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うつろうものへの子守歌【ブレスオブファイアIV うつろわざるもの -】

「メンタルにガツンとくる作品とか、ボーイミーツガールが摂取したくなってきたよね。旬の時期だし。」そんなことを話してたらおすすめされたのが「ブレスオブファイアⅣ うつろわざるもの
シリーズ未プレイながら、実のところこの作品の名前だけは目にしたことがありました。初代と2はswitchのNintendo onlineで配信してるし、なにより本作は少し調べただけでも「鬱ゲー」と評されているのが目に入ります。お、俺にどうしろと言うのだ…。

しかし、世間からの評価が誇大化しキャッチーな表現が前面に押し出されるのはよくあること。実情がどうかは分からないし、鬱展開と言ってもこっちだって衝撃的な作品に出会い枕を濡らした経験は少なからずあるわけで。つまるところ若い竜のアンブローシアを揉んでやろうという気概はあった。

そ、そういう方向性か~~~~~~~~~~~~~
正直なところ、キャッチコピーの「逃げては、いけない」やOPで雄大な自然や竜のムービーが流れる中でCV山口勝平氏が演じるリュウの「お前は、何をしようとしている…。どこへ行こうというのだ…」「うつろわざるもの…!そうだというのかぁッ!?違う…人は、人はそんなに汚れてはいないッ!」を目の当たりにした時点で只事でないものを感じたわけですが。

確かに、本作は「鬱ゲー」の評を戴くのもやむなしと言えるハードな展開はありました。とはいえゲーム全体が陰鬱な世界観に彩られていたのか?と問われれば、私は間違いなくNOと返すでしょう。いやまぁ何も知らない状態で遊んだ当時のプレイヤーと、作品の評価をある程度知った状態で身構えながら始める自分とで抱く感想が同じになるはずもありませんが、それはそうとシリアス展開だけでなく、ゲームとして面白かった作品なのは間違いなかったんですよ…!


実は愉快なゲームなのでは?

ゲーム開始後、まず目につくのは町のオリエンタルな雰囲気でしょうか。異国情緒が溢れるBGMに胸を掻き立てられるし、とにかく広がる砂漠、荒野…といった風景とそこに力強く息づく多種族のキャラクターたちの質感の融合した世界観に唸らされます。
特に序盤で行けるアスタナの町なんかは特にその雰囲気が強くて、マップとしては狭いし序盤では大きなイベントがないにもかかわらず印象に残っています。なんか町のど真ん中にビッグマグナムみたいな大砲が鎮座してるし…。


メインとなる世界観もまた良い。異世界から召喚された「うつろわざるもの」と呼ばれる神々が世界に影響を与えつつも静かに見守る壮大さや、記憶がまっさらな状態で世界に投げ出された「リュウ」と、その半身であり太古の昔にヒトに召喚されて帝国を築いた「フォウル」の視点が切り替わりながら世界の輪郭をプレイヤーが知る構成が贅沢なんですよね…。

そしてこの作品、とにかくミニゲームが多い!!最初に行くサライの町でいきなり「情報を得るために酒場でオヤジに酒と食事を奢る」ゲームが始まった時は思わず目を剥きましたがそんなのは序の口。ダムに行けば水門を閉めるためにホイールを回し、船に乗せてもらうのに荷物の積み込みを手伝い、船に乗ったら乗ったでレースゲームが始まる…などもう行く先々で何かしらのミニゲームが発生する!

ともすればテンポを損なうのでは…?と感じるほどに挟まれるミニゲームの数々はバラエティ豊かでプレイヤーを飽きさせない。時には「今はストーリーの先を見たいんだよ!!」となりましたが、それはそうと楽しいんですよねこれ…。砂船レースとか無駄にジャンプ台に乗ってショートカットを狙ったりしちゃうし。
ついでにクオリティが高い「釣り」も見逃せません。各地に釣りポイントがあるんですが、魚がヒットしてから少しずつ引いていく緊張感とか、ルアーの組み合わせや滝壺・草陰にいる大物を狙うなどシステムの細かさで「もうこれ単体でお出しできるやつだよ…」と、もはやこれがしたかっただけでは的に異様な存在感を放ちます。釣りのミニゲームが凝ってる作品は名作って古来から決まってるもんな!!(トワイライトプリンセスとか空の軌跡に視線を向けながら)

異様に凝った釣りパート。本編にまで食い込んでくるのほんと笑った


パーティメンバーも個性豊か。ヒロインのニーナは人懐っこく温和で癒し存在だし、未熟ながら族長として皆を引っ張ろうとするクレイは作中でも葛藤を経て成長する趣きが描かれています。無口で何考えてるか分からないけど戦闘では「羅刹」のスキルで高火力を放つサイラスは誠実さがにじみだす瞬間が好きだし、アースラは帝国側の軍人として実直な面があっておっぱいがデカい。

特に私のイチオシは「マスター」。鎧に宿った生命ということで、少しズレた言動や笑うタイミングがおかしかったりと笑いを誘いつつも時に本質を突いた指摘をし、いざ戦闘になるとロケットパンチを放つわ高位魔法を放つわ敵からのヘイトを集めるタンク役として機能するわ、移動時はローラーでダッシュしてマントが靡くなど、可愛さとロマンの両立がたまらない。でも君だけ世界観違くない???

かわいいね

戦闘システムも、前衛3人の連携でコンボを決めたり後衛とシームレスに入れ替えるなどの戦略性が面白い上に、戦闘中に敵の技をラーニングすることで後半になると技の付け替えでキャラ毎の個性を出す楽しみが濃いなど、脇道の充実具合に対してRPGとしての醍醐味も損なっていない辺りのバランス感覚が凄くいいんですよ!
「リュウ」は無口系主人公ながらドット絵のアクションが細やかなのでむしろ表情豊かにも感じるし、いざ戦闘になると刀を構えたモーションの格好良さに惚れ惚れする。「トランス」による竜形態の変身や竜召喚とかめちゃめちゃ格好いいですしね。最初は思ったより弱くない?と感じたものの、中盤で変身できる「カイザー」は条件を満たすまでこちらの操作を受け付けず全体攻撃の強力なブレスを放ち続ける、暴走形態じみたアクションがたまらない…!!

男の子ってこういうのが好きなんでしょう…?


更には各地にいる伝承師に師事することでステータス補正が乗るなど、やり込み要素の奥深さも目を見張ります。ややエンカウント率が高めなきらいはありますが、ワールドマップの移動ではエンカを避けられたりファストトラベルが中盤で手に入るなどシステム面でも親切だし、快適さはなかなかのもの。
30時間程度でエンディングに到達したものの、やり込み要素を全部回収したらちょっと驚くくらいボリュームあるんじゃないかなこれ…。

あとなんか妙にパロディあるの草生える。序盤とかアイテムにサラっとネタが挿入されるならともかく、最終ダンジョンで豪鬼の瞬獄殺みたいな技を出してくる(ちゃんとスイーッて近づいてから画面が暗転し、ボコボコにされる流れが無駄に丁寧)狂おしき鬼みたいなカラーリングのバンデットは何!??

ほんと何????


なので、いわゆる前評判としての「陰鬱さ」よりも愉快さの方が目立って感じるんですよね。うんまぁここだけ見るとね…


とにかくやるせない世界観


そんなことを言いつつこの見出しかよ!感はありますが、このゲームまぁ序盤から、穏やかそうな顔をしてなかなかのやるせなさをお出しされます。
そもそもあらすじからして、「東側大陸の連合国と西側大陸のフォウ帝国との戦争で互いに疲弊しきった果てに休戦したが、国境付近を慰問に訪れた連合のウィンディア第一王女エリーナが行方不明になる」「帝国を刺激したくない連合は捜索に二の足を踏み、業を煮やしたクレイとニーナが独断で捜索に出る」と、ままならない政治の世界が描かれる。

行く先々でも戦争の爪痕は顕著にその姿を露わにします。最初に行くサライの町では商人が客を欺き高値を吹っ掛けるのが目に入りますが、「戦争がもたらした不安から、他人を騙してでもみんな少しでも蓄えを増やそうとしている」背景が語られると、思わず上げた拳の振り下ろし先が何処にあるのか考えてしまう。
更には「呪砲」なる兵器によって一帯が汚染され、特殊な防護着がないと立ち入れない場所や、戦時中に山を越える抜け道で多くの人を逃がした村は帝国の侵略を恐れて村中に罠を仕掛ける…など、一部はコメディタッチに描かれますが、それでも間違いなく存在する負の情景で嫌な気分にさせられます。

この世界は成り立ちからして終わってるというか、大前提として別世界から「うつろわざるもの」を召喚しないと様々な自然現象を制御できない実質神頼みな世界にも拘らず、「うつろわざるものが活性化すると竜の気が満ちてモンスター達は自分を神と思い込んで暴走する(ヒトもこの気の影響を受ける)」とかいう現象が発生するとかいう設定があったりします。詰んでんじゃねぇか!!!!!
なお召喚されたうつろわざるものは世界のために力を使い果たすと竜として自然と一体化する、あくまでこの世界にとって都合が良いシステムなのも最悪さを加速させる。

リュウを都合の良い神様にしないで


そんなわけで、このゲームはシステムやミニゲームの愉快さやコメディタッチなやり取りを押し出しつつも、人ならざる主人公を通して人の悪質さや築かれた世界のやるせなさを見せつけられる、どこか曖昧というかアンバランスな空気が蔓延り続ける奇妙な温度差が全体的に散りばめられている…!

これでもリュウ編はまだ良いんですよ。人の悪性に触れながらも、愉快なミニゲームをこなしつつ仲間たちと世界の真相を探っていく中で少しずつ打ち解けていく、シリアスだけどややギャグの混在具合が楽しいので。
問題はもう一人の主人公たるフォウル編。イベントを挟んでリュウと視点が入れ替わりながら描かれる、「ヒトの善悪」が剝き出しの寓話めいた残酷さに彩られている。

太古の昔、人に請われて帝国を築きながらも力尽きてたフォウルは、人に帝位を譲って眠りにつき、復活した暁にはまた帝国を治めると盟約を交わした背景があるものの、現皇帝は盟約を反故して抹殺しようとする…という中々のハードさがフォウル編のウリ。
そもそもフォウルがリュウとは比べ物にならないくらい強いのがこの無常さを引き立てます。初期レベルは60台で、これはリュウが普通に進めていくと終盤でも追いつけないほど(私は最終的に35でクリアした)。フォウル編序盤で軽々と倒す雑魚敵はリュウ編では終盤のエネミーであり、これが信じられないほど強くて下手すれば全滅もかくやというレベル。こんなに強くても、いや強いからこそ人から追いやられてしまうのか…。
なので、フォウル編は主に「強大な力を持つ神の化身が帝国の将軍や兵士に追われ、そのたびに傷つき倒れる」、いわば顔のいい男がひどい目に合わされながらも人々に助けられ続け、上げて落とされるのを見ていくパートになります。闇の性癖みたいだぁ…

変身する上にニチアサ巻きで復活する顔のいい男(水落ちもする)、実質ライダーなのでは?

ここで印象的だったのは、フォウルは人間の愚かさを知りながらも積極的に殺そうとはしていないことでした。現皇帝が己を邪魔と考え刺客を差し向けてられてもどこか諦観じみた超然さを示したり、それでもなお古の盟約に従い帝都を目指す在り方に宿るのはいかほどの想いだったのか。人ならざるもの故か、定命の者の営みを遥か彼方から見守っているような、関心とも無関心ともつかない表情がグッとくるんですよねこれ…。

リュウ編において、「うつろわざるものに関わったものは運命を巻き込まれ大きく押し流される」摂理が語られるものの、フォウルのそれはより過酷なのがなおのこと辛い。
中盤、フォウルを人ならざるものと気付いてもなお献身的に看病するマミに人の善性を見出しながらも、自分と関わったことが原因で彼女が命を落としたり、懐いてきた獣がフォウルの道行を拓くがごとく自ら生贄になるなど、その運命はまさしく命が積み重なって舗装された血路とでも言わんばかりに容赦のない展開の連続で胸やけがする。

マミがフォウルと関わったことで「呪砲」の弾丸に利用されるシーンは、人の悪性に諦観しつつも善性を少なからず信じてきたフォウルが、真に見限ってこれまで見たことのない表情で哄笑を上げるやるせなさで思わず呻いてしまった。このイベントを経たフォウルは人や町を破壊することを躊躇しない、まさに荒ぶる神として君臨します。
マミが付けていた鈴が落ちてきたことで彼女がどんな最期を辿ったのか察する瞬間の絶望感がすごいし、私は確認しそびれたものの、このイベントの後に持ち物の「宝物」欄にマミの鈴が追加されているらしいですね。心底性格悪いなこのゲーム!!!!!!!!!

呪砲が配置されてるアスタナに終盤訪れると、「弾丸に選ばれた人間は生かさず殺さずの苛烈な拷問を受ける」ことが語られたり、人体実験の痕跡や解剖図が記された一室がある辺りも生々しさを加速させるし、この辺りになるとプレイヤーもやはり人類は愚か…!なメンタルに到達してるのはある意味で親切設計でしょうか。

特に「ユンナ」は、まさしく本作において人間の悪性を一身に背負ったキャラでしょう。欲望を満たすために他者の命や尊厳を踏みにじることを厭わず、弱者を気取って権力者を動かしこちらは手を出すこともできない。この最悪性に加えて、探し求めていたエリーナをついに発見したシーンで明かされる真相のおぞましさとその末路は、ここだけ切り取っても鬱ゲーと言われるのもやむなしだな…と沈痛な面持ちになることしきり。

「鬱ゲー」で調べたら100回は出てきそうなキャプ

エリーナは序盤でチラッとしか出てないから思い入れという点では今一つな点がありますが、それを差し引いても「連合に打ち込む呪砲の弾丸に利用するため拉致された」「度重なる人体改造の果てに死ねない体になった」の容赦のなさでウゲーーーーーーーーーーーーッ!!!と慄いてしまった。再会の直前、実は彼女の内臓で作られていたというダンジョンを何も知らずに踏破して「グローランサー以来の新鮮なグロ肉ダンジョンだ~~~!」と無邪気に喜んでいた俺に謝れ。
このシーンは、エリーナを見たリュウが何かを察してるような素振りをしたり、葛藤の末に介錯するクレイ、無力感に苛まれる仲間たち…とシリアスが極まった終盤においてなお暗い影を落とすのが嫌でも伝わったし、前情報なしだった当時のプレイヤーの衝撃はいかほどだったのか…と想いを馳せてしまう。
イベントの後でエリーナがいた部屋に入ろうとすると「今、戻れば辛くなるだけだろう…」とだけ出るのがもう…。


二人の竜皇


かといって、人間を善悪二元の地平で語ることを本作は良しとしていません。それを色濃く感じたのが商人の「マーロック」です。

連合にも帝国にも中立な商人であるマーロックはエリーテ誘拐の片棒を担いだ(本人は詳細を知らず案内しただけなので仲間と断じるのはなんですが)悪人扱いで登場しますが、中盤で利害が一致した際は快く手助けをしてくれる上に、彼を伝承師(師匠)に選ぶと獲得マネーが増えたりアイテムのドロップ率が上がるなど割といいアビリティがもらえる!
本作は店売り装備が比較的高価なので金はいくらあっても足りないし、レアドロップのために敵を倒しまくることもままあるため本当にありがたいんですよこれ…。
キャラの印象とプレイ体験によって、「悪い面もあるけど良い人」という一見矛盾した、されど人物像として当然の姿が浮かび上がることで、世界は善悪どちらにも極端に傾くのではなく総体でバランスが保たれている「中庸」なのだと感じさせます。



多くの出会いと別れを越え、黄昏が満ちた皇城の最果てでフォウルと「初めての再会」をするラストバトル。本作の集大成となるのがまさにこの場面で、めちゃめちゃに好きなポイントでした。一騎打ちイベントの後にフォウルが問いかけるのは、リュウの目を通して世界を見てきたプレイヤー自身。

「うつろうものは、ヒトは…。無知で、傲慢で…。いつわり、傷つけ、殺し…。どこまでもおろかだ…。」
「ヒトは、身勝手だった…」
「お前の見てきたヒトは、残忍ではなかったか?」
「お前の見てきたヒトは、おろかではなかったか?」

今までの後味が悪い展開や人の悪意が現れたシーンがフラッシュバックする演出とともに、お出しされるリュウの選択肢が「そうかも知れない」「…分からない」と、人の善性を肯定できてないのが良い。リュウ自身が冒険でみた世界やフォウルの記憶を読み取ったことで、どうしたってフォウルに肩入れしてしまいそうになってるのを感じさせるんですよ。

「好きだの、信じるだの…。そんな儚いものが何になろう…!?」

そんなフォウルがこの言葉を口にした瞬間、脳裏に浮かぶのがマミと過ごした穏やかでささやかで、そしてもう二度と取り戻せない日々なのがとにかく切ない。

そして、最後の問いかけ。「ヒトは、守るにあたいしない…」に対して、

「そんなことは、ない」とはっきりと言い切る。人の愚かさや残酷さを知ってもなお、確かに輝く善性や営みの温かさ。それを守るのだと、迷うプレイヤーの私を置いてリュウの心に意思が宿ったように思えて、ただただ最高の気分になってしまった…!
というか、フォウルがこの期に及んでもなお人の善性に一縷の望みを捨てきれてないので本当に泣きそうになってしまう。選択肢によってはバッドエンドルートになりますが、共に冒険した仲間を倒して人類を滅ぼさんと歩みだしたフォウルの独白が「私は…まちがっていない」なの辛すぎんか?己の行いに迷いがないやつはそんなこと考えないんだよ…。

そこからのラストバトルはまさに総力戦!仲間全員を活かすとともに手持ちのリソースを全て使い切りかけるまで追いつめられる、最強の敵として物語のクライマックスに立ちふさがるのがアツいんだよな~~~~~!!いやでもさすがに第二、第三形態で合わせて1時間くらい戦ったので、途中からはもう「ワンチャンこれイベント戦まであるでしょ!どっかにいのるとかクローズ・ウィズ・テイルズとかないの!??」とキレそうにはなりましたが。

神々であるうつろわざるものを巡る旅路を描いた本作で、終章のサブタイトルが「うつろうもの」なのが良いよね…。
竜たちをもとの世界に還し、リュウ自身も神の力を捨てることで人としてこの世界を生きていく。多くの命が失われ、覆らなかった悲劇はあったけれど、神無き世界でうつろうもの達の流れは紡がれる、無常にも新たな門出にも似た寂寥感と達成感が心地よい…。





ユンナ生きてんじゃねーか!!!!!!!!これどう解釈すればいいの!??
鎧武の最終回手前でサガラが普通に生きてた時並みに仰天しましたが、まぁぶっちゃけユンナって悪人ではあるけどあの世界にいる悪党のひとりでしかなく(罪の重さはかなりのものですが)、そもそも世界の営みとかのスケールから見ると黒幕でもなんでもないんですよね…。
神の時代が終わり、人が自分たちの意思で歩き出す世界になったからこそ、ユンナのように人類の悪性を体現した者は神=プレイヤーの介入なしで、あの世界の住人が立ち向かわないといけないのかもしれません。……って感じで味がしなくなるまでガムを咀嚼しまくったごとき時間を経た結果のみこめるようにはなりましたが、いやそれでもこれは…ちょっと……どうなんだろう……。



コミカライズ版もクオリティが高くて唸る。絵や構図がとにかく上手いのはもちろんのこと、原作の展開をなぞるとともに記憶がまっさらなリュウがまだ見ぬフォウルへ強く惹きつけられる描写が随所にあって、これぞ運命の導きというのを前面に押し出されたドラマチックさがたまらない。ニーナがリュウやサイラスの心を氷解させるシーンがあるのも、リュウが人類の希望を見出す相手としてヒロイン感が高まっていいんじゃないでしょうか。
ゲーム版で好きだった「マスターが詰め寄るごとにフェイスウィンドウもアップになって圧が強くなる」シーンやサイラスが塔で再加入する盛り上がりの再現度がいちいち凄かったなぁ。

ミニゲームやおつかいイベント(実はこれが本当に多かった)がオミットされ全体の構成がスッキリとテンポ良くなっているものの、その結果ゲーム版にあった愉快さまで減衰し、全体的にシリアスな空気が重くなってしまったのはちょっと笑った。あれは必要な無駄足だったんや…。
あとフォウルがいいですねーー!!フォウル編では息抜きや日常のコンテクストたる釣りができなかったんですが、コミカライズ版ではマミに保護された後で釣りしてるんですよ!!!まぁそのあとの結末は変わらないんですが…。呪砲を撃ち込まれて傷つき、マミの末路を知り人類に絶望したシーンでは、フォウルの身を裂くような悲哀が原作を凌駕せしめんとする迫力に満ちていたし、そのほかのシーンでも細かな表情が良い味を出してるんですよね。マミの鈴が終盤でキーアイテムになるのも良いアレンジでした。フォウル好きとしてはこのエンディングの方が実は好きだったり。
ついでに、ユンナを倒せないまでも一発殴ったあたりは「で、凸凹の舗装~~~!!」て笑ってしまった。

個人的にはアースラの扱いが魅力的。ゲームでは「リュウたちと敵対していた帝国側の軍人」という美味しい設定を上手く料理できてなかった感がありましたが、こちらでは「皆が落ち込んでいる場面で、帝国人の負い目から声を掛けられない」葛藤があったり、エリーナが帝国に渡る作戦に参加してしまっていたのが明らかになったりと、無から湧いた曇らせ展開の数々によって美しく仕立て上げられている…。


愚かな人類もいた。地味に多いエンカウントや徒労展開がちょいちょいあるおつかいイベントに辟易することも、カメラワークの見づらさに困惑することもあった。それでも世界は、人々はそれだけではない。そこには仄かに輝く営みもあったのだ…というわけで、「鬱ゲー」と一言で断じるには勿体ない良作だったし、やりこみにはあまり手を付けてなかったとはいえ世界を存分に楽しめたので、前評判に物怖じせずやってよかったなぁ。


ところで、これと一緒に勧められたのが「ブレスオブファイアⅤ ドラゴンクォーター」なんですが、こっちはパッケージ見た瞬間に「絶対これシリアスじゃん!!!」となったんですが色々と大丈夫ですかね…。


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