまた歸る庵あり冬ごもり語不驚人死不休橫つらの墨も拭はず冬ごもり年內立春としのうちに春は來にけり莖の味煤掃や思がけなき朝月夜わがたのむ人皆若し年の暮我を賴む人も有けりとしの昏几董書安永八己亥仲秋望日友人大魯、はじめ京師にありし時、夜半翁の門に入、後、浪速に移り蘆陰舍をむすび、また兵庫に退て三選居をひらけり。しばらく山河を隔といへども、とし〓〓のいきかひ互にしげく、實に知音の友なりしが、去年の秋病によ安永八己亥年霜月浪速書肆石原茂兵衞梓蓼太句集
蓼太集序和歌、國詩ナリ也變ノ而爲〓連歌一爲一排諸歌〓其〓猶詩詩變ノ而爲〓〓〓〓〓爲〓〓〓〓絕〓乎時時有ニ汗隆、辭有長短俗有正變緩節有緩急體裁雖異其情一耳東都ノ蓼太以一善スルヲ俳諧歌フ聞チ世一門生寓〓子崎陽一以ヲ蓼太ノ所ノ著ニス一章一示ス之ヲ〓人程劍南一程賦シ一絕フ以テ寫シ其意〓且手書ノ以テ遺ル焉時人艶稱ス之一丁丁ノノ夏〓太載け酒ヲ顧余余ヲ牛門請レ序ニシンヲ其集一余與之對酌シ頽然トノ而醉フ作テ而嘆ノ曰有是強化し者晁卿與唐人唱酬シ明人著ジ日本風土記ヲ載和歌數篇〓然ヲ〓則彼知シ我ニ有詩有シ〓ヲ和歌矣矣未知ら有ニュ連歌也而ルノ況キ俳諧歌ヲヤ乎知有ニ〓〓ヲヲ諧諸歌者乃ヲ自太始"今觀ニヒ此集〓著作太"富メ〓重重以テ示ヲメ〓人一則彼ノ五言長城ニ殆ンド將ニー失セント墨守〓矣葢シ我ガ日出ノ之邦升平百五十年煥乎タル文〓洋溢"海內一此ノ事雖ku小小リリ可以テ觀餘餘ヲ矣彼"シティシ其詩ヲ我"以ニテス吾歌ノ各稱ニル盈耳一哉是ヲ爲序、安永丁酉夏六月南畝子序印印序まさきのかづら長くつたはり、靑柳の糸絕ず、其片糸の俳諧あり。力をもいれずして夕だちの雲を起し、たけきものゝふも諸禮停止に、膝をやはらげらるゝは只此道なり。今や隈なく都鄙にひろごり、田面にかへる膓の跡久しくとゞまる。それが中に子が師雪中菴の主蓼太は、はせを翁の願をさぐり、晋子の花をあらそひ、猶嵐叟の寂は我家にして、年ごろ櫻にうかれ月をかなしみ、郭公には寐ぬ夜がちに、雪のふる日は節に笠に、隅田·眞乳のちまたに轉び、洲崎·日ぐらしの夕に食をわすれ、あるは途遠き蒼波に眼をあらひ、あるは山ふかき白霧に憂をしのびし口ずさみ、つもりつもれり。さるを書肆何某梓にちりばめんと、子規亭の扉を敲く事三たび五たびをかさぬ。師云、俳士に句のおほきは、硯に筆のおほきに似たりと誰やらもいはれき。ましていぶせき藻塩草かきあつめては、人のみるめもいたつかはし。さればとてひたすらに拒めるも又事がまし。聊其需を塞げよとて、十が一をあたへられし趣を吐月述。り。しくとゞまる。ある蓼太句集二五二
二三四初空や十日は簑のきそはじめ東叡山のうしろ、根岸といへる所に、膝いるゝばかりの蝸廬をしつらふ。この地や、こと所より鶯の音色うるはしといへば、爰にことしの春を迎て田家の閑をうかゞふ。しづかさの鍬にさし入はつ日哉聖代初霞長柄の橋もかゝるなり摘まぜて雪と八色の若菜かなかゝる物賣ぬ代ゆかし若菜摘若菜そゝぐほどは解たり忘水澤蟹の鋏もうごくなづなかな裾野から山摘起す若菜かな乳峯·如風とすみだ川に遊てつまずとも爰を關屋の若菜哉此君とけふはひかるゝ小松かな正月も影はやさびし削かけ蓼太句集(上)春之部系大書俳本日歲旦元日やうつはの水も伊勢の海誰ひとり掃とも見えずけさの春筆捨ぬ松こそよけれはつ硯初鷄や又市に住甲斐ひとつ若水や升なき時の人ごゝろ今朝の春鳩の三枝を見付たり黑きもの又常盤なり初からす万才や爰八橋に醉てゆく鉢植の其形はでゝむしといふものに似たれど、觸蠻のうごきなき此花のあけぼのを愛してあらそはぬ國いたゞくや福壽草五日風枝をならさぬ此君が代の春をむかへて、ことしも東四の行脚をおもふ。人日子削日懸梅梅が香の岩にしむ時水の音むめがゝや心つよくも厚氷咲かねる梅とあらしの日數かな詩にねぢれ和哥に匂ふや梅花三絃も接穗時なりむめの花香について廻ればもとの梅花梅が香の外にこほらぬ物は何むめ咲やとまるもの皆にほひ鳥梅枝をはづれて寒き入日かなむめがゝや衣桁にうごく袈裟衣社頭梅香や風に百度の向ちから紅梅や神のこゝろも堅からず紅をねぢれて梅のしほりけり臥龍梅道〓も此木這てやむめのはなうぐひすの九ツねりて初音哉鶯の鳴そこなふてかくれけりうぐひすや月の星のと日和乞鶯の朝隈さぐるはつ音かな春眠鶯の中に戶明ぬ都かな老鶯巢端居して鶯に顏見しらせん鶯の音にふくるゝ歟折〓〓はむつとしてもどれば庭に柳かな靑柳やとし〓〓老のつまさがりいかづちのはるかにうごく柳かな裾迄はまだ暮きらぬやなぎ哉家ひとつ市にしづまる柳かな二間三間影吹入るやなぎかなゆり分て北枝もはやき柳かな此庭へ能は這入てやなぎ哉柳見て柳ほしいとおもひけり橋にして踏だものから柳かな洛陽の朝餉過たり春がすみ三三五鶯明ぬ都かな柳蓼太句集鶯霞
三一四春の月櫻ひと枝ひろひけり柊ふむ夜半も有べしねこの戀濡たらば露とこたへよ猫の戀おもひ寐の尾に地もしつ猫の戀我庵の老猫にたはぶれて鏡見ていざおもひきれ猫の戀雪帆樓白魚やそれとしる火の凄からずしら魚や波わけのぼる友ちから淡雪や側から靑き春日山淡雪の降すがりけり去年の雪雪解ややう〓〓四百八十寺酢このみの跡から春の寒さ哉春風や一度に起る雪の竹誰をたが待伽羅ならむ春の風鶯のぬれて啼なり春の雨双六を退ば音ありはるの雨春雨や枯るものには簑ばかりかすませて子やおもふらん芦の鶴行旅馬借てかはる〓〓にかすみけり大中川落來るや霞もあへず大井川大和行脚留別うしろにも前にも遠き霞かな霞關誰どのゝ御先追らむ朝がすみ奈良にて夕霞たきゞの鼓しらべけり五六丈瀧冴返る月夜かな折ふしの衞も遠し朧月鹿もよく寐て朧なり奈良の月南から出たかもしらずおぼろ月駿河の國に行脚しける比、女の琴彈けるに對してふきといふも草のまくらや春の 月系大書俳本日猫戀白魚淡雪春月雪余春解寒風春雨夜噺の傘へあまるや春の雨春雨やあかつき見れば松の雪はるの雨硯に請て假名かゝん大津にて三井寺の鐘きく春の雨夜哉陽炎の掃よせてある屑火かな濱松犀崕岩角に兜くだけて椿かなきれ几巾の夕越ゆくやまつち山きれ凧に主なき須磨のゆふべ哉此比の朝夕やすし海苔二枚靑海苔をとゞけて白し磯の波仲春松梅と暮て正月二月かな神事の跡はほとけの二月哉紅絹裏のうつればぬるむ水田哉筆捨山筆取てむかへば山の笑ひけり箱根堪踐ひく人を笑ふ歟はこね山錦木にその尾立る歟雉の聲聲しほる諸羽に雉のあぶら哉あけぼのや櫻をふるふ雉子の聲たまごにはあぶなき雉のほろゝかなねはん會やおくれてひとつ飛胡蝶どちらから化して禿ぞ燕ぞ朝凪やたゞ一すぢにあげ雲雀ひとつ家に聲降くらす雲雀かな夜もすがら空に居たかとひばり哉菜の花に落て麥から雲雀かな雀子や余寒の蠅を追まはし植木屋の置て行たる胡蝶かな寐る時はふたつでもなし飛胡蝶蝶〓や乞食の夢のうつくしきつまむかと酢味噌を迯る胡蝶哉つちくれにうごく物みな蛙かな二三五雉子陽炎涅燕雲槃鳳巾雀海苔雀蝶子蓼太句集蛙
爐ふさいで二日もどらぬあるじ哉秋風の二葉に寒し苗代田桃櫻白髮の雛もあらまほし消かゝる燈もなまめかし夜の雛三日四日の細みも雛の月夜かなつれ〓〓と月見て立り帋雛たち屑も女なりけり草の餅下草の桃にはなれず蓬もち胡葱や小野の小町が物ごのみあさつきやどう結ても女文字桃咲や牛のよだれもやまと哥ふり返る女ごゝろの汐干かな出かはりや四月へまたぐ大男出かはりや飛鳥井翦て櫻町おれ〓〓と折せて花のあるじ哉長閑さは夜にこそあれ花ざかり花散て猶永き日と成にけりかばかりの花に置らむ夜の霜亭の燈の水にうく時かはづ哉もとの藺に疊も荒て蛙かな傾城の物ほすかたや鳴かはづ種室の夜〓〓にぇる蛙かな富士根方にて畑うちや大藤內が丸はだか人ふまぬ都わづかに堇かな池田の宿にて先ゆかし熊野が摘たる菫かと野の宮そこらひく牛もなつかし堇草菜の花にのどけき大和河內哉春望春の日や門ゆく梵論の影法師八橋杖立て春やむかしの橋ばしら大礒祐成が惜みし春の夜明かな爐苗雛塞代系大書俳本日菫草餅胡葱桃汐出菜花干代花成佛の棺ゆくらん花ざかり是はどにちらずばたゝじ花の陰身にしみて音聞花の雨夜かな落たるを拾ふ鳥なし花ざかり芝居皆やすむでもなし花盛東京都雲雪や世に手をられて花切手洛陽哥一首もたぬ山なし花の雲傘さして駕かく花のみやこ哉旧都紅葉より花にかしこし奈良の鹿芳野しら雲やちる時花のよし野山挙にやどりてめづらしや芳野を下リて花一木花喰に鮎ものぼる歟よしの川芳野大瀧ちる花をあつめて瀧のみかさ哉苔〓水苔〓水花かきわけて結びけり初瀨むかし誰被はねてや峯の花深草元政古墳月に花に法の杖あり竹三もと世の中は三日見ぬ間に櫻かな我宿の櫻わすれてくらしけり割あまる都の外はさくらかな來た道を又奥にせん櫻がりちる櫻ねぢよる人に倦とき歟物惜む老に見よとやちるさくら夜ざくらや三味線彈て人通しばらく芳野の山中にとゞまりけ云に、名ある所くの花びらつみあつめて、武江の詞友のもとに文遣すとて櫻寥太句集
水かへば駒のひま行小鮎かな山吹や旭のまゝに暮てゆくやまぶきや月も尋て澄あたり投かけてたのむ色なり松に藤立さればまだ日は高し藤の花山寺や一日ふぢの影ぼうし春夏のおぼつかなさよ藤の花夕雲雀落るや春のとまりよりゆく春やどちらへ渡る瀨田の橋あれ春が笠着て行はきてゆくは行春や一聲靑きすだれうりひとつかみしら雲贈る櫻かな宿かして是へとちるやゆふ櫻うごかせば月こそ出れちるさくら辨當で夢見步行や山ざくら美山路櫻戶や腰にはつけぬ鎰わらび日暮ては寺のものなり山ざくら早蕨の爪はぢく間ぞちる櫻けふばかり老につもらじ散櫻庚辰の如月六日家を失ひける時ちり果て火宅を出たり家櫻海棠やおられて來てもまださめず海棠や花の中よりうす紅葉旅籠屋の夕くれなゐにつゝじ哉鹿島にて人の代に成て見上るつゝじかな若鮎の鰭ふりのぼる朝日かな若鮎の小太刀遣ふて迯にけり山吹藤行春海棠躑躅若鮎蓼太句集夏之部耳すますけしよ牡丹よ郭公釣かゝる〓から出たりほとゝぎす竹植て寐ころぶ空やほとゝぎす鳥影に鳥またれけり郭公京にて君がため音や惜むらんほとゝぎす嵐山にて二の聲は手をる花なり郭公箱根雲踏で聞日も遠しほとゝぎすほとゝぎす鳴や氷室の一雫遠寺から寐よとの鳥やほとゝぎすかたはらに鳥なきそらや郭公ほとゝぎす巢を蹴落して出ける歟一とせに三ツの月見やほとゝぎす木鳴して又物たらずほとゝぎす世を鷺の五位ものぞまず郭公山寺や五色にあまる花御堂三五円更衣橋ひとつ出懸に寒しころもがへ我に綿ぬきすまさせて寒さ哉武士の矢ばせに立て袷かな鳥醉と洛西に杖を曳ていざ嵯峨も廻らばまはれ衣がへ時雨窓に隣て一老婆あり。よく樂天が句を聞。德山の轉心をすゝめて其深切なるに、四十余里の勞を忘先門の姥に用ありころもがへすき立て猶黑髪や白かさね白かさねにくき脊中に物かゝん鳥啼てしづ心ある若葉かな見ぬ春をこがれ步行歟ほとゝぎす是からは鳥の曇やほとゝぎす郭公一聲夏をさだめけり白重蓼太句果若郭葉公灌佛
二二H竹の子や花ちるさとの男きれ笋をゆり出す竹のあらしかな竹の子や客にほらせて亭主ぶりくれなゐは花にかぎらじ初鰹面白の妻なき宿やはつがつほ誰にたが宿かして此ひと夜鮓津のくにの伯母にこりてや鮓の壓蓼に露持せて長しすし一夜いとはずと是にいひけんすしの飯大磯にて鮓に肌ふれぬもうれし虎が石惟光をふまへて手折花柚かな一枝はもらひ過たる花柚かな葛陂山人の洛におもむくを送る。(前)柚の花や立場〓〓の詩百扁或人のものいふ女のもてる貝ふたつもてつくりたる盃の形は、がら棚なし小舟といへる物に似侍牡丹月はひとつ影は牡丹のひかり哉櫻ちる果やぼたんの雪丸げ花はまだ雨ほしあへぬ牡丹かな白雲の空ゆりすへてぼたん哉鳥遠うして高欄に牡丹かな明和九年四月廿五日、深川はせを庵再興成就の日吏登翁十七回忌をまねきこして取こして牡丹を蓮のうてなかな爪さきを戀のはじめや靑簾げに僧は木のはしとこそ諸かつら何鳥の冠に着せんかきつばた〓越に使は來たりかきつばたしらけしに續てもろき月夜かな乞食せん世はあたゝかにはだか麥旅寐してしるや麥にも秋の暮麥の穗も出揃ふ卯月八日かな一富士の隱るゝころやはつ茄子笋系大書俳本日鰹鮓靑葵杜簾祭若花柚罌麥粟秋茄子ける。是に銘を乞れて二へぎの花柚も嬉し星の舟實ざくらやなを賴もしき吉野山下闇に乾かぬ閥伽のしづくかな黑塚桑子さへ齒音おそろし木下闇和哥浦讀かねる葉の茂なし和哥浦身延此山の茂や妙の一字より字津山蔦に道習ふて越るしげり哉後醍醐帝御廟百官の高み低みや夏木だちよしきりや漸暮て須磨の浦隱家は市こそよけれぎやう〓〓し日やけ田に水門たゝく水雞哉菰草の奥は晝なき水鶏かな翡翠やどりぎの花ほど蓮に翡翠かな蓮に居て蓮に遊ばぬ翡翠哉川蟬の風かほるかとおもひけり拇尾唐土のさびしさ見せて新茶哉しばらく洛にありて嵯峨の柴折焚宇治の新茶かな駿河の國にありける比、子來子が芦の湯の舍を音づれけるに、茶の一興あり。三嶋から飛石いくつ苔のはな絕〓に溫泉の古道や苔の花我に來てとまりさう也かんこ鳥竹靑し木靑しひとり閑呼鳥酒桶の脊中ほす日や桐の花うしろから胸はしり火の螢かな追れては月にかくるゝほたる哉遊ぶ手に闇の末つむほたるかな二四、實下櫻闇新茶字より閑呼鳥蓼太句集葭雀桐螢花水鷄
逢初川は伊勢·熊野の二神はじめてま見えたまふ所とかや。爰に霖雨の夕晴もうれしく紀の月に逢初川や皐月晴花藻の花や隙なき水の中ながら植松に日をうたひ出したる田植かな遠里や二筋三すぢ田うへ笠ひとりして月より淋し田植笠山陰や人目おもはで田うへうた乳守の遊女、此御田の乙女つとめてより川竹の名をのがるゝとあるありがたきためしならずや。住吉御田神苗やけふをうき身の忘ぐさ二〓橋のほとりに庵を結し比、山居せば上田三反味噌八斗小者ひとりに水のよい所、とある禪師の狂哥をおもひ出て、そこに商家の名のおかしければ玉苗の門田持けりいくよ餅傘さして螢の音を聞夜かな關の燈のひとつうごかぬ螢かな難波津にて幟見の果はありけり帆懸船京にてほどく時我手の黑き粽かな常世かと古きも立る兜かな百合興煉かけて鏡暮けり五日月翠簾越の誰に落けんくらべ馬忍摺の石を尋て見てのみやいざ帷子にしのぶずり五月雨やある夜ひそかに松の月竹ひとつ書おぼへけり皐月雨さみだれや船賊にさはる芦の音橘を漏水音暗し皐月雨夜はせめてほたる飛なり五月雨旅行川越る日も有なしや皐月雨端午藻田花植競馬五月雨南都覽古冬田より靑田に悲し奈良の京當麻靑田さへよし染寺の右ひだり物いはぬ夫婦なりけり田草取山ひとつ脊中に重し田草取秋の來る道つくるらん田草とりそれに競それにくらべて今年竹岩を出て嬉しさう也ことし竹どちらからつるゝぞ麻に今年竹鵜つかひや朝〓おもひ捨小舟影も鵜に成てはたらく鵜飼哉鵜つかひや其子に讓子にゆづりつかれ鵜や遠寺の鐘も木の間より句兄弟祐成がある夜戀せぬ照射かな時致は山ふみなれてともしかな隱家の暮て葉に洩蚊やり哉蚊やりして後夜から里の月夜かな爰かしこまだ寐ぬ里の蚊遣かな蚊遣火やうらやましくも松の月白骨觀夏瘦のわがほねさぐる寐覺かな國王子尼寺や紅粉白粉も蚊やり草高野蚊の居ぬも浮世の外ぞ槇の月我庵は紙帳かぶせて置うよや業平の知て居らるゝ紙帳かな菊作る思案の外や美人草しのばるゝものや葵の五六月花かつみを尋て里人はわすれ草とも花かつみ小夜中山紫陽花や襟につらるゝ八から鉦紀州親しらず靑田田草若竹紙帳鵜舟夏草蓼太旬集照射蚊遣ニヨニ
片袖は秋の風なり夏ごろも靑きよりおもひそめけり竹婦人曉は小町がほねや竹婦人蓬生や手ぬぐひ懸て竹婦人七符とも三符ともいはず竹婦人胸髭に風こそわたれたかむしろ客ぶりに見送る蚤の行衞哉兩の手にうちわ遣ふや小傾城植つけの田づら見て來る團扇かな讃おもしろのうちわや、とれば月、置ば影、おもしろの團扇や。もの書ばかつらに似たり白團扇聽聞の跡は扇のあらしかないはけなき子にとられたる扇かな洛より東武におもむくとて我影に先あふ關の〓水かな涼しさは千尋なりけり苔〓水荒磯や撫子しらず親しらず秦徐福古墳撫子の唐をやまとに塚經りぬ庚辰の春家をうしなひて、暫南總吏仙が別莊にありける比杖立てさゝげ這するやどり哉晝がほやひとり横たふわたし舟ひるがほやたま〓〓むすぶ波の露晝顏や明るう咲て戀しらず夕がほや空也の目には卽菩提はらばふて瓜むく軒のかげり哉瓜畑やいざひや〓〓と草まくら六月を櫻に知るや氷室もり六月の氷もとゞくみやこかな祇園會や人をもる燈の薄ごろも祇園會や京は日傘の下を行其夜降宿の浴衣や富士まふで白河關竹婦人簞蚤團扇瓜氷室扇壓動画富士詣清水家ふたつ中に流るゝ〓水かな山伏の汲ほして行〓水かな遊行柳ひとすくひ膓洗ふ〓水かな自得晒見てなを惜まるゝ月日かな市中三味線にから臼のせてあつさ哉大津繪に丹の過たる暑さ哉捨苗の道〓枯てあつさかな西陣龍虎織手もあらそふて暑かな(一貫)貞德翁旧跡鳥羽日相寺夏陰や寺を御傘のあまやどりかしこに招れて珍膳にむかひ、爰に膝が屈しては美味に舌打すれども、枕取たる我庵の夕〓は心やすきをおもひ出にして帷子やぬげば風もつ物ながら沖鰺雲蓮鱠誰人の凱陣よりぞ沖なます鰺賣の阿字と聞ゆる耳もがなのぼるほどつかるゝ日あり雲の峯菅笠の影から蓮のうき葉かなにごれるは葉とそよぎけり蓮の花白蓮に人影さはる夜明かな悼吏登翁六月を經帷子に名殘かな一周忌、〓像前秋またぬ人のもぬけを泣日かな三廻忌似た人もなき六月の紙子哉石碑造立三伏の夏なき石の膚かな夕立や相合傘は晴てからゆふだちや地には靑田の篠をつく皿ひとつ氷にくだく納涼かな町の燈のひとへ櫻や夕すゞみ二級峯暑な蓼太句集夕立納凉
ず。五十鈴川の流をへだてゝ拜したてまつる。我影も鏡にいれて神凉しふたゝび武隈の松にいたりて我老も松のおもはむ下すゞみ天山田かゝる日も雪わすれずの山凉し野山より市のものなり夏の月人去て誠見えけり御秡川白鷺に烏帽子着せばや御秡川足代に住持のしらぬすゞみかな岩つたふうつり心や夕すゞみ凉しさや寺は碁石の音ばかり木鋏の落葉聞なりゆふすゞみ神奈川岱ふところへ入來る帆あり夕すゞみ白隱禪師相見凉しさや富士と和尙と田子の浦飽和事わがこゝろ飛かと富士に鷺凉し下紐關下紐の關もる母やゆふすゞみ麻斤が田家にありて牛馬のこゝろもしりぬ夕すゞみ四條河原風涼し扇の立葉浮葉より太神宮法樂僧に似たりとて、宮中をゆるされ系大書俳本日夏御月秡浮葉より宮中をゆるされ仙府の人〓にとゞめられて長居して星の一夜にわらはれん七種や葛にうらめば萩に露八日星立琴も寐せるや星の二日醉蕣や秋は朝からあはれなりあさがほや猶まぼろしの〓ひとへ我ものに手折ばさびし女郞花姨捨によろぼひたてり女郞花荒牧の中に瘦けりをみなへし眞間寺にて眞間の井や道を千尋にしのぶ草阿房宮賦をよむ鬼灯や三千人の秋のこゑ蓼の花嵐ののちをさかりかな松風の晝は根にある薄かな淋しさの都へうれるすゝきかなくれなゐもかくてはさびし烏瓜二四七蓼太句集(一)秋之部立秋流ゆく茅の輪にしるやけさの秋鷺とめて鹹にも立やけさの秋秋たつや一むら雨の雫より虫の音の下萠聞や今朝の〓忘ては秋たつ朝な〓〓かなあけぼのゝ靑き中より一葉かな曆ほど音して桐の一葉かな糸きれて琴にもしるや桐の秋明やすき蕣つまん星ひと夜鵠や橋にあまりてみをつくし星に琴かりて更行端居哉宵月や妻越舟のとゞく迄星まつる夜殘の暑忘がたく、隅田川に小舟をさして星逢に雪の橋かけよみやこ鳥秋草葉七タ蓼太句集
魂祭月見れば人の顏なり玉まつり世の中や鯛もくさらず魂まつり亡師の新靈をむかへて迎火やこよひふまれぬものゝ影此客に〓つらばさぞ靈まつり人のをく露としりつゝ玉祭夜〓は松に秋あり高燈籠燈籠の中からさびし揚燈籠燈籠や手をつくしたる風の前秋風に人まづなびく躍かな京にて飛〓に旅人黑きおどりかな稻妻や闇さへ洩て不破の關いなづまや槇の夜雨のかはく迄刈跡の薄にすがるいなごかな奥州野田玉川追立て螽に見ばや川千鳥夕凪や鶴もうこかず稻むしろ駿府竹林精舍此こゝろ推せよ花に五器一具紫陽花を五器に盛ばや草まくらこの二句を父母にして刈かゝる田づらも嬉し五器一具引あげて松の月夜や鳴子繩活て居る身のからくりや鳴子引秋風の水を切かと添水かな月細うこぼし減して添水哉人先にやもめの立る案山子哉河內路を過るに楠のよろひ着せたるかゝしかな飯もれば這て來るなり秋の蠅けふ見ればやもめになりぬ秋の蝶草臥て土にとまるや秋の蝶日暮ても野は錦なり虫の聲眼を明ば晝寐なりけり虫の聲十ばかり耳ある夜也虫のこゑ系大書俳本日鳴子燈籠添水躍案山子稻妻秋秋蠅蝶螽虫稻虫の音や道ほどあけて長堤我影の壁にしむ夜やきり〓〓す冬瓜の膓たつ歟きり〓〓すあれ聞て痩ぬ虫なしきり〓〓す人ちかき命になりぬきり〓〓す蜩や蟬を洩來る秋の聲文月十日あまり天府雅君に召る。御庭の月いとしら〓〓しけれど、いまだ殘の暑堪がたき比なりければ、かたへの人〓に仰事有て虫どもゝ末の露なり砂糖水うごく葉の日なたおさへて蜻蛉哉覺束なはね橋ひとつ霧間より松嶋にて朝霧や跡より戀の千松しま秋風やかりそめ事の一葉より秋風に片羽煩ふ胡蝶かな秋風や人にかけたる蜘の糸〓の風芙蓉に皺を見付たり高舘懷古前後の戎衣一におさまり、平泉のさかんなるを見るに、大路に車の行あり歸あり。左右の家くは軒むつぴ、はしらちぎりて、いとめでたし。蟻のどくにあつまれる人も、顔あたらしう過がてに、いづち行らんもしらず。たけきものゝふは金鞍にまたがり、たをやかなる女房は銀替をかざす。糸による柳の御所はみどりに、琴の音をたやさず。風かほる伽羅の御所には、和やしるがへし裳をかゝぐ。猶四方の風色をいはゞ、衣の關は、もともにたゝましものを、といづみ式部が離情をつくし、衣川は、たもとまでこそ波はたちけれ、と源重之が淚をそゝぐ。衣が瀧·ころものさと·月の山は、ながれに湧、白山には二八九蜻霧蛉蓼太句集秋風
くらも、すべてこのときにおくれじとよそほふ。鶴は九皐のちまたに千秋を諷、龜は十符の浦に万代をことぶきしも、たゞ今たゞ山そびえ川ながれたり秋の風仙臺嘉定庵留別名とり川細うながれて、桑乾の水をわたりしいにしへのひとの面影もおもひ出て跡先にふるさと持ぬ秋のかぜ熱油膏秋風や碇もなびくはなすゝき必觀主人の閑亭に、半日の殘暑をわすれ侍て干てある鎧に來たり秋の風いそがしや遊び過して散柳あだし野に行あたりたる花野哉追剝に夜はふりかはる花野哉合歡の木の枕ひかせん老の秋雪のあけぼのをおもふ。國見やま·室根山·たはしね山は、はなのくもにそひ、えいなせのわたりは、ほとゝぎすのいなせ鳴なり。いはゐの里は木立しくらみ、金鷄山はあかつきを報じて、時守がつゞみを和するに似たり。はた毛越寺の堂塔四十余·禪房五百餘宇、中尊寺金角堂·經堂·吉祥堂、あらふる神社·佛閣、山〓日に映じ月にかゞやく。なかんづく、ひはの柵は義士和泉三郞の砦にして、碧流岸をうち北上川に落て、高舘にそふたり。源廷尉にかしづきたる屋しき〓は、衆星の北辰が達るがごとく、こゝに立かしこにわかつ。まいて秀衡一門の榮耀さらにいふべくもあらず。口をあまんずるには、鳳を裂、麟をほふる。目をよろこばしむるには、炎天の梅花·玄冬のさ系大書俳本日秋花柳野秋夜須磨宿借て寐ざめしらばや須磨の秋諏訪湖水秋の水に富士をひたして猶寒しある人にもてなされて喰てしる七玉川や鮎の秋上總千種濱しら波の染にあがるや千くさ迄白露の果はありけり六玉川農家に八十の老を賀して米の秋杵ふりあげる翁かな道問ば一里〓〓と秋の暮鐘つきにのぼるも見えて秋の暮潮見坂舟くだく海とは見えず秋の暮蟇ひとつ顏見合せて秋のくれ眠我と墨水に遊て木母寺を力なりけり秋のくれ我庵を客と立けり秋の暮雪帆樓捨て行歸帆ならねど秋の暮高舘毛越寺懷古礎をかぞへあまして〓の暮蝶鳥の目にも後段や蕎麥花傾城の樂屋おそろし蕃椒うか〓〓とまだ花のあるふくべ哉二羽〓〓とかぞへて悲し膓ひとつ初鴈や平砂にはやき月の霜初鴈や北斗と落る水のうへ連雀やひとりしだるゝ松の中鵙の來て一荒見ゆる野山かなひよどりの一羽わたらぬ庭もなし崩してはかぞへなをすや四十雀文殊奉納山雀や文殊の智惠のむきくるみ武山山武庫山の眠さますなわたり鳥二三、蕎麥花蕃椒瓢鴈露小鳥秋暮蓼太旬集
かつらからさす枝の橋やけふの月田家にあそびて浮雲に鳴子ひかばやけふの月僧はたゝく八百屋の門やけふの月深川舟道遙川上と此川下や月の友とはせを翁の申されし五本松もたゞ一木殘れり。十人の月見の友や松ひとり鹿嶋笘船を神代の宿に月見かな名月や何つく音もさらし臼名月や物うつさじと西へ行名月や生れかはらば峯の松名月や月より外にくまもなし鳬啼て漁村の松の月夜かな名月や燈をけす風もかつらより一谷下總浦つたひ二句朝凪や小雀のとまるみをつくし鶺鴒や潮來をしへて岩づたひさびしさの來る橋懸て芭蕉哉染かねて我と引さくばせをかな物荒て時めく柿の木末かな澁柿や代〓の哥にも撰殘し待宵やところ〓〓に女郞花良夜ちかき比、蓼旦が温泉の山に行を送る。月の時そちら向ふぞこちらむけ月を出て月に野山の入夜かなひとつとはおもはぬ夜也けふの月名月のさがして照や岩間水名月や巢を守鶴もよもすがら名月や汐滿來ればさゞれ蟹名月やねぐらも見えて花に鳥二州橋邊機石別荘系大書俳本日芭蕉柿待宵良夜ふる〓との寄來る波や須磨の月柴屋寺にていざよひや闇からあまる鹿の聲十六夜やこよひは闇の惜まるゝはつ汐や竹の裏行人の聲金屏に雨吹いるゝ野分かな岩端の鷲吹はなつ野分かな旅人のはしり拔るや駒むかへ駒牽や日やけて甲斐の黑おのこ大內の砂を土產や相撲とりしほらしや灸すへたる角力取女ほど櫛笥持けりすまふとりみどり子や見る目の前に相撲とり眠江亭相撲とるおとこいくたり庭の秋半分は靑き芦火の夜寒哉竹賣て枝焚宿の夜寒かな四十から酒のみ習ふ夜寒かな新菊綿里は今綿あたらしき日和哉荒〓て露もさだまるや菊の花ものいはず客と亭主と白菊と傾城の枕ふみてや菊つくりあの露にうがてる石歟岨の菊白菊や花のこぼれて葉の雫蝶ひとつ菊に喰入日和かなひと雫葉から油やきくあはせ舌たらぬ兒にもとらむ菊の酒漁村重陽魚の名も菊色〓のしづくかな大事務家ごとに祖父ある菊の山路哉婆心公にてしら菊やあるじの花に暮殘白きにも浮世の善惡や菊あはせ若がへる菊のためしや十三夜〓つらぬ心に野あり後の月ニ一五十六夜初野汐分駒迎相撰蓼太句集夜寒後月
やどりぎや幹を花瓶に初紅葉是よりして年波よせる碪かな遠里の都に出來てきぬたかな目にかゝる月の裸や小夜きぬた轉さうな家に碪の拍子かなあるひとの閑居にいたりて夜嵐や翌の柚味噌も梢より釜かけて柚味噌のうらみ聞夜哉菅野氏の遠眺樓にてすさまじき長月比の花火かなくれなゐの糸とこそきけ鹿の聲(京カ)鹿の音や千尋におろすみなの川山紫と千種の濱に遊て新酒あり船に鮮の所望せん隈なきをのみくむ物歟にごり酒帆のうかぶものに成けり落し水秋風と木がらしの出帆入帆かな錦着て夜ゆく秋を惜みけり白魚のかいこうこくやのちの月稻懸て里しづかなり後の月金澤にて隈〓〓は海士の焚火や十三夜新蕎麥とこそ三盃の夢のゝち新そばや座敷で悟る棒の音茸狩や月の干浮の小松ばら尾を越て命いそがし鴨の聲うら枯や迯ぬ水には丸木橋うら枯や月の哀よりも日のあはれ九重を中に野山のにしきかな掃音も聞へてさびし夕紅葉影落て江はうき草の紅葉哉人あしの歸がちなるもみぢかな諏訪秋宮花よりも紅葉にはこき淚かなしもつふさ德聖寺の庭上に、七色のやどりぎあり。系大書俳本日磁新鮮蝦茸民國傳うら枯紅葉鹿新酒濁酒落水九月盡蓼太句集冬之部身ひとつの霞なりけり小春田我戀は婆〓になりたる十夜哉口切や苔の價も唐にしき當選擇百囘忌を七十年の今日にまねきこして、深川要津寺に俤塚造立の折から、西上人の花の陰にて我死んと詠ぜられしを思ひ出て我ねがふ小春の望や十二日駿河路や盧橘も茶の匂ひとありし桃舟亭に興行ありてはせを忌や飯をゆかりの茶に染ん掛川より贈れる布をまとひて冬枯や人には葛の居士ころも又春の來るとも見えぬ落葉哉さびしさの眼の行方や石蕗の花十月のあらいそがしや花もみぢたくはへて罪なき菴の干菜かな枯柳筏の飯にけぶりけり三重十ロ夜切初時冬雨初冬の機に入てやきりはたり植ながら松にしのぐや初しぐれ秋風は簑にのこりて初時雨色かへぬ葉には露なりはつ時雨鶯の笠さがしけりはつしぐれ市中は葫蘿染てしぐれかな夜座傘たゝむ音にこそしれ初時雨今朝見れば松の葉つもる時雨哉夜もすがら我に髭ふる時雨かな祖師達の忌日〓〓を小春かな葉を踏でおなじく惜む小春哉山は今樵夫の笑ふ小春かな冴返る日までよく似て小春哉駿河の人くにわかるゝ時十二日とあり小春落雜葉冬蓼太句集枯柳
水仙河竹の名には流ず水仙花頭巾きか猿は先飼馴て頭巾かな傾城の市にかくれて頭巾かな千鳥鳴うしろ月夜の頭巾哉紙子羽二重の京に嵯峨ある紙衣かな客は半日の閑を得れば、あるじは半日の閑を失ふ。客の來て我に音ある紙子かな老鶯巢衾戶さゝぬを我錦なり紙ぶすま菜大根鶴見て老をやしなはん網代守世わたりのはづれ〓〓に網代かなぬくめ鳥爪たてぬ心もあはれぬくめどりある時は一はい鷺やぬくめ鳥顏見せ顏見せや紅粉白粉も菊の水かほみせや誰に遠寺の鐘の聲髮置髮置やひと花さける肩ぐるま霜鍼立の門たゝくなり霜の聲枯〓て月を柳の洩夜かな富りとはこゝをいふらん冬牡丹妾をく柴のあみ戶や夕ぼたん牛の尾の外はうごかぬ枯野かな馬と見て一里は來たり枯野はら夕暮の篠のそよぎやみそさゞゐ見ぬふりに物拾はせんみそさゞゐ灰占に先何待んふゆごもりおもひかねて月見に出たり冬籠おもてきる地主の木の間やかへり花春雨とおもふ日もありかへり花夢に似てうつゝも白し歸花こぼれ居る官女の中に火桶かな鎧着て須磨のみやこの巨燵かな長居して巨燵も闇になる夜かな極樂の道へふみ込こたつかな木枯や瀨田行ものは月ひとり凩にこがらし焚てしのぎけり水頭仙巾系大書俳本日家五年枯野紙子鷦鷯冬籠歸花衾火巨桶燵顏見せ凩髮霜置橋守へ橋はもどりて霜夜かな障子はるこゝろの水やはつ氷鴨遠し夜半の氷いづこまで一雫しては入日の氷柱かな賣よりも買人寒し炭二升更る夜や炭もて炭をくだく音身延七面山にて榾の火や祖師の胡座も眼のあたりほだの火や家につたはる老ひとりたゞ一羽離別れて行歟鴨の聲鴛鴦のちぎりや沓の右ひだり押分て月こそ出れむらちどりみを木にもちる物出來て衞かな蛤にならじ〓〓と千鳥かなうごかずに居ればこほる歟むら衞千鳥啼夜や名月の照のこし友見えて月夜の衞嬉しい歟吹上て汐くもりゆくちどりかな雪ともしびを見れば風あり夜の雪降くらす雪の相手や水ぐるま暮て行雪のかつらやひとつ松雪折つ起つ棹さす小舟かな白雪の中に灯ともす野守かな頃日の曇さらして木〓の雪僧に對す掃よせん君いざつくれ雪達磨途中吟はるかなる火にあたりけり夜の雪畠ほど八百屋さがすや夜の雪簑脫でひとり湧けり雪の友はづかしき飯くふ雪のあしたかな鉢たゝき月夜は見えて哀なり習はふとおもふ夜もあり鉢たゝきはせが翁の一とせ冬籠ありし橘町ちかく居をうつして袖の香の簑にもゆかしすゝ拂三七七氷つらゝ炭榾火水鳥衞鉢扣蓼太句集煤掃
師走は友のとぼしに事しげしと、師走は友のとぼしければ鼓屋と浮世かたらむとしのくれ草盧鬼は外月は內へともる夜かな厄拂跡はくまなき月夜かな大豆売に七步の吟ややくばらひたからぶね嵐のしらぬ一間かな空の名殘惜まんと、入來る客には葛巾の桑門あり、鉾をよこたふる武士あり、猶琵琶はさびしく、鯛ははなやかなり。簑笠に庵の狹さよたから船三芳野に旅寐して花の衾の下臥せし妹山·脊山の佛も、まのあたり立さらねば櫻木と戀した文や古こよみ基佐の風流をわが貧賤の荷擔にとりて質にをく物に月あり年の暮衣配今年あり裁ば去年あり衣配年內立春 ことしとも去年とも見ゆる柳かな年內立春の日、年わすれもよほし給ふかたにて春の日をかりて遊ぶやとしわすれ年忘洩來る椴の木の間より夜半にくむ年わすれ井は誰が家絕〓に聞ふるしのび音に、ひとり寐覺る草庵のうち三絃を廬山の雨やとしのくれ光陰を觀ずかくて世は雛つくるなり年の暮年波の淀とこそ見れしゞみ汁我草の戶は富家の肆にかくれて、麋鹿の遊びを妻こふ猫にかへたり。金銀の氣に物こほる師走かな淨破利の氷にうつる師走かな起されて見れば粟蒸師走かな酒肆は升にいとまなく、茶肆は秤節分寳船東方未明衣裳轉倒祐成が蝶着て出たり年の暮あしをそらにまどふが、曉かたよりさすがに音なく成ぬるこそ風鈴ときく時としの名殘かな岸とつくれる日のよそほひなるべし。頓て柴門をたゝけば、主叟幸庵にまかりありと莚をまうけ、寛語やゝ終て爰に師弟の恩を荷ふ。折節、莎靑·葉五·平舍等落あひて題を探る。わが俳を試給ふなるべし。是ぞ師恩の始なりける。今なを俤に立て懷旧に膓をちぎる。是より月雪花·時鳥、年にねり月にきたへて正斧をこふ。猶思ひあまりて奥の細道の跡たどらまほしく暇申入る。師とゞめて、其國や雪深うして秋より末の初旅心、いと便なからん。近きあたりに足かためせよと、みよし野のたのむの鴈の賴む方に文書てたまふ。此秋は玉川の月にふけり、高雄の錦を袖の面目にして、神無月のはじめいほりに歸りぬ。其比師は深川にいましけるを、川上とこの川下や月の友とはせを翁の申されし五本松も程ちかきあたりに、若き人〓草堂を結て折〓むかへてけり。常は空坊四壁のみにして、田夫の壤歌·葛西舟の咿軌、をのづからにかよふ。はた西北の山〓は霞に消、霧にあらはれて、もとゞりのどし。この庵守せよと招きたまへるより住る方は人に讓、こゝに菜つみ水くみ、其年も暮にけり。曾て蓼太松嶋に二九九松の嵐古茄子集ニ出蓼太今玆丙子年六月廿五日、我師吏登翁の一周にあたりて、像前に時菓の奠を備、紅淚に筆を染て、謹で尊靈に〓。嗚呼不侫蓼太若かりし時、不幸にして薪を負事あたはず。故園の梅は昔ながらの花芳しけれど、軒はとし〓〓の秋風に荒て、終に世を墨染の袂にもとおもひ立ぬるは、かのいはほの中に住はかはとよみけむ人の心なるべし。かゝりける中にも、俳諧の狂句を好て隱遁のおもひ出とす。されど浮世の媚に蹈違へ て.いまだ向上の一路はたどらざりしを、一日蟻考老人と新古の境を論ずるに及で、深川に此師ある事をしりぬ。予南人の指車を得る心地して、彌生の三日とみに小舟もとめて霞をわたる。故人家在桃花蓼太句集
になして、かの蒼〓たる髮は化して白く、動搖たる齒はぬけ落たり。まことにあはれむべき白頭の翁なりとひとりごち申されしが、此冬門人のあらましは吾にまかせ、罔兩の一句に南花眞人が風を慕ひ、蓬の心はとげられけり。されば蓼太去年の春は駿河路や盧橘の昔をしたふ人〓の招について、卯月·皐月の境は其國に在けるを、葛才が文に師のいたつきをおどろかされて、心急ぎの旅はゝきながら、吾又藤枝の驛より暑濕のいたみありて、漸水無月の初草廬にまろび入ぬ。さははか〓〓しくつかふる事あたはず。只綿にすがり空に望むのみ。悔てかへらぬ日數もつもり〓〓て、今年其時其日をおもふ。古人もいへる事あり、言はつくすべく情は終るべからず。よつてもつて五月雨の比より一日一口の歌仙をつゞり、往事をありのまゝに述ていさゝか師恩に報ふ。又此册に茂松子が手を借て肖像をうつす。遠して相見ざるの門人、近うしてなつかしとおもへる旧知の人〓、一章の手向あらばかならず答あらん。其答るものは何。曉のかねの聲、夕暮の松のあらし。赴けるは卯月中の三日也。小名木川を北へわたりて、先龜戶の瑞籬をぬかづき、長途の末をいのり奉る。師も此所迄見送給て縮柳の吟あり。折からの麥の穗なみ·ほとゝぎす·閑呼鳥とりつかねて唯うつたふるがどく、離別のなみだ胸にせまりけらし。實其秋やおもひいで羽の國に在けるが、ほのかに傳ふ、武江の本所あるは深川わたりの人、魚鼈となるのおそれ有て、わがしれる堂社こと〓〓く軒をひたせりなど聞ゆるより、されば老師の覺束なさ、なを其人かの人いかに成行けんと、ゆふべの雲を望めども万里を隔たれば、風にむかふ馬もおよぶべからず。たゞ山かなしく浦おもふに絕たり。かくて蓼太江府にたどり入しは十月六日の夕月夜なりしが、先柴門の見しにかはらぬぞうれしかりける。師手を取て、汝が文月七日の文に葉月初の歸路を告たりければ、途中にして此變に逢ぬるよと皆なげきあへり、かしこくも面あはせたりと、よろこべる時も老は先淚もろなりけり。それより漸七とせあまり八とせがほどは須磨に暮、吉野に明て、吾春秋も三十あまりに指を屈す。あゝ師は古稀の齡を跡發句集跋守武の神〓曰、俳諧は何にてもなき何となしことを好と、さるかたの言種なれど、何か又世の中それならざらんや。本より連歌に露かはらざる大事ならんかと、誠に雲井をかける時鳥、くゐぜをまもる蛙の聲、いづれか讃佛の緣にあらざるべきやは。家〓〓の風をあらそひ、蝸牛の角のつのめだちたる、何としてか神佛のこゝろに叶侍るべき。さるが中にも絕たるを起し、廢れたるを新むるは、正しく先達のしはざにして、彼是かよひてあるべし。其實みな落て、其花ひとり盛んに、其花かうばしからずして、その實もつぱらほしいまゝなるは、いづれの道にも取れぬにや。九ツの病をのぞき、三ツの品をそなヘ、十七の句法をたゞし、おほくの手爾葉をわかち、あまたの姿を定る事はかたきことになん。堪能の人といへども、句ごとに秀逸にあらずとぞ。唯春の水とゞこほりなく、秋の風聞所あらんこそ句の成れるならんか。其なれる句〓〓撰び集ることは、むかしよりかはらぬものから、世〓〓の變風は猶有ぬべし。今をもて古にならふるに火水よりも異とは、昔の人もなげき申されしが、梢にほこる花の春をもむかしとながめ、深山に積る朽葉の冬をも古と見んに、取捨は其人の心〓〓に有ぬべき事にぞ。今の雪中庵主の句〓〓櫻木に移すよし聞ふるに、其流れ汲、我輩のさすがによしともあしともいふべきにあらねば、今なを古のごとく此道のあとなしごとにはあらじかしと、書林の乞にまかせて筆を取のみ。時明和六丑の秋時雨窓月巢蓼太句集二八、
系大書俳本日白雄句集しらを上·下碩布編
身を煩ふて大事なる人有けり。なしの花の今を春と咲たるを見て、なしのほしきと乞わびしに、いかゞして持たり劍、ならの古葉に包みたるを、あとはなしとて只ひとつ遣ければ、かぎりなく嬉しがりて、あとのなからむと白雄句集(上)卷之一碩布著にやくらひもやらず。にやくらひもやらず。撫さすりつゝ抱きて寐たりなどしけるに、梨子の肌つや〓〓とかたまり光出て、家の隅までも照す程に、いつか玉にぞ成ける。つばくらが子やすの貝、たつのくびの五色の玉とも思ひくらべて、胸くるしく苦き時も、此玉を抱けば苦みもやみぬ。かしらいたく身ほとぼる事もなくなり、常のやすきにかへりしとかや。しらをの翁をまねしたひて、花とりに思ひくるしむ人にも、此集ぞよきふところものなるべし。玉をもうまざらめや。只見人のせちとせちならぬによる事を。さてそも春之部歲旦元日や大樹のもとの人ごゝろ貝、胸くるし万歲の願ながき旦かなあをげばいよ〓〓鳳凰城、俯してます〓〓國恩を思若水やおよそ玉川猪のかしら天鷄羽うつて萬鷄うたふの此曉、踐約せしみたり、沓ふみしめて山俯しても、さてそもにのぼる田毎の日こそ戀しけれ。その田毎の日影戀しきが故也。山は姨すてしところにて、何れを年白是をゑりまろめて、もろ人にあたへむとする毛呂のせきあら川の蔓藻より長く、むさしのゝほすゝ山ふが勳しは、きよりしげりて、むさしのゝほすゝ雪降そらに瓜をさゝげ、雄花咲あめになの始の姿といふべくもあられど雪のむらぎへなるに、日のかはらかに光りあひたる、ものなつかしき句しをおくりたるのたぐひにはあらぬのみ。日のかはらか集みちのくのみちひこものなつかしき二六五
主がせちより先捫虱の貧加忘世とゝもに身のきそ始おもふかな夜道の行かひしげきには、さしも降つる白雪のあとかたもなく、長閑也けり。菴にのみふるとしの雪を門の春法華書寫思たちし年の旦心こめて筆試るとしかな門人に草菴ゆづるべき年の旦我と世をのがれん身にも初日影歸童が家嗣佐太良の筆意常ならぬを祝して天みつととつて七ッの吉書かな陶水瓶といへる物を、まさ二がめぐみける年の旦日の匂へ小瓶に椒酒花ぞかし病中梅柳はつ春の眼たしかなり新居もとより煤竹を入ねば、春の旦なりけり。春いまだ田每の雪間〓〓かな勢大廟前元日立春椙の木に今春たてる神路山信中虎杖菴に春をむかひ、雪のきゆるを待て皇都に杖ひくべき趣を、人くにさゝやきはべりて每初がすみきその獄〓たのもしき北總千葉、宗胤禪刹に春をむかな歲ありて般若の聲を三の朝蟻道およびそこの人〓が、せちに霜雪の行脚を勞りしにぞ、はからずも甲斐の國栗原の驛に春をむかふて身の春や遊ぶところに日かげさす相中酒匂、南藏蜜刹に春を迎ふみなみどり松を見海をけさの春武野桃原菴に春た迎ふあらまし又いふにやおよぶ。元政の松もかざらず老が門葛飾に知人いくら梅わかな朝の間に摘てさびしき若菜哉隣〓〓うしろも隣なづなの夜七種のそろはずとてもいわ井哉薺賣鮒の釣場をおしへけり粥草や葛飾舟の朝みどりうち囃し馬も嘶よ薺の 夜葛飾の菘菜なつかしき今日や、いやが上の白妙に、杖のみちもさだかなられど、更科川のさら〓〓と澤邊にをりたち、袂をぬらさんとす。折から投ぜし文の奥に、見せばやなこれぞ信農の雪若菜シ句にそへて鳥瀾坊が一籠をめぐみたるに大雪の旦若菜をもらひけり掛り舟岬のまつに子の日せよ霞國にそふ霞をはこぶ潮かな遲日夢去て時とへば遙にこたふかた〓〓の鐘聞に霞める寢覺哉醉ざめや嶋を見こしの波かすむ二またになりて霞める野川哉菴崎にてうすみのや夕越くれば雨かすむより所なくて遠しや野のかすみ梅おりに舟よぶ多摩の渡かな馬の子の家にかへるや梅寒し遊台嶽捨氷院〓の梅さかりなり朝夕や何れとならば夜のうめ梅が香や鮒ひつかけし釣の糸宿の梅といはるゝ宿よ松もよきますら男の梅が香袖に射矢哉うき艸のひと葉なりとも礒がくれおもひなかけそおきつしらなみ磐鳴て梅おらんこゝろうせてけり二九七人日梅白雄句集
日永きや柳見て居る黑格子眠るかと鶴見て過る野の柳正月の霜ふりこぼすやなぎ哉月遠く柳にかゝろ夜汐かな梅やなぎうめうつろひて靑柳か膾うつ門に暮行やなぎかな夕汐や柳がくれに魚わかつ的形の矢落の柳しづかなり柳なをしりぞき見れば綠なる鳥の觜白玉椿きはつきし葉おもてにかまくら椿咲にけり飽てたゞ鵯の吸花つばきなか〓〓にはや散つきよ赤椿けしきたつ谷の木のめの曇かな世の木の芽こゝろ鞍馬にかよふ哉き桐もやゝ黐巳角も芽をぞふく飛鳴に鶯の機嫌しられたりうぐひすにすげなき晝のかつら哉富家も乏き家もうめさきぬ夜の梅寢んとすれば匂ふなり潤月ありけろ年加はれる睦月の梅花郁〓たり梅ゆひし藁假そののにほひかなうちひらけよき日あたりやうらの梅酒たうべて病に勝べしとの玉ひける醫師の家にて、傍人に申。ひとゝして酒のみならへ夜のうめ初寅の日、人〓番おろし句つかうまつるに、都の友思ひ出て便せよ麓はうめのくらま山人にものおもふ顏なき里の梅武野天滿宮奉納むさし野に松梅多きところ哉麥のたけ梅紅に春ふけぬやなぎ風に裏おもてなき時節哉おもふ柳見にゆくころとなりに 息系大書俳本日つばさ木の芽柳鶯鶯に圃すこしある屋敷かな鶯のしら目にふくむはつ音哉水あびて鶯となき脊はらかな横に日のうぐひす見こむ書の小口かならずよ鶯きかばやまの入鶯の胸毛をこぼす春みなみうぐひすの今朝たく柴にとまぃけり蝶とぶやあらひあげたる流しもと袖に來て袂にきへつみちの蝶初蝶と見しより數の野つら哉はつ蝶のちいさくも物にまぎれざる酒くさき人に蝶舞すだれかなから鮭にてふ舞畫の厨かな二羽になりて蝶かへすなる野中哉夕風や野川を蝶の越しより猫の戀六日年こし更にけり氷ふむ猫やゆく〓〓戀死んこのほどやうとくなりゆく猫の妻戶をあけてはなちやり鳧猫の戀酒星を見に出て蛙きく夜かな瞬やあしたの小田のかはづどもはつ蛙水にはなかぬ夜聲なり脫すてしみのにをかしき蛙かな起ふしに床の墓追やもめかな飛ちがふ蛙くらしや雨の疇田にしわる野口の嫗のにくきかな苞の田にし田へ戾すべう雨をなけ土舟や蜆こぼるゝ水の音泥はもとの海へ目指のあさり貝われがちに數あるものを蜊とり木ばさみのしら刄に蜂のいかり哉蜂の巢も人たのめなる軒端かな馬は眠犬は追なる門の虻舞すくむ宝や地にそふ影久しあれなるが安房の岬か春の雪春の雪しきりに降て止にけり蛙蝶田螺蜆蜊蜂白雄句集〓猫の戀春の雪
ずれた春の日春の日を音せで暮る簾かな酒店簾戶に鯛のこけちる春日哉春の日や刀あづかる原やしき長閑のどけさや津〓浦〓のおもはるゝ長閑しや麥の原なるたぐり舟遠干浮ふねのみよしの長閑也ながき日永き日や鷄はついばみ犬は寢るうす曇同じ空にて日の永き晝寢のくせを自はぢて永き日に我と禁ずるまくらかな也寥禪師の消息に酬ながき日やみちのくよりの片たよりみちのくやいく關の戶を初便二日灸といふ〓とを母戀し日永きころのさしもぐさ天眞禪刹かげろふ陽炎やしづかなる日の敷かはら海に見ん春の白雪地にあはきとりさがし門にすさ切雪解かな朝駒の朝川わたる雪解かな海はれて春雨けぶる林かな春さめのこゝろながくも降日哉春雨や小桶にかつぐかす小鯛おもひ絕て梅きる宿に春の雨鴫立澤にありしころ春雨や傘さしつれし濱社はるかぜや吹れそめたる水すましうら若き川原蓬やはるの風濱つとや歸るさをふく春の風〓の嶋にて春風や潮に手あらひ口そゝぐはるかぜに吹るゝ鴇の照羽かな柏木の衞門が鞠をとんとけたれば、まりは枝にとまりつゝ、花はちらりほらりと春の日春の雨長閑ながき日春の風かげろふや一摑づゝすさだはら陽炎のもえて地にたつ松葉哉糸遊にほどける艸の葉先かないとゆふやものによらねど角櫓糸遊に兒の瞬きやさしさよ舟にあげて舟ふりかはる几巾几巾空見てものはおもはざるいかのぼりきれての後の風ぬるしたこみつよつ山邊の長が夕詠夕ぞらや八巾見に出し酒の醉初午や七ッの年のくゞり道はつ午や假そめゆけば七ところ初午の日和は梅に柳かなはつ午や小簇をつかむ舟上り病後はつ午や梅見ぬ年の梅を見に初午に痘瘡かろき世なみ哉梟のつらも佛のわかれかなねはん會や往來の人ぞひまの駒涅槃會や身は寺入の穀つぶし雀の林を思ひ合すもことふりにたれど礒なれし松も見らるゝねはんかな老ゆく身を獨ごちして去年より今年佛の別かな吹つれて梵論も彼岸の步み哉山邊には按の芽を摘ひがんかな捨がたき妻や子や兵衞尉上級、しも西上人ときこへしも、たゞかりそめの名なる事を花に死んねがひは欲のかゞみかなみたり世に生れて世をや花の陰出かはりの酒しゐられて泣にけりやぶ入や桃の小みちの雨に逢出かはりの一日にせまる誠かな筑波根や世のやぶ入か遠霞二·一二糸遊紙鳶彼岸初午西行忌白雄旬集出代密度人溫馨酒
舟かけて草の靑きを春の人若艸や乗にむすぶ古すゝきうら〓〓と草はむ春の野鹿かな萍や生そめてより軒の雨艸の戶や更行春の靑かつらふ鹿みちや韮に交りて蕗の薹おもはざる瑞籬の內ぞふきのとううどの香や岨に下駄はく山の兒たんぽゝに東近江の日和かな石原やくねりしまゝの花あざみめぐる日や指の染までわらび折早蕨や一日路ならつくばやまふせ柴の十日たちしをつく〓〓し聞からにしりぬ杉菜は土筆杉苗に杉菜生そふあら野哉水のほどとく角くみしかきつばた野の窪み水うちふくみ茅花生埜の朧つばな月夜といはまほし董董なか〓〓によき衣はぢよ野の堇菴にうつる日春ごとの野にのみ見しをつぼ菫末黑野に咲ずともあれ堇艸行や我すみれがくれの濱雀病後の吟菜の花野ごゝろや筐の小菜の花を見てかさね着や菜の花かほる雨あがり菜の花のにほひは甘くにがきかな茶店にて摘そへよ膳のむかひの鶯菜くゝだち莖だちに春の地勢を見する哉井のもとや莖だち摘ん寺泊燒野山燒やほのかにたてる一ッ鹿越わびて淋しうなりし燒野哉前書畧山燒や有情非情ももとの土春の艸一色にいろ〓〓艸の靑きかな系大書俳本日菜の花燒野春の艸出ばやな籬が野邊の麥踏に苑豆やたゞ一色に麥のはら鴈は歸鴨はいづこへ種おろしいとまなき世や苗代の薄みどり行水や苗代小田にせきそむる水鳥の歸ていづこ種おろしじ苗代のかけ水はかる五十串哉なはしろに鷗追るゝ磯田かな雉子の尾の飛さにみたる野風かなきじ啼て嵐の野土けぶるかな日や暮る尾をうちかひて枝の雉gir鹿垣に番かけ込きゞすかなもがきてや爪根あらはに網の雉そ羽やたゝで峽の橋ふむ夕きゞすふ山里や馬艚にきじの歩みよる瘦てたつ春の行衞や岡の雉子歸る膓みな菱喰に見ゆるなり我こゝろ聲せで鴈のかへれかし追聲のうしとや歸る小田の鴈明星やしめ野のひばり巢にぞ鳴たつや雲雀すこし舞そふ濱雀やぶかきや野越せうものひばり鳴地蟹追ふて追そこのふてたつ雲雀軒燕八聲の鶏を聞おらめ人住て燕すみなす深山かなはしり帆の帆綱かいくゝるつばめ哉巢乙鳥の下に火をたく雨夜かなつばめ舞宿や日高に高木履巢燕に雜巾かけし柱かな鳥の巢の明れば【暮る日數かな巢つくるやにくき烏も親ごゝろ巢鳥落ぬ木末にかへすよしもがな拭ひ椽に塵をおとす罪ありて、らいゑぬ家の子が、もろ手を指入、さしもに厚きわらの園を落したるタひばり苗代種おろしつのあ雉鳥の巢白雄·句集歸鴈
みなあらた產家に隣る雛かざり旅人の窓よりのぞくひゐなかなとくより春あたゝかにして、桃櫻や〓ちりかひみだれたる三月三日を世の雛にみな折とりそ遲ざくら家あるまで桃の中みちふみいりぬ里の桃蚕掃おろす日にあへりうちそむき木を割も〓の主かな崖の桃およひてもたゞすなをなるあかつきや人はしらずも桃の露かぎりなや堤より見るも〓の花春干浮人の步みのすぐならずあと先の小舟をちから汐干狩濱揚の牛はるかなる汐干かな歩み來ぬ岬のなりに汐干狩萬葉集の伊久里と聞へしも、今日あらはなりけり。巢はあだに軒の雀の聲高きう 照雨や瀧をめくれば覺の啼鹿垣にうそ啼里のやすみかな淺間山つなみせしあくる年、その麓を過るとて砂ふるへあさまの砂を麥うづら馬峯に舞入春のすゞめかな足〓はゆるしら尾の鷹の後哉物おもふ人に駒鳥鳴暮もがな曲水はとても日和のゑんならん歩二きよく水やまさに小貝の蜷むすび桃の日や下部酒もる蒸鰈匂はしや誰しめし野のよもぎ餅紙雛はあるがうへなるみやびかな蠟燭のにほふ雛の雨夜かななにがしの一女に對して綾にしき雛にあやかるこゝろかや彌生一日一女まうけし人の許に系大書俳本日うそ春の鳥桃曲水上巳汐干雛ひや〓〓といくり踏しる汐干かなあまのまてかた、いざ此日春の干浮に杖をたてゝ馬刀串にあはれは馬刀のちから哉花とながめさくらとながめ日は暮ぬ鐘つきを〓にかく花の麓かな人戀し灯ともしころをさくらちる行勞さくらぬしつく一木かな洛にて寺〓を通りぬけけり花ざかりをちこちの櫻に筋ふ筏かな瓶に酒いづこはあれど家ざくらはりまの國わたらひせしころ夕風や汐木のさくらちりやすき花一河を隔といふ題にて水かさや香をのみ花の口おしきちる櫻嵐に答ふことばなき酒の科家ざくらにて日暮たり引あみの磯山ざくらちるを見む借屋戶神社神こゝに椌櫻も咲にけり遠近やほの〓〓さくら風ぞなき香に花につゝまれぬ春を桃櫻春のあらしちらざる花はちらぬなり世はさくら門は鯛賣日和かな(金)奇朽木戀椌木に余所の花ちるうらみ哉東叡王のみあらか營建あるその始の日まいりて地祭や松のひま又花のひま人の奥羽に行をおくる松さくらまかせこゝろのみちのく歟ひとへ山の邊にて夕櫻夕越いざやひとへやま道の爲には旅行をすゝめ、酒に對しては杯をかくし、老がいのち長かれと切を盡せし保吉先生なくな二·五花さくら白雄句集
りて忽三歲、正當日の今日、北總和暢亭にありて、亡がら埋し一字、遙に情心こがれ飛思ひを榧寺も雨の降かに花のあめ兄の七囘忌にはる〓〓節曳つゝ奥城所拜みけるに、やとせの昔は只おもかげにのみ、初喪にかはらぬおもひ、我人にのみありてちからなき旅して花に墓參花にけぶり軒の姨なしと詠りけり朝雨や簾ごしなる梨の花雉子一羽起てこぶしの夜明哉木末踏みちに辛夷の白き哉山ぶきを喰折春のからすかな根をたゝで山吹ながるかけ樋かな山ぶきやあたらかざしのから車やま吹にくちなはを追旅人かな大和のくにわたらひせしころ、高取の城ちかきあたりにて山城や紫つ〓じかぎりなき片岨のつゝじとぎるゝ嚴かな嚴今さらに蔦あさましや岩つゝじ藤咲や號の觜も末の春物がたり讀さして見る藤の花藤さくや人もすさめず谷の寮月かすかに犬なとがめそ夜の藤しら藤や月ほのかなる山の兒笩くむ夕暮藤の落花かな雨の降日にひろいけり鹿の落角影や見る水やのむ鹿の角おちてゆく春や鄙の空なるいかのぼり葉櫻に山こゝもとのはる深し明日よりは身を夏旅の今宵哉已下不分題先ゆくも歸も我もはるの人餅酒に慍じて春の野づらかな系大書俳本日つゝじ藤梨花鹿の落角辛ニ夷暮春山吹美しや春は白魚かいわり菜こりずまの世に聟ありて水祝春の水藻臥の蜷も得たりけり風ひとふき酒にけぶれる松の花松の花柳の花は手にもとる庭中にあるじ酒くむ接穗哉古き代のみちのく紙やかみかいこ圓光大師御忌遠霞智恩院の鐘かすむらし煤ちるやはや如月の臺所鴈小屋のあらはになりぬ別霜簑市に誰〓みのを春の雨保吉を悼逝し兒を生殘る我をなげく哉三月三日、この人のうせし日なればこゝにひらふ。聖護院御峯入、此春ありしと人のいふに峯入やおもへば深き芳野山みね入や篠にかぶるゝ道ありと師の單忌、鴫立澤にありし頃ぎおもひ出てさし木の五加木摘日かな淵の水深きはふかくぬるむ哉春の月山椒の皮にむせてけり朧夜や誰か寐て行鹿島舟鳥雲に入て松見る渚かな春詠都三百二十句白雄句集三十七
靑簾薄くれや酒けしめさる靑すだれうら表おもてはわきて靑簾灌佛雲の步み水の行かたや佛生會灌佛や門を出れば茶の木原一聯二句御父の名はおろ覺佛生會御母の名は人もしる佛生會灌佛や芍藥園を見すかして夏籠夏にこもるこゝろは簾ひとへかな鐘つきの妻にすゝむる夏花哉何となく夏にいる人を見られけり短夜みじか夜や直宿袋のあげおろし明やすき夜を泣兒の病かな夏の月みかき葉は椿なりけり夏の月くちなはを踏しはたが子夏の月町中をはしる流よなつの月ほとゝぎ起臥のこゝの夜待ぬ郭公す弓とりは弓持てきくほとゝぎす白雄句集卷之二碩布著靑簾系大書俳本日灌佛夏之部元日の舊服、今日に至りてなを垢つきたり。しかはあれどもわが菴中俳諧にとめり。更衣簾のほつれそれもよしかへるさや胸かきあはすころもがへ衣がへぬき簀の水ぞいまめかし袷着て卯の花折んこゝろかな馬とりの込に入けりころもがへ楚川がよき衣めぐみたるにあたらしき袷に今朝のあさ日哉綿ぬかん〓〓とて四月二日かな伊勢の留主に招れてたがはじな此日を〓のころもがへ更衣夏籠短夜夏の月夜の灯やこゝも住よし時鳥あはれさの鷄鐘が中ほとゝぎす子規なくや夜明の海がなる舘の灯を待夜のちから時鳥鴫たつ澤にありしころ思ひよる門の榎やほとゝぎす黑燒にせしは何もの子規草菴に松檞植けるころをとしくるはわが松風やほとゝぎす碓氷峠にて鄙曇かならずよ山時鳥あたみ入湯有明や初ほとゝぎす〓ぶね朝みどり庫裏の窓より時鳥馬に鞍こはたが夜明ほとゝぎす品浦海晏寺江を採て似あはしの山ほとゝぎす國中やかけ時鳥厚木川謝尙なら眞似て告んに時鳥啼らんと思ふ空八隅ほとゝぎす八九間鹿の子見送る林かな草の葉に見すく鹿の子の額哉艸の原何を鹿の子のはみそめし夜船とは僞ならしはつ松魚夜松魚に裾ぬらしたる內井哉三桃ぬしを携へし雨石老人の東武行は、やよひはじめになん參りあはせて、むまのはなむけせしが、ともに長居の老人は江戶に、我はしなのに、此日井〓亭をとひて、噂盡べくもあらずなりけり。嘸くさめ嘸ほとゝぎすはつがつをなけば啼ふたつの山のかんこ鳥閑古鳥世は山鳩も啼頃か白橿を花に啼かもかむこ鳥しづかさの啼もそこなはず鳴鳩鹿の子松魚鄙時鳥白雄句集閑古鳥
うの花や笆を見こしに夜の海榊とりうの花を折兩部かな卯の花や折ての後のうら表かしは山夏の嵐をうち見たり馬門亭人の知る曾我中村や靑あらし沙川や梢をあはす靑あらしぶ山の邊や天蓼拾ふ靑嵐花げしにくんで落たる雀かなけしの花見て居るうちはちらざりし花げしやうしろさびしき階子賣罌粟の花十日たちけり散にけり竹の子の葎の雨をかつぎけりわか竹や牛のゆく筋あらしふく甲斐·しなのゝ國さかひを過るとてしcも白橿や篤竹原はわかばせしあぢさゐやかれにうらやむ花あらん紫陽花のすぐり寄たる荅かな閑古鳥啼林より落羽かな園くらき夜を靜なる牡丹かな散さまや牡丹のぬしの物いまひ牡丹花老人賛牡丹袖に連哥戾りとしられたり三河の國わたらひせしころ古道のかきつばたとふ日ぞ長き雨のほどけふを葉のびの杜若雨に人たちもとふるやかきつばた芍藥や四十八夜に切つくす荅なき芍藥園となりにけり人の京にゆくを送る世はわか葉氣相のわろき日はあらじ見ありきて先問椰の若葉哉國ゆたかに見ゆる若葉の關路哉若葉して瀧のありたきところ哉樹〓のこゝろ若葉に遂し氣色哉むかばきに卯花かゝる雨くるし系大書俳本H牡丹靑あらし燕子花罌粟芍藥若葉竹の子わか竹紫陽花うのはな八專のうちぞともいふ五月雨五月雨やひと夜嵐のかへし雲さみだれは時雨むらさめ夕立のそらのげしきをつくしてぞ降五月雨の音を聞わくひとり哉もたれあひ〓みなもろかつらさみだるゝ草菴客をとゞむ君しばしさみだれの中の夕立ぞ軒端の松の、雨に嵐にみどりうしなひたるをさみだれや枯なん松に普門品焚火してもてなされたるついり哉入梅の明遠かみなりを曆かな入梅のひま鼻とをさるゝ犢かなやすみしろしめすみつば四つばの殿づくりのためし多かる中に、此日あやめのかづらかけざらんものは、宮中へ入をゆるし玉はずとや。是に傚ははゞかりあれど、佳二八一鳥醉居士之墓あぢさゐのかはりはてたる思ひかな實相無漏の大海に五塵六慾の風はふかねども、隨緣眞如の波のたゝぬ日はなし。藻の花やみがくれてだに風さはぐ水たゝへて水草うつす小沙彌かな束鮒の刈藻にうごく門の月うき草や同じ嵐のうき根茨老ふたり花たちばなに醉泣す廣橋にかたちつくりす夜の軒母の五十回か奠るも、たゞに命ありてよと身のつゝがなきを歡ては、乳房をしたひし恨も散ずるばかりにをぐるまの死なで母吊ふさつき哉綠毛龜の蓬にこもる五月かな假そめに降出しけり五月あめ水艸橘入梅白雄句集おのそ五月雨
世はあやめそけてひと日は花かつみむつまじのあらむつまじの軒あやめくらべ馬髪づらは老もわかずよくらべ馬むつまじきつねをば何とくらべ馬思ひよらぬ哀を見るも、うき旅のならひならずや。火串もえさしの火串に鹿の血かな火串ふつて獵矢をそゝぐ小瀧かな獵の男が弓、蜘の綱.ともに飢をたすからんはかりどにこそ。艸菴にけふの糧をたくはひしかば命毛やわれは網せず照射せず伊勢にて田植御田植の酒の泡ふく野風かな捨苗や田中の菴のはいり口鳧の子を野水にうつす植女哉早乙女の蓑かけ柳年經たり早乙女のうしろ手しばしタ詠節のホ句せざる者に、〓扉を訪〓となかれと戯てかはる〓〓五尺のあやめ袖にせよ軒あやめ市に牛かる思ひあり塩竈にさうぶ葺居る童かな家くにながき根ふきわたして粽めくもの持ありくにぞ、深山の柏葉も時に逢へる此日なるべし。篠かしは葉どに露の節句哉草の戶や粽をほどく夜の露長〓〓と肱にかけたりあやめ賣菴の作事半なるころ旅に在て小菖蒲に素建の我家なつかしきさうぶ湯やさうぶ寄くる乳のあたり世をまゝに隣ありきやさうぶ酒麗水堂に朝祝の酒、よきものさかなあざらけきをたうべていざやとて燗酒に交し菖蒲酒〓扉を訪〓と端午火串田植木のもとや松葉にちぎる田植酒早乙女の葛葉ふみこむ山田かな傘さしてふかれに出し靑田かなかはほりの夕を宜禰がつゞみ哉かたつぶり落けり水に浮もする山齒朶や寸にあまれる蝸牛煤茅にすゝけておかしかたつぶり飛やほたる夢人を訪夜の露むら松やきえんとしては行螢夏は夜と汝が〓とか飛ほたる松の木や今日は朝から蟬の鳴夕蟬の筏木に鳴ふもとかな蟬鳴てくるしやみのゝむらかはき蚊遣り火のけぶりの末に鳴蚊哉竹切て蚊の聲遠き夕かなしばらくは高きまくらを〓の月蚊のさすや蚊火種ひらふ指の股蚊に酒を吸さん夜半か蚊屋の月ひとつ〓に僕も朝寐の枕かな下京やかやりにくれし藍の莖子をうしなひたる人に蚊屋の月亡子かへせと泣おらめ油火に蚊とはいはずよ夏の虫水鷄艸しげみくいなの道に鎌入ん遠近のいはぬ夜を啼水鷄哉鵜の觜に魚とりなをす早瀨かな數の鵜に鵜匠ひとりの目面哉かはせみ翡翠の筑波おろしに吹るゝ歟中絕し橋を翡翠の小楯かな氷室世の貢多かる中に氷のみつぎ雪の中の筍より、水無月の貢、鬪鷄野と聞も遠きにあらず。朔日の御內わたりや夏氷雲の峯雲の嶺白きはうそのはじめ也雲の峯きのふに似たるけふもあり川狩川狩や〓の腮さす雨の篠二五靑蝙蝸田蝠牛夏の虫水鷄螢鵜蟬氷室蚊白雄句集雲の峯川狩
か日の前の浮雲暑き蔭りかな猶暑し簀干の魚にはこび雨悼兎石此界は暑し〓〓との眠かや麻刈の麻きぬあらみさればこそ夕立や流れ出たるむもれ水風そひて夕立晴る野中かな蜷のすむ數さへ見ゆるとは師が遺章になん。さるをこのほど滯留なす福正蓮社に、一筋の流いと〓きあるを朝夕や戀る〓水の蜷むすび何なりと一木ありたき磯〓水兒あふぐ扇の箔もまつりかな樹〓深く祭のあとの野曲突哉ゆふがほに阿兒と呼子は女なり夕顏や花の上なる籠り堂窓のけぶりすゝけの花と觀じけり川がりやその夜〓〓の月四分ゆかしとや人見む合歡の下すゞみすゞしさや藏の間より向島梳る人もありけり門すゞみすゞし江に〓をうつ竿の露蜀黍のもとにかたろふ涼み哉しき濤や杖一節の海すゞし舟行まゝの富峯、市街にかくれたるをうしろ凉し筑波はかくす家もなし為なばた舷に蓼摺小木や夕すゞみたかむしろ酒したむ事を禁じけり行水にうちまたがせよたかむしろ片手綱馬上に扇見事なり明てしれ淺黃うちはに夜の露唐人の〓に風かほれ唐とやまとの墨の色虫干や菴に久しき松ふぐり暑凉麻タ立簞〓水扇祭タ顏熏虫風干葉がさねのひさごの花や石の露夕兒や花の爲とてうえはせじ晝がほや日のいら〓〓と薄赤きひる顏やわかちて擔ふ魚の露白蓮に夕雲蔭るあらしかな或ひとのもとに荷花ある事を夙に起て蓮見ん爲ぞ夜訪し蔓ながら都へなどか初眞桑瓜の香にきつね嘘月夜かな祖師堂にふりの香籠る曇哉たゞこゝろ門の流も御秡の夜雨にあひて海川や御秡のあとの雨の聲賀茂より七條の僑居に歸るに川ぞひを戾るもよしや御秡の夜箱けしてそれも流すか御秡川不分題艸木くるしくも雨こゆる野や夏蕨訪ぬ人も葎の宿にかぞへけり蟻のより釣鐘草のうつぶせに山百合や齒朶の間より一ッ咲熊野路にて三句葱冬の花うちからむくまで哉は濱木綿の花はいつさく夏刈す西日さす濱は柴胡のしげりかなむら雨や見かけて遠き花樗梅熟す折にふれたる曇かな葉柳の寺町過る雨夜かな岩はなや旅人勞ていちご食ふ花柚水にうかべて晝の簾かな歩み來ぬ早瀨はあとに夏木立下闇や椎の葉がさね艸もなき桐壷の賛さ桐の花翡翠のすだれ猶あらん山高み、二國の境に立せ玉ふくまの宮拜み奉て歸るさや、盤桓すれ二八%畫がほ蓮瓜御秡白雄句集
蚊食鳥とてもくらはゞみなくらへ雜題木颪より舟を浮む舷や年は四月のわかれ霜笆ごしに靑さし匂ふやどり哉凶年を悲みては膾炙口に苦く、有年を悅ては雜食口に甘し。麥の靑さしをしいたゞきぬ掌旅人に旅びと見せよといひけんも思ひあはすの折から、紀枝なる者靑樽を携來るに、我人興に入て冷し酒旅人我をうらやまんなき母の爲とかける笈摺のうしろさま、いとあはれなるに夏旅や母のなき子がうしろかげば上毛、流憩すればしなのゝ山〓、眺望ひまなき至景なりけり。御愛樹のもとにたちてしなかみつけや級木はしなのにしげみけり葉櫻におくれ詣のこやたかな合歡の木かげ人も日に〓〓夕なり不分題鳥大樹公の御船うかべさせ給ひしは、きのふと聞、綾瀨川にて鶴一羽御狩にもれていく程ぞ不破にて拔松風や關はむかしに羽秡鳥とやたかといふ事を鷹に聲なし雨にたれたる塒筵ひとしきり竹に柳にぎやう〓〓子きいたすさまじや雀の甕あらしふく都〓鳥や木曾のうら山木岨に似て沙鷄の聲人あきちかくなりにけり夏詠都二百二十八句白雄句集暮ぬと入相の鐘、いり逢のかねの聲ぞきこゆる。鐘の聲かねの聲桐の一葉おつ一葉二葉のちは桐ともいはぬなり渡る瀨にあらしの桐の一葉哉音すなり筧の口のきり一葉うつせみの空敷からは殘りけりきへてあとなき朝がほの花なにと見む桐の一葉に蟬の売七夕や桂に寄ば月落したなばたや蚤に目覺て夜の閑ばせを葉に覺しほどを星の歌宵〓〓に馴しかこの夜天の川天の河星より上に見ゆるかな旅につかれて宵より寢、あかつきの星にかこつ。なにとなく曇て星のわかれ哉天の川野末の露を見にゆかん二八七いり逢のかねの(수)卷之三碩布著桐一葉秋之部梅牡丹萩おとらずも秋のたつ馬買の小笠に秋の立日かなはつ秋や片筈かけし舟ごゝろ草よ木よ今朝秋たつと人の言日に枯たる軒の小艸もいとわづらはしきを、むしり捨たるきのふは過て、花は覺束なくもひこばへ刈草の蘗に秋のたつ菴はつ秋や誰先かけし筥根山秋立日雨の降けり萱が軒病後つれなしや秋立ころのあぶら旱山寺の入相の鐘の聲ごとにけふも立秋七夕白雄句集
むら露に艸のもとすへ見ゆるなり露ちるや門は葎の籠つくり題樂山子遺章露なき友は一とせ先の草の露いなづまの衣を透す淺茅かな暮ぬとて稻妻落す古江かな稻妻や曦まぎるゝ宵の門いなづまの闇にかぎらぬも哀なり稻づまのおそろしうなる獨かないなづまやうしろになせば江に落るな稻妻に匂をつけし魚藏かな稻妻や障子さしたる虚勞病いなづまや何れ磯家は淺間なる稻妻やとゞまるところ人のうへ世ははかな雷光石火酒酌ん朝六や誰も通らず秋の風底秋かぜや蔦もたのまず濱屁吹盡しのちは草根に秋のかぜ星達の濱に杖曳て天の川うちわたりしは、はたとせまり一とせになん老せまる事このひまにも一むかしなるを星ひと夜昔にかへれ伊勢河內萩が花尾ばな葛花撫子の花女郞花また藤ばかま朝がほのはな秋海棠星七艸になどもれし友なる雨石老人、七月七日の夜身まかりけるよし告こしけるに、なみだこぼれて星の夜を臨終とや空をうち見たり酒くまむあまりはかなみ枝の露土橋の露ふみこぼす艸葉かな草菴閑露かくのごとく窓より傳ふ葎かな朝露や砂にまみるゝむら小艸釣人や聲だにたでず艸の露系大書俳本日稻妻露秋風こもり江や嵐のあとの秋のかぜみちのく行脚のころ兩足山にて門に入れば僧遙なり秋の風初あらし夜半晴て砂利の高さよ初嵐に子流れ出る埴土水や初あらし莫みな子なり靈まつ門に草箒身に覆ふ齡につるゝ盆ごゝろ魂まつり貧家の情ぞま〓となる旅中 二句山かげや寐ぬをこゝろの魂祭みの笠や我魂迎ふ宿は是友なる鷺白が小萩にそへて、莞艸をおくりしまゝに盆ごゝろうきわすれ草えしかども魂まつや柱さだめぬ宵の宿たま待や石町の鐘のひゞきさへ魂むかへまち得顏なる我人や市中にあれ是見ありきて先匂ふ眞菰むしろや艸の市從弟どち月にかたるや玉祭先師、品川の菴に在せし昔なりけり。むがひ火や上總へむけば月が出るかく古〓をしのばれし事先おもひ出ぬ。我に師あり、親あり。三人をさきにむかふるこの夕や、そとふく風も身入はべる。去年の秋も旅にありて、みそはぎの一枝を五(〓)果百味にかへつゝ、今年も信農のくににありて、人の田圃の早よねや靑そばや、手をれば麻がらの箸も有。ちぎれば蓮の浮葉もあれと、亡魂迎ふる旅のあらましをしばしもとなき魂やどせ艸の露迎火はとりわけ娑婆の烟哉袖や覆ふ雨の迎火見へざるはむかひ火や父のおもかげ母の顏二八九靈莫白雄句集
洲の松のはづれをこゆる玉火哉稻妻に花火はしばしたもつかな夜は秋のけしき全き花火哉あさがほに瘧のおちし內儀かな朝がほや垣にしづまる犬の聲蕣に簀干の魚も見て過ぬあさはものゝ朝がほの花もあたらしき花むくげたつ日の早き思ひありめくら子の端居さびしき木槿哉雨そゝぐ岡の小家や花すゝきゐのしゝ猪をになひ行野やはなすゝき空くせや尾花がすへの猪子雲一むらの尾花これあだし野のありさまなり七條の僑居に住しころ、先のあるじが植置し籬がもとの風情を萩がきに萩咲そひしいほりかな里うとし小萩が上に榾木つむもたれあひて一枝うごく軒の萩土べたに辛子さめけり盆の月ひ魂むかひこゝろ碓氷を越る夜ぞこの一句は師が身まかる年の古〓行脚せし反古の末に見へけるをうき我に誰〓まつる生魂ぞ塩魚の塩こぼれけり蓮の飯燈籠みなきへて梢の燈籠かな露けしや高とう籠のひかへ綱中庭の簾見へすく燈籠かなうす紙の灯籠にてらす草葉哉門守の油つぎたせ軒燈籠おどる夜を月しづかなる海手哉ある人のまぎれて入しおどりかな嵐雪がその唐にしき角力見ん西東あはぬ角力ぞあはれなる甲斐なしやうしろ見らるゝ負角力小手袖の昔にならヘ艸角力知惠もなく舷てらす花火かな川面や花火のあとの梶の音生身玉朝がほ燈籠木權すゝき踊相撰萩花火芭蕉露はれて露のながるゝばせをかなばせを葉やなにをちからに袋蜘やれ芭蕉こゝろ此ほどものぐさき壁の蔦甲斐なきばかり雨悲し雨の聲淺茅の小蔦水こゆる松がねの蔦に身をする猪子哉美しう蔦はおとろふ人の秋おなじながら稻葉の露ぞ潔き稻の花あらしの旬もはや過しいね刈やのぼれば下る舟よばひ粒〓辛苦の種まく日よりも、雨風をいとひしこゝろ盡しをかけ稻やあらひあげたる鍬の數秋草不分題さや川を下るころ高水や蘆の白穗に雲おこるあるが中に野川流るゝ女郞花蔓艸のつんつと秋も二十日たつ對門人こと〓〓に我もしらずよ秋の艸山ふかみちるか凋むか葛の花きのふけふ葛葉にあらし吹〓とよ蘭の香に老も若きも寐覺哉立出て芙蓉の凋む日にあへりこの秋もわれもかうよと見て過ぬ古寺鳬鐘埋地といふ題犬栗や鐘は穗長の地におちし末枯や坪前栽も世のどくきり〓〓す嗚止て飛音すなり兩隣寐て月夜やきり〓〓すろ)ミ寐もおしき夜や木槲にきり〓〓す蝙蝠に鳴かはしけりきり〓〓すきり〓〓す糧きる嫗にうたるゝない我見しよ著預を喰居きり〓〓す薯病中〓ふんで霜の宿せうきり〓〓す二九ル蔦稻きり〓〓す白雄旬集
鷹飼も出したのむの田づらかな食てはこす世を八朔の日和哉八朔のさぞ稻雀竹にさへ小夜中や野分しづまる夢心水寒し野わきのあとの捨筏艸の原きりはれて蜘の圍白しす篇のしの家霧のかゝらぬ日はあらず霧の香や松明捨る山かづらaf人戀し杉の嬬手に霧しぐれ秋ぎりや簑きるばかり降しきる朝霧や晴るに間なき山のきれ秋の雨あらしは宵の事なりし蕗の葉や馬もくらはず秋の雨敷藁や艸もえ枯るあきの雨自他共白骨野ざらしを見て通りけり秋の雨なり瓢といふものありて、風月の擔ため騒人めづる。何ぞ許子に荷膽あがたいこうろぎ縣井やこうろぎこぞる風たまり蝉や一夜宿せし齒朶屏風虫いろ〓〓嗚夜や宿にいとゞ飛日ぐらしとし四十蜩の聲耳にたつ暮の雨日ぐらしも鳴ずなりにけり蛉秋の季の赤とんほうに定りぬ蜻蛉に波の蔓艸亂るかな虫の音や月ははつかに書の小口草むらも艸むらも虫の記音かなしし みち鹿道や踏れんとばかり虫の鳴聲さゆる虫は何〓〓銅たらい艸菴閑我あみ戶籠ぬけの虫をやどしけりみの虫よなかでも秋のすがた哉寐られねば、うき事ありて枕になatio夜ながさや所もかえず茶立虫朔八朔や旭のいろをたゝへ潮系大書俳本日野分蜻蛉霧教の風秋の雨八朔せん。拭磐室中雨瑟くたる日なりけり。さかづきをひだりに、秋風の鱸魚を右の袂に、そのしたゝかなるを負もて來れる客あり。かならずかの坊にこそと、想ふにたがはざる括嚢老仙なるを淺からぬ瓢をいのち秋のあめ待宵やひとりしぐるゝ芦屋釜ト者平澤氏、我軒つゞきに居をうつしたるをうb晴曇月まつ宵のトたてよ中橋と京橋との間に菴造せしころ待よひや何れの橋に乗せん貫之の〓水にたてよ駒迎放生會この夜鵜川も月夜なり松高し月夜烏も放生會嫗捨や松島やこよひ菴の月名月や眞空になりて露くだる名月や建さしてある家のむき名月や夜網引かの芝さかな〓捨や松島や廣澤や石山や須磨や明石や黑戶のはま、むさし野はほどちかみ、〓き渚ははるかなりけ봉名月や眼ふさげば海と山名月や降らば降とは常の事雨塘が午明樓上月ひと夜出汐の森は忘れざる澪竹におもひぞとゞく江の月見長傳老禪師の隱室に遊ぶ世は八重に捨し主と月こよひ網引せし跡しづかなり浦の 月宵のほどくもりしかば月にそふ雲のみわたにあらしかな良質問おもへとや月滿雲の底あかり多摩の橫野ちかきあたりに宿かりて、五歩十歩月のかげわづかにゆ二·五待宵駒迎旅工藝白雄句栄月
秋凉し月見をちぎる松がもと良夜蝕の夜雨蝕に雨に二夜の月を年ぞかし月に影沓かむ駒のつかれかな〓賛名月や影四ッ橋の橋ばしら春鴻が信中へゆくを送る月姫捨目出たき影をいのるなり貞德老人の天鵞絨の枕は名だゝる風流にこそ。をのれ病ふにふしてこの夜床をはなるゝ事、わづかににじり出たるのみ。まくら肱に膝にせんかな月ひと夜その名だゝるをむさし野にぞ、てをしかけやむさし鐙や月すゝき雨の聲いざよひの宵寐友あらんくらふ夜やけしきばかりに月かけし秋旣に鴈の行かふ江の月夜系大書俳本日野を堅に野を橫さまの月見哉述懷今むかし月はしらずも澄夜かな照月の月やうらみん夜蛤人〓〓光をいふが中名月や闌て琴かる周兩月こよひ爲にとならば竹きらん地陰〓さだかならぬこよひを訪ける人〓に對して月に凝月にほどけんこよひ哉名月や芦のひと夜を蓬庫舟もよひなど聞へしも、おぼつかなき空のやがて雨降出ければ、我菴に頓の客まうけして爰を舟とおもひ給へや雨の月月晴なん雨に傘せで客來けり榮路·山暉同舟、深川五本松にて旣望雁た同じとを添水の繩や人の上落る日に影さへうすきか〓し哉日もなげにをどし作るや月明り虫送る夜や先にたつ鳴子引網の目やうきあかつきを鳴鶉土佐光廣の〓に鶉日にうれしさこほす義かなBiしらず我番て見ぬを片うづら漆搔あたまのうへや鵙のこゑ藪かげや卵のからに鵙の啼鴫たつて暮の焚火のもる夜哉鴫たつや凡夫家路のいそがるゝ夕鴫の淺瀨にたてる一羽かな人稀に鴫啼て我夕かな毬栗の簑にとゞまるあらしかな澁柿や觜おしぬぐふ山がらす牛の子よ椎の實蹄にはさまらん枝の柿烏は追はずさりながら二九號初鴈やみつよついくら山のきれうなひ子どものうた唄ふをきゝてかならずよ跡なる鴈が先になるあの男ゆかばたつべし小田の鴈淺茅が原にしるべありて、ひと夜を膓が啼君が四阿關屋かなあ3串やしら濱や落ざま影を月の鴈番鴈の面に風ふく芦間かなしるしらぬ里なつかしや小夜砧相撲取も聞居る宿のきぬた哉人や住桃のはやしの小夜ぎぬた遠きぬたこの川越ん橋もがな淺茅が原闇き夜の紙きぬたさへ秋ぞかし早稻酒にものゝゆかしき在〓哉早稻酒に垂打ばかり醉てけり山畑や笊もむしろもをどろかしうづら鵙きぬた鴫白雄句集木實豆腐麵鳥懼
夕紅葉この川下は薄かりし伏龜が眼病を秋は紅葉眼にはれよ霧はれよ正方的門に入て紅葉かざゝぬ人ぞなき不二晴よ山口素堂のちの月老きはる人は誰〓後の月後の月宇陀のむかしはいく昔台嶽の鯨音、風翔て友みな歸りぬ。室中の甕いまだ盡ず。關てひとり見まじきは月の夕殘哉江都のならはし、かならず蚪蛤を賣歩行にぞはまぐりはそだゝぬものよのちの月草菴の隣に、黄なる聲のものしりのくすしをはしける。素堂老人のふる句と、人いはゞいへ。ごもろこしの書かた寄よ後の 月尾長啼澁柿原の雨氣かな戶隱山にやどる澁柿にしのびかねてや猿の啼茸がりをうらやむ旅のつかれかな紅だけに山口しるき芝生かな打杖に毒ある菌さくきかな伐株や米かし水を茸つくりなつかしや楓苗ふくきのこ山三味泉に松のかつらや菌狩ものゝ音秋は露さへしぐるゝか火ともしの何もかぶらで露しぐれ露時雨しぐれんとすれば日の赤きき山風や世を鮭小家の影ほうしさだめなや尾つれの鮭の死所中な落鮎のあはれや一二三の築石おこす人をやうらむ魚原鳴浮雲の紅葉に晴る尾上かな暮さむく紅葉に啼や山がらすな系大書俳本日菌后の月露時雨秋の魚紅葉後の月わきて古人をおもふ事へだゝりし人も訪けり后の月旅中后の月稻垣低き宿とりぬむさし甲斐が根行脚せしころ山ひとへ二夜の月や甲斐武藏秋の夜を小鍋の鯲音すなり長き夜を葉ずれに摺る軒の石蕗傘に鼠のつきし長夜かな燃しさる火や細ごゝろ夜半の秋長夜や礒の匂ひのものにつく秋の夜や秋のあはれは晝よりも建仁寺の見鐘は、子の刻にひとつをかぞへ、陀羅尼よみ〓〓卯の刻を百八の數のおはりとす。ほとゝぎす啼ころすらましてかなしき。秋の夜や忘れさせては陀羅尼鐘身ひとつはかねて夜寒の枕かな憂小夜あらし、うすき蒲團を透す。うぶ髪の古〓遠き夜寒かな思ひ佗ころは夜寒の簀垣哉病中ちぎれ〓〓ものも思はず秋いく夜牛の子の鹿見て迯る月夜かな閑にたへて酒酌ば月鹿も啼鹿の跡見よや葛葉のうら表聲くらし晝はわかれて鳴鹿か行鹿の萩にうたるゝ野風かな追るゝとしりつも啼か畑の鹿絕ずしも濱へ下りしか月の鹿山家にやどりて鹿啼てま〓とがましき旅寐哉次の朝小萩がもとに杖をたてゝ曉がたに聞し鹿かも蹄のあと江都にたらぬものなしといひけるに戯れて鹿白雄句集二九七
節の菊は、紫句へるうすぎぬうちかけて、なか〓〓に隱逸のさたにはあらず。けふの御遊も思ひやられて曉や菊の露ちる御幸町この日の菊、瓶に滿りけるをよろこびて艸の戶や隣〓〓のはこび菊勢南一葉菴にありしころ、なる桃の一枝を惠れつゝ、けふの花にさしそへて酒酌けるに桃に菊けふを廬生が現かな台嶽にて儈が供地すりに菊を提し病中菊や咲我酒たちて五十日露の音菊の障子にこの月夜雨蕭瑟たるばかり、處明山人に訪れつゝ席上の作ありて、花紅楓江都に鹿啼山もがな里の女の木履をかしや鹿の啼僕ひとりは持たれど風塵中に栖〓たるを宿の菊と名のるよしかな田三反黃く白く粧東籬菊咲て花ともいはぬあるじかなきくの香にそむく心もいづるなり酒造る隣に菊の日和かな白菊に北の御園は暮にけり黃に咲ぬ酒卸ゆく門の菊殊更に作らぬきくぞ九日なる醉臥ば何の夢見ん宿の菊養菊の老はとく來れども、艸菴わづかに履ぬぎのみ。この日客あり、客に對す。菊提て君老をとふ姿なり何某の宮·何がしの君より給ふ佳系大書俳本日菊曉町提しも一軸·一瓶の稱嘆にあふ。酬に〓と葉なし。薄酒の興をまうけて菊の酒にちからある日の雨寒し城うらや小さき牛に梅嫌梅もどき花屋の柳哀れなり梅もどきある人に花を問れけり鶴をりて人に見らるゝ秋の暮日の色や蓬ふかるゝあきのくれ秋の暮髮生て人に問れける鴫立澤にありしころ澤蟹のあゆみさしけり秋の暮氣のつけば馬も通らず秋の暮わけもなや虫齒のおこる秋の暮大寺や素湯のにへたつ秋の暮蓬生や人に聲なきあきの暮語れかし秋のゆふべの簑作り洛にありしころ、僑居のさまかくのどしと、友どちのもとへ申つかはす。小菜一把薪盡せし秋のくれあ行秋に〓のしら干哀れなりゆく秋やから板敷に風がふく行秋の草にかくるゝ流かなひまの駒西へひがしへ行秋歟鏡の聲ゆく春よりも行あきぞゆく秋や情に落入る方丈記已下不分題秋日和鳥さしなんど通りけり秋日和しるや河豚のつれあそぶ羽をかへす唯鳩に秋の入日かな秋篠に朝風わたる 堤かないそ山や茱萸ひろふ子の袖袂荒藺が崎を過るに通し鴨入江の秋をまち得しか觀世音たゝせ給ふ吉見の里か過るに、さきの年師とゝもに一夜をあ二九九行秋梅もどき秋の暮白雄句集
三〇〇かしつる宿の柱、處からわきて昔のしたはれ侍りて宿の秋我泣なみだあやしみそ淺間山の烟いぶせくも、みやはとがめぬと聞へしにことかはりて山つなみとかや、吾妻一郡の里〓〓馬、人流れうせぬと、追おひに告るものありて、まち〓〓噂こゝろならずも、そこの門人をかぞへて文の奧に生はとく死は歷て〓よあきの水下毛無畏山普門禪寺眺望階ひと歩〓〓に秋のけしきかな簑なるや聖かたしくあきの霜大家に旅して〓のわかれかな〓のわかれ未し〓〓と老ぞゆく病中冬瓜汁空也の瘦を願ひけり葉生姜や手にとるからに酒の事九月朔日伊勢御近宮今朝の旭はつ日に似たる御迁宮同四日あずたはこぶかんたたた奏運神寶さぞ御せん宮さぞ御せん宮秋詠都三百二十八句宵暗を時雨わかるゝ小舟かな芝うらや時雨て歸る牛の角時雨るや舟まつ岸の戾り馬旅中刀根の二瀨しぐれわけたる渡り哉猪に誰かけられし夕しぐれしぐるゝや鹿にものいふ油つぎ椎柴に間なき時雨のはこび哉見てたつやしぐるゝ櫓角やぐら琴箱を荷ひゆくなり夕しぐれ台嶺の鐘新に出來けるに今年きく上野の鐘も時雨けりよそ事にのみおもひしが、罪あり一九九五車來が八丈孤島にゆくを送とて流人船實に時雨て見贈りぬ年のほど十夜詣と呼れけり樒賣家も十夜のともしかな三〇〇白雄句集卷之四碩布著冬之部馬巷に春秋菴ふたゝびなりぬ。詞友の丹誠大かたならぬを、この日わが二翁につゝしんで告す。初しぐれ艸の菴にてはなかりけり一袋松かさ得たりはつしぐれ宿の時雨さつさ時雨とうたひけりはつしぐれたがはぬ空となりにけり草菴のさまを三しぐるゝや脚折鐺を炉にかけて軒端の一木、やゝ二とせの星霜を經たり。松のほど時雨の楯となる菴行しぐれ簑着て追んおもひあり白雄句集十夜
まんの門葉、聲をあげ聲をのむかなしみを、難波の芦のふしの間にこめてん。おもふにむかし今月今日この日數の故人をおもふしぐれかなしぐれの句もて奠る事歲こ年〓時雨行日をおもかげの翁かな( )也蘗禪師の〓に松島をよく見て句なき翁かな武野中毛呂の邑長橿寮の碩布が、あるじして蕉翁忌いとなむ日、行嚢に藏したる遺像を壁にたれつゝ、其德光の一燈をかいたて、謹て諸子と風運をいのる。擔ひもて毛呂に翁のしぐれかな靈まつや嘸かた〓\ヘ我翁凩に笠一蓋もほだしなるこがらしや潮ながら飛濱の砂こがらしや礒の水艸も盡ぬべし達磨忌達磨忌に見やる經師が障子哉達磨忌や寒ふなりたる膝がしら達磨忌の口とりは昆布に山椒かなだるま忌や沓ふみきりし筥根山初祖正當日、ちかき友を招く。今曉〓とのほかに寒し。、朝六や啜りあひたる納豆汁月は花はけふはしぐれの翁哉つき哥のこれぞしぐれの物語祿元錄の正風を世にひろめおこなはんとおもふもの、われのみかは、すくなからずといへども、ひろめおこなふにたらず。唯この翁にあるとを霜ときへてきへぬ翁のむかしかな(株)元錄や見ぬ世語を降志卷去來あり、丈艸あり、其角はいが山の嵐をうらみ、嵐雪の旅行には不二をだに得見ざりしと。芭蕉忌こがらし木枯や市に業の琴をきくこがらしや大路に鷄のかいすくみ木枯やいづことまりの柴車猪の篠根堀喰ふかれ野かなわ馬附の琴佗しらに野は枯ぬ馬の跡枯野の野越いそがるゝ七ッ子に逢ふて淋しき枯野哉仕合のうしろ風かな野は枯ぬ擔ひゆく沽鯛のぞく枯野かな小ともしや枯野の末を人の行Cafe地車の轄ぬけたるかれ野かな龍膽の何おもひ艸野は枯ぬ旅寓艸かれや風空ざまに脊戶の山いちはやく枯てや折る芦のふし草かれや鷲の居りたる濱庇艸枯に雜炊すゝる樵夫かな風の木の葉行さま一葉摑ける椋の落葉宿に磨ん物もなしそむき見れば木の葉曇の林かな夜の音木のは身を刺おもひありまかすれば落葉にせまる戶口哉日に悲し落葉たゞよふ汐ざかひうら表木の葉浮べるさび江かな村落葉鷄ころす人若し沓につく霜の落葉や朝まだき此ほどや小蠅なせしも霜の道何に身を寄すともなしや霜の鴈鶴見橋上朝夕や鶴の餌まきが橋の霜兎明樓海かけて霜の晴見る檻かな鐘の聲霜を知る夜の眉重き夕霜の眼には見へで老が膝燃てたつ燐に霜のけむる哉鬼齒朶も蘇鉄も雪の旦かな三〇〇枯野霜艸かれ白雄旬集落葉
りなるをや。それのみかは、葉菴の古へ、なつめ菴の明くれ、何か心なき人はしるらめ。十月十七日人〓とゝもに追善の席をまうけて組そめし糸よかつらよ霜悲し大順居士が悼て子息に贈る若き人の經よみ習ふしも夜かな天明四年霜月廿七日時は葛の葉のかつ〓〓枯て、ものこひ鴫の啼かひなきゆふべなりけり。みちのく也蓼禪師遷化まし〓〓けるよし、おもひこま〓〓と、そこの門人よりつげこしける。禪師は伊陽の產、芭蕉の翁にゆかりありて、我爲に翁の枕表番附屬の師且參禪無二の師たりしたや。みちのくの空たよりなや霜の聲毛呂の里はづれに、たがなづけしや、丸木もてかりそめわたる橋なたゝばたて蓬がもとの霜ばしら江都にひとりの母をもちて、住よき嵯峨の菴をだに人にゆずり、東道の行かひ身を安ふせしも、ひとへに至孝の爲ときこへし重厚入道や、〓としも來て、夏日のまくらに涼風をまねき、霜雪の床に埋火かきうがち、いたはりけるも老きはるこの度の別れ、臥て號哭、天に叫ぶのなみだやまずとなん。きく我すらむねつぶれ侍る。憶に秋の半にや、姨捨山の月かけて、そり捨し母のしら髮心襟になし、よし光寺へ詣んと、すゞろごゝろのすゞろにたのもしかりしを。噫日に消ぬ霜とやかこつ母の髪九月十七日、伊勢の吳扇老人身まかりけるよし、師が五組糸のひと系大書俳本日がら、琵琶てふ名あるを橋の霜からげし繩を四ツの〓歟住吉に詣りて松風や霜にはゝきして庭神樂うき雲や霓月夜を鳩の啼匂ひなき冬木が原の夕あられ薄暮やあられ興ずる樽ひろい小夜あられ起見んばかり降にけり中空に降きゆるかと夕あられつぶ〓〓と蕗の葉に降夕あられみぞれてもしら〓〓つもる穗垣哉莚戶やみぞれ一時人こもる口おしくみぞれにぬるゝ女馬かな雪がちにみぞるゝ篇の篠屋かな雪まつや我庭もせの笆二ツ門〓〓や積も定めず雪搔す雪の聲篠三葉四葉のうごき哉飛たつは夕山鳥かゆきおろしかいきへてまたあらはれつ雪の鹿潮ぐもりみぞれの色を浮の雪橋の雪舟遣り過し顧る雪の松明たとはゞ夜の錦かな吹こしの雪音たてゝ降夜かな灯ともさん一日に深き雪の菴ぬれいろや色なる雪の藪柑子雪の野に雪をさゝげし〓棘〓雪の人桑たち丈にすゝみゆく雪うちや七つの年を身のむかし園の雪門の雪とて見はやしぬ引すてし車の數よ夜の雪降晴て雪氷るかに光さす雪の日芦葉亭に遊ぶおもしろや旅に傘して雪の宿見もしらぬ人にものいふ門の雪川そひや脊ぐゝまり行雪の人桐淵氏のもとに、さうなき筆の鑑SO2霓みぞれ雪白雄句集
埋火や夜學にあぶる掌遠つ人まつとしきく几秋女、こたびはわざとしも人もて迎ひられつヽ至りて面するに、まうけのホ句いとせちに、酒よきものすゝめものし、老のいたはりまめなり。蕉翁に園女あり、鳥醉に星布あり、几秋あれど、其師おとりぬるぞくちをし。せめて埋火のもとに翁のゆい章が夜話にとりまじへ語る夜のつき〓〓しさよ桐火桶人老て巨燵にあれる踵かな茶筌髮湯婆たゝきて寐ぬ人かわづらは一夜ふた夜のちはたんほも煩し野火留にて妻も子も榾火に籠る野守かなをかしげにもへて夜深し榾の節いちはやくもへて甲斐なし榾の蔦くらき夜はくらきかぎりの寒哉あるをや。貞德翁および名だゝる誹士、もゝとかぞへ六そじにあまれり。この日故人を友とするのよろこび、花を吟ずれば香風坐にみち、雪を吟ずれば柳絮袂に入の思ひを月雪の墨の香ふかみ古人達百雉が子をうしなひしを霓小雪ふた親のこゝろ察し入城うらや橇の道に星光る冬ごもり籠兼たる日ぞ多き冬ごもり漉水の音夜に入ぬ捨られぬものはこゝろよ冬籠里恭亭金屏に旅して冬を籠る夜ぞ埋火や鼾の中のほのあかり人とひぬ火桶讓りて粥たかんおしむ夜や埋火くらくいざり寄る埋火やうちこぼしたる風邪藥掌橇冬籠巨湯燵婆埋火火桶榾寒くちおしや寒夜にくぢく捨ごゝろ雷一聲ま〓ししからず寒の雨氷あかつきや氷をふくむ水白し薄氷雨ほち〓〓と透すなり鷄の觜に氷こぼるゝ菜屑かな氷る夜や諸手かけたる戶のはしり菱の實の氷つきたる目かいかな目出たくも酒はこほらぬためし哉梟も死なねば凍ぬ梢かな庭艸のよごれしまゝに風の凍石に蝶もぬけもやらで凍しかな冬の月寒月や白紙の飛狩のあと寒月や柴ぬすまれし咄し聞淺からぬ鍛冶が寐覺や冬の月鉢たゝき川ぞひや木履はきたる鉢叩野ざらしに何事いふぞ鉢たゝき八臘八にせめてうたがふ人もがな帋衣二冬やこそぐりなれし古紙衣ふすま網代すさまじや市の衾の風たまひあじろ家の人住と知りて月寒し網代木のそろはぬかげを月夜かな行もどり森に啼いよめかなふぐ提て竹の中道誰が子ぞ鰒汁やおもひ〓〓の八仙歌ふぐと汁ひとり喰ふに是非はなし摺墨の香は忘れずよ冬の蠅冬の蠅貧女が髪にむすぼるゝ家の蠅凍て死たる骸もなし兵庫の湊にて酒桶に千鳥舞入あらしかな遠淺や月の千鳥の舞もどるあらき波風千どり聞夜の捨心千鳥きく夜衣にたちし松葉かな假まくら魚藏に千鳥降がごとし小夜ちどり人喰犬も吼るなり羽箒のふいと悲しくちどり啼三〇一氷霖河豚冬の蠅凍冬の月千鳥白雄句集臘帋八衣
なるもの、ふたゝびなせしよし告越けるよろこびを枯しとてからしそ柳春ちかみ鷄を盗しは誰かれやなぎびわの花汝みのるはいつの事水仙や折葉もさらに濱あらし寒菊や虱をこぼす身のいとまかへり花返り花いはゞ老木のおとろひ歟かへり花咲よしもなく咲にけりすかさずや道に酒賣歸り花十月の櫻つぼめる木かげかな麥まき畑中や種麥おろす麻ぶくろ烟カ)しるやかぎり麥まく末の汐畑掛菜程あらで掛菜にむつぎ干家哉に里佗しかけ茶が下のつり階子掛菜して世をやすげなる縣かなみのむしの掛菜を喰ふ靜さよ不分題立出て鷄の雛見る小春かな冬の鳥雜鴨啼や浦淋しくもたつ楸日に鴨の白沙あゆむ尾ぶりかな夜の鶴鴛鴦の中よりも哀なり松二木ひと木にをしのやどるかなをし啼や一節切ふく瘦おとこ落し來る鷹にこぼるゝ松葉哉朝川や鷹野の躰を鳥の影右になし左りにすらんぬくめ鳥跡先に雀飛けりみそさゞゐ冬の艸木住ばかく茶の花垣ぞうらやまし茶の花にたとへんもの歟寂棄茶の花や誰が箒せし里の道茶の花に今般の雉子かくれけりかな川蓬谷亭橙や藏にそふ江の寒からず徐柳菴やぶれたるを、そこの左噤系大書俳本日麥まき掛菜炭がまやぬりこめられし蔦かづら引すゝむ大根の葉のあらしかなおもひしか菴のうしろの瘦かぶらあるかひも宿は志卷のやれ簾組かけし塔むづかしや冬木立から蠣の潮にもどるひとつかな売かきや世には出られぬうつぼ舟から鮭の口はむすばぬをならひかなわだつみや餌だにまかで海鼠かく冬の夜や鵠の聲をきゝわぶる替履のうしろさびしや寒念佛隣家のよろこべるさはぎに寒梅に比す產聲は男かな髪置は千代經て白きためしかな旅中冬の海見よむさし野の比企野より蕉翁の誹波及すが中、猶波及せんのれがひ、旦暮とふ友にかつて倦ず。ゆへに塵埃をまぬかれんとにはあらねど、市中のすみかいかんかせるひとゝせの塵埃今日にいたりて、はゝきはちびれ、さゝ竹のさゝほもこぼるゝばかり、是たが身につむ。積ともまゝ、それがし翁の誹波及せんの願ひ、市中の隱にしあらず。隱にしなきにしもあらずといふ事を、薄酒兩三杯ひとりほこりて掃からにおどろかれぬる菴の煤脊戶に門に師走月夜の米俵つくろはぬものや師走の猿すべりかぞへ日を雪間の霜のひかりかないろ〓〓に追るゝとしをこよみ賣年のいそぎ齋宮の繪馬やをしの縫臘月今日、身貧にして濃酒·佳肴をうらむ。行年やひとり嚙しる海苔の味三〇九煤歲掃暮白雄旬集
師は日東の靑蓮居士にて、一酒百詠と人申ければ、健なりける六十年が程の詠數句顆を思ふべし。しかるをかゝる豆喰鳥が、冬の日のみじかき觜にほく〓〓とのみ拾ひ得たるは、椎の實のしゐてなるべき業にもあらねど、ひそかにおもふ事あり。昨日はよし野になど聞へて、校を贈りたらんに、誰かすくなしとするや。却てあはれぞおほかる。盖別に記行二卷あり。そは同〓交河が拾ひ得T、遲ざくら咲頃を見しらせんとなり。是又一枝を贈の意ばせにして、渠も此も只豆喰鳥が餌帶に多少をいはざる事を、そも〓〓師を白に吟じ花にたとへたるは、門生等がわりなきこゝろ歟。資客あり、靑樽を携て我を醉しむ。我爲には此夜の君子なることを、醉をともに春待年をおしむ哉鼠子も春待としの一夜かな行や年また逢ふよしもうるま人この句は寛政二年來朝の琉球人歸〓のころの吟也。月雪や旅寐かさねてとし一夜伊勢年籠とし籠もみ火の御灯拜みけりや年も良くたかけさそふ松の風冬詠都二百十八句橿寮碩布寛政五癸丑歲十二月穀旦門人巢兆謹書巢秋香兆庵鴻臺處士應需書[彭]卿下多二十二大尾ほ樗良發句集天·地甫尺編
のこり耳にとゞまれるをあつめ、あるは文のはしよりも拾ひもとめて、そが中三百章えらび、乾坤の卷して樗良發句集と題する事を、甫尺序にいふのみ。南勢無爲庵のあるじ、しば〓〓洛に竊居の時、このかみ玄化なるものつねにゆきかよひて、主が句を集メ梓にせこのかみん事を乞ふ。主の云、我この一筋に心を遊ばし、或年はむさしのゝ露にわけ入、あるとしは越路の雪にさまよひ、興にうかれ時にのぞめば、いたづらに言出せることくさもあめれど、忘れがちにして、まいてとめをける物なく、天明辰の春今はたおもひいでんもむづかしなど、いなみ聞えけれど、(金)そゝなかす事またたびに及べば、是非なく筆を染て、心是非なく筆を染て、心とめたるほ句百吟かいつけくれぬ。時にこのかみまなく病伏て、つゐに身まかり侍れば、おこたりにして三とせを過る霜月、主も古〓無爲庵に世をさり、今や亡主が記念といひ、かつは亡兄が遺志といひ、やつがれ其しりへにありて等閑ならず。此〓とを社中何がしくれがしに告に、草稿を閱して、たれ〓〓のいへる、亡主風雅にとみて世(方)のほまれめでたゝへ、名だゝる透吟多くは稿にもれたり。これみづからよしとせずして捨たるもあるべく、はたかいつけ落たるも有べければ、ほゐなしとて、人〓の口に樗はたかいつけ落たるも有べければ、人〓の口に三一五
心よりたつやしらねの春霞鳥の羽に見初る春の光かな白梅や春每に見てめづらしき谷口やこゝろすゞしき梅の花むめが香に誰も來ぬこそうれしけれ匂ひして隣の梅の見えぬかな暮る日や庭の隅よりうめの影白梅や譽て這入らるゝ舅どのしら梅や垣の內外にこぼれちるんめの花なかばひらきで盛かな梅が香や風にみだるゝ糸のどし梅が香や折とる心はづかしき門あげて朝から梅のにほひ哉閑居梅が香におどろく梅のちる日哉うぐびす鶯の古聲したふ初音哉しのゝめやうぐひす啼て松の風うぐひすやよきほどヅヽの聲の間樗良發句集(大)甫尺著梅春之部あめつちや實もはへある春の色相模國片瀨の里に春をむかへ、江の嶋山に神路山を思ひ寄てふるさとの伊勢なを戀し初日かげむつまじやもろ人競ふ花の春熊野の岐川菴に春たつ日山〓〓やさくらの中の花の春ふるとしの儘にて脫かへもせぬ衣の袖に、ひがし山の朝日かゞやきて、けふや春の色のきよらなるにおどろく。袖口に日の色うれし今朝の春眼前に白根を見て春をむかふ曉に鶯なくや裏のやま黄鳥の啼やきのふの今時分うぐひすや春の山里風けぶる野外鶯に山越見ゆる海のどかすかし見て星にさび、しき柳哉旅人の見て行門のやなぎ哉菴室や柳をもるゝはなし聲白雲を目當に野邊の柳かなもつれツゝ見事や雨の糸柳はからずも見てもどりたる柳哉うた諷ふ薪士かすむ山邊かな鳥もろとも野に出し我も霞らん殘月に日のうつりツヽ朝霞題混きのふけふやゝあらはるゝ若菜哉若菜つみ野になれそむる袂かな春の雪風ふきあれて日の暮る山寺や誰も參らぬねはん像今江浮に船をうかべて船に寐む我に過たる春の興秦夫亭を訪て風流や窓の白梅軒の 竹鳥ぬれて猶色ふかし春の雨夜はうれしく晝は靜なり春の雨花鳥をおもふや夜のはるの雨旅宿柳をり〓〓疊にふるゝ春の雨和哥浦にて春雨や松に鶴なく和かの浦水越して山吹あるゝわたり哉湯尾峠にてやまぶきの花吹とぢよ雪あらし雨風のあらきひまより初櫻人傳に聞て悔けりはつざくら花を照らし月又花にくもる哉三一柳春雨霞山吹樗良集句發花
食をわけて樂みたれり軒の花前山花見櫻はけふをさかりにて、麥畑の緣に莚をしき、空豆の中に盃をとる。山の半腹には幕なうち、峰には人千て人を呼人花をなぐさむならん歟。花の余情をそこなふならんか。人のあたま花に隱るゝ禁かな蛙啼や水玉うかぶ春の水たはれ來よ袂に入ん飛胡蝶野子が妻の身まかりけるにまぼろしに瘦顏見へて梅白し名のみしりてま見へざる人の悼逢はぬのみ歟遠き別を春の夢蝶が身の人よりかなし春のくれ花ながら春の暮るぞたよりなき放下師の眠のひまに春ぞ行安永七三越路行ことしの春は心おとるへ、筋骨か過行ば又見えそむる櫻哉四五日や花に天氣の片心花ざかり鳥のたよりに曇けり油斷して花に成たる櫻かな四方の花に心さはがしき都哉ちる花やまぎれて見へぬ人の顏一時やあたら櫻の咲みだれ引組て轉たり花に酒の醉見かへればうしろを覆ふ櫻かな散さくらつらくもまさる見事哉閑居しづかさや散るにすれあふ花の音御室にてもろ人や花を分入花を出ず嵐山にて雲高く風たえて花のあらし山めざむるや花吹おろす大炊川草庵に陸史をとゞめて系大書俳本日蛙蝶暮春筋骨からみ、たましゐの靜ならざれば、加賀の國山代の温泉にあそばんとおもひ·立出る山路さむけれど、やよひのすゑなれは、桃·さくら·山吹など咲みだれたり。花にこそ命惜けれ春杜鵑はるかにもどる深山かなほとゝぎす啼やちらりと月に移り松の葉に下腹つくな子規時鳥聞なをす間に遠音かなほとゝぎす曉にせまる高音哉卯月十日、人〓〓にひかれニ條の西に出はなれければ、あけぼのゝ雲、山〓〓のこしをめぐり、畑のつくりもの、おのがさま〓〓に露を帶ていさぎよし。時鳥しきりにこひしくてほとゝぎす野山に聲のすがたあり比叡山にて大日枝や禁を横にほとゝぎす須磨にて郭公のなみだに曇れすまの月串のさとにて北國や雪の中なる靑あらし今江にての暮夏之部ころもが春をおしむ心の外に衣がへへころもがへ烏はくろく鷺白し題混つみ花や刀にむすぶ山法師うの花の中に崩れし庵かな世をいとふ我はづかしやかんこ鳥鳥ほとゝぎすあやしく過る初音哉はつねしてなをまたれけり郭公時鳥晝の初音ぞうらみなるほとゝぎす二聲聞しはつねかな樗良發時鳥三一四
裸身や水鷄を尻に蜆とりくゐな啼や幽になりし我心加茂川夜行水鷄なけ夜の市人酒の醉夏の日、竹の一むらかこみたるは、いとめざむる心地こそすれ。めづらしや水鷄の遠音竹をうつ病中病中や旅寐の水鷄蚊帳に聞吳竹のよゝにあふひの祭かな鱠にも響くまつり太皷かな中〓亭にて葵中むすびて古きあそび哉題混かりそめに見て過がたしかきつばた君が代や鉾たてかざるくらべ馬五月雨や折〓〓出る竹の蝶波泉の祝事有ければことぶきや龜のひたひの花あやめ金閣寺にてこがね錆て若葉にしのぶ昔哉おそろしや燕つる男妻はなきか鵜遣ひを見に來し我ぞあさましき蘭臺子へ留別別かなし身は五月雨の菰一ツ留別三句おの〓〓前書略まねきあふ扇に寒きうしろ哉時鳥歟花歟戀路か此わかれわかれ路や今朝短夜の夢千里佛が原にておもかげや佛酒賣苔〓水もつれツゝ水無瀨をのぼる螢哉山や水見えてはくらみ散ほたる宇治川やよしのゝ花をちる螢入佐山眺望月にゆかし照射にかなし入佐山樗峠ョリのぞみて燕鵜釣飼まつり匠七七六月や天の橋立しぐるゝ歟凉風や我にふるゝもおしまるゝすゞしさや袖にさし入るゝ海の月すゞしさや旅に出る日の朝ほらけ奧山や月花やかに風涼し凉しさや松の木の間よりもるゝ風加茂川にて水音の袂にこたふすゞみかな湖水に舟を浮てすゞしさや船に吹入るゝ波の露たえて逢ざりし人にあふて嬉しさとすゞしさに心亂けり都に庵をもとめてみな月の朝皃すゞし朝の月嵩平亭にて梅が香も月のなさけも夏一夜羅外上人の塚に詣侍りしに、愛し給ふ蓮はめでたく花咲て、おり〓〓ごとの風のかほりに、いにしへを我にかたるかと見えて蓮咲て花物いはず泣もせずゆふがほの中より出る主かな水よりもわづかに凉し瓜の色延〓子の旅宿にて凉かぜの尊き森の宮ゐかな故山を中庵にとゞめて稀人の寐姿うれし蚊帳のやれ麻靑庵に添書か貰てわすれめや扇にむすぶ文の數百史亭にて言葉盡て扇に〓し雪しぐれ悼今更や目にみな月の水寒し六月晦日加茂の社に詣て、みたらしのながれにおそぶ越泪して命うれしき御秡かな上の卷終納凉タ瓜皃良 樗集句發名三一九
なき父の膝もとうれし玉まつりたま祭り茄子に見ゆる母の顏南都より紀の路へおもむく比、旅宿の吟奈良初瀨めぐりて旅の魂まつり懷旧円雲老人が去年の旅姿、ことし難波の蘆のかげにあらはれ見えて、其魂のかへり來たるをしる。魂まつり雪も時雨も袖の露あさがほに吹そめてより秋の風柳にも竹にもよらず秌のかぜ鬼の〓讀物のあはれは秋こそまされ秋のあはれは夕こそまされなけ〓〓と我をせめけり秋のかぜ述懷老が身やかりそめならぬあきの風題混日樗良發句集地魂まつり秋之部かくこそとわかで今朝より秋の雲秌たつや雲はながれて風見ゆる目に見えぬ秋にこゝろの弱りかなあさがほ朝皃や露もこぼさず咲ならふあさがほにあぶなき棒の稽古かな葉の露に朝兒の花のうつりけり蕣やわづかのうちを日のあたる悼あさがほにかはるうき世や七〓日七夕逢夜とてめでたき星のひかり哉たなばたや兒の額に笹のかげ露の間を世にふる星のあふ夜哉かなしさをかさぬる星の一夜哉秋かぜ七夕すまひ取扇遣ひの見事かな花桔梗名のみの色を咲にけり見るうちや風の吹。折女郞花あはれさに折て持けり花木槿秋はぎのうつろひて風人をふく戀よりもくるしき萩のみだれ哉萩が根に月さし入て風ほそし椽先やよべに見殘すけさの萩風あれて萩にうれしきかぎり哉吹分るひまもあらしの庭の萩虫ほろ〓〓艸にこぼるゝ音色かなむし啼や木賊がもとの露の影燕〓亭にて八朔やかたびらさむし酒酌むあはれとも見るにたえたり三日の月嵐ふく草の中よりけふの月名月や只うつくしくすみわたる雲を拂ひ雲にたゞよふ風の月たのしみや松にかくれしけふの月うらめしきまでに月すむ今宵哉山風のあるかなきかに今日の月年〓〓にこりて月見ぬ今年かな〓讃狩くれて馬のうへなる月見哉石山にてことなるや實石山の秋の月安宅の關は名のみして、海のおもて十余町を望む。月のみぞ花の安宅は海の雲更科にて姥捨やあだにかなしき夜半の月いざよひや闇より出る木〓の影後の月水よりも靑き雲井かな見事なり薄雲はしる后の月はつかりや月のほとりより顯るゝ雁金のかさなり落る山邊かなZNI萩むし八朔十六夜後の月樗良發良夜鴈
うどん焚空や雨夜の雁の聲落もはてず迷ひめぐるや雨の鴈親しらずにて荒磯や初雁渡るしほけぶり湖水眺望二句夕ぐれや露にけぶれる鳰の海山も岡も芙蓉に露を置がどし夜もすがらなかで曉の鹿の聲おのれのみとかなしく鹿の啼音哉朝しかや樫の林を出るこゑ秋の夜や時雨る山の鹿の聲題しらず切賣の鮫のあたひや大唐籾籾だねに余所へ出かけの指圖哉篠原にて實盛の魂をなぐさむ命かな露よりもかろく月よりも白しおなじく兜を見て骨きえてかぶとに殘る〓の聲井波なる臼波水世に古し薄が中のいづみかな忠度の塚にて時なれやかぼちやの煮入なみだなる露の菊さはらば花もきぇぬべししらぎくや心あまりてねたましき夕風やさかりの菊に吹渡る花と花さはりてきくのこぼれ哉物入や屋形つくりて菊の花白ぎくやあたりも倶にうるはしき靑竹にかゞやく菊の盛かな菊の花こゝろ憎さに手折けりおもふ事ありて露もちれうきがうへなる野分の日なま中にしらでもよきに秋のくれ斧亭にて夜話ながき夜や眠らば顏に墨ぬらん半化房をたづれて菊鹿秋のあはれあるじはうらみ我は泣越中の國井波なる所に浪化公、芭蕉翁の剃髮を埋み、碑を建給ひ、其角筆をとりて、はせな翁と書たり。なつかしき事のかぎりなければ野ざらしの露よしぐれよ剃髮塚おなじく此地に遊ぶ比、長兵衞庵より眺望して時雨來よ花も紅葉有磯海楚丁亭にてしたしみは花八重菊のかさね哉龍石にわかるゝとて妖ぞかなし後の世の友に契り置ん見めぐるやもみぢ靜に色まさる谷川や紅葉の絕間水寒し落葉さへ紅葉の山の高雄かな黑部川をのぞむに、愛本の橋は兩岸の巖より刎上て高き事數十丈、川水白波をたゝみ、早き事眼をくらまし、音は心を轟かす。水烟四方に起て兩中の雲に交り、物凄くもいさぎよし。暫橋上に千て橋高しもみぢを埋む雨のくもあらし山にて花や紅葉松も常ならず嵐山大炊川にて暮凄し金氣あふるゝ大ゐ川北國病中吟骨をたゝき肉をふるふか北の秋詩雀亭にてまじはりやもみぢ照そふ小盃留別爰で死ねといへどもきかず行秋や洛西にさまよひあるき秋をおしむ嵯峨にさへとゞまらぬ秋の行衞哉老懷秋のすゑ身もふるはれて虫の聲三三磯海樗良紅葉
風あらき曉よりぞふゆごもり夜ル〓〓のおもしろければ冬籠はせを忌三句旅すがた時雨の鶴よ芭蕉翁はせを忌に薄茶手向る寒さ哉木がらしに古人荷葉の夢さむし消もせん有明月の濱ちどり小夜千鳥羽風もいとふ聲の痩須磨にて一夜聞てほゐなきすまの千鳥かな明石にて日は落て波をあかしの夕時雨鉢たゝきまぎるべき物音たえて鉢たゝき兄弟歟同じ聲なるはちたゝきはちたゝき少し踊て廻向かなさゆる音の雲井にかよふ鉢叩寒苦霜さむや小鳥の足も地につかず行〓やあはれ非情の草も木も冬ごもり系大書俳本日冬之部秌のあはれわすれんとすれば初時雨はつしぐれやむやしばしのから錦降そめてふりもさだめずはつ時雨此ごろの野邊にまたるゝ時雨かな吸物を出せば晴行しぐれ哉ゆふべより降まさりツゝ小夜時雨立臼のぐるりは暗し夕しぐれ雨にわかち風にまぎるゝしぐれかな旅行きのふけふ我身になるゝ時雨哉題混雜十夜とてかしこき法の〓かなあきなひや店へ酒出すゑびす講はつしもや飯の湯あまき朝日和霜の夜や鴫の羽かき尙さむししてんちどり粟津原馬上の吟こがらしや日も照り雪も吹ちらずよきほどを越えて雪ふる夕かな雪ふかし野寺の鐘の聲のみに白ゆきやあまり深さにのどがなる枯杉の赤葉ざまくに雪うすし立山眺望立山や雪に分入鴈の影立やまの雪白龍ののたり哉富士山眺望白妙や雪もろともにふじの雲大嶋に庵を結て心細し雪やは我を降うづむ那谷寺にてなた寺や池の毘沙門松のゆき留別雪によばふ我聲跡に屆かし戀路のあはれなるも、貧のせつなるも、やまひのくるしきも、皆ま〓とを顯のひとつにして、病て死せざるは、戀て逢ざるに情ひとしく、加茂川の堤の家を賣たる貧女も、やまひにふせる武士に異なる事なけれ。予このごろ此ものに犯されて、これが爲にせめをたのしむ。海老燒てやまひに遊ぶ寒の中あかるさや風さへ吹ず寒の月寒の月川風岩をけづるかな大日寺にて角立て居風呂のぞく雪の鹿太中菴を送る春來よとあふさか山のわかれかな病中月雪や酒を冬瓜に腫やまひとし忘れ廣野の鶴を見に行んゐねぶれば誰やら起す年の暮うき事はしらじ師走の鳶烏白雪のつもる思ひに年くれぬ三一五雪寒月樗句發良集年暮
らふ。花鳥にたはれては、句のおくれん事をなげき、萩薄に姿情のまさらん事をねがふ滑稽の道人なりけらし。嗚呼かりそめにいひ出せる平話さへもおかしかりし。まいて吟章におけるをや。是に洩たるもあまたあるらめ。されど、ものは只とゝなふらざらんこそよけれと、此叟も常につぶやけるをもて、もらゝしてんやと、予同友のゆかりなれば荷擔して拙筆をとる。なまじゐにいはゞ拔舌の罪ふかく、かつは高風にたがふなめれば、三ッ二ツをあげて跋書す事しかり。城南春風亭秦夫我風狂いたづらに年くれて、軒の梅さへわすれがちたり。ゆかしやと見れば見えけり除夜の梅下の卷終軒の句〓三百詠は、亡師樗良叟のほ句なり。いたづらにならん事をかなしみ、甲辰の春玄化堂天つちの集を著す。げにや此法師古里無爲庵をいでしより、大嶋に九尺四方のいほりをたて、月雪の夢をやぶり、はた南紀あたしかのさとにあだなるすみとをまうけ、二また庵となむ号。爰に三とせ四とせの春秋を過し、いづこかつゐの住家ならんと、この庵をも藁沓の如くすて、夫より洛木や町に竊居して、浮世の嵯峨の花もみぢをながめ、世を宇治川の螢見に、よしのゝ花のちるかとあやしみ、みやこの雨にうどん焚夜の雁を愛し、粟津の旅行に木がらしの姿をのこし、立山の雪に西行の魂をさぐり、雨にあらしに心をあそばし、句はあだにしてあだならずとやいはん。只情をかんじ實をうつし、利をいはず巧を求めず、艶をき夫せほ靑蘿發句集天·地·人玉屑編
〓〓にあたれるを、あらかじめ部をわかち、栗のもと靑蘿ほ句集前の卷とし、玄駒がになき心にまかす。猶此ふみに洩ぬるほ句、野に山にひろひ得たる人あらば、必風のたよりに〓しらせ給へよや。のちより〓〓几上にあつまりなば、志し深き人いできて、あとの卷となさむとをまつほの浦の藻くづ書あつめるものは、後の栗本玉屑觀應屑玉無夾菴玉ちはふ神ひじりの大御代ときより、敷島の道ひろく君が御代〓〓につたはりて、〓とのみやびたる中より、たはやきぶりのたはやすき道なり出て、上がかみゆ、下がしもまで、心ひとしく芭蕉葉の風にうちなびきて、人のこゝろの和がざる隈はあらじ。爰に亡師靑蘿、そこの山あひかしこの浦軒に、杖を曳ける事あまた度なり。其道すがらあめつちの心のまゝなれる句の、麻もさわたもあまたの夏冬をたちかへつゝ、ふみのはし〓〓に聞へけるを、あが友淡路國なる柴山·靑岐·寫涼がこゝろを同じうして、まめに書あつめし草稿あり。亦居士をしたへる人〓〓が玉箱におさめ置るあり。あるは滄海に網して拾ひ得たるあり。是をつらねて六もゝあまりのほ句あり。そを杜魚の爲に失はんもほゐなく梓にのぼせむと、姫府の社友玄駒ひたぶるにせめけるを、玉の〓のみじかき心にもあら(栗カ)でうち過ぬるが、桑の枝葉につながれる人らが、庭のをしへのたづきともなさまく、〓とゑりをもせず、四つの時の季を分、あるは神·釋·戀·無常·名所·羇旅等のそのもの必風まで、人のこゝ寛政八年妖八月序世に得がたしとこのめるものは、おほかたはま〓となき事にて、つばめの巢に貝を求るごとく、火ねづみのかはきぬも、めら〓〓とぞ燒ぬべき。たゞいつはりなくて、くちずたえせぬは、こと葉の道なれとて、靑蘿句集をあめる人あり。此叟世にありし時は、ひたすら芭蕉の方寸にせまり、その實をまなびうつせる〓と、氷と水昌とのごとし。かの晋子が申せしやうに、時代蒔繪といふものゝ、年へおほかたはま〓となき事にて、火ねづみのかはきく靑蘿發旬集季を分、三·八
ゑに詞かいつけよと、吾が長門の國に卓錫の日、はろ〓〓と贈りこせり。是を閱せるに、心崑崙の麓をめぐりてしら玉を拾ふがどく、大液に船を浮めて黄鶴の麗はしき聲を聞にひとし。誠や夢に白鳳を吐、金龜をのみし人の遺章とやいはむ。今更むかしを思ひ、藻にすむ虫のわれからといなみがたくて、へみをゑがくに足を添るのあやまちもかえり見ず、みじかき筆を採りぬ。これを櫻木にゑり殘さむは、蕉門の正風を學ぶものゝひとつの梯ならむか。寛政七ツのとし花見月三日夜、東都行脚花縣、赤間關田東菴のともし火のもとに書。てもそこねやぶれざるどく、風情の實を盡せる言葉は、なき世のいまになりても、かく天に求め地に拾ひて、やがて人のたからとなれる〓と、ありがたきわざなるべし。これをよみ是を見ん人、また叟がま〓との心をつたへ、はがひの中の玉を得、かはぎぬの火にいりても燒うせぬさかひに至るべきものをや。此集のはじめに一語をそへよと、遠き國まできこえこしける、いまのくりのもとのま〓との心をあはせてかつしかの野人贅亭成美誌山四美成播姬府玄駒書玄駒雲水の吾みかのしほ播磨の國に、みやびのまじらひ深かりし鹿兒のわたり幽松庵のぬし靑蘿詞宗、五とせあとに世をさりぬとなむ。こたび同國姫山なる玄駒のもとより、彼叟が生涯の發句をかいあつめ、とぢぶみとなし、此す栗本靑蘿發句集(大)鹿兒に十とせ綱手にかへす今朝の春蓬萊に眼をかよはすや淡路しま散ればさく春に今朝逢ふ命かな鹿兒のわたりの綱手に引とゞめられて、この里にかくれすみけるも、はやはたとせ近くなん侍れば、替らぬ春をむかへし事のうれしさを、先なきちゝはゝに告奉るとて蓬萊のうへにやいます親二人初日影鶴に餌を飼ふ人は誰薄雪の戀寐かなひて花の春世をいたふ身は我としをさへわすれたりしに、ある人より法師は初老のはるに逢ひ給ふとて、衣服など惠まれけるに、さもありやとて十德のうしろに來たり今朝の春國家東草庵に梅あり、梧堂あり。うめは春のこゝろ加匂はし、梧堂は薪水春之部歲旦曙や淡路を春のしなさだめ初日かげ人に先さす惠かな誰戀ぞ田每にみつる初日かげ予が栗のもとなる三眺庵を、尾上·高砂のながめ近きかたへうつして、香松庵とも呼そめぬ。わきてひがしのかた打ひらけ、春をむかふたよりも、先、淡路島を心にとゞむれば靑海の春よりうつる草の庵關束の古〓もわすれがたく、關西のしたしみもわすれがたし。光陰我おもふ事をまたず。
薺うつ遠音に引や山かづら薺けふ六葉七葉にもさかへけり薺つむ野や枯萩もおもひ草まな板にうすくまかるゝ薺かな薺うり我子になれよ錢くれん薺うつさとを見るかに小田の鴈若草やあるがなかにもしら菫春もはや十色にあまる小草哉おどろかすとんどの音や夕山邊正月の榮花にほこる爆竹かなしら梅やたゆむあらしにほの匂ふ梅さくやうときもおりに小盃宵闇の名もある里かうめの花梅がゝのちかまさる時薄月夜あざやかに一輪づゝやうめの花白梅や骨正月の塩かげん節の日やあらかた開く梅の花草庵の東隣は野梅かなに信をつくす。若水を汲につけても庵のはる明星の色を外山のはなの春蓬萊やおのころ島をつみ得たりまめやかに是も春たつはね釣瓶春たつや梢の雪にひかりさす華に先二日ちかよる二日かな雪を出て雪よりも靑し松の風三反の田麥みどりに庵の春先春に空はあは雪梅つばきかの極樂といへるは、杉葉立たる又六が門、と詠給ふもいと尊し。酒屋出て我は杖引子日かな子日せむ鶴見る岡のとまりがけ引添て杖にもむすぶ小松哉七種や七日居りし鶴の跡七草やなくてぞ數のなつかしきなゝくさや明日は野寺の初藥師系大書俳本日立春若艸左義長梅子日人日四方より道踏よする野梅哉夜あらしの皆花となる野梅哉能なしも寐ぬ夜がちなる梅の月月の梅匂ふは花のひらくかも梅をしたふ其夜の夢や嵯峨のあたり闇の梅日頃の辻子にたもとほりやり梅の流れし先や淡路島水の氣の取付初るやなぎ哉けふ既に寒皆盡る柳かな山かづらかけて遠目の柳かな打かけて月をゆるがす柳哉ひかりさす闇のあらしの柳哉月もやゝほのかに靑き柳かな月花の外をおぼろの柳かな靑柳や折らんとすれば枝もなし淺澤や雪かた〓〓の芹の花消る雪の味やとゞまる根白中我影の白髪をつまむ田井の芹鶯天地に今朝うぐひすの初音哉初音して鶯たれをおもひ中うぐひすの木瓜もいばらも初音哉鶯の池をかゞみにはつ音哉うぐひすのあたり見廻して初音哉黃鳥の音や雪の戶の玉箒朝風呂にうぐひす聞や二日醉黄鸝にさげものやらん屠蘇〓うぐひすの茶入を覗く水屋哉鶯の聲白梅歟紅梅かしら魚は梅につれだつ盛哉餅の雫や春の薄氷春風にのべふすいろや淡路島散のこる葉を春風のもみぢ哉あるが中に菎〓玉も春の風春風にさかふて濁る野川哉春の雪梅には深きけしき哉降込や棚なし船に春の雪三三三柳白魚春風靑集句發蘿芹春雪
藪入やつゐでに古き墓參り出替の笑にふくむなみだかな養父入やうきを五日のわすれ草雉子啼て跡は鍬うつ光かな己が音に驚き顏の雉子かな子をおもふ聲とやけはし夜の雉子麥によき雨をきゞすのうらみ音か春の雁立さはぎては日をおくる行こゝろさえかへる日や小田の雁なき友を算へて立か小田の雁鴈人に馴る兒なるわかれかな時雨ほど聲ふりかゝるひばり哉はなのさく草は巢にせであげ雲雀蝶ねぶれ薄衣きせん日の最中風の蝶きえては麥にあらはるゝ田の水の高ふなるかも啼蛙からすきにからき目見たる田螺哉のら猫の良にまたるゝ戀路かな山茶花のおはりしほらし春の雪梅が香のつもれる物か春の雪雪とけてみどりの色や圃土月けぶりて夜もとけ行野川哉凍とけや野づらに高き在の脛陽炎や春の汗干下小袖西行庵にてかげろふを手に取ほどや柴の庵行さきや眼のあたりなる野の霞高根まで靑麥の世や夕がすみねはん會や散飯に誠をなく烏傾城の拜んで笑ふ涅槃哉幾春の繪の具や兀し涅槃像淺川の末ありやなし春の月野は燒きて雲に雪もつ月夜哉春の月さすがに障子一重かな雪のまゝに竹うちふして朧月梅散りて古〓寒しおぼろ月藪出入替雪解雉子凍陽解炎春鴈霞涅槃會雲雀春月蝶蛙田猫螺戀角はゆる迄啼つらん猫の戀雨に暮るゝ日を菜の花のさかり哉菜のはなを見て來て休む野寺哉よしの出てまた菜の花の旅寐かなはなさけり古きを祝ふ雛の宿雛戀ふる親のこゝろや夜の鶴遠島や汐干にかける牧の駒うれしさについつかれたる汐干哉網のうちを、智あるはされ、おろかなるはとゞまれ。かしこくて蟹は遁行汐干哉春の中のけふは誠のはる日かな鶤鶏のみだれ尾に引春日かな降ぞともしらで暮けりはるの雨はる雨や接木見に行園の奧落つみし椿がうへを春の雨春雨や茶に呼東舍と西隣と寐つかれて月のはる雨見る夜哉はる雨の赤兀山に降くれぬ色深し今年よりさく桃の花桃山や行盡されぬおぼつかな月も山も其ほとり也はつざくら此景色誰三日月のはつざくら寺も世をたのむこゝろや八重櫻曙を深くかゝへて山ざくら人をまたで散るはさくらの誠哉松の奥うす〓〓暮る櫻かなさくら見るけふも時雨のやどり哉定なきをさだめ、窮りなきをきはむ。定なきをさだめて散る櫻かな春の夜のみじかきは花のあたり哉浪の間はさくらうぐひや岸の花散る花や夢かとぞおもふ袖袂はなの中折〓〓曲る小坂かな花守の折らるゝもしらぬさかり哉菜の花桃櫻雛汐干春日春雨花集句發蘿靑
如月に取つく野邊の景色哉きさらぎや山茶花寒きわすれ花井のもとも堇薺のはる邊哉はるの山何事もなきながめかな雀子のもの喰夢か夜のこゑはるの海遊びわすれて啼鳥いかめしき聲や日すがら花の虻おもしろふなれば別れや桃さくら野の梅の咲よりかよふ田打かな門なみにさくや山家の梅椿はるの海鶴のあゆみに動きけりからし菜の花に春行なみだ哉行春や飛かふ蝶の心はしらずわざくれに酒のむはるの名ごり哉ゆくはるは麥にかくれて仕廻けりひや〓〓とこゝろ靜りて夜のはなぬれ簑に落花をかづく山路哉盃の流るゝはなの絕間かな散はなによき人がらや黑小袖散花のはなより起る嵐かな須磨·あかしのはひわたれるほどを、舟にて過るとき潮曇あわぢのさくら散やせん滿汐に持あふはなの曇かな山吹や池をへだてゝ入日さす山吹も世につながるゝたぐひかな淺茅生にめぐり初けりはるの水すゞりにも茶にもうれしや春の水庭掃かぬ我名やたてそさゐたづま柳芽をふきて又一日はたひら雪春秋も常のこゝろを松のはなあまのりは江戶紫の匂ひかな夕汐や月踏碎く小貝取花曇棣棠春水暮春雜春夏之部君が世の治まれるけしきは、更衣何事につき侍りても、難有さいやまされるを鎧着る世ならばいかに更衣蝶ひとつ竹に移るや衣がへあさ兒のはやおもひあり更衣更衣うすき命を祝ひけり綿ぬきて水になさばや花の夢散けしの中に生るゝ佛かな摘ずとも花あり香あり白扇はなのうへにこゝろ皆置牡丹かな芍藥はかよはき花のうてなかな袷着て牡丹にむかふあしたかな色罌粟の巧みに見ゆる荅かな白芥子や美人かくるゝ草の庵しらけしの崩るゝ程の天氣哉白罌粟に照りあかしたる月夜哉ながき日のあまりを芥子の一重かな杜若ものゝすゞしきはじめ哉難有さいやまさ鴛鴦のかざしの花かかきつばた風寒し卯の花原の明くらみ卯のはなのさなみに曇る澤邊哉花の夢の薄雲さらでほとゝぎす我宿の山梔子しろし杜宇夜の一聲こゝろにをくるほとゝぎす蜀魂なくや矢をつく雨の中千度なけば憂を添るぞ郭公横雲に耳つけて寐むほとゝぎす衰ふる春より啼ぬかんこ鳥日たゞ啼を日たゞ聞身よ鴨鳩山一里われを送るか諫皷鳥はなのあと枯よと啼歟かんこ鳥あやめ草綾の小路の夜明かな戀のはしもかくるやあらむあやめうりあやめふくけふもはなより草の庵植つけし夜は三日月の門田かな松かげに追〓〓かゝる田うへかな三九七卯花杜鵑佛生會基礎會苟壮藥丹閑居鳥芬子菖蒲蘿靑發旬集田植社若
松一木馴てすゞみのたよりかな舟に病みし身をうし窓の夕凉笹折て赤蟹なぶる夕すゞみすゞしさや惣身わするゝ水の音道をあらそふは隱者のたのしむところなり三つよれば其師やあらん蝸牛我隣蚕に交る麥の秋角あげて牛人を見る夏野かな誰知盤中餐粒〓皆辛苦田中取うた泣にはまさる夕景色鍬を取業はこまかよ豆のはな葉には其うらみもあらむ葛の花若竹に月のうすものかづけけり口なしの淋しう咲り水のうへ夏やみやこゝろをすゝむ鉢の菊飮酒一盃の寐覺、去此不遠の淨土をしれり。覺へんとすればとぎるゝ田唄哉夜は君が手枕の手を田植かな我庵はひる寐する間に靑田かな藪かげやさゆりの花にとぶ螢月の夜は地に影うつる螢かな瀨の螢水を羽音にみだれけり竹裏舍にて笹の葉の夜散ほどや飛ほたる鵜のかゞり消て曉の水寒し晝の鵜の現に鳴か籠のうちあら面白の川なみや、あらうの世OPP世わたりや鵜繩の上も十二筋聞うちにすへまぼろしの水鷄哉おもしろやふりむく鵜あり行鵜ありあだ花の猶なつかしや瓜のはな瓜の葉の瓜をつゝみて冷しけりすゞしさや八十島かけて月一つ靑螢田雜夏水鵜鷄瓜納凉寐ごゝろや萠黃の蚊屋の薄月夜暑き日や撫子つまむ山のかげゆふ立や秋を催す黍ばたけ萍やはづれては又月のうへ蚊一つに身をくれかねて宵寐哉人は皆横に目がつく橫に行芦間の蟹のあはれ世の中、とかく貴き御製、あへて人のをしへとなるは、蟹の事なりける事をよしあしの其まゝすゞし蟹の穴秋近し露に溢るゝつゆの月李雨のぬしが初旅のいへづとゝて、よしの山の花屑·伊勢の濱荻の葉など送られける。さすがに風雅のしれもの、かの富てつたなからざるの人か。狂へとて夏の胡蝶に花の塵栗本靑蘿發句集地秋之部ぬけて行茅の輪の先や夜の秋松の蟬啼つゝ秋に移りゆくあなめ〓〓秋風たちぬ竹婦人草の戶の見事や今朝を露の秋秋たつや人さめわたる中の庵蚤ふるふ袖行合ぬ今朝の秋夏瘦のふし〓〓高しけさの秋起臥に立添ふ秋歟庭の中土用より朝皃咲て今朝の秋盡ぬ世のためしを星の逢夜哉草の戶の年のわたりや萩の反海士が子の乾かぬ袖をほし迎へ曉の築に落けり天の川三九九秋蘿靑集句發七夕
あつき夜の朝皃の花に明にけり蘭の香も閑を破るに似たりけりらにの香やをとろへ初る日の移り蘭の香や糸なき琴のしらべよりらにの香や碁盤の面打かすり蘭の香は薄雪の月の匂ひかな霜にそむ秋に逢けり女郞花兵の矢先に似たり唐がらし秋の蝶いかなる花を夜の宿しら〓〓と羽に日のさすや秋の蝶秋風に白蝶果を狂ひけり秋の蚊やおのれつらしと晝もなくむしの音やこぼれもやらで萩の上我夢の化してや床のきり〓〓す虫の音に折〓〓わたるあらし哉聞となく耳に置けりきり〓〓す棚もとや處もかへず蟋蟀忘想の寐覺預けんきり〓〓す空蟬を見るにも星の別れかな賑しやよき世の人の魂祭りほし合のうらさびしさよ魂まつりなるゝ間のなきもはかなし魂祭芭蕉蕣の野分見に來よ坊が庵岩角をふみかく駒の野分かな母親に見送られけり角力取勝角力花も咲べき男かなあぜ豆の黄ばみ初けり秋の風一さかり萩くれなゐの秋の風朝皃も實がちになりぬ秋の風いなづまのむら穗に通ふ田面哉稻妻や今朝より森の薄紅葉風の間や置ならべたる草の露大粒に置露寒し石の肌朝皃や〓きかぎりをさき出る蕣や橫日すゞしき花の上梅の後蕣のはなの一輪ぞ魂祭蘭野分相撰女郎花蕃椒秋蝶秋風稻妻秋虫蚊露蕣松むしよ美人の袖に落て死ヲ吹分る中まで萩のさかりかな暮るゝ間を繪絹に染ん露の萩しら萩やいざよひの間を散初る月と我中に今宵のけしき哉我門を踏出すよりけふの月こよひ更て月のこゝろを離れたり花ほとゝぎす今宵の月のほとり也名月や地に引替る天の川名月や宵は夜中のひとむかし名月や松にかゝれば松の花名月やふくるにつけて泣上戶坐に老し人花咲て月見かな筆とりて四隅にわかる月見哉松風の寐覺ばかりか軒の月有はかたりなきは數添月見哉雜水に月のあかりの榮花かな癖になりて寐られぬ月の夜頃哉天明らかなる年にあたるといへども、巳午五ツ六ツ未の春に至れる迄、風雨のいくたびか人のこゝろを驚し、五穀も是が爲に實をむすぶ色うすく、高きいやしき_及べるもいと譁すしく、すでに下れる世となりなんとせしに、久方のあめの惠み、夏夕立に秋旱して、殊に月見る夜ごろは田每の三ふし草みのりて、いとめでたきけしきにめでゝ、玄駒·洗洲あるは東圃·淇筍·愚寒かいわたこゝろを船につみて、あら井川のながれの上に今宵のかげを待ゐたり。予も淡路の法師を携へて此船の客となりぬ。稻の香の滿るを今宵月の雲十六夜や闇かと見れば花すゝきいざよひやすこしはかゝる柿の澁旣望は葉がくれに見る蘭の香ぞいざよひや芭蕉の上は皆月夜Wing萩月集句發羅靑
三日月にかいわるきくの荅哉憎きまで菊に慾ある隣かな雨の菊かくれ過たるけしき哉市中閑居吟菊の香も市のへだてや下地窓曉はまことの霜や後の月後の月蕎麥に時雨の間もあらね秋の日やうすくれなゐのむら尾花旣になき色を秋ふる尾花かな鷄頭の黄なるも時を得たる哉鷄頭や倒るゝ日迄色ふかし戶口より人影さしぬ秋の暮柱にもこゝろもよらず秋の暮秋の暮誰まことよりさびしきぞながむれば海また海や秋の暮秋のくれこゝろの花の奥を見む中〓〓に月は入日の秋の山おそはれし夢よりつのる夜寒哉居まち月や友ます庵の夜の庭秋の雨月に對して猶悲し秋雨や一羽烏の歸るそらともし火に風打付るきぬた哉うき身うつと人や聞らん小夜砧此頃の銀河や落てそばの花月を實にむすびやすらんそばの花春秋と移る夢路や雁 の聲羽音さへ聞へて寒し月の雁いくつらも雁過る夜となりにけりおもひなくて何やら雁のなつかしき粟の穗やひとほしづみて啼鶉鹿の聲高根の星にさゆるなり寐時分や戶に吹付る鹿の聲町中へよごれて出ぬ戀の鹿角の上に曉の月 や鹿の聲驅やちかふ宵曉の鹿の聲そけ〓〓と瘦し兒なる朝の 鹿菊大書俳本日系秋雨砧蕎麥花後月鴈尾花鷄頭鶉鹿秋の暮雜秋秋風をあやなす物か赤とんぼ身にふるゝ秋は露哉小萩かな引かひもなきや鳴子のばらゝ黍落栗や翌の命も山の奧水よりや染けん岸のした紅葉見るが內に霜置月のもみぢかな嵐山にて山も川も谷もあらしの紅葉哉秋の月五ッよさかけて鳴ちどりうつりあし冬の來ぬ間に今朝の霜せまり行秋や晝なく岡の虫行秋や雲はあはれに水はかなし風たへて小春ごゝろに秋くれぬ梅嫌小粒に赤し初鐘れしぐれけり土持あぐる芋がしら二夜三夜寐覺とはるゝ時雨かなこゝろおさまりて時雨聞夜は、墨繪の竹のすれあふ音も聞ゆなり。何所やらに花の香すなり小夜時雨芭蕉忌痩像に魂を入歟小夜しぐれあかしの浦に、初てはせを忌をいとなみ侍りて淡路より時雨もすなり月も照夢にだに芭蕉翁を見ず翁見む夢のしぐれは誠にて茶のはなやありとも人の見ぬほどかちやの花のからびにも似よわが心蒔つけし夜より鶴鳴岡の麥そばかりやよごれし袖もなつかしく雪前や岡の月夜に大根引忠度の腕これ見よと大根引三四五紅葉暮秋茶花靑發羅旬集冬之部竹裏舍にて初しぐれ自在の竹に吹かゝれ簑むしの死なで鳴夜や初しぐれ麥蒔蕎麥刈大前町時雨
初しもや水ひた〓〓の芦の葉に燈火のすはりて氷るしも夜かなしら菊に赤みさしけり霜の朝すみがまや燒人みえて猶寒し炭竈や雪の上行夕煙り埋火に松風落る響き哉埋火や梅の荅もあたゝまれ花の散には春をうらみ、月の曇には我身をおもふ。埋火やいく夜かあぶる鼻ばしら(記)長明の紀に、かせきのちかくなれたるにつけても、世に遠ざかる程をしる。あるは埋火をかきおこして老の寐覚を友とす。うき時は灰かきちらす火鉢哉桐火桶霞うぐひすのこゝろあり白髪より細き世や經ん鉢叩鉢たゝき老の力のありたけ歟枯野野三日月に行先暮るゝ枯野哉茶の木見て麥に取つく枯野哉木がらし木がらしや二葉吹わる岡の麥雪を催す夜の木がらし面白し氷夜や疊にしぶる上草履松風の落かさなりて厚氷あぢきなき果を添水のこほり哉鳥冴かへる空音は星かさよ千どりなく千どり廿七夜の月の海あけ月や風のひかりに啼ちどりおもふ事吹取夜半や啼ちどり鳥水鳥やのこらず守る人の顏おもひ羽に月さす爲のうき寐哉鸚袂まで來て歸けりみそさゞゐ黄葉赤葉それかあらぬか斤鸚捨石のかげで飛けりみそさゞゐ苦しみをはなれて動く生海鼠哉うき人のこゝろにも似しなまこかな霜系大書炭竈氷埋火千鳥水鳥斤鸚火火鉢鉢桶叩生海鼠冬籠たる事や世を宇治茶にも冬籠冬籠米つく音を算へけり冬籠夜をりの病時を得し初雪や實は降のこす藪柑子しは〓〓と降に音あり夜の雪暮の雪水にもつもるけしき哉面白や袖をはらへば褄の雪雪の夜やわすれ〓〓に梅匂ふ雪の人見ぬ世の友の風情かなこゝろ皆竹にふすなる夜の雪別莊や膳のかよひも夜の雪こゝろだに置處なき深雪哉大雪の夜を打崩す景色かなまよひ子を呼聲たえて寒念佛川筋や千鳥にかする寒念佛烏飛て高臺橋の寒の月荒海に人魚浮けり寒の月岡の麥茶の木は古き眺望哉炉びらきや先ありつきし母の顏罌粟苗に今朝いたゞきぬ霜の花薄雪に甘みやさゝん梅嫌今朝もまた霜はねかへす螽かな山茶花や雀顏出す花の中曉のなみだ氷らん網代守初雪の跡さかりなる枇杷のはな夢の世の夢を見る間や年忘年わすれ忘寐に着る蒲團かなうき戀に似し曉やとしわすれ行年やかしらをあぐる田のひばり行としや馬をよければ牛の角ゆく年やとても難波の橋の數世の外の身にも師走のあらし哉淡路の法師、我庵をとぶらひけるに年の市にまぎれ出けり峰の僧きのふけふ枝ぶりかえつ年の梅三國雪年忘歲暮東京都靑羅發集句寒月雜冬
千尋あれ硯の海も年の波かくれても望たへず。あらはれても又おなじ。年〓〓や年の麓のあすならふ匂ひしは夢にや見たる除夜の梅松の悲しき秋風の樂にたぐへし水の音に、流水の曲をあやつる藝は是つたなければ、人の耳をよろこばしめんとにもあらず。獨しらべ、ひとり詠じて、自からこゝろが養ふばかりなり。おもしろう松風吹けよ除夜の闇栗本靑蘿發句集(人)系大書俳本日寛政二庚戌冬十一月十七日紅葉之御會かけまくもかしこき御神の御末にあらせらるゝ雲の上までも、芭蕉てふ翁のたはやきぶりのめで度聞しめさせられて、たびそが道のつかさなさせらるゝに、いせをの海士のかづきすも、須磨のもしほ汲つるも、あるは鹿兒のわたりの綱手ひきけるすら、やどなき御庭のみまへにおしのぼりて、鶯蛙のうたとなふる事の、さゞれ石の千世經べき數〓〓、生ふる草木の葉どのすゑ〓〓までも、有難き色は冬のけしきもなげなるにぞ、そのこゝろを賦して奉るとて日をいたゞきて冬もます穂の薄哉御宿題殿前紅葉眞砂までてりしく園の紅葉哉落葉支流水より給ふにといへる御題を、吹ためて水に色添ふ落葉かな辛亥春三月十七日花之御會御宿題殿前花我等までや御目通りの花のかげうちしぼりて我眼には霧のみ拜むなみだ哉釋〓他力安心のこゝろを彌陀にすがる姿を風の柳かな當麻染井寺つゝじ折て染井の雫結ばや如霜期うき寐すなりひとつ湊の鴈と船達磨忌や夜は更るとも更ぬとも神祇菅神奉納しら梅に散り込られて心〓し岩上奉納岩上やかみさびませばほとゝぎす神路山にいたりて、はやく髮おろせし罪をかなしみ、五十鈴川に福戀妹がりや宵更初るうめの月戀をせば滋賀のあたりや朧月うす雪の曙を我こひ寐哉かたおもひ齒にも合ざる鮑哉靑蘿三四七
なせど、朽折たるためしも聞ず。かくて彼れほどかたく目出度物はあらねど、生涯木枕をたゝく罪ありて、假にもやさしき女の手にふれざるをこそ恨なるとや。ある夜ひそかに彼が後の世のねがひをきくに、かくて生涯の罪人なれば、衣うつ槌に生れんよりは、畑うつ鍛に生んか、たゞしはもとの搔槌か。花のさく奧に何する槌の音題雲助長持や身はとんぼうの露の旅世のうきはうきともしらで、うきはわかれの雪轉し、と諷ひけり。たはれ女の頰先赤し雪の朝人の用ざる時は晝寐を友として、一飯をたくはふ。渴するに眼を明けて生涯の貧しき事をしれども、五器携ふ乞食にもあらず。只諷諫を膓にして、今日より死るまで、雜此部に出すは無季の句のみにもあらず。いさゝかどかはりたるた出す。かゝるうき世の中にも、佛は其まゝ物にさはらざりけるをさきかゝる梅風の朝雨の朝其日暮しといふ事のたふとく、何事もたゞ今たゞ、時の外なき事を行ずるうちに、年くれ春きたりて年〓新なるこゝろを靑柳にむすびかゆるや柴の庵蝶となる虫かひ得たり草の庵月を見るうしろは寒し草の庵旅館師世に搔槌といふ名さへおかしきに、たゞきへらさるゝは彼が不仕合なるべけれど、長日の畫休みには、若おのこに引よせられてかりの枕をかわす時は、逢戀·待こひの夢をもちぎり、または足なき碁盤のかたすみに雇れては、仙家の交りも系大書俳本日おのれを愼まんと、天にちかひ地に俯すのみ。きかさねて後ロの見へぬ寒さ哉はいかいの道は例の自問自答の執行より、人和のひとつを守るべきおしへなりとぞ。此道をよくたもつべし。よくたもたんやいなと、心にこゝろの戒を立て、常に我髮を結びなれし彼石松が刺刀をいたどうず、其石の名のかたく、松は千とせの色をかえぬ例しなれば、今月今日翁の忌日たるをさちに、四十九年の先はいさしらず、廿九年の罪をあらためんと、世の中よかれの樂坊主とはなりぬ。けふよりは頭巾の恩もしる身哉炉一ツをむすびて、月雪に人をもふくる處とし、さらに世の富貴と重馬の誼すきはしらざる也。こはもとひとりを愼めてふひじりのふ天にちかひ地る〓とをこゝろざしとす。後の世のおもはるゝ時峰の松燈火のおのれもしらぬひかり哉世の諺に龜の甲より年の功といふ事侍る。そは智ありてかたきてふことにや。又老ぼれたるもあなれば、其たのみもすくなかりけり。しかあらば年の功より龜の甲なるか。龜はもと此爭ひをしらず。唯波にかくれて我をうしなひ、泥に尾を引てまたあらはる。是を書ものは几にかくれて分別をなさゞれ。萬代もたのまねばこそ池の龜離別君が吾妻のかたへ駒をすゝめ給ふに不二は白雲櫻に駒の歩みかな此程是非亭にやどりて是非を諍も三角丸集句發蘿靑
墨坪の奥はよし野と姨捨と脫負が西國におもむきけるを送りて日くれなば花をあるじの首途かなの無曇·靑岐·其悠、其外儒あり、僧あり。この是非によりて三日四夜をかさぬ。いまだ是非の盡ざれども、今日は、はりまのかたへおもむかん名殘をとゞむるに盡ぬうち散りて見せけりけしの花道の邊の柳かげには、しばしとてこそたちどまりつれ。予は此三伏のあつきに、こゝの柳澤の山陰に十日あまりの旅寐しけるが、けふは新友にいとまをこひて立さらんとするころ結びさる〓水かるゝな柳澤別いふ手すさびなくて蚊遣哉文月のはじめ嵯峨のゝ落柿舍にたび寐して、朝とく別るゝに秋たつや起出るかたにあらし山玉屑法師の旅におもむきけるに、小硯をはなむけして系大書俳本日羈旅牛窓春の夜やうしをうしとも夢心魯四川はるふかく眞晝も杉のあらし哉落馬して腰うつ影もさくらかな丸龜が船出すに、蒼海旭に映じて〓〓〓たり。讃岐芙蓉このかたにさしむかひ、備の二州のかたは遙に山をつられて霞み、伊豫路は白雲のかゝれるあたりにして、吳楚東南にわかれたるもかくあらん。乾坤眼に極がたし。こゝろ問へいづくとまりの春の海白石白石の影碎け行海月かな內の海といふ隱戶の迫戶ちかく船の往來も、わきて潮のかけ引をよく得ざれば危事おほしとぞ。かくて月はひがしの遠山にいと赤〓〓とさし出れば、親あるも子をもてるも旅のこゝろあらたまりて、十日あまりの浪の上の明暮に面テ日に焦したるを、人もこちぬる体にて古〓のかたを打ながめ居つゝ、月のいつか丑みつをすぐもしらざりけり。身一ツは浪も寐よげに春の月いつくしま廻廊や潮滿月にさくらあり千疊敷うみ山を霞いれたる坐敷かな社頭鹿枕にもなれよ旅寐の春の鹿連歌堂にて散る花を墨に摺り込め旅硯宿とりて風呂に入間も山ざくら手枕松すゞしさや松の響きを夢ごゝろ二軒茶店行春もしらぬ往來や下河原杜宇古〓をめぐる夢ぞきく天明らかに五ツの年にあたれる良夜は、但馬の國なる人〓〓に契りて、温泉の里今津てふ河邊に舟をうかべ、彼北國日和定めなきと吾翁も心に遊び給ふは此月の夜頃のごとく、さなる士事のかうがへもいといみじう覺ゆれば、先待宵より月を弄びて猶翌の夜を約せんとす。待宵やおろかに契る月の雲夜明れば酒さかなゝとあらため、三六三な靑蘿
いとおかしかりけるに、おもふどち數まさりつゝ、日もいまだ暮ざるより月は東にあらはれ、眺め又新たに、船はさゝの浦左りに、來日の獄右になし、江の上にむかひて漕のぼるに、波は金のどく花を散らせる上に居たり。こゝろ皆浪にながれて月の京名月や更て來日の峰高き佐野の八幡寺のけしきは、あさもよひきの浦〓〓も、うたかたのあはぢの、あはれなるけしきなりけるをさのゝ小春和哥の浦邊は鶴あらん四條河原のほとりなる水月樓にや系大書俳本日名所幾人か千世の古道子日せり芹川のあたりは深し春の水短夜や夢さき川の朝わたり蒲公英や音なし川のへり塘立雁の負ても行かで浮御堂鰹つり妻はまつほのうら船か春の夜や雨をふくめる須磨の月須磨のうらにいたりて壽永の昔をおもふに、出て遊ぶ胡蝶、人しいくるゝ雉子のおもかげも、いかなる夢のはしにやあらんと、あはれを催し侍る。陽炎の夢をつなぐか須磨の花よしの山七夜寐ても花の半ばやよしの山夜ありきもはなのあかりや芳野山乞食の五器に求食るか小夜衞伏見船中笘船や夢に時雨るゝ八幡山あらし山の花は、水消〓とさびしく、松朧〓〓と深し。さらに我境ともおもはざりけるに花にさはぐ都の人よあらし山はな散りて三日月高し嵐山心敬僧都の、散花の音聞程の深山かな、と唫じ給ふ寂靜谷にてわくら葉の落る間宿る太山哉水鷄なくかたのゝさとは薄月哉なちにて白瀧や六月寒き水煙り室津臨江庵にてすゞしさや繪島をひたす月の海生のびよ尾上の松の下すゞみ秋たつやいなの笹原うつり來る橋立や夜明〓〓の天の川無子の濱にて名月や松に名あらば祇王祇女やるかたのなきに見て泣須磨の月立出ていざ久間見川けふの月射おとすか夢野の鹿の夜の聲高雄にて紅葉踏て攀る寺の禁酒哉曉やしほたれ山の秋の霜難波津や橋めぐりして夜の雪哀傷墓原や是をうき世の山ざくら門人奥村耳香を悼わすれては坐をあけてまつ夕凉蘿來を悼む魂を招かむ月や萩のうへ桃如を悼むなみだには染ずもまつの秋の風梅谷氏脫負がひとりのみどり子をもてり。去年予が見しころは、小三重白り靑蘿發旬集
田の早苗のとり〓〓に、すゑつむ花の色を添て、いとまめやかに生たちけるが、今とし又問ふに、梅の荅のひらきもあへず、夜のあらしのいたく吹て、佛の別れの跡をしたひ、共に涅槃の誠に入ぬとや。げにかた身の袖のむらさきも、の曉のなみだなりけるをものいはゞうしといふらん箱の雛雨人が妻身まかりけるを悼む夜は猶おもひゆられて五月雨夜半のぬし、共に風雅を相かたろふひとりなりけるが、おのれに先だち身まかりけるをかなしみて燈もたよりも消る霜夜かな緣翁を悼む死ぬ〓とをしつて死けり秋の風三木氏美喜女を悼胸あはぬ日もありつらん花衣鰕交を悼む菊よ月よ我ひとり泣友にせん重羽を悼む花とさくもなき佛歟われもかう玉のどくなるみどり子の身まかりけるをいたみて菊桔梗いづれか顏に似る花ぞきのふ見し人にはけふはわかれ、翌はいかなる世のありさまならん。我はたゞ父もなく母もなく、したしき友を柱の如く杖のどく、おもふかひなく今年は無一房にわかれ、薪水にはなる。唯さへ秋のひとかたならぬ物からあの譯を聞たし秋の烏啼雪中〓をいたむ我おもひ雪の箱根を越さで泣淇園を悼む我なみだ地にしむ時か曉の霜の烏啼宗保を悼む二十五年今朝あだしのゝ塚の霜扇塚開眼松帆浦願海寺にて聲を添て塚の名ひゞけ靑嵐佐屋の水鷄塜にて俤や藪あり月あり水鷄なく初秋の四十もうとき寐覺哉梅柳の故人茶に又雪の朝朗初て藜庵を訪ふ。誠にあかざの枝をもて梁となし、葉をもて雨をしのぐの栖なりける。春夏は其芽を摘て三日の粮となし、かるゝ時は雪の日の杖とたのめるよし。〓貧誰かうたがはん。夏草やうき世を覗く窓一ツ可群が酒店に遊ぶ酒の香を松にかこみて靑嵐初て是非亭に來りて主と是非をあげつろふ。そも何の是非なるや。天をこゝろとし、地を身となし、四時に隨て四時を友とするに、何の是非なるにや。道を守りて道をうしなひ、道にそむきて道に叶ふ。是滑稽の是非なるにや。予はたゞきのふも非にして今日も又非なり。いつかは是なる時を見ん。唯人情三重贈答半生堂の病床を叩て、主の閑をやぶるやむ人によしのをかたる春の雨睦月四日のあした、雪のいとふかく降けるに、杖笠とりあへずうかれいづるつゐで、茶をたしめる法師を訪ふに、とみに釜たぎり、宵の挽ためありとて、見ぬ世の友のなつかしげに、こち居たる躰にてもてなされけるに主の閑をや
もそれに傚にや。天つちのまゝを生いづる中に、古松二もとの屈曲、千とせの色をかこみ、蓬萊のしま根もいづこならん。さりや世〓〓に聞傳ふ武隈·あねは·曾根·辛崎の松といへども、明暮の眺とする事の遠く侍れば、主のこゝろざしの如くする事あらざめり。かゝるたのもしき旅のやどりを求しは、柴山の主のおもふどちの情なるめり。よてほ句一くさをものして筆をとゞむ。千とせ經ぬらん凉しく宿る松の蔭佐用の久保軒に主せられて月の客となる。この里は朝毎に霧ふかくたちて、蒙朧たるけしき、さながら春の俤にも似たりけり。薄霧に花の香あらんけふの月明月亭の止事を得ずして、みじか夜の賦を催せば、主にかづきものをかふて是非もなく打ふしぬ。我儘のひとり寐うれし旅の蚊や無曇亭にはじめてまかりけるに、ほとりの池水に卯花咲そひて月もいとゞあかゝりけるに、子規·水鷄の聲をまちて夜もいねがてに、聞そらすまじなどいと興ありける。短夜をきそふこゝろよ老の夢うとければうとし、問るれば又なつかし。花菖蒲津田の細江の便かな蝸國が父の閑亭にてすゞしさや垣のとなりは極樂寺柏木何某の栖る方は、海前にたゝヘ、山後に聳てとこしなへなり。仁智いづれによるにや。主の心ばへいと風流にして、庭前の樹〓〓系大書俳本日橙の色を木の間の冬の月ある人に對してもの妻き道のこりけり岩の霜千鳥聞其ちどりこそ生き佛鶯里亭うぐひすの巢の隣あり冬籠丹波なる誰かれの社中を示してたはむ程力いれけり雪の竹竹花香客あれや雪ふらぬ夜は竹の月主人客となりて雪降迄は竹の月牛の尾も殘らぬ色や春の草一圓相松蔭舍一軸花の中牛追ふものは牛を追ふ行平賛時雨聞て膓さぐる寐覺かな峰入の〓貝吹て雲踏わけよ花の跡かよひ小町の〓百夜かよふ初廿日は白牡丹布〓空も又空をやぶりて時鳥脫負きたりて、痩法師があやめ刈居る〓に讃か乞けるにいつの世に戀せし人ぞ菖蒲刈東圃亭鞠の〓揚まりや暫しかゝりし月の雲寒山十德夜遊びや二人が心月一ツ無 龜跡〓讃海老言花が一軸に髭にまで孫子重ねつかざり海老西行の〓に花の香や袈裟も衣も膓も十牛巴紋亭一軸發句集三光
瓢 の駒人ありて琵琶にや作る長瓢小原女の〓野の道を傳ひて山より薪をかつぎ出る明くれの姿は、ま〓とに孝ある人と見へ侍れば、いみじうなつかしく、戀はかゝる女にこそあなりけり。親も夫もいたゞく柴の木實哉{牀福錄壽賛此人のこぼせし種か福壽中達磨の〓見盡して不斷櫻と成にけり林間燗酒〓讃霜きえて酒の煙れる紅葉哉我白に自〓自讃をつかはして月今宵故人まぶたにうかむや夢螢狩の〓小坊主の智は水によるほたる哉通玄の〓一陽を出て走る や系大書俳本日賀野上を賀す五十まで母もつ人ぞ花の春常和八十の賀山鳥の尾のながき日を鳩の杖初雛の末永き心を桃さくら其奥床し夜の雛何某が初の端午を祝して家も身も幟立世を得たりけり布舟が暮櫻亭にかくれ住けるを賀して(き)春に逢ふ奇居虫の宿や梅さくら茶人宗巴八十の賀千年の綠を松の自在釜三木如三七十の賀つたへ置け桃咲宿の不老不死岸本社甫七十の賀千の自在釜茶と酒の世の中あかき帋衣哉五斗米のために腰が折ざるが故に田園のあるゝ日なく、常のこゝろなほ靜に、おのづからながき齡ひのはじめといへる、むそじあまりひとつの春をむかへけろ農家の翁、風居雅子をほぎどすとて耕して鶴をまねけよ杖の友脫負が雛はじめを賀して鶴も巢を今日かけ初めむ雛の宿たれをこひかれをまつべき身にしあらねど、此頃頭癰とかいへるやまひ大瓠ほどになれり。身にせまりていかむともなしがたかりけらし此大瓠の用ひかたあらんや。智あらばたぞ用る事を知らむ。是おほくは黃泉に歸る船につくらむか。船ばたや履ぬぎ捨る水の月世の人の風雅にをける、柳さくらのにしきをあらそひ、蝶鳥のおのがさま〓〓なる其風情の、いさゝか實におら入、虛にそこなふもの數をしらず。むかしの人のいと筋を傳へつゝあるかなきかにして、糸によるものならなくにと詠じ給ひしは、其頃のうた屑にといひもてはやせしも、今はその屑なるものも床しくぞ侍る。俳諧の句ル求るに、遍照があだに黑主がいやしきさまも、こゝろをとりはせられざれ。唯そのさま、人の面のどひとしからざるのたとへならんか。此心になく姿は千〓にわかつ。是幻術第一の糸筋なりけり。しかも血脉をつがざれば、土梗芻駒の、朝に形を得て、夕の雨にうちくさりたるにやあらん。風調より入も三九句發蘿靑集
のけ、我巢屈にあらざれば他の自在を知ず。こゝろより入ものは、幻術自他にをよぼすなり。予人に會する〓との夜、此幻術の箱をひらきて、眼前に海山をつくり、嚴寒に花を咲せ炎天に雪を降す。是無幻の幻なり。幻人幻境に對し、幻境もまた幻なり。何がしの翁の句ゝ、皆この境に入て玄くの玄なり。我又此境をしたふ。是が爲に月花のつぶねとなる。廣く衆に交りて此道に遊べる人を友とせんと、かけまくもかしこき天滿おほん神にちかへて筆を染侍る。花も實もたのまぬをとへ栗の本印題靑蘿集後靑蘿集二卷。其門人玉屑之所輯也。靑蘿世仕我藩。爲人灑落。好作諧歌。常放浪乎山水。未嘗以憂樂經心也。有故落魄爲僧。遂以諧歌自任。於是一時崇尙之徒。推以爲宗匠。後被宥得出入于藩。〓中之人。師事之者多。今玆遺稿成。書肆玄駒將梓之。携來請余一言。余於靑蘿爲姻族。喜玄駒之擧。因書卷末云爾。寛政七年乙卯中秋姫路鈴木昌則印〓齋藤生厚書〓〓靑蘿寛政九丁己歲京寺町二條下ル橘屋治兵衞大坂順慶町心齋橋東、入柏原屋與左衞門播州姫路元塩町隅屋喜右衞門書林屋喜右衞門はんげばほ半化坊發句集上·下關更
市中に居をしめられしが、山にかくれて故翁の、名利のさはりもあればと、東風曉夢を破て、遊子關を越んと聞へしも、實や我半化翁も、其はじめは中比の風に遊び、加の淺野川の二夜庵に古調の爲に破れ、終に深雪も、柴の戶の月や其儘あみだ坊と聞えしさびをつぎて、南無庵の古しへを慕ひ、其地に芭蕉堂を結び、閑ならん事を願ふといへども、門人·遊子日〓につどひ來り、閑居のいとまもなきに、うかれ神の立さらでや。ある日は湖邊に吟ひ、或時はいせ路をたど三とせあまり結びたる夢も、ふる越路に立出て苦しさに休めば蛔のたかりけり姨捨や石に置身も月のため閑居のいとまもなきに、うかれ神の或時はいせ路をたど漏ざるをたのみぞ雪の薦かぶりなど風吟し客中に年を越て、霞たつ春は都の花にうかれ、ほとゝぎすの一聲は淀の渡りに聞、月の〓きには須磨の浦をたづね、橋立の詠には無季の格もしからんと、りて、何ひとつ書集たる句もなかりしが、年比よみ捨られし種〓を拾ひつゞりて、好士の爲にもやとおもふ折ふ子が同友の車蓋、東行脚のかへるさ、四山に一囊をひらき、師の句ある事を告る。そが中にし、ひらき、橋立や守神なくば波越んかくいひ捨て、暫く此邊りになん周流せられける。三ヶ月の片羽でありく浮巢哉仰向て水のうら見る天の川宵闇沈〓眠らんとすれば月我にてる星石と成秋天高く風あるゝ是等の舊作をはぶくといへども、ともに聞知れる句をかぞふるに千餘章に及ぶ。しかはあれど多きは紛るゝ事もあらんなれば、纔にあつめて、滿ればかくるの〓とはりもとりが啼あづまの方もしたはるゝ折からは、甲信の音信に笠をかたぶけて、此間に年をかさね、ふたゝび武城に二夜庵をいとなみ、漂泊の勞を養れけるが、例のうかれ心よしらぬひの筑紫がた見まくほしと、又もや都にかへ化半をかたぶけて、此間に年をかさね、り、り給へば、したしき人〓の杖をとり笠をかくすに任せ、あらんなれば、受注意
日あればと、余は後篇にゆづるにはしかじと、四山亭の幡水禿筆をふるふ。于時天明丙午春半化坊發句集上狐狸屈仙ニ一樹有。其大ひなる事は海も山もみな下蔭やはなの春元日や此心にて世に居たし元日と思ひの儘の朝寐かな見る物は先朝日なり花の春元日や松靜なる東山正月や三日過れば人古し正月や皮足袋白き鍛冶の弟子當年は東西に行脚の志有ければ我惠方多し松しまいつくしま梅が香やおもふ〓となき朝朗梅咲や藪に捨たるすみだはら山蔭や烟の中にむめの花折盡す鬼もなき世ぞ野路の梅其大ひなる事立春梅軒の梅イば犬の吼にけり村はしや竹につらなる梅椿日の影や我肉ゆるき梅が下夕暮や飼猿下りて梅の月梅の月消へて窓もる匂ひかな折音は誰ぞや寐覺に梅匂ふ梅咲て門は海老やくにほひ哉臥龍梅角たれて香に眠る梅の形かな若菜野や赤裳引づる雪の上筐もる雪も若菜の野末哉黄鳥や起れば枝に狂ひ居る鶯やひとくと啼て籠の內朝朗去年の鶯啼にけり黄鳥の鳴かで來にけり臼の上鶯やうぐひす來啼餌摺鉢うぐひすや谷の下音を聞初る黄鳥の初音聞らんほとゝぎす松靜さやゆふ山まつの若みどりあらしにも直なる松の綠かな靑柳や酢賣の潜る門の 內釣人の蚓堀けり柳かげ舟留て語や嶋の柳かげ透し見る舟景色よし江の柳二本の柳吹結ふ風情かな遠里や柳一もと打曇る海の日の半見るよりうす霞山霞み海くれなゐのゆふべかな都邊や小袖に消ゆる春の雪春もまだむなしき雪の田面哉日晴ては燃るがどし春の雪春の雪仰向うちの眺かな白波となり行磯の雪解哉雪解迄は往來の踏し野竹かな雪消へて麥一寸の野づら哉春風に雪踏ぬらす や東山受付此柳霞若菜春の雪鶯集句發坊化半春風
集句發坊化半系大書俳本日春朧陽駒雲雉春雨月炎鳥雀子8築地より風匂ひけり朧月おぼろ夜や淡路の灯岸の松朧夜やみなあらはれし月ながら陽炎や黑きをもゆる灰汁の糟陽炎の跡に氣を吐宮守陽炎の外は動かぬ景色哉糸春雨やのた〓〓歸る孕かげろふは眠る狐の魂なる敷糸春雨や土あらはれし北の山春の夜や月に移れるさゞれ波有明や朧は消えて立興盡て山下る暮の朧かかげろふや消へてはもゆる波の隙陽炎やはかなきと見る人もなし道のべや馬糞の胡蝶花の蝶川波やあやふく越る蝶も有遊遊によろづ解行都の 亂〓〓て靜鹿烟な也哉哉月に啼心はなき歟夕雲雉子のみ曇らぬ雨の野面かな飛退て雉子啼けり野べの杭曙や里はくだかけ野は雉子目を覺す雉子も有らんきじの聲雉子啼てうらなき町としられけり聲たてゝ水飮む谷の雉子かな何事の寐覺なるらん夜の雉子草による駒驚かす雉子春雲雀啼て三つの光も見る日哉顏かくす雉子に日のさす野中哉薪盡て門を出れば春春駒鳥の日晴てとよむ林かな脫捨し田簑に春の日影哉春の日や鷗ねぶれる波の上の風はるかぜや草木に動く日の光リ日やや夕賑ふ海の肩に乘子の日雀哉哉幸酸、蜂菫菜の花猫春の雁田涅蝶地蛙戀打槃虫菫野やいざ胡坐して笛籟ん菜の花や千里をくまに咲續菜の花や遊女わけ行野の稻荷けふははや忘れにけりな猫の妻病雁も殘らで春の渚ヲ砂はむと浦人いへり春の雁艸〓〓の根を逆さまに田打哉鋤鍬も今を春邊の田面かな似我蜂や己が姿もかへり見ず六尺の人追ふ蜂の心か古寺や泪に兀るねはん像春雨や編笠着たる物囉ひ春うつくしき道有世也すみれ草一ツ家の猫も啼ゐる春邊哉つく〓〓と海見て居るや春の雁かゝる世に出ても說ず涅槃像雨堅田に至りて、故翁の吟をおもふ。や曉晴て花一三九七かななつ日の影や眠れる蝶に透通り蝶飛や小狐狂ふ岡のはらぬるゝ日をそこねもやらず蝶の羽木〓小草いろ〓〓の中に黑き蝶風止て蝶の出て來る野原哉今出し地虫哀れめ道の中今土を出てまじ〓〓と蛙かな蛙啼田の水うごく月夜蛇行とゞく春の日影や虫の穴むし追て日南へ出たる蛙哉山もとや蛙啼江も家の間腹動く蛙にうつる夕日かな高〓〓と駒鳥啼けり夜の松山夕雨や並び居て鍬にかゝるな田の蛙月の夜や石に登りて啼は串にさゝれて啼里や水田溢てとぶ盥の中に鳴蛙蛙哉蛙蛙
散かゝる櫻抱けり酒の醉戾りなば人にも告ん初ざくら糸ざくら身にふるゝ日はあらし哉知恩院に至りて町中に櫻分入るや知恩院散さくら我醉顏に冷たかれ散果し櫻に啼や山がらす御室にて櫻にも人にもうつる心かな我〓〓も花に袖する御室哉一日もかけずに來てや散さくらはじめて花供養いとなみて活て居て望の日の花備へけり櫻咲さくら散つゝ我老ぬ芭蕉堂にて時なれや花の中な る翁堂花戾り錢落したる坊主哉夕暮や花に猪追ふ 嵐山ぬしや誰垣よりうちも菫のみ鳥の巢となしけり妹が髮の落鳥の巢や或は木蔭中の蔭鳥の巢や梅うのはなもしらぬ內こゝろこめて巢作る鳥歟茨の奥鳥の巢やひとつ太きはほとゝぎす我儘に這はで飼るゝ桑子哉太布の袂に馴るゝ桑子かな櫻咲これぞ和國の景色哉入山の櫻咲たつ朝日かな御車や櫻が下の牛の聲根をよけて火焚"櫻に狂ふ人世を捨る山陰もなきさくら哉行暮て櫻にむせぶあらしかな醉覺て起れば月の山ざくらしたはしきものや櫻に白拍子礒山や櫻過行釣小舟雨の日や旅人越る櫻山系大書俳本日鳥巢桑子櫻ふたゝび嵐山にいたりて花に並ぶ松風光る夜と成ぬ雨そぼ〓〓花の梢に猿の尻故翁の吟を思ふ湖てるやまた吹入ぬ四方の花脚下〓風にまかせて、東關の方に葛坡君を携ふ車蓋を送る。道のため花に寐初よ岩まくらいろ〓〓に見するを花ぞ不二の雲山吹や終には流す花のかげ山ぶきや花ふくみ行魚もありやまぶきの花の下ゆく芥かなやまぶきや暫しかけ置洗ひ衣逆さまに咲や端山の花つゝじ夕山を根こぢて戾るつゝじ哉若草や臼をころがす翁有り柴垣や匂ひゆかしき蕗茗荷藪かげに延過しけり蕗の薹靑海苔や葭簾に付し蜑が軒春の野や鳥うつ人に我うとき鞘赤き長刀行や春の野邊川越て鳥の見てゐる燒野哉川中島にて川しまやつばな亂れて日は斜兩國なる遊水樓にて橋長し人多し實春日哉ゆふべ〓〓靜まる春の心かな驚かぬ風渡りけり春の暮海棠や戶ざせし儘の玉簾隱家や梨一もとの花曇岩端や五六寸なる藤の花摘〓〓て人あらはなる茶園哉田樂に土焦したり春の庭旅人の米ほしがるや里の春大津〓の鬼も佛も春邊哉夕川や鱒にうたれし獺の聲三八九山吹躑躅集句發坊化半雜
病中の吟瘦骨に梅が香うつる朝かな櫻過菜の花越て金閣寺鷄のよごれ來にけり春の水あかねさす藪を出けり春の水底のなき柄抄流れて春の水留別いざ行ん魂花に染るまで素州に訪れて春雨や老鳥は塒に眠るのみ留別ほどもなく又歸り來ん彌生山桃里亭に杖をとゞむる事三度留主に來ても居よき花の軒端哉養老亭に遊ぶ事三日起ふしに眺る春の野山かな棧谷亭を訪ふ鳥啼て谷間も春の木立哉(越)眞蝶が本腹が賀して春一の日や風におそれぬ床ばなれ夏拔し綿や鼠の巢ともなさばなせ寐て見れば疊のがたき袷かな晝過や何もせぬ身の更衣客中更衣きれ〓〓の綿流さばや衣がへ更衣我にも着する主かな產湯かけし佛にうつる朝日哉九日の躑躅しはびし卯月かな高からぬ花となり行卯月哉蚊の聲もうつ心なき四月かな旅行山陰や蕗の廣葉に雨の音靑葉若葉下は玉ちる岩の水晝も啼里には聞ずほとゝぎす更衣初夏立哉時鳥伊勢にて芦原や。神代はしらずほとゝぎす時鳥啼戾りけり山かづらほとゝぎす古き言魂思ふのみ待甲斐有二羽啼過るほとゝぎす郭公聲有かげの地を走るながなけとおだまきくる歟杜宇各靈山に登りて俳諧の羅漢ならべりほとゝぎす室の津室の津や千舟啼越すほとゝぎす我がわれをうらやむ去年の時鳥ほとゝぎすなかでさへよきに鳰の海大寺や京に來て啼閑居鳥胸をうつ思ひぞ旅のかんこ鳥山もとや市にきこゆるかんこ鳥啼〓ぶ友どりいかに閑居鳥閑居鳥ましらも叫ぶ小雨かないまだ白頭の雲水にもあらればなまなかに耳も聞へてかんこ鳥雨の夜や軒下かける蚊喰鳥牛吼る窓飛さる や蚊喰鳥花にまけて花も俯向牡丹かな白牡丹只一輪の盛りかな二三本芥子作りけり弱法師散にけり芥子のみに吹風も有歟白芥子の花透朝日夕日哉まだ咲ぬ芥子倒しけり柱賣芥子咲て狐の娵入月夜かな星の夜も月夜も百合の姿哉百合の花畫の姿はなかりけり俯向し百合に雨降垣根哉忍ぶ釣軒に寄添ふ女かな釣忍ぶいづくの岩を離來し嵯峨も今酒賣軒の釣忍ぶ古寺や葎の下の狐穴W.L.蚊喰鳥牡丹芥子百合閑居鳥忍草葎
夏艸もはつかに浪の汀かな川中島川嶋や夏かれ草に鳥の糞さりながら雨くらからぬ五月哉ひた〓〓と着物身につく五月雨漸有て又登りけり五月雲山寺や軒の下行五月雲田植哥中〓〓古き詞有り蛭游ぐ中にも馴て田植ける登りつめて落たり竹の蝸牛這渡る式〓が筆やかたつぶり角も牙も今朝哀なる火串哉曉は土にもへ入火串かな敲ともきかじ野川に啼水鷄溜池や漬木のうへに水鷄啼曙は水門潜る水鷄かな仰向て啼か水鷄も月の 下更行や螢地を這ふ町の中隣にはかなぐり捨し葎哉小北山にて聲あはれ葎の奧の梓弓くれ行や日陰の葵花直し日に動く葵まばゆき寐覺哉髭づらに葵かけたる祭かな神の葵地にかへされぬ後宴哉竹子や月を左右へ吹なびき竹の子もほど有らじ土のわれにけり篁やわけて今年の色綠り若竹やふしみの里の雨の色今年出し竹もかたまるあらし哉十万の軒やいづこのあやめ艸四辻や匂ひ吹みつあやめの日客中節句分越し笹を粽に見る日かな夏草や所〓〓にはなれ駒奈古跳望系大書俳本日英國語葵田植若竹蝸牛火串節句水雞な駒夏中螢草うてば螢亂るゝ古江哉飛螢舟に扇を揚にけり碎よと打さるものを螢かな蚊開車の子の門に泣ゐる蚊遣かな釣佗て水にぬれけり舟の蚊帳蚊の聲のむら竹洩るゝ烟りかな蓬生や君がためとて焚蚊遣下蔭や帋帳の中に鉦の音水鳥の巢つゝかれる迄魚のよる浮巢哉ゆられ〓〓終には鳰も巢立けり虫片羽燃て這あるきけり夏の虫筆留て打拂ひけり火取虫はつ蟬の今這登る榎かな所〓〓啼さす蟬に照日かな蟬啼て杉にも脂の流れけり軒に立て裾扣ゐる團かな水うつてあふぐもよしや澁團兩國にて金銀のうちわつらなる小舟哉日の影をおさへてねぶる團哉川狩や君と匍匐岩の上( )川狩や魚串立る石 の問つく〓〓と鵜の留りけり魚の籠鵜の面に川波かゝる火影哉晝顏やきのふの花は日に焦れ晝がほや花吸ふ虫も飛かへり晝兒は日のそみかゝる色なる歟夕顏や花より外はわきがたき夕がほや無似氣人の里わたり夕がほや鼠の傳ふ軒のつまあら凉し眠るためなる月の下ひとり居れば凉みの留主も凉しけれ凉風に眠り上戶のうねりけりほくち搗臼のわれのく暑哉暑き日や降んばふるぞと云ながら目覺けりうつゝに打し顏の蠅元·五川狩蚊鵜畫皃タ顏夏虫蟬凉集句發坊化牛團暑雜
六月やいたる所みな溫泉の流溫泉はあれど六月寒き深山哉溫泉の瀧溫泉も凉し我はた走る瀧の月日光中禪寺あら凉し四十八湖を渡る風同日光蚊も喰はで慈悲心鳥の鳴音哉日は更に月もかゞやく山凉しうらみの瀧ことによし裏みて潜る夏の瀧室の八しま煙たへて久しき宮の茂り哉親しらず親しらば通さじ夏の海ながら甲斐しら根百里來し甲斐有夏のしら根哉禪林家心すむ水有うへに夏の雨繭烹や身をかざるべき事でなし夏川や馬繋おくみをつくし夏川や岸に漁火の燃殘り夏川や笊抱へてゆく女慰に川渡りけり夏の月馬柄抄の錫そゝぎ行〓水哉大木を見てもどりけり夏の山たぐひなく夏の山水を見る日哉神子村や椿の下の紅のはな右左四角に麻の茂みかな丹波路や綿の花のみけふもみつ君とよむ竹にも啼やぎやう〓〓し夏の夕吹倒さるゝ風もがな日盛りや半バ曲りて種胡瓜山かげやふるめ童の蓬つみ水無月や屋根なき舟に身を焦シ水無月の限りを風の吹夜哉草津にて禪林降にあらず消ゆるにあらず夏の霜白山奉納神の柞雪の麓に茂りけり江の島嶋凉し汐うちあはすうへの月戶隱此山や夏のさくらに夏の雪淺間夏は猶もゆるか雲の淺間山殺生河原暑き日や蝶鳥落て石黃ミ留別炎天のくるしき數を便りせむ風薰る所〓〓に寐て行む或人を訪ひて風薰る奧の木立は何〓〓ぞ越の雪嶋の邊なる斧久の日光に住けるを尋て夏は猶思ひ增らん雪のしま日光にて身まかりける大路をいたなき跡に散るわくら葉を見る日哉ミ
有時はあるのすさみにして、隔りがちなるうち、世を去し妻の塚に詣て腹立る顏でも見たし玉祭り送り火や埋れぬ石のまだ煙る柳亭を訪ひて息災な我も來にけり玉まつりかのなき魂ならばかへらんと詠ける、あはれなど思ひ出て死なで歸る此夕暮に蓮の飯蟻の來るばかりぞ墓の瓜茄子蕣や手拭提し花見達土に這ふ朝顏は猶哀なり朝顏や淋しう寐れば起安く朝皃や同じ心の友も來ず凋までは朝顏だにも見ざりけり枝に葉に花の付たり雨の萩垣荒て犬踏分る小萩かな半化坊發句集下初穐何となく秋も一日過にけりとく起て鼻ひる僧や今朝の秋深艸にて秋立や店にころびし土人形秋もまだそことしわかぬ夜也けり今宵なくば石ともならん二ツほし年〓〓に思ひ增らんわかれ星またるればまたるゝもの歟ほしの戀星の戀空には老もなきやらん僞の世にまつられて二ツぼし切籠消えてあなめ〓〓や草の原露わけて切籠結ぶやうなひ松タ晴や切籠提行京の町夢に見るも魂棚近く寐し夜哉七夕朝顏灯籠萩玉祭押花となれり猪の臥野邊の萩捨石に花うつ萩のゆふべかな散にけり咲にけり萩の動くうちに旅行萩はらや花身に付けて分出る荻の聲舟は人なき夕ド哉波越や雫ながらに荻の聲朝あけや薄がもとの道者笠半散る尾花吹やむ月夜哉取付て地に付鳥や薄の穗露の木槿おもへば朝も哀也禰宣達は何觀ずるぞ木槿垣雨の野や人もすさめぬ女郞花折て見たり捨たり道の中の花山もとや馬沓の中に中の花武藏野や雲に咲入る中の花しら露やうつくしき夜と成しより椎の葉に露のみ盛りし旅寐哉谷陰や草より下の松の露露ちるや桂の里の臼の音傘さして霧分行や山法師朝霧や濡て起行野邊の駒舟漕や薄霧洩ゝる火はいづこ稻づまや靜ならざる秋の空稻妻やよく寐る人の草まくら秋風や酒の過たる顏もなし星多き夜はつよからず秋の風秋風や山邊に動く火の靑き松杉の常盤も秋は秋の風鳥羽の浦に至りて秋風や浮身を波に走りかね秋風にしら波つかむみさご哉秋風や蜑の呼聲械の音あふむ石にて秋風やうきはうつらぬあふむ石埋もれて啼や芥のきり〓〓す三·七霧荻稻妻薄秋風木權艸の花集句發坊化半露虫
今朝からは土に付けり種ふくべ蔓ながら瓢を抑く童かなけふの月空はかぎりもなかりけり明月や座頭の妻のかこち顏海原や目のをよばぬを月の隅良夜の雨月こひて雲も百度見る夜哉恨まじ月の桂の花の雨今宵なれや月にむかふも月の上名月や入山までもたどりつく阿漕が浦にて月に猶哀あこきが海の底再び此浦に來りて十六宵も月に阿漕はなかりけり十六宵や山にむかふて眠るうち戶明ば月赤き夜の野分哉海山の中に野分の庵り哉吹すれる竹の奧なる小夜砧いとゞ鳴地を吹にけり夜の風折〓〓や藻に啼むしの聲沈む月消へてむしはあらしの下音哉羅生門の邊にて簑虫の鬼の子も見ぬ九條哉月ひら〓〓落來る雁の翅かなはなれじと呼つぐ聲歟闇の雁仰向てまづ風情也雁一羽あれほどにひとしきもの歟天津雁天津雁小田に見る日は亂れけり夕暮や啼過る雁小田の雁初雁の瘦て餌をはむ磯田哉風流も先是からぞ稻の花見ぬ人のためにもなるや稻の花湖のほとりにて植たしや稻葉によするさゞれ浪見人もなき月の田每を苅身哉夜田苅や明て休らふ身でもなし瓢系大書俳本日月雁稻野分砧薄月や水行末の小夜ぎぬた松風やきぬた幽に谷の里浪高き夜や衣うつ蜑が軒客中身のうへも人にまかせて砧かなつたひ來し石の下より啼〓聲かはす〓隔る早瀨哉釣人にならびて川鹿聞夜哉啼止て鹿二ツゆく谷間かな岩端にいとゞやつれて雨の鹿山里や軒に來て啼夜半の鹿聲絕て足音近き小鹿かな數十疋峯越ゆくや晝の鹿見廻して又啼にけり月の鹿山はなやたちかへりつゝ鹿の鳴こがれ來て水にも入や谷の鹿啼絕て鹿のつくばふ夜明哉小男鹿のよび下る月の尾上かな耳立て啼音にむかふ男鹿哉秋も猶鴫のゆふべぞおもはるゝうづら啼野を走りけり赤鼠木つゝきや何の味ある山木原百舌啼て風腥き木の間哉日のさして鵙の贄見る葉裏哉風に猶あとなき鵙の印かな鷄頭は動きもやらず臼の音鷄頭や種のためとて打たゝき鷄頭に秋の哀はなかりけり菊の日や盛りは後の事ながら千世を經し古根も有らん谷の菊作り倦て今年は菊の山路哉菊の酒醒て高きに登りけり綿とれば菊となりたる朝かな一尺の菊の花見る浮世かなむさぼらぬ花の價や市の菊酒瓶に興じ入けり菊の花鳥川鹿雞頭鹿菊集句發坊化半
秋雨や追出す晝の濡鼠紅葉ゞや雲の下てる高雄山紅葉見や顏ひや〓〓と風渡る紅葉散て竹の中なる〓閑寺長岡に至りて長岡や蔭行我をてる紅葉山里や烟斜にうすもみぢ水錆江やうへは柞の薄紅葉ほの見るや岩にかゝれる蔦もみぢさし出の礒黄昏や水にさし出のうす紅葉むら端や黍がら折て風さはぐ穗屋の祭に至りて御射山やきのふは薄けふは里苅萱はまことに秋の花なるぞ石尊霧の袂に入や雨降山磯邊に至りて後の月十三夜と見初しもかくの空ならん我衣に洩る思ひ有り後の月後の月水を束ねしどきかな雨每に澁や拔なん柿の色靑柿の落盡しけり谷の坊苧生のうらなしと詠る邊にて有なしの實にも齒のなき翁哉秋の暮片枝の梨も落盡す守人なき木の實はみけり山烏我ために椎を器にもる山家哉壽山亭にて命永き樹や殊更に實を結ぶ露しぐれ時雨し跡の照る日哉折さして枝見る猿や露しぐれ秋雨やけふ菰槌の鉈作り或寺に老僧の佛彫居けるに秋雨に焚や佛の削リ屑四山亭に遊びて系大書俳本日紅葉木實雜露時雨秋雨屑雲雨降山穗並よき秋に鶴聞宮居哉酒折の宮もほどあらざれば火ともしの神もめづらん月今宵永き夜や目覺ても我かげ斗中の實や空しく土と成ばかり卯辰山麓にて花の香や桔梗にうつる人通り張金山秋の日やたることなくて飛鳥山卯山眺望山もとや櫻にかゝる秋の雲角田川聲も立ず野分の朝の都鳥行秋や見歸れば舟の跡もなし留別名殘多し秋もよし田を出る時散にけり柳縮ぬる時なれば夕雨や奧野ゝ里の忍ぶ中剃髮剃捨る白髪に露のうく日哉髮をろして間なきに別れ蚊のつよくさしけり捨坊主終に身を啼破るらん秋の蟬旅行草臥て月にも啼ず旅烏布施の海いにしへも月いにしへも布施の秋築小屋の火にもならぶや溜り水越中馬見井只ならぬ蹄の跡や水の月南坡庵を訪ふおもしろき庭や花野の中舍りけふや仲春下のまれきにしたがふといへ共、眠るのみ余事なければ木兎や何きゝためし事もなく留別便せん月に二見の硯石三ハ.旅烏集句發坊化半石
三八二秋風や川邊の庵に老二人東溪亭にて枕して紅葉見初るうらの山過去し素然、夢に發句を語けるになき人の發句きゝけり秋の雨小町有り式〓ありて、をみなの才ある國なりければ、今もまなばゞいこつなんぞおとる事のあらじと見へ婦人に送る。筆取て千艸の花におくるゝな稀月亭にまねかれけるに、酒は常の產にして、菊は主じの愛す所なれば流るゝも酒の泉歟菊の奧高野尾村にて椿の直なるを見出し、主じに是を望むに、こゝろよくあたへければ杖に切て實は捨て行椿哉皷が浦くれ行や皷が浦も秋の聲斗墨庵にて夢に發句を語ける冬朔日や日の有うちを夕時雨初しぐれ目にふれ身にもふれにけり驚かぬ網引のさまや初しぐれ時雨ゝや角まじへゐる野べの牛時雨ゝや竹かつぎゆく鳥羽繩手時雨ゝや牛に付たる油筒行雲のはし亂ツヽ初しぐれ土山や唄にもうたふはつしぐれ神祇釋〓といふ題に御首てる正面通リしぐれけりしぐるゝや宮に兀たる鬼女の面こがらしや日の梟の地に羽うつ木枯の中に靜けき朽木哉時雨聲凩木がらしや西山淺く夕附日かれ〓〓し野中に松のあらし哉枯て猶〓き野守が鏡かな捨果し景色でもなし冬木立此うへは折るゝばかりぞ冬木立雲起る谷の上なる冬木立きり〓〓す振落しけり炭俵何事もいはず炭賣翁かな聲立て氷を走る千鳥哉住なれし人はよく寐て小夜千鳥貫之のうき旅ゆかし啼ちどり聲かれて朝日に眠る千鳥哉水鳥や何はなくとも夕ながめ浮寐鳥岩に身をうつ夜もあらん月澄や音なき水に浮寐鳥霜滿て竹靜なる夜也けり初霜に木の葉撥搜し百舌鳥の啼山里や焚木の霜のもゆる音赤〓〓と霜氷リけり蕎麥の莖橋の霜誰が落してや炭二ツ妙義山白雲や禁は岩に霜柱岩鼻にて霜氷る岩の下道踏日かな四條川原にてならはせや霜夜を鼾く薦かぶり更行や氷を渡る獺の聲折沈む竹のうへなる氷リかな砥澤切くだく上は氷の砥山かな氷りけり實のらぬ稻の臥しまゝ我門にひとつの駒を得たり。千里の行先を壽く氷にもおくれはせまじ駒の聲衣が崎に至りてかく見るは氷らぬうち歟浪の不二諏訪湖枯野冬木立白は岩に霜柱かな炭氷千鳥水鳥集句發坊化半霜戸六五
曙や所〓〓に雪の塔舞扇雪にかざすや下川原日比見し松も深雪の高根哉其雄に訪れて踏分て何見る人ぞ雪の山文鵝亭にて閑さや垣の外なる 雪の舟留別驚てたつ日も遲し雪の山安田の綱渡リにて降ふるや雪をたぐりて渡し守いかならん祖師の心ぞ鉢扣鉢打月下の門をよぎりけり竹買に來た親父也鉢たゝき臘八や今に迷ひを傳ヘツ臘八や仰向ばはや星もなしたゞひとりすめる景色や冬の月寒月や狐なが啼地に倒る不二見んと氷に立や諏訪の海星きら〓〓氷となれるみをつくし白妙は遠山而已ぞ小雪ちる薄雪やまたかたちよき峯の松所〓〓雪の中より夕けぶりおなじ色を重〓〓て雪の山更行や雪に羽扣く鳥の音田のうへを啼迷ひけり雪の雁住ばすむ事ぞ谷間に雪の里沈ムほどは積らぬもの歟雪の舟猪の倒ふしけり雪のはら角振てあゆみもやらず雪の鹿雪ちら〓〓日に降暮て月に降此ために根はしがらむか雪の竹北山は小雪散らん軒端吹夕暮や雪を抓て枝の鳥北の雲黑きより雪の降初る見るうちに降うしなふや雪の梅系大書俳本日雪山の舟鉢抑臘八冬の月車蓋が艸戶を抑きて寒くとも戶ざすな庵の松の月枯芦の日に〓〓折て流れけりかれ〓〓や竹の中なる草の蔓歸り花一輪をしむ薪かな更行や机の下の桐火桶こつ〓〓と咳する人や帋〓橇やことにをかしき野夫の樣日影もる壁に動くや冬の蠅矢田の橋の邊にて冬の野や何と臥べき中の莖素然一周忌に廻る日や雪の樒に泪そむ留別語り足らぬ朝戶出寒き山邊哉一四年十氷柱なき軒にふたゝび入日哉有る宿に立よりて舍りうれし時雨乾かす我衣甲斐より信州へ越る數十丈見上れば岩の垂氷哉一本岩又は天の柱ともいふ所にて雲かゝる天の柱の冬木だち神無月廿日あまり、故翁の湖東行脚の跡を慕ひ、日野山の邊を過るに、剝れたる身には砧の響哉と聞へしも今はむかしにて、目出度御代のしるしなるにや。山も岡となり、林も畑とかはりて、しら波の煩ひもなき折から、紫英亭にいたりて、暫く時雨をはらす。剝れざる身に冬しらぬ舍り哉臘月曾陸亭をとぶらひはべるに、よろづまめやかにて、日もゆふぐれになりければかへらむとおもへば寒しやまの庵雜集句發坊化半三八
送別旅はさぞ土に臥日も有ぬべし金洞山雲埋む岩木の下の旅寐哉或人の宿にて木に草に花も實も有舍り哉車蓋、三聖の像を彫て、開眼の句を乞けるに、故翁の吟をおもひて月花の道守初ん聖達客中雲水やよろづに心とゞまらず雜之部目もたゆし白雲動く不二の形つゝしまん物聞山も軒近き江島去がたや夕日の不二に汐がしら中嶽つく〓〓と岩立神の杉間哉日光日面も日うらも照す宮居哉不斷櫻咲ば散散ば咲つゝ此さくら上部份俯向て聞やふしきの神の數七面奉納月花に神も數有面かな善光寺よごれたる我にも法の光りかな杖突坂步行にせん杖突坂のためし有系の旅寐哉月達も數有面かな秡天飛や雁の翅の我にはあらじを、針目衣引つくろひ、武藏野の月見まく、秋風たち初る比よりおのがすみ所出て、式しまの流汲こち〓〓の人〓〓を驚かし、一夜二夜と日をなんへにけり。こゝはも我大人十とせ餘り先に、杖曳給ひけるとなん。そが時書給へる〓との葉ども見るにあやに、あやしきまで雅かに、艸〓〓のさまありしを、こと〓にかひしるして、立歸る波の磯づたひ、栲領巾の白子なる宮崎氏に立よりて、そを白地に語に主じ早く近比の作をも集め置れければ、よろこぼひあはせて櫻木にえりぬ。おのがともがらは見るともあかめや。亭〓坊車蓋半化發句集半化文集俳諧世說天明七丁未正月吉旦皇都書林後編車蓋未刻未刻仝半化房選御幸町姉小路上ル町菱屋孫兵衞三條御幸町西〓入町菊舍太兵衞車仝蓋刻合集句發坊化半三七七
系大書俳本日曉臺句集げうだい上·下臥央編
曉臺先生發句集上臥央曰、世に三傑集といふもの有、とりてよむ。雪中·半化·暮雨二叟の句集なり。半·雪二叟の句、我是をしらず。吾暮雨叟の句をとる事、わづかに六百餘句、その馬の烏に啼、烏の馬に嘶もの、百七十餘句、いかにしてか其謬を正すべき。やっ、暮雨巷句集を木にえらば、世おのづから其訛を知べし。央曰、さる事有、師世に在せし時、これを梓上せん事を問、師いかゞおぼされけむ、許し給はず。予又曰、其事ありてその〓とをなす、はゞかりなかるべし。央、よろこんで暮雨巷句集を梓す。春之部ふり袖のやまとに長し日の始太箸や後にひかへし檜木山鏡餅母在して猶父戀し神の春楠もいはほと成てけり人中の龍駈出む四方のはる物わかれ、人語はじめておこる。元日やくらきより人あらはるゝ元旦龍門にありて、十〓のの日を歲旦るべし。央、士朗元旦龍門にありて、あふぐ忽然と活たり〓〓はつ日かげ武陵迎春としの名殘をしまむと再可子が樓上に遊ぶ夜、門くに鈴ふりならし、〓秡して大路をわたるものあり。三六一曉臺句集
五九五なさる。思ふ所紀氏が客中にあり。おしあゆはなくてもあらん干頭鱠松のひまほの〓〓見ゆるはなの春蟄蟲うごめきて春陽を伺ひ、閑人鎻て御慶を避く。むしけらもさし覗け此初霞元日の子の日めづらしとて人こを具し、東野に出、ともに小松をとりて根つかせて見せばやけふの子の日草若菜舟一ふしあれや歌之助京縞の頭巾で出たり薺うりわかなつむ人をしる哉鳥靜若菜つむ人落合ぬ紙や川わかなの日晝から雨と成にけりはつわかな鯉も切べき日なりけり此門を名乘してゆけ若菜摘雨中人日福や傘をさゝせてわか菜つみとし越の旅ゆきなりに辻はらひ(大)猶曙のけはひ見てむと酌て、大陽が待ふたりみたり、樓は隅出川の西岸に造り掛て、下總の國の限を見さけ、十字街頭に市聲をさぐれば、さながら〓して閑なり。我と人と深山ごゝろや初日影よろこびの雲見えそめて花のはるいはゞいはむあら玉の夜のはじめとも年頭元三の旦每に蕉翁の筆跡を開て、心ばかりの鏡もちひなど備へ、菴の壽を調るに、夫年はつとむる事の有て、かの一軸は宗祇法師が露の一字よりも、はかなくなしつ其料に宛ぬれば、きたなくも一行を謹書して、改る心の玉ともなせるなり。此心我蓬萊のはな 柑偶寓樂府臺に歸れば、年の壽をもて若菜此はな 柑年の壽をもて子松かげにならびてうたへはつな摘わかなの日三輪の酒うり出初たり腰みのや己が礒田の若菜かりこの宵、朝はひときは事替りて、さかゆく民の薺打はやす音のあやあるも、手つゝ成もさえ〓〓しく、一入ゆたけきおほむめぐみの皇朝こそ有がたけれ。玉簾にきこしめすらむ薺打と年のはるに春たちけるをけふの春きのふと過し初若なもどかしき梅二三日の荅かな梅咲て十日にたらぬ月夜かな火ともせばうら梅がちに見ゆるなり曉のうめがゝふくむ板戶哉御文庫のこなたおもてや梅の花かなぐつて捨る蔓ありうめのはな長嘯の名殘もあらむをかの梅浦のうめ花片つらにさきにけり梅折て僧歸るかたは雲深し突立てぬしなき杖や梅がもとうめちるや草堂に燈歸し行我宿のうめはいつさく梅の花ふし見にて梅林を出て懷に梅のつぼみ哉梅林によるのほこりや薄ぐもり正月十一日熱田踏哥梅がゝに鼻息寒し笏拍子うめがゝやつぼみはさまるはかま腰聖廟法樂四句信仰を漢土までもうめのかぜうめさくら落花を踏ぬはやし哉手向山有明ざくら咲に鳬花鳥のま〓をを筆のはやしかな八十賀梅柳八十からも壽むう め曉臺句集梅十からも壽受九五む
(子)武州八王寺星布曉のほしを緡りしやなぎかな隆達が破菅笠しめをのかつら長く傳はりぬ。是からみれば、あふみのやあだし浪、寄せてはかへる浪、淺づま卅の淺ましや、嗚呼、又の日は、誰にちぎりをかはして色を、まくらの耻かし、僞がちなる我床の山、よし夫とても世の中。こは北窓散人が已圖して、自此さら言を其肩にものせし風情もしたはしくてしのばるゝ人聞そへて柳かげ題里祭藪いりを獅子の口より見初けりやぶ入や木履踏かく人ごゝろはるのゆき扇ではらふ衣紋かな春の雪飛鴈の行ヲ降崩し馬の尾をむすび揚たる雪間哉大黑の讃うめやなぎ三にさかづき初音の日題〓梅水潜る節くれうめのした枝かな花はひとへふしくれうめの古根よりほつかりと黃ばみ出たり柳の芽二日見ぬ程や柳のおもかはりやゝしばし氣ぶりをふくむやなぎかなのら〓〓と柳見に行つゝみ哉太刀の柄に手かけて潜る柳かな吹あるゝ竹の中より糸やなぎ簾前孤柳見所はきのふをとつ日柳の芽さし柳はかなきものゝ氣力かな靑柳に山路のこゝろはなれたり人去て野中の柳風くらし火燈があぶらかけたるやなぎかな箭火のとぼり付べき柳哉柳藪入春雪雪解雪解て沖中川を行方かなゆきとけや深山曇を啼鳥月曇る端山の雪解なくからす古草やはるをり〓〓は雪の露日の春のちまたは風の光り哉はるの日や梅のあたりのつゞみ箱袖だけのまつの中行春日哉秋は暮なむとする程燈とく立たるがよし。遲ければ老の心をへらして悲し。冬は又猶寒く、夏はうち渡る人のたそやかれやと定かに見わかるほどに、遠くも近くもきよげに、燈しきらめきたるぞ涼しさ又あらじ。春こそ夫にはかはりめあなれ。柳のをぐらく、花のしら〓〓とにほひ殘つ、見やるかたはものわかず暮しづみて、風のさゝやかにおもてはこび、水は音のみ山ははるかにひさろまでも、はしゐしたる春のこゝろこそいとふかけれ。膝のまはりかいくらみぬるまゝ、燭などとり來たる本意なし。春のくれ我ためにとぼし遲かれ春の暮こゝろほどうごくものなし春の暮古琴やねずみ出て行はるのくれはるのくれよめりぎつねのくさのあめ夜春の夜の月も推なり梅柳はるの夜の月より明て天龍寺春のよを雁おひあかす野守かなはるの夜ぞひとつは雁もかへり來よ春の夜や何事もなき三輪の杉はるのよのうそひめ戀ふる梟歟伊勢神宮參する人をおくりて春の夜の月に宿かれ花柑子はるのよやぬしなきさまの捨車我們能閨ふかく牡丹にいどむ春の情三九五春日春夜曉臺句集
うぐひすの聲くれて後日は入ぬ鶯や竹の園生に何のたねうぐひすのほそ脛高に山路かなうぐひすやものゝまぎれに夕鳴す鶯と兒見合する折戶哉軒ちかしきのふの初音うぐひす歟うぐひすの七ツとまりや〓閑寺鶯や人やり過す跡の聲うぐひすの鳴てかくれる伏家かな鶯のひよひと皃出す枯葉哉うぐひすのけろ〓〓と初音つくり哉うぐひすはみだれ聲なり小關越えうぐひすや目をほちつかす風のさえ鶯の咽ふくらめしゆふ日かな八重霞日落ていまだ夜ならず來てみればかすみの松に日暮たり湖上吟霞凝てものあらはなるうなへ哉ともし火にこがるゝ蝶を夢路かな竹の葉の重るやとしの二日月うぐひすの魂〓も奪ふかうめと月うめに月月をうらなる夜なりけり梅に月朗詠うたふ人あらむ松とりて朔日ごろの松の月くらき方はけぶるがごとしはるの月へつたりとかすみかゝれり二日月おぼろ月浪のうき鯛よるさへやおぼろ月宇治の山邊を行ひとりおぼろ〓〓ゆき一すぢのほそ江哉大ぞらにかりがねくらし春の月竹にふくろうの〓讀衆鳥花に醉り。ひとり竹間にすめるものはつく〓〓と何おもふ竹の月朧けふはとくはつねうぐひすねぐらせよ鶯の觜あらひせり紙や川春月霞鶯山くれて霞下せり大炊川水の面にかすむ日の形みぇにけり浦くれてかすみながらに火灯りぬかすみこめて薄むらさきの匂ひ哉はる風の夜はあらしにみだれけり里の子の松葉いたゞく春の風春風や淺田の小浪あさみどりはるかぜに吹れて落す羽織かな高圓や峯の春風くも結ぶ雞の尾に見るまでぞはるのかぜはるかぜにおさるゝ美女のいかりかな明る野や兎の尻に春の風鳥の羽をみれば行なりはるの水春の水東寺の西にみる日かなうと〓〓し日の形みえて春の水頭巾着て誰やらわたるはるの水亡父三十三囘めぐり來て髮膚にかゝる春の水烏雀、屋をめぐつて嚶〓と鳴、葛〓、根を絕て末葉色を失ふ。平安に夜半亭蕪村子なく成ければ、俳諧の子等妙福の志を山のごと積て、台嶺の麓金福精舍に法莚をまうく遊ときこえしかば、年頃交游忘年の情に堪ず。手のものかいやり、國を出るより耳後に風を起し、其日をあてゝ洛に至り、ともに追慕の營をなす。又うへもなき峯のあらし、法は一味のともし火にかゝれば、梵聲岩にあたつて〓響あり。人語水に落て烟霞を披く。是皆故人が趣なれげぞ、周兩そゞろに我を率て對すると視れば幻〓、たゞ孤松高調有のみ。影とらむとすればはるの水黃なり隅田川漁火ト 下しらうをの骨身を浹すかゞりかな三九七春風春水曉臺句集白魚
松かぜのうしろになりぬ几巾出かはりや君が花田の五尺切たれ〓〓が夢うらきかむ春の雨春雨や枯木の上を降くらし旅人の夜川や越るはるの雨癪はるの雨肝積持をなだめけり春雨や猿子をいだく齒朶の露手はじめは翌の茶山をはるの雨蓴あり藻魚いとより春の雨倒木の芽を張岸のくづれ哉蘆の芽に鴈の古屎なつかしや若草の中にこもれりをみなへしわかくさやくづれ車の崩れより靑艸の上につもれる日數かな龍門誰人ぞ芹をさげこむ竹の門蛭肥て芹ふしたちぬ日向水茅ばなぬく小婚が禿いや瘦ししら魚やうき世の闇に目をひらき軒うらや干鱈かけたる鹿の角信樂の茶うりがさげし干鱈かな春の海邊何に集る人一里はるの海の眞中に有て目覺たり卵吸ふ顏に罪なしはるの人日くれたり三井寺下る春のひと春の情うち返す三井のあらし哉はる寒し風の笹山ひるがへり春さむし貧女がこぼす袋米人疎し蚕飼ふ女賢ならん七條あたりにて夕がほの種うゝや誰古屋しき花か實か接木をめさる人心涅槃會や雲下り來る音羽山桂裏子七十賀千代傳ふ親は親なり芋がしら切てやるこゝろとなれやいかのぼり出春代雨春雜木の芽風巾夜あらしや光偃す茅花原負ふた子に蕨をりては持せけるわらび折に來ばこよ菴は叩鉦奧山や人住あればすみれぐさ菫つめばちひさき春のこゝろかな二軒茶屋といへるを皆く題して打ちらす酒千變すはなすみれ竹の葉の花にかさなる菫かな組落て雀はなかむすみれかななつかしや燒野のすみれ活かへる人の親のやけ野の雉子うちにける夜のありか又鳴かはすきゞすかなつま戀やひと羽に雉子の山移りねむり〓〓さして行方や雉子の聲三弦の川舟過てきじの聲きじ鳴やうしろは須磨の藻塩草夜をこめて關屋にさむし雉子の聲茨五尺雉子のとまりあらはなり名しるしの詞道能つとむる時は名四隅に渡り、人能和、和ればよく人を益す。よく勤て風雅の信を忘れざれとなり。雲ひくし日暮てくれぬ雉子の聲雨雲やをぐさかざして鳴ひばり猪垣の崩れ口よりあげひばり舞ひばり山シ家の煙はなれたり園外に一室あり、号て松齋といふ。四壁三疊、めぐりに春艸なびき合て、水南にながれ又東に流る。菜の花ちら〓〓と咲まじれば、田土叩く女どものだみ聲に古唄うたひ出、兎とらへるあらし、このまふしかくれ、雲雀鳴夕ながめも、倉廩はつかにそむけ、市聲百歩を隔ざれば、かならずひとつとして打見うち聞にはあらねど、閑にひかれて唯我おもふ所也。顯るゝもの、き三九九蕨董雲雀燒野雉子曉臺句集
歸る雁蝦夷が矢先に待るゝなゆき果しとおもへば雨夜の雁ひとつ六十三春寒し比良の日向歸るかり西山や日の上を行雁のすぢわかれ〓〓まつ山越えて歸るかりおのれ曉臺、いへの國に母もたり。夜に添日にそひ、おもひまぎるゝかたもなくて啼こゑの母ありときこゆ雲に雁降雨は夜を行鴈のなみだかも雨夜の鴈なきかさなりて歸るなり紅梅や照日降日の中一日はなみちてうす紅梅となりにけり紅梅や檜垣崩れておぼろ月赤椿咲し眞下ヘ落にけり滴せばしづくと絕むなしの花海棠や誰が置たる楢枕田にしうる聲や竹田の痩女と臥はめて盡る期あり。心に觀るものは春の日の長しと、いづれしなあらたまり、夜色又情を移せり。松齋こ〓一松齋、一躍して雅境に入。陽炎の物みな風のひかりかなかげろふにほの有明の月高しかげろふの中來てくらむ戶口かな陽炎やはや水蓼のけしき立かげろふの蜉蝣を育る晴間かな陽炎やまだかた形のむしの息かげろふや卵の虫の巢を出る琴字が墓前にてかくばかりかげろふも胸をさすもの歟戀ねこのほだしも廿日ばかり也こひ猫やわが古寺になき別れ蝶とんで風なき日ともみえざりき掬はれて行風情ありかぜの蝶ともし火にこがるゝ蝶を夢路かな春鴈紅梅猫戀椿梨海胡蝶子棠央がかつぎ出て、是におとの句あれといへるに親なしと答ふ淀野の田螺うり水口にころがりを打田にしかな田にし鳴を田のたむほゝ打ほけぬ蓬生に身をうち付てなく蛙簪にかはづの小腕おさへたり果なしや今朝に成てもなく蛙へしをれの河竹傳ふかはづ哉菜のはなや人遠く藪疊はりなの花や半見え行葬の人菜のはなに目當の柳風くらし轍〓雨の菜のはなながるなり山吹の小家なの花の街かな菜の花や市なぐれ行餒烏賊なのはなやかへり見すれば邯鄲里菜の花のはつ〓〓にみゆる都かななのはなやくるればもとの朝ぼらけ是におとの句あ城春にして菜のはなさきぬ外廓なのはなにしのび女の戶出哉菜の花の脊戶を流るゝ雨間かななのはなや南は靑く日はゆふべ菜の花や是等も地主の木の間よりなの花や盃持て取うつり山もりがなのはなさきぬ鯨汁年〓〓や里の山畑うちのぼり畑うちや嗚呼陵のまつの陰臥央が住居ましける時子母錢や置て巢立る軒乙鳥燕の面なぬらしそ浪がしら柳に燕の〓讃花の醉さましに來たか夕つばめしのび路のやまぶきかゝる髻かな題山家芋汗に八重山吹の詠めかな白雞の山ぶきちらす逆毛哉四〇〇蛙菜花曉臺句集山吹
神垣にもゝみる里はなかりけりふし見にて桃つら〓〓花盡る處水長し梅さくら、多く名のためにめぐりを圍れ、あら垣結そへ、將世に朽なむとする程、若やかにうゑつぎなどせられて、人のため又苦しき類ひ歟。桃のはなひとり古人を名乘せず堀尾氏が室六十賀うはさせば桃に王母が影さゝむ桃の花折手はづれて流しけり月による氣色ともなくもゝの花此ごろは夜雨〓〓や桃のはな初はなや花の邊の落葉かき花のもとたちされば四方は夕曇り土佐が〓の顏に扇やはな見幕雨日化鳥山に遊ぶ中〓〓に寒きぞ花にたのみある散ときはやまぶき低きうらみ哉おほかたに山吹ちりて起ならひ三月烏賊の墨ながるゝ小家の節句哉雛の間にとられてくらきほとけかなひなの間の客や桃かたさくらかた不夜樓にて雛のうたげ齡の欠伸ぞ恨なる醉ざめやほのかにみゆるひなのかほ齋坊を今朝は雛の一座哉加茂の下流に遊びて誰か有汐干うつさば河原松ある人の曲水の宴まねびて遊ぶと聞えけるに、句を乞れて曲水に秀句の遲參氣色ありとり合せ目もみえず成て哀也關守は〓〓いづこもゝのはな四五尺の桃はなさきぬ草の中雛華雞桃合雜惟駒が別業に遊ぶ花に來て我は都のたらしかな再び家の國にかへりて華は根に我に五尺の地を得たり入門の其風·于當によすおもへたゞ心はなれてはなもなし大脇謝大いたはりに臥て四十余日、復せずして沒す。我相ちなむ事四十余年、悲しいかな、共に客中にありて夜に日に抱きたすけ、終に臨終の唱名をすゝむ。嗚呼、天年とあらば、さすがに交情の思ひたれりとせむか。其友を待て柩のうごかざりし遠きためし、今日唯今の上にもしからん。悲しい哉、客中鳥雀屋をめぐつて其聲嚶く。于時天明壬寅二月廿日於東武亡命哀傷櫻十詠野送りして歸りあひけりはつざくら四〇三鴨の下流水樓に遊びて、廿日の月霞いと深く負ひてをぐらく、さしのぼるなみて春の哀れ花の東に見る夜哉洛東寺院に遊ぶはなざかりさゝらに狂ふ聖あれ東山の花見にまかり、やすらひをれる程、雨のさゝと降出ければ、手にあふもの引かづき、我も人も木がくれぬ。花人をうづみてひとりまつの雨夕雨やはなのあたりをうちかすみものなしが世を行形に花見がほ都貢が宮所に赴くを華を踏て岩に角なし鈴鹿山宰馬が一周忌花鳥の中も亡日はめぐるかな故常が父身まかりける悼春のはな法リのたすけとみるまでぞ曉臺句集
四〇四目にいたきけぶりの末やゆふざくら夜ざくらにむかし泣よるひとり哉風のさくら祈も終に見直さず雨のさくらきのふをおもふ現人さめ〓〓と淚ふくめり朝ざくら嗚呼さくら枳ともならで江の東かはり果し杖よわらじよやま櫻きさらぎの有明ざくら見果けりをらばをれ遲かれ疾かれ散さくら双が岡懷舊華と我とわれと櫻の影ふたり鈴鹿山にて深山路やさくらは花にあらはるゝ山中辻堂に憩て千日 の櫻さき出ぬ叩鉦鈴鹿峠は伊勢と近江にさかふ花のうへに海少あれいせ櫻寒くあれど走井のさくら咲にけり嵐山けふ來ずばきのふの花のあらし山花に歎き又花を呵す天龍寺戀〓とはなにしづめりあらし山日くれて稻荷山にあそぶ散をこそ夜のさくらの誠なれやすらひ祭見にまかりてやすらひの花よ踏れなあとなる子春も三日立ぬ。つと鷗集を訪ひ侍りき。主は梁塵抄なむ顏の邊りに押當、轉寐をれりけるに西寺のさくら〓來よ老鼠下臥やさくらをいだく月の暈半天やさくらにかゝる月の暈廿年を經て老婆に逢ふ散につけさくらにとしを語り合ちるは〓〓嵐に峯のはなのこゑ遊台嶺系大書俳本日千鉦うへもなき此世のさくら咲にけりをとつ日の花の中より遲ざくら枇杷園中花見ほつとりと咲しづまりぬおそ櫻磯山やさくらのかげのみさご鮓影すむやうぐひながれて散さくら我に續でうろたへものや夕櫻園亞相公の御前に有ける日、南圓堂の櫻の色もうるはしきを、紙におしたるまゝにたびたまひける時むかし今のにほひいたゞく櫻かな寬政庚戌二月、みよしのゝ山ぶみせばやと思ひたてるより、くつあゆび片結びに結びもあへず、先佐屋とまりに仙兒亭を驚かし、旅心定れば家ざくら有明の月とみて立むみよしのゝ山踏してはるかに、南帝の御廟を拜しけるに、納言宰相の名をだに見る影もなき叢に埋めば、往車岡兩とし、幻にむかへてたゞ恐みかなしめるたり。鳥聲を呑て地に有春の雲いかひ·轟の里を隔し櫻の渡しをこゆるに、山は遠からず近からず。妹なり背也心通はして山鳥のねに行かたやよしの川事紅子東行をおくる君きそと待か御坂のおそざくら東行留別この別山ぶき鈍くふぢ愚なり宇都の山にてうつの山一日春と別れたり行春やつひに根付しさかの松ゆくはるや駈出しがほの古兜巾風おもく人甘くなりて春くれぬどちへ行雲とも見えず春一日買·〇五雲曉臺句集
むかふ齒のひとり落たり更衣武藏の玉川が越る日玉川の浪かけてけりころもがへよしのゝ山廻りせしに、〓閑忘れがたきは、圓居の旧栖、とく〓〓の〓水。かへをしの衣や苔の露しめりほとゝぎす其夜を風のさわがしき郭公野山をものに戯れす時鳥なき行夜半の一かすみ長安万戶子規一聲ほとゝぎす南さかりに鄙くもり東都の子規ハ啼かさなりて風情おさむにかつしかに行てきかばや郭公かはかふの聲やつゞきて時鳥蜀魂古巢は泊瀨かみよしのかほとゝぎす翌も忘れな槇ばしら都貢が挽歌春をしと見やれば落る木の葉有とりよれぬ春の行方や雲に鳥生洲に遊びて鱗や翌の命をくれの春春の名殘水がくれて香はよもためじはるといへど火ともすほどに暮し哉倫五が一周忌新茶古茶夢一とせをかたる日ぞ春は行何やらひまの明ごゝろ系大書俳本日郭公夏之部更衣ひとり笑み行座頭の坊更衣いきたうなりし隅田川まり子にて更衣まづ宗長の塚に 詣ッ袷買ふて京を出たり妾もの幸の謠講なりころもがへ酒飮の 膝晝過ぬ更衣更衣ほとゝぎす棺に物を書やらむ子規憎しとおもひ捨し夜に時鳥終に憎しとおもふ夜や日比經て鳴日に疎し郭公ほとゝぎす聞おくるゝも今幾夜ほとゝぎすあらしにかゝる夜の聲聲くらし人まどはせのほとゝぎす子規啼やぬなはの薄加減故人台界子は、もと鐙おさへもしつ、くつばみかいとらへし友として、しかも道の兄なり。ひとヽせ我身上の變にかゝりて、他の國にさすらふ事廿とせまり、亡人甞て俳諧にすゝみ一派に名あり。我再び〓に歸る。台子沒す。されば一旦一夕雅情をまじへざる、三重商遺恨是也。其男岱靑子繼て風流にすゝみ、道を予に隨て學ぶ。道の巧拙をもて靈、不滿の白眼する〓となかれ。予ひとたび天下の會頭と成て、嗅けれども名四方に有。是をもて足れりとせよ。聞、ことし今月忌辰にあたつて孝子岱靑旧知を催し、法莚の俳諧をつとむと、鹽魯酒六五郞往事渺茫三十余年0ほとゝぎす返せむかしをしのぶ山子規啼や有磯の浪がしら郭公鳴や虚空を大ごゝろ蜀魂ひるはねぶりも落ぬべし曉に魂入ぬほとゝぎす十日ほど淡路をさらず郭公天明己巳二月夢想一題二句御庭上の二樹此所夢中に不調橘やまたうへもなきほとゝぎす花さくら時に左近の子規六月八日大津より古關越えして初て郭公を聞曉臺句集同·五
銅駝殿中にて俳諧つかふまつりける日、老人白圖が此道に志深かりけるによりて居士と申事、台命にまかせて龐居士が衣に傚へひとへけし嵯峨にてしら芥子に焚火移ふや嵯峨峨の町汐かぜや砂ふきかゝるけしの花めら〓〓と火さゝば燃む一重芥子けし咲て並能なれば散初め鼻紙に足ふく人や杜若鏡立て見ばみむ花よかきつばたむかし女はらからすめり杜若わりなさや道〓〓開くかきつばたすつかりと切ものにしてかきつばたかきつばた穗麥の髭に立ならび芍藥やはきもの失る水驛芍藥に甕すゑたる旅路かなうぐひすのみだれごゝろやほとゝぎす焦尾墓前逢ぬうらみ血を吐までぞ郭公得がたき香木一片をわかち給へける菊溪の主へ申送るうすけぶり雪にきくかなほとゝぎすほろ〓〓と夏の落葉やかんこ鳥客中閑こどり我行かたへなきうつりかんこ鳥啼や花なき野にもあらず人見ずば汝もなくまじ閑古鳥草ほこやゆふ越えゆけばかんこ鳥都鳥の我を呼かも松の奧家に答ふ聲ともきけり都鳥華暮て月を抱けり白ぼたんはなやかにしづかなるものは牡丹哉かげろふにゆらるゝけしのひとへかな露たかき麥の見こしや芥子の花系大書俳本日閑古鳥杜若牡丹罌粟夏艸壁やれて有たけ艸の四月哉宰馬が身まかりけるを悼壬寅三月廿一日亡命四月四日東武ニ告死のみちや我も百里は遠からずあはれ野や五形にもどす花の露卯の花の草にかゝれりにはか水うのはなの中行蓑のしづく哉山家にやどるうのはなや妻木が中の爐の明り麥かれて夏野おとろふるけしき哉宵闇ぞ最中也けるむぎの秋花御堂賣憎がエミ凡ならずはつ瀨山一夏詩病儈あらんみじか夜や人現なき茶師が許月は月夜は短夜と別れけり短夜やいつ蕣のかいわり葉冷酒一盃鮮肉十片板の間のはな盜人よはつがつを又嬉しけふの寐覺ははつ鰹鰹よぶ浪よあらしよ屋かた舟下〓の下のかざしもあふひ祭かな花七分若紫にわか葉さす人媚て朝宴す新樹陰わかばして浮世に心うつり哉若葉山ほとけとみしは古狸雨雲のかき亂し行若葉かなわかばして水とり雲のいそぎ哉葛のわか葉吹切て行嵐かな雪を嚙て一峯こえぬ夏木立みどり長く夕雨廻るあらし山桑葉こく盲かはゆき蠶飼かな伊勢世義寺にて水札の子の淺田に渡る夕かな牛舟やたけの子時の佐渡便り笋やひと夜にかつぐ八重葎わか竹は月に養ふ氣しきかな同〇·葵若祭葉卯の花夏麥灌ー短野夏木立夏雜佛夏夜曉臺句集筍松魚若竹
若たけや一宇の灯深からず草臥や百合になぐさむ鳳來寺空ざまにゆり咲て日を禀るかな見る人のみるものにせよ金銀花針の有こゝろに蓼のほそ葉哉きのふ見し妹が垣根の花あやめ花あやめ五尺の露をあぐるかなはなあやあ五尺曇りの薄匂ひ蟹取歌蟹とり〓〓澤蟹のさわたるきはみさわたりて澤の小つゝら花あやめあやめしどろにふんとろん扨しもいくら狩得てし子をとられぬるおや蟹の八ッの足ずりあはれしも龍泉の水を出て、さゞれ石の巖に甲を並べしが、今は龍門の泥に眼をぬぐひて、鋏いと鈍からむ。聲あらば汝あなうと音にも鳴らし。子をとられぬる親蟹の、泪や泡と吹ぬらん。仇かは腰の黍團子、蟹取〓〓猿が島かおもひしるらめ、思ひわくらめ。夕雨やをかに出揃ふ蟹の穴淺香にてかつ色やかつみかけ行負具足客中あやめかけて草にやつれし枕哉一町の貧者先だつのぼりかな草の戶のくさより出て蓬ふく藥玉やむすびてひさるみだれ箱綜はけて淀のゝあらしわたるかなくらべ馬神たのみとぞみえにける埒明て目の塵はらふ競馬哉(三四)竹植て注連にさすはや琴の糸竹うゑて元政坊をおもふかな女子をうしなへる沙漠を悼辻がはな目なくなりたき思ひあらむかたびらに松葉さゝるゝ空寐哉塩鮭のあぶらたるなり五月雨百合金庫氏蓼空間違端午藥粽竸玉さわたるきはみさわたりてあやめしどろにふんとろん子をとられぬるおや蟹の馬竹醉日惟子五月雨行方なき蟻のすまひや五月雨五月雨やひとりはなるゝ弓の弦文車や寄ては返すさつきあめさみだれや岸の山吹ふりしづめ鳥の子の卵出しより五月雨燐ともしらでなつかしさつきあめしら紙にしむ心地せり五月やみかはほりや古き軒端の釣しのぶ蝙蝠や月の邊を立さらず實なき夜學と見ゆる〓かな蚊ばしらや棗の花の散あたりかの聲の夕に雲をおこしけり利は得べし、むさぼるべからず、世上の人樂しいか打手の下の蚊のこゝろ唐までもうつり行らむ蠅の足はへにくしこゝろの先へたち廻り丈芝坊がみちのくへ歸るを送る二とせや身に添ふ蠅も打て去レ伊豫の國松山の蘭芝、大和の國廻りして再び都に歸りのぼり、兎もし角もし書集めし日記やうの物を見るに、思ひさす端〓能意に協て聞ゆれば袖に見むみよしのゝ蚤三輪の蟻蚤を追ふこゝろや唐のよし野まで株木瓜や蟻の巢作る五月山蜂の讃身の露の甘きには似ぬこゝろかな纔なる身のたのみより蜂おこる安達が原黑塚や蚋旅人を追ひまはる初蟬や初瀨の雲のたえ間より薄雲の山路をすますせみの聲せみ鳴て梢の蛙おちにけりほたるうりすゞしの頭巾着たりけり日二五月闇蝙蝠〓蚊曉臺句集蟬蠅螢
かづらきの皇子よりや奧の田植うた酌つゝや奧の田うゑのにひしほりつらり〓〓うゑ田の緣の百からす我ものに植田の蛙啼つのるつまなしのさす手引手や早苗舟越の磯輪づたひにさをとめはみな海士が家の出立かな海士が業濱出のさなへとりにけりさをとめの讃鳩の巢に吹とらるゝな田うゑがさあぢさゐやよれば蚊の鳴花のうら紫陽花の日和なるべし村ぐもりあぢさゐに喪屋の灯うつるなり紫陽花やおもひ忘れし跡の色あぢさゐや晝も蚯蚓のくもり聲とりよれぬあぢさゐ花のこゝろやな葩を葉におく風の蓮かな草あらふ流の末や苔しみづ螢三ッ二ッはものゝなつかしき舟中盃のうへに吹るゝほたるかないふことのきこえてや高く飛ほたる螢火や風の笹山吹おろし瀨多·石山のあたりの螢を狩て、はる〓〓人のつとに得させけるを日頃籠にやしなひ、夜每母のながめに備置つれど、ひたと死うせけるが悲しみ給へば、ある夜〓と〓〓〓く籠をふるひてはなちやるとて魂ならば歸らめ草に行ほたる水雞啼宿とこたへり妾もの我やどの澤浮さきぬくひなゝけたのみなき角としおもへ蝸牛おもひ得たり竹三竿にかたつむり深草の鶉ともならでひきの聲田うゑ女のころびて獨かへりけり系大書俳本日寒鹿児に水雞蝸牛墓田蓮〓植水汲てしれ命にかゝる苔〓水此奧に聖おはしぬ苔の花桐のはな寺は桂の里はづれ色に香に桐控してはなに凝さをしかの子を立かくす箭先かな山本や鹿の子迷はす鵜のかゞり曉は寒いやうなりうのかゞりはなれ鵜の火を得さらぬも泪かな雨一時ぅのがりなづむにごり哉山ふみの錫にかけたり蔓いちご李子や供笥をこぼるゝ敷かはら鞍つぼに酒吸ふ門やかきの花志貨の山ぶみして澁かきの花ずり衣名のりせよ鮮うりのかざしにとれや花樗漉水の雫かすりてはなおほち菰鞍の見せ馬たてりはな樗五月十四日也けり。故もなく餅搗まいかと人〓がいひあつまりて、二臼三曰搗靑梅に臼まはしこむ餅あそび十ヲたらず野中の梅の黃ミけり浮海松のしほよりからきよるべかな藻のはなに水とり雲のかゝりけりもの花や引かけて行ぬれ鐙萍や夜は稻妻の只をかずすは〓〓と夜は明安し麻〓麻かりや白髪かしらのあらはるゝゆふがほの花立されよ夜の蠅夕兒のはな踏盲すゞめかなゆふがほの華曉にうち見たり夕がほや花の外には露ばかりゆふがほのはなをちからや木曾の奥夕がほやあからさまなる閨むしろひるがほは酒をのむべきさかりかな初うりやまづ畑ぬしの茶振舞靑海藻梅松花鹿鵜子川萍麻要件下李子柿の花タ兒曉臺句集樗晝がほ瓜
原白雨や鼠巢に死ぬ茶木夕立や一棹岸へたらぬ舟天明はじめ丑の年六月二日は、平相國信長公の二百年にめぐりあたらせ給ふとて、尾張の國總見禪寺に懺法供養を、〓との外にとりおこなはるゝを、はるかに聽聞つかうまつりてけふの御法鳴いかづちも艸の露糸ぐちのみだれて暑き手もと哉遊行、日の岡に到て感慨懺愧世の中の汗は石にも轍かなよにふるを何にたとへむぬれ扇六月の埋火ひとつ靜なりみちのくの完山、今年蕉翁百回の法莚にあはむと、都にまかりのぼりて一七日の俳諧をつとむ。嗟〓其信いふべからずと、都鄙群集の風客淚を揮て是を感ず。花はお原舟瓜ばたに月夜の株瀨守りけり冷し瓜字治の塩にかゝりけり瓜の香や逢たき人の跡座敷むだばなやわがねて仕舞瓜の蔓干瓜や汐に流れしうつせ貝ほしうりや身はかた〓〓の汐衣一度他郞、我名の他郞とつく,今法師身まかりけると京にありて聞、句を宅の連衆に送る。是をもて一囘忌の俳諧をなす。我名ひとつ枯て露けし瓜の蔓鳥飛に倦て氷室に落すかな氷室守龍に卷れしはなし哉蘭芝、假に居ける桂輪亭にて日は氷室夜をなけ加茂の川ちどりふけば散ものゝ冷まじ雲の峯夕立や只一押に野べの灰見つゝゆけば夕立きえぬ〓見浮系大書俳本日署氷室雲白峯雨ほよそに盡し、靑葉がちなるより都を立はなれ、しばらく爰の龍門にとゞまる。日ならず又行裝を告ぐ。去年はみちのくに渠、我を送り、ことしは暮雨巷に我かれを送る。渠も老へり我もおいぬ。けふの離別一千五百里、今世の再會期べからず。世のうつゝ隔てあはむなつの雲懷古大坂や霜幻の夏のくも〓の圖にいびきの圖夢のうき橋とみる世かな夕すゞみ糺の岸や崩らむ竹凉し故人迎る意ありすゞしさや腮さげて行夕肴丈芝が薙髮せし時髪の落見れば凉しき泪かな針させばすゞしき鯛の眼哉五明樓夜坐.殘宴又はじまれりすゞしくも明行月を照日かなはだか子に乳の毛ひかれて夕凉草の戶や柳すかして夕すゞみみちのくにて陸奥殿の凉臺なり千松島夫よりして人のまよひや川凉と彪門がかつぎ出るに次水音や琴を下樋に夕すゞみ腹赤き蟹つり出さむゆふすゞみ廬山寺の僧似合し や簟塩鳥の齒にこたへたり冷しさけ冷さけや一順果し廻りはな祇園會凝雨樓對酌山おろしの風みどりなり唐錦月鉾や人聲起る山かづら己、湖南幻住菴に在て、故〓に父を失ひし臥央を悼。夏雲大簟冷酒納凉曉臺句集一二五
眼にいたき風も吹つらん蚊やり草此日は六月晦日也けるが、我はらからの者獨は三十三回、今獨は十月七年のけふに當りたりければ、を同じう作善をいとなみ、何くれとものかなしき今宵也けり。うつせみや何を活甲斐に我はたゞかなしびにひかれてかなしび侍るなり沖なますはやきをもつていさぎよし追かけよ五串にかゝるひやし瓜曉臺先生發句集下秋之部日ぐらしの今朝しも鳴ぬ秋は來ぬ鶯の淺茅かくれや今朝の秋ころ〓〓と轉り出たり露のあき芝前の箭拍子さえてけふの秋初秋や友まして夜の靜なるけふの秋死とも聞し人にあふ知多の浦一草亭にやどりてけふといひし秋は今宵の五位の聲丈州が身まかりけると聞て秋二日身をそぐ風も吹ヶばふく士朗·岱靑に別るゝ時うつせみの現に秋をしる日かな萩桔梗星に貸べく野は成ぬ麻ひめのをしへ成らん貸小袖沖御鱠秡七夕玉簪のはなに迎む星のねや竹取が由緣なるらむ女七夕麗居士も娘もちけり天の川江にそふて流るゝ影や銀河戯にあふぎながさむほし迎さす汐や玉藻つかねて星むかへ廿年あとのまつりやほし今宵ほし逢や我は嬉しき親になひ星あひやものめかしたる不二筑波七夕や世に大かたはまさな事さゝまくら星に一夜の名なるべしほし逢や心の友は伊勢小町病ばたゞまくらの上ぞほし祭星今宵夢みてはらむ人あらむ酒星あれば地に酒泉なからんや七夕や流るゝほしは酒くらひ羅の袖や裂らむわかれ星明がたや七夕つめの閨の雲別れ星今は木隱れて見ゆるなりひとゝせはせをの翁、此國をたどりて、うき身の宿てふことを雨にそへて、かなしみ申されしを、ふと星の夕に思ひ出て下り帆にほしや迎ふる浮身宿星の精や八日にさける白芙蓉六月十日、國に、中將の君うせさせ給ひければ、民の心灯火盡しやうに昏闇し、敬ひ愼しみ、蟄して悲しみ奉るなり。おしなべて月なき盆となしにけり艸まくら故〓の人の盆會かな盆ごゝろ夕がほ汁に定りぬ蜑の子や何はなくとも盆扇貧家たま棚にくさのゆふべのけぶりかな題魂棚鼠尾草や身にかゝらざる露もなし曉臺句集
あき風や寄かひもなき竹柱市にふる鯛の尾かれてあきの風井澤といふ所より竹の下こえに行。此ゐさは川は鵜遣ふをのこの貴き御法にあひし經石など、今もたま〓〓拾ひうる人もありといふ。みさか峠越てあやしき田家にやどる。猪垣のむすびめきれて秋の風客中切角と野分追ゐる旅ね哉左中將城破れて、洪鐘此金ヶ崎の海に沈しと言傳れば鐘はふかし浪近ければ秋の聲木曾古城水は日の西に落けりあきのこゑ瀧谷慈光禪寺は澗をめぐりて入〓三十餘町、雲霧の中をたどり、はじめ楠氏が三男庄五郞、入道が禮美しや月の中なる盆の人盆の月市に隱るゝ人は誰送り火やなきは誠の跡座鋪魂送り身にそふくさの夕かな靜さや町なき里の高灯籠つく〓〓と雨見上るや高燈籠おもひきつて出れば出すますをどり哉まくり手が踊崩してをどりけり唐崎へ御渡いか、山田ハ舟をやりいはん歟。秌の風三井の鐘よりふきおこる秋かぜや火燈しのぼる浦の山滿山秋雨の時、春風落花をおもふ。(イ本閑)秋かぜの吹につけても長等山巢に籠る蟻のいそぎやあきの風あき風や鷹に裂るゝ鳥の聲秋かぜや鷹飼そむる酒の君藤の實の鳴出しにけり妖のかぜ踊秋風正禪刹にひらいて、風水〓首に終りをとれるのみ。雲起て寺門を出る秋の聲鉦の〓にいなづまつかむゆふべ哉酒くさき人の寐がほや松の露夜前亡人斗拙夢見逢ふはうれし夢絕てのち露を呵す淺草の街に假にかりほして、月をかされ住居れるかたを、元のぬしへ返しあたへ、翌れば引はなれて又東の國わたらひす也。人こかくて其庵すゑ置べきよしなしとて、やがて跡なくかひほどき、暫鶉なく野等となもなしてむとぞ。すはされば槇の柱つれなくも我をわするらん、軒のばせを葉あだにものゝあとつきやすき、うらみのはしくれに思ひ詫て、それさへ今宵のかど也けり。風水〓首に終けふは我翌は庵なき露のはなもとの露すゑのしづくや花木槿日の照や一雨殘るはなもくげ蚤ふるふ願人坊や花木槿二日咲木槿となりてあさ寒し白木槿糸瓜の中に咲にけり柳ちるや少し夕の日のよわり信濃の道下り、甲裴のさかひに入川風のうつりも行かをみなへし秋かぜをかつぎてふせり女郞花をみなへしあやうき岸の額かな傾城薗梅てふをみな、つくし琴の曲あやしきまで妙なりけり。極て夜明なんとすをり〓〓、かきならすわざをこのめり。鳴らせば必玉うつ聲草の上の露を飛ばし、或は閨怨の情を動かし、忽閑雅のさかひにいらしむ。明れば又靑樓上四九九木槿稻露妻散柳女郎花曉臺句集
霧色あり百樹の上に酒吹む山中霧にぬれて我酒は酢し塩からしきりこめて那須野狩野の犬の聲霧雨の降崩したり餓鬼灯籠亡母野送り霧煙今や骨ならむ肉ならむ收骨露肉なし目もくらまりて相狹初七日はな芒九品のおまし告たまへなき聲のこゑ耳にあり秋の風うつり行日に衰へて夜は長しかはる夜や心寄せなき秋のくも衣節中風なぐる萩の欠山日のかすりかぜなりやうち返る萩のほの白ししら蟾や水打越えし萩のうへあさがほの蔓もすくふか琴の爪蕣はいなづまに見る荅かなばせを風過て朝がほのさかり哉朝がほのはなこそみゆれ奧山家あさがほの花はぢけたりはなひとつ桃明をいたむ露はら〓〓槿に翌のたよりなし野上にて月くさの野上とやいはんよしもあれば月草の色見えそめて雨寒し月くさは露もてはなをくゝるかな伊勢の山田のみの手やといふに、人〓とゝもに酒たうべ遊ぶ。園のめぐりいときよらかに、東うちひらけて先朝熊をいれたり。このもかのも皆此亭のながめをとりよろふたり。ひとり直下千尺秋色遲しとからび〓といひ出たる有。よくいへり、誠に直下千尺系大書俳本日朝兒霧月くさ萩色みえて萩のり越える燃しかなはぎ原や花とよれ行爪さがり小比丘尼の折て捨行野萩哉偶成一夜とめて向ふ柱のこぼれ萩桔梗咲て何れも花のいそぎかな犬の聲しばし里ありてむら芒はる〓〓と雲のかけりやむらすゝき色もなく水おしかゝるすゝきかな夕闇を靜まりかへるすゝき哉長詣の紫かゝるすゝきかなあらし立夜比の芒黄みけり蛇のきぬかけしすゝきのみだれ哉日も寒氣たちぬ芒の花の上村をばな夕越えゆけば人呼ふむらを花夜のはつ〓〓に鶉啼を花散や髪の毛を吹風の筋上總の國を行脚して山邊といへる所に出づ。かの赤人の古墳も拜みてやゝ過る程、山邊といへる名のおもひすてがたくてつたの葉の水に引るゝやま邊かな蔦たれて千尋尋見る滴かな垣のつた濡重りぬへちまの葉つた紅葉下戶を住する扉哉ひぐらしや明るき方へ鳴うつり蜩のなけばひさごの花落ぬ日ぐらしのなけばつら〓〓古〓を思ふ蜜〓淨の蘭若にのぼり、午時一睡〓閑に入。聲しみ〓〓浮世に遠し秋の蟬秋の蝶日の有うちに消うせるあきの蚊や香の烟の前を行蠅たゞに死ぬ日をみたり秋曇鈴むしの鳴やころ〓〓と露の玉(マゝ)すゞむしや手あらひするも蒔繪の四三一蔦桔芒梗蜩秋蝶蚊蠅曉臺句集秋秋虫
秋の水竹の根からみ流るなりあきの水こゝろの上にながるなり茫〓と芒折ふす秋 の水垂與かくばかり秋の色またあきの水二日咲木槿となりて朝寒し秋寒し立出てみれば袖の桶よし田·山中·砂走などいへる所は裾のゝはしりに、家づくりせし村くなり。芭蕉翁、武陵天和の變にあひて、暫留錫ありしも此あたりなり。山中にて山かつの願とぢるむぐら哉翁川口にて勢ひあり氷柱消ては瀧津魚雲霧の暫時百景を盡しりり是等の吟をとゞむ。百景盡すに今猶不盡、夫より山深く入て秋寒し日蔭のかづら袖につく憐蟋蟀寒き聲や敷居をくゞれきり〓〓すきり〓〓す日のさすまでの古むしろ琴爪を礫にうつやきり〓〓す寐ぐるしや鳴そなゝきそきり〓〓す二日見る佛の飯や蟋蟀立出て鎻せばあとはむしの聲夜あらしをあふせかけたり虫のこゑ曉や雨も頻にむしの聲たよりなや水押かゝる虫のこゑ常盤塚にて虫の音や美人の淚いきかはり秋のま〓と虫ほどに鳴物はあらじ亡母三回忌みのむしのさらに喪籠る思ひ哉くつは虫いつかはかなきしもの聲しづけしや雀に定るあきの雲あら浪や波を離れて秋のくも秋水系大書俳本日秋寒翁仝仝秋雲是から越にかゝる古道、艸をむすんでしをりし老樹枝乾て自寒し。秋深し松はむかしの具足ずれ篠の中道胸わけしてやう〓〓東海道梅澤のさとにいづる世人の上にもあらんかし。しみ〓〓と夜寒き蜘のあゆみかな音になかぬこゝろたくみや夜の秋椎の實の板屋を走る夜寒哉海近き雨や夜寒の濡むしろ影見えて肌寒き夜の柱かな秋の色野中の杭のによひと立あきのゝやはや荒駒のかけやぶり秋の山ところ〓〓に烟たつ雨三粒降て人顯るゝあきの山雨はやし松茸山のすてかゞりおくれ馳に魚さげゆかむ菌山松茸や小法師どもが朝はやりまつだけの灰やき寒し小のゝ奧八朔や旅は寐がちにもの忘れ田面の日壽ぶく馬醫の家婚哉抵神妙に古き代したへ角低士亂髪風情なるかな勝角力四三五さゝがに姫といへるみめあしき姫のいまぞかりけるが、糸のわざにはいと妙なるまでたくみなり。しかあれど織姫などのあやにものなす類ひにはあらで、色ある蝶の翅にかけ、玉むしの玉の〓もそがためにたえてん。只ものれたく心恐しければ、ふつに戀わたるかたもなくて、身をいたづらに葉がくれ、やゝ秋風の秋にあひて、ひとり夜寒のわびしらにまぎれ出ぬる折ふしは、あいなくゐどころに火さゝれて、うきをさへえなかずて迯まどひつゝ、いづちにか住果てん。秋野秋山きのこ曉臺旬集八朔相撰
寒ければ衣着にけりすまひ取すまひとり死なで歸れり伊達の木戶三日月塚懷古大曾根の成就院、今は悉皆頑度佛跡地を返して稗粟畝をたゝみ、彼三日月の碑はものゝ隅に押入、うしろざまにすゑたるなど、いと哀に覺えてありとだに形ばかりなる三日の月蜀黍の穗首になびけ三日の月六祖讃三日月の光さしけり精米八幡宮千百年法樂若みこや月にかげさすをとこやま狼の吼うせてけり月がしら月みえてふり替りけり浪頭けふの月雲井の龍よ心あれ獨坐月と我と物おもふ頃雲おこる仲秋無月月や雲跡よりせむる雨の聲月の匂ひみちたり雨の高砂子うちむれて詠むともなしけふの月大かたは美女なりけらし月のまへ夕がほも地に見えて月の今宵哉月滿て英蓉の花のすわりけり折箸に萩垣ほどく月見哉田鼠のわらひ出たりけふの月酒啖ふ蝦夷もくもらじけふの月人遠く水長うしてけふの月杜若又さく水の月夜かな石山やのどかに出る秋の月さをしかの角にかけてや峯の月地はものゝ懷せましあきの月大空や月はこゝろの上に置月見して餘り悲しき山の上雲はやしいろ〓〓に月を過す哉月けふの月橘色に出る夜ぞ月の隈十圍の杉の匂ふ夜ぞ月の桂かたむけば叉あらたまりまどかにて二夜も三夜も秋の月香千里目にやしむらむ秋の月北海月ひとり荒海をすゝむ今宵哉池邊人をいかる遊魚あるべし水の月良夜滿興、川原乞食に酒のませて月に酒おのれしのぶの亂萩曉月鞍上吟夜すがらや曉の鐘にけふの月湖の面雨むらふりて月をうつ仲秋ふたむら山にのぼりて奧山は霰雲なり けふの月口ずさみにあらし吹雲のかよひにたちくれてわけ入みちも二むらのやま大阜に父に別れ、我に母を失ふ。ともに仲秋喪に籠りて思ふ處ふたつなき夜の月くらしひとりこよひの月に對すれば、おもふ所とし頃睦まじかりし人〓の八九は亡失せて、とありかゝりとたゞ其俤をむかふるのみ。己いそぢもこえたらん齡のほど、ことしや月の見果ならん、けふや〓光の名殘ならむかと、去年は旅寐に一入思ひ入て、袂の露も深かりけるが、何くれと同じさまして又この秋にも逢るなり。さてしもつれなき命ともおもはざりき。大かたは逢ふまじと見し月を友十六夜のやみいよゝ降くらしつ、誰〓〓も戶さし、うちこもりて去年今年など言くらべ、こぞりゐけるに、ゆくりなくの月の光さし出同三五曉臺句集
まぢかくひたひにかゝるやうなり。高根はれて裏行月のひかり哉今宵空のきよらなる、十とせにだもえこそ覺ねなど、誰かれと共に夜更るまで興ず。堪ずしも薄雲出るけふの月あたり近き市川へまねかれ、社司芦南子のもとに、むかし新羅三郞より給りの、ゆへよし正しくありて天國の釼を重寳す。謹て拜見す。秋の霜三尺の龍やこもりぬる其餘にも巨勢大納言の〓は、賴朝公の賜のよし。今千歲の家名をかたぶけす、國にめで度譽なりけり。酒折の神社は甲府の東はつかに去て、山の邊にたゝせ給ふ。こは日頃まうで侍る我國熱田のおほん神と一躰におはしませば、羇脈のうへたもともぬるゝばかり、猶有がたりと人のおどろかしければ、そこらおしひらきて中天をいざよひの月の出かけ哉風かなし夜〓に衰ふ月の形早稻の香や藪を一重の晝談議道のべやいなごつるみす穗のなびき野徑月よしと小椰をのほるいなご丸山鳩の脊中干なり秋の雨秋の雨深草の町に行かゝりあきの雨胡弓の糸になく夜哉秋の雨ほね迄しみしぬれ扇(原註)しぐれィ秋の雨懶きかほにかゝるなり信濃の道くだり、甲斐の國に歩みが引ちがへて行ほど、藤田の可都里は年頃文してしれる好人なれば尋ぬ。其夜ごろにもあれば、月を見せばやなどわりなくとゞめられ、望の夜もこゝに遊ぶ。士峯の北面そいただ、秋雨たう覺えてぬさ奉る。小墾田のをはりの初穂かくもあれ)、客中我きけばをはり田をさす雁ならし甲斐の國市川なる芦南子がもとにやどれる夜は、しく〓〓雨の降出つ。空は月の出づるかも、うすあからみたるに、雨いよゝふりつのる。夜坐向しづかにおもふ所感あり。雨くらき夜のしら根を鴈わたる甲斐の國道くだり、いぶせき山中にやどりていつの世はとありとしのぶふる里をひとり門田の月になかるる此國夷等道のほどをしへ迷はしなどしければ、あられぬ方に日くらしたり。いさゝかも情あるやう見えざるも又哀なり。道くれて稻のさかりぞちからなる東方天の極れるや、海の極れるや、神といへどもはかるべからず。仙といへどもしるべからず。星盡る處まどかに出る月途中歸り來れば淺田の早稻田穗にみゆる風行や濱田にしらむ穗のなびき稻の香のねざめて近し五位の聲引狼の田守をにらむ庵根哉ひたぶる船頭に句を乞れて川稻の香とりをさして潮來船わりなしや法師夜田刈月の前色ふかし田尻の小椰かくてかれ唐崎の松に日ざしや秋の雨鮫の尾の遠く沈めりあきの雨翌は藤歩子のもと立出べきこよひ、其家の人〓打かたらひて、又くるとしのちぎりなどはかなくいひわたりて、山川百里の情只今にせま四·一B曉臺句集
悲しきは上手なるべしさよぎぬた砧打てつれなき人を責るかな南にも初かりがねの聲すなりはつ鴈の信濃にかゝる夜は寒し初かりや高ねを左右へひるがへるきゝそめし夜より亂れて風の鴈遠山や身をうちつけてかぜのかり亂雁となるや靱の雲うつりやう〓〓と立あがりけり小田の雁京ちかき山にかゝるやわたり鳥夕あさり鴫の目はやく鷺鈍しおのれのみ貪る鵙の眼ざしかなかけなみに追れて高し鴫の尻犬蓼の節をれしたり秋の暮鷹の眼の水に居るや秌のくれ妖烟といふな題して人の上に烟かゝれりあきの暮象浮やいのちうれしき秋のくれる。心からの雨も降らむ夜の秋秋の夜や力の火かげ跡になる草の花愁るあきの夜と成ぬあきの夜や膝こす水は涉られず秋の夜もそゞろに雲の光かな秌のよや心盡しの默りものあきの夜やひらき協へし笛の孔秋の夜は梨子の齒冴の寒さ哉秌のよや杵おし削る爐のあかり玉むしの活るかひあり夜の秋あきの夜やそろりと覗く君が門をとめ子が御衣打らし神の石遠砧夜のおとゞに聞ゆべし西谷の衣うつ夜や焙り芋山姥とみし人きえて遠砧柿の澁ぬける夜冴や遠碪うつら〓〓月見つゝあればきぬた打秋夜鴈渡鳥擣衣秋暮梅干で酒吸ふてみん秋の暮山鳥のさわぐは鹿のわたるかも鹿の聲をばなの末にかゝるかなこがれてや淺瀨見てゐる鹿のつまあなう〓〓射よげに見ゆる萩の鹿こけ猿も夜たゞ佗らむ鹿の聲鹿の鳴音引結ぶ夢のたどり哉閑坐所思ある夜ひとり鹿の鳴音も六かしや病鹿や霜に狹りし明の聲鹿追ふ や曉聲に雲を裂別鹿霜の笹山わたるぬれ鹿に有明の月のひかり哉九月朔日吾初て知命の日なればとて蓬宮へ詣づ。川のほとりはつ穗ひた刈て、道せきまで千置るを、尊く侍りて申。として又命は續り稻むしろ菊の九日遊大津舊都けふの菊なき世の都めぐり哉きくの日〓見寺に詣て雪舟が筆の走か菊の露籬菊や花のうら道一通り山風や板戶たふれて菊の上瘦ぎくや只一もとのまさりがほみだれ箱菊折入て參りたり白菊は露の泉とみゆる哉しらぎくのおなじ色としもなかり鳧水壓力量月しろし此はな燭を恨むべし題百菊華の色香我思ふ菊は只一種はなひとり黄菊神妙にみゆる哉燭とり〓〓夜坐亂れけり菊十種香にふれよ菊のあたりのゑの子ぐさ十三夜の月は矢作の橋の下に遊び四三元鹿曉臺句集
水日夜北にせまりてのちの月十三夜は亡母六七日にあたりて后の世の月ならば母の影もさせうらがれや西日にむかふ鳩の胸何草の末がれ草ぞはなひとつ人目も草もしどろに葛の枯葉哉葛の葉や篠田男の蠅をなみくずの葉をおさへ付たり秋の霜うす紅葉するよと見ればちりはじめ門叩狂僧憎し夕もみぢ何とみても紅葉は松に極りぬ紅葉散や髮かれて我けふもあり後〓先に人聲遠し柿紅葉蓼之の〓讀木食のわけ入かたや秋のいろ三浦氏蛙聲を訪ふ先門に入れば柑子の色にみゆる途中て、かの上るり姫の舊跡にいであれば、おもふところたゞ管と絃と、見る所艸頭の白露·秋聲·人語に對るのみ。秋の花みなうつゝなし后の月后の月すゞむうちより衰ふる月の余波關守あらば菰枕のちの月客に呼るゝ病あり十三夜戶塚の驛にやどりて月にゆかば鐘に夜明む建長寺古園百里を去て故歩子のもとに二とせの秋にあふ。しかも九月十三夜なりけり。雲百里今宵ふたゝび月の闇九月十三夜もこよひになりぬ。今宵の〓興、うたげまうけは好〓舍中のともがらなり。共に手からみて科野川の支流にのぞめば、獨ひそかに古園の感あり。末枯葛霜紅葉藤の實に小寒き雨を見る日哉子東三回忌三ツ栗に中の七日をおもふ夜ぞ岩の窪衣の袖の木の實哉夜もすがら鼠のかつぐ棗かなむづかしや茱萸にからまる〓蔓菜黄の木のしこかれて行野間哉洛の夜半主人、幻住庵のかり寐訪れし時丸盆の椎にむかしの音聞むこえしに、かたみて月を松もとの山とかい付侍る。日頃おもひまうけし事ども、とひもしいらへもしつ。月は四更にかきゝo.夜のかさねいとうすく、裾引かくし肩おしならべて夢境に入。叟がしわぶきに目ざめて曉の寐すがた寒し九月幅秋暑し水札鳴方の潮ひかり脇ざしの柄うたれ行粟穗哉はなかつら背きあふ野邊の初あらし野路の雨刈萱獨ありのまゝに鳩鳴や藪山口のつぶら 家蕎麥の花眞晝に暮ぬ不破の雨銳き物のかくは有まじ長瓢むら雨を面白さうに芋畠芋黑く竹黄になりて鵙の聲嶋臺圖に〓げなる老のみさをや竹の春さし鯖やかさねはいつのはたら塩水海夕陽秋のなみ星うち返す折もあり落鮎や潮の闇に沈むまで老情旅にせまりて再び白川の關を木實曉臺句集見つゝゆけば茄子腐れて往昔道志賀の山ごえせんと、あられめ道にまとひ入ツゝ、高萱胸わけして四三、秋雜
するほどに、鐘も鳴鴨なきさわぐ、此日は秋のなごりなりけり。木母寺の灯に見る秋の行方哉風あらに雨さへ降そひてやゝ寒し。誰かれも心ひとしう、いざわび寐してんと、むしろの端のやどり乞て臥ぬ。三更の頃さえ〓〓しう空うちきらめきて、翌れば又うめ若の古墳に詣づ。みの虫を擊ことなかれ落葉かきすみだ川のわたりにかゝりて、にしへたしのび今をおもひ、なふ人こも歎く也。我もなく日たゞ夜たゞ都をさしてかもめなく長月も廿日あまり八日の曉がた、夫と見るばかりの月いとかすかにさしのぼれば、秋の名殘も一しほあはれに覺えてほの〓〓を名殘と見つゝ秋の月やう〓〓と如意嶽に出づ。眞蛇鳴花の古道風かなし龍膽や岩のへげめの日にうときばせを葉に落かゝりけり鬼がはら山中や別當殿のことし酒遇貧夫肱に一囊をかけて、はつかに滿るをもて樂しびとする、誠に樂しひ哉〓〓。〓うして貧し。かくてあらんより世になくてあらんなどつぶやく人は、常に金壁に面を照し銀盞に哥舞せられむ事を事とし、必其患のしりへに廻るをしらず。そは是常に哀しびを迎る也。樂しひ哉〓っして貧し。身のほどや落穗拾ふも小哥ぶしうらさぶる日、たどり〓〓木母寺にいきて、佛念しツゝあはれ成くま〓〓をも見めぐり、日くれんと系大書俳本日r暮秋塩負ふて山人遠く行あきぞ秋の名殘山田の添水いとまあれやあき余波夕日の前に小雨降あたら夜ををじかゞなけば秋は行火ちら〓〓秋もゆくなり峯の堂山風や兎鼻つく九月盡綿弓の弦引きれて九月盡宗旦の大工遣ひや九月盡九月盡遙に能登の岬かな漁父〓讀鱗のこゝろはふかしはつしぐれしぐれそめてばせを葉翌を繕はず一むらの烟はなれて行時雨しぐれ行果は一むらのけぶり哉鐘の音やしぐれ降行あとのやましぐれけり尾根のすかひにわらび焚つら〓〓と杉の日面行しぐれ夕川や霧のしらみを行時雨さし越スや深山時雨のぬれ筏若狹國にて沖の雲しぐれて歸れ後脊山鳥羽田には時雨ふるらし水菜船酒星あれば地に酒泉あり。溺て泥のごとし。眼にのぼる花かき交て一しぐれ右うかむせ四郞右衞門亭に遊びての也挨拶冬之部初冬や二ツ子に箸とらせける湖上吟霞日も又初冬のやうすかな冬の日のさし入松の匂ひ哉鳩の巢のあらはなるよりしぐれそめしぐれねばものあらたまる日もあらず曉臺句集時雨
行燈に藥鑵釣りたる霜夜哉夢人の浮橋かゝれ霜の閨おもしろう噓つけ霜の濡頭巾しる人はしるらし霜のぬれ頭巾文字摺石草よくも生たり霜のすり衣曉や鯨の吼るしも の海夜の霜齒に答へるよ荻の聲妻におくれし亞滿をいたむ兩袖に泣子やかこふ閨のしも目じるしの枯木たふれて霜の月ゆかしき物にてつれなきもの木がらし木がらしにむかひかねたり辻謠愛悲しくて心ゆかぬもの只一輪木がらしの風にさくら散ことわりと思ひ辨へつゝ、胸安からぬものうらみねや又凩の吹夜なり我ためのひと夜は菊の殘あり義仲寺蕉翁牌前霜にふして思ひ入事地三尺けふの今いまより後のかれ尾花霜の庵旅寐まねびに佗申雲はしぐれ鐘は其世の感に伏障子まで來る蠅も有翁の日蕣の花つむしもの鼠かな霜冴て雀ひそかに鳴夜哉つや〓〓と柳に霜のふる夜哉霜滿る夜たゞ樟の匂ひかな途中霜に行草鞋のつまを焦しけりしもを燒箱に寒鴉の聲くらし空谷寒艸草かれて深谷の霜にあへりけり霜枯て鳶の居る野の朝ぐもり質學霜木がらしの只は置まじ花ひとつ凩や木から落たる猿の尻こがらしに豆の葉荷ふ人をかしこがらしや灯心賣のうしろ影凩の苧かせをみだす眞柴哉御堂の十夜にまゐりあひて、又あひがたき法燈のかげにかゞまり、通夜の人くとゝもに念じつ。114ひ此みあかしに別れ奉らん事、名殘をしう唯心細う覺て十方十夜御佛の前去がたき海の音一日遠き小春哉魚つりの編がさひとり小はるかなわすればな忘れぬ宿の乗哉歸花祖父が戀の姿かな住の江や一もと草のわすればな夫そこに草の中なる忘れ華茶の花に兎の耳のさはる哉ちやのはなや雲雀鳴日もあれば有ふゆのよやま〓としからぬ稻光り冬の夜や曉かけて山おろし月の情冬を定めり樫木原月寒く出る夜竹のひかり哉冴きつて檜裂たり冬の月砂に埋須磨の小家や冬の月登山雞鳴寒月の額にちかしをとこ山屋根うらに鼠鳴夜の雨寒し寒きよの枯竹藪に明にけりさむそらやたゞ曉の峯の松幽溪山寒し出るより入日のあした辻能の矢聲もかるゝ寒さ哉妙義山に詣しかへさおもひ寒し峯の白雲吹わくる寒天の行脚ならひにいたれば、白同一品冬夜冬月寒小春歸花曉臺句集茶花
ふゆがれや寺門かすかに人を呼ぶ何おもふ冬枯川のはなれ半出る日のと拍子もなき枯野哉葎さへ枯て出ぬる戶節かなけふも折翌もかれのゝ萩の長ヶぬつくりと夕霧くもる枯野哉人目も耻もしどろに葛の枯葉かな蒼天に河邊の蘆のかれは哉錦浦夜泊枯蘆やしるべして行雨の聲水際の日に〓〓遠しかれを花芥火の烟の中に枯尾花中〓〓に根づよく成ぬかれを花おち葉落そめて夜を鳴鳥かなし落葉おちかさなりて雨雨をうつ蒸ものや落葉堤の葭かこひあみ笠におちばかゝれり占や算木の葉たく烟のうへのおちば哉糸老人にいたはられて爐火右にかまへ、夜のかさね猶薄からず。しば〓〓安き思ひを得たり。寒しとも思ひわすれて谷の聲十分に紅葉の冬と成にけり東都に遊慰して〓に歸りし宰馬を訪ふありやいかに隅田川邊の冬紅葉知多の浦台中亭汐風の吹よわるかたや冬紅葉霜にぬれてもみぢ葉かつぐ小雀哉雪後眞如堂の紅葉見にまかりてめづらしや今朝みる雪の下紅葉なつかしや雪見し後の下もみぢ冬木立馬一寸の行方かな冬川や簸に捨てやる鳥の羽川中に川一筋や冬げしき夕川や動かぬものゝ又寒し冬枯枯野冬紅葉枯蘆枯尾華落葉冬木立冬川炬の火に落葉ふり分行夜かな與板留別此別梅も葉おちて柳ほそし越シ人は斯ても經けり冬がまへ壁くろや鼠行あふみそさゞゐ人嬉し京の眞中に冬ごもり去君が車寄たりふゆごもり冬ごもりとかくして世の情に落蠅一羽我を廻るや冬籠冬籠一字に迷ひ夜戶出哉世を蟻のすさび悟らん冬ごもりさるにても輪囘きたなし文〓腫物をかゝへる紙衣ざはり哉我かみこ鴨の足水かゝりけり山居三日一日對客山寒しせめて火桶の燒蜜柑うき人の額にあてる火桶哉捨られし人の泪に兀火桶えびす講堂上に御沙汰有けりえびす一講屋敷から梅もらひけりえびす講至日は冬至埋れ蛙も目覺なむ利にうときすね人醉り冬至酒殿下に召れ參殿つかふまつりてあまつたふ星の御かげになく衛冬嶺江上を臨といふ鳥羽の湊を見廻りて夕闇のまつ風のぼるちどりかな蠣売や下駄の齒音に飛衡濱ちどり雪の中より顯はるゝ風はやく二ツにわれてむらちどり心われしてや二瀨に鳴ちどり月も見え雪も降出てなく衛曉をまぐれて行やむらちどり闇明てかいくれみぇぬちどりかな水鳥やさすがに雨をうちそむき水鳥の巴になりて狂ひけり水とりの立行程や淀の松同二七冬至冬構みそさゞゐ冬籠衞衾紙衣曉臺句集火桶
今はなき身をもて鰒のいかり哉身をまゝに沈めかねたり河豚の腹生海鼠干伊良古が崎の二日風昏〓冥〓として蒼海の浪にのたれ、あるは沙上にころがりて、終に庖丁にをはりを取汝を憐む。くらきよりくらきに歸るなまこかな槇の嶋見ゆる網代のかゞりかな春日野の片端麥を蒔そめぬ冬田刈夕ぐれ人のひとり哉炭がまや翌の烟の樟原寒鳥の日を追入ぬあだゝらね坂鳥の胸をうたるゝ答かな納豆叩〓や四百八十寺風さえて今朝よりも又山近し太郞吉が皷うつぞや里かぐらにが〓〓しおのれ二代の鉢た き煩腦の犬にかまれなはち叩人をたゞうらみ聲也はなれ鴛しのびねに鳴夜もあらん離れ鴛うか〓〓と日に照れ居るやはなれをし曉の山を越え來てうきね鳥かひつぶり浮出まで見て過ぬ雨もふり風も吹瀨のうきねどり浮鴨や戯男に射崩され出羽の國にてあら鷹や山を出羽の朝曇り鷹組て雀の毛散すみそら哉たかそれてむなしく月と成夜かないり蠣に軒の松風奪ふなり煎蠣の跡しら雪となりにけり空也の瘦にたくらべられつ、或は增賀の腰にふれしは、汝がいみじき冥加ならずや。から鮭や汝も木の端炭のをれからさけをしわふりて我皮肉哉河豚生海鼠網代鷹蠣神鉢樂叩から鮭はちたゝき今はむかしの忍び路や愚に歸る曉ごゑや鉢たゝきさめ〓〓と鳴か冬のゝ離れ鹿人をさへなつかし氣なり雪のしかきのふ見し木下もさらずゆきの鹿曉や榾燒そへる山おろし又ほだの火や曉かけてやまおろし雉子兎釣しかけたり榾あかり〓讃親と子のうき世やかたるほだの影寒菊に南天の實のこぼれけりかんぎくや更に花なきはなの後水仙やうき世小路の玉すだれ薄雪や草の節さへをれかゞみ雪もてる雲の尻兀ちからなしゆき空やおのれさかしき卵子うり靑雲や大虛に雪の降のこり空高く低く雪吹を廻るかなあやなくも霰降かつ小雪哉鴈は悲し噐するは哀れ雪の人柳折て雪を戀慕のわかし酒鳥の売叩〓やよるの雪雪はやみて猶ふる雪のあらし哉猪突の控に立る深雪かな雪の人母や養ふ子や育 つ日くれむとして又雪の降初る降行や又みえそむる雪の人不破の雪さながら晝の色ならず鉢の僧歸り來よ雪に物問む積雪や紅粉吹かけし小傾城月もれて雪の降迄も見ゆるかな雪は降流るゝは漁父が火影かも簑の裾に小魚付たり市の雪金閣寺閣下に老樹あり月雪をこめて櫻の牒かな佛魔窓馬州が十七回の句を乞れて四三九冬鹿榾寒菊水雪仙曉臺旬集な
あられ降軒は黄めり正木つら冬の情月明らかにあられふる玉霰思ひまをけし竹柱靜さや枯藻にまろぶ玉 たまあられ水に沈めば消ぬべし氣たるみし鷹の面うつ霰哉繩ふしに霰はさまる垣根かな玉霰鍛冶が飛火に交りけり櫓の何をちからに薄氷はかなしや童文字書うす氷大谷の御堂に母の骨ををさめ奉りて氷なみだ御齒にしむな山おろし鉄床の音も撓まぬ寒夜かなさく〓〓と粟搗師走月夜哉百姓の板戶負行しはすかな旅行や一とせはたゞ茶一ぱい落る齒のはじめて年の惜きかな佛も魔も曉は雪の十七年人の妻か失ひけるにけふよりや月雪泪針目衣雪の深かりける霜月、さりがたき夕よしありてともなふ人ふたり、かよはき從者ひとりぐして會津の山ぶみす。其日おもひさすかたまでは行もやられず、山賤をたのみよりて、よすがら焚火のもとにかいつぐみ一夜を明す。風の吹入破れば菰などはりてふせぎとす。人として雪に巢作る類ひかな雪深く人は世渡る楫をたえて老て壯なるものは白寉のきよげなる也。かゞまざるは竹節のみさをなり。老人木吾子に廿餘年を經て對話す。さらに今日白頭をいはず。雪中に梅あり我にしのぶ草七年霰系大書俳本日衣氷寒師夜走ある日嵐月一瓶の花た携來しを謝して予が病ん憐みて園中に數種の花採て起臥を慰らるゝ。其匂ひいとふかく露のきらめけるをうちみるより、頭のほとぼり胸のあつしさもすゞしくめざむる心地すれば、いさゝか筆をもとり見むとするにつけてもおもひよりぬ。まとや朝川の〓圖をひらきて病をわすれたるも、げにさる事ぞかし。先水仙の冷かに咲出たるひかりには玉の簾もしのばるれど、杜若のわすれ顔もなく朧氣ならぬ色にこそ猶し心はひかるれ。何〓〓一室はつかに丈にみたざれども、花一筒に四季をこめたり。依てひとりおもふ。齡延枕上盧生夢蝶舞枕邊莊子魂咽をかまくら街道といへるは、天下老和尙の頓坐也。我久しく病勞れしそがうへに、彼街道ふさがりて苦痛する事十餘日、夢となくうつゝとなく今は蔦のほそ道のほそきかぎり、命にかゝるものとては、はづかに露のうるほへるのみ。冬ごもりうき世の道はたえ〓〓に降は雪よ起返るちからむづかしや感慨懺愧あたゝかに着て耻かしや年忘おもひ出していふ事なかれ年わすれ賀初老とし忘れけふ白髮の仲ま入なやらふや今宵しのぶの戀もあらむ遙見簾前士峯年忘れ不二をとりまく坐敷哉歲の暮隱者かたぎの耻かしき年迫て風大虚を鳴らすかなとしのくれ鏡の中にすわりけり四四、曉臺句集
難波江の芦の浮巢には友鳥こそわぶらめわぶらめやいた〓〓し伊丹のいめちいた〓〓しさらでだもしぐれの雨は降ものを心に雲の行かひて晴ぬは誠なるかも友ちどり呼子とりあゝ都鳥はかなしや都鳥はかなしや右哭夜半亭儿董拾遺系大書俳本日佛山都の冬集序北海に一仙あり、常に舌頭に有聲の花をあらはし、牀前無形の月を照らす。時に高吟舞踏して西に走り又東す。こも〓〓市中の優游にまじはりて他の風詠を甘じ、猶長安に入て宏く麗景にとゞまらず、熱燗三盃引かたけてついと飛揚す。しりへに一册子を殘せり。とりて周擧はじめに贅す。蒿里歌夜半の鐘のおと絕てめにみるよりも霜の聲きく耳にこそしみはすれ友ちどり呼子鳥都鳥はかなしはかなしやみやこ鳥きのふ墨水に杖を曳て柳條に月をかなしびけふは杖を黃泉に曳て弘誓の棹哥に遊ぶかし夜半の鐘のおと絕てむなしき松をまつのかぜ聖護院の杜の空巢には妻鳥こそまどふらめ蘇川の東涯にひとつの樓あり、望嶽と名づく。山は靑き程に隔り水は長く其終を盡し、孤村の烟は征客の蹤をかくす。尾越のわたり、駒墳の渡舟、寸馬豆人おのづから〓中にあそぶ。遊ぶ友乏からず。今宵は水上の月に〓興あらせんと、酒携る僧あれば佳肴を器にす俗あり。糸あり竹有。三舟の才待におそしなどさゞめきあひ、一葉をうかべて千里に游むとす。遊あらうたて、雲のはたてのむら〓〓とうち霜の聲はかなしはかなしや柳條に月をかなしび弘誓の棹哥に遊ぶかしむなしき松をまつのかぜ妻鳥こそまどふらめしらみて、雨聲しきりに川づらを這ひのぼれば、莚をまた望嶽にうつして筏士にとへば遠山も雨の月世繼集小序煙客を率て十洲に游吟をおもふものは、湖東日野の梨丈ぬしなり。頗披煙弄月の士、常に〓闇を吐て悟とす。此春齡老のはじめにかずまへられしより、遠近交遊の文音同〓忘年の友生、毛伐洗髓をもてほぎ〓とをよす。其辭暸〓として鳴雀穿雲の聲あり。余韻あやなる哉。あやをあやとして一卷をあみあらはし、是に名あらむとを〓ぐ。おもふに始あるものは必後なからんや。猶一紀にあふどに此卷の後へを繼出さば、さながら壽に從ふなりとすゝめて、丗繼集とよばしむ。おのれ曉臺、鳴雀穿雲の聲を合せて龍門の南窓にかく言。今はむかし、先師机下に一册子あり。こは折にふれたる自詠を筆し、或は門人等打聞まゝにしるしおけるを、ほど遠き朋がらは見聞のつぶさならざる事をうらみ、あながちに木に彫む事を乞侍れど免し給はざりしを、師遷化の後程なく三傑集に、何くれと是がなかばを出せり。剩うち聞のわいだめなく、頗誤りをつたふる事、三に一ツは師の本意を失へり。今其誤を正しさとさしめむと、天地の二卷を著す。但古く册子に出たるは、おほやうは再びせず。且かなたこなたに落散所の句も又鮮なからず。こはより〓〓に渉獵して、もれたるを掬ひ遺れるを拾はゞ、再び豁然として彌全を得むと、暮雨臥央しか云曉臺文化六年己巳仲秋日旬集四四三
名古屋本町一丁目風月堂孫助同杉之町吉田屋惣吉同本町十丁目松屋善兵衞湯島切通町下須原屋文五郞書林江戶書林葎亭句集伊勢路記行春·夏·秋·冬李流校系大書俳本日て
(金)鈴泉爲村卿序凡徘歌之難非我言之難能明我心之難也洛陽嘯山者可謂執古御今能得我心矣甞著徘歌古選而名動於海內與余爲千里知己以俳歌故也雖然豈謂比肩哉今玆嘯山知命歲始謁勢南之祖腐而其途中記行文爲小册屬予爲序予已爲千里知己不可辭愚聊叙其由授之耳卯花の句の前の詞殊に珍重いいせ路の記としるしたるも尤なれど鈴鹿越と題号をしるし度い東武守愚庵山人〓〓止觀房(花押)東岳平惇德書〓〓嘯山へまいらせいへ<〓助へ戶ヒ〓
ば、舟にのりて湖水に浮ぶ。空快く晴て遙なる島〓も計へつべく、辛崎の松はたゞ掌の中の物を見る如くにぞ思ふ給へらる。ある人の云ける、松島·象潟·嚴島等の名だゝる所〓〓普く見侍りしかど、猶此鳰のうみに似る物こそなかりつれ。壯麗優美、連なれる山のたゝずまい、洲崎のさま·城樓·長橋、物として備らずと云事なしとぞ。げにさなりけんかし。夏山の光を淘"やさゝら波嘯山又いんじ年春を稱して舟遊びせし詩琵琶湖上晩霞開碧水春光照酒杯桐柏山風吹不盡落花片〓逐舟來しばしが程にやばせにつく。舟を上りて廿町余り行ば追分のうばが餅屋也。夏立てねばりや出るもちつゝじ山草津川水かれたり。目川村の豆腐は世にひろごりて、いづこにも其名いちじるし。庭なる棚藤盛り近く馬駕のり捨てこゝにいこふ人いと所せし。大きさの花かくれなき牡丹哉山葎亭鈴鹿越句選卷之第一洛李流〓三宅嘯山いせへ、いまだ詣でざりし事のおぼつかなくて、此とし比近き邊りの人〓のもてはやすなる大〓講とかやにくはゝり侍りけるに、ことし其滿るにあふて、うの花月の中の三日をなん首途とは定ぬ。睦じき友の馬の餞しつるほく多かれど、事しげゝれば洩しつ。講衆の一つれならんは余りにらうがはしかりなんと、したしき限り七八人引わかれて出たちぬれど、それさへまだ冠簪せざる類のあなれば、連たる駕よるの服雨具などかつげる者三人、それに便りて跡追來れる者二人、何くれと十六七人ばかりに成ぬれば、なを賑しからずもあらず。月の山の端に傾く比所〓〓誘ひ合て、明がたに東の河原おもてより岡崎村を南へ蹴上にかゝれば、家〓〓の扉もみな明揃ひにたり。送り來し人すべてこゝより返る。さし上る日の岡より天の帝の御廟野を過て、やがて、大津に打出の濱風も和ぬれ嘯山山一里ばかり行ば梅木村也。和中散をひさぐ家五六軒もあるが中に、ぜさい定歲今一ッ何とかいへるいづれも高樓作りにして、街の左に築山面白う、遣水の傍に瑠璃光如來の堂を搆へ、生墙低ふ、三上山はたゞ此庭の物かとぞ思はる。車にて藥をはたき、ふくろに入、目がけ、たゝむ杯それ〓〓の人居並べる。かうやうにも世に行はるゝにやとうち驚る。靑梅の苦みやうつる湯の香ひ省我袷着て心ぞうつ る和中散山七ツの頃石部につく。伴ひし人のしるべある所なればこゝに泊る。櫻川と云る銘酒を出されたり。舌ざはりこのごろや煮し櫻川山十四日、何村とかやにかの櫻川の酒店あり。塩の頭リに胡姫の色どれるはあらで、むくつけなる男のつい居たれど、朝たより夕に到る迄、人これが爲に足をとゞむとぞ。橫田川舟渡し也。水口の驛、泥龜を問ふは誰子ぞ鯲汁山松尾川流れ〓く、山の樣もゆるやかにして賀茂に似たり。土山にて今一組の人〓の一日先立て、多賀の宮に詣でたるが、けふ關の間迄に逢んと契りしに出會ぬ。宿をはなるれば左の方の山手に田村の大鳥居あり。ひとりのぼり見れば宮居は三丁斗奥也。此神の傳にのする所を見るに、弘仁元年九月任大納言兼右大將薨年五十四身長五尺八寸胸厚一尺二寸目如蒼鷹、重則二百一斤、輕則六十四斤、怒則猛獸忽弊、笑則稚子早懷、武藝絕倫など書り。眞に本朝無雙の豪傑、みちのく又は〓見關のいさをしおもふべし。廟上深林映白雲登臨萬古憶功動山英靈如在應無極樵牧齊知田將軍蟹が坂の澗に蟹が石塔也とて松二本あり。いづれの時の事なりけん。下闇を横に登るや蟹が坂山猪の鼻山中村の前キに近江、伊勢の境あり。三子山、さは高し共見へね共、志賀の山越よりも望み、又いせ浦の船の目じるしにも、此山の雲のさまを見て晴雨を定むと聞ば、此わたりいつとなく上り來しにやと覺ゆ。誰取三峯嶮浪爲髫髦形不知兄与弟山各自倚空靑省葎亭旬集山
鈴鹿山は古き書〓に出て哥詠多し。我も昔あづまに下りし時、こゝを過し事を數ふれば三十年に近し。貌は老にたれど心のさまで變れりとしも覺ぬは、げに昔の今になるにやあるらん。うの花のしら髮となりぬ鈴鹿山山八十瀨の川は名のみしてさもあらず。筆捨山を見て關の驛にかゝるに、右の方に伊賀·大和への道印あり。こゝに見にくからぬ女の古き薄べりに座して、膝の上につゞれ引ちらしたるが、顏色只ならぬ樣に見へて往來の人に憐をこふを聞ば、けさこゝにて子產たりといふ。夫やありととへば、あたりへたふべものこひにまかりしと答ふ。土佐の國の者なりとぞ。あはれ世にはかゝる事も有けるよと、人みな鼻うちかみてあしとらせぬ。芋が子の街に生へしあぶなさよ山十五日、此宿は東海道との別れ也。かの古へはいせ道を右に見て東に下り、今は吾妻を左に見やりて南にかゝる。懷舊の情一かたならず。ふる事や橘も柚も匂はねど山關河を越る比に、(税みじか夜の日も關さずて明に梟山楠原迄一里にたらずといふ。さゝ餅と書る店あり。さゝ餅と聞ば粽かとぞおもふ山又一里斗にして椋下村より窪田の間に、とよく野の松原あり。錢懸松もこゝなり。松朽て地ありげなる野原哉山左の方に一身田の堂高く見へたり。部田といふ村の左へ少しさし入て、きれいなる橋あり、白子へ行道也とぞ。津の町の長きは日比聞しに違はず、城は右に少し見ゆ。町數も四月の中の十日かな山出はなれの八幡の御社の左の方五丁斗に阿漕が塚ありとぞ。折ふし酒店に鮓の見へければ、簀卷漬阿漕が塚の近ければ山雲津の驛のあなた左の方半丁余りに忘井の水あり。さる過來つる都の方の戀しきにべき名所にや石に彫付し哥結びやせまし忘れ井の水甲斐少し違ひたりげなれど得しも思ひ出ず。松坂の町作リいと美〓し。人〓がうじにたればとて日高くとまる。十六日、書俳本日山山さる山新茶屋·明星茶屋を經てくし田を跡に宮川の渡しにつく。〓冷にしてしかも深し。吉野川·熊野川と源を同じうすとぞ。舟を上ればやがて中河原の茶店也。內宮より爰迄人を出して迎、持せの酒飯こゝろよく、しばし憩ひて町の左より二見へゆく野道長し。何のわたしとかやを越て程なく浦に到る。山の麓に大きなる巖立連りたる間を傳ひて、汀に出れば佳景云ん方なし。沖の方に飛島·潜島·興玉石など態求め置たらんど見へわたる。東の方は渺漫たる波濤の際りも見へざる中に、洲崎の處〓さし出たるは、桑名のわたりより尾張·參河、遠くは遠江の灘にもこそあめねあたりの子共の代垢離かきなんとせがめば、錢くれて見るに、とみに赤裸に成てする〓〓と海の中へ走りこゐ、おのが長のたつ程迄歩み行るが、いつしかかばと飜りて泳ぎ囘れるさま、げに所にすめばとぞ思はる。島光横海上日氣翠嵐催帆影時〓隱山潮聲續〓來崢嶸紀山接洁蕩遠灘開巖古神威在采蘋憑水隈濱邊に小貝うる者多く並び居たれば、人みなつとにと買袖にす。けふ朝熊へも登りなんと定めつれば、余波をとゞめ顧み勝に杖を引て行、濱荻は道の田の畔に一構茂りたり。蚊屋釣ていせの濱荻折しかん山朝熊の麓にかゝる。此坂は三十余丁にして甚嶮しと聞ば休もてのぼる。あるは女童の腰おしなど笑ひさゞめくに紛れ、辛うじて峯につく。高うしつらひたる茶店の臆によれば、山海一瞬に歷〓たり。實に三楚盡九江平と云けん思ひ合ぬべし。霧も霞も立ざる日は、重なれる尾越に富士の頂の見ゆと、人の語りしもむべさる事ならんかし。例の〓と申さまほしけれど、口ごもりたるははた多景に思ひ惑へるならん。御寺迄は猶七八丁もや有ん。虛空藏井の御戶開かれて此程人のむれ來けるも、けふははや日哺時に傾き、內宮迄七十余丁なんありといへば、寶物抔も大かたに拜みなして下り來るに、夕日程なく嶺に含みて山路とく暮ぬ。折から月の出しほうち曇れるが上、嶺橫をれてかいなければ、省我、用意せる提灯にて纔にてらしたれど、九折なる路を廿人に近きが下りもて行ば尙たど葎亭句集山人みなつとにと買
ん投さんせ、中なァ兄さん、鉢卷さん、跡なァ婆ふさん投さんせ、と耳とよむ迄云もてさはぐが中を少し出拔來れば、こたびは今少しきたなげなるびくにの數十人むれ立てみそこしをもち、前後より取圍み、推て袖にすがり貪る事、ひとへに蠅の腥きにつくにひとし。これ皆彼等が群ありて昔よりかう也と聞ど、いつの比よりの事にやしらず。外宮迄五十丁の間は町つゞきにて、中にも古市といへるには、靑樓も見え戲場もありて賑し。旣外宮にかゝる時、間の山以下の先黑く前に同じ。宮殿すべて去年作り改られしかば奇麗尙いとも賢し。筍の直なる事を忘るまじ山宮囘りしたる樣こそいとおかしけれ。扉に〓る圖は大かた大津繪にひとし。宮守の人を見かけて示し說る神号の膀に顯せるとは、おほかた違ひたるにぞ、猶事さめにたり。〓〓し。とかくして半過下りし比、御師よりの迎人來りぬれば、やゝ力を得て、靜にあやまちなせそと云もて、そやの前宇治橋のつめに出得ぬ。御師何某德大夫に着て皆うちくつろぎ休む。一組の人〓はとくより爰に來居たれば、出合てかたみに笑ひ悅ぶ。風呂·夜食のもてなしも亦事の樣替りて京のこゝちせらる。十七日、空とに快く晴たり。御神樂は未の刻と聞ゆれば、其程に外宮詣せなんとて行。間の山の女共、所がらとて白粉あつうけはふて、三線轟く斗彈立たるはいとおかしきに、片へに莚しき並べて三ツ四ツより七ツばかり迄の稚者の是も皆、顏白うつくりなしてさゝらを摺、甲シ高なる聲を上、額に筋して拍子取、旅人に向ひうたふ。それが後にすへて母めける者の添居て口〓に錢をせがむ。又膝にふしたる抔あれば、此樣に踊くたびれて寐ましたに下ァさいやせ、本ンのこれが慈悲で御座ァいすと、舌だみていふ。向ひの側にはこれも物しける比丘尼共の手に短き錫杖を振鳴して、ゆきゝの衣裳を目當に云並ぶるを聞ば、日比の事にてよく打揃ひぬ。都さん、花ミさん、島さん〓〓、ゆかたさん、先。なァ姉さ日本俳書系大葭原をくゞりて啼や宮雀山天の岩戶は七八丁の坂なるを、岩を疊み埴粘していと滑也。此道つくれる者也とて、あそこ爰に座し居て心あれといふもおかし。すべてこれらが樣のかうやうにおし立て、余りにけしからずと見ゆれど、思ふ事を其まゝにうち出たるや、却て淳朴の餘風なりけむかし。午時迄の約にて出ぬれば急ぎ御師の元に歸るに、やゝ有て三汁十余菜の饗應あり、吾儕にはいとめづらしう興じき。箸取て江戶を思ふや初鰹山酒敷巡過て膳を徹し衣を更めて神迎に詣す。先五鈴川の流に盟漱して一の華表にかゝる。諸門宮殿みな萱葺也。杉の林森〓と物深し。あないの人廣前の傍なる扉を開き入して、第二の御〓シ前にぬかづく。人〓御供參らせられしかば祭文ありて三寸頂戴す。奉納の吟、生れると飛螻にも日の光かな山京をたちし時、瓜流より送別の句ありし返りに、榊取てせちにいたつき祈來ん山其去年より病るをもてかくは云り。今はた其事の思ひ出られて、病ヲ葉のとく靑かれや夏木立山宮囘りは同じ樣なれば洩しつ。御師の元へ歸ればいと早う神明を勸請し奉り、注連引はへ柱卷立て、乙女子·神樂男あまた左右に居並べる後に、其ゆかりの者也とて膝押合て居ぬるだに、けしからずと見ゆるに、玄關·臺所·表口まで尺地も余さでおし入けるを、などてかくやと問へば、御神樂うたるゝ所にはいつもかうと覺へて參る事也と、主かたの長なる人のいふ。さて御神樂始りて一段づゝの太鼓を相圖に、兼て大なる器にあし七八百疋とき亂して入たるを、座の眞中にさし置たるを手どつかふで、あそこ爰へ蒔ちらすに、彼後につめ居たる者の奪ひあふ樣のけふがるに、主かたの人たつて表の方へも投やるに、押合つきやりて息まき罵りたるは今一入らうがはし。それはさる事なめれど、老たる巫のわが座のあたりにちらかりたるを、人目忍びつゝみそかに膝の下へ搔もて入たるおかしさ堪べうもあらず。舞樂の後、祭文よみ果て事終りぬ直ちに賽とて打連て又御山に參る道すがら、あたりの姥·嚊、大勢の童を呼立、吾黨を取囘し、まァかしやれ〓〓とおめく。さし心得し人、あし二三百ばら〓〓と打ちらして、そこをつと通りける樣、そぐはぬ事なれど、待賢門の山葎亭句
かむこ鳥音せぬ水の流けり山かゝる山中にも尙住へる人の有けるや。しゝ垣も所〓に見へ、牛追て耕しつゝおのがじゝ烟輪に吹て語り居るは、繪などのさまにも似たりかし。あふ坂といへる峠七八町の上り下り有て少し嶮し。爰より猶五十丁ありといふ。此峯を過れば、大かた原らにて野也。巳の半刻斗に磯邊に??こゝは志摩の國にして鳥羽の城へは三里也とぞ。里の入口右りの方に楠の大木あり。左にも亦同じ木二株あり。昔かの元樹の枝地に垂て自然に根を生じ、今かく榮しをもて一連三根の楠と号て當社の神木也と語る。元樹は十三抱ありとかや。誠にためし少き事成べし。こゝには物うる家もあらねば、ある御師の元へ入てしか〓〓の旨を談じ、卽あないとして十二三ばかりの童に袴着せて出したり。御宮迄は尙六七丁もや有なん。反橋を渡りて茂れる森の中に入る。こゝも亦內外の宮を分てり。外宮は額に國中柱とあり。內宮は猿出彥太神を祭る。猶此伊雜宮の事には異說あるよしなれど、それはとまれ角まれ靜にすせうの地也。人〓〓神樂參らせたれば、翁三たり夜軍の落口に、八瀨にて實盛が兜を投て山の衆徒を欺けん古への風と思はれておかし。宇治橋の下には長き竿の先に大なる網を結びて、上より投る錢を自在にうけ留るが中、まれにはづれたるが川に落たるをば、童の手ごろの竹にさん俵やうのもの付て透さず押へ取ける樣、かゝる業にもげに修練は有けりと感ぜらる。黃昏の比歸りていこふ。つとめてのあした磯邊へ志す。朝熊の道三四町ばかり登りて右りに分れ行。すべて山間の徑也といへどもいたく嶮しからず。杉原·笹原など云所を過行に、溪川〓く流れて左に成右に成て越けん數をしらず。いづれも橋はあらで平めなる石の薄赤きを尺斗づゝ置てたゝみなし、そが上を渡りて行。水淺ければ危からざれど、雨の降たらんにはとみに水かさや增りなんと覺ゆ。此わたりの山松蓋たれ枝斜にして、態作りなせるやうなる甚多し。あはれ都近くあらば抔誰もいふめる。巖うち登りてあやしく妙なる峯〓〓見過れば又いで來て、更に應接暇あらざらしむ。似た樣で其山でなし夏みどり我本F1俳書系大我ゑほしかづけるもかづかぬもあるが、笛·鼓·太鼓にて何かは諷ひたる、ひなびにたれどすせうにおかし。此御宮は一とせ前に御すり有しとぞ。さる故こそあらめ。彼御師の元へ歸りたれば、早うひるのかれいひしてさし出たら。中〓思ひしには增りてきよらかに面白しとばかり有て、硯こひ出さきに思ひよりし神木の詩かいつける。豫章元一樹一樹作三根長幹靑天接驚風白日飜山霜雪尙凛然亭々幾千尺更經數百年知作大磐石脫け出て幹に定るわか葉哉ゆるやかに休て、元の道へ十町ばかり歸り鸚鵡石を見る。大なる巖也。前に四間ばかり置て藁屋をかけ、男一人守居たり。今來し岨に小さき岩の有により居て、うたふをかのわら屋にて聞ば、石の內に人の居てうたふ樣也。小屋を出て石の下へよれば、ふつと聞へず。尤怪むべし。主の男かの岩の下にくゞまりて、唯地聲に山の謂れにおのが事抔取まじへ云つゞけたる、譬ひ兩方に人ありて連いふ共、かうは一ツものならじかし。さは尙これにも聲ハ遣ひの侍るにぞ。鸚鵡石金がほしいと呼ふ也山此わたりの民の子供も亦旅人とだに見かけぬれば、馬にも駕にもまつはれて錢をこふ。其諷ふ事もまた同じ。あとも先も覺へねど、おかねもたァんと設さんして、お藏もたてゝ、とやらん云もて三五丁も付添來る。すべて關の別れよりこのかた、からくり的·豆切·水囊入、その餘の乞兒數へがたきが上、つらの皮厚うさり付て他トを貪るは、國のならはしにこそあめれ。つら〓〓思ふに、御ン神の光をもて、あまたの者の朝な夕なの烟をも立けんは、誠に限リなき御ン惠みならんかし。ある山田にわかめにて烏つくりたる鳥おどしのいとよく似たるあり。崑崙山には玉をもて鳥をうち、松前には昆布にて屋根ふけるとやらん。みな所から成べし。腹淋しわかめの烏割喰む山抔戯れて杉坂迄來ぬれば、御師より迎の人さゝえやうの物携へてこゝに待居たり。思がけず嬉し。酒少酌て暮ぬさは尙これにも聲ハ遣ひの侍山亭々幾千尺更經數百年葎亭句集
不是風流觀察使何看玉爵別離吟紀綱長斷齋王ト詞藻偏憐異代心臨眺聊將歌下里宮前妻雨思難禁雲出のこなたより香良洲への道あり。馬にあないさせて野路を行。二里ばかりもやあらん、星合社と云る前を過て、うちにと急ぎにし程に、戶ざし比歸り來ぬ。一組の人ゝはけさ道より別れて朝熊越にかゝりたれば、道も遠きが上嶮しければ初夜の前に來ぬ。今宵はからずもこゝの風人左竹にあふて語る。短夜に睡たひ事を忘けり山みじか夜や睡らんとすれば時鳥左竹互に脇の句もあれど例の洩しつ。十九日、よべより雨降出たり。省我と守武の社を尋て、此道よ茂りの深き葉の雫山西行坂は寺ありてさびたる所也。近比庭に芭蕉翁の碑をたてゝ槿の句を刻めり。葉櫻や絕ず流るゝ水のさま我きしる戶を明たつや雨のかんこ鳥山吟じ捨て舍りに歸り、蓑笠に雨を侵して歸旅に趣く。已刻ばかりに中河原に來ぬれば、例の送人こゝに待うけて酒をすゝむ。されど未其興もあらねば一二酌にてたつ。齋宮懷古。祭場縦跡樹森〓客子忽〓一訪尋山系大書俳本日山竹左蜘の子も願ひの糸を學びけん山香良洲は平沙渺〓として松林深う茂り、渚〓らかにして松露多しとぞ。ちか比入口の堤數丁が程に並樹の櫻を植渡したれば、春の比は津·松坂わたりの人來り賞すとかや。竈の子潮に打れてまろぶなり山椋下に舍りしに、あるじ狂哥好て多く語り、あがやどせるまろうどには、誰にまれ狂哥を望み來し習ひなれば、一首せよかしといふ。其事に得ざればいなむといへども、とかく免るさねば、ぜびなく其屋号によりて、いろは屋と家名を聞けば御亭主もかなに埒あく人とこそしれ客子忽〓一訪尋山明和七年庚寅四月此紀行なりて後、ゆかりの者の俳優をもて、冷泉入道の君へ參り馴奉りしにつけて、潜に御覽に入まいらせしに思ひ縣ず御筆を染られて、題号のおせ並につゝみにかうなん御戯れの侍りしを其まゝおくりこしたり。いと辱くてやがて此書の首に冠らしめぬ。人のおこ也と云なんは、とまれ角まれ大ぞらの風にまかせ侍らなん。嘯山書第一我師嘯山老先生、初老の頃より長者街に居をトせられて、其風韻をしたふ人すくなからず。誕は享保三年戌三月廿五日とかや。齡八十四にて簀を易られしは今享和元酉四月十四日なり。先生の岳父望月素竹は芭蕉門人木節の息なれば、翁より傳ふる處の家藏多し。著述あまたあるが中に、寶曆十一のとし古選を編シ華言をもて句每に評あり。見る人其和に漢に文の縱橫なるを知るべし。安永二の比新選を出さる。こぞに至りて獨喰を校して納とす。先生性天姓眞卒不覊にしてよろづ物にかゝはらず。學あり才秀て識尤高きは、諸好子の耳にふれ口にいふ所なり。弱か(元カ)りし時富鈴門となられしは寛保、三辛西の年にして、しまで六十二年也。富鈴初てのげざんに、似我〓〓の聲を習はん穴の內とあり。紀行は雪の跡を4000 L.度度越有馬讃岐大和攝河紀行、紀子·濱圓坐組行·薪日記省袋子を隠ふ。其外菟道·淡海·若狭·芳野·兵庫等それ〓〓和漢の文あり。中にも此いせ路の記は亡父省我同じ旅寐なるが上に、予も稚かりし時杖にすがりて詣ぬれば、かた〓〓のがるべうもあらず。あら葎亭句集
ましをしるせよと李流兄のすゝめもだしがたく、拙き筆をとるも此故なりとゆるし給へ。題号は冷泉爲村卿御稱嘆のあまり御筆を染られ、鈴鹿越となん遊ばされ、嘯山へ參らせいへ〓〓〓介へと仰ある。る人なり。婆〓、普洲といふ老師の甥な尾陽山脇家の門に卿の御心に叶ひけるにや、して狂言をたしまれしかば、となにての (電話)には召れけるとなり。參らせゅへ〓〓は彼狂言こ有がたしと其儘に題号とせる。序文は幕府の龍眠君にして、書は消日主人の男淳德なり。紀の文も老師自筆の儘にして木に上さる。しかのみならず興にふれ事に感じて咏唫あげてかぞへがたし。こたびの集は序井端書等ある句はしげ〓〓しければ洩すをもて、其おくふかきみちのくの果までも、老師の名だゝるは實德の高きなるべし享和紀元秋八月葎亭鈴鹿越句選洛李流技三宅嘯山卷之第二春之部歲旦明の春世に葛城の神もなし宇太村は何處に隱れて花の春名と利との中へほつとり花の春元日や何さま家の政事人每に妖直しけりけさの春なつかしきみちのくぶりや鴨雜煮雜煮椀おれも持丸長者かな國の春虎のなきこそ久しけれ初空や馴ていたゞく日枝颪古きより曆もたちぬ三ケ日京に春何處の浦の蛤ぞ脊戶口の麁末もおかしかざり繩寺〓のあらもの〓〓し門の松李逕謹識〓〓引道具門の松原明にけり僧正の兒祝われぬ福壽艸主人先眞似て退れつ鏡割ひらく日も莚にうつる鏡かな昆布はさむ箸にまつはる野老哉初寅や衣の裏の玉かしはいかい事千代をたばねる卯杖哉福藁や誰取初し早苗よりとし玉や童ごゝろの玉手箱玉うちを避て行なり御寮達たまうちや抱たも踊る男の子奧庭や羽つく中の笑ひ聲寳引や柳したゝる君が膝姓寶びきや高野小性の里下りきげん取乳母が手くらや胴ふくり寶引やめまぜをねだる娘どち寶びきや女の肘もたつか弓節の日やくらぶるとなき娘どち節の日や手まりあてがふ一座敷なゝくさやきぬたに得ぬる家童子子四五錢の薺買れつ長者殿叮嚀に薺はやして又寐かな新すらけふは役ある薺哉萬歲や素袍の袖も靑によし万歲に腹かゝへけり取揚婆〓春駒や若衆をつくる玉くしげ人に似た姿便なや猿の舞猿ひきや三筋足たる頰がまへ一芝居步行〓〓やくわいらいしおづ〓〓にでく呼れけり夫の留主抱た子もぬかづかせぬるみしほ哉たどりつゝ御修法拜みぬかり袴左義長やいともかしこき庭の鬼御代繼の吉書にどよむとんど哉灯やおぼろながらに君が皃月花と燈立たり御師が宿同九九七艸万歲春猿駒引歲玉玉打傀儡羽寳突引御修法葎亭句集大理座堂春燈節
木〓のめや皮付柱水をふく鍬箒木の芽面倒見てやらん池水もみどりに返る木の芽哉下萠や土かく鷄の蹴爪よりくゝ立や繩の付たる捨氷芹燒や主手づから火ふき竹水に濺ぐ根芹や鶴のきれい好牡逢初し杜蠣も末なり蕗のたう蕗のたうとくと咲たる花白し草の芽や火桶の割の二ツ三ッ艸のめや去年に變りし遠干浮くさのめや未卷たらぬ牛の舌草の芽や後はいとはんものながら若草や人の來ぬ野の深みどりわかくさにかゝれる沙や雨の朝弱草の上流れけり馬の尿わかくさやざぶ〓〓かゝる磯の浪身を撫る洲崎の魚や春の草日系大書俳本厄參厄參り思ひつる事果したり駕界やよき序なる厄參り後厄芹の羹めづらなり東風颯と調べかはりぬ琵琶の湖胸髭のちゞれや伸る東の風遊べとぞ東風の聞ゆる人の耳降ながら東風に替りし風見哉筋違に土橋とけぬ日のうつり搔つ撫つ氷をほどく柳哉な寄そよ氷のひまのさゝら波こそばい歟雪解のかゝる牛の兒川口や雪解の水の共濁り解たりな男は右を雪の道來る水によその雪解を量けり殘雪や松の梢のつくり道何送る文字に殘りし如意の雪雲透に木の芽ぞ光る豐後橋月暗し未芽をきらぬ寺はやし東風下莖芹萠立凍氷解解蕗薹草芽雪解若艸殘雪木芽春艸公家方の野袴風俗や春の艸やぶ入や雲井の月の物がたりやぶいりや輿添男いかめしきうき事の曾我けいせいや二の代り妻娘花見に替へつ二のかはりうるはしき念佛行者や御忌詣晝舟の帆を送り來ぬ御忌の鐘さはいへど御忌奧深し華頂山梅さくや煤掃てゐるよすて人嗚呼の者寄來て梅の花見哉うめさくや角ミを拔あふ肴賣どれ〓〓と灯下に見るや楳一枝梅さくや駒下駄なりの畑せゝり熊の手の蟻も盡た歟梅の花薄雪に紛れて梅の吹雪けり雞の蚯蚓堀當ぬんめの陰うめさくや垜を直す組屋敷俯きて其儘ありや雨の梅紅梅紅梅のしらけ仕回や雨つゞき紅梅や兒の文書く椽の端朝腹の人のながめや未開紅鶯やうきに曇らぬ籠の聲うぐひすやこたつの上の小盃うぐひすや地に一寸の日の寛ミ鶯や囘れば遠き池の嶌鶯や護摩修せらるゝ殿の上うぐひすや未だ霜腫の人の耳うぐひすや小雨打ちる園の中うぐひすや出家さす子のなづけ物鶯の啼仕舞ては光りけり靑柳や三日見ぬ間の薄綠あれる日もひとりあしらふ柳哉茶をくんで柳に向ふ獨座哉生けた跡は突さいて置柳哉日每醉主に似たるやなぎかな投入に鼠のつたふ柳かな四六、藪入未開紅鶯二ノ替御忌梅柳葎亭旬集
ほの明し霞に醉る月の皃長橋の行人征馬 霞けり寸馬豆人峠に變る 霞かな朝吹や霞の底の三保の松よべの雨蒸て外山のかすみ哉富士の雪雲井にのせて霞けり薄霞む間いに水の光かなほけやかに京の京たる霞哉弓張の入日を追ふやうす霞させんせしの論や薪の能のもめ下にゐる二王の顏やねはん像遺言に金の事なき佛哉生れたり死で見せたり釋迦如來見よとてや生れ來し身の雪の果まほならぬ匂ひなつかし朧月さゞ浪も朧の音や月の下たらしやる醉たんほあり朧月朧月小町が哥の風情あり朧月あやしき人の藁草履案內に五本の柳靜なり醉てはいるのら友達や門柳嚙で見て馬の嘶くやなぎ哉啌ついた樣に春なき寒さ哉未寒しふるひ捨たる炭俵年の上獨りにあまるさむさ哉暗がりの鰈に余寒の光かないつ去る事も白根の寒さ哉出くすみの褌しめる余寒哉二三日富士の余寒や旅の肌冴かへる空もやうそを月の風桑植す皆あたゝかし十万家浪うらゝ船にあゆまぬ山もなし春日和肱も机をはなれけり未死なぬ粘うり婆〓や春日和山城に似たる大和やうす霞上京や霞の奧に雪白し砂道に鍬ぬかしけり夕がすみ系大書俳本日冴余歸寒薪涅能槃暖麗春日和雪朧果月霞なぐさみの念佛もやみぬ朧月朧づき還御は先も追ざりけり朧月幾度雨に流しても音のなき巨椋の沼や朧月橫に見る五條のはしや朧月おぼろ月夜風の毒は離れたり初午や小鍛冶が舘へ夜の殿下ざまの初午競ふ日和かな初午や蚕飼ふ家の物いはひはつ午や手紙封じる赤の飯はつむまや祭り捨たる野の祠鳶ついと社日の肴領しけり心行ひがんの空や天王寺散事は梅をかゞみのひがん哉何よけむひがんにあたる妾物種の器に氣さすひがん哉時正の日獵師の茶の子貰ひけり賃とらぬひがんのけふや渡し守鳥巢鳥の巢や一筋づゝの藁仕事巢つくりて鳥もよい子を祈けんたしかなる鳥の產家ぞ角やぐら囀の中にひろごる日南かな妻鳥の囀る方へ遷りけり細川や囀りながら羽そゝぐ囀りやそれを商ふ店の籠囀や園の行衞は裏 の町こゝろもて心に傳ふ接木哉我手のみ知るや接木のしめごゝろかいくゝりきゞす隱れぬいさり松雉子啼て烽の野面艸靑ししづくたる雨もうつくし雉の羽野をわたる雲を蹴て立きゞす哉それ程に雉も迯けり子供業逆ひつゝ乘つゝ風の燕かなつばくらやあれも妻子を置所紛らかす江戶の軒端やつばくらめ囀初午接木雉子社彼日岸律亭句集燕
雀子や川を越たる嬉し聲すゞめ子や見るを見まねの獨はみすゞめ子や机の糊に引れ寄る子鳥やさしそろ〓〓舌の廻り椽柿の枝折や烏の巢ごしらへ雛鳥を己が巢に飼ふ烏かな近よりて蝶肝潰す野風呂哉つまみ來て女蝶男蝶の僉儀哉障りてや馬の鼻ひる蝶の舞てふ〓〓や其夜〓〓の花の宿蜘の圍に粉して遁るゝ蝶〓哉蝶〓の草拾ひ行野面かな音なせそ蝶の眠りを折取ん蝶の舞上羽も聲はなかりけり花の藥にこそぐり合歟蝶の髭花の蝶蜜作る氣もなかりけり舞のぼる初瀨の廊下や蝶一つ血の出ぬ蝶〓の腹や茨かき燕のまよふた皃や舟やかた廣ひ家の望もなしやつばくらめ水に見る己が自在やつばくらめつばくらの身をりん〓〓と往來哉燕の瀨田を越ては戾りけり燕やあら血の上も只は居ず歸る雁病て殘るもなかりけり暗き夜を日に續雁や鄉心米踏の見送る空や歸る雁面白き空より鴈のわかれ哉行雁や余波に一夜隱岐の嶋歸る膓童目さとく見留たり遠眼鏡上るひばりを寄にけり四ツ五つ空から繋ぐ雲雀かな瘦骨の風に任へ居るひばり哉土邊より扇ぎ上たるひばり哉立時は疾くて見へざる雲雀哉親すゞめくゝめる中で養けり子烏鳥子歸雁蝶雲雀雀子蜂靜なる娘の鳴呼や蜂の聲狹き巢や子にはさはらぬ蜂の針蜂の巢にいつくしむ子や一間づゝ花をのく拍子なりけり虻の聲花の香に醉てや虻の跡しさり啼繼で人を送るや野の蛙まじ〓〓としては蛙の歩きけり小うれしき夜は可愛き蛙かな啼立て離家ゆるぐ蛙かな連るともなく音かたまる蛙哉なく蛙机の眠り引にけり蛙來て坐禪の床へ上りけり船に付て矢橋へわたる蛙哉又氷る池や蛙のかこち聲飛で見つ這つゝ草の蛙かな春淺く鳴ル子に似たる蛙かな野宿して一夜蛙にまぶれけりかげろふに小首かたむく烏哉陽炎や良分れ來る酒旗の文字活石に陽炎もゆる野中哉糸遊や雪の白山越るけふいとゆふの目ぼしにまつふ夕かな雲心なくて糸遊隱れけりいとゆふやうかれ心の空をふく出かけたる地虫びんなや鷄の觜やぶ入のたらずや猫のうつら顏いつくしむ猫のつはりや物思ひ板葺をうしとや猫の忍び足屋根を追ふ日高の川や猫の戀猫の戀かまはぬ事のいと憎し逢度に女夫喧嘩やねこの戀東風に通ふ心つくしや聖廟忌見しりある屋根屋の兒や聖廟忌白魚に老たる親の機嫌哉白魚にいとゞいぶかし海の潮白魚や尸の上の名もしるし糸遊虻蛙地猫蟲戀葎亭句集聖廟忌白魚陽炎
淋しいは己がこゝろぞやまざくらやま櫻翌を思はぬ風情哉若ひ衆の雪踏や憎し山櫻おしげなく折て吳けりやま櫻段〓と目にほどけゝり山ざくら暮おしや舟へ下りたつ山櫻糸ざくら裾を合せてほめにけりいとざくら枝も散かと思ひけり春もはや椿にこぼすうこん哉落椿春の湊をゆられけり花も葉もひかる月夜の椿かな椿落て小魚日影にはしるなり程を經て雉子立戾るやけ野哉草薙の鎌もてはいるやけ野哉夕月の燒野の灰に曇りけり迯て出て狐見かへる燒野かな打泣て出代りにけりけなげ者出かはりや女あるじの心添へ鰤鱠兵庫の酢醍醐の獨活や御鱠子は親に離れぬ物歟ふなゝます門川や諸子釣子のみだれ髪未だわかき苣の苦みやもろこ汁飯だこや人一口に喰てけり飯だこや殊に晴なるぼんのくぼ又兵衞が自慢の味噌や蜆じる小息子の短氣呵りぬ蜆とり石山や田上近ししゞみぶねとけしなき業に老けり蜆とりゆり出たる田螺の泡に入日かな山下る僧の憐む田にしかな泥手ふく在の馳走や田にしあへはじめての日は鳴神もやさしけれうか〓〓と涅槃も過ぬ初ざくら降雨に程拍子あり初櫻荷ひ來し水の〓さよ山櫻婆〓嚊の人評しけり山ざくら諸子飯蛸蜆糸櫻椿田螺燒野初初雷櫻山櫻出代出かはりて來て初〓し箸も名も出かはりや塗て見えざるつらの皮出代りに四鳥のわかれ見たりけり相應の田園樂や種下し藏もある門邊の川や種下し種まくや釀した酒の口明ん畑打や明暮わたるよしの川畑うちや鳥の馴たる影ほうし白雲や山畑かへす雨あがりかへす田やよそにも牛を呵る聲苗代や家內を祝ふ妻の酌苗しろや良雄屋敷の水かゞみなはしろの澄きる朝や露の音のら付て太郞が苗代後れたりつみ草や男をよける長堤摘艸や靑侍のまもる堤口つみくさや後姿のくるゝまでつみくさも相合駕や稚子二人摘揃ふ草もしめれり夕げしき山うどの羹苦し間の宿淡しさの尋常なれや名護屋うど薄刄目にうどの曇りや夕月夜春もやゝ酢め立にけりさいたづま折分て扁杖喰ひぬ女の童唱うたふ遊女目早きつくし哉土筆戰書下せる野原かな摘て燒船のけぶりやつく〓〓し花に行群集の道やくわゐ堀搔ゆくや空だのめなる慈姑ほり菊苗に雨を占ふあるじかなきくの芽や藁の袴を未脫ず慶實ばへ菊主寐、食わすれたり石がちの崖路の末 や瘦蕨塚原に空しく肥し蕨かな上童わらび指手の染りけり喰よりは折手嬉しきわらび哉同六七獨活種下シ〓杖畑打土筆耕苗慈姑堀代菊苗葎亭句集摘艸蕨
四八八うかれ行煎餅おかしや鳳巾尙淋し角落したる鹿の皃角搔て粥まつ鹿の睦みかな鹿の角芽だつ紅葉に代りけり目覺の木もなかりけりもゝ林日傭共桃もらひ行夕かなよべの雨遠目にさめぬ桃林もぬけたもあらずて桃の林かな藥つく水碓やもゝのおく咲立て日を蒸る桃の匂ひかな飛〓に高低の家や桃のはな買足せる在〓酒や桃のはなしのびつゝ雛突て見るや男の子深窓や雛の竈の煙たつ爺親は臺所にあり雛まつり紫の上なきひなや夜の榮雛にも人の奢のうつりけり御雛出す音や手くりの長廊下痩わらび事なく枝を出來しけり紅粉さいた指に音なす蕨かな切取て和紙にひんまく薊かな倒れたも除て通るや鬼莇木瓜の花童すかさん樣もなし垣にせぬ主ゆかしや木瓜の花なのはなのたりひすみなき盛かな菜の花のいつこぼれてや小石原なのはなの雲を蒸なる匂ひ哉らうたげに參り佗たる海雲哉潮海の黑みのうつる海雲かな居る鳳巾出てある月と並びけり樓をゆらめき出けりいかのぼり鳳巾あげて君が船出を見はやさん朱雀野の鳳巾見る客や膝枕ふに〓〓と關屋の上やいかのぼり二三町空に規矩あり鳳巾寄見ては又のく鳶やいかのぼり系大書俳本日鹿角落薊木瓜桃菜花海雲鳳巾雛祭蓬餅そぐはでおかし內裏びな摘よせた家內の精や草の餅桃の日や水を脊にせる家作り曲水や二首つくりたるしたり顏盃を膝から膝へ流しけり京童手に手取行汐干哉むら烏思ふ處へしほひかな算術の今更こはい汐干哉汐干たり海も底ある物なりかし二人して勝鷄さする褒美哉負雞の是非もなく〓〓寐入けり彌夏の兒も距やとりあはせ寒食の暮や駕飛ぶひがし山寒食の晝のひかりや無盡灯寒食や朝鮮人のながめがほふらこゝに望て出たり男の童ふらこゝや花を洩來るわらひ聲ふらこゝに乙子の愛のこぼれけりふらこゝに猶ゆられけり夢一夜良安良愚に直な神祭安良やこまかにしれぬうたひ物壬生念佛つく〓〓と啞の笑ひや壬生念佛御身拭御身拭佛の胸の廣さ見ん御影供御影供や子を賣にたる人ごゝろ京や猶いろはの恩を御影供曉を松に月あり御影供遲日遲き日や土に腹つく犬の伸客留てひけらかす日の遲さ哉留主番は妻の常にて暮遲し寐もやらぬ狂女の番の暮遲し船頭の寐兒に春の日脚哉空に月きよろりと待せ暮遲し永日永き日も馬は追れて暮にけり生れ子の永き日を寐て暮しけりながき日や二百町坂を杖二本雞上る塒にながき日あし哉御番衆の欠びもながき日影かな草上曲餅巳水安良汐干遲日鶏合寒食永日葎亭句集鞦韆
品川は海苔の海なり東海寺花守にいつと問なん雨の暮待花に勢ひおくれの寒さかな待花の違ひ〓來ぬ嵯峨便待花に古老の噂又聞ん稚子は乳をくわへて花見かな公家衆と幕一重なる花見かな門を出る風情に知るき花見哉髮かたち飯もはれなる花見哉ほら〓〓と男追はゆるはな見哉つるべ鮮てうど屆きし花みかな手車に座頭うかるゝ花見哉垣間見る目ぞ變り行花の幕病にたる人も見へけり花の幕花見幕にも家風あり後家の君忘たるわさび買けり幕の人田舍人の遠くためらふや花の幕甘き香の空に滿けり花曇り爐塞炉ふさいで何やら物を忘れたり爐塞で居つて見たるあるじ哉炉ふさぎや淋しがらるゝ老ひとり爐ふさいで童四五度かけりけり爐ふさぎや膝に馴たる此櫓桑摘や馬下り來るは何處の殿安んじて蠶は桑に付にけり上りやむ鮎や山路の溜り水二ツとはかさねぬ〓のひかりかな若鮎や蟲に飛つくはなれ物打明る獲のあゆや妹がもと小あゆから育わかりぬ東川女の童上る小鮎や松浦川くみ縧や人の工の隈もなき雨の日や壁のわかめの潮しづく餓鬼引に引て裂とるわかめかな氣短に海苔焦しつる男かな荒磯の匂ひや海苔の焙より花桑若鮎若和布海苔羽ぶき來る蜂に花の座頽れけり花守やむかしは烏帽子今は棒翌の花白春炊ぐきおひかな母らしき人の居にけり花むしろ庭の花下戶な入そと書れけり來た犬の主得兒なりはなの下惣門の輾りや馬場の花の雪まぶれずも飛かふ鳥や花の雪夜ざくらや朧に照らす壁の下夢心夜を守りけり家ざくら嚴然と關所に白きさくら哉さな吹そさくらの下の火吹竹櫻よな流石こもくは捨ざりけりいつとてもさくらに書は女文字朝ざくら素兒の兒のイめり一ばいに櫻散しくや持佛堂禪僧の濟したらしや散さくら陰に寐て落花のふとん被りけりする墨に落花の雪のまぶれけり百限に奢る日傭やさくら鯛腐つても鯛遲ふてもさくらかな吹散し花や海にもさくら鯛つゞりさす糸海棠のはな衣雨請て海棠壁を照しけり梨の花凍にし膚忘れけり靑なしや花にも水の有がごと咲立て太しき枝や梨のはなやまぶきや藤の抱つくうしろ影やまぶきや水の銀光りあふ山吹や柴橋輕く懸なせりやまぶきや沓うちかゆる殿の馬山ぶきや小竹筒を洗ふ暮の川やまぶきや爪上りなる寺の門やまぶきの盛りは水をはじきけり連翹は花壇の空で咲にけり連翹やよしある園の裏築地櫻鯛海棠梨花櫻山吹葎亭句集連翹
茶乙女と世に言ぬこそ恨なれ出在家の物なつかしき新茶哉春の野や妹負渡すさゞれ川春の野や草一面の淺みどり春の野や丹波の和尙出られたり雨後更に遠目賑はし春の山欄干にのせてゆたけし春の山京の山溫泉のなきこそうらゝなれ妹脊山笑ひを川へこぼしけり汲上る水はつめたし春の雨うたひゐる飴屋が傘や春の雨年越た蚊の出初けりはるの雨物しりの朝寐好あり春の雨濡つゝも足代組やはるのあめ春雨や蓑着ぬる子の嬉しがほ春雨やならず息子の二日ゑひ粉灰たつ空を流すやはるの雨はるさめや宿とく取し腹ふくれ連翹や秋の風情を催ふかとゆらめくや藤の英ねぢれずも折佗て藤をかこつや女わざ藤さくや欠てとれたる崖の上白沙を拂ふ枝末や藤の花ふじの花雨の降日も自得かなあたふたと折ば短きつゝじかな山買ふた初手の眺や花つゝじ呼かはす寺子の聲やつゝじ山岩つゝじ言はで過けり位負暮る野につばな落ちる光り哉人近し五加木は針を持ながらおく霜も橋有たけのわかれかな姓百性の心つもりやわかれじも手拭に素顏めでたき茶つみ哉川舟の櫓に響きけり茶摘哥何某の娘木深く茶つみかな柴舟の譽てわかるゝ茶つみ哉系大書俳本日藤春野春山躑躅山春笑雨茅花五味米霜別茶摘春さめや二日目はもう呵らるゝ笘葺て香利く舟や春の雨游ぎ越獵師が犬 や春の水甘みつく店の密柑や春のかぜはるかぜやこまかに光る市の塵春風や動くともなき鳶の羽薄綿のあたり心やはるのかぜはるの夜や短ふなると思はれず春の夜や男とおゝないくつれ歟よき人の住居靜けし春の宵春の夜や女のうたふ熊野の文春閨はる深く閨に樞を落しけり獨たつ妻戶の影や梨の月枯芦に伏れる春や波のおとうま過ぬ夜の化粧や二月頃治聾酒や假令斗の座敷形積塔や古風傳へし膝と膝野鼠の長ほど草の若葉哉船過て又起たちぬ芦の角春もはや半すぐろの薄かな蓮瓶に萍生ぬ二葉三葉姓江口今土百性や西行忌暮春ゆく春や心に野路を書の窓行はるや夜の錦のほつれより行春をあれもおしむ歟鳶の舞行春や花をやりしは今の事のぼり目にとゞまる春の余波哉子心に春おしとてや筆すさみ一とせの前ぶりとりぬ暮の春暮る春をはやし行也太神樂彌生盡物うしなへるこゝろかな關ながらせまらぬ春の行衞かな手ひろげて蕨も春を送りけりやがて脫布子に春の光かな葎亭句選春之部終春春水風暮春春夜葎亭句集春雜同一五
是がそも町家の庭かぼたん畑精狼籍のない花見かな牡丹哉牡丹見や沙糖こぼるゝ兒の膝金雞のさし覗ひたるぼたん哉白ぼたん月の圓みに向ひけり〓談家家に替たるぼたん哉散ぬれば牡丹芍藥紛れけり芍藥の役目ぞ重き天が下しやくやくを日〓にほどくや蟻の舌芍藥に鄭の國風俗吟じけり灌佛や寺の祭と覺へたり灌佛に母御たづぬる娘かな誕生のほとけ指さす人もなし灌佛や人を〓のロひらきくはん佛やちいさい子にも衆生緣峯どよむ祭や湖の水なれ棹祭見る鼻猶高し山法師白髪にもかゝる葵の綠かな流技洛李三宅嘯山牡丹葎亭鈴鹿越句選卷之第三栄大書俳本日夏之部鳥の羽は落し捨なりころもがへこゝろせく娘のたけやころもがへ機織や更た衣にたまだすき初袷薰籠さまして召れけり袷着て見合す兒や子三人いづれをと妻の問なる袷かな胴の間へ家中出仕や初袷關取の膝撫て見る袷かなりゝしげに魚すくう子の袷哉袷着た朝や机のより心護持僧の有紋ゆゝしき袷哉律院の齊と成けり初袷更衣芍藥袷灌佛山王祭葵祭炷しめた扇に請る葵かな目出度も輾る車や賀茂祭葵橋一ト日斜に掛流し數珠かけた直衣姿や八瀨祭揚〓と家老の鎗や地主まつり何某の株の遊女や地主まつりから竿の麥に走れるしなへ哉佛檀に白く置けり麥埃麥うたや離宮に近き村の長麥秋や一揆起した村ぞこれ音なして麥うつ藁の碎けけりはじらい歟犬も出て寐る麥の外麥秋や思ひ出申す鳩雀麥〓やおしかけ客に何處貸さん朝居して目を刮ひけりかきつばたふき〓〓と兒に水あり燕子花妊ぬる葉を痛はるやかきつばた水に寐てつぶり上けりかきつばたかきつばた千度濺ぎて開きけん瓶にして猶優美なりかきつばた旗下に鳶尾菖蒲あり燕子花かきつばた紫ほどのくらゐかな手伸して折ばひしげぬ燕子花石山の堂のしめりや若楓妖の出さうな溪や靑楓しづくする艶もわかしや一葉づゝ旅人の若葉跨る山路哉もまば皆水に成べき弱葉かな汗かいた峠冷つく若葉かな白けゝりわかばの陰の小豆餅野水白く若葉を拆て流けり漣も綠に立し若葉哉樓の欄這ふや夏木だち夏木立眞葛が原を鎻しけりなつこだち深く春日を拜みけり松杉の淺き綠や夏木だち八六番地主祭若楓麥若葉葎亭句集燕子花夏王五
庭出來て物待たれけり苔の花着た形に花さく苔の衣かな牡丹さく隣に輕しけしの花葉にも根にも打こぼしけり芥子の花蓼靑し鴨をつらぬく泉川昧爽や合歡の葉閉ぬ夕曇月白し障子にうつる合歡の花笋や納所坊主の腰の鍵竹の子に黑木の華表ゆがみけり雨晴や笋藪のうすけぶり筍や兒も和尙も鍬遺ひ笋や重なる石を被き投竹の子に光の陰を感じけり殺生と我笋は思ひけり笋に一月肉を忘れたり月花は雨が禁物ほとゝぎす杜宇乞食のつかぬ野はら哉一点の不二の明りやりほとゝぎす水走る石の徑やなつ木だち泡盛の氣に移り來ぬ夏木立夏木だち黑塚遠く雲渡る山寺の茶をもむ場や夏木だち大坂を出はなれにけり夏こだち桐咲や去年の臺を付ながら桐の花局に惱む美人あり毛むくたつ中から黄なり機櫚の花うの花のこまかに咲て白みけりうの花やおれが下葉に闇もありうのはなや出店に月とほとゝぎす暖にうの花の雪こぼすなり卯の花や障子の白き比丘尼でら見ずしらぬ人にうの花乞はれけり葉櫻の黑みに瀧の別れけり葉櫻や盜人もなし番もなし葉斗も櫻なれやこそ名は殘れ葉櫻に寺号斗の燒地かな苔花系大書俳本日罌粟花蓼合歡花桐花焼き比卯花笋葉櫻杜鵑人立て傾く舟やほとゝぎす子規可愛がられて人遠しほとゝぎす待乳に雨のこほれけりうかされた茶の嬉しさよ杜宇さま變る酢吸の兒やほとゝぎす子泣せぬ妻を譽けりほとゝぎす焚糊のまゝ子に成りぬ杜鵑風と寐覺とたんの拍子子規近く啼て深き姿や杜宇雨催ひ鶴の翅に猶暗し四五町は耳にありけり行〓〓子かんこどり一代小判見ぬところ淋しがるも人有てこそかんこどりかむこどり高野の公事は未濟ず馬糞なき路の細りやかんこどり鳴鳩麥にもつかで啼居れり山法師おとなしき世やかむこ鳥溪水に我影法師やかんこどり蝙蝠熊坂は蝙蝠中うに摑みけりかはほりやよし有家の建くさりかはほりや不受不施寺の堂の軒蝙蝠やむら雨過る夜の傘かはほりに鼻なかゝれそ眞の闇奉るほたるや握りこぶしからはら〓〓に迯るも赤き螢かな迯るともなくて空へぞ飛ほたる石山の月の先追ふほたる哉下陰は月にも嬉しとぶほたる京中は一錢づゞのほたる哉螢起て心ぞはしる川の上燃る身を浸しては飛ほたる哉飛ほたる尻の短き光かな葛の葉のどちらも見へる螢かな抓む氣のなくも老けり螢狩行先を角に搜る や蝸牛てゞむしやかけ引橋の堺川螢鷭行々子鴨鳩葎亭句集蝸牛
蚊帳狹し十うを頭の木偶箱蚊や取て朝寐の兒へ被せけり蚊帳釣た舟にくらしや薄月夜俱寐て戾る駕に蚊帳なき遺根哉小夜更て戾る男や蚊〓の音酒臭き夫の鼾やかやのうち灯や蚊帳にゆかしき假名草紙あふぎつゝ机を通す蚊やり哉蚊やり火に物言せけり君が方駿河臺富士を見越る蚊遣哉蚊遣りたく火入や二人かたるほど手傳ふて客も蚊やりや水驛武藏野や聲せぬ虫の夏を越水垢の上を渡るやむしの脚朝〓の蚤に怒りや人ごゝろふためきて我とおかしや蚤と指流しもの枝もろともに毛虫哉京者の口を閉けりはつ鰹つまみ上て見れば隱れぬ蝸牛しづくしてでゝむしの國かくれけり身の筋の貝に通りぬかたつぶり戰ぐ葉や移らん事はかたつぶり庭もせに飛蟻散こふ行衞かな辭宜なしに穴を出て行飛蟻哉得もふらぬ子矛や石のうへ棒振や少し日のさすたまり水袴脫で長う成けり地裳樹〓深し地の落たる傘の上是にさへ身の毛立けり地の衣吸せつゝ蚊を吹やりぬ書の窓二つ三つ四ついつしかにときの聲蚊をうてば我血も共にあやしけり喰ふた蚊のあちらの舟へ退にけり蚊の觜の糸筋に血の通ひけり打て來る蚊の尋常に名乘けり未覺ぬ戶あり蚊のたつ山かづら蚊帳飛蟻子子蚊遣地蚊夏蟲蚤毛初蟲鰹生鰹生ぶしや早刪べき姿あり生ぶしや黑木の御所の臺所なまぶしに直ひの錢の交りけり昨日ならず翌ならぬ鮮のかげん哉鮮押て待事ありや二三日幾夜經て一夜を鮮のなれかげん眞丸に鮓の今樣亦旨し肌輕く鮓にうつりぬ人ごゝろみじか夜や抱起したる稚兒短夜や東へまはる日の不思義火とぼすと早初夜〓る外面哉捨られし月や短夜の蒼海原みじか夜や子と脊合せの母の樣みじか夜や日傭來る頃日三竿谺してみじか夜明けぬ日本橋短夜や貝にふくみし宵の藁血走れる眼や短夜の宿酒みじか夜や綠に明る庭のさま短夜や未濡色の洗ひ髮武士の袴いみじき夏書哉嫉き夜の夏書の筆の踊けり蓮生が肱の血しぼる夏書かな若き身は夏書も人にかくしけり梵字漢字かなや夏書の皆共成夏籠の願ひあやしやうら若し夏籠や種〓に聞なす鐘の聲高〓と檜皮目出たし葺あやめ少しふくあやめ長きを選びけり形斗ふくや關屋のあやめ草曉や菖蒲漬たる門の川菖蒲湯や壁のこほれに是當ん懷に國主かしづく微かな山里や幟ゆらめく藏の間壁越や幟吹合ふ家中町丁どけふ五日の風や幟竿呑やうに粽喰ふ子の不敵哉同九九夏書能夏籠短夜菖蒲豆花湯幟葎亭句集粽
下闇や子をてうらかす熊の親下やみの覺束なきや丸木橋梟の烏を追ふやさつきやみ有てなき月の力やさつき暗眼力も程あるものよ五月やみさみだれや賀茂の社のみほつくし飼鳥の目にもつ露や五月雨立ぬれの牛靜なりさつき雨さみだれや耳に忘れし鳶の聲さみだれや蜘出て見ても〓〓さみだれや座頭の袴水をうつ五月雨や親の建たる家の內さみだれや築地の內に霧の海さみだれや足弱連の物もらひ五月雨槎キ流れん天の川灯にも朦かゝりけり入梅濕り掃寄て立ぬ埃や入梅じめり入梅曇富士見ぬ旅をかこちけりうかれ女の笄遣ふちまきかな麥粽耻がはしげに持來たり卷立て陽の余れる 粽かな藥玉や五色の糸の香に匂ふ競馬にもこゝろの闇や絹かつぎ勝鬨をきく負腹や印地打大膽の生ひ先見へつ印地打馬馳る陣のゆかりや藤の森日枝を出て愛宕に夏至の入日哉遠騎の所〓を戾るや夏至の暮若竹の白粉ちるや露の珠弱竹よ子と呼けんは昨日今日わか竹や惡さする子の指の跡伸る竹今年の用は免しけり一代を伸て置けりことし竹其色も眞竹は深きみどり哉今年竹裏も表もなかりけり木下闇人もうれしく又こはし系大書俳本日五月闇藥玉竸馬印第行至18藤森祭夏至若竹入梅木下暗入梅の風物に至らぬ隈もなし糊の毛の靑う伸けり入梅の中爲朝の弓の戾りやつゆの中〓雨妹殊に哀がりけり扁が雨東人〓にに言けりとらがあめ富士垢離富士垢離の系圖もたるよ近江人不二こりや朝風寒き濡褌鶯老鶯の羽拔や老をかみ の梅立葵堀川の水のうつりや立あふひ咲滿て末一段やたち葵茨花花茨灯かげに針のかくれけり芋蟲のあぶなきさまや花茨百合花鬼ゆりの開き濟せば反りけり物おもふゆりの袂や露走る盡此地栽成して世を紫陽花にひようけたり蓴菜御遊びや小柄に蓴めされけり山寺やぬなは流るゝ筧水長〓と蓴恐ろし水の底海松みる房や笘屋の軒に月の鎌海松房や潮の底に〓水あり生貝と海松をごた煮の驛かな萍の花に一夜やかゝり船萍の月をゆり出す嵐かな藻の花をつい吐く魚や呑つゝも藻の花やちればぞ誘ふ潮がしら藻苅舟しづくを湖へ戾しけり早松茸他國の水のこゝろかな誰畑にゆかりの色ぞ初茄子百切日二百きる日や茄子畑老なんとして忍ばるゝなすび哉小言いひつゝも亦買ふなすび哉茄子漬あやし一夜に瑠璃をなす橘やイみ寄りし古手店橘や又思ひ出す左大臣立寄らば樗のかげや辻談義主のある池の綠や花樗四八、〓雨萍花藻苅鶯立老葵早茄茸子茨花百合花葎亭旬集盡此地蓴菜橘樗
膝に來るおもかげ嬉し夏の月移り來て葉に流るゝや夏の月文ャなすは樹に水なれや夏の月旅人の笠は手にあり夏の月夏月の輕くさし來る葉越かな眞の闇子の器を樣す照射かな玉うけて脊をする猪や鼻嵐權兵衞で戾る夜ある照射かな火串さして嚏を谷へこぼしけり退やらぬ障子の蠅や物ぐるひつまゝれて手をする蠅の命かな立聲の尙暑くろし瓜の蠅いぶせくも老馬の蠅の羽吹けり棹さすや蟬啼つゞく初瀨川蟬立て物忘たる梢かな來惑ふて蟬樓を囘りけり啞蟬の徒に這居るやあそこ爰じり〓〓と啼山蟬の動きけ り靑煮梅梅靑梅や酢い皃もせず男の童寒かりし花や煮梅の白沙糖何阿彌の祕めて煮梅の加減哉誰渠のけじめも見へぬ早苗かな植余る早苗あからむ徑かな莞筵當た脊のしづくや早苗哥植濟す田面に富土の光かな九重を靑きに包む田植かな媳二十チ姑五十田うへうた風颯と鷺の見へ來る靑田哉聟がねに靑田見せ居る機嫌哉まくはりし靑田打合茂りかな兄弟の田に水分て戾りけり苗程は蛭も肥たり田草取夏草やありとも見へぬ埋れ井戶なつ艸に追失ひしひよこ哉向ひ居て頭痛揉すや夏の月月夜よし是こそ夏の命なれ早苗獸狩田馥康蠅草夏取艸蟬夏月翌もある身ぞおしめかし蟬の聲岸根打小舟に蟬の時雨かな蓑虫の被ひで居るや蟬の雨日は嶺に大原七ツや蟬の聲つまみ來て押せば出るなり蟬の聲有明に蟬のしづくや沙の上水馬團の風に走るなりもつれつゝ散歩行けり水馬かつをむし塵にまつうてゆられけり覺へても寐覺にまどふ水雞哉石走る水を蹴て啼くゐな哉明近く水鷄を追ふや鐘の聲ぬけた羽をくはへて見けり妻の鳥拔た羽を大切に見る孔雀哉ぬけた羽の直に流るゝ鷗かなあの中をくはへ煙管や鵜かひ舟鍛練に鵜繩も生て動けりうしと見る月に飯喰ふ鵜舟哉川狩漲るや寶鐸受てたつ力さゝ濁小暗き月の夜ぶり哉川狩や若衆の脛のしらま弓荷ふにも踏心地あり氷の使二日には高枕せんひむろもり箱王は三枚喰たり氷餅帷子や隣似付ぬ加賀越後かたびらの胸合がたき晝寐かな帷子のちゞけをくねる女房哉かたびらを誰に裂れて夜の樣羽衣に干帷子やいさり松締やおもきが上の 墨衣病人のかたびら着たるどよみ哉かたびらを帆にして行や牛遣ひ締に小さく成りぬ老が膝常はぬぐ肩に着にけり夏羽織タ立や家鴨呼とる小傘ゆふだちの日をおさへたる響かな四八五氷室氷帷餅子水馬水雞羽麻麻葎亭句集鵜飼夏羽織白雨
流れあり馬はそちらへ冷汁冷汁にあらとけしなや女客醴やおつはら髮が欠茶碗あまざけや舌やかれける君が皃夜更人靜て醴のわく音す也隱し〓の主まどひぬる扇かなみどり子に甜り取れし扇かな投打の障子を拔るあふぎ哉さし置つ取つゝ鳴らす扇かな乞食も古き扇を賴みかな護摩の跡本尊をあふぐ團かな嚙勝てる犬愛し居る團哉ひろげたる文あふぎ遣る團哉客每に團參らすや家の風牛遣ひ土邊に座して團哉忍びよりて脊中を風はとうちは哉抱へ來て妹がたはれや竹婦人ぬる時に尸せずとは何竹ふじん夕立や醉も凉しき夢ごゝろゆふ立の痒ひ所を流しけりゆふだちをまつ江の鱸踊けり夕だちや具足に蓑の在祭白雨に借り帷子や妹が下夕立や內へ引入る書の窓ゆふだちや上みは澄ぬる桂川ゆふだちや烟逆だつ淺間山夕立や猛く鳴來る竹林白雨來ていさかふ鷄の離れけり索麪の淀を上る歟祇園會祇園會や厨の煙八雲たつ祇園の會兒出した家見て行ん余所借つて母の見居るや鉾の兒膾聞く日枝は靜けしぎおんのゑ乞食も着かへていでよぎおんのゑ饅頭の穴美しや月の顏天滿祭靜に見るやひとゝなり冷汁一夜酒扇子張國團扇嘉定天滿祭抱籠抱籠や妻とも別のふし所老人の能入まへや竹ふじん凉しさや靑き筧の水の音堂の椽すゞしき道の出店かな凉しさや主と病のない所涼しさや燈暈遠き 白書院門すゞみ子を抱て居ぬ嚊もなし人のせた床几昇なり凉川すゞしさや柳に音はなけれども凉しさや上へ撫たる兒の髮後生氣を離れて凉し哥念佛乘物に衣冠正しき暑かな皆よつて二王彩るあつさかな氣違の默然とたつあつさ哉比丘達の衣を解ぬあつさ哉暑き夜のくらきを引や牛車觸るもの暫くすれば皆暑しあつき夜や油入たる古行燈雲厚き夜を戾り來し暑かな暑來て京の水際立にけり法の師の聲立祈るあつさ哉坊主子の日南を通る暑かな鋸屑の汗に流るゝあつさかな角力とりの獨り暑がる座敷哉あつちから給はる風は薰りけり山寺や浮世の外の風かほる誰やらに逢た香もあり土用干こて〓〓とうしや寡の土用干まろがたけ思へば伸つ土用ぼし遣らばやと思ふもの出つ土用ぼし虫干や世に蓋ひけん緋の衣むし干や日南に伏る米からと炎天や虱搔出す赤がしら炎天やから身も何ぞ荷ふかと炎天や鳥も障らぬ石佛炎天や三弦習ふ賤が宿同八五凉薰風土用干暑葎亭炎天旬集
一ト切はいざ腸をひやしうり射付れば水ぞたばしる瓜の的葛水の通るや腹の九折女夫居る柳の陰やところてん心太放せば水にゆられけり麥の粉や古代の哥のこまやかさ水呑ぬ京巡禮や香需散香需散乞食の子にも吳にけり草の家の水の〓さよ香需散蓮采や美人の手にも水馴棹音なして人に浴せつ蓮の露蓮切て直に散かと思ひけり蓮見にと朝寐の扉扣きけりこぼす時長けに伸けり蓮の露廿日荅一日蓮のさかりかな河骨や黃陵廟の女巫がつしりと河骨咲ぬ水の上河骨や水にこはげな雲の陰雲峯尙暑し雲の峯たつ江戶の町大江山余所に恐ろし雲の峯太白星白け行衞や雲 の峯有と有水吸上て雲のみね樓の屋根に人あり雲の峯山みへぬ南の潮や雲のみね鳥の羽の障らば焦ん雲の峯雲の峯海に移りて居りけり瀧殿やさし來る月の薄烟簾上て美人の夢や泉どのひた〓〓と沉枝をひたす泉哉はなれ來て馬の嘶く〓水哉はしたなく遊女の結ぶ〓水哉斜に構へ蟹のト居る〓水哉行ことを〓水が下に忘れたり早瓜に酒くむ君子誰〓ぞ淺瓜も老極りぬ尻くゝり山の井や深き思ひを冷し瓜系大書俳本ロ葛心水太麥粉香需散瀧泉殿蓮〓水瓜河骨枇杷杏紫微花鷺艸杷枇杷黃なり町家に交る門徒寺花の瘦はどこへやら往て杏かな弓張にさめるほめきや猿辷り鷺草の水干す池にみだれけり鷺草や風にゆらめく片足たちなでし子や根ながら拔る小石原撫子や濡椽先の捨そだち野川皆鼓子花咲てからびけり夕顏や黃昏を世の油賣(税抜)米切れた家に瓢簞の盛かな年も瓜も二ツにわれぬ御秡川茅輪越て乳母がこけたるどよみ哉御秡する岸やあつさの底筒男形代やつくれる罪も夏瘦も煖めば子返りもせん川柳鎧艸打入て後の春城落にけり梅靑し此花に見し月も今庭石を抱てさつきの盛り哉六月會雲母の雲も拂けり罌麥鼓子花タ皃御茅秡輪形代夏之雜葎亭句集葎亭句選夏之部 終八十七
散初て柳に明り付にけり寺に寐た朝氣の風や散柳さゝら浪しよろ〓〓立やちり柳一葉散て後は久しき柳哉眞夜中の月ぞまつはる高どうろ住持數代古にし寺や高灯籠一羽行後れ烏や高どうろ高灯籠雨の降日は尙淋し高どうろ夜半に分るか出羽が宿攝待や鵜飼が妻の施亡しせつたいの宇治拾遺にも似たりけり七夕やこれもはづさぬ世間寺たなばたに借りてたゝむか小夜衣川越が宿におかし や星祭ほし合や雞飼はぬ里のあけほしあひや代り行世の噂物星合や念佛手向る尼御前天漢居つたなりに動けり〓〓〓〓〓〓〓〓〓卷之第四洛李流〓三宅嘯山散柳系大書俳本日秋之部上りつく年の峠や今朝の秋秋たつや東へなびく蚊帳の香ひとりあきひとり立戶やけさの〓江戶住や庭少しあるけさの秋風ふはときぬがさ山やけさのあき水漬を母しかりけり今朝の秋初秋や水まさ白き星月夜初秋や蚊帳に透來る銀河先散りぬ黄みも果ぬ一葉より暑ひ中にかさと音せし一葉哉桐の葉の大きな手本出しけり桐のはの屋根迄落て戰けり揚燈籠初秋攝待銀星七河合夕ー葉桐葉白露の源遠しあまのがは鵠や橋をわかるゝ勞れ聲七つ子の何を願ひの糸捌きかさゝぎの橋から啼て明にけり心ある手むけの琴や想夫憐しほらしや梶を賣子のつなぎ錢槇の葉にかゝる埃や夕月夜魂棚に散や麻木の箸の音蓮の葉のうすき設やたま祭三女夫の手操目出度し魂まつり魂棚や我も維摩の亭主ぶりなき魂の何を耻て歟立屏風さし鯖や棟餘多ふる子福人さし鯖や能登とし聞けば愛せらる大名に高ひさし鯖貰ひけりさし鯖や澁き舅の酒きげん遙のいて尼の誦經や魂送り天津風桂やこほす大文字燈籠物好の白きにもどる燈籠かななよやかに切籠のもすそ戰けり隣同士子の評判の躍かな睨にいつくしむ子や組おどりよい娘〓のつくおどりかな主の子の後には邪魔な踊かな踊の夜田に乞ふ雨をいとひけりおどり髪屆かぬ伊達をせがみけり師の影に遠慮のならぬ躍かな鉄仙が音頭に老を惜みけり脊の子は夢路を廻る地藏哉こらしける花火の工夫散にけり散時に橋を見せたる花火かな月出ぬ花火の跡の物しめり初雁の亂けて避る花火かな野袴で恩地も出たる花火哉幕際を阿波の鳴門や角力取豐さや抱へ相撲の長がたな願鵲橋糸躍立梶槇魂琴葉祭音頭焦糖酒花火刺鯖葎亭句集送火大手车角カ
草の露はかなき物もたんと有露けしな軒端に淺き書の窓朝露のしづくの田井や桔桿·むく犬の露にふす毛を舐りけり朝露や堤の沙の底じめり夕霧や一筋射來る日の光り霧こめて大河靜に流けり朝ぎりや關の戶ざしの開く音薄ぎりや川添邑の炊烟霧雨や人降おとす九折下り日をつゝんで霧の落しけり荒海の霧にむせぶや浪の音山人の兒さへ霧に染りけりいなづまに松明持手下りけり稻妻をうけて開くや向ふずねいなづまの海を救ふや夜もすがらいなづまの身にのみさすと思ひけり稻づまの人にかきつく野原哉事柄のまつりごとめく角力哉關とりや奧ある腹のゆたかなり立て分る羅漢の肘や土俵入おくれても上手は久し相撲取庵外に遣つた角力の見へにけり拾ひ出る憎まれ相撲や今二日年月の己にはやしすまひ取やゝ老て妻もてりけりすまひ取よき相撲無理せで我を備へけり筋引て湖をはしるや初嵐大木の請ておろすやはつ嵐夕ざれや髮のかたまる秋の風秋風の立そゝくれし暑かな牧馬の尾髪に露の亂れけり露けさに武具や錆けん不破の關狗の子の母やたづぬる夜の露上る露薄ゆら〓〓と動けり活石の露けく立り草の間霧初嵐秋殘露風暑稻妻稻妻の戶ざしを漏るうねりかな有し野の樣や千草の摑ざし香の分る肴の市や艸の花折溜て薄をねそ や草の花そも是が野に育た歟女郞花折持る手に又折ぬおみなへしあさがほや朝の雲のわかれ時齋僧の蕣ほめる手水哉きぬ〓〓を朝兒の猪口の覗きけり朝がほや本トつ枝の實はからめけど蕣は其日を假の舍りかなあさがほや夏に切るゝ耻もなしあさがほの當意に咲てしぼみけり朝兒や主ひとりのたばこぼん酒好の余の望みなきふくべかな塀裏に鎭を付たる瓢かな羽等に粘らぬ雪やこぼれ萩萩臥や海へながるゝ深谷川山萩のばらけ仕囘や雨の後古き根や低う咲たる萩少し白萩の沙にわかれてこぼれけり散た枝をしごひて萩を轉しけり船窓や荻に吹るゝ人の夢夜に添ふて苦み出けり荻の風荻一、本役にさゝれて吹れけり陸奥殿の同勢きれぬ荻の聲花の付く蘭に割なき案じ哉蘭陪へて喜ばれけり母者人ばせを葉の心シより練て出しけり下葉からそゝける風の芭蕉かなばせを葉や秋に逢ても疊まれず喰入て西瓜に兀げぬ作り髭道滿も西瓜の目利違ひけりふらめけど糸瓜は音もなかりけり刀豆の肌も錆行垣根哉辛き世をわたるや店の唐がらし草花大郞花荻舞蕙蘭芭蕉西瓜葎亭句集瓢絲刀番瓜豆椒萩
かまきりの面をはじけばかゞみけり己が妻負て飛なる螽かな終夜狐喰なるいなごかなむし啼や草葉にかゝる纎月夜虫聞や世に有兒の子細らし下り日の廣野に明し虫の聲虫聞や能揃ふたる物いはず移り來る磯邊のむしや泊り船虫狩や火繩にむせる美少年むしがりの案內や嵯峨のお百性八朔や出直して來る秋の空八朔ややむ時はやむ浮藏主繪行器や是も目出度かけ流し放生會漁村の扉關しけり耳なくも經聞鳥や放生會落し來る鵙を追けり放生會虻蜂のおもひ絕たる紅葉哉花添へた薪にも今もみぢ哉よき人や思ひの外にとうがらしおとなびて娘も喰ふや番椒冷麥や御庭日傭のけふの錄秋の蟬啼さかりても淋しけれ蚊の聲に秋の元日明にけり秋の蚊の聲細りけり夜の風とんぼうや羽に夕月の透る迄孳居て兩方へとぶとんぼかな流川に尻をうちゐる蜻蛉哉蜻蛉や延す屆かず追へ行まつ虫や籠出かしつる齊藤吾虫籠からひらめく髭やきり〓〓す繪に似たる妻戶の人やきり〓〓すきり〓〓す裂たる口の聲やさし鳴時の腹のすだきやきり〓〓す(3)其色音油掌た數きり〓〓す心あり蟷螂つまむ人の指蟷螂や物にねぢむく眼ざし系大書俳本日螽冷秌秋麥蟬蚊虫蜻蛉虫狩松葢虫八朔繪行器放生會蟷螂紅葉邁石佛にかゝれる蔦や値偶の緣こまやかに這て恐し蔦かづら葛堀るや櫻に染るよしの山葛ほるや深山持ぬる寺の所務野ぎく折る心祝ひや旅の空鬼灯の立ながら蚊に吸れけりつまみ菜や行燈の下に媳娘撮菜の世に時めきぬ二三日間引菜やそゝぎ上たる鴨の水鷄頭や中門迄のさゞれ石けいとうのねつ〓〓赤き日數哉彩れる傘着て立り葉雞頭行水に濺ぐや蓼の自ら一つ家の戶にはさまるや蓼の花面白や蓼喰た舌の茶を彈く染上て蔓やそろ〓〓烏瓜待占や玉章生けて肱枕冬瓜や棚におのれが霜の儘紅葉見の夜から夜に成にけり律院の後淋しきもみぢ哉紅葉して地を縮けり淡路島はへあふて雪の裾野の紅葉哉もみぢ見や寺の屏風のやまざくら瓦師や物の上手な蒲萄だな紅ゐに入日うすづくはな野かな雨さつと古道匂ふ花野かなだゝ廣き花野に淋し日の力花野行川の光や帆かけ船分てやる花野戾りや辻の月三日月を撫落し たる薄哉さからはぬ薄は草の柳哉薄見る內氣息子や椽の先うらがれの先うつりよき薄かな風負ふて野末の薄星を打風よれて小雨を彈くすゝき哉古宮や蔦を力のくづれ垣葛野鬼撮菊灯菜蒲花萄野間引菜雞頭薄葉鷄頭蓼葎亭旬集烏瓜蔦冬瓜
更る秋にちゞみかけたる鳴子哉畑有れば鳴子もありて浮世哉御園生や案山子の袖に紅絹の端間〓には片足ながきかゝし哉時の用に鼻紙さくや鳥おどし湖や案山子の裾にさゞれ蟹雨强く引板に力を盡しけり裏川に添水もありて能衆哉鳥立ちぬさも僧都とて鳴居れりこれも亦流れの身なる添水かな添水成て丈山枕變られたり水落る田づらや堀のぐるりより壺折て院の田苅やおもとびと數灯す庄屋の家や田苅時秋入に乙女の曠はなかりけり一夜さを一入づゝや龍田姬醉兒にお腹は立たじ龍田姫露と日に光りわかるゝ芙蓉哉冬瓜の針立にけり君が指芋貳舛文覺夜食兼られし引て來て削る馳走や畠芋人先に上戶は芋にあかれけりどふした歟ぬかごこぼるゝ潦(〓)年号もわすれて久し藥堀日枝坂に矢の根を得たり藥堀へら持て童も來たりくすりほりうつくしき姿に脂や若たばこ若莨菪欠き行末やすほろ坊稻の花もるや猪追ふ老の聲あはれ稻くらべん花はなかりけり腹つゞみ打や門田の稻の出來いねの香や泊り合せた家の門いね見よや金子は餓に當られず風吹けば夜とも分かで鳴子かな口喰ふて二十が賃や鳴子引よい程におどしていなす鳴子哉系大書俳本9芋案山子零餘子藥堀引添板水芳莨菪稻花落田水苅秋入龍田姬鳴子芙蓉笄に芙蓉の落花集めけり佛手柑や土を去事遠からずせめてもの葉は喰はれける常山木哉箒木は捨られもせず箒かな新蕎麥に納所が手際見たりけり階子田に根の透く雪やそばの花蝶〓や今に達者で蕎麥の花呵けば砧も共に音低し四手打や戾る男は門の外鼠居て聞耳立るきぬた哉尼寺に沙彌を憐む碪かな晩鐘の間に大津のきぬた哉飼犬の遠く戾れるきぬた哉衣うつ田舍遊女やいとまなみ鈎)釣簾の外に召れて曠の砧哉姉は早母の手に成るきぬた哉うち入て乳の走りけり夫の衣露の華飛やきぬたの響より煤たれて屋根裏くらしさよ碪横槌の手前耻かしつゞれ衣三日の月秋の風情を初けり晝中に捨も捨たり三日の月みかづきのゆすらば落ん梢かな三日月の木傳ふ風の林かな澄月を味方が原の夜道かな月更て阿彌の棹さす小舟哉夜〓變る月の出汐や東やま月の友豆腐一丁倒しけりまつ宵や丁と驛の風呂上り待よひや正しく翌の冠下まつ宵やほのめき出て日に向ふ名月を捧てたつや汐がしら名月や一時づゝに舟しめり名月や雲の變化の無窮なる名月や風の力のはれ曇りめい月や哥よむ妻の見斗ひ佛手柑常山木筩木新蕎麥三日月月砧待宵名月「葎亭句集
垂髪子も器さゝげつくだり築下リ築年經る鯉にくづれたり頽築旅僧笑ふて行れけ】り手叩て皆戾りけりくづれやな初しほや島に俊寛只ひとり目をふさぐ馬に鞭うつ野分哉立樋に木の葉流るゝのわき哉乳呑子の泣やのわきの掛り舟棒さして方丈移す野分かな人穴の一しほ怖きのわき哉町中を犬かけ囘る野分かな女同士膝さし寄る野わきかな野分して七堂がらん〓〓哉低く行水にはあてぬ野分哉〓水屋に仕丁が夢や駒むかへ引駒や近江大豆のほてつはら人兒にやゝ寒すいと移りけりやゝ寒や賓客立る大廣間めい月や机の上の須磨の卷めい月や有とは見へて銀河名月や御靈祭のすゝ拂物かはは上京にありけふの月常の日は出て名月は明にけり名月や白きをさらす賀茂の水嫦娥今宵世界に見せる化粧哉唯一夜月の三十二相かな月の香も今宵有なんよしの山海底をさがすもさんご夜中哉雞の音に海動き出る月見哉月見れば昔なつかし酒呑たし御月見や儒者に禪師に能太夫若ひ者更て少なき月見哉抱下ろす君が輕みや月見船十六夜に落る潮なし鳰のうみたちまちの深つゝとくと欠にけり下りやな時は來にけりつかみどり頽簗初野汐分駒迎十六夜立待下築漸寒漸寒を蚊幅に覺へつ犬の聲朝寒や七社に幣の山法師あさゝむや矢橋へ向ふ小松原朝寒や庭樹の梢日つる〓〓あさ寒や見返る伊勢の海曇朝寒や上京裏の畠もの朝さむや被き出たる宿直もの大勢の朝寒永し所化はつち隙人の夜寒を早うしられけり更て見る空に夜寒のわたりけり山風の何やら落す夜寒哉引綱に通ふ夜寒の響哉糊强な夜着を扣し夜寒哉喧嘩して跡の夜寒や小提灯舟窓に月の氣踈き夜寒哉夜寒來て槇の板戶の見られけり寐に斗行なる家の夜寒哉ばつちりと夜寒の星や水のうへ牛祭祭牛祭尻張聲の事ふし所化達の笑壺の會や牛祭狼獸ヲ祭"烏來て豺の祭を覗きけり狼の祭や猛きこゝろにも奇楠留た鶉に粟のおかしけれ朝寐すな鶉は床が曠のもの鶉籠眞紅の總も秋のいろ鴫鴫たちぬ居たとも見へぬ澤邊より〓なる如し終日鴫ふたつ見返れど〓〓未鴫たゝず水流れず鳴たつて又夕かな雁雁の聲ふとんの上にこぼれけり初雁や雁門のなき國をしれ庭の池に雁着初て祝ひ哉初雁や旅人身を灸くふし三里旅鳥の哀は雁にとゞめけり初かりや鵜殿わたりの虹の末天津雁か程〓に似た物あらじ朝寒鶉鴫夜寒雁葎亭句集
小鰯や布施に積たる寺の門鰯雲立塞けんふねの道澁鮎や扨は水にも露しぐれ祝り子の柿かぶり居る祭かな引入て啼音や深き晝の鹿鹿聞の炙るや鯛の一夜塩鳴鹿や寐入た犬の耳うごく好た餅のあらば蒔なん峯の鹿鹿の聲杉本左兵衞泣にけり鹿待夜祭の行燈出されたりさう鳴かば今夜に痩ん鹿の夫マ長島の風に折けり鹿の聲求聞持の後夜の勤や鹿の聲人の氣も臍におさめし節句哉いざ菊に節句させなん摑ざしけふ咲ぬ恨やきくにひとりど化粧のみ菊の小袖や簾越菊作り子に町嚀におしへけり手引子に雁の行義を〓けり異なるもつれてむつまじ渡り鳥渡るにもさすが小鳥の人近し風どつと日を覆けりわたり鳥色鳥や假に伏見の杜の暮押合に目白も秋を渡りけり網繁き路に馴來る小鳥かな川せみの其身を切て放しけり湧て來る小鳥や雨の晴間より御客分の牢人衆や小鷹がり七ッ子の野袴ゆゝし小鷹狩燒鳥や犬にも一ツ小たかがり弓張も空にかゝるや小鳥狩手紙やな巨口細鱗と書れたり不斗鱸思ふて江戶へいなれたり鱸得つ我赤壁は妹が宿初鮭の子も紅葉しぬ此便初鮭や易牙が塩を覺へたり翌合す菊や活るを守がご と今樣の花形を說や菊づくり露はらりけふこそ菊の天氣なれ灯移りを妻子に見せつ菊畠筒の菊所を替てながめけり菊の花主の根をうつしけん奈良里や世に叮嚀に後の雛福僧や小山が末の栗ばやし栗飯やよろこぼひたる祖母が皃捻栗に薄刄の妙を感じけりあたゝめる酒間遠しく又樂し語りつゝあたゝめ酒や火吹竹もし降らば干珠投ませ祭の日穗芦原枝操かはつて元の湖調し豆腐の味や十三夜光猶奧ある月 や十三夜おもかげに霜の苦みや十三夜寐覺して子も起居けり十三夜小鰯澁在鹿鰯雲鮎祭系大書俳本日渡鳥色鳥小貳錢傳小鳥狩鱸重菊陽鮭打つけに片面寒し後の 月枕とる夜は殘りけりのちの月異國人眼有てしらぬ月見哉跡脚のかくるゝ月の兎かな院宣や今に二夜の月の眉色不變松色かへで空をさしけり松の針崖頽れ根逆に垂つゝも松の色かへず姫松の秋に變らぬ操かな鴨脚鴨脚葉や唐の倭の書の腹いてう葉や止まる水も黄に照す山下に近く見なせるいてう哉椎椎柴を燒けば音して走るなり所化寮や書をこぼるゝ椎の売吳服祭媳連て吳服祭を示しけり照葉岸なだれ踏止める樹の照葉哉露霜と手を替へられて照は哉綿取綿くりの種喰こぼす工合哉蘆花吹れ行向ひ近江や芦の花同九九後栗雛鴨脚暖酒椎御香宮祭大正廣後月吳服祭照葉葎亭句集綿蘆取花
梨燒て風邪平らげん丸かぶり聞となき菓の音や座禪堂良藥口に苦み出けり燒みかん扁のみかみかんも皮をとゞめけり松露取眞沙の下やさすの巫行つゝも松露取けり杖の先問寄れば木の子定める叟かなくさびらや人氣うとさにいぐちけん茸狩や鯛の鱗にかたつぶりおきなさび幕の留主居や菌狩平茸や朽木を楯の片びさし茸市や指に彈ひて音をなす茸狩や鼻働かす坐頭の坊手ぬらさず今年の米もたうべけり齋僧も世の中いふや今年米先わたる禰宜の竈や今年米詰かへる御城ゆゝしや今年米新酒少し色に出けり百の 媚ゆられ來て小舟かくれぬ芦の花夜はしんと月を籠けり芦の花港に迷ひ入けりあしの花うら枯や終に化粧ぬ石地藏夜道にも野のうら枯を覺けりうらがれを鉢に憐む住居かな柚の林おの〓〓劒樹構へけり妹が手に鳴るや柚の酢のほど走り皮と肉別れて逢ふて柚味噌哉市の柚の寺や揚屋と別れけり皮燒ば肉の音なす柚みそ哉柚も旣甘きにうつる風情かなさと割ば迸りけりざくろの實紅ゐやざくろの皮のあつきにも野烏や熟柿の觜のさし所川留に荷ながら柿のつはり哉勞はりて取けり柿の休み年又花を見するや梨の切小口系大書俳本日菓蜜柑裏枯松露袖菌柘榴新米柿梨新酒手短に新酒の醉の男らし一盃に貝つくりたる新酒哉八庄司新酒擴めの喧嘩かなうけ持た盃輕き新酒哉一ッづゝ新酒の醉の跡ぞ追ふ新絹や一二里づゝの在の町引はへて波寄見るやことし絹秋雨や薄あかつきの雲一重じめ〓〓と秋を深めつ雨の音起出て油さす夜や秋のあめ秋さめや苅庵に起る人の音紅葉鰤是にもおかし錦織寺尾をこしぬ北斗を跡に鴨の聲旭さす尾越のかもや羽の光霜踏て鹿の細脛尙佗し澄月にかゝる曇りや露しぐれ使した犬を撫るや露しぐれ露しぐれ我目にのみや虹のさす蟷螂の羽も染にけりつゆしぐれ道なしと書る山路や秋のくれ秋のくれ子持ぬ宿の物足らず秋の暮每日有て佗しけれ人を見る鼬あやしや秋の暮秋の夜を咄寐入や子期白牙長き夜や旨く寐る子の病なし信濃路やながき夜落る月早しながき夜や花の街のうかれ聲ながき夜や烏一羽の麁相よりあらぬ事ましくし秋の寐覺哉秋閨冷じき琴の埃や我ながら旅寐嘸はかなき夢をわれもかう長き夜や耳痒き夜の空だのめ秌の聲楚辭よむ窓を渡けり來さかりて荻を離れず秋の聲さゞ浪やあやしき迄に秋の聲秋暮新絹秋長夜夜秋雨紅葉鮒尾越鴨葎亭句集霜踏鹿露時雨秋聲
洛李流〓三宅嘯山晩秋月も世に捨られ皃や暮の秋行秋や霜の袴のきそはじめ虫売を啄む鷄やくれのあき虫は皆節に死けり暮の秋肩樂に樹は成にけり晩の秋秋くれぬ淋しい物も止らず歸ろとは鹿に言はせて行秋ぞ葎亭鈴鹿越卷之第五句選系大書俳本日冬之部里の子のこま狗抱や神の留主古寺の障子も染ぬ 神無月月も雨も森の社や神の留主達磨忌や峯のしら雲川の音達磨忌を避て一休出られけり老和尙身を達磨忌の起居かな下司近く誓ひ普き十夜哉若人や親十代の十夜講高く澄月を譽行十夜かな日和さへ法華と競ふ十夜かな若者の鳴呼なる尻や十夜鉦靜なる十夜籠りや古簾御影講やさゝはりなしの松が崎神無月達興忌+夜葎亭句選秋之部 終御影講かたまりし善哉餅や御影講武士客の上座に卑下や蛭子講くり言を壽く乳母やゑびす講蛭子講や大坂陣のまへの家古妻に琴望けり惠比壽講上人の戯れ文やゑびすかう鈴引て鼠のくゞるこたつ哉人踏だ事思ひ出すこたつ哉口に賃飼つゝふかす巨燵かな手の奴夜は休ませるこたつ哉せがめども小鍛冶動かぬこたつ哉頓阿來て雙の岡の巨燵かなわたましの其夜親しむこたつ哉丸藥のちるや巨燵の前うしろ謎に負てまくつて迯るこたつ哉炉開や數代得意の疊さし炉びらきや常の不性に似も付ず御忍びに一夜泊りの圍爐裏哉火桶手そほりを我は覺へぬ火桶哉裏文字の反古なつかし張火桶合せ燒心づくしの火桶かな手あぶりの火の用心や書の窓客去て撫る火鉢やひとり言しぐるゝや鼬子をひく軒の端小夜しぐれ竹に入おと幽なり浮出し海人佗しげな時雨かなしぐるゝや窓を搔居る虫の脚根はなしと罪ゆるさるゝしぐれ哉きら星の雲は見へずも時雨けり落日の稻妻なして時雨けり尼御前の塗笠したふ時雨哉屋根取た菊の姿や村しぐれしぐるゝや鯛しづくたる鳥羽走リ離別荷の潜にぬれるしぐれ哉東人窓に時雨を見とれけり振うては居眠る鳥や村しぐれ五〇三蛭子講火時鉢雨巨燵葎亭旬集爐開開發/
友どちや落葉かく子の後〓紐木枯こがらしと揉合ふ松の響きかなこがらしに吹上らるゝ小鳥かな木がらしや大河の水の鳴てたつ木枯や面被つてもあるかれずこがらしを開きに請る脊中哉枯柳枯ながら時雨をしぼる柳哉小春ぞよ綠を返せ糸やなぎ降雪に請身覺た柳かな冬野むら烏つくや冬野の觸體冬野行女あやしむ男かな狐火歟しらず冬野の小挑灯枯野筋違に日の落て行枯野哉輕石の草にとゞまる枯野哉出合たる人を見返るかれ野哉くたらのくだら野や草薙村の朝烟くだら野や日のさす方に鳥の聲枯草枯草や物の住なる大屋しき時雨ても仕囘ず月の薄曇葉の霜を指に寄見る垂髮哉高霜や廣野にかゝる夜の旅霜高く折燒柴の手に走る灯のほち〓〓と鳴る霜夜哉小一時旭を蒸しぬ霜くもり橫雲の明わづらひぬ霜くもりあたゝめた碁石湯氣たつ霜夜哉撫て見て夜着に覺ゆる霜夜かな六地藏並んで冴る霜夜かな雨落葉走る兎の辷りけり殿守や落葉分出る酒德利土橋や落葉吹わたすあらし山かけり行犬にむらだつ落葉哉落葉掃淨衣の姿古風なり銅佛に吹て音なす落ば哉宮に着く笠に三河のおちば哉責馬の落ば蹴上るひゞきかな系大書俳本日霜木枯枯柳冬野落葉枯野枯草かれ艸や洲崎しらんで細永し雲散て喰入る月や冬木立うき物を冬樹せぬ葉の拂けり三笠山さすがに深し冬木立冬木立中堂深く關されぬ渡舟つなぎすてたり冬木立黃蘗の聯のからびや冬木立吹れ來て雀生りけり冬木だちきくかれぬ枝の荅はそれながら枯菊や金を土に預けぬ る己さへすさまじ兒や枇杷の花道場の土藏作りや批杷の花久しきに任る曇りやびはの花茶の花や疾く昇る日の朝曇茶の花を折行人や物靜茶の花や土取男たばこふく稀〓に聲せぬ虻や歸り花物いはず笑はぬ兒やかへり花歸り花余程案じた風情哉日の艶の紀の路は深し歸り花かへり花其梢とは見へざりし寒菊の堅く定めぬおのが色寒ぎくやつゝら短き首の骨寒ぎくの錦の市や朝日かげ石蕗咲や日南をさがす蠅一つ丈夫なる石蕗や葉と言花と言洗得し兒見せ莖や鴨の水春迄と妻のこゝろの莖菜かな柴小屋に空風わたるくき菜哉麥蒔や白髪をつゝむ頰かぶり煮かぶれず實も蕪のあふみかなあやまちの若きは多し大根引一俵は雜煮の料や大根ひき國師忌や通天橋に雲わたる昨日過し誕生日や聖一忌聖一忌佛祖不傳と殘されし五〇〇冬木立寒菊石蕗枯菊莖菜枇杷花麥蒔蕪大武蒔茶花葎亭句集聖一忌歸花
腹帶に夜學の儈の 寒さ哉寒き夜や琴彈指の風だにも狼の人に喰るゝさむさ哉孔明はけふも在ざるさむさ哉出ぬべしと思ひつゝやむさむさ哉膝にある手を失ひし寒哉灯にうつる鍬の光りの寒哉生ながら凍る歟と思ふ途中哉冴る霜もしもや鳴らば初瀨の鐘氷る鐘空にちぎれて幾度も復の卦を机にひらく冬至哉手細工の咎立て見る冬至哉井の蛙冬至を腹に覺けん村千鳥早風をかはす羽音哉亭の戶の一重に近しさよ衞月暗し衞の返す羽のおと成ぬべき衞よ盲ら摑にも木の實にも麥にもつかで小夜千鳥納豆汁曾我殿や忌日に當る納豆汁律僧の腹の太さよ納豆汁初雪や箕にてひた程草のうへはつ雪の撫もさすりもならばこそ初雪や今に取べき筈の上はつゆきやほゝ笑來る無二の友初雪や疾く御格子を上られたりはつゆきや今年七十五日ありはつゆきや御灯の殘る八王寺初雪や順禮の居ぬ紀三井寺初雪や訪んと思ふ人が來たり狩衣やけさ初雪に源三位はつ雪や土邊にとゞく雞の觜はつゆきや世に尋常な朝の樣はつゆきや侍從拜賀の階の下初ゆきや綿屋の店の笑ひ聲初ゆきに酒屋來て酒買せけり貴船鞍馬南に見たる寒哉日初雪凍冴鐘參氷至千鳥寒さよ千鳥何やら袖にこぼれけり油筒提たは蜑歟濱千どり濱嵐衞を吹て囘しけり松明の跡のくらさや村千鳥水鳥の橋をぬらして歩行けり古町や鳥の着なる池もあり鳥滿て氷らぬ夜や水の音水鳥の胸に突行や薄氷水鳥を糸もて引歟嶋根より水鳥の取も違へぬ女夫かな水鳥の觜さへ丸きちぎり哉尋常に余所心なし鴛二ッたはれ男よ爲の契を思へかし群鴨の遁れ行江や流しもち鴨啼や皆寺附の濱長家たま味噌に鴨や山家の旅籠汁靑首や妻を追ゆる水の筋海鼠たゝみや香の目出度きに今一椀投て見る生海鼠に妹が笑ひ哉爼に生海鼠ははねもせざりけり薄氷に落たなまこやともぬめり鰒好と名だゝる人や國に杖世の中や鰒禁むる觸もなし河豚喰はじ我身も親の片われぞ醫心の生マ兵法やふぐと汁ふぐと汁正成は座を立れけり能鱈の舌にしよりゝと別けり本尊や火桶も炭も參らせず小野炭や哥人の家の小鋸引留る下に炭つぐ主かな丹藥や炭火の音の夜もすがら炭立て關守鼻をあぶりけり夜隣や炭もて炭を叩く音元政の母と語るや炭のおと鹿の角にかゝるゑにしや炭俵炭吹やはしたおゝなのふくれつら〓水鳥鱈炭鴛鴦鴨葎亭句集生海鼠
足に寄て出女のきせる蒲團哉重ねても透間覺ゆるふとん哉押付て葛籠ほうばるふとん哉肉屏に寄まとはるゝふとむ哉子三人いまだ稚し敷ぶとん後妻の起るや古き衾よりすかし得た子を奥の間の衾かな味噌春の松にかけたる頭巾哉脫んとてづきん被りぬ稚顏わか者のいつか癖つく頭巾哉土佐坊は病者に見へる頭巾かな人しるし頭巾に皃はかくれても强からぬ絹やおゝなの足俗なれば親指の隔を足袋の風情かなむすぼれやいたく醉ぬる夫の足袋脫である足俗なつかしき細み哉寐がへりに音をあやしむ湯婆哉丑三つを夜〓に覺ゆるたんほ哉消炭のさそくの利や客の前炭竈や煙仕舞へば月白しすみがまや鞍馬の奧の別世界むまご來て膝にまさぐる紙子哉四天王むかし語りの紙子哉產むとやる子も福人の紙子哉傾城の比丘尼老ぬる紙子かな少し世の燧に殘る紙子哉中年の伊達も定るかみこかな(大)むづかしき致仕の太臣の紙子哉榮合て目出度美目や綿帽子吹て着る美人の息や綿帽子糊水の艶走るなる綿子哉綿子見て時代を呵る翁かな打綿や空にしられぬ內の雪兩頭のふとん佗しや木賃宿生男の蒲團投出しぬ閾越し飯びつにおのれぬくもるふとん哉系大書俳本日炭竈紙子衾頭巾總部牛綿子足袋綿蒲團湯婆冬籠冬籠別に愛する佛あり今少し天井高し冬ごもり冬籠書窓に錢の音すなり人入れぬ門設けりふゆごもり鼠追ふ火吹竹あり冬籠冬籠銀もてる子の京にあり活僧の打てかはりぬ冬ごもり出たひ時出もして先はふゆごもり冬籠厨に狸釣れたりそき尼の故こそあらめ冬籠時津風斗吹けり冬ごもり顏見せや灯立たる物の榮へ顏見せの我をおかしう歎きけり髮置や頓て柳の淺みどり置綿や國の重りの下白髮髮おきや出られぬ母の余所ながら置初る髮は貌のはじめ哉かづき初跡をしる子の光かな袴着子祭云南町火燒鉢叩袴着や殊更初瀨の御〓子子祭や大根白く神黑しいと易き貯へものや子灯心御火燒や後藤の圖子に魚の腸鉢叩聖の君や聞し召鉢却顧る時聲低し行先に鶏うたひけり鉢叩御物見に心な止そはちたゝき鉢たゝき報謝の內も諷けり江戶人を留た夜嬉し鉢叩手を止て過るを聞ぬはち扣月かげや左利なる鉢たゝき景〓か赤穗浪人歟鉢たゝき艶あるは妻の手業か茶筌賣しみ込だ平信心や御霜月隱元の評判おかし御霜月智惠粥や今朝看經の圓頓者ちゑかゆやどの大師とも知らぬ勝要·九兒見セ髮置茶筌賣御用葎亭句集大師講被初
長橋の詰に着けり雪こかし二三日川に立けり雪こかしまろげたる雪のよごれや京の町吹れ來て珠簾にはさまる霓哉狗子の目をしばたゝくあられかな醉きげん霓に傘をはづしけり記錄所に目を留らるゝ霰かな日のさして雨になり行雲哉袖褄に付て離れぬみぞれかな重〓しみぞれの中の鳥の聲灯かゝげてみぞれに凄き局かな暮にけり霎降日の物いらち傘持た指のほどけぬみぞれ哉ふゞき來て耳に音あり夜の空猪一つ野へまくし出す吹雪哉梅莟む下や氷のにはたずみ童のたゝく氷や朝の門殿守の掃や氷の散松葉細〓〓と日枝の煙や大師講御神樂や南の庭に月の澄里神樂それ相應の願かな大嶽に向ふ窓ありけさの雪酒ありや雪に成べき此嵐日うつりや障子にかゝる雪の影雪竿や御哥所の物がたり面白や都の雪は人死なず坐して待と往て訪ふ友や朝の雪野の鳥の翅に重し暮の雪妻出て庭へ拂ふや肩の雪雪晴て湖北へ貫けり三越路や驛へ下りる雪の階搦置る狸の面ラに雪ぞちる馬の尾に雪かゝりけり拂けり供先のさがなく語る雪見かな雪御覽下郞に酒の流けり人の手にあやしき聲や雪轉し御神樂雪霰霙吹雪雪見氷雲丸ゲ道中に氷捨けり繩ながら抄をぬく眞田が鞘や厚氷初ごほりさればよ夜邊の鐘の聲步行つゝ烏のすべる氷かな漱ぐ夜の手障りや薄氷一觜の鷺の力やはつごほり片隅に日を經る雪の氷けりうすら氷や皆折伏せる芦の湖扣見る火箸のゆがむ氷かな小兒等の嚙で吹合ふ氷かな山寺やつちゝに移る人の皃萱が軒ほつけて結ぶつらゝ哉早梅の霜に馴たる白みかな早梅や竹繁の灯に影うつすから風に早梅骨を顯はせり冬梅や此ごろつゞく海の荒レ冬楳やくれて伴ふ月ひとり寒梅や久しく立てば母の聲野陣から一番鍵ぞうめのはな早梅のするどき影や月の弓冬楳に細ひ流の咽びけり梅寒し葉の粧ひをからずしも寒楳にうつり習ふや昏の月寒梅や小高き原の吹放し寒梅や鶯も子に見せて置かん梅や花も嚏の出ぬべし水仙や武士風俗の美少年水仙の世を見濟して咲にけり水せんや藜携ふ足〓頭巾おもかげの透通りけり水仙花行燈とれ水仙に月うけて見ん水仙の器用に厚き光かな水仙の寒き骨髓ひらきけりすいせむの黄は分かれけり灯影靑眼に葱の白根を喰けり葱もまいる禪師が手ひどき示哉三一水仙氷柱早梅葎亭句集葱
迯仲た鯨にかゝる曇りかな未おめく鯨に濱の木やり哉建て追ふ彌陀の幟や鯨舟初くじら星にさかふて下りけり福ふし厨に肥た鰤二本すゝ掃の中へ使や鰤壹本煮凍や夢の通ひ路あらさもし煮こゞりやおもふ圖へ來る夜の風にこゞりや行通ふなる妹が宿干鮭の虫粉の穴やところ〓〓石花汁におろし大根の古風哉煎蠣の土器とるや友ふたり君來ませ鷄割んくすり喰箸紙に若衆の唐名藥くひ別家持大和ぶり哉くすり喰垂こめて內に笑や藥くひ避て居る妹が潜みやくすり喰藥くひ栗生篠塚參りたりわゝしさの知られし嚊の葱哉里下りや心の闇の根深汁三筋ほど葱喰美女のひそみ哉葱の香や馬士の罵行暮の辻葱喰ぬ御兒や法のうつはものから風や葱折ふせる西の京なだれ込森の小鳥や鷹の聲鷹匠や田は損はぬ國の守鷹疾くも風を切行や升搔羽居たつや血にまみれたる鷹の觜居鷹の羽打て人を休めけり澤庵の寺に飯たく鷹野哉鷹の目や靜な時も猶さかし骨を折る犬や狩場の握りめし取鷹の拳に聢と覺へけりぬくめどり胸合がたき一夜哉あぢきなやぬくめられ鳥暖めどり寒苦鳥よその事ではなかりけり鯨系大書俳本日鰤鷹煮凍乾石鮭花藥·喰暖鳥寒苦鳥胼胼やかい灯し行長 廊下僧正の胼脚や所化噺し小灯しに夫の胼そくひけり事始年に和らを入にけり能杖を買や宗祇の事はじめ寒月や三絃高く陰に入寒月や野の一ツ家に子なく聲待出てしばし拜みぬ冬の月寒月や空へ取らるゝ小室ぶし寒月や頽れ塘に獺の穴寒ごゑや尻から付る御曹司寒聲を空へちらす歟日枝颪長岡へいかなる哥を衣配り衣配り美目よき使選れけり末摘の宿は暮けり衣配り常好む事に落けり 年忘舟着て室に寐る夜やとし忘後世咄し法度にせばやとし忘年わすれ樂屋に鷄がうたふなりけふばかり人は譏らじとし忘とし忘されど我家へ戾りけり來合せる百里の友やとし忘れ樽つけて行や月夜の寒念佛題目はいかで賣ぬぞ寒念佛佛名は法の誓文拂ひかな聽衆皆心の禮や佛名會板敷に光るつぶりや佛名會おもしろやとし木樵得し庭の山作りして酒も賣家や年木樵節季いや天下晴たる諷ひもの節季いの伏勢見たり塀の外節季いと聞ふる窓や靈照女節季いにうそ耻しき借屋哉帷子に寒月白しすゝはらひ煤掃や花子がもとへかくれんぼ何ひとつ捨る物なしすゝ拂事始寒冷酒寒月佛名年木樵寒聲節季候衣配葎亭句集年忘煤拂
厄おとし金四萬斤出されたり乙御前の樂しむ夢や寶ぶね片戀のそぐはぬゆめやたから舟卷果る曆は糊も離れけり相駕や神は請ずもとし籠美女ありと初瀨は是沙汰年籠閉帳の金の行衞や年ごもり律僧の步み間だるきしはす哉ものしりの假名文多き師走哉牛頭馬頭の怠り責る師走哉かくれ家もやはり浮世のしはす哉指南琴殺聲交るしはすかな臼下りて彌陀も手傳ふしはす哉淀舟の俗になり行師走哉(塞ヵ)寒翁も底意はすまぬ師走哉憎さげにものよしの乞ふしはす哉牛馬にもいらちのわたる師走哉ぼう鱈で犬を追遣る師走かなすゝ掃や先生けふも下袴すゝはきや潮を游ぐ舟鼠神寶の御煤いたゞけ御溝水すゝ掃て隱居へもどす隱居哉すゝはきや文取かへす鼠の巢煤掃や都の月の不破の關餅搗餅搗やうら若き手の艶をなす竹林に餅の谺や乞食村餅つきや舟に向へる娘だちもちつきや上戶一日なぶらるゝ年內立春內〓の春よ何やらたのみあり根には皆春を含みし野づら哉年の尾の永ひに春のまかれけり分しのびやかに儺ふ聲の窓深し武內はいかでかそへぬ厄落し厄落しいみじき妾遣られたり心せし鬼杉原や厄おとしやくおとし堂上方の狂哥哉系大書俳本日寳船古年曆籠餅搗師走節分行年似た樣で皆變りつゝ行としぞ筆勢の机はなれやとしの暮行としや長きを呵る瀨田の橋よい年で春はと思ふ油斷かな檢非違使の大赦もどりや年の暮としの暮春日の灯炉見に行ん(三·)形のつく日頃の何やとしの暮計へ見る身の過ちやとしの暮ゆくとしやいつ不肖なる顏もせず行としや浮世をのぞく書の窓濱屋敷立派に年の暮にけり來る春を松前ものや市の樣年の華かざして關を越にけり月雪の売や五尺の米俗とし波や隱居の行灯先白し年浪やおさめ過たる鶴の皃としなみの筏に乘りぬ論語よみ切先に廻る物なし年一夜筋ふたつ殘るやとしの車道とし波や餓たる扁の牙をかむ數十本我としの矢ぞちぎれ筆とし波の沖中川よ浪の音つもる年俊足の齒のゆるみけり粉灰たつ月も十二の街かな大三十日大としの嵐となるや人の息飯綱遣ひ己が家鳴や大三十日大三十日祈る貴船もあらばこそ混雜寒垢離や身を切る風にのりの道陽や疊に廻る雪月花猫の聲うかれ初けり寒の雨かばかりの報謝は輕し八日粥杉燒の鳬や伺候の俳諧師黐木させば狐寄來ぬ闇きより葎亭句集葎亭句選冬之部 終
俳歌者國風之變。雖雜裁俚言。要主性情。苟有得風流雅思。則詩歌何擇乎。俚言又何傷乎。而今之言俳歌者不少。又皆以風流自處。或以誇俗。及見其人。太率孟浪不文。不足與語。風流雅思何以窺墻耶。故爲少習章句者所蔑視焉。吾京嘯山翁獨不然。雖宗俳歌。其生平操履。自實學中來。加之有詩有文。書法奇〓。我翰藪之選首載之。綜之皆風流雅思之涵融。自然而然。視彼區ゝ章句輩。大有間矣。余也間散。周遊海內馳聘藝林。歸京之後。於翁得忘年之交者。亦唯以此耳。於俳事則不關。翁今年八十有四。夏四月易簀。予適以西遊不在。及聞訃不得爲之不潜然。〓晨花夕月樂以終其生。〓詩風俳傳以遂其性。如翁在。可謂死生無憾哉。男匡敬李流繼其〓。孫乙龍童年善書。庭訓之所效也。諸子弟壽梓遺稿。徵予一言。予不知俳事。而不辭此言者。以有所知。推及所不知也。翁姓三宅。名芳隆。字之元。平安隱君子也。今也則亡時享和改元秋八月松窠杜書澂于眞賞雨窓之下葎亭嘯山翁選書目錄俳諧古選古人名家句集俳諧獨喰古今句集葎亭嘯山翁句集全部五册附球伊勢路紀行通俗女仙外史俳諧新選諸家句集葎亭〓讃集李戡嘯山翁句集後編未刻奇談とのゐふみ諸家句集李戡未刻京室町一條下ル平野屋善兵衞同寺町夷川上西山屋岩吉書林松窠杜書澂于眞賞雨窓之下杜徵松之印道吉ず葛はゝき箒樗庵麥水句集
いせ海老につかへる庵の御慶哉葛箒春之部樗庵のよみ初も例の杖笠に心とうごき歲初門松や臼も七世の孫に逢はつ夢や巨燵の裾野おもしろきすめるもの登つて嬉し井戶はじめ春たつや其儘の松も又嬉し大服や我乞ふものはうた袋花の春まこ見ぬかたの國戀し梅に來る鳥のあと也初懷紙靜まつた障子の咳やはつ懷紙新宅にうつりけるときに一枝は梅も賴むや下地窓東風吹や年と〓〓の透間より窓ふるとし不二に登山せしを思ひ出るや山をひがしにはつ霞はつ鴉月あきらかにかゞみ餅庵の春かけ物棹も杖はじめたはら藻や龍宮ならば掃捨んよみ初もうらからおかし茶道口春たつや朝夕はまだ海の音ロ〓に指折人や夢はじめ書初や窓も丁字に梅のかげ春もさぞ先づはいつもの初霞門にたつ松の葉ごしや初懷紙七草手の日普請にも引松ありて子の日哉我は又留守の廣野や若な摘井手はまだ耳の障也わかなつみ見めぐるも七野やしろやわかなつみ田の中の山越やすしわかなつみみづがき外へ百度やなつみ籠葛
次の間はかぶろかたまる蛙かな虫にして月は短きかはづ哉袋にはわかなるものをかはづ哉火をくれぬ里まで來る蛙哉闇の夜の日每も人や啼かはづ麥の穗の茶せんに音や鳴蛙つけて置種にふくろや啼蛙村松の一むら消てかはづ哉夕暮に都をたつて蛙かな飛び飛んで水に延たる蛙かな唐崎の道問ふ人 や啼蛙井の水は井ほどの波を鳴蛙人影の障子に出來て蛙かな馬は田をつかれて上る蛙かな鳴蛙こたへぬ友の吾にこそ蛙啼夜やひら〓〓と潦花月あらば松は木陰ぞ山ざくら逢ふ處で御慶濟すやわかなつみふり袖にあらしの岡や若なつみ七草やあらしの底の人の聲庵の戶はねながらとゞくわかな哉脫捨て笠は雪間ぞわかなつみ七草や留守のあたるも君がため我がひく松のまくらやはつ子の日木つゝきの人影見やる子の日かな蓬萊は遠山にしてわかなかな七艸や音羽の音はまだ寒し浦半の人のもとへ約ありて鶴のあととめて行ばや磯な摘七艸や明けてのものゝかぞへ初メ丑の日の野邊に人あり梅の花蛙化された人ではなふて蛙かな(原註)本ノマ春雨の神たつかはづかな松原に日のはさまりて蛙かな系大書俳本日鹿の來て啼たる寺やはつ櫻八景は比良にかたまる櫻かな見處の有る禿也はつざくら手皷や鳩の峯ごし山ざくら鐘の尺扇でとるや山ざくらしら雲に誠の帶や山櫻狂人の鐘をとゞむるさくら哉休みたる薪のあとや山ざくら人なれて山あたゝまる櫻かな花の降る庭をしづめて机かな月は入るかぎりもあれど櫻かな傾城の所帶もどかし山ざくら初花や鞍馬のかたへ駒むかへ橋はまだ霜も折〓はつ櫻見おろせば人里深し山ざくらさそへばぞ座頭も見へて山櫻年禮も羽織でいふや山ざくらうか〓〓と日の減り行や花の守茶に減つて音羽は細し山櫻袂から下着を脫でさくら哉ちる花に蝶も重たきけしき哉汝にさへ耻かし花の山鴉(原註)本ノマ花生けてきの事は遠寺や柳いつもある舟をまねいて柳かな人買の舟にはらだつやなぎ哉ころび木に手はかけながら柳哉しら露の寒さくらべる柳かな置ぬものさがすは我と柳かな靑柳も巴に吹や水の上舟關の人をかぞへる柳かな關越えて髮結直す柳かな裾上げる事も覺へず柳かな渡る瀨に人聲深き柳哉鳥さしに手を合したる柳哉網打はあちらへたぐる柳かな三三葛箒
佛法と鳴くを破してやきじの聲眠藏にたばこの匂ふつゝじ哉大根の岡のあらしや春の空若竹や遠きこゝろも此葉から春風や一葉二葉の靑みどり行春や一鎌殘す草むすびひそ〓〓と靑ふ吹けり遲櫻苗代や菅簑に早や一そよぎ海松に引日もありて汐干かな僧正は叱り好きにやしでこぶし見る人に呼子の聲や壬生祭蝶〓の店おろしあり藤の花空也派の夫も持て茶摘哉まだ夢を見る心なき蠶哉糸遊のきれやすうして行春ぞ鶯や水も葉色の竹いかだ鶯に留守も尊し宇治の庵紅梅や雞も笠持てこそ川舟の四五丁出ればやなぎかな逆に鳥のとまりて柳かな月ひとつ水へ掃込む柳哉繪のかたに忘れては柳を越える柳哉逢坂の琵琶にさはりて柳哉靑柳や野馬の結ぼれず橋守の隙ては遣ふ柳かな靑柳のあふ(虫喰)春題混雜元山の所〓〓につゝじ哉きじ鳴や山の藁屋はうす霞駕で行旅人の夢をきじの聲朧夜や橫に御燈の星ひとつ悟りにはまだ紙ひとへ霞かなはりの木の陰は田舟やふきのとう田につもり都につもり霞かな雉子鳴や空は正しく月日星(釣瓶)梅咲くや初日にかゝる薄氷鍬の刄にはねだす石やきじの聲くれて知る比叡の般若や夕ひばり初午や遣り人の鍵は置て出る水茶屋の簾もおろす日やねはん像苗代や角力は京へ出るとき桃咲くや寺を見廻す講がしら曲水やひとりは醉て折烏帽子袖笠の難波はあとに汐干哉山吹や水のぬるみも佛肌水鳥や聞上げもせぬ春に啼き山畑に種のはしきや雉子の聲猿の手も目にはつかりや涅槃の日鶯の巢にくせものや朧月山吹の水に籬や障子骨藤の花道から醒て戾りけり春くれぬよしのゝ蝶の行所入かねて日もたゞよふや汐干浮五二三山寺に何待つ人ぞ春の雨鳥かげの北へ消へたり春の水茶ばたけの木陰れ笠ぞ春の暮門に待つ駕の欠伸や藤の花聲ものごしの京に欠たる雛かな三日月もやねのたはみやもゝの花あのうへも世はいとまなき乙鳥哉弘法の水のすへ也田にし取(二字蝕)行春に被うやりはや人置合す石の窪みや土筆梅が香の吹て風折烏帽子哉梅咲くや夜着垂たかる江湖寺白雪や白根の影のほつれそめ爪づいた人を蹴ぬけやふきのとう春雨や今日は道庫の棚さがし蝶〓や晝は朱雀の道淋し曲水の客ながれ込雛かな湖へ城はくだけて霞かな葛
北東風は雪も交るや梅の花悟らねば戾さぬ橋の霞かな雪中に朝古道やふきの花淡雪に茶店は出たり初芝居しら魚や延ぬ藻にはや花の色舟はまだ疊も入れず春の月茶に醉て宇治を立けり桃の花桃さくや飛べば近しと道をしへ汐干浮是も一夜の裾のほど春風や嗅で見る人心あり行春や人は柳を折ぬとき鶯や一冬越る葉はかたし雪見えて笠の端かろし春の山朝夕にかはる衞や春の海若艸や水を隔て駒の聲淡雪や檜原のおくの酒ばかしうぐひすや水のつかゆる淀づ〓み鶯や竹田の里は留守ばかり梅が香に襟引しめて一ッ橋朧夜や誰を迎ひのこし車鶯は此木によればあれに啼くまだ鴛の耳にもどらぬ餘寒哉八日より塵塚靑し鶯よ人待ぬ心は高き木の芽哉猿の手は欠伸に延て木のめ山若艸や笛の尾山は牛の聲鶯や雪の雫も光りあり若竹やことしも城にならぬ山鶯や熊をやしなふ人も出る若艸の押てのぼるや白根まで茶かぶきに欠伸もひとつ春の雨(むしくひ)折人の春の夜や眠らぬ人は我と誰遺愛寺に晝の枕や春の雨柱から芽を出す庵や春の雨やれ窓の格子〓〓や猫の戀まだ行ぬ鳥かげ白し春の水雉子鳴や持こたへたる朝ぐもりうぐひすの啼靜めたり海の色おもしろき鏡にやがて春の水照されて雪をくゞるや春の水山吹や野は行水の 九折物洗ふ脛にはあらず梅の花如月やまだ蝶ばかり山おろし傾城の傘の上へ行胡蝶かな水鳥が啼は何〓〓鳰の春道かへて庵へ戾るやすみれ草若艸や古葉は化して雉子と成寺を出て料理好みやふきの花木〓を出る香はまだ辛し春の風春風の吹通してや種ふくべ梅譽て物申し置く折戶哉行道やふりむく顏も風巾のうへ禪定の替み見へぬはこ蝶哉涅槃會やものゝ重なる影法師(40%)逆に掃木入れけり藤の花水のない川堀る人や桃の影道作る一僧あはれ雉子の聲筏士の陸をのぼるやきじの聲只ひとつ柚うらやまし鳴ひばり深山樹や霞は裂て經の聲糸に咲黄に咲春の垣根哉分行ば桃にやあらん朧月曲水の一葉流るゝ扇かなうつむいた草はまだなき雲雀哉一圍ひ茶の木ばたけの雲雀哉ト野行紫野行ひばりかな藤咲や鮒に投込む葩煎の上如月やまだ燒草のよしの山一日は人の藻にすむ汐干かな行春や足あとまでに花の塵笠は皆胸にかぶりてひばりかな豆三五葛
菩提寺の腰もさかなや田にし取繩ぬふて張す普請や桃の花乙鳥や何を蹴て行水のうへ虻も來ぬ藪や李の花の晝田家春日鳥啼や藪は菜種のこぼれ咲富山葉性子庭にて立山をのけては春の夕部哉袖通川にて風鳴て春草白し神通川途中吟鷗啼く方に日あしや朝がすみ小森康種とりて櫻さかへん小貝塚水場のわたし葭の芽も北をさす日や雁の觜馬城松櫻こゝや心のうき沈みたてがみ山を越る春雨は裾から晴れてつゝじ哉干ればこそ波の音なし朧月蜂の巢の笠は小さし庭櫻雀子の御供こぼすや梅の花雛櫃に綿入るゝ日は餘寒哉鹿の喰ふ短尺もあり藤の花出て遊ぶ繪馬の沙汰あり朧月物とへば小供ばかりや桃の花見る人の腰にふくさや梅の花粟嶋の留守へ來初る乙鳥哉佛檀を見せる馳走やも〓の花泉水の橋姫いかに猫の戀古〓の山にも似たり朧月初午やまだ蕨手のかゞむころ八十は梅の日數や𣵀槃像雨の日に使は來たり木の芽漬下萠となる戀もあり春の雨笘船にだまされて出る乙鳥哉系大書俳本日風草白し神通川茶の花や橫向いて峰越る人七面明神アンネン坊して桃柳茶も見おろすや七面高丘櫻の馬場にて雪と成作や泥障のあらしまで祇王寺にてとてもちる夕部ぞしばし遲櫻三本木茶屋石川や雪踏馴て上り鮎洛にむかふ西海道越、はじめて過ぐ晝からは日も西道や鳴蛙かへる山はかつらと云ふ里の上なり鹿の音に聞置く里を春越へぬ山中越へ、半馬の駄多く出る鶯も連牛づれや櫻までまのゝ長者やしき窓の影おもふ霞の野梅かな白髭明神幾度ぞ霞とく〓〓あしの角途中吟酒好のおくれやすさや遲櫻肌島七面旅の部(入し居るを、校訂者日、こゝに附記するは稿本夏旅の部に混)便宜春季の句のみ抄出したるなり途中木曾殿を訪へば鳴出す蛙哉禿の宿にやどる玉川の耳に毒なし初蛙紀の路にて雀子や柱のふとき八庄司嵯峨雅因亭大井から音を納めて蛙かなさが野雉子鳴や今も浮世を舌皷茶店にて感あり、三軒茶屋と云ふ白髮まで人にさがなし小鮎さき蛙鶯で庄司葛箒要·一b
行雁や我目も暫し嶋めぐり竹の浦にて春も老てかゞめる竹や水の上蓮如山花瓶の松幾春にかわるも松のほまれ哉御腰掛石と人々になづるあたゝまる石も尊し春の草洛外を過る日錢百の開帳多し山ざくら圓山ばしの寮にて春雨や給仕も立て座敷鞠遊里傾城の別れ見習ふ柳哉泉州堺古〓は路の千尋ぞ 汐干浮篠原の邊に逍遙して池水に踏皮洗はせて梅の花吉崎三谷氏の庭にて捨石にかしまもひとつ庭の花宇治のほとりにて吹落ちて水やわらぐや花摘哥今江浮にて蜆取臂やもたせて鷺の上笠取山と云ふ處にて笠取や松吹荒て春の海系大書俳本日笠海くず箒夏子規曙やあし毛の駒とほとゝぎす茶の杜はまだ朝寒し子規夏草の星にしらみて子規竹藥も伐た藪なりほとゝぎすそれて飛ぶ矢數の雲や子規牛で行道ほのくらし郭公ほとゝぎす麥の月夜は薄曇衣〓〓をひやして行や子規ゆり起す舟もこゝろや郭公夏柳哉干浮子規几張はなるゝ人のかげ蚊屋ごしに月のくもりや子規ほとゝぎす竹の植處定りぬ觀音の灯に舟見えてほとゝぎす寐ぬやせも夏のもの也子規草踏て一夜給仕や子規傘持の眠りは白し子規相如の首途は涼し擬寶珠に一首殘すや子規常陸坊が仙にぞ我ひざの足高山や子規志賀上人の木の端にあらず觀念の橫へ心やほとゝぎす盧山の三笑長尻にどちを庵主ぞ子規盧生が晝寐好き草枕耳も芳しほとゝぎす楠は朝寐嫌ひ藁にふの人とも見へて郭公賈嶋が推敲のうつゝ行當る人も心や子規麥林叟をしたふ麥畑に尋る人や郭公都因坊が風流十哲の祭りはさびし子規餘興よみ飽た欠びにくれてほとゝぎす水まさの雲や流るゝほとゝぎす鳴たればあやふき道や子規關守は晝の寐覺や子規折箸も片〓筆や子規壘算筵でをかしほとゝぎす鰹木の枕に高しほとゝぎす朝草に人數出すや子規灌佛や和尙の指はほとゝぎす獨千句題有合書意に任す在中將は旅好き行や子規麥人や郭公子規箒三六
降晴も脊戶では知れずねぶの花蓮はまだ柱も立ず花御堂僧ひとり門にイむ水鷄哉乞食の脊中も敲く水鷄哉まだ靑い西瓜流るゝ夕立哉兀山のかげを靑めて田うへ哉卯の花に鵜飼の星は寐過しぬ戀ひとり折〓だまる田うえ哉早乙女や跡を追ふ子のつまみ結門建て落付日あり今年竹夕顏や聞耳たてるくれの蝶ゆふ顏や經の隣に笑ひ聲獨千句顯懷旧葉ざくらやむかし戀しき道すがら葉ざくらや今は鳥井の色ばかり實櫻や何心なく鐘の聲實櫻やいにしへきけば白拍子葉ざくらや譽らるゝ日は忍び道駒も夜は雲井にかくれ子規子規明ても橋の小提灯明ぬ戶にはし立うちやほとゝぎす納凉凉しさや嵯峨のいかだの捨泛すゞしさや船に射そうな扇影いつのまに帶のとけたるすゞみ哉涼しさや傳授もしらぬ流れあり寐た下へ月流れこむすゞみかなくつさめを廻して戾る納凉哉僧一人水かみへ行くすゞみかな家明て蟬も夜聲や川すゞみ川下は酒の香の吹くすゞみかな琴の手は橫に流るゝすゞみかな涼しさや手合で舟をのける道すゞしさや幾間のおくの灯の光夕ぐれの星よみかゝるすゞみ哉夏題混雜系大書俳本日はざくらや花は鵜舟にもどす時茶の秋の朝さめにくしさくらの賣はざくらや靑き巖に靑き影はざくらや伐るに忍びず人心葉櫻の爰も筑波の葉やまかと軸余はざくらや我に千句の靑幣芦は皆男ざかりの鵜舟哉初蟬や加茂の祭りは幾日から千本は京の梢ぞ靑あらし杜若硯石にもしとわたりぽつゝりと汗一雫浮葉かな尼寺の御所の末葉ぞ杜若片側は藪にくれ行蚊やりかな夕顏に圍車を預けてかやり哉迷子の泣き〓〓つかむ螢哉裾野にも二十の揃ふ田うたかな鐘鳴つて林の靑き鹿子哉うき草や扇流しは知らぬ里綿貫の日からかぶるや鹿の角湖は里へ廣がる靑田かなもゆるときはつと涼しき蚊遣哉月花の都は知らじ氷室守うき草や鵜に出る舟に取りすがり砧聞く夜には短かき水鷄哉能因の顏見忘れず若楓夏山のふところ深し佛生會卯の花を窓にあつめて夏書哉人は蚊帳かぶり初寐や袋角瘦せたがる妾もありて牡丹哉茂りから鳥の音近し練供養葛袴ほす家もあり杜若さうふ湯や八棟深き草枕麥をまく里かけぬけて水鷄哉實櫻に又白雲の幟かな雨に寐ていつを節句や忘れ草至三一葛箒
落書の石に足おく〓水哉虫干や此處へも通ふ天津風其水に我は筆かむ夏花かな蓮の花琵琶にほろりとはづれけり川狩やいろりにつもる岩の屑しだり尾に柳ながれてうき巢哉風蘭に雲吹や早や湯のいきり五月芽の松に朧はなかりけり朝の日やかた野を出る紅粉の花下戸ひとり庭を歩行や葛の花凉しさの思ひがけなし綿の花夕顏や駒の出て行垣つゞき空也寺の兒をなぶるや靑瓢苔の花やよひのものゝこぼれよりひる兒や跡になり行朝日山尼寺や干瓜の手も歌がるた誦さして經に拂ふや灯とり虫帶もたぬ人斗也舟あそび麻刈や葺た蓬の落てから藻の花も朧のものや水烟り月ひとつ落して行や眞菰苅河骨の花守おかし裾に笠螢待遊びも笹や一夜酒洗濯の姥を引手や花茨(一字蝕)紫陽花とかはりくらべやはつ芝居竹の子の角は延たり小先達跡に見て地藏いたゞくいちご哉虫の火や蚊屋釣草も有なれば夏草やわかなに來たる道はなし一休みあせぼの花の日陰かな蝶〓の五月つゝじに又夢かあぢなもので酒呑家や花ざくろ此おくの寺は紫衣也花樗(かくす)山梔子や築地の崩れ咲かへし(九十九折)衣張も九折ほど雲の峯夕顏の姉か妹か竹婦人凌霄や龍の上つた手洗鉢此垣の西は法輪風車經の聲入て玉まくばせを哉ねぶの花茶挽坊主はいつとても桂男にかして戾るやさらし搗山びこに鶯も音を入にけりまだ忍ぶ小袖あらはせ今年竹靑鷺の植たでもなしあまり苗外井戶はすむも甲斐なし靑ざん桝舟ゆりて子は寐入けりみるめ苅蝕芦は今ちからざかりや鈴懸や峯越て行人の影獵人の念佛を聞新茶かなはつ蟬や麓の流れ踏で行踏分てつゞしを走る鹿子哉蝙蝠や何心なく風車入梅や乾キ眞砂も持た家(つけ)桑の實や紅粉が過る里の嫁皆わたる蟬の小川は足ぞろへ賤の女は引わづらはぬあやめかな靑梅や適晴るゝはつ日影早乙女や乳の下におく月の影浮艸のうら形りは有水かゞみ灯ともしの僧も見なれて今年竹姑をふすべ返して蚊遣かな築山もけふ奧深し虎が雨あびるほど酒呑神轡あらひ哉奉る手もとふるふや氷室守撫子やあらき詞のわたし守合羽干す川原表の暑さ哉夏艸や小虫吹やる一あらし物問ふて蠅に追はれて戾りけり惠心寺に歌聞ぬ日や蟬の聲夏艸や今はなにしに奈須の原笈摺に杖たををく也苔〓水卯の花やイむ人の透通り葛等
葉にも又陰口ひるや雨がはず蚊柱や大佛とても此通り簑の音けふもうの花くだし哉麥秋や踊のしまぬ音斗下闇や桂に月の香はあれど實櫻の雨やあられと矢數哉水鏡川ヘ出初る袷哉ぬれて來る人尊しやあやめの日湖も里へ根のさすぬなわ哉おもだかにかゝるや水の一めぐりおそろしう町を見に來る螢哉こらゆれば世に逢ふ日あり氷室山夏草や晝寐のなかも又樂し夕顏や物着に宿へ 歸やる1人百里まで行心なり更衣切ふに橋を見渡す螢哉凌霄や家は夕日の入廻り夕顏や虫はら〓〓と人の音夕陽の九重の堤や花葵芥子の花見て慰みぬ兒の親卯花や蝙蝠さがす小僧共霧に似て茶がら立けり若楓鳩の聲肩にとゞくや夏木立柚の花や庖丁持て緋のはかま掃よせて耳塚おかし桐の花矮鷄の來て飛上りけり手鞠花長椽に茶はさめて來て機櫚の花陵の色どり淋しさくらの實竹の子や草の袂をふらつかし碑の銘はなでゝ讀みけりかんこ鳥山崎に茶舟はなふて行〓子蝙蝠は開張の日をはつ音哉基の師途中より古〓へ言傳にて夏山や遊び〓〓の旅に肥へ義仲寺翁の像を拜す猶見るや昔ながらの夏木立旅舘短夜や翌を書に足す文ひとつ山崎にて唐室の調度のうちや閑古鳥鷹が峯の禪林にて春過は此軒になし峯の月山河にて庵の陰度せて芽だつや杜若なら井波市中もへたでものよし雲の峯加鶴のもとに甲子吟行を拜す夏山やあふげば高き鳥のあと斗升坊とつれ立合歡の花もすゝめて一夜やどりけり穗浪河別莊朝月や入帆は凉し穗浪河塩尻峠諏訪のうみ鷲より上の浮巢哉湯尾峠さびしさは足のうらまで閑古鳥使此山此山の神姿など思ひて朝虹は伊吹に妻し五月晴靑野が原物好も替えず靑野の夏木立物見松我はその松に物見や晝すゞみ靑墓の宿にてあをはかや夏とぶ蝶の物がなし長良川の茶店にていざ頭陀に鮎干せばやながら川かゞみ野にて夏艸や我影うつす野は永し岩頭いわや觀音にて空蟬に似たり窟を出る人蠏藥師あつき日をはづす岩間や蠏藥師亞三風晴の月葛箒
かけ橋や水とつれ立影凉し朝とく出るとて短夜を空も急ぐか駒が嶽暮柳にめぐり逢けるとき行逢も跡は知れよしかたつぶりつばい峠にて馬の耳足にさはるや子規卯月の未〓に歸るこの關も秋風ぞ吹く麥のくれ希因に逢ふ子規木曾路の笠の手に斗東行を思ひたちて管神の宮柱に一章を淺す我は梅の靑みに飛や旅ごろも金城留別水鳥のけふ巢ばなれや朝あらし松任千代に紅粉畑や尋ねて鹿の足がため本吉百草園いづみ式部廟所門の 外響でもなし風車無線吸収びは坂のよの手も凉し松の聲頭打球吹返す笠も御影や靑嵐峽中水勢卯の花に聲はあらしな瀧津波御坂越ていふにて夏藤や石も亂れて御坂越木曾のやどりほとゝぎすことにほいなき木曾の空福嶋の人〓に夏の夜や早吹分けて草枕小野の瀧五月雲墨すりうけて小野が瀧ねざめの床ほたる火も細しねざめの床の松木曾のかけはし系大書俳本日門車吹や靑嵐子規坂越枕靑田から誠の浪も見こしけり世尊院翁塚靑葉若葉若葉日影も深し翁塚三葉庵大睡子夏草や何〓譽めん三葉庵旅舘(むしくひ)短夜長客の魂眠るあたはず、一夜車羽所々の樓に遊びしを思ふかんたんの夢に遊ぶか金銀花涼袋と道連にさそはれいざともに秋むかはゞやうつの山八幡にて水鷄にはこちらもなれてあふむ石隱士のもとか尋れて、其の人は已に送り出でたりと云へるに茶の下の建仁寺風爐に鐘凉し芝のあたご雲の峰海の小さし旅品川の朝夕庵千鳥はまだ浮巢で嶋にかよむけり東海寺の池庭にて河骨の箔さへ古りて靜也極記録撫子や振上て打掉の露泉岳寺義士塚夏陰やまだ山彥の相ことば望月牧夏萩の鹿かと見せて牧野哉淺間の麓撫子や馴ればもゆる淺間にて白雲山妙義堂五月雨や雲も尊き杉のをく途中の吟馬ながら軒へかけこむ夕立哉本〓の武門に參る汲水も巢鴨は凉し森の音山中十景也撫露一夜車羽葛音箒雲硯五三七
月待ぬかほる〓水や飛ほたる小松神主松木氏の旅舍にて其伊勢をうつせば寂てしげり哉あたかの關を須叟にうつしける恨に乘名置ても甲斐なし夏の梅に島汐越にて今朝見れば潮は遠し松の蟬玉江橋玉が淵に沈めて凉し橋の月白兎女の邊り雨に逢ふ合羽にも足もつるゝや羽秡鳥醫王の林花花の日や迷ひに上る藥師山湯屋烟雨湯のうたによそのさなへや五月雨(無水)毛小の鳴猿何々の足らでや月に猿の聲富士寫雪湯けむりのなびくは遠し岑の雪蟋蟀の橋霜かふろぎの細るや霜の橋ばしら高瀨漁火いさり火や荻の紅葉に人の聲道明淵月水底の月や下へも山ふかみ大岩紅葉日も岩をめぐり果すや蔦紅葉黑谷の城跡香の園に堀が殘つて野菊かな桂〓水の螢系大書俳本日葛箒秋さわの岡鳥わたる梢の底や市の聲山路けふ菊の巖やいつのさゞれ石府中妙國寺聲佛殿をくゞる夕日やにしき草八幡にて菊咲くや津田の細江の源問んことしも帝京に杖をとり、又この聖城の友に送られて、各〓筆を嚙む、縮柳もことふりにたれば、只秋興とのみのぞみて、余もこゝに野行を記す。秋風は吹くともひくき牛の耳中の河內松柏亭にやどる。一夜急雨の過と聞て、窓を開けば秋聲のみ。只爛々たる星、沈々たる水物すごき旅寐を栗の笑ひけり瀨田眺望橫に見て舟の薄さや秋の水平野の社頭にてむら鳥の平野に裂けて秋の風洛西秋行や小倉高瀨の手をつくし洛東砂につく紅葉は古し下川原將軍塚爰ばかり秋淋しかれ松の聲八景山寺夕照題夕照や寐つかぬ秋の山がらす港の濱を馬上にて過るとき、折節白根川の秋水出て、空とひとしき蒼浪に橫はりけるに水はなの雲橫たふや秋の海野水のほとりに逆におもだか吹や秋の水大聖寺罔々庵行秋や水はもとより橋の人日の岡にて秋立や京のあつさをふりかへる嵯峨野にて飛入た虫の音流す筏哉安宅の水戶にてや秋の水葛飛哉箒五九九
あら浪に山やはなれて鷹の影山陰の寺にて折〓の水のものあり村もみぢ北浮安樂寺に西金剛の旧物あり秋風を押返す手や枯木立此邊の寺に便て行秋や一入塔の延上り東都に秋たつ日秋たつもうれし上野とわかる鐘山中の湯を別るゝとて行秋の靑う別るゝ尾上哉すみだ川にて問はで濟む鴫猶淋しすみだ川しのばす池朝霧や蓮の白帆も見えかくれ上野淺草に杖を引ておそろしきひとつ家もなしけふの月深川のほとり舟に寐た城のうごきやけふの月東都より江の嶋に詣づとてあと向て旅立つ今朝や舟の露百川を過るよし秋の日にはかさゝじ袖の浦能見堂に八景を見る月ひとつ石に圍むや嶋の數稱名寺靑葉紅葉鐘にそふ葉は靑きにぞ秋の色瀨戶明神汐木月にされ汐に老てや瀨戶の松朝比奈の切通し葛ならぬ葉も裏見えて切通し建長寺にて初雁や古り行くはおしき額の文字やすの河中にて松消えて川原は高しけふの月洛の高雄山にあそぶ我を打ち込むや紅葉の九折一路の寒溪に系大書俳本日立り哉谷水を包んでこぼす紅葉哉大和の古山と洛に逢ふ菊水や互に老をくらべ合ひ東山にて見つくさぬ伽藍のおくや秋の風小松よし島と云ふあたり舟をめぐらす押廻す水や幾すじ芦の花うち柳と云ふに雨に逢ふ茸狩や降つて家さへ見だし物菊の日住よしのほとりにて菊の日や我は歩行くを生くすり近きあたり行脚して秋吹や日なたに笠を敷わすれなた寺にて叱つても石は石なりしかの聲湖來長勝寺の古鐘た見る鐘は古りて昔〓ぐるや秋の水硯の宮松古りて黑むや宮の露 雫(貝)其の多羅園松が枝も左りに繩や葛紅葉山森稻荷あらはれて尾花の上や稻荷山途中吟穗の上に鳴戶の日あり秋の風同蜩や女子の連はあとの宿國をうつしたるあとの野にて女郞花心とむな と野分哉途中吟倒に稻は立けり鴫の聲深木山妙行寺山につき山にはなれつ秋の雲府中色紙塚薄いろの紅葉も爰や色紙塚しら山の宮に詣でゝ階は坂の仕廻やしかの聲五四宮の露 雫聲葛箒
木犀や碁にも木魂のひゞく庭羽衣の松取れそうなものなきけふや松の露久出山石壇の伊豆へも行か薄紅葉うつの山蔦の手の笠に這ふまで休まばやきく川の驛菊川に先づ長いきや秋の蠅さよの中山日ぐらしも其命也さよの山汐見坂近ふ成遠ふ成月や汐見坂途中吟雁はまだ我そら耳や高師山八橋無量寺澤は田と成つてむかしの男郞花兒が淵より日暮の不二が望む染負ふて日はかくれたり富士の色あふむ石この石の自問自答や秋の聲山中の湯にて湯にばかり月は長居やおとし水有明の岩路行秋や蔦の手を引はなるべき神護寺にて高尾染殿のむかし聞日や初紅葉〓水奥院牛尾よく靑き紅葉覗くや繪具合うたの中山九重は名にも塔にも紅葉哉鎌倉に秋を迎へて谷づゝに日なた細めて今朝の秋建長圓覺寺の諸寺に詣て樓閣の風やことさら今朝の秋星月井七夕も近し浴が星月井海上寺系大書俳本日七星月井江の嶋蓬萊の外に千種や嶋 の秋舟行海安寺にて海ごしに日の行過る紅葉哉護國寺開帳스うつむいて水の分け入るもみぢ哉染井にて秋暮寂寥を見る人の來ぬ道のしるし や露時雨飛鳥山秋雨に逢ふ石ぶみも露の淵瀨や飛鳥山道灌山指まねく萩に付かばや城の道城跡に舟繫石といふあり滿干知る千鳥も早秋の暮日ぐらしの里色〓に秋を仕分る花野哉ねづこの一木枯て名高し蔦紅葉笠寺笠寺ぞ降らば宿らん紅葉陰阿漕浦淋しさも度かさなるや浦の秋己巳七月うちとの神の御前にひざまづけば、松杉のあらし何となく尊く、ことさらあらたに遷ります宮殿も、かたへにかゞやきけるに秋の山に向ふ見越も有がたし首途の心なく秋郊外に出づさびしげな野にだどり行鶉哉麥林塚さびしさは其の日といづれ秋の寺旅舍(むしくひ)名月や友もとむればゆわくの湯もとに溫泉の花の流は高しそばの花遊山分入るや湯のいきりほど秋の山藥師堂嶋 の秋露時雨(むしくひ)の暮葛箒五四三
落合ふや雪も一すじ下川原中の河內に行きなやむ日あり〓このあるも鳴戶の波ぞ一雪吹三保の松原鷹もまた富士おもふ顏や三保が崎北浦冬景卷おろす外山の雪や浪がしら佐那武の杜にて吹返す鴛のふすまや朝神樂夢想の後會千本は今朝も氷柱や梅の花いなり橋のほとりにて日に透いて落葉のうすて白根哉十月北地より歩して、又八しまの湖中に遊ぶ。この夏納涼の遊びの猶忘れがたくて、後赤壁の興なからんやと、夜話に人こを催す氷るとも又水莖の岡の月長命寺のほとりにて藥師山湯にしむ人の薄紅葉葛箒冬旅の部途中霜多き山路になりぬ猿の聲王造りにて片しぐれ幾日つゞくぞ小町寺旅中朝霜や袖もうごかぬ志賀越ぬ同竹の雪勸學院もこのあたり同日の岡を跡に見る日の寒さ哉社頭にねむる松ひとり風のこたへや神迎ひ途中走りつく里は物干すしぐれ哉大和の古山と洛に會す冬雪吹枯芦や低ふ鳥たつ水の上三四坊四國へおもむく。此の行や只浪花の芦のちからた賴みて、杖笠もとめて勞れなき旅と聞けるに鳴千鳥杖は名所をさす斗り中の河内雪の隔てられしに、碁の敵手ありて、雪路忘れし頃、十余日の逗留多くは是に戯る。雪深し石は碁盤に見る斗り歸路雪中行目のすへの醉てしらむや雪の暮しのばす池のほとりに居せし日朽蓮や葉よりもうすき初氷こゝにも歸を思ふため息の遠山へ行火桶哉信中の搖落碧潭の上に吹廻りて、山のすがたいふ斗なし。驛馬の疾過るをいそがんともせず。木枯よ削り過すな山の形山の下あら波打よせてわらぢに殘る落葉哉加越平原を過る日よは〓〓と日の行とゞく枯野哉心のしたしき人々に會す冬枯やうつゝの末の富士筑波冬野眺望枯て行野にかすがひや橋幾つ隣人を尋るとて朝每に橋は短し竹の雪越の寺泊りに妓はつ君、大納言爲兼卿に別るゝ時、其の思ひこし路の浦の白浪は立かへるならひ有とこそ聞、と云ふを、今爰に石碑に銘して、是に句を添へんと乞ふ。百敷も千鳥聞夜や濱びさし歸庵のあした雪ふりけるにいづくにと見やりしが今庭の雪洛四にあそぶ葛箒平麵線
鉦聞に都を出てゝ初しぐれ芙蓉のぬし、癸未の秋、北浦に杖な曳、琵琶洲路山入る。楓に對せんと志は發しながら、旧里の招きもだしがたく、路の波路を立かへることゝて、又金城に笈をひらく。白根の風の寒けきにも、忽俳門の壯志を發し、西京南伊か踏返して、東海の風友に刺を投じて、雅章を乞ふて、生涯の臥遊になさんとなり。其の風流にたゆむことなきをよみして、とばかりに送り出づ。紅葉焚頃をちかくや幾やどり古人を古とするに、眼うとく心せばくて、氣高き人のふみなんどは深くもたどられ侍らず。只ちかくありふれたる俳人などのものしおきたるを、さま〓〓見あつめなぐさむことこそ、これに過ぎたる樂しきわざやあるめれ。此頃古き屏風はりかへ侍るに、はり交たる反古に發句など書したゝめ有をあやしみ、眼をとゞめ侍れば古りにし樗庵麥水が手記なり。こはよき得ものをと殘りなくとりあつめ、よごれたるは洗ひそゝぎ、いさゝかのとぢ卷にはなし侍れど、きれ〓〓にてたらぬがちなるこそ遺恨なねされど日頃好める古き友ひとり得たる事よと、明暮くり返し、彼翁の風雅にたどりての剛壯感慨のあまり、余紙あるにまかせて此事を記すにぞ。嘉永三庚戌年夏靑城靑城discほ素丸發句集秋冬春夏絢堂編
刻發句集序盖シ聞"其ノ隱士ニノ而〓授スル人→者ノ目テ日シト山長一矣。今察シ素素先生,之爲リヲ人ト。致仕ヨリ已降遊ジュシシ心心於無何有〓之〓一。開〓目ヲ於象外一口ニ談シ風雅ヲ行ヒ能ク化スノヲ。其於ケルキ〓授一也。始メハ者以シ〓キヲ而後ニ〓シム人ヲノ入ジ佳境一。是ヲ以テ擧け世稱スルモ山長、不〓〓宜〓ヲ〓。蠢書魚ノ者餘ツ數萬指ニ。夢呑纏ノ者門ニ於於廬ニ。先生ヲメ可謂〓爲ビリト勤メ矣。惜哉先生。以往歲乙卯ノ之秋歸ス於道山一焉。今玆シ丙辰(第)之秋。冠首ノ第子等撰出ノ先生平日之錦膓餘稿之。編發句集二卷〓。傳ニ之ヲ將來一以計ヲ不朽フ。且ッ欲〓〓シト門風ヲノ永"扇於於東一也。其〓志シ亦至レル哉。編成ル同好ノ者來テ而乞序ヲ。余不〓辭〓者ノハ。欲スル報シト其嘗テ傾葢ニノ而有シニ故情而已。寛政八年夷則東都含海峰釋斗山撰。容ヒ〓ム人以以〓ヲ。誨ニルテ人ヲ以は忠ヲ。其行敬-愼篤-實。未聞有ヲ過-失也。性嗜風風流大ニ究〓〓〓〓翁之意〓趣〓矣。當今悠〓揚スル蕉〓門之遺風フ者。未有盛ヲル於先-生ヨリ者也。是ツ以其_名振於於四-方一。其功遺〓於後〓世。。到手今一。縉〓紳之士唱シード上。市-井之民和一於下一。其德尤大ナリ矣。詩ニ日。自西自東自南自北。無シト思テ不一般服セ。先-生有の焉。吾〃祖〓妣素〓簾夫〓人。大ニ得シリ先〓生之旨フ。吾〓聞〓其書之成〓而大ニ喜ヲ。因テ略書〓其蹟ヲ以爲序ト。鳴_呼若〓先〓生〓者。可謂死ノ而不朽。碑〓頌モ亦無〓愧ル〓矣。寛政八年丙辰秋七月鷦齋源長世撰也。之印長世印情而已。素丸翁發句集序大和うたはさらにして、風雅に心をゆだぬる人、いづれか家の集あらざらん。されどもこれを梓に鏤め不朽に遺さずんば、むなしく帋魚のためにこれを失はん歟。玆に東武葛飾の素丸子、若かりし時より常に滑稽を樂しみ、正風のこゝろばせを慕ひ、其道は、素堂隱士の流を汲め素丸發句集叙素〓丸先〓生沒ノ。而徽〓音將ニ絕シト。其門-人相_與ニ。集人錄ノ先〓生之遺藁→而補レ之ヲ。名テ曰シ素〓丸發〓句集集。基功葢勤ム矣。先-生ノ爲一人也。溫〓良閑〓雅。抗〓志〓-妙。其門-人相_與ニ。集人さずんば、溫〓良閑〓雅。三九
爪印ありしを基とし、其余は人口に膾炙せるを撫ひ、はた 男子年月、艸庵の榻下に乞ひ求て、かいつけ置しもの十に三ッかふたつあらんを、それかれとて二三子の衆議にまかせ、四季の景物雜句にいたる迄篇集して、あめつちの二卷に渉れり。げにも師翁齡ひ久しく、萬の言種につけ物換り星移り行句〓、いはゞ文車の七車にも積あまりなん。こゝに出せるものは九牛が一毛なれば、金玉の埋もれしもまゝあらん。後篇にいたりて全かるべし。賴に亨堂主人かねてよりちからを添んとありしが、半はこの人に助られて其功なりぬ。よて今櫻木にうつさしめ、永く世に傳らしむ。しかし傳寫よりのあやまりも多からめ、もろ人これを正し給はゞ幸とせん。只ねがはくば此集の末廣く、蕉門一派をはじめ遠き國、津浦〓〓までも、至りいたらば、師長の恩波に報ずる一滴にもやと、影前に捻香頓首して、愚なる言の葉に述おはんぬ。寛政八年歲次丙辰秋七月如是庵東武かつしか絢堂沐乎書絢堂る馬光先師より連綿と傳へ、卒に此道の蘊奥を極め、自然に蕉翁の深志を得給へり。しかのみならず、和漢の正史に廣くわたり、及び內外の諸書に通じ、俗談平話を正すまで、道の事に夜日を厭はず、〓誨に倦まず。しかも其性恬靜にして言語少く、才を裝る事をせず。こゝにおいて四方の好士、囊を擔ひ笈を負ひ、いたつて以て師と仰ぐもの〓閭に餘れり。されや年頃錦心繡口より吐給へる句〓あまたなる中に、かの野菊に市女笠のすがたおかしく、あるは碪に都を向て國恩をおもふ心深き句なんど、和歌の道に賢き雲の上人の御耳にもとゞまり、著述なる所の芭蕉翁發句說叢大全は、東都のやんどなきみかたはらにも侍りしとぞ。誠にこれ當流の譽れならん。しかあれど、自らを飾り世に聞へあらん事を憚り、これを語り給はず、ゆへに知る人罕なり。予年頃師の句集あらばやと冀しが、名利にかゝはりもやせんと深く愼み、兎角して許し給はず。漸く遺章にいたつて、日頃の望みにまかすべきよし託し置玉ひぬ。されば世にいますかりし時、人も賞しみづからもよしと思ひ給へる句は、まれ〓〓に春之部(校訂者日、季題の下の敷字は原本の丁附なり)目錄遣羽子猿曳七種歲旦子の日薺=若菜芹二淡雪春の雪雪解三削掛二若夷二梅海苔下萠三菊苗〓若艸四草蘚四鶯白魚四猫の戀四凍解五東風¥春風几巾五餘寒¥柳¥初午六彼岸涅繫會六水取春雨六木の芽七雉子雲雀七乙鳥ぞ蝶七霞八陽炎朦月八春の月八田中九耕九畑打摘艸九土筆九蕨九山葵〃若和布芦の角〓春の水〃呼子鳥九駒鳥九歸雁若鮎十蛙十蜆十蛤十田螺蜂の巢十蚕,鳥の巢十角落十種蒔藪入曲水±十核木鷄合二一二雛椿二二一草餅松の花十十小米花汐千出代十櫻±花士桃十海棠糸遊十櫻草品苗代十四吋日永十長閑麗士暖一〇春の夕十五山吹三浦公英木爪御身拭十士躑躅菫十大六藤采の花十一十六茶摘梨子の花十五十彌生山人丸忌三月盡六六行春十,〓賛士慶賀七雜春神祇釋〓二十餞別留別二十一懷舊追善二十一凡例四季の顕部類をわかつといへとも、季節の前後詳ならず。神釋等のいにしへより季となるもの題別に出す。夫も句數あらぬ物は神釋の部に入、芭蕉·素堂·馬光忌等は懷旧の部に入。年〓〓の事なれば、句は唯其一二が載るのみ。四季のうち、歲旦·歳暮は、年〓〓の春帖に出て、普く人の知る所なれば、又唯其二三を擧ぐ。明和の頃よりの句は、予書集めて置きしが、其以前寶曆の頃までは、拔萃のみ有て具ならず。又他に贈り給へる所の卽考、及び返し等の句〓〓は多く洩るゝも侍らん。紀行旧遊の唫、小記に數多あれど、大かたは此集に省く。去ども題ある句は選み加ゆるも有。文章の長きは後篇に讓りて爰に略す。たまさか前文等略し出すもあり。此事見許し給へかし。賀章·神釋·送別·留別·追善·懷舊等は、初輩の其事ニのぞんで句案の助にもやと、一〓部類をわかちぬ。假名づかひは唯見安からん事を要とす。ゆへにしいてこれを正さず。正字·俗字もまたこれに傚ふ。以上一二=四五六七八九九十十+÷十二十四〓十五+十五六一一一ー一たまさか前文等略し素丸發句一素丸發句集(春夏)一歲旦朝彥の殿ぶり〓し松の里〓〓春
亜麗綠からゆびさす人よ小松引腰を摺る瓢單かろし小松引遣り羽子やり羽子や笑ふ透間を裾へ來る遣りはごやお杉お玉が撥のさえ曳かしこきに我も移さん猿廻し猿曳や朝三暮四の腰かけ茶七種七くさや粥の名字の品さだめ七草や翌日舞ふ鶴のしら拍子なゝ種に天、國打し拳かなみどり子の土一つかみ薺かな淡雪の箸さはりな り薺粥菜庖丁に氷の音の若菜哉大津繪の道行笠や若菜摘袖濡て來るや若菜の熨斗包針程も虫さへさゝず若なかな合ィ駕籠におさる娘とわかな哉あつらへは誰人の賀ぞ若菜つみ塩魚の片荷に〓きわかなかなまつは左右に開きて通す初日哉常盤さや菜も奢らず幸ィ籠はつ空は欲なき人の鑑かな元日や此氣で居たら九千歲春なりと玉の璽のはつ日哉減れば來る年も藤太が俵哉器〓〓すたる人なし君が春春來たり星はそれともわかぬ間に人も今朝餅に正しきはじめ哉雪搔て小弓はじめや村すゞめ初空や富士を姿にかざりもの御材木藏にて万歲に頰はらせばやはしら數はつそらや德ある方に棚かすみ春たつや空に翠の磨泥鏝大慾は無慾に似たり。至誠は大愚のごとし。噓つかぬ顏にまづ照る初日哉子の日猿曳七種薺若菜芹芹つみや柳ふまへて及ごしおもひかね階子をかけて根芹哉雪あわ雪やおづ〓〓積る艸のうへ木を辷る肌のゆるみや春の雪紅梅に及ばぬ戀やはるのゆき解制札のあたりから先ヅ雪解哉鳶鴉目早き脊戶の雪解哉このうへは鷺もあぶなき雪解哉富士川や岩の逆まくゆき解水ころばして臼井峠の雪解哉削掛素麪の看板ちかし削かけ短かきは唐松の葉や削かけ芸惠比須愛敬に能〓客つるや若惠比壽梅むめの花寒さも唐紙一重哉梅さくや一ト皮むけし宵のやみ木がらしの瘦も直さず梅の花香に追れ〓〓て梅の這ける歟有明に梅は刄銕とはがねかな梅が香のもふけや下司の一寸戶名人の色香にさくや梅の花遠里やむめはき〓〓と夕ぐもり月の水硯にとらん梅の花すねた枝から色正し楳の花咲事の極め所やんめの花梅の花ぬかつた枝はなかりけり年寄て龍も齒錆や梅の花梅咲ぬ此頃のやみ凡ならず神道のまことの木なり梅の花梅のはな天下の春を磨きけり臥龍梅梅老ぬ登るに疎く臥まろび世の紅にそまぬ友たり梅の花日の影をしぼる簀海苔の雫哉うす霞ふき流れてや磯の海苔一疋のかさに欺すや封じのり取あへず海苔に書遣る一首哉さま〓〓に漂ふ海苔の裂目哉亞三五淡雪春の雪雪解削掛素丸海苔
鶯の聲ふきはれし三保にいづれ白魚や是も雪解の水澄し白魚や升に買れぬ身の〓さ白魚や反古に並べる直な文字舶やまだ行先も 驚鷗和らかな川へ〓〓と白魚哉白うをや月の中より撰出しさかづきに牽頭の放す白魚哉一ト刀ゑぐる聲ありねこの戀築山に浪は越へじと猫の戀戀猫に死ねとの鐘の雨夜哉柱にも百夜の數をねこの戀氣の付かぬ鹿に聞とや猫の戀曾根崎の邊り尋ねよ猫の戀粥杖のあまり喰せん猫の戀凍解やいつか倒れしつぐみ良凍解や入らぬ薺の下駄に付く東風寒し水にさかろふ余りより日系大書俳本下萠下もへや日のこがれ葉の菰の下下萠の爰こそ蟇の谷の戶か名聞に遣はれそめぬ菊の苗若草や風呂湯流るゝはたけ緣若草や最ふ元結のかゝる程寄若艸戀若草や髠毛よれる風の道若草や余寒を恨むよぢれもぢれ竹釘に繫合せて野老かな白髪と洗ひ落せば野老哉うぐひすやこたつの人を呼おこし鶯のはつ音に虫も目覺すかうぐひすや鳴うとすれば人とをり鶯のはつ音や笹を切手水黄鳥やたちまち冴へる二タ聲目うぐひすや日每〓〓の音の位ひ春鳥の腹合ようて初音哉鶯やけふはとゝのふ節曲白魚菊若苗艸蘚草猫の戀鶯凍解東風春風ひき立る艸の父母たり春の風絆春風や襦絆の汗を一ト拭ひ天地の釣り合ものやいかのぼり風の子の名も仇ならず几巾いかのばり乙女さびすもうなりけりしやくる時鵺の聲あり几巾梅もまだむめと分らぬ余寒哉鴉起人起るまでの余一寒哉偶案かざしたる扇子も腰に余寒哉題道中双六朝夕に二ツ餘りて余寒かな水妻く春まだ寒し北の溝鶯の里ごゝろつく餘寒哉持あきて山吹おろす餘寒哉正月を羽織にしたる 柳哉梅椿利口ばる世を柳哉人中に 千年經たる柳哉十丈の純子にさわる柳哉山かづら附け〓〓伸る柳哉よい所ばかりすぐりて柳哉老莊の堺に立て柳哉靜さは爲さずしてなす柳哉垂るゝにも背と腹のある柳哉去ながら一ト角ほしき柳哉靑柳やいかに吹ても菩薩蓑はつ午やどちらがほんの畠道初むまや蝶となる羽も小忌衣はつ午やほぐるゝ艸の一字二字初午や野末あやしく殘る雪はつ午や跡先になり行女だましよき櫻と飴に彼岸哉梅櫻かた〓〓寄らぬひがん哉足を空に鉢を飛して彼岸哉おこのりの岸に這寄るひがん哉用はみな濟んで晝寐のねはん哉テニ風鳳巾餘寒初午彼岸素丸發柳滋養師
玉〓〓五十町すぐに打けり雉子の聲柴の戶や痞のさがるきじの聲二十五弦一度に切れてきじの聲ゆりわたす雉子一ト聲や長柄川ふじ橋のまだゆれやまずきじの聲聲の幅野〓幅にしてきゞす哉己れ程に人も見ゆる歟舞ひばりうつくしき聲ふりくだるひばり哉聲に乘り〓〓終ひばりかな舞ひばりもるや日暈の破れより舞ひばりそれより上の空寒し釣鐘に入るよと見せて乙鳥哉石壇を平ラにおりる乙鳥哉つばくらの矢返り早し角ミ櫓尾、も羽根も削り立たる乙鳥哉乙鳥や漕船笑ふ最上川咲程の花にふれ行小蝶哉夕凪や牛に乘行蝶ひとつねはん會のある所みな雲深し大きさに木の下もよし涅槃像世話やきのよい頃にしてねはん哉西行のけなりがりたるねはん哉水取やはる〓〓來ぬる水の脈山眉の這ふて出たり春の雨宵やみの紫ふかしはるの雨あたらしくもの着て寐たし春の雨行わたる物とて細しはるの雨一粒も麁末に降らず春のあめ春雨やふるとも見へず木〓の露筆結ひの毛すじ通るや春の雨夜の雨にほどゐ出る木の芽哉こと〓〓く佛生見ゆる木のめ哉手廻しにもみぢぬもある木のめ哉ふでのさや一チ度にはづす木のめ哉我がちに一派〓〓の木の芽かな一聲は杉にくらべて雉子哉水春取雨雲雀こ鳥木の芽蝶雉子市中の棟から落す胡蝶哉こぼれ米拾はで〓し艸に蝶蝶〓〓よ一日に吸ふ露何斗はつ小蝶風腫ものにさわるかとさぞな蝶若紫の色ならば山かづらほごれて沖の霞かないろ〓〓の物を引出すかすみ哉跡追ふて來るとも見へず遠霞曳て行船の跡からかすみ哉歸る波裾へ這こむ霞かな半面ンの富士美しや夕がすみ陽炎や稈代畠 の一ト郭陽炎や見れば反り橋登りかねかげろふや鳥の落毛の地に付ずひとつふたつ蛙鳴より朧月木戶〓〓に札張る人や朧月僕たかと水へひてゝもおぼろづき戀せじとこりた夜もあり朧月初夜過の戶敲くは誰朧月しめるかと羽織撫けりおぼろ月須磨明石卵のうちや朧月交りはこの膚なりおぼろづき戀そめて言ぬ思ひや朧月雲と咲上に匂ふ や春の月世は若し影取しめす春の月獨りして假り初ならぬ田打哉田打日に堅牢地神寐覺けん耕や馬合点して折かへり田がやしや蹴上の泥の地藏へも畑打や二町にひとり二人づゝはたうちやいくばく起す虫の夢畑打の蟇に念佛唱へけりつみ草や初手の堤は一里跡摘草や戾りはこはき溝の水竹の子の出る所から土筆哉つみまけて返す〓〓も土筆哉三九七霞春の月田打耕陽炎畑打朧月摘艸土筆
わか鮎や笹に付れば其葉ぶり塗物に水のはしりの小あゆ哉若鮎や鳥影にさへ岩がくれ梅よりは奧ある闇や鳴かわづその腹は鳴ても減らぬ蛙かな雨の夜を笑ひ崩るゝかはづ哉せゝなきも油うく夜の蛙時一寐覺身の輕ふなる蛙哉我に向て事語れとやなく蛙己がはく泡にむせてやはつ蛙淺瀨きく生醉もあり蜆とりしゞみとる頃も靑砥が差圖哉蛤の扇子をひらく日和かな遁る時柳頰ばる田にし哉いつとなく烏芋に染る田螺哉木曾殿となりぬ深田のたにし取蜂の巢や地藏の笠を笠に着るはちの巢や親は鎧ふて口の番蕨早蕨や女神をなぶるその拳早わらびやまだ若猿の爪はづれ沖まねてたつや蕨の波がしらたばねたる屑搔よせるわらび哉濱燒にむめの匂ひや摺山葵土龍の鼻吹て居る山葵哉兩端はしゐしに裂てわかめ哉船人の十鉾にさがすわかめ哉蠣売に角組む芦の恨みかな芦の芽やゆふべ迄なき水の皺泥龜のしさゐらしさや春の水江戶川や夏へ〓〓と春のみづ覺束な田舍按摩の呼子鳥鷄合見て駒鳥のたけりけりこまどりや聲〓澄の五十町囀りの世もむづかしと歸る鴈行鴈やけふは何國の島畑ゆく鴈や我一景は捨て行若鮎系大書俳本日蛙山葵和布芦の角春の水蜆呼子鳥駒鳥蛤田螺歸鴈蜂の巢蜂の巢に三間竿の夜討かな二三日世をうつゝなき蚕かな唐の姫の肌見る蚕かな鳥の巢や塵ひとすじの工夫より鳥の巢や人はたやすき產所つの落て鹿は淋しきはじめ哉今落た角熟ぐ鹿や何ごゝろあやからせたき人もあり角落し種蒔や寶盡しのかんぶくろ種まきや此後女の手に渡しやぶ入りの腹に長もの語り哉藪入の肥りを母へ土產哉やぶ入りや罪つくりたる文ひとつ小刀も左りの利た接木かな浦嶋が明て悔しき接木哉無分別に分別有て接つぎ哉抱き留て蛙のうく や落椿目高浮く最中へ落る椿哉散るを見て咲もつら〓〓椿哉笑ふとも舌の重たきつばき哉仙人の茶うけに咲や松の花常盤には合ぬもろさや松の花まつの花さくや机に三十韻糧刻む向ふにちるや小米花小米花郞の團子のかざし哉曲水や鮎も七步の詩のはしり盃のうづ卷席やひなの前雛の酒呑んで放下の手妻哉白酒に金時わざと召れけり血しほちる木爪は物かは鷄合蠟燭の晝に寐かねるひゐな哉梨壺のむかしを今やひな祭箔を着る世も美まず紙ひゐな組あげる雛や摩耶天忉利天ひな立て錦の中に寐る夜哉つと入に見む物ならば夜の雛蚕松の花鳥の巢角落小米花曲水種蒔藪入鷄雛合接木丸素發句集椿
二ツ星春祭る名はひゐな哉花咲の莊を附たきひいな哉鳥鐘のつらさをしらぬひゐな哉くさもちや神農に似た髭の口草餅や砂糖の霜は置次第杖で撰る心長さよ汐干貝ありたけをまくつて見せる汐干哉能ものは引て取たるしほ干哉生嗅ひ香ばかり殘す汐干哉風落て命ひろいや汐干狩仲人の拾ひ物ある汐干哉出代や世に拾はるゝ哥がるた出代や面ン着てあるくあだ心出代や世をうき橋のたゝずまい出代や鴫も來ぬべき流し元出代や思はぬ戀にめぐり逢入月を綿に仕舞ふや山櫻山ひとつ鋲打にして櫻哉護國寺にて七寳の娑婆になしけりやま櫻散る櫻見て居ながらよ咲櫻山の笑ひ木に鏤てさくら哉此上に置美人なし山櫻見て居れば物いゝたげに櫻哉哥仙達舌を卷れし櫻哉山櫻盛りに山はなかりけり空を醉せ人を醉せて櫻哉拾ひけり適に出る日を初櫻うかれ立人遣り過 し遲櫻櫻狩五障の雲のは れ間哉木に歸る巫山の雲や朝櫻生醉の女幾人りやまざくら見せばやの女房つれて櫻哉名にほこる櫻ありとも山ざくら櫻さく春に夕〓はなかりけり見上れば見おろすよりも櫻哉系大書俳本日艸餅汐干出代櫻あそべとの浮世の民にさくら哉下馬札のなくばいよ〓〓櫻かな言ふ事を櫻〓しゆるさくら哉媒を仕あふせ顏の花見哉手を引て耻かしくなき花見哉ぬり樽もよはり臥たる花の蔭明星の花眼ばゆしと消にけり樽次が五ケ條出さん花の山花盛天下晴ての醉日かな名どころを娘聞かるゝ花見哉五ツ子の四ツ竹うつや桃の家菌し焚く香に曇りけん桃の花大枝に折る鄙振りやもゝの花桃さくや左りは厩右厠牡丹より牛に付なばもゝの花海棠や何所ぞに違ふ唐の紅海棠や水晶のすだれ照返し海棠や笑はんとする時を花海棠や業平竹と私語海棠や銀鼠の褥珊瑚盃糸ゆふのおだ卷にせん三輪の杉糸ゆふや天を縫にし其あまり糸ゆふや雲雀の空にからまらず糸ゆふや却つて木の芽綻ばし福壽草拔た茶碗ぞさくら草打水の七日七夜やさくら草盛り切りの飯賣郞やさくら草苗代や堆にせかるゝ水の月苗代や飽ず飢ずの水積り苗代や是にも欹器の水加減雇はれて寐た子の側に日永哉五里の道四たび物くふ日永哉永き日や命を洗ふ海と山長閑さや鯉の水切る四ツ時分長閑さや雁身重げに百羽搔長閑さや出支度すれば女客亜六、糸遊花櫻艸苗代桃日永發句集海棠長閑
鹽六二菜の花や奢りの果の賣屋敷なの花や鷄の照羽にてり交り菜の花や中に金魚の池ひとつなの花や麥四五反の及こし菜の花に紙煙草入薰りけり梨子の花血の氣なき笑ひは淋し梨子の花むき立た色に咲けりなしの花化粧ふてもほくろは拔けずなしの花人丸忌合躰の神祕は花とさくらかな人丸忌仰ぐ蛙の我らまで獨かも三人の中の人丸忌御身拭世の肌の奢り初めや御身拭ひ移り香も三世の緣ンや御身拭ひ祥躅物干に襦伴は兀てつゝじ哉文盲な築山ありてつゝぢ哉ぬり樽の売こけとまるつゝじ哉藤加賀骨の尺取虫や藤の花それが此池の深さかふぢの花麗うらゝかや歩行て見度舟の內美女ならぶどき野山の麗哉あたゝかや田に銕漿のうきあるく暖や夢の覺たる茄子室粧ひ行く人に下戶なし春のタ錢遣ひあらくなりけり春の夕月も戾る人に醉らん春のタ山吹に染飯ねだらん黃蘗派やま吹や馴合ふ影も魚と水山吹や築山廻る亭の道張つめて咲や日中のつゞみ艸たんほゝや芝生をしめる花の鋲もみ仕出す甚三が門ドや木爪の花木瓜咲ぬ折べき寸ンの透間なし古御所やいまも菫は蝶の夢順禮のへたりと居るや堇艸壺折の裾のこぼれや堇ぐさ明ぼののこぼれし露かすみれ草菜の花暖麥99山吹人丸忌蒲公英御身拭木爪躑躅董藤むらさきの降るかとばかり藤の花藤欝〓〓蛙の目かる夕ぐもり傘に附て戾るや藤のはな長ひものみじかきとても藤の花器量程聲は薰らぬ茶つみ哉手も鷹の爪に名のたつ茶つみ哉撰り取の娵とて極の茶つみ哉蒔く金に拾ふ錢あり彌生山三月や隣へ戀の懸ヶはづし鐘鳴て春行かたや海のいろかまくらの魚呼出して行春歟葛西へも鯛落ぶれて行春ぞむら雨のあわたゞしさよ暮の春〓賛之部西行に柳賛西行に名を流したる柳哉布袋の賛長閑さや玉取り得たる臍の垢藁家に鳥の諷ふ躰鴉より常盤や鷄の諷ひ初花生に梅に雀の賛雀子や犬公が手から床柱柳に野馬春駒やふり分髪の振くらべ梅に苞の賛苞の內梅花の易に占はん柳に鴉の賛靑柳に居り兼たる 鴉かな西王母の賛三千年に一度の雛や西王母唐〓虎の賛寐覺する虎の欠びや眞東風吹壽老人梅を嗅ぐ〓賛此星の香や木に分て梅の花三平二滿の賛身をつみて戀ふ人なければ、人のまた我れを戀る事なし娵入らぬ身を一ツ葉の春邊哉要六五茶摘彌生山三一行春かな集句發丸系人の
接得たり右と左りに桃櫻〓賛鐘つかぬ間をはぐらかしちる櫻柳に燕の〓賛靑柳を撫付に來る乙鳥哉猫眠蝶飛ぶ蝶を撲猫の工みや空寐入風鈴の短册に燕の戯れる〓賛短冊に己が墨たす乙鳥かな布袋の賛此袋ありてこそ世の月花も慶賀之部八十賀連翹を熨斗のかざしや八十の杖東川·陶雅兩人の万句賀とこしなへに藤山吹を二見哉漓堂觀音寺へ移轉を賀日を撰み〓〓て登るひばり哉素孝亭の稻荷の七五三繩より、籾かし鳥の賛此鳥春の囀りには能諸鳥の眞似をすと聞き侍りしかばかし鳥や聲色つかふ花の宴夷大黑對話〓賛誰が爲ぞ千金の夜の長咄し〓賛富士咲んで三千の山は顏もなし壽老人に鹿の賛馴れるのも戀せぬ內ぞ春の鹿〓賛大竹にすゞめ二羽、白く隈どりたるを忍び逢ふすゞめや竹の朧かげ布袋の指さしたる〓賛あの花にむざと開くな此常柳に牛の賛牛は柳やなぎは牛のこゝろ哉蕉翁·其角·嵐雪·三人像櫻系大書俳本日哉白く隈どりたの芽の七本出たるを賀せよと、望れて七五三繩の籾や加增の苗配り万句賀櫻さく門ドや言葉の薗生守讓德布ニ絢堂號文略送るなり雪のあやある鉢の梅野逸落髮の賀是からは無紋もよしや染柳八十賀題松腰を摩千代の根生や杖の春古稀賀寄松祝後も見ん猶七曲り若みどり八十賀行春を八重に十返れ松の笠五十七千代は空にしるや五葉の若綠東川七十賀蒔そへん心の儘に米の種望布袋の〓六十賀耳たぶに隨ふ年や千〓の秋六十賀丹羽豁如翁題寄龜祝春積ん龜甲ことに六十圖米の賀米柳さし木に白髪あやからん素孝子嫡元服賀千代かすむ額際よし男山八十八の賀米の芽や又萠返しいつ迄も仝八十島の先もはるけき霞哉素化七十の賀七十字を又三圍や小田の春咫徑·橘賀万句我門の孫枝美し桃李雜春之部人は居所を撰ぶべし。孟母の賢なるも眼のあたりに、道ばたの草は野大肚十圖我美し桃李種
多く踏にじらるゝに江戶川は玉川の末なれば鮎喰ひに我も登るや川傳ひ房州紀行の中文略蝶よりも海鹿の夢のはかなさよはる深き庭やそてつも富貴艸吉濱の白雲庵を訪ふに、主じは此頃禪旨を學ると聞傳へて浮世氣の朧すゝがんはまの浪挨拶三月廿五日、稻中庵の扉を敲きて、昔の交りを冴返らせんと物語りて遊ぶ日の杖取かはせ岨わらび有錢參底拔て語らん水のぬるむ迄舜民子に永き日を暮して、無罪起に其夜をあかすも、すぐせいかなる藤かづらのゑにし有けん行春や此下陰を一ト夜たび素舟對面世を安く木の根笹の根すみれ艸四十五年ぶりにて、中の町の櫻見しも命冥加なれば、いろ〓〓の事思ひ出すと吟じ置れしを、今我うへに觀じてよし原や花は昔の花ながら二見形文臺裏書流行と不易や松のふたみどり千住逍遙後の夜も光れ茶釜の朧影題しらず柳から巨燵へ貰ふ眠氣哉遠里の眺望竹烟り木の芽の霞犬の聲日和乞長閑さをふじに貰はん日和乞ふ眠氣哉の聲鬼越村〓泉亭素通りもならぬ軒端の乙鳥哉曾我野の眉丈亭に、一夜をたのみて山吹の簑より借らば箱枕湛露亭にてけふこゝに腹は蛙となりにけり瓢水亭にてゆかりとてめぐり久留りや藤の宿神祇釋〓之部根津〓水觀世音奉納千手にも折らぬ誓や山ざくら護國寺開帳尊うとさの御顏や玉の朧影茅野天神奉納誓にも梅を兄とや松さくら奉納咲まぜて眞名と假名とを神の梅鎌倉子安祖師奉納むつみせん海苔白魚の幾年も振枠の近月庵に、半日の閑を偷むに、利根の水はいまだ涸て、土橋の草の黃ばみ、遠里の杉の村立、げにや黄石公も待たる風情なりし水朧橋は唐繪の人通り都靜亭の扉を敲てぬるみ合ふ池の 心 や筆硯那古かまやにて海少し木の間の華や透シ塀飛び込でたすけられたる蛙哉波光亭にて汲めやくめ硯に霞む沖の色得〓庵にて念力のつゐに舞込む乙鳥哉百丸老母に初めて對面、八十八歲健也。頭巾を送るを謝して着せわたのわけ根や菊の丸頭巾箱枕水り筆硯三六
玉九八月日催生より雨のくぎりやはつ櫻上總鹿野山藥師垂れ給ふ藥の餌はや糸ざくら天滿宮奉納白梅は中にも花の聖かな房州市井原山神奉納神の氣も〓魚に凪や春の月龜戶天神奉納宰府の飛梅も今又當社の廣前に榮へてつくしから二度飛梅ぞ御約束笑天滿宮奉納天滿や香も行渡る梅月夜廿五日奉納白がちの日和や梅の大自在鯨巴、天神を信じ、廿五社を參詣せし摺物に望れて梅が香の利キ札いづれ二十五社宣明亭稻荷奉納春幾代御燈は消ず月日星西行忌霞性く富士を香爐や西行忌春雨の日やこのもしき山家集菩提樹をさくらにかへぬ西行忌彫うつす影や柳に西行忌常陸平左衞門が犬、伊勢參宮の物語りを聞きて參宮の犬を宿せん春の雨子の年閏二月妙音辨天賛妙なりや霞める花の波の音餞別留別雪中菴行脚錢別梅柳筏に組んで大井川二六庵奥羽記行錢別霞行やその末の松合歡までに謙堂俄に日光へ發足すとて來雲雀たつ足もとよりの首途哉松夫身延詣錢別星聖かなの雨川時人追悼この余寒揉み和らげる人戀し柳几追悼惜しや柳月日の鞭に折れけり竹阿追悼江戶へ植て散るや枕のやま櫻吏陸百ケ日春の雪にて句を乞ふ寒さにも果の日はかなはるの雪蒲丈娘追悼いたましや睦まじ月を別れとは行春や甲斐〓〓しくも雲の裾留別鴈行や跡の便りは筆つ花無事庵を歸るとて詞にも土筆にも盡ず春遊び留別藤に我尾も斯やとて行春ぞ宣明より使來、餞別の句あり、返事に何よりの日和貰ふて行春ぞ懷旧追善睦月初の五日妹に別れけるに、火は元の火に歸るとおもへば、愁傷いとゞしきりにさればこそ岩も驚く雪解哉大川戶百丸母追善聲悲し紫雲に歸る雁のこへ瓢水旧友追善陽炎のあへなき世也風の前發春之部終五大九
夏之部目錄更衣一時鳥鵠〓蝙蝠二牡丹二卯の花夏木立三木下闇四蝸牛橘四花柚四鰹紙帳五〓五灌佛塒鷹五茄子五短夜若楓六葉櫻六松の落葉茨の花六笋六若竹河骨七紫陽花七芥子芍藥八石竹八撫子虎耳草八紅の花八鹿の子早乙女九田植九田草取團扇十扇十競馬翡翠十螢十一蠅蜘の子±一毛虫土火取虫靱艸十眼皮二一仙翁花合歡の花十花柘檣三二百日紅靑瓢th大角豆十三川狩畫顏十二夕顏三蟬石菖十三太藺十四凌霄氷室山嘉祥山夏籠葛水山田糒山水飯掛香十五竹婦人十六籠枕簟十五帷子十五辻が花夏野二五夏山十六靑嵐〓水十六泉十七虫干夏の月七御秡十七茅輪餞別留別ナ九神祇釋〓十九懷旧追善素丸發句集水鷄三杜若四水すまし四干鰒五鶯の老五麥秋六竹の落葉七藻の花七花葵八夏菊八端午九靑田十梅雨二蚊十一百合十一忘草十二栗の花十二沖鱠十三暑山葛の花十四安居山西瓜土五拘籠十五汗拭十六薰風十七雲ノ峰七〓賛二十二鴨鳩二三若葉三四雨蛙四五靑簾五五練雲雀五麥焦六六機欄の花六七年七七苔の花七八玉卷芭蕉八八五月雨九九蚊遣九十鵜舟十十飛蟻十一十鳶尾の花十一土桐の花十±靑梅十二二士鮓十二十二蓮の花三三〓鉄仙花山西十四富士詣十四十四胡瓜土五十五十五晒土五去納涼十六十七白雨七六慶賀十八更衣花脫で山又寒し更ころも寒いかと居はつて見たり更衣朝ぼらけ大手際だつ袷哉そら錠の明く音佗しころもがえ伊達に出て戾りの寒き袷哉裾細く小鹿に似たりころもがへけふからは葛の葉なれや更衣郭公わたるや聲のすみだ川時鳥闇のかけごの薄ぐもり雨に月に相手きらはず子規時鳥一聲四百八十寺時鳥その時地には花の王時鳥なくや無疵の朝ぼらけ子規空に鷺派の笑ひ聲時鳥鳴や眞晝の空とぼけ時鳥土五十六七十八靑葉しかせ白雲かざし時鳥曙の折紙つきやほとゝぎす時鳥鳴や濁れるすゞり澤鳴くと聞く聲はゝき木や時鳥時鳥梢に鳴はちるとき歟欄に酒こぼれけりほとゝぎす不二とともに湧出た鳥歟時鳥寸ン〓〓に葉を鳴裂か行〓子瀨の出た騒ぎや夜半の行〓子傍に鳥なきごとし行〓〓子行〓子鳴くや野澤の夕ぐもり葭雀や阿字〓〓と鳴慶養寺筏士の喧嘩買らん 行ふ子鹿よりも庵の寐覺は水鷄哉金のある町はたゝかぬくゐな哉傍輩の水鷄にしたる妻戶哉まつ人を秋の夜にして水鷄哉腹立て後はせはしきくゐな哥鴨鳩ちらすべき酒なき山や閑古島鞨皷鳥此曲和する詩哥なしかんこどり鳴けや白髮の拔る程雜念を打るゝ杖かかんこどり耳ふさぐ羅漢も一人かんこ鳥大極の中にものあり閑古鳥かんこどり戀の浮身に砭す山水の眞ンに成たり閑古どり淋しさは一羽でも多しかんこ鳥蝙蝠や鎌倉どのゝ節木より蝙蝠や夜の働きは八天狗蝙蝠も蚊を吐く鳥かふる社かはほりや夜を己レが鶴が岡かはほりの羽や岩茸にあやかりしさしわたす扇子の影や白牡丹阿とひらき吁ンと荅でぼたん哉ちる迄は身も動かさず牡丹哉袖香爐しべにも持てぼたん哉更七一割鶉蝙蝠水鶏牡丹
市の塵あつく隔て若葉哉朝寐する鳥の世廣き若ば哉皀角の針も袋に若葉哉吹けば薄く止めば手厚きわかば哉名のあるもひとつくるみや夏木立七ッから窓有てなしなつ木立風の音にむかし聞ばや夏木立花は淺しと奥作る新樹かな四方からあふむく寺や夏木立樂書の祠は黑し木下やみ錫杖の折を拾ふや木下やみ休む間に髪切られけり木下闇下やみやかき消すどく僧みへずむづかしき角ふり落せ蝸牛蝸牛すゞしや家の引どころあら磯に有べき形をかたつぶり手遊びに交て置けり蝸牛釘打に登るや垣のかたつぶり〓盛の前にずつしと牡丹哉夕陽の湖水を花にぼたん哉釣臺に一輪君がほたんかな翦鞠をうけ留て居る牡丹哉奢にも日數さだめて牡丹哉卯の花や妻の網すく火の明り卯の花や姫のりうりの姥が門卯の花や川から夜るの明ぬうち卯の花や八日の垣のかづけ綿卯の花や闇に見分る山堺虚無僧の立留りけ り杜若かくてこそ朧とれけりかきつばた杜若しのゝめのうへにたゝん〓と乙鳥に鍵裂してやかきつばたこのうへの若き物なし杜若子烏のづぶと濡たる若葉哉三味線の山落つけて若ば哉山をもくれて風輕きわかば哉系大書俳本日夏木立卯の花木下闇社若蝸牛若葉水すまし雨蛙やさしさは月うつれとや水すまし唇のたゞれて白し 雨蛙鳴てしりぬ石蕗の若葉の雨蛙橘や曉の夢にもと の主たち花や昔ぶしんの太子堂印籠の壹分をちらす花柚哉小刀も小柄も譽てはな柚哉網を出て東雲消へずはつ鰹朝比奈は五本喰けん初松魚初松魚我も晝寐をはね返る夜がつほや目利は極印專右衞門いでや汐の花摺衣はつがつを走り込牡丹の家やはつ松魚ながらへて憂しと住世もはつ鰹藤澤に泊りはやめん初松魚初鰹此尾に付けばちから紙買ふ時の氣强くなりし干鰒哉斯て身の蝶に嗅るゝ干腹哉靑簾朝風の雫垂かと靑すだれ靑簾水氣をしとふはじめ哉戯れ男のさび矢射懸る紙帳哉辨慶に二タ夜と持たぬ紙帳哉淋しさに蚊屋も葎の軒の月初蚊屋や我さへ蜘のかけはづししのゝめの竹洩來るや旅の蚊や爰に又壺中の天や蚊やの月丈六に成る指さしや佛生會灌佛や蟇目の役は摩利支天活花に灌佛の水分ばやな麥の穗も指揃へけり佛生會灌佛や惡人投ん手のすさび鶯の老や切句のせはしなき春鳥の老てや低き枝ゑらみ戀るとも及ばぬ空やねり雲雀一器量たはうや鷹の塒籠り羽根ひとつ拔るを鷹の衣がヘ紙帳橘〓〓(花袖鰹灌佛鶯の老丸素集練雲雀時鷹千鰒
植かへて一屋根ふくや若かへで薄やうの紙のもめたる若かへで葉櫻葉櫻や娘もみへず破れ埃葉櫻や凡に歸る山ざくら葉櫻や長臺門の薄ぐもり松の落葉折ふしは立にも松の落葉哉竹の落葉己が子に着よとて竹の落葉哉櫻欄の花庭を掃く拾得淋し機欄の花心の臟出して見せけりしゆろの花茨の花茨さくや茶碗のかけも散まじり夜更ては火の飛塚や茨の花盜人に月夜の垣や花いばら笋笋やかき揚城の簀の子より笋はすゞめの色に生ひ立チぬ竹の子に白眼之介は留守居哉笋や鋲を打たる根の〆り笋や虫の明けたる笛の穴若竹わか竹の塩ふみ習ふあらし哉茄子茄子出て豆腐古る妻の思ひ哉文箱に供御の殘りや初茄子一ト口に喰ふは愛なしはつ茄子みじか夜や富士まで夢の屆かね短夜や箱根の腰の愈へ合ず短夜や鳥鐘の間も水車夏の夜や短かくてこそ人の爲短夜や鼠も良に引あてず人らしき髪ひとりなし麥の秋どれ〓〓も褌黑し麥の秋竹林の名もしたはしや今年麥麥搗やゑました顏の娵自慢茶筌艸爰も利休が領地哉將門古城一見の時米かみの動きや麥の穗の戰ぎ泣にかへて咽る別れや麥焦し水の無き三里繩手や麥こがしはや秋の紅粉ちよろ〓〓と若楓系大書俳本日葉櫻短夜麥秋茨の花笋寒鹿比若楓若竹若竹は割たる竹の戰ぎ哉若竹や延て身振りは後の事藻の花や一筋殘す魚の道蘋や一期は風に兎も角も萍やたちまち綴る竿の跡うき草の浮世と明て通しけり萍や夜〓〓に虫ばむ水の月河骨や水ひた〓〓と〓〆際河骨や落たきせるも側にさく河骨やすつぽんの膽を花に咲あぢさいや夜雨〓〓の染くるひ紫陽花や荒し名主の揚疊あぢさゐや余り厚さに饐る色風もいざさはり三百けしの花二日とはせいいつぱゐや芥子の花蓮よりも因果は早しけしの花蠟引てやりたきけしの盛り哉けしちるや一トへら殘る帆立貝花葵葵登る程足もとくらし花あふひ咲登る艸の雲雀やはな葵槇の雫一ト吹落てこけの花露一ッ千にも割て苔の華腹冷す宮守うつくし苔の花藥芍藥や上陽宮の蟻のみちしやくやくの花や局の氣の位ひ芍藥は純子なりけり花も葉も竹石竹や朝寐に馴るゝ奧の緣子撫子や風に逢ふてもこけやすき菊夏きくや前髪のある角力取夏菊や此下露の鉢さかな庭前菊夏菊や山路もしらぬ盜もの玉卷芭蕉何事の傳ぞ玉卷はせをの葉操り出す純子一卷ばせを哉虎耳草海老の髭に小貝咲けり虎耳艸雪の下さくや小紋の菖蒲革藻の花萍苔の花芍藥河骨石撫夏竹子菊紫陽花芥子丸素虎耳草
五月雨や本船町のあらひ桶五月雨や出られぬ老も繭ごもり五月雨や三世を經たる心もち五月雨や膝に置手を枕にも早乙女や日やけの顏を笠に着る早乙女や宵の男をふり返り早乙女や濁した名迠植そゝぎ植負て舞ひもふ早苗乙女哉戰ぐ手に矩のゆがまぬ田植哉ふしあひに伸もあやかれ田うへ唄目ざましく水活かへる田植かな嫁喰ひし口の御祓や田うへうた聲はすれど居るか居ぬかの田草取田草取る手やへら驚の觜遣ひ一錢を耳に拾ふや田艸とり御祓せん目をも靑田の浪のうへ空と分り海と分りて靑田哉波立る風ありてこそ靑田かな紅の花眉掃は白髪と老ぬ紅の花頰先に誰戯れけん紅のはな乳の汁をちよ〓〓とつけて鹿子哉白萩の花摺着たる鹿子かな山風を揉んでは捨るのぼり哉木の間からみなぎる瀧の幟哉山ひとつ軍書に見たるのぼり哉かゝさずに葺て行けり菖蒲賣八十氏の神風わたるのぼり哉使にも〓へ安さののぼり哉結納の品にそへたき粽かな折からや鶴のかざしも菖蒲の日茶を漏るゝ山まゆなれや柏餅五月雨や戀に流るゝ角力取五月雨や干鱈引裂く老の力五月雨や寐倦て蛭の延ちゞみ五月雨や風は息つく時も有燼開てこまかえらせん五月雨日系大書俳本腐9+端午日エス田植田巿政五月雨靑田蚊遺り手配りは風にまかせて蚊遣り哉眞ン中へ蛇の落たる蚊やり哉側杖の蜘へもまはる蚊やりかな鳴り渡り貝飛ぶ蜑の蚊やり哉取越して槇に霧たつ蚊遣り哉雲吐て山も夕〓のかやりかなよい程に風もる不破の蚊やり哉日の影も眞紅に殘る團かな風の出るすじ〓〓〓し奈良團繼母の口に垣する團扇哉耻かしき時にはたらく扇かな水はしる音や扇の十二間諫言を疊んで戾る扇かな手自慢の淺さしらるゝ扇かな御意うけて我風遣ふ扇哉我戀る月毛のきみ や競馬一番は燕のかちぞくらべ馬年しるや陰陽の鞭にくらべ馬梅雨入梅空や脫だり着たり眠りたり入梅晴や駕とかちとの替せ道面白き浮世のやみの鵜舟哉みづ底へ世話も屆くや鵜の箱形代をたはしに拾ふ鵜舟哉うつゝなや鵜の吐鮎のまだぬくし入相の無常過して鵜ぶね哉かんざしをよくも落さぬ翡翠哉川せみや千尋の藍もひぢたゝず川せみや曲尺ははづさぬ水の音十丈の太藺を登るほたる哉白露に魂入りて螢哉追ふて行背中に一ツ螢哉吹もどす風を身方 や螢狩打落しやゝしばし有て螢哉蠅打に起て鬼一が笑ひ哉一ツ家や蠅で塗たる酒の升から紙に蚊の茱萸一ツ捕へけり鵜舟團扇翡翠扇螢丸素集句發競馬蠅蚊
照さける宮のあつさや花柘榴水打ば妻戶にちりぬ花ざくろ敷石の勸化も久し百日紅暑き日を集てさくや百日紅思ひ出す年や實植の栗の花其實とは氣のふり合ず栗の華くりの花落ちる店や切火繩靑梅や虫に恨の 一斗程腹帶の跡やくびれて靑瓢折ふしは花鬘に結ぶさゝげ哉鬮二本出してとらるゝさゝげ哉盆に置音やさゝげの管すだれ川狩や隱居して居る相撲取活キ死も風のかゝりや夜川たつ川狩や泥龜の子をかどわかしとりあへぬ小刀すゞし沖鱠笹の葉にむかし忘れず雀鮓鮮見世の夕汐時を最中哉日系大書俳本飛蟻蜘の子毛虫火取虫百合飛蟻晴上る軒を霞める飛蟻哉蜘の子蜘の子や最ふ怖しき網細工毛虫笈摺にたがい吟味の毛虫哉火取虫明やすき夜を何事ぞ火取虫百合咲奢る艸の上見ず百合の花裂てねぢれねぢれては裂け百合の花雨の日をしたり顏なり百合の華鳶尾の花神の矢の白羽や家根の鳶尾の花蛙呑む蛇の舌ならし鳶尾の花靱艸尋行武庫の山路や靱艸眼皮行丈の意氣つまりたる眼皮哉仙翁花丹ねりて盛りも久し仙翁花忘艸咲く頃は覺て何を忘れ艸桐の花何の代の破風や朝日に桐の花桐咲くやそれがましくも尾長鳥翠簾の房うばふ夜明や桐の花ふり落す唐のかしらや合歡の花入相を葉とすれ〓〓やねむの花花石榴百日紅栗の花靑梅靑瓢大臣は靱艸眼皮仙翁花忘艸桐の花川狩沖鮓鰌合歡の花過不及の間の寐心や一夜鮓晝顏の華や日やけの石の上晝顏や瀨戶の素燒の花の色ひる兒や喉筋ばつて咲ごたへ夕がほや入相の鐘に無分別夕兒や己が瓢の色に咲夕がほや葛さらす家の表垣ゆふがほの花やはづれし何の切れ夕顏や紙に漉たき花の色いかばかり漆しぼるや蟬の聲赤松に見分られねど蟬の聲素麵の二尺垂る間や蟬の聲竪に水流るゝ杉や蟬の聲石車地にめりこむや蟬の聲用心の堅い住居のあつさ哉石垣に鼻のつかへるあつさ哉金屏に二十五菜のあつさ哉裸身に鋸屑かゝるあつさ哉いろ〓〓の物飮んで見るあつさ哉眞赤なる海道へ出るあつさ哉蟹の眼の拔出る濱のあつさ哉行廻りては打轉ぶあつさ哉そへ聟になつて一間のあつさ哉戀にせし夕暮凪てあつさ哉喰ふて寐て佛もならぬ蓮見哉咲時に水もこほさず蓮の花古柳亭を訪ふに、夕可庵の旧地その邊りに見へる斗成ければ香を傳ふ道の隣や蓮の風蓮さくや目に諸菩薩の山かづら君子には危き蓮の咲どころ此娑婆にかゝる夜明や蓮の花石菖や後家の鋏の一戰ぎ石菖や鉢に造りし十二峰凉しかれ〓〓とて太藺哉橫に降り横に吹てもふとゐ哉乳·九九晝顏タ顏蓮の花蟬集句發丸素暑石菖太藺
水飯や腹は悟つた心もち水飯やゆめの覺たる一味禪剝ぐさきに空色凉し眞桑瓜斯うむけと筋迄引て眞桑瓜市中に香の橫とふや眞桑瓜馴安きあすは檜木や籠眞桑市中は嗅ぐ鼻多く早瓜哉取あへず臂かひて見る胡瓜哉大津繪の彩色見ゆる胡瓜哉這わたる間にちぎらるゝ胡瓜哉掛香や寐覺に梅の咲たかと掛香やうつゝに如來きますかとある時は猫も入けり竹婦人寐た肌の冷たいもよし竹婦人うなされて取つて押へつ竹婦人襁褓干す晝を恨むや竹婦人(前)麁想して足喰れけり竹婦人忘れ安き耳又凉し籠まくら曲らぬは君子の池の太簡哉鐘も湯になれとさがるや凌霄花咲うちはまだ表なり葛の花鐵旋の花や雛の破れ草唐かみの引手にもあり鐵線花仙人になる氣も付ず氷室守一日の飯をたばふや氷室守だまされてまぼろしの世の氷室哉物安きむかしゆかしや嘉祥餅夏籠やほどよく 貫ふ麥袋貸本や筆やとり卷安居哉雲も風の垢離や日和の不二詣浴衣から晴る雲ありふじ詣葛水やよしのゝ雲を一茶碗くづ水や影の手にみつ夏の月葛水やまだ醉覺の裏の榮さゞれ石の丹精〓し道明寺道明寺皿鉢に冬の渚かな水飯日凌霄葛の花鐵仙花瓜氷室胡瓜嘉祥夏籠安居富士詣掛香竹婦人葛水精籠枕抱簞籠蹴飛して冷しては又抱籠哉松風のうへに臥夜や簟さゞ波に寐たる餘情やたかむしろ蚤に夢の雪折れもなし簟帷子の朱鷺の羽に透く夕日哉かたびらやさはやかに着る風一重着せて出す親の欲目や辻が花さらしても草のゆかりや辻がはな汗ぬぐゐ引れた袖の餘りかや直なる艸とて凉し奈良ざらしたはれ男も杵を媒や晒搗橫に出て來る人妻き夏野哉馬ともに人の呑るゝなつの哉たまさかな風を息とも夏野哉山〓〓や富士から雲の蚊やくばり木〓〓負ふて臥まろびけり夏の山吹く果は波と遊ぶや靑あらし葛の葉の麁想折〓〓靑あらし雨運ぶ汐先の空靑あらし船つけて晝寐には又薰る風濱を前寺をうしろやかほる風乙姫の袋やとけてかほるかぜ橘の小島が崎やかほる風國一ツ湧出る舟のすゞみ哉鵜の眞似の淺瀨に老のすゞみ哉人中を猿にも見せる凉み哉寐た形りで轉び落たる凉しさよ凉しさや一ト艫に走る山幾つすゞしさや月の光りを浴て居るきのふ出てけさ戾りけり夕凉み題大工引手から出る浪凉し〓鉋我が內に吹風置て夕すゞみ夕すゞみ厄介背負て戾りけり往來する品定せん門すゞみ合圖したやうに落合ふ凉み哉薫風帷子納凉辻が花汗晒拭夏野素丸發句集夏山靑嵐
白雨や鯉登るかと一頻り夕立や黑髪亂す山の相緣へ出門田へ出てなつの月須磨明石這わたる間や夏の月蘇生る人聲しばし夏の月水にひてゝ千度上たし夏の月みづ賣の我物顏や夏の月歸る迄心のひまな御秡哉流したと思ふをすぐに御秡哉麥飯に五臟の走り御秡哉金かしよつれなさ流せ夏はらい何べんも鵜飼の潜る茅の輪哉書賛之部松に猿猴の下りたる賛ふらこゝは人にましらの凉み哉柳に〓水西行之賛柳かげ〓水に足を活しけり丹波國永澤寺鐵聞和尙〓、杖と拂〓水岩一ツ齒の根のゆるぐ〓水哉立寄れば蛇の橫切る〓水哉吸ひ筒に入替て行しみづ哉眞シ立て〓水の中の〓水哉山路來て佛に逢し〓水哉菊の香も有たきものよ湧く泉何所ぞでは銀吹出さんわく泉虫干や今入らぬ物みな寶土用干女を入れぬ一間哉木の陰へ祖母一トむしろ土用干雲の峰糊の利たる日和かなくものみね立草臥て腹ばひぬ家根舟に爰赤キ壁や雲の峰水かけて見度もの也くものみね風のなき國から立や雲の岑夕立や打割て行松の琴夕立や行にはげみて尻しらず天地の日和を盗む夕立哉夏の月泉虫千御秡雲の峯茅の輪白雨子賛虫ぼしや悟た売の古道具猿龜に乘賛乙姫に呼れて行や夕すゞみ巢父許由賛瀧よりも一ト意地づくの友凉し文臺裏書動かぬと動くと二見くものみね二祖斷腕の賛さつぱりと片枝折ば月凉し六祖の賛碓にしらけて凉し胸の月瓜に鼠賛猫の目の關やしのびて瓜畠杜若に傘の賛傘かりた詞の橋や燕子岩に竹の賛念力の岩を通すや今年雨に時鳥の賛山を出る〓めの雨や時慶賀之部人の許へ立身を祝ひてゆたかさや門は牡丹の鞍餝誹譜は連哥より出て、狐螢改名も連哥によらずとかや。逾名も聲も築波に 習へ時鳥八十賀八の字を車につむや蝸牛茂楓改名植かへて一ト家根ふくや若楓初幟を賀して尉が代の板行久し紙幟六十一本卦返り加增ありし賀六十圖加へ積なり車百合今年の皐月、土水の二性有卦に入とかや、我も其數に祝ひ、はた五十ぢの賀を述侍る。夏桃をうけばや袖に又五十李郭親父七十賀夏桃や西王母から七車三六時鳥幟六や燕子花集句發丸素や今年竹時鳥車
受人酒新宅の賀雪月花文あり雪は嘸凉む月夜を宿の花南臺七十賀矩越ゆる七瀨幾度夕すゞみ石漱剃髮賀捨心凉し欲垢髮あ ぶら桂洲万句賀歌口の世にひゞくべし今年竹餞別留別之部竹阿九〓行脚儀別時鳥ゆけ天晴の文字赤間留別行〓〓子程聞たしや跡便り常州久下田千賀錢別道の記の料紙に咲くや白牡丹布川の人〓〓に謝す草臥ぬ駕の榮耀や蝸牛鴻の巢布袋庵にて撰り溜の袋さがさん麥の秋練戶奥州へ歸〓の賀舞戾る笠のかろさや風車布袋庵留別夏の日も馴染ば足らぬ別れ哉蓼太松嶋錢別凉しげや頭陀も月見が崎の秋挨拶咄ばや百日紅を夜にも灯し神祇釋〓之部結ばぬを神の吟味や筑摩鍋煮しめには蒲鉾もあり祇薗の會雷石を鞭うつとかやは唐土の事、吾日の本には、一言祈れば其しるしある、異石あり。打ずとも石尊サの夕立かな秋葉奉納紅葉する奇特もやがてわかば山社中の誰かれ、天滿宮社頭へ額を捧奉るを壽てや風車捨ら赤間蝸牛かけて待惠みの露やわか葉陰水戶城下觀音奉納鳥も巢立つ大悲の陰や夏木立不動尊奉納暑さ凉しさ心の色や兩童子湯嶋天神奉納夜學にも初いなづまや神惠み坂東札所四番、立崎村龍藏寺古木櫻凉めとの千手の枝やさくらかげ下總法花寺日蓮奉納世に薰る衣の玉の靑柚かな新田大明神奉納凉しさや利生は早き箭の如し十奇大明神奉納むき立て瓜一トかしら靑幣懷舊追善馬光老師七囘忌道凉しけふ七度の苔の六月廿五日吏登齋遠行之由文通有蟬も聞け鳴く音に煮へる我泪關了追善糸切れて裳ぬけの蚊やや無東西馬光老師十三囘忌橘や肱に摺たる卓の跡朝霞子亡父追善岩鼻も〓水にすゝる泪かな最愛の子におくれて、萬事忙然たる夢内にも其佛は卯の花にそれかと余所の子の笑ひ雪丸追悼、五月四日なればはかなさは葺かで枯たる菖蒲哉喪俳友合浦の朶雲、老母の裳に籠れるを哀さに兒も見上ず百合の花上總海龍寺臥雪追善さつぱりと五薀崩るゝ牡丹かな老彌一周忌前略橘る卓の跡の苔の華テ六五
發丸素初素丸發句集夏之部終觀ずれば松答へけり馬光の會松かげの深し硯の磯の波墨直す蠅や硯の行もどり今も見るや浮葉卷葉の繪讃數泥の山仰ぐなり夏木泥山子の別号にもとづきて墓にけふそゝぐは元の〓水哉光忌を執行して先例之ごとく、谷の戶や雲ふり向ば十七里ゝげて、法莚の靈前に初めて、燈にもとおもひ寄侍りぬ。松一もとをも植そへて、れば、古連の同士とともに、墓所に今年は老師十七周忌にめぐり來た笋や此人にして折るゝいさゝかなる竹の垣を結びかこひ、今年、憧旧の余情を述桃靑守に馬雜の句をさけふや貧女の一立事散ー七タ柳葉穐まだ宵の世は曠がまし天の川夕月のさしかけ傘や女七夕かつら向入らぬ時とやちる柳しだり尾の木も鳥屋時かちる柳とり納むものゝはじめに一葉哉正直の梢は今朝のひと葉哉分別を切て投出す一葉哉はつ秋やゆふべはいづれ錢の裏水からや立けん今朝の秋の風初秋や木陰〓〓の風の味秋立や起て箒のさへごゝろあさ兒のもの言はぬばかり今朝の秋葭垣に宵の團扇や今朝の秋秋たつや沖行雲のそゞろなる秋立や池から風も澄で來る(秋冬)追善雜秋夜寒秋茄子鴫待宵瓢櫻紅葉長夜鳴子蕃椒芭蕉夜蛤初鮭尾花相撲葡萄蟷螂渡鳥生身魂犬菊桔梗秋風初秋三日月稻の花種之部舜秋殘風暑葛ならぬ裏や八日の天の川野は艸の心〓〓や星まつり手操よる蔓や願の草の葛水の百箇の池や錫茶わん三布よりも芭蕉葉かさん星の床寐よかれと世を冷しけり天の川船は夜に數〓〓殘るあつさ哉朝夕をちゞめて晝の殘暑哉駿河丁本丁ながき殘暑哉盡せぬは空を鏡起ごゝろかろく成けり秋の風黍の葉のさゝら摺る也秋の風秋風や一ト桶打つたしめりよりあさ兒や蔓に齡ひは持ながら朝皃や晝は袋のロかゞり蕣や松と竹とにからみても朝皃のいたまぬ霧の如雨露哉朝がほやあしたの事はいふなとてや星の床三六七糸廾十二五五五三三出〓十三十二二十十九九八七六六五五三三二四四一肌寒木の實茸狩末枯柿螽錢別留別鹿野菊初月霧木綿取鱚釣蛩薄雁秋の山萩蕣粟穗梟名月蓑虫木槿一葉目錄錄大六十二十五柘榴十四土田三三十三十十十十九八七六五五0円四三三二慶賀秋の雨新酒松茸花野蕎麥の花柚紅葉菊露鮠釣鶉茜堀散柳初汐十六夜稻妻秋の空糸瓜木兎蟑靈祭芙蓉踊ナ九夫五五二五出十一十三三±十十十九八八七六五五四四四三三〓賛露時雨栗冬瓜澁鮎梅嫌鷄頭後の月置扇新蕎麥胡桃紅葉鮒鳩吹落水初嵐花火新米葱草燈籠秋海棠七夕駒曳虫秋の蝶蘭九十六土五十五出〓±三±十十一起雞十九九八七六五五m四四三ニ一葎指鯖神祇釋〓二十行秋柚味噌南瓜鵙蜻蛉秋の蟬曼珠沙花殘暑木犀梅紅葉碪秋の夕案山子小鰯鳥竹の春放生會野分八朔西瓜女郞花六土五十五〓十七十三三±±十十九六五五五四四三三
蘭の香や爰第一の山の裾月夜程わらひは白し女郞花袖にふる葉さへすげなしおみなへし二重ふく風にすねるや女郞花吹しほる腰の細さよおんなへしわけまよふ荵もあるを女郞華咲中に家中めかしき桔梗哉しら萩に雨の寒さのうるみけり白はぎやあつめて露の花盛露ともにかぶつていたし萩の花月をよぶ式部に似たり萩の花脛見せぬたしなみ深しはぎの花つよからぬ蹴出しや萩の一戰ぎ間違ふて犬の出けり萩の花欄干にちかくかしづく芙蓉哉芙蓉さく日とや曇りもつよからず皆に四十ぢの皺のふよふ哉あま肌に風のしみるや秋海棠ひや〓〓と朝皃水に咲にけりあさ顏に水鷄ありたき朝寐哉雪芙蓉あさがほやきのふの湯女は古さるゝ蕣の人を見はづす人若しあさ皃や私の影あたへても蕣や酒を酌みたき花の形たち並び花野の伊達の踊哉振り落す髭をもしらぬ踊哉なびく手もくねる手も有踊哉奥の手の岩戶を出るや伊勢踊帶むすびやる人にくき踊かな蘭の香や何丸どのゝ學文所浪花の世交公の許より、寒製の玄雲ふたつ給はりしを拜謝し奉りて蘭の香にけおされて筆のおよぎ覺篁の手をかけものや蘭のはな蘭の香や夜はやま姫の臥し處女郞花桔萩梗踊蘭芙蓉我無限定針で血を絞りて見たし秋海棠曼珠沙花捨曲突の春やむかしにまんじゆ沙花曼珠沙花狐の嫁入に灯しけり丈菊丈菊や日におひまけぬ花の首丈菊の花や淵明がさかな鉢木槿咲捨て翌の慾なき木槿哉あさ兒を笑ふ間に暮る木槿哉けふは又けふの工夫の木槿哉一日は木の意地でもつ木槿哉靈祭靈まつり奧齒に物の淋しさよ靈棚やおもゐ艸また忘れ草たま祭三夕暮をはじめけり靈棚や細工過たる苧から垣夕暮の人しづまりぬ靈まつり燈籠裏見せる風に裏なきとふろ哉千種みな夜花咲てとうろ哉くり言のまぎれ種とや花燈籠指鯖さし鯖や庖丁さびる越の塩生身魂蓑虫紛らはし佛のまへの生身魂みの虫の音や子なりけり鹿よりもみの虫や乙ははゝその森に啼蝉や髭より聲の細く寒しこまかへる艸の遊びや秋のてふ女郞花にや染りけん秋の蝶世のほどもしらで誇るや秋の蟬行秋の杉につく〓〓はうし哉空に聞流れや鳥の渡る音其中に四十五十も 小鳥哉下り所の得報果報やわたり鳥椋鳥の羽音や松の風二タ重着かへても摸樣は同じ渡りどり梟や渡り初めは頭陀ぶくろ耳づくの無一物なる晝寐哉明がたは霧と登るや虫の聲夜は野のあゆみ來るかと虫の聲艸のうへ風の下なりむしの聲丈菊蜂秋の蝶木槿秋の蟬源·あ靈祭梟木虫素丸發句集燈籠兎指鯖
己が欲に腰を折らるゝ粟穗哉そめ色の山の麓や茜ほり美しき石拾ひけり茜ほり粉に成りし骨肥らせん今年米一鉢も釋迦も微笑や今年米小たゝきに色を問よる西瓜哉窓明て膓覗くすゐくわ哉小笠原出して喰れぬ西瓜哉愛敬の色なる波や棚ぶどう夜〓〓月の雫や凝て蔓ぶどう欠びする時か雲はく秋のやま笑はぬも一位けだかし秋の山分別の居りにけりな秋の山氣儘さよ其日〓〓のあきの空年寄の隣りをそしる花火哉身の秋を穗に出て見たる花火哉下陰の吹雪はこわき花火かな八朔や御製の露の置所斯あれば武藏野狹し虫の聲虫の音や笛と太、皷のない斗りとんぼうや急に干上し羽の皺とんぼうやなめて紅葉ぬ木〓の澁艸に倦て大地にひらむ蜻蛉哉蟷螂や何を敵に斧二挺蟷螂や追れて向ふ捨車一群に羽に霧立ていなご哉相たがい穗で穗を拂ふ螽哉行秋に五臟の見ゆる糸瓜哉編出しもあみとめもなき糸瓜哉遠〓もとの厩を荵ぶくさそく聖寐ぬ火もれたり八重葎何神の見出し初めけん稻の花寐て見るは勿躰なしやいねの花万倍の露で返すやいねの花まめやかに一粒づゝや稻のはな杵遣ふそよぎもありて粟穗哉〓堀蜻蛉新米蟷螂西瓜螽葡萄糸瓜秋の山艸葎怒の氏秋の空花火粟穗八朔いなづまや仕かけする間は余程づゝ稻妻は呃りの出る間かな丹波路へ伯母の戾りやはつ嵐照りつめた其返報や初あらし起て居る艸は何〓〓はつ嵐秋となる臍のかためや初あらしいましめの杖や草木にはつ嵐一むかし見たる野分のあした哉古家を隣にもつて野分哉晴嵐の漁村なくなす野分哉宵月や松はあしたの居へ所まつ宵やあしたの事は秋の空待宵や友にも盞ンの品さだめ風も波をなだめしもふてけふの月名月や一しきり夜の明るかと葉落てもさくら定んけふの月猿江の猿池といふは古跡なるを、しる人もまれ〓〓成りしが、此秋手枕の作りとり有田面の日八朔や狀のしめりの靑俵八朔や鶉も腹のはつた聲繪行器の往來の富や今年藁一ト拍子ぬけて笑ひの相撲哉負た時にも地の震ふ角力哉撫上て猛き腹なり角力取棹に成り筏に組んで渡る鴈はつ鴈や雲に水氣の滿た朝初鴈や空にしらるゝ秋の道ばつ鴈やそはついて田に片付ず雁來るや袷かさねの濕の雲初鴈や小袿通す雨後の風はつ雁に帆をくるみ寐の夜明哉いなづまや寐鳥を卷てとらんとす稻づまや寶藏の戶の開くかといなづまや〓て見せる九折稻妻に休めと雲の消へにけり初嵐相撰雁野分待宵名月素丸稻妻
小溝まで水鯉し月今宵猿が餅かへて入日やけふの月名月や日を汲こぼす水車いざよいや前彈濟で雲を出る十六夜や雲も一夜の老の皺駒引や髮もおどろの艸いきれ駒引や尻を怖がる岩傳ひ放生會子どもにいとま放しけり山崎の翌日は穗拾へ放生會風の道しるや尾花の片ひづみ里へ〓〓と吹向ふ尾花かな沖の日に手をかざしたる尾花哉風を取迯した形りの尾花哉月乘せる撓み忘れぬすゝき哉はつ汐や月もあふるゝ三保が崎はつ汐や蟹ののさばる畑の中初汐や飛れぬ老を孝行ぶり鷺に鼻明せて淋し落し水は聞すまして、今宵四五輩と杖を曳て名月や池にもひとつ月の面ン新奇を好む人をいましむ新らしき道からも出ねどけふの月入る迄は人にあづけて月今宵名月や夜更は水に居る心名月やわが國ぶりのすゝきうり影は瀧と流れあふれてけふの月名月や水の中なる哥舞の聲名月やさがし當たる船鮮花よりは歩行かで濱の月見哉名月や更ても色はうつろはず雲がくれせし人算ふ月見哉名月の眞ン中なれや〓見寺名月や奪ひ返して芳野山富士少しよけて通すやけふの月月見せん一陶有すみだ川今宵四五輩と杖を系大書俳本日十六夜駒曳旅工藝尾花薄初汐落し水鳩吹やおのが頰骨吹細め啄木鳥や釘に當つて恨顏きつゝきや胡桃も榧も有ものを啄木鳥や常より妻き貴船山初鮭の荷や銀さびの夜明ごろはつさけや松魚仕かへす川の意地はつ鮭や淀まぬ旅の松戶馬鱚釣やひねたる形の行もどり鮠釣や芦分て三人ふたりづゝ紅葉鮒瀨田の夕日の染にけん小いわしや金もる網の夕日影張笠の音きく雨の芭蕉哉しいし目の狹さに裂るばせを哉窓に吹風も防がずばせを哉其儘に額に懸たき芭蕉哉今朝見れば長柄の橋や破ばせを三日月もさはらば落ん熟柿哉澁柿を鳴呼と烏も歎じけり野九五落し水是も半季のいとま哉野分から骨は堅めて竹の春紅葉する木にたてあふや竹の春虎の日の晴るきほひや竹の春仕切場の妻待受や夜はまぐり泥町の未だ寐ぬ聲や夜蛤手品にも升の滿干や夜はまぐり夜着出した跡に笑ふやきり〓〓す蟋蟀我も木賃の裾寒し鳴止むは夢つゞる間やきり〓〓す酒藏に居ても寒いか葢かくれたり般若の櫃にきり〓〓すその聲も尻の切たる鶉かな粟の穗も震ふうづらの高音哉海よりは心のさえや朝うづら喰過て聲立かねるうづらかな梶原が公事聞聲のうづら哉鳩吹や是からものゝ枯るゝ聲〓竹の春初鮭夜蛤鱚釣鮠釣紅葉鮒小鰯芭蕉蛩鶉素丸發句集柿鳩吹
辛苦する其形代の案山子哉腹立た時手のさへる鳴子哉いたづらも夫としらるゝなるこ哉朝寐する聟へもあたる鳴子哉宇治川や夜を打碎く霧の波影行かいや幻か霧の人薄くもる山〓〓澁し朝の霧急がしや登るにせかれ落る露白露や刄をわたる葉のしなひ取ためて鏡磨かん艸の露起〓〓や蚊やにくるまる置扇秋の雲起つてからを置あふぎ書〓すでに屏風と成ぬ捨扇溜め息の石も徹すや秋の暮かんこ鳥鳴物ならば秋のくれ春奢りたるこらしめや秋の夕何となく人うつむくや秋のタ目をわたる曇りかぞへて秋の夕系大書俳本澁がきや大の男の杵の音柚切口もいさ白きくや柚の薰り胡桃山がらの思ひくだくや姫くるみ穗蓼藍の花よりはしこさや蓼の花飼家猪の鼻吹音や蓼の花蕃椒辛ひには天井もなし唐がらし金平を泣せた種に唐がらし美しい色で怖ろし唐がらし木綿取とんぼうにそれる手も有木棉取蕎麥の花己が雪にさらし上てやそばの花新蕎麥新そばや行水疊む重の內しんそばや刻む田每のさゞれなみ新そばや看板ばかり月の色しんそばや遁さぬ膳に落し水かゞし作る家も雨月の謠かな捨たるもの捨たらぬ御代のかゞし哉吹折て今朝は背むしのかゞし哉いなづまの矢面にたつ案山子哉柚胡穗鳴子桃蓼霧蕃椒露置扇秋の夕釜山十秋暮有幽情と言一句を得て、だ足らればなきやうで何かものあり秋の夕世に喩ふべきもの更になし秋の夕有時はあふぎに乘せて三ケの月初月や影まだしまぬ地のくもり當世の隱者咲けり菊のはなさかづきを鎔に咲やきくの花九日とは程しるきくの齡ひ哉浮た事しらぬふり也きくの花きくの花奈良の古風の殘りけりさま〓〓の名も人柄や菊の花又類ひ一荷の菊の小口かな其相のおもふくら也きくの花單過袷過けふの菊の八重湖の水居りけり後の月名月の后やきくに後の月部分十鵙の音に削り減らして十三夜世の空のつましくなりぬ後の月見くらべん今宵を須磨に十三夜女郞花ふけたり後のかつら影膝に猫火桶に替ん後の月雲かゝる見上の皺や十三夜醉ふてから障子を明ん後の月夜をかさね月を打かく砧哉折〓〓は鳴子にからむきぬた哉一夜づゝ梢をからすきぬた哉松風のあらく聞ゆる砧哉紙を打ゆふべは淺し小夜砧假りそめも都を向て砧哉永き夜や覺れば男ほしうなるかなしくもおかしくもなる夜永哉灯火に算盤あてる夜永哉市女笠着て行人に野菊哉寐たければ寐て咲たけりや野菊哉鉢の子の米に生たる野ぎく哉三日月初月菊磁長き夜素丸發後の月野菊
花野遠く見る所を命のはな野哉行ぬけて山から見れば花野哉朝夕は雲にうつろふ花野哉二三尺上にのみある花野かないづれ皆神代の染や艸の花鷄頭やいつをさかりの日勘定織姫のお召おろし歟葉鷄頭鷄頭はみな伊勢方の出立哉鷄頭や扇子の形りはまだ捨ず百日の行とて强し鷄頭花櫻より酢の過たりや梅紅葉秋とても唯居ぬさくら紅葉哉うら枯や隈〓〓の水澄かへり末枯や靑き畑は十分一うらがれや段〓〓人の吝くなる似る雲のいたづらもなし山もみぢはつ紅葉遠山松の透間かな又伊達にとぼけて返る紅葉哉花よりは人そはつかぬもみぢ哉其山の茜を吸ふて紅葉哉鵯の目も未だ枯れず梅嫌紅葉せぬ葉とすれ〓〓や梅嫌木犀や降神香を吹ちらし淋しさに頰ふくらして瓢哉ある人の尻のうわさや種ふくべ何になる果とて長きふくべ哉腹形りは子〓孫〓〓のふくべ哉所〓〓灸の跡あるふくべ哉飛車に行桂馬に飛や茸がり枯た葉に費な手あり菌がり松にすがり片手さがりに木の子哉拍子よくころんだ手にも木の子哉茸狩や引まくり行山の裾まつ茸や傘に受たる松の露松だけやむぐら持上る土加減さび鮎や今は紙衣にもまれ行梅嫌木瓢犀鷄頭梅紅葉櫻紅葉末枯茸狩紅葉松茸澁鮎鮎も染れ草の葉のさび水の澁さび鮎や早瀨に負る取廻し尾の反を聲にも打や鵙の聲今朝はまだ木〓角ド立ぬ伯勞の聲ずん切の聲朝寒し竹の鵙鵙なくや笑ひけうとき小傾城何おもふ田水の月に鴫ひとり淋しいと走りて見るや鴫ひとつ鳴たつや淋しと蟹も眼を拭ひ行秋にすがれて細し鹿の聲曉は胸もさけよと鹿の聲はら卷を徹して悲し鹿の聲酒一升呑んで聞てもしかの聲鹿鳴や葛のうら吹夕〓より琵琶とても調べ及ばじ鹿の聲鹿聞て行燈急にかすかなり谷へ渡す心の橋やしかの聲思ふ程屈かぬものか鹿の聲新酒夕暮を味かたに出たる新酒哉末とげぬ人にたとへて新酒哉神奈川へ持たぬ戶塚の新酒哉よい程に我霜置て冬瓜哉ころげじと裾廣がりに南瓜哉何ねたむ槃若の口や秋茄子七かます市へ一木の木の實哉童Kのよい錢拾ふ木の實哉折る兒に吹かけ顏の柘榴哉落栗や鬼の口からあまりものおちぐりや更る庇に狐かといが栗のさし出す竿に怒り哉どの祖師の工夫に出來て柚味噌哉所化寮の二日一釜柚みそかな傳法の加味も廬山の柚味噌哉色〓〓の具合の違ふ夜寒哉苅上た田から初る夜寒哉痒き虫の紛れもなくて夜寒哉鵙冬瓜南瓜其中十木の實鴫柘栗榴鹿柚味噌夜寒
肌寒肌寒や縞に月洩る板びさしはだ寒や日の落かゝる山の風肌寒や霧雨暮る馬の上柿樒柑醉ふて浮世は肌寒し寐そこなふ醬油も佗し秋の雨火鉢抱て身を片付ぬ秋の雨椎樫に庵も壺中や秋のあめ酒呑ぬ家に倦れつあきの雨東雲や八十坊の露しぐれ鳥立て魚おどろくや露時雨南天の實に鵯や九月盡胡蘿蔔に紅葉とられて行秋歟蔓ものゝ裾をからげて行秋ぞ居風呂の口切そめつ暮の秋さもと見る鴫さへ秋の行衞哉持て來た淋しさに倦て行秋數閑居の秋初汐の敲ては行折戶かな素風假庵にて堀入て奧ある月の住居哉病中の吟姿合一册あり簑虫や粥焚くほどは樵もせず楚茗ヘ挨拶つゞりため聞ばや今宵きり〓〓す推敲菴の額裏書おし敲く心察せよ小夜きぬだ素川亭へ招るゝは文月五日、七夕も近ければむかはれて竪に漕來ぬ天の川曇華齋の會にまかりしに、おもわずも杖か惠まれ侍りしに、卽興に謝すのみ千里遊ぶ腰押す杖や竹の秋房州旅行延引之時、日和乞神風に吹破りたまへ秋の風かな秋の雨露時雨行秋雜秋之部此琵琶は弦は四ツありて糸卷一ツなり。いかさまにも壽永の亂に紛失しけん古びかなゆかしきかなや經政の調べしまゝか松の秋胡麻売や矢筈にはいでいかめしき戶ヶ崎八景之内常樂寺秋の月傾惱凡煩の胸澄月や常樂寺大山八景之內鎌倉夕照大鉢に盛る夕照や秋かつほ幡ヶ谷不動の邊りにて染はやき爰に紅葉の葉月哉高尾山霧深し今朝迄夢も七曲り高尾山天狗櫻の句を乞れておそろしき山や櫻の霧くもり琵琶の瀧の句を乞れて木兎の觀じて聞や琵琶の瀧甲信記行之內富士しらね献立そろふ月見哉同大木の柳ある所にて柳陰しばしあふぎも忘れ川同音取川にて瀨〓〓つよし夜更は虫の音取川同笛吹キ川にて小男鹿の笛吹川や幾めぐり同稻中庵門下の二橋子に始て對してからみ合ふ枝のゆかりや道の萩正法寺に一夜が明すに、翁の庭掃て出ばやと申されしを思ひ出て掃殘し拾はん寺の栗の毬甲斐の山〓〓目前に橫ぼりふせれば山〓〓や童のむきしつくねいも〓化石にてとんぼうや立かねて居る〓化石穗屋大明神の神前、石垣の上にはせを翁の牌あり。雪ちるや穗屋の薄の句有傾凡寺丸素集句發テ九九
に止めて、是非に一夜の宿をなんなどいへるに、唐柏に泊りて行杖をからみとられぬ蔦もみぢ箱根路途中の吟岩からむ杖もぬきたや箱根越記行之內汗ながら休めばさすが秋の風眺望瓢程に江の嶋黑し垣のうへ名月の影のあまりか二重瀧素眠より鰹を送鹿に痩し腹若やぐや秋かつほ山叟主人の前裁なる落栗を拾ひて拾ひぐり子を思ふ猿の土產哉奥戶觀月庵にて硯にも救世あまねし芋の露同室戶空文臺辭文略又類ひ月に一トはけ杢目雲出水をのがれて要津寺に宿す。爰我とても穗屋のいなごぞ飛めぐり信州上諏訪朱雀亭菊と酒の香をしたい來ぬやつれ蝶曾良の後裔李郭の許にて、翁の眞跡餘多一見して藥艸の根の薰りしる花野哉祖翁北國行脚の日記を見てこの日記や嚙でくゝめし筆の露素鳳と云名を送るとて俳諧に鳳凰となれ葉鷄頭唐澤法國山阿彌陀寺にて湖水眼下に見ゆれば唐澤や爰洞庭の秋日和湖水眺望美しや湖水の嘆る秋のなぎ甲相記行の中物淋し木の子と替る星かぶと唐柏盛來亭へ着、今日は歸路に赴んとするに、盛來の主人ひたすら頭秋日和にも水押上て、庭の面渺〓たり。此庭に富士をまねかん秋の水餞別留別千亮餞別追〓〓に問ばや鴈の跡たより日夜庵歸〓錢別彩色はすとも忘るなきくの寂三〓五雷古〓へ歸るを送るわすれずば八ツ橋わたせ鴈の文甲州記行之內素英留別待たまへ土產に不二と十三夜朱雀主人此ほど淺からぬ饗應、つと〓〓心を添られし事ども、更につくしがたく、わらんじはきながら禮言はゞ湖の水あきのくも素柏素鳳主人え假着にも名殘はつきじ菊の露甲相記行之中素明亭着て行や厚き情をきくの笠大山の人〓に別るゝとて身にしむや我さへ雲の山わかれ田村の人〓に別るゝとて老て行鮎の名殘や田村川房總記行之中留別恩は濱の眞砂に盡じ歸る鴈慶賀之部古稀の賀德布父は三河なれば七戾り八ツ橋越ヘん黎杖養子を得られし人を賀して實入さぞ繼木の柿の榮へ哉初て彥娘をまふけ侍りて珍らしの彥ほゝ嘆や菊の千代蓮花院八十賀幾八重もからみ留めばや蔦紅葉天元聖寳の古錢を拾ひし人に賀をなんて一錢も千箱の秋や鼠算〓賛之部田村川素丸一鼠算方〇二
二見賛陰陽の二見や神の浦の秋不二賛置綿の雪見る不二の九日哉沖の旭に帆掛船夢想〓賛寄せ來るや諸國の秋の寶船〓賛瓢から出た歟野菊の花の寂葡萄賛とんぼうの目にくらべたるぶどう哉紅葉を焚仕丁酒を呑賛餘念なや顏も紅葉の御傘持山水の賛哥よりは詩に瘦たりな秋の山茲兒童賛倭漢の書に、此童子の事見へず。ばせをの精、女と現ぜしに託して、何人か菊の精作り出しけん。菊の兒狩野家の手より育けん案山子に鳥〓賛君が代は鳥驚かぬかゝし哉月に雁芦の賛初雁や塒見立る江の月夜芋莖の賛葉に延て根に心なきずいき哉俵に打出小槌舟まつや打出の濱の年貢俵伏羲の像伏して小田の雁に八卦の工夫哉北祿神玉を持賛壽の玉得し菊の荅かな獅子の子投の賛薯蕷のむか子をためす岩根哉虎の子渡し賛工夫して虎の子わたす秋の水布袋蹴鞠賛指さゝぬ月や蹴上の秋の夕唐子團扇の賛壽な團扇に撰蝶もなし秋の夕狸の腹皷打賛秋ゆたか狸のつゞみ聞夜哉芙蓉の賛流しめも玉光る君か木芙蓉芭蕉翁賛稻妻や仰げば高き道ひとつ鴫立澤に西行〓賛鴫よりはうしろ姿ぞ秋のくれ座頭ひとり、木はしをわたる賛きり〓〓す這ふや嵐の丸木橋猫·狸·狐·の踊〓賛佛氏の方便も老莊の皷舞も、世に人をあやなす噓ながら、そのうそも早古しとよしや世を化して廣し己が秋(福祿)北錄壽月に書を讀賛世を惠む靈苻讀らん月の前名主の賛名に富ムや百挺鍬も軒の月柳に牛の賛心合ふ遊びは牛と柳かな猩〓の賛紅葉する慾のはじめや小盃寒山の〓賛栗ひとつ拾はで淋し竹箒布袋袋を負ふたる〓賛秋とめりせなと腹とに二タ袋瓶に菊の賛水かめにおくや小ぎくの活殘し鳩の賛親待や二タ枝よけて秋の夕神祇釋教之部牛御前奉納澄ばこそ神慮も月の綾瀨川奈良輪山田村明神奉納汲めやくめ神やどります菊の露牛御前奉納かな方の三
秋配る惠みや神の牛ぐるま金町香取大明神奉納世に惠むかほりや菊の星兜新川大神宮奉納楫かざし俳優舞ん御迂宮篠塚稻荷奉納月高く帆柱揚て宮うつし諏訪上社へ參詣捜し出して鵙の早贄備へばや佐久野神社奉納あらがねの芋も氏子や此惠み追善之部默齋先生十三囘忌文略思ひ出す恩よ淚よ露のかず鬼丸ゆかりの人追善黄金の肌に返るや女郞花琴長歸人一周忌めぐり來る目尻の露や花芙蓉宗瑞七周忌友戀し月うつむく事七度蛙水一周忌菊月や莟む泪の一トめぐり甲の琳鯉追善秋つれなしなど此人をさそひ行蓼太三周忌くりかへしいとゞ鳴なり三部經民志息利名追善盛りすてゝ行人はかな菊の水伊豆素健父追善手をあてし柿も梢をわかれ哉美食水果雁もけふ初音の松や素堂の忌蓑虫の辭やけふの 千部經此翁下谷に月を見果けり良夜絢堂の會にまかりて、國際賽事著まか十五夜を熟覽するに、其日は素堂叟の忌日なれば素堂忌の夜話に德あり摩訶月見感應寺深川の月それながら秋之部終度素丸發句集冬之部初冬神送落葉麥蒔枯芦紙室茶の花咲衣火火燵鉢冬至生海鼠臘氷柱八乾鮭寒晒げよら歲暮追善懷旧初冬冬たつやはやくも霜の髭鏡初冬やしらぎく恨み葱白し濡がみに日は包まれて時雨けりこちからは琵琶であつかふ時雨哉雲折〓〓溜めてはこぼすしぐれ哉時雨十哥仙の內八景を能はあしろふしぐれ哉麓より遠く遊ばぬしぐれかな山を出て船に曳るゝ時雨かな賺時雨るゝや日をだましたり透したり一ト時雨翌をたはふや嶺の松けふ斗水に綾ありはつ時雨皺ひとつけふはまふけぬ初しぐれ樫の葉の髭こぼるゝやはつ時雨海山に一ト錆浮きてしぐれ哉旭にもいざよふはあり片しぐれ方の里目錄時雨冬の雨ニ神の留守二炉開三達摩忌三十夜三大根引四干菜四枯尾花四水仙〓山茶花五枇杷の花六鷦鴒六鶺鴒六綿子六頭巾七七冬籠火桶七七葱冬の月八髮置八水鳥九石花九鮟鱇九暖鳥九神樂十寒梅中國政十鰒十氷七二二二餅搗鉢敲十二二年忘寒念佛±〓賛±三慶賀十五凩二埋火三御命講四枯野四石落の花五枯柳六笹啼六紙衾七八霜納豆八鴛鴦九霰九吹革察十寒菊二寒聲+一二二寳船煤掃出雜冬二小春二ニ口切二三.夷講三四冬木立四五歸花玉五冬牡丹五六寒六七炭竈七七八冬至梅蕎麥湯七八八千鳥九九霙九十雪十十藥喰十二寒稽古十一十二二二節分雨季だ三二十二十四神祇釋〓十四時雨
貢たきものや小春の日向ほこいつとなく夕日の黄ばむ小はる哉送伸上る松や葉守の神送り手をかざす猿や梢に神送り飛ぶ木の葉いづこいかなる神送り神の留守腹淋し財布の中も神の留守爐開爐開や牛には早き宇治の狀爐びらきや隱居の金の動く時爐開や障子を張れば椽古く爐びらきや半切紙も幾通り爐開やあぶりこに餅試みる埋火うづみ火やかき起す手にうつゝなき埋火やうもれ木灰に花さかせうづみ火や足に小春の日向ぼこ切口切や濁らぬ水の友ゑらみ落葉花や實の榮耀も終に落葉哉掃立た都に麁朶のおちば哉氣のつかぬ夕凪をそと落葉哉兩の手をはたいて見せる落葉哉いろ〓〓に人をくるはす時雨哉岫を出てから心ありむら時雨萩分て來る音細し小夜時雨山折〓〓物の怪付てしぐれかな私のしぐれは憎し箱根山妹脊山何を不足に時雨けん行戾り紙衣ですみぬはつ時雨さむいやらつぶ〓〓重し冬の雨ある夜半は腹にもわけて冬の雨何とやら黑み付けりふゆのあめ木がらしにいよ〓〓杉の尖りけりこがらしや吹廣げては仕舞かね凩のはたらき所や水ぐるまこがらしや富士をめぐりて水の上凩や日の入空のけば〓〓し木がらしや馬上に赤き使者の顏礒家堀る鴉の聲や小六月此日より鶴も拾ふて小はる哉吹晴て梅に室する小はる哉神送冬の雨凩埋火切葉落小春焚人なき江戶に費のおちば哉追ふ人の有よ〓にちる落葉哉一袋森うちはたくおちば哉達摩忌や虫も答へず西東だるまきや三千棒の蕎麥の音達摩忌やこは無功德の硯ぶただるまぎや柚みそ一味の舌ざわり御迎は來ずと十夜も月夜哉かたましき隣を照らす十夜哉小短ひ日はたらぬとて十夜哉蠟燭に鶴立すくむ十夜哉寐もせでや餘所の十夜を作り花襟元に油のぬけぬ會式哉かれて行人目を紅に會式冬枯の世を花にする會式哉下戶ならぬ餅も咲けり御命講夷講鯛の色なる朝日かなゑびすこう女房は夢を賣にけり凪を買ふ浪も手打や夷こう鮟鱇の布袋は來ずやゑびす講魚賣や山の奥にも惠比須こう麥蒔や不思儀に拾ふ晝の凪麥まけと雀から貰ふ日和哉麥蒔や茶筅の露の振り心むぎまきや身を風よけに山なだれ麥まきやみやこの手ぶり思ひ出し相撲から居へた腰なり大根引大津繪に書せて見たし大根引踏直す足はぬけずや大根引掛菜にもありて寐覺の荻の聲囁きに能陰つくる干菜哉おそろしき物もみへ透冬野哉居る鳥の名をさす迄に枯野哉波と見し草も皺なるかれ野哉竹つけて馬追ふ音のかれ野哉くだら野やもんで捨たる化の皮達摩忌麥蒔十夜大門町干菜御命講素丸枯野夷講
うら枯のおもむき咲や石蕗の花梶右衞門が細工見よならつはの花西行の氣に入る花か石蕗の花花歸り花來た時ほどの人もなし家柄や不斷櫻のかえり花もみぢする葉や美て歸り花歸り花惠比須に笑ひもらいけり櫻さへ夢見る物歟歸りばな茶の花に焙爐かけたる旭かなちやの花や水を撰まぬちり所茶の花やその上川の水の色山北花山茶花やみがき芦垣小柴垣山茶花の石に搔餅ちらしけり山茶花や片われ貝のちりかゝり枇杷の花木〓〓枯る頃を壽永やびわの花綿賣の調子も添て枇杷の花枯柳曲らぬを裸で見せぬかれ柳風をのがれ垂尼となりぬ枯柳家大正動かぬや誠の骨の冬木立栽松の工面は黑しふゆ木だち日の目見ぬ道や常盤の冬木立芦招きしも世に枯蘆の骨ばかり枯芦や夜〓〓に折込む鴨の上振り切て無ひ袖寒し枯尾花月の影は思ひ捨ずやかれをばな蜘の圍の綿弓はるやかれ尾花仙何として下界に咲くぞ水仙花水仙や是より物の氷るおと汲たてに柄抄あたらし水せん花水仙やまさに〓水の花の艶水仙やもとより脛は雪の肌水仙やさのみみづにも片寄らず吾丸新宅にて礎の玉動かぬやすいせん花石蕗の花淋しさやまだ蠟引かぬ杜衡の花蟇も出て寂くらべるやつはの花系大書俳本日枯芦歸花枯尾花水仙茶の花山北花枯柳霜月五日、大川戶光嚴寺へ牡丹見にまかりけるに、和尙對面ありて、句を望まれければ霜の世を見くだして咲はなの王佳日庵より、丸ぐけの帶を送られしに、かの翁の、活や我れと申されし句を思ひ出て富や我能帶したり冬ぼたん取とめて丹精さくや室の梅見性も爰の事なり室のむめ黄花にもまさかあやからず室の梅何が足らで年の小藪のみそさゞゐ藪を出て脇に這入けり鷦鴒稻妻の鳥と化しけんみそさゞいせきれいや百間はしる棟瓦鶺鴒や飛ぶ時の尾はしづかなりせきれいの濱を八丁礫かなさゝ鳴や何喰ふてその舌皷笹鳴やをのれもいそぐサゝ菩薩湯を呑んで言傳屆く寒かな菰のうちに動く達摩の寒哉簑脫で圍爐裏ヘ寄ると寒哉波高き船に米とぐさむさ哉筈明て時見る星のさむさ哉こがらしの音を着て行紙衣哉勿躰を彩色したる紙衣哉切張にして見せ給ふ紙衣哉裏表なき老の氣の紙衣哉老も身を菊にゆだねてわた子哉拜領の手にへばりつく綿衣哉角ほしき日もあり風の投頭巾白髪を染るに替へて頭巾哉こゝろ〓〓葱ぶの里の頭巾哉繕ひも落葉朽葉や紙衾破レる時南無と唱ふるふすま哉同宿のいたづら書し〓かな寒冬牡丹紙衣室咲綿子鷦鴒頭巾素丸發句集鶺鴒紙衾笹啼
六〇〇出仕度をしてまだ〓〓と火燵哉しかれども繼しき物や置ごたつ不作法なもてなししたるこたつ哉そこに置け〓〓とて冬ごもり冬籠紙衣表具の住居哉悟りたる顏でぶせうや冬ごもり見ぬ事〓し聞ぬ事閑也(春)臺然と座し卒然と筆を取塩からき學問止ん冬ごもり山聳へ木枯れて冬も名月ぞ詩哥老莊の糸筋をつたひ、向上の一路を開き、古今集の血脈を得て、寂色の風流、一派の元祖は是はせをの翁。世の人のしらぬ色あり冬の月冬の月さはらば指も切れぬべしすさまじく堅く成けり冬の月下草の霜や朝日に葱ぶ摺蝙蝠となりし夢見る衾かな破れめに鍾馗の見ゆる〓哉炭竈の櫻焚日かうすぐもり儉約の異見ンにしがみ火鉢哉考へて石取おとす火ばち哉わづかなる氣の手にみつる火桶哉彩色の手に馳走する火おけ哉掌能おもひやる火おけかな冬枯るゝ目もまだ伸ぬ葱ばたけ葱汁や今朝迄夢の一文字いく重にも包んで霜の根深哉賣聲に糸引て行納豆哉霜消へぬ間を花にして納豆哉納豆やさゞ波の裏打返し一茶碗混沌としてそば湯哉取あへず雪の雲汲そば湯哉獨居の谷の戶にして火燵哉唐紙の帶にはづるゝこたつ哉炭火竈鉢冬籠火桶葱冬の月納豆蕎麥湯火燵霜下駄の齒の碎てちるかしも柱瓦にも撰りきらいあり今朝の霜世交貴舘に初而推參し、其饗應にあまへ侍りて金屏の室に忘るゝしも夜哉野を向て行眼の澁し今朝の霜梅にけふ魂すはる冬至哉春の事を梅に腰押す冬至哉日移りに蠅飛上る冬至哉今來たと炭火のはねる冬至哉かみ置や稚心の奢りそめ髮おきや咲皃は雪のはつ櫻かみ置や高砂かむる松の雪水鳥や兒見合ふては浪の底水鳥や洲に入替る眠りばん鴛鴦や十二の裾のはねかへりおし鳥や洗濯しては岩の上寒き日や作り付たる岩に鴛おし鳥に巫山の雨のねたみ哉氷らせに干浮を廻る千鳥哉枯盡す世を波に咲千どり哉よもつきじ酒買ふ人も川ちどり飛は洲のけんさうかわる千鳥哉一曇磯に網うつちどり哉爼板にまだ眼の覺ぬ生海鼠哉解もやらず氷りもやらずなまこ哉料られて利口に成し生海鼠哉信玄も箸に工夫のなまこ哉なまこくふ齒音や雪の高木履いくつにも打欠く蠣の岩戶哉から蠣や地借數多の裏合(木)あんこうや敲けば腹の波大皷鮟鱇や價につのる道具數おもしろき愛宕の坂の霰哉水はきの地形を追ふてあられ哉奈漬とも粥ともつかず霙かな六一千鳥冬至梅生海鼠冬至髮置石花水鳥鮟鱇素丸集句發鴛鴦霰霙
臘八や心は梅も水仙も臘八や貧女の悟る物着星寒梅や酢でいためたる花の色寒梅のまたゝきしたる日向哉寒梅や夜越しの月の露氷早咲や凍付て咲く花十日寒菊や下葉〓〓は染紙衣かんぎくや酒の香しらぬ寮の庭かん菊や握つた花のほぐれかね料理場を見せぬ家傳や藥喰聲聞たさむさもどるやくすりくひむざんやな幾世活んと藥くひ夢いかに老の夫婦のくすり喰空鮭やその山川の岩の肌振廻ふて左右聞もおかし河豚汁世の中や鬼の女房の河豚汁鰒汁やあしたの原は雪の旅身を捨てこそ寐る夜あり河豚汁氷柱夜の內に鬼の家となる氷柱哉子庇の夜〓〓の涎のつらゝかな死んでこそ活る瀨もあり暖鳥葱に鰒こや元ぶねのぬくめ島一年の〓めや雪の里神樂雪に灯の竹もる影や里神樂夜神樂や氷の岩戶まだ明かずはやされて風だる吹革祭かな氏雲が樒柑降らせる祭り哉篩ひあきてまけるや雪の糟ぐるみ櫻より立田は雪の梢かなひとつ〓〓衞見わけつ今朝の雪貢する常盤は寒し蓑の雪有ほどの色に分りて今朝のゆき酒相手かきさがし行雪見哉降れや雪葱畑二反かまへたり深雪ふる野山に今朝は松もなしはつ雪や木〓〓しらむ迄は緣に居臘八暖鳥寒梅神樂早寒咲菊歐美琪雪藥喰乾鰒鮭ふぐ汁や雪ともしらで戾り橋盜人の崩して迯る氷かな波の綾のし仕廻ふたる氷哉濁らずに月を隔る氷かな來る水の居る水わたる氷哉風も斯く積るものかや厚氷風の皺雨の瘦まで氷けり南天の葉は裏につく氷かな寄氷神祇正直は氷る時とて氷かな奥戶遊行之內日にわかれ月に寄添ふ氷哉かん聲や身をそらし行橋の上寒聲は永閑ぶしを鳴戶かな雪霜の磨を梅の寒稽古繩を絢ふ爺を案山子や寒ざらし凍る夜の聲から割て鉢たゝき瘤も斯なる身のたねかはちたゝき胸の塵拂ふ茶筌や鉢たゝき粥腹はさも鳴るべきを鉢敲前季いの夜をしづめけり鉢たゝき寒念佛寐て聞我は牛ならん石膓鐵心の語た思ひてたじろがぬ心の銕や寒念佛我が罪をいでや念佛に寒ざらし月雪の煤いでとらん反古さらへ煤拂や山海經の道具立さりとては捨る物なしすゝ佛雨晴の松や〓洲の煤はらゐ算盤の玉飛せけり節季い節季いやはるかに春を呼子鳥諷へ〓〓うばら美し餅のつや餅春や莚の中のよしの山湯豆腐の濁らぬ同士や年忘分別の無ひを上座や年忘醉ばやな年忘艸の花ほどに六三五氷寒念佛煤拂な節季候寒聲うばら餅搗年忘素丸發表好口寒晒鉢敲
世の人を書にくらべつゝ岡見哉縱橫に踏んで越へけり年の關のがさじよ的の裏なる年の鬼花に行過る人の心よ、實はあとしら波とも見返らぬを、立田越の危き闇夜なるべし。行年を手もとへ筆の步行哉行年に春の日一日拾ひけり金持たぬ人佛なりとしの暮恙なく入日唱へぬ大晦日一とせも既に和布苅の目端哉我が黑きこゝろを梅に岡見哉天地庵の納會を壽く春をはげむ朱の荅や年の梅〓賛之部山本銀氷るやら鐘の音白し寒山寺落雁に雪笹の賛日系大書俳本寳船都から老の受領やたから船風呂揚炬燵に寐るを寶舟是も又夢くふ物歟赤いわし我かつしかの里には、今宵菊の枯枝を焚くも、その所のならひなる節分菊性やけふは蒼求の神事の夜豆蒔や六十を又ひろいぐひ咄し合ふ門や恪氣のさし柊前分の行燈に虫を感じけり鶯の笠は紛れじ年の關松はしらぬ振して年の尾上哉馬で行年見送らん日本橋掛乞に我はかむらん我が面ン木欒子どふ磨ても大晦日挨拶も嶮岨になりぬ年の門七曲の玉くゞる夜や大晦日鷹秤春から掛ケつ大晦日歲暮鴈一字誰が雪の詩の踏落し雪中東陂驢馬に乘賛素機嫌の馬は急がぬ雪見哉川渡布袋賛年の瀨や頭巾に替へて米袋三聖人の賛あると無と中に小はるの〓哉三笑の〓賛誘ひ出して小春の中の笑かな枯蓮に蛙の賛色と香のかれ蓮に觀ずる蛙哉宗祇一軸の賛さらに時雨の宿り哉との給ひしにすがりて墨色も更に世にふる時雨哉賀之部四十の賀醉ふとても迷はぬ年を祝ひ酒南臺六十の賀萬代も耳にしたがへ濱ちどり八十八の賀、徐風取次ふり添へん米の貢の年の雪白芹名弘メ摺物題、燒ものかけしほも年の手爾葉ぞかながしら冬至の日娘をもふけて產顏の梅に照る日の冬至哉難冬之部霜月十五日神田明神へ參詣せし折から、歸りに鳳聲亭を尋て不沙汰して今日顏見せや八十二留別立歸る春は間もなし歸り花(화)信阿伊豆を趣くた送る餞別煤掃て歸りをまつの寐覺〓〓蓮佐別莊富りけりしぐれ霞の小はる凪との給ひし素丸集句發神祇釋〓之部六五
館林聖天奉納抱付て竹臥雪や歡喜天下野湯泉大明神奉納民救ふ壺あり雪に湯の泉上州桐生大明神奉納惠みとや世の梶とりの暖め酒摩利支天奉納りゝしさや陽をふまへて冬至梅粟津が原義仲寺の芭蕉堂へ納んど、關東の好士の吟章を進め集めて二册となすは古桃子也。誠ニ後世の執心の名を殘さしめんと厚き志、此趣を記すはかつしかの曇華齊素丸なり。搔よせて其木の下に落葉哉中峯和尙座禪論外於二切善惡境界不起心-念爲坐內見自性不動爲禪是を題にして一句あたへよと、万谷望申されしかば張つめて居れば底澄む氷かな追善懷舊之部貞德翁忌此翁の書たまいし天水抄を開きて天水の氷柱しぼらん硯にも芭蕉翁忌國〓〓の硯に廻るしぐれ哉五十囘忌邯鄲は借らず枯野の夢もけふばせを忌や鴈も旅寐に寺の前孫彥枝覆ふや桃の小はる影西上人の像を倶に移して寂同士の中よくいませばせをの會はせを忌の古則や茶食茶の羽織今年七十年なれば芭蕉忌や古來稀なる道の德百回忌引上の百年高 し蓑のゆき系大書俳本日歡喜天万俤蓑のゆき正當百回忌濱ゆふの頓寫經木やはせをの會言の葉の霜覆にせん檜がさ寄そふもけふを柱や芭蕉の會隨心院樣十七周十七年あとは兄弟時雨しに信夫追善笹鳴の子やしたふ其月日ノ〓四十余年斷金の友、白華園主人におくれて此別れわれに身を裂く霜氷敬林息追善丹誠の氷も室のわかれ哉常州久下田鶴遊婦追悼化粧のみはかなく殘る霜の艸子光追悼落葉朽葉ふさぐ筧の別れ哉白寶追善色付し葉も凩のわかれ哉閑流子亡父追善生前に立花を愛せられしと聞て雪折も眞たしかなり西の空素陸一周忌魂いかに霜は歸るを小祥忌素曉一周忌けふにめぐる去年の轍の霜悲し(一個)豆陀袋の銘人和を襟にかけたら口をひらけばおかしく自慢の底をとれ唯此蕉門の頭陀袋かれ哉素丸素丸發句集冬之部終六一七
跋莵堂弊聽。風盤正之玖。雅播眞言安理登曾。萬澤路本菟久世盤。句中珥魂入天。天地遠貫久妙用遠奈壽弊之。師七十有余年俳諧三昧。花丹唫之月邇詠之。森羅萬象丹牟可布。其心能凝麗樓也。彼山水丹非數佛像丹安良須。師感鐵心石膓與理出當屢文章句ゝ那利。章萬葛飾能正風布籬津當邊亭。遺命越堂感弊數。如是菴主人可誠遠盡之。故ゝ珥尋年感之降羽求女。日遠可撮禰月遠經亭。也遠羅稿南理。精選之天集作類能功。全久楚奈盤麗理氣〓母。師能精靈在可如玖。語屢感故東辭。是我門能心法登以飛都邊之東。亨堂菊露志遠同之亭。謹而後耳採毫。寬政八丙辰秋七月撰者絢堂德布、日比病勝なれど、師命を重んじて旣に句集成ぬ。祖翁の吟すら句屑などゝ先哲の批判も少からず。まして素丸をや。勞きあれば衆議の列にも加はらず、たゞ今より後の名匠譏り給らん〓とを恐るゝのみ。かの百庵が、師に罪を課せるといひしにもあたらんか。然どもよくは天地よりよく、あしくは天地よりあしく、多句吐ざれば秀逸もなし。仕損じに何の苦しみあらんと、師は敢て得失にかゝはらず、弟子を導くを專らとし給つれば、末期まで俳意他事なし。我黨の及ぶ所にあらず。近來名人と呼れしも、晩年に至りては、あだなる句もまゝ有し、褒貶はしる人ぞ知べき。予七旬に及て、漸是をおぼゆ。老俳何かせん。すなはち毛のぬけた犬也。佳句有は壯年のうちぞ。若き人〓つとめたまへと、其夜坊の燈下に野逸跋。通說本卷は明和安永天明の俳諧中興時代に於ける諸傑の俳句集を編輯したものなので、現代の俳人-大體に於て俳句のみを主眼とし且つ天明調の感化を多く受けてゐる私達には、直接の興味が深く讀まれるものだが、所謂、天明調と云つても、決して一樣ではなかつたのである。天明時代の俳傑として第一に指を屈せらるべき作家は勿論、蕪村であるが、之は『蕪村一代集』として別に一卷となつて編まれる筈であるから本卷には省いてある。蕪村を除けば、蕪村一黨に屬する太祇が作家として最も傑出してゐる。次には蕪村門下の召波と几董とがやはり擢んでゝゐると思ふ。此二人は嘗て正岡子規に依て推擧されるまでは、蕪村の陰にかくれがちであつたものだが、本卷に於て、當時の天下諸方の英雄の作品を集めた中に肩を比べて見ても毫も見劣りしないだけの實力はある。曉臺と関更とは關西を根城とし、蓼太は關東を本陣として俳名を天下にとゞろかした。此三家の句を輯めた三傑集といふものが夙くから作られたのを以ても、其聲名の大きかつた事はわかる。關東に於ては蓼太と並んで、白雄が一家として堂々たる地步を占めてゐた。で、當時の「俳壇」といふ情勢を重心として史實的に考へるのと、「俳句」といふ藝術を重心として批判的に考へるのと、大分に違つたものになるが、此『日本俳書大系』の骨子を立てる上では、後者の見方を取つたので、さればこそ中興の諸傑を統輯して之に「蕪村時代」の名を冠せしめたる所以である。蕪村一黨と先後それ〓〓に連關ある宋屋、嘯山、大魯の三子、外に樗良、〓蘿、麥水、米翁.晩得、素丸等、それ〓〓に一家の風を備へてゐる人々の句集が夫々の後生に依て錄成されてゐたのは喜ばしい事一通說
その前に作家が日である。それらの各家の作品に就ては、通讀の上の印象的批評を以下に述べたいと思ふのであるが、その前に作家が句集を出すといふ事に就て一言したい。芭蕉は自分の句集を作るといふ事をしなかつた、門弟が編まうといふことをも拒んだ、それは名聞がましいことを嫌つたためであらう。其爲に後世になつて芭蕉の句を〓究しようといふものが、どれ程不便を感じたかしれないであらう。然し、句を作るのは人に示すが爲ではなくて自ら樂しむにありとすれば、後世の〓究者などを眼中に置かなくとも好い譯であらうが(又後世の事を考へるといふ意識そのものが見方に依つては一種の俗でもあるが)正確な句集がない爲に作品自體が訛傳せられたり誤記せられたりせざるを得ない事實は、作家自身としても、若し彼世で知つたならば決して氣持の好い事ではあるまいと思ふ。ともかく、芭蕉からしてさうである爲に、俳人は兎角、自分の句集を自ら上梓するといふ事を非常に遠慮する風が出來たのであつて、本卷に輯めてある句集の大部分も、其歿後に門弟の編んだものなのである。蕪村は「新花摘」に斯う云つてゐる-五元集は角が自選にして、もとより自筆に淨寫して、創〓氏にあたへ、世にひろくせんと思ひとりたる物なれば、芟柞の法も嚴なるべし、さるを其集も閱するに大かた解し難き句のみにて、よきと思ふ句はまれ〓〓なり、それが中に、世に膾灸せるはいづれもやすらかにしてきこゆる句なり。されば作者のこゝろに、これは妙にし得たりなどうちほのめくもいとむつかしく聞えがたきは、闇に錦着たらんに類ひにて、無益のわざなるべし。家々の句集を見るに、多く殁後に出せるものなり、ひとり五元集のみ現在に出せる也、發句集は出さずともあれなど覺ゆれ、句集出でゝのち、すべて日來の聲譽を滅ずるものなり。日來の聲譽を減ずることを氣遣ふが爲に、自分の句集を出すことを好まないといふ心ならば、自ら句集を出さぬこ通讀の上の印象的批評を以下に述べたいと思ふのであるが、自ら句集を出さぬことこそ名聞の爲だと云ふべきで、芭蕉の氣持のやうに名聞にかゝはらぬならば寧ろ進んで句集を出すが好いといふパラドツクスも成立するであらう。私が思ふに、或意味に於て俳句は、自分の境涯の見解であると共に、自分の心の懺悔である、自分の句集を出すといふ事も、之を懺悔と考へるべきである。自分の俗情淺解をみな投出して行き、投出しぬいてこそ、自分が純化せられ深化せられるのではないか、それも亦句作精進の一つの道ではないか-。蕪村は上文に續いて云ふ。玄峯集、麥林集などもかんはせなきこゝちせらるれ、況や汎々の輩は論ずべくもあらず、よき句といふものはきはめて得がたきものなり、其角は俳中の李靑蓮と呼れたるものなり、それだに百千の句のうち、めでたしと聞ゆるは二十句に足らず覺ゆ、其角が句集は、聞へがたき句多けれども、讀むたびにあかず覺ゆ、是れ角がまされるところなり、とかく句は磊落なるをよしとすべし。いかにも、一家の句集の中に、佳句といふものは少いものだ、むしろ讀み通しえぬ程に退屈を覺えるものが多い。さういふ點から云つても太祇の句集は確かに異色がある。「太祇句選」の序で見ると、太祇といふ人は非常に句作の多かつた人で、其句集の草稿を積重ねると人のイめる肩ほどもあつた、嘯山、雅因の二人が之の選にかゝつたものゝ、疲れきつてどうにもならない。で、蕪村は、いゝ加減にしておくが好い、四季のはじめの所だけを選みて初稿と題して出しておけ、二稿三稿は數年後に出したとてもいゝものだといふたとの事である。之は此言葉のまゝが事實だつたのか、或は此句集を以て太祇の全體と見てくれては困ると、彼をかばふ意味の序文的文飾を以て書かれたものだつたのか、其は解らないが、試に其後に出た五雲編の「太祇句選、後篇」及び「石の月」と較べて見ると、大體に於て前編の句の方が立ちまさつてゐる。して見ると、前編を選む時に、彼の句稿全體を通じて、かなりすぐりぬいたものと察通說
之を較べても、せられる。の句として特色のあるものは殆ど前編に收められてゐる。中には前編後編を通じて同じ趣向のものもある。來春醫者へ行く子にかぶせたる頭巾 か今朝みれば夜の步みやかたつむり夜を寢ぬと見ゆるあゆみやかたつむり瘦水東風吹とかたりもぞ行く主と從者醫者へ行く子のうつくしき頭みおどすなり年くるゝよをうしかぶりつく柿のしぶさや〓ごしに柄から參らすうちはうぐひすや聟に來にける子 の前に出したものだけで足りてゐる。たるをかなしむかの駒る と月中やヘは男や膝錢や顏遣往な來りる影數さ蘭のけたあ後出のものは却て其を惡く傷つけてゐる觀がある。すらん舟荅しるなろ十み燕巾かがのけ心かか一のから十中り太なな間子なな同同同同同同同同同太(同)、(太祇句選) (石の月) (同)、後編)後編)祇せられる。が何れも練れてゐて、作ぶりに就て、「其好るや樂るや尋常にかはりて、かすといふ風に、らである。「太祇句選後編」からはふ事は、など云には一の題に十餘章を並べ······いつも沈吟する事他に倍せり」云々とは、と句になつてゐるのは言葉にリヅムをもつてゐるからに外ならない、「それ〓〓の星」「うつくしき日和」「瘦たるを」の如き自然を寫しては、「うぐひすや」「東風ふくと」「〓越しに」の如き人事を詠じては或は複雜な場面をこなし、大祇の句には幅がある、言葉にリヅムを持つ事でもある。「かぶりつく「おどす也」の如き、うつくしき日和それ〓〓の星あらはる十初吹見句雁縱橫に行屆いてゐる觀照と表現とは、を倒へ月練やそしかもねばりがなく垢ぬけしてゐる事も所以あるかなである。す遊女にあて起 すめ て厚みがある、笹膓の吹タ汐みうるどつしりとしてゐる、ご葉とな〓く靑り行住座臥燕飮病床といへども、さ案ち霜し1山ぬぬゝ寒さまことに練達の士なることを思はせる。よせ子蘆雪肴かしかも滑かである。かけかののな籠りな角上な彼の句の何れにも讀後の快さのある事も此點か或は壯大な風景を捉へ、平常の何でもない事が斯う云ふとちやんさもあらうと思ふ事である。日課の句を怠らず、同同同同同太巧みである、同此ねばりがなく垢ぬけするとい或は纎細な趣味を出し、祇嘯山の序に太祇の句或は微小の生命を活しかも臭みがない。まいて誰某が會彼の句又を練うご葉〓く靑さ案ち霜し1よ山ぬせ子蘆肴かけかのな籠りな角同同同同同同同同同太同同同同太祇祇때とも角、太祇
けで平安朝時代の局でも思はせるやうなそつのない云ひ方、「地車」ゐる、「元日」に麥畑、ツシユである。召波が歿した時、そつがない。乾子寒荒す囀まらう人へ行たゆ地元き實に無心の取りあはせであつて、の菊海螢んく車ゞ蕪村が片腕をもがれたやうに感じて嘆いた氣持も尤もである。に日何よりも美しさといふ事を好く出してをり、母やたにめ夜ほ春に獨猶る題子やよ起のみかうしま1や蟲やり草い くな籠目もい行團まゐらせ書起けつの見づく寫の度ふ出か草えこ草の 机戶結白頭るしやあて流のぶの越然もかつちりとして動かない。「行螢」の「みかうし」や足きらけんに人胡いほ袋光無さり暮の蝶泊の白との悅沙のきけの迎かりり麥而してさらりとしてゐる、に蝶、「寒菊」に光悅寺の美しさ、「すゞめ子」「まろ紐寺汰秋方り春舟な迄客畠召波の句はすべてかつちいと出來て同同同同同同同同同同同召波七感覺的であり、と云つたゞ且つフレざることを、にかしけ、此句兄弟では、の起源とも云へる、も述べたが、召波は小蕪村といふ感がある。後世の川柳趣味と類似があるとも云へよう。「句を練て」とは太祇その人の意氣軒〓たる姿をさながら見るが如くである。湯藥ほどこすべからず、と言終て淚潜然として泉下に歸しぬ、更幟飛勝着下戶ひとり酒に迯たる火あまた鰒何れも蕪村の方が勝つてゐると思ふ。はねつくや世ごゝろしらぬ大さりとて全然枇糠のないでもない。衣た入物賣迯その点に或脈絡が考へられなくもないのである。のうせてわめく母つのにの蚊の血にふくれゐる母力喰べな旅んな者その人豫め終焉の期をさし、んあ藤き顏とみら「春泥發句集」遊やあ原女しや氏なきさうすると、それは人事趣味を詠じて失敗したものにある。し余三たび泣て曰、なに蕪村は序して「一旦病にふして起つことあたはず、り角やり辻余を招て手を振て曰、け力燵辻座れまけらか角太祇の師たる慶紀逸がか角禪けたりしな力な力哉りげ我俳諧西せり、又、「太祇句選」通讀中、恨らくは叟とともに流行を同じくせ太祇の句の粒の揃つてゐることは上に蕪太蕪太同同同同太我俳諧西せり」村祇村祇「武玉川」の作者で、祇氣がついたまゝにと書いてゐる。六形容日々此書は川柳波
通此二句は實朝の歌汰、なさもある、に之を較べて見ても此二作家の行き方の差は解る。召波もうまいものだ。うど」のさらりとしたる、いが-。どうしたものか此句は「太祇句選」にも出てゐるし、落山けふ白頭になどいふ言葉を驅使する上では實に其こつを得てゐるものである。召波はデリケエトであるだけ、波かの後家のうしろに凩な吹のの(箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄る見ゆ)んを葉にかゝへたや前句は如何にも山吹の姿であり、寄箱葉ル根此調子で彼は小にに花にじ澄ま「蟲籠」「子の母」の如き身邊の瑣事を淀みなく俳化して行くので、むも葉感覺的にぴつたりと來るやうに出さうとしてゐる。や踊に見卽ち太祇には大きさがあるが、伊花に召波の「春泥發句集」にも出てゐる、るえる狐て豆後句は如何にも椿の姿である。椿のか葉か霞な哉海なに太召太それだけ所謂大味だといふ物足ら此點は太祇もうまいが召から來てゐるとも限らないが、波祇波祇句振りから云へば太祇ら假簑と笠」「大文字やあふみの空もたゞならぬ」ではないかといふ氣もする。るべきものは甚だ乏しい。「こがらしや」の句も蕪村の「こがらしや岩に裂けゆく水の聲」は富んでゐる。ほっ「容す」「-もたとならぬ」なと向白い骨葉があると思ふものは、「戀々として」「蟲聲非一」などゝいふ漢語はよく使ひこなしてゐるものゝ、几董は蕪村の模倣をしてゐるといふ所が目立つ。几董は蕪村の嫡流だけあつて其句風はしつかりしてゐる。沖梅睡あ戀桔梗こがらしや三つに裂たるちくま川蟲聲非日は落て增かとぞ見とざまに小魚なが津氣の々なら女郞花なら 露鯛として柳遠のくさ木一冬すおほとのあぶらしろき迄のの魔山容をす葵蹴もなどゝいふ句がすぐ手繰られる。はてたつるゆ行ゞに1る舟なしぬや〓春路然し、召波が蕪村を小さくしたといふ感じがあるのと對して云ぐ子られ水のか其「井華集」ぬれて規哉水な大抵蕪村にもあるものなので「いざ雪見容す一卷を通じて見ると、之はどちらが先かを文書的に考證した一句としてのリヅムに几董の個性とも見同几同同同同同同几からヒントを受けてゐるの董董なか〓〓佳い句にかうした俗談も皆無ではないけれども、茶名羽礻月のもや花いだ蠅步行けり誰金に拾文は覺の惡い句の少い點では、んやとうなたち庵がる舟しぐ出所召波の方がむしろ太祇より勝つてゐるであらう。主る哉爲同召同波句振りから云へば太祇ら董董波
召波の句、だとは云はれると思ふ。上でなければ、序して「大魯はもと攝播維陽の一大家と呼れて我門の嚢錐なりし」と云ひ、れたのであらう)、貫之の土佐日記に千鳥とは好く出來てはゐるけれども、し、大魯の句は手堅い所がある。後の句はかうした所が几董の彼らしく正直な面目であり是大魯が身後の榮、「自悔」といふ前書があるが、靑砥の錢にけさの秋とは凡々の輩の捕へ得ぬ所である貫水桐油くさき駕に蛙を冬年かくすやりてが豆をうばひけりお大輕々しく模倣よばゝりは出來ない譯であらうが、の阪之底も夜のがにひ出て庭島原の歸さます〓〓そのひかりを加ふるに足らん」や遊舟靑我女の砥上手といふ味はないけれども、が灯による千鳥にが掃無し錢く是等は俳句になるべきものではあるまい。藝らや春のず聞けのおさくタもく夜さらかかの眞率なといふ德はある。かひなと賞めてゐるが-。有狩な(且つ此句は詠史ではなくて、な秋几董の大體の行き方から見て、大此「遺稿出て人いよ〓〓其完璧をしるべ同几同几一寸是ひ付きさうな所である。几召魯其句集「蘆陰句選」に蕪村は董董董波現前の事をかうしや獨創的な所の少い人に「大魯は阿藩の士、斯樣に佳吟として拾はるゝものは多くない。之を景色として見れば趣のある所を捉へてゐるのだけれども、んぜらるべきものである、てゐた頃旣に、に遷て三とせの秋」是等の句から想像される其人がらには誰もが好感を持ち得るであらう。宋屋は蕪村と同じく巴人の門であつて、隣わ牡あさそ山馬の尾に拂ひゆく鳥京洛の地に中興新風の地盤を築いたものは彼である。ら豆の花散る 里にたれ丹ら海れ陰と書添へてゐる。もが折し父のばつて公務の餘力風流に志深く、やと て身へ打火こぼ雨夜菜に雨のこのの故凋手〓怒み花蕪村の先輩であり、蕪村の言にはやはり序文的の御世辭があるやうである。燭なぼふぞもや咲なる果晩年に及び致仕して京師に住し、ほるるたいぬと時1つつ1ぬせ1雨柳秋か寒木ま春過のしか槿巴人が歸東後、其表現にはまだあくのぬけてゐない所がある。ぎかかいすなな暮きな哉りぬ此意味から其句集なる「瓢簞集」蕪村がまだ若くて〓筆をもつて放浪し「われが身に」の句には几董が大同同余と膠漆の友なりしが、同同宋同同同屋魯然し然しは俳史的に重また浪華「新雜談集」其表現にはまだあくのぬけてゐない所がある。ぎかかすなな同同宋屋几董の大體の行き方から見て、同几屋魯董董獨創的な所の少い人二一然し然し
(鈴鹿越)の如く理に落ちたものが多い。てうなづかれるが、言葉「風雅に流儀を立るは一反の事也、嘯山は、かうしたすつきりした作もある。蕪村一黨の一人として、を開いて見ても又雛鳥その宋屋直流の俊才であつて、印吉吹朝枇杷黃う虎のみかめ花の野れがに籠嘯山その人の技倆は上手とは云ひ難く、をも巢出ほさ く行 くのやなり町見人やてその才學の外に、みかんも皮をとゞめけり藥向朝や然し、すの一虻好く旅行をした人で、ひの屋垜る奢筋もの此集の澤山な句數の中から相當の句を拾ひ出す事も出來る。實事に至てはいはゆる眞劍勝負にて唯上手と下手の二つのみ也」に離「俳諧古選」「俳諧新選」のづ湧近雲まをや作家としても認められてゐたゞけのものはある。江のじ直梨う1やれやわすのつのぬる雲此集にある蕪村筆の彼の像も行脚姿に書いてゐる。蘆か門組切り藁袂その眼のつけ所も〓して高いとは云ひ難い。ののれ徒屋小け仕かの編者として著はれてゐる。花時寺敷口り事峰な同同同嘯同同同嘯同宋山山屋其總論に見える彼の「葎亭句集」は意見とししては、次に、しぜん蕪村等とも影響しあふた事も明かでこれで見ると、「烏帽子きて誰やらわたる春の水」は蕪村である。次に、誰よりも曉臺を擧げずばなるまい。「曉臺句集」二卷を見て、蕪村一黨ではないが、す涅火ともせばうら梅がちに見ゆ障初ほたるうりすゞしの頭巾き年落九日ぐらしのなけばつら〓〓故〓を頭さをしかの角にかけ曉臺にはかなり包攝力の大いなるものがある。冬槃迫葉子は〓〓と巾月きる落まや會盡て風かで二遙や來つ蕪村も相應に敬意を拂ひ、誰や大なさる子に夜雲空下能蠅にらをりてはりわ鳴も箸登明來〓た雨あとの易る曉臺の句ぶりは大體として揃つてゐる中にやら雨りらるす岬した音相携へて俳諧中興運動に於ける本質的の業績を遺した人と翁峯の春をせりるなりかけか麻羽彼が一家として大いさをなした所以もこゝにあらう。のうの思ふけり月水なつ日るな畑山曉曉同同同同同同同同同曉彼の力量は充分に知る事が出來る。臺臺臺ぬり事山屋三三
たとことわつてゐるから、も好意に解すれば、になつてから、でなく、と思ふ。の如き幼稚のものが、惡い句と思ふのは、關更の「半化坊發句集」元時紅タ鵜春誰の句集にでも同樣の事がある譯だが、腫ほとゝぎすつひに憎しと思ふ夜や二日見ぬほどや柳の日雨葉晴のの門人が搔集めて編輯する事の弊である。物彼の初期のものが多分に混じたものだらうと思ふが、る散面甚だ平俗にしてあてきのあるもので-やまゝ眼に觸れるのは年代として彼の初期のものではないかしらと思ふ。やをかゝへる 紙日や此て切は好い句として感ずるものよりも、にさう好意に見る要はないのであらうか。角や心ま竹籠川タにじ波のさべてへ中げかゐヽ賑世なゆる衣之も作者自身が生前に目下の句集を作ることを好まずして、るおふにるく野火もざ海居ベ〓京影その爲に却て、かはたの閑のかのり惡い句として眉をひそめしむるものゝ方が目立つ。はり好い句と思ふのは平淡にして無心なるもので-し牛寺町な幸哉編者は故人を傷つける事がどれだけあるかしれない闌同同同同闌「舊作をはぶく」といふ方針で輯め同同同更更之はひとり曉臺ばかり之其歿後彼には無我無心の句が多い。風の見える所が好い。て初めから自由に、の本宗匠の名を得てから、まして伊勢風から脫出し、最後の句は「名月は座頭の妻の泣く夜かな」と更に一層平俗化して人口に膾炙されてゐる。樗良も亦伊勢風に反抗して立つた人である。明今仰眼をさます雉子も有らんきじの聲海秋雲山うぐひすやよき程づ老はつしもや飯の湯あた高寺月宵向世間にかゝはらず大手を振つて行つた。つなくば石燒くややてや鳴芭蕉の正しきに歸らうとしたものだが、て風誰座しぜんに俗化した所もあるやうである。雲は中には小さな巧みを思はせる句もあるが-やたも頭くまひえ參のともなかな がてら妻水に花れて鷄尤も乙由一派に屬してゐた事はないから反逆者ではなく、ぬの遊まのらん二つゝの聲ねもぶき風あかこは月寒朝見ら其句風にも、ちのの日ゆしんの像星下もとの伊勢風が全然脫けきらなかつたか、間中和る山顏さうしたのび〓〓とした、同同同同同樗同同同同關更は復古運動に眼をさ良物にかゝはらぬ己は己とし又、花ゆしんし同同同同同樗闌更良一五
說通あらはれてゐるものに違ひあるまい。けば惡にも向く男である。ゐた跡は明らかである。斯うしたなだらかな調子で、を樂しましめる爲に作つてもいゝではないかといふ論も成り立たぬ事はあるまい、よう。斯うした句だけを拔いて見ればソツがない。ふ作意も隱されてゐない。當時、けれども、轉じて江戶の俳壇を觀よう。鳥あ江戶の俳壇に隆々たる盛名をかちえてゐた蓼太は、湖よは〓〓と日の岩夕暮の篠のそよぎやあけぼのゝ端遠れはどうだ自分は上手だらうといふ氣持が其句の裏にくつついてゐる。春が笠着て行はの里うししかも乙由よりずつと素質の好かつた事はやはり是等の句でわかると思ふ。鷲其「蓼太句集」一個、眼前の風景を捉へても其見方と言葉とに一技巧あるところ、ふ靑てひ句作は自分を樂しましむるものといふのが芭蕉の行き方なのだが、きき高ろは行と中欄がよは生前に出たものなので、華麗にも壯大にも纎細にも、なにるみつりきゞ くそ野一牡て靑さ分葉丹ゆ枯田ゞかかかく其句ぶりを見ても、野かゐなななは哉な當るを幸とやつてゐる手際は上手だと云へ門弟が編したことにしてあるが、同同同同蓼如何にもくせものである。同同-私は此後說には賛成しないが而して面白く味はせようとい太彼が伊勢風の感化を受けて一七更に進んで萬人作者の意圖が善にも向めんにもあらず、此人にも舊いくさみの脫けきらぬやうな句が集中に殘されてゐるのは惜しい。これらは彼らしくないものとして見捨てゝおきたい。りと宣揚せんとしてゐるが、或句の端書に「松の悲しき秋風の樂にたぐへし水の音に流水の曲をあやつる藝は是つたなければ人の耳をよろこばし麥水は伊勢風を捨てゝより虛栗調を喜んだ人で靑蘿は美濃風から反抗して出た人で、萩角傾初我ゆくはるは麥 に糸雪ないつもあるしがに獨しらべ、城をあ宿ゝ くも根のげ咲出てのや黄を が水て山さに月さし入て風ほそしひとり詠じて、舟其句集「葛箒」に輯められてゐるものは雪牛やにひ梔翌をんで人をみる咲た〓〓の蘆子かくれて仕廻けりは其氣質としても其句風としても樗良とは合つてゐたらしい。まり野笑し自からこゝろを養ふばかりなり」春ね靑ふ寺「新みなし栗」(第九卷所載)のてねし夏ろの垣柳松しはの野初藥根かんの葉か杜哉な哉風にな宇師とで見ると、麥同靑同之が此人のしんしようである。同同靑同同同水そのぎごちない調子をしき蘿蘿の麥同同太水蘿眞
說通しくもあれば、若鮎が身をひら〓〓させるのを小太刀の動きと見たので、火がめろ〓〓とする事を斯ういつたのだが、くのである。何の非難すべきいはれはないけれども、て珍膳にむかひ爰に膝を屈しては美味に舌打すれども」と或句の端書に彼は書いてゐる。斯ういふ所が蓼太の世間にもてはやされた所以であつて、太はそこを覗つてゐる。-卽ち大衆文藝的の行き方であつて、若うぐひすや小太刀佩たる身のひ凩兎も角、我世寢南むつとしてもどれば馬鹿々々しくもある。鮎かにこがものる時の小太ら出たかもし ら彼には才氣と覇氣がありすぎていけない。の に中ははふらし焚てし の手三刀折日たつで遣ば見其と均衡するだけに充實したる精神的生活のない事が、通俗に、ふ て輕業も調子に乘りすぎると危い々々。さぬもび間なず庭一般向きに誰をもうなづかせるやうな趣味を提供するのである。迯にけりしにしおに其をつかふのもやつぱり若鮎ぎ女櫻飛ぼ柳藝術的に見れば低級俗惡なる所以である。け り郞か胡ねりろかそれは句の上にやはり出てゐる。花な蝶月な几蓼次の句も同じである。同同同同同蓼(卽ち小太刀)董太美酒佳肴的生活そのものが太彼の作品から見えすだから、「かしこに招れをか蓼所が好い。ばれたのであらう。鶯を金衣公子といふ事からの着想だが、白雄はすなほなる所を取りたい。其集「白雄句集」を通覽ずると、菖蒲湯やしぐるゝや鹿にものいめくら子の端居さびしき木槿月の朧つばな月夜とい二またになりて霞め]る野菖蒲よりくる乳のあ彼は所謂上手な作家とは云ひ難い。此人の句もかなり世間的に歡迎せられたが、蓼太の句と見方は似てゐても句品は天と地とほど違ふのである。ふは油ま川つかほかたりぎなしなされば其上手ぶらぬ所が好く、それは平明にして安易なる句調が喜同同同同白雄あてきのないあひもしないがあたりまへ千萬の事だが、米翁の「蘇明山莊發句藻」朝はものゝ朝皃の花もあたらしき春の嵐ちらざる花はちらのどけさや津〓浦〓のおも一色にいろ〓〓艸のそれが理屈にわたつてゐないだけ、は江戶座風のなげやりがつまらなく、靑ぬきはか不愉快な感じはしないのである。なるゝり且つお大名藝のやうなもので、な同同同白雄通俗に、一般向きに誰をもうなづかせるやうな趣味を提供するのである。六しおにねりしなされば其上手ぶらぬ所が好く、同同同同白雄几雄雄董太一〓評するほどのはりあてきのないをか蓼
風もあり、見方は似てゐるものゝ、の如きものは同感出來る。晩得の柿魂梅江戶座風もあり、「哲阿彌句藻」春片道傳ひよく人にもまれた上散哲奏棚雨肌へととやや梅翁百年忌やとば宗因が檀林の句風をついだものであるが、俳句になるとならぬとの境、橫吾尤も作者自身の得意とするものではあるまいが-。つせ旣も襷中には芭蕉風も見受けられる。殘まにのとす妻かい宗ぢへる井た梢と因かくやこ矢り戶ひだろのゆの百のやる現今の人には說明するまでもあるまい。は紙く舌御衣ご簑御天雛の堪かとと慶のか聲忍なし傘哉川な同同晩純粹の宗因風のみではなく、蕪米同米同得村翁翁は、是等が素丸らしい口調でもあり、海むしろ自然の事であらう。素丸の「素丸發句集」も素堂の葛飾風を承けてゐるといふものゝ、行く秋に五臟の見ゆ耳づくのどうや笑無その中でも句としても、は一物んとすなさして惡くないものと思はれる。るるる糸瓜畫時か寢をな哉花尤も出來ない。句調から見れば芭蕉風だけれども、雪の日や觀日本俳書大系第十一卷音「觀音のうらのよき泊」とは卽ち吉原を指して云ふのだから、のうらによき泊同終の堪かと聲忍なし同同素(荻原井泉水)丸やはり當時のいろ〓〓の句調がまじつてゐるの同同晩同同米丸得翁ニうつかりした評も當世の美濃伊勢の二〇
系大書俳本日11發昭和二年三月五日印刷昭和二年四月十八日發行行所東京市日本橋區數寄屋町·春秋社內日本俳書大系刊行會振替東京二六八七二·電話大手四一二四印刷者發行者著作者東京市牛込區早稻田鶴卷町四〇三東京市日本橋區歐寄屋町一番地谷神神口非田田熊豊豐賣之助穗穗品所刷印所刷印社秋春印
エト2P-56

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