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『シャイニング』双子の少女の誕生

 『シャイニング』に登場する双子の少女たちは、もはやこの映画のアイコンだ。
 この双子の少女のイメージは、写真家ダイアン・アーバスの作品にキューブリックが触発されたのではないか、と言われているが実は偶然の賜物だった。キューブリックは凝り固まった完全主義者ではない。試行錯誤しながら、より良いものを探し求める。その過程で偶然が幸運をもたらすこともあった。

 スティーブン・キングの原作小説では双子でなく、8才と6才の姉妹という設定だった。キューブリックもそのつもりで、姉妹役を募集するオーディションでは双子という条件は無かった。

 キューブリックの助手レオン・ヴィターリがオーディションを担当していたが、役に合う姉妹はなかなか見つからなかった。
応募して来るのは演技を習っている子供ばかりだった。いかにも演技っぽい不自然な喋り方をする子たちばかりでレオンは落胆していた。
オーディションのまさに最終日、あの双子の少女たちが現れた。
彼女たちを見たレオンは、
「ダイアン・アーバスの写真の双子だ!」と思った。
レオンは彼女たちの映像を10テイクも撮り、同じ撮影所内にいたキューブリックの所に走って行った。
「見つかりましたよ、見つかりました!まるでアーバスの双子です!」
キューブリックも映像を見て「決まったな」と言った。 ※註1

ダイアン・アーバスの作品

双子の少女はリサ・バーンズとルイーズ・バーンズという。バーンズ姉妹は当時10歳だった。
2015年、デイリーメール誌のインタビューで二人は当時を回想する。※註2

「私たちは演劇学校に通ってませんでしたが、テレビの仕事をしたことがあって、その時のエージェントが“スタンリー・キューブリックが姉妹を探してます”と母に電話をくれたんです」

 キューブリックの希望で彼女たちは長期間毎日、撮影所に通っていた。リサが回想する。
「♪メリーは仔羊を飼っている…と童謡を歌う場面も撮影しました」
「とても特別なパーティーに招待されてるような感じの毎日でした。私たちはスタジオのセットでいちばん幸運で幼い人間でした」


 共演する場面は無かったが、撮影の合間に主演のジャック・ニコルソンにも遊んでもらった。ルイーズは思い出す。
「セットでジャックの膝に座ってジョークを言い合ったのを鮮やかに憶えています。私たちはチェスをしたりして寛いで遊びました。
ジャックの娘であるジェニファーのことをたくさん話しました。ジェニファーはアメリカで生活していたので、イギリスで撮影しているジャックを訪ねて来ることは出来ませんでした。
彼はとてもジェニファーに会いたがってた。彼はサンドラ・ナイトと離婚して12年経っていて、ジェニファーは母親と一緒に暮らしてたんです」

 二人はセットで11歳の誕生日を祝ってもらった。ルイーズは回想する。
「キューブリックは、撮影が終われば二度と会わないであろう二人の子供のために、時間を割いてお祝いしてくれたんです。素晴らしいことでした。まるで家族のようだと強く感じました。さらにキューブリックは『ケンジントンの惨劇“Kensington Gore”』と名付けた、撮影用の血が入った小瓶をくれました」
(筆者註:Kensingtonはロンドン西部の地域のことか?ケンジントン地区とエルストリースタジオは約30Km離れている)


成人してリサは弁護士になり、ルイーズは科学者になって論文も出版した。
今も二人は世界各国のイベントに招待されてファンとの交流を楽しんでいる。


※註1:ドキュメンタリー映画『キューブリックに魅せられた男』より
※註2  https://www.dailymail.co.uk/news/article-3298376/Grady-daughters-horror-classic-Shining-reveal-like-working-movie.html 2023/4/2閲覧


左がリサ、右がルイーズ


中央はバーテンダーを演じたジョー・ターケル(2015年のイベントで)


2022年、メイキング本の出版イベントで

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