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“一強” だった氷川きよしの休養で男性演歌界はどう変わるのか

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2022年12月31日でもって一年間の休養に入った氷川きよし。どうなんでしょうね、動きが速く激しい芸能界からそんなに遠ざかったら、いかなきよしでも無事復帰できるかどうか、うんでも絶対的エースだったのでだいじょうぶかとは思っているんですけども。

きよしのスタイルといえば、ああいった新世代感を強くまといつつ&ポップスやロック・ナンバーも歌いはしたものの、提供される曲もヴォーカル・スタイルもトータルな世界観も、古くさい定型演歌イメージを保持していました。

つまり従来的なステレオタイプをひきずったままの(精神的)高齢演歌リスナーをも満足させられる存在でありながら、世代的にはまだ若く将来への希望も大きく明るかったのがきよし。消滅の危機に瀕しているといってもいいくらいな演歌界では最大の光でした。

ともあれ(一年間は)いないわけですから、「ポストきよし」方向へと男性演歌界が動きはじめていることは間違いありません。新たなムーヴメントはもうしばらく前からはじまっていて、すでにしっかりした流れを形成しつつあります。

きよしのような煌びやかで華やかな世界観提示にかわって、もっと日常的なふだん着感覚に根ざしたような新世代演歌シンガーたちはしばらく前から活躍するようになっています。山内惠介や三山ひろしなどは従来的な「王子さま」路線かもしれませんが、辰巳ゆうと、真田ナオキ、新浜レオン、中澤卓也らはストレート&ナイーヴなニュー演歌のイメージをふりまいています。

演歌でも、つくりこんだ世界というより、そのへんの玄関から出てきてそのまま電車に乗ってやってきた近所の身近なおにいちゃんというような、そんなフィーリングで活動しているのが新世代若手演歌歌手です。

そうした歌手たちは(演歌とは関係なかったはずの)AKB48的な「会いに行ける」系イベントを積極的に展開し、フレンドリー&ファミリアー感を強調しています。CDショップやショッピングモールなどで歌唱キャンペーンをやり、2ショット撮影&握手会をさかんに開催しています。

ファンの接しかたもそれにともなって変化するようになっていて、歌手や会社側の提供するネット活用のサービスについてくるようになっているんですよね。いまやソーシャル・メディア&サブスク時代で、演歌でも新世代はそれらを積極的に活用していますから、ファンもそれを楽しむようになっています。

こうしたことは、いまだサブスクに曲がなくソーシャルでの本人アカウントもないような旧世代、たとえば(女性だけど)水森かおりとそのファンなんかとは根本的にありようが異なります。ライヴ&テレビ&レコード or CDでっていうような時代は去りつつあるんですね。

演歌みたいに高齢ファンが中心になっているような世界では、もちろんそれらにぜんぶついていくのは厳しいと思っているかたもなかなかいて、たとえば昨年夏に中澤卓也の新曲が出ましたが、配信リリースからCD発売まで一ヶ月ありました。

だから最初はストリーミング/ダウンロードで新曲を楽しむしかなくて、卓也本人アカウントのコメント欄を読んでいても、「なかなかむずかしい、孫にやってもらった」と本音を寄せるファンもそこそこいましたから。スマホ一個あればカンタンにできちゃうじゃないかとぼくなんかはイージーに考えていますが、そういうもんじゃないみたいです。

新世代演歌歌手は(性別問わず)、ド演歌ではない耳なじみいい曲と歌唱法を選択しているというのも、音楽的には大きいこと。このブログでいままでさんざんくりかえし力説してきたことですが、従来的な濃厚劇的でエモーショナルな演歌ワールドは、きよしが最後の存在だったとみるべきなのかもしれません。

むかしながらの演歌がなくなってしまうのかとさびしさをおぼえるファンがいるかもしれませんが、ルーツをたどれば古典演歌だってもともといっときの流行にすぎなかったもの。大衆音楽の世界は時代の変遷とともに姿を変えていくのが健全です。諸行無常。

(written 2023.1.18)

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