横須賀美術館 たてものばなし
都内からは若干行きにくく、気になってはいたものの行ったことのなかった横須賀美術館に行ってきました。都内から行くとしたら1日がかりになるかと思うので、ぜひ近くの観音崎灯台などと合わせて楽しまれてください。
こちらの記事では、建築の説明をメインに、山本理顕さんについてまとめています。訪問前の参考、もしくは後のお楽しみにしていただけますと幸いです。
建築概要
設計:山本理顕設計工場
施工:鹿島建設
竣工:2006年
敷地図:
開館時間・アクセス
開館時間:10時~18時
休館日:毎月第一月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月29日~1月3日
参考:https://www.yokosuka-moa.jp/outline/index.html
アクセス:バス停「ラビスタ観音崎テラス・横須賀美術館前」より徒歩2分、バス停「観音崎」より徒歩5分
車の方が融通が効いて便利だとは思いますが、私はこの時は横須賀駅からバスに乗って向かいました。ちなみに、猿島→横須賀美術館→観音崎の順に刊行しました。
横須賀美術館とは
横須賀美術館は、市制100周年を記念し、2007年に開館しました。
常設の谷内六郎館では、週刊新潮の表紙を長年描かれた谷内さんの作品が多数あります。観音崎の近くにアトリエを構えておられたことから、遺族の方が寄贈してくださったそうです。
他にも、海外や日本の近現代美術作品を幅広く所蔵しています。
建築の特徴
コンセプト
「地形を利用して景観と建物とを一体化させる」というコンセプトのもと設計されました。私はコンセプトを全く知らずにぷらりと訪れたのですが、本当に周囲の自然に溶け込んでいることはすぐに体感できました。
こうした立地だからこそのコンセプト、とても素敵です。
構造
ガラスと鉄板によるダブルスキン(二重皮膜)を採用することによって、以下の三つのポイントを実現しています。
ちなみに、この大きな鉄板は現場溶接をしたそうです。横須賀は昔から造船所がたくさんあって、優秀な職人が多いのだとか。
1 塩害対策
錆や経年劣化が少ないガラスを最も外側にすることで、塩害対策ができます。海風が常に吹く場所なので、重要な対策となります。
2 光の制御
内皮にはの鉄板に開けられた穴の大きさや数で光の量を自由に調整することができます。
展示用には閉じた空間を用意しつつも、エントランスホールや吹抜のギャラリーでは自然光を自由に取り込んでいます。
3 広々とした展示空間
ガラスの外皮は内皮の上に束材を立て、この束材をプレースで引っ張ることで支持しています。これによってほとんど柱のない展示空間を実現しています。
参考:山本理顕 - 「地域社会圏」という考え方:私の建築手法
調和
敷地の海側は、なだらかな斜面でそのまま海につながるようになっています。
美術館の前のシロツメクサ畑でしばらくぼーっとしていたのですが、そう、その時漠然と感じた落ち着きはこういう意図があったんだなと。後から背景を調べるのもそれはそれで答え合わせみたいで面白いですね。
海側から見た場合も、背後の森への視線が抜けるよう、ボリュームの半分を地下に埋めて高さを抑えてあります。
コミュニティ
よく見るこの美術館の屋上からの眺め、実はこの写真を撮ったエリアは入場券を持っていなくても誰でも入ることができるんです。
このような空間を設けることで、人の双方向の流れを作り、閉じた空間だけに終わらないようになっています。
二方向から出入りでき、通り抜けできるようにすることで、単に人々が展覧会を見に来るだけでは終わらないアクティビティを目指したそうです。
穴
美術館の展示空間に入るとまず目を引くのが、天井にランダムに空けられた穴でしょう。
直射光が入らない北側は、穴を大きくし数も多く配置。一方、南側は穴が小さく数も少なくなっています。南側の写真は展示空間のためとれませんでしたが、確かに展示品にさんさんと差し込むというより、ほのかに照らす形になっていました。
建築家山本理顕の考え方
経歴
1945年 誕生
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業
1971年 東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了
東京大学生産技術研究所 原研究室研究生
代表作品
埼玉県立大学
パンギョ・ハウジング(韓国、集合住宅)
天津図書館
建築に対する考え方
失礼ながら私はまだ山本理顕さんの著書を読んだことがないので、ここでは読んだ記事の中から印象に残った言葉を取り上げます。
横須賀美術館において、周囲との融和(高さを抑えるために地下を活用)、周囲の素敵な部分を活かす(穴から時間ごとに違う海が見える)といった点が意図されているのも、こうした考え方が根底にあるからこそなのかな、と感じました。
そして二つ目。地域社会と住宅についての発言。このテーマについて語られたものを多く見ましたが、残念ながら実際に見学しに行くには遠いのが悲しいところ。
感想
美術館の中の作品もとても楽しく鑑賞しました。
上で述べた谷内六郎さんの作品は、日常の何気ないシーンや小さな頃の思い出が懐かしく色鮮やかに思い出されて、その頃には足も疲れていたのですが、一つ一つじっくりと見て笑ったりしんみりしたりしました。
別館という構造になっていますが、お時間のある方は是非覗かれてみてください。
また、本館においてもはじめての出会いがあり、白髭一雄さん、加納光於さん、内田あぐりさんらの作品にスッと惹かれました。
意外に現代の作家さんは常設でもう一度出会うことが難しいので、心惹かれたアーティストの方々の別作品にまたどこかで出会えたら嬉しいです。
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