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カレンダーの向こう側〜 Vol.13 (番外編)【大河内 淳さん】伝統産業を新しい視点で捉え直し、次世代へつなぐ

現在、農家プロデュース&デザイン集団の『HYAKUSHO』では、クラウドファンディングプラットフォーム『CAMPFIRE』を通じて資金調達に成功した”農家さんの 365 日をそのまま伝える HYAKUSHO カレンダー”の制作プロジェクトを実施中です。

カレンダーは、ひと月にひとりずつ農家さんをご紹介。農家さんへの取材から見えたストーリーを通して、農家さんと消費者を繋げることを目指し、2022年に向けてお届けできるよう、走り出しています。

今回は番外編をお届け。カレンダーを卓上に置くための木製スタンドの作製を担当していただいた『大河内家具工房』の職人であり社長である、大河内淳(おおこうち・あつし)さんにお話を伺いました。

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大河内さんは、木曽漆器で有名な塩尻市木曽平沢で働く、家具職人。サラリーマンを経て30歳手前で漆の世界に飛び込みます。

現在は、メイン素材を漆から樹木へと移し、家具などを作成。伝統的な加工技法を、現代で使われる雑貨や家具に応用しています。

さらにその技法を、次の世代へ伝えていくことも考えていて「お客さんの話を直に聞いて、お応えする機会を積んでいって欲しい」と、工房で働く若い職人に期待を込めています。

「塗装」のルーツである、漆の世界へ

子どもの頃は虫取り少年だったと振り返るほど、虫と自然が大好きだった10代を過ごした大河内さん。出身地の愛知県名古屋市から、自然あふれる環境だとイメージできた長野県の大学へ入学しました。

家業は塗装屋だったこともあり、卒業後は自身も”塗り”の世界へ。自動車部品メーカーのサラリーマンとして、車の塗装分野で働きました。

5年後、実家に戻ってから車の板金塗装店に出向し、板金塗装の実務を習得、その後家業を継ぐべく裏方となる業務を勉強しました。しかし30歳手前になった時、この先の人生をどのように進むべきなのか、改めて考えました。

「車は、金属でボディを作って、その上に下地を塗り、接合部分を研いで中塗り、研いで、上塗りして、磨き上げる。それは、古代より伝えられる、漆塗りと同じプロセスであると知ったんです。

漆は日本で器はもちろん、刀や兜にも塗られてきました。言わば塗装の原点と言える漆の世界を、もっと見てみたいと思いました。」

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漆塗りが勉強できる学校を探し、長野県の上松(あげまつ)技術専門校への入学を決意。しかし、その学校は木工の専門学校で、漆の授業もありましたが、大半の時間は木工で作られた椅子やテーブルなどに囲まれる環境でした。

「入学して1年目の生徒さんたちの作品を見た際『こんなものができるのか』と感動したんです。次第に家具作りに惹かれていきました。」

全国総合技能展に自身で製作した木工作品を応募したところ、労働大臣賞特選を受賞。多くの取材陣が大河内さんのもとへ駆けつけます。

「将来は、漆を含めた木工の世界に行こうと、心に決まった出来事でした。」

まずは木工の世界の楽しさを知った大河内さん。その後、漆についてもっと勉強をしたいと、長野県塩尻市木曽平沢で漆塗りを教えている『木曽高等漆芸学院』へ入りました。

木曽平沢は漆を使った木曽漆器の産地として有名な地域。漆器の元となる生地は木から作られ、大河内さんが上松で学んだ木工技術が生きる場所です。卒業後は、漆芸学院の先生から勧められて、木曽平沢の漆器店に就職。漆を塗る前の「木地」を製作する木工部の工場長を務めました。その間にも、自分の作品となる木工家具を作りながら技術を磨き続け、2011年の43歳の時に、『大河内家具工房』を設立し、独立しました。

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伝統的技術を、現代雑貨『NOKO』へ

『大河内家具工房』では家具の受注制作のほか、自社ブランド製品を2019年にリリースしています。伝統的な木工技法に触れられるよう”山の伝統から生まれた暮らしの道具”というコンセプトで生まれた、木曽ひのきを使った『NOKO(ノコ)』という名のブランドです。

ラインナップは、ドリップコーヒーやお弁当箱、さまざまなケースなど。強度を保ちながら、木が持つ素材の質感を感じられる透明な飴色の漆が塗られています。

「漆器はハレの日だけでなく、日常生活の中で使って欲しい。洗剤で洗っても大丈夫ですよ。」

NOKOのお弁当箱も、息子さんのお弁当を毎日台所で準備するなかで、「つくってあげたい」と構想が練られたものです。

そして、自社ブランドのいいところは、「伝統技法を新たな価値で自分たちらしく表現して発信できること」と話します。職人たちが働くモチベーションにもつながっているそうです。

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木曽に伝わる技法を、次の世代へ数値で残す

『NOKO(ノコ)』には、木に引き溝を入れて、木を弧を描くように曲げる「挽曲げ(ひきまげ)」技法が使われています。職人たちが築いた伝統的な技法です。

『NOKO(ノコ)』の名は、ノコギリから来ていて、職人たちがノコギリで加工した美しい技法への尊敬の念が込められています。

一方で、それは職人の ”経験と勘” が生きる技法。技法を後世へ伝えていくという点では難しさがあります。職人から職人へ伝わる過程で、図面を描いて技法を継承していく方法が浸透していないため、時間をかけて見て覚えて、経験と勘を磨くことが主流となります。

「高齢化が進む職人の世界で、素晴らしい技法を絶やさず、次の世代へと伝えるために、大河内家具工房では、引き溝の深さや、間隔などを数値に起こしました。」

数値化して図面を起こすことで、客観的に技法が見えやすくなります。そして、数値をもとにNCルータ、CADなどの機械を導入することで、人の感覚に依存せず、かつ安全に製品の製造ができるようになりました。

「一枚板の無垢材で挽曲げをするのは難しい。材木を薄くスライスしてできたベニヤ板を張り合わせた合板はよくあるけどね。無垢材で挽曲げを、ほかの工房でやっていると、聞いたことはないですね。」

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伝統を引き継ぐ、若い職人たちへの想い

今回依頼したHYAKUSHOカレンダーの土台制作を進めていただいたのは、大河内家具工房に勤める若い職人の方々です。

HYAKUSHOスタッフの希望をもとに、その場で設計図を書いたり、試作品を作ったりと対応いただきました。デザインから制作まで、一貫してその場でできてしまうスピード感があります。

「私を介してしまうと、お客さんの気持ちや温度感が伝わらない。お客さんと実際に話して進めていった方が、作りがいがあるでしょう」と大河内さん。

お客さんとの打ち合わせの場をつくるなどして、若い職人がやりがいを持って働ける環境を整えたいと考えています。

「木曽の誇る伝統技法を、次の世代へ伝えていくのは若い職人たちです。面白さ、やりがいを感じながら、活躍していってほしいですね。」

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大河内淳

1967年愛知県名古屋生まれ。子供のころからの生き物好き。松本市にある信州大学で生物学(生態学)を学んだのが長野移住のきっかけ。30歳で木工職人の道に入り、43歳で大河内家具工房を設立し、今に至る。塩尻市贄川在住。

株式会社大河内家具工房 代表
木曽漆器伝統工芸士
木曽漆器工業協同組合理事

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