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その08 食材からスパイスまで。これぞ究極の地産地消。

【龍崎翔子と巡る『魔女活の旅』】ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、上川町層雲峡の『HOTEL KUMOI』のリブランディングを機に自然の材料から衣食住アイテムをDIYする「魔女活」に没頭。このマガジンは、そんな龍崎さんが暮らしをアップデートするヒントを求め巡る「魔女活」の記録です。

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芳野幸雄さん/農業生産法人 株式会社クックソニア/沖縄産スパイス

地産地消が叫ばれて久しいですが、食材から調味料まで、すべてその土地で作られたものを使った料理を食べたことはあるだろうか?沖縄で農業生産法人 株式会社クックソニアを設立し、「やんばる畑人(ハルサー)プロジェクト」を行っている芳野さんは、オール沖縄産の料理で旅人をもてなしたいと、10年前にスパイスの栽培をスタート。ここでしか食べられないスパイスを通じて、地元の魅力を発信している。日本中を探しても、スパイスや調味料に至るまで、その土地で作られたものというのは恐らくここだけ。採れたての野菜が並ぶ店の中で、話を伺った。

ここでしか食べられない味を作る

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▲さまざまな野菜が並ぶ店内にはイートインスペースもある。

芳野:ここが店です。

龍崎:スパイスが並んでる。あれはピクルス?

芳野:そうですね。地元で採れた野菜を使って作っています。

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龍崎:ここでは野菜の販売をされているんですか?

芳野:そう、野菜とか、スパイスとか、ピクルスとか。

龍崎:飲食もできるんですか?

芳野:できますよ。後ろには加工室もあって、ソーセージやピクルスなどを作っています。

龍崎:スパイスはどんなものを作られているんですか?

芳野:例えば、ランチプレートで出しているホットドッグがあるんですが、それに使っている粒マスタード。これは沖縄のシマナーっていう、からし菜の仲間の葉野菜を、あえて収穫せずに花を咲かせて種を採って、ハチミツやターメリックなんかと混ぜて作っています。みんながよく知っているコリアンダーも、葉っぱでの収穫に飽きたら、放っておいて花を咲かせてコリアンダーシードにしちゃったり。

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龍崎:そのスパイスの加工もここでやられているんですか?

芳野:加工と呼べるか分からないですけどね。ほぼ手作業です。収穫して、脱穀して、籾を取って、乾燥させて…とか。基本的には商品化はしないです。ここに来なきゃ食べられない、味わえない、そういう物にしていこうかなって。

龍崎:ここで出されている料理には使われている?

芳野:そうですね。自分はカレーが好きなので、カレーに使ったりとか。スパイスつながりでいろんな料理人がいらっしゃるので、その人たちに使ってもらうことで、地元の人に食べてもらうとか。

スパイスとハーブが作れたらオール沖縄産で料理できる

龍崎:どうしてスパイスの栽培を始めたんですか?

芳野:僕らがやっている「やんばる畑人(ハルサー)プロジェクト」はおいしいを全国に発信していこうというコンセプトで始めていまして、農家や飲食店が地産地消をしていこうと取り組んでいるんです。スタートしたきっかけは、沖縄には農産物も畜産物も水産物もあるけれど、スパイスも作れるんじゃないかっていう気付きがあったことですね。沖縄には胡椒の実が採れる場所があるし、そうすれば胡椒も塩も砂糖も、全部沖縄産のものを使った料理でお客さんをおもてなしできるねって。

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芳野:ここには小さいマルシェがあるので、地元で採れた野菜を並べています。先ほど話したピクルスも販売していますよ。ここで出す料理なんかも、基本的には沖縄産のものを使っています。基本的には自分のところのものを使って、お客さんをおもてなししようってやっているんですけれど、それ以外にも、ワークショップのようなことをしています。例えば豚肉は沖縄だと食べる部位が内地と違ったりするのでそれを説明してみせたり。あるものを活用して、自分たちの再発見プラス、観光客におすそ分けするような活動をしています。

龍崎:芳野さんは農業もされているんですか?

芳野:はい。野菜だと、冬は大体70種類くらい。夏は少なくなるんですけれど。飽きっぽいのでいろんなものを。あとは今、スパイスが可能性あると思っているので。種蒔いたけど芽が出ないとか、出たけど全然採れないとかをやりながら。

龍崎:スパイスは南の方でしかできないんですか?

芳野:基本的に熱帯のものが多いんじゃないでしょうか。スパイスを食べる文化っていうのが、代表的なところだとインドとか、暖かい地域、日本は旨みとか出汁の文化だけれど、向こうはスパイスで体の調子を整えたりしますしね。ザ・スパイス、みたいなものは沖縄でも厳しいね。

龍崎:沖縄でも?

芳野:まぁ、亜熱帯っていう地域なので。冬だと10度切って雪が降ることもありますよ。亜熱帯で栽培できるスパイスの中でも、できるものもあればできないものもある。

龍崎:沖縄にはウコンのイメージがあります。

芳野:ウコンもいっぱいありますよ。スパイス栽培を始めた最初のヒントはウコンにあって。十数年前、ウコンがブームになったとき「作ってくれたら全部買うから」ってたくさんの業者から依頼を受けて作ったんだけど、みんな会社が潰れちゃって。作った分のウコンをどうしようかっていう時に、実は球根を乾燥させて粉末にするとターメリックになるってことが分かったんです。そこから、胡椒も塩も砂糖もあるから沖縄には調味料やスパイスをある程度栽培できる可能性があるよ。そうすると、スパイスまで地元産のものを使った料理でおもてなしするっていうのは沖縄じゃないとできないよねとなった。

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少量多品目を栽培する畑

龍崎:なるほど。ところで、先ほど野菜は70種類くらいとおっしゃってましたが、なぜ少量多品目でされているんですか?

芳野:まず、僕が飽きっぽい。あとは、みんな面白いものが欲しいので、僕にしかできないようなものを作って買ってもらう。カブとかビーツとか。なかなか買わないけどうちで食べて、おいしかったら帰りに買ってもらうとか。

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龍崎:畑って見せていただくことはできるんでしょうか?

芳野:良いですけれど、畑、今もうなんにもないよ。

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▲芳野さんに畑を案内してもらえることに。

龍崎:これはなんですか?

芳野:これはケールの仲間で、カーボロネロっていう黒キャベツです。あっちはケールですね。

龍崎:あれはセロリ?

芳野:あれはそら豆。ファーベっていって、生で食べるそら豆。試験的にやっていて、おいしさとか、収量とか、労力とか、売れそうかとか、そういうのを全部計算して、大丈夫そうであれば少しずつ増やしていく感じです。

龍崎:へぇー。これはモロヘイヤですか?

芳野:それはね、英語だとニゲラ、インドではカロンジっていわれるスパイス。

龍崎:これはレストランでも食べられるんですか?

芳野:いや、これは自分で使う用ですね。スパイスに詳しい人たちが来た時に「どうこれ?」って自慢するくらいです。(笑)

龍崎:今その葉っぱって食べられたりするんですか?

芳野:葉っぱは全然。

龍崎:おいしくないんですか?

芳野:まぁ、おいしいかおいしくないかは分からないけど。

龍崎:匂いも全然しない。普通はどこを食べるんですか?

芳野:種。スパイスね。

龍崎:そうなんだ。あ、でもこの葉っぱ、ちょっと塩味がしておいしい。ちゃんと味がする。青くさくないし、出汁っぽいし。

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芳野:これが大事なんですよ。僕はもう、種を採ることしか考えていないけれど、料理人さんが来て「雑草だよ」って食べさせるとこういう風になるんです。料理人さんは栽培途中のものとか、花の蕾とか、そういったものを見つけて喜んで帰っていくって感じ。それを聞いてお店に食べに行って、おいしかったら真似してカフェで出す。

龍崎:そうやって新たに発見があるのも面白いですね。

芳野:そうですね。いろんな人が来ると、違うアイデアが入ってくるから、もしかしたら商品になったりする。それはそれで面白いかなって。

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「そこにしかない」を生み出すために

龍崎:自分も農業をやりながら、地域の発信をするって、ものすごくエネルギーがいると思います。しかも、それを10年も続けているってすごいことですよね。私たちはホテルをやっているので、そのホテルでの体験をよりよくするために、例えば、今やってる鍼灸整体とかを森の中でやるとか、上川町の資源を上手く借りるようなことはすごくやりたいと思いました。


地元のものだけで商品やサービスを完成させる、それが生み出すオリジナリティに、ますます注目が集まっていくだろう。

■やんばるハルサープロジェクト
やんばる(沖縄本島北部)の「美味しい」を繋ぐプロジェクト。農家とレストランが協力して商品開発をしたり、イベントを開催するなどして活動している。
HP http://haruser.jp 
■cookhal
やんばるのハルサー(農家)たちの野菜などがいただける八百屋併設のカフェ。
INSTAGRAM https://www.instagram.com/cookhal/

coordinate & photo セソコマサユキ

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