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<エンデバーメンターインタビュー:中谷昇氏>国際ビジネスの専門家からのメッセージ

電機産業、戦略系コンサルティング、エンタープライズソフトウェア産業において25年以上の経験を持ち、日本、アメリカ、フランスにおいて国際的な経営者として活躍し、エンデバー・ジャパンのメンターを務める中谷昇氏にお話を伺いました。
 

国際的キャリアの原点である語学

Endeavor 前田:
中谷さんは日本語、英語、フランス語がご堪能でいらっしゃいますが、どのような事がきっかけで語学を習得されたのでしょうか?

中谷:
小学生の頃、叔母が上智大学の外国人留学生を受け入れる下宿をしており、その留学生達からのアルバイトをしたいという要望がきっかけで、彼らが私の教師となり、私は英語を学ぶことになりました。フランス語を学び始めたのは、大学卒業後、大手電機メーカーに入社した際です。入社から1年も経たないうちに、フランス拠点への赴任が決まりました。当時、会社も積極的に学習の機会を提供してくれました。日本での語学学校での勉強のあと、仏ブザンソン大学のプログラムに3ヶ月間通い、その後、フランス拠点での勤務が始まりました。英語を話せる同僚やパートナー企業が少なかったため、フランス語を習得せざるを得ない状況でした。後にアメリカに移住し、MBAを取得した後、現地で職に就き、11年間にわたり米国生活をしました。私は帰国子女ではありませんが、子供の頃から外国人と交流する機会もあり、将来外国で仕事をすることも普通に考えていたかもしれません。

日本企業の国際展開

Endeavor 前田:
前職のエンタープライズソフトウェア企業では米国とフランスの子会社関連会社の設立をご経験されていますが、日本企業が海外展開するにあたって感じられた障壁や得られたことはどのようなことだったのでしょうか?

中谷:
海外展開と言っても、日本の既存事業を単に海外展開するのではなく、海外のスタートアップ企業を買収してグループの事業ポートフォリオを拡大する戦略を採りました。まず、M&Aヴィークルとなる子会社をニューヨークで独りで設立し、現地でリサーチを開始しました。どの種類の企業を買収すべきか、どのようなビジネスプランを展開すべきかについて、基本戦略から立案しました。
日本の親会社は東証一部上場企業でしたが、日本国内のBtoB事業に特化していたため、海外では完全に無名でした。投資銀行と提携しようとしても、最初はほとんど門前払いに遭いました。さらに、スタートアップ側からしても、この日本企業に買収されても大丈夫なのかという疑念もあったと思います。こういった点を地道に説得することも1つの障壁でした。したがって、一般的な日本の大手企業の海外事業展開とは異なる一連の課題が存在したと思います。
一方で、このニューヨークの子会社はワンマンバンド(一人会社)だったので、CEOとしての業務と同時に社員の業務も全てこなし、法務、財務、人事労務などの分野で多くの実務ノウハウを身につける機会にもなりました。さらに、「私がやらなければ誰がやるのか」という当事者意識も強くなりましたし、また新たな人脈が築けたことは非常にプラスでした。毎日のように様々なカンファレンス類に参加し、金融機関の関係者とのコネクションを築くために奔走したことで、親しい人間関係が形成され、ますますコネクションが広がっていきました。これらの人脈は今も非常に貴重な資産となっています。

日本企業の変革と成長の必要性

Endeavor 前田:
国際的なビジネスをご経験されている中で、今後の日本企業のあり方についてどのようにみられていますか?

中谷:
昔に比べると日本の大企業は世の中にインパクトを与えると言う気概が少し薄れてるという気はします。30〜40年前の日本企業は常に世界をリードする製品を提供し、それに誇りを持っていました。新しい生活様式を自分たちが作るというような当時の勢いや気概が今の大企業では少し薄れてるのかなと感じています。
しかしそれは、そういう人たちが日本にいなくなったと言う訳ではないと思っています。
大企業ができないのであれば、スタートアップが強烈な問題意識を持って、世の中に自分たちのやってることで良いインパクトを与えようと信じてやっていくというのがこれからの流れとなるべきで、これが期待の星なのかなと思います。
一方でグローバル化のマインドセットという観点からもともと日本が不利な点もあります。日本の市場が比較的大きいということが逆に問題となっているという点です。実際のところ、Day1からグローバル展開を考える日本企業は少ないと思います。例えば、私がヨーロッパに住んでいたときに感じたことですが、ベルギーやルクセンブルクなど小規模な国では、事業を国外展開して他国で収益を上げない限り、たいした成功にはつながりません。
アジアでは韓国も同様です。人口は日本の半分以下であり、国外展開しないと企業として成長が難しいでしょう。彼らにはDay1からグローバル化を念頭に置く強い決意があると思います。日本の市場規模については、将来的には人口も減少し縮小していきます。そのため、企業を立ち上げる際には、日本であっても今からDay1段階で海外展開を考えることが重要だと思います。
 

エンデバーとの出会い起業家支援の意義

Endeavor 前田:
現在も外資の日本法人 ARaymond Japanの代表取締役を勤めていらっしゃり、本業もお忙しい中でエンデバー・ジャパンのメンターとして起業家支援にご協力いただいていますが、どのような思いからのお取り組みなのでしょうか?

 中谷:
前職時代にイギリスの大手経済誌が主宰する経営者のクラブでエンデバー・ジャパンのオペレーションマネージャーを務める小田嶋さんと出会いました。その後、私がCEOを務めていたフランスのスタートアップの創業者の1人も別ルートで小田嶋さんと繋がっていたことを知り、エンデバーのことを調べると、以前その会社の人脈で友人になったコロンビア人のAIの専門家が米国でエンデバーのメンターを勤めていることもわかったのです。単純ですが何か縁を感じました。
最終的には彼から、「とても価値のある仕事だ」と言われたことから参画させていただくことになりました。
私は過去に、事業会社側としてスタートアップの買収の経験を持っています。よって、戦略的買収をする側のメンタリティや論理もわかっています。また、買収後はこのスタートアップでCEOを務め、創業メンバーと協力しながら、戦略立案、リソース管理、マーケティング、販売などさまざまな困難を乗り越えることも経験しました。さらに、その10数年後は投資銀行を介さず、独自にこの会社の売却先をヨーロッパで見つけ、全ての売却実務実行を自身で行いました。起業の経験自体はありませんが、私は起業家の皆さんが抱える悩みや遭遇する課題を理解していると感じていますので、これまでの経験を活かし、メンターとしてお手伝いできると考えています。

起業家に求められる資質とスキル

Edavor前田:
ご自身もスタートアップのCEOとして組織を牽引されたご経験を持ち、現在メンタリング通じて様々な起業家との交流をお持ちです。起業家に必要な資質やスキルについてどのようにお考えでしょうか?

中谷:
起業家は自分が行っていることに強い信念を持ち、簡単に諦めないことが重要です。ファイナンスやマーケティングなどの具体的ビジネススキルも大切ですが、もっと重要なのは、この信念です。多くの起業家との対話を通じて、自分のビジョンを強く信じ、しぶとく取り組むことが成功の鍵の一つだと感じています。
自分のビジョンを信じるとは、技術分野の専門家であれば自身の技術力を信じることかもしれませんし、マネジメント層であれば、既存のサービスに対して「何かがおかしい、もっと良くできるはずだ」という小さなイノベーションの芽を見つけ、強い問題意識を持って取り組むことです。困難に直面しても、強い意志があれば、何とか乗り越えることができます。
起業家が単に金銭的な成功だけを追求する姿勢ではなく、自分のビジョンを確固たる信念で追求する姿勢が、成功につながると考えます。単にお金を稼ぐゲームとして起業を考える人は、しぶとさが足りなく、最終的には投資家からの信頼も得られないかもしれません。起業家としての資質は難しいテーマですが、それは生まれつきのものよりも、後天的に自分の経験や生い立ちによって築かれた問題意識や、何かを信じて全力で追求し続ける姿勢だと思います。
 
Endeavor前田:
起業家にはチームマネジメントのスキルも問われると思いますが、中谷さんは全く違う価値観をもった海外の方とお仕事をされる際にどのようなことを心がけていらっしゃいますか?

 中谷:
相手の話をよく聞くことが大事だと思います。
自分と違う意見を言われた時に、なぜこの人はそういうふうに考えるんだろうということを考えることも大事です。もしかしたら自分が間違っていることもあるかもしれないので、よく吟味した上で、相手の良いところがあれば取り入れ、自分の方が正しいと思ったら、相手を説得するということが必要だと思います。そういった面では国籍は関係ないですね。海外展開になると、つい国のカルチャーのバイアスに目が行きがちですが、1on1で話をしてみると、物言いやトーンに関しての違いはあっても、内容はそんなに変わらないのかもしれません。
その国のバイアスというよりは個人の違いを理解することが重要だと思います。


Endeavor前田:
最後に、ビジネスを通じて、また個人として中谷さんが大切にされていることについて教えてください。

中谷:
世の中や他の人々に良いインパクトを与えることは、私にとって非常に重要だと考えています。
何をするにも、できるだけ倫理的でありたいと思いますし、自分たちの取り組んでいることが本当に世の中に良いインパクトを与えるのか、技術やビジネスが世の中に良いインパクトを与えるかどうかと言うことが自分の中での大切なクライテリアだと思いますね。

Endeavor前田:
中谷さんのお言葉から、ご自身の使命感と社会への貢献への熱意が伝わってきました。本日はありがとうございました。


<プロフィール>
中谷 昇(Noboru Nakatani)
慶應義塾大学理工学部卒業
カリフォルニア大ロスアンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院修了MBA
在日米国商工会議所会員
在日フランス商工会議所会員
経済同友会会員

キヤノン株式会社にてエンジニアとしてフランスの工場および研究所のマネジメントを経験後、退職し渡米。UCLAにてMBAを取得後は米Deloitteのニューヨークオフィスにてシニアコンサルタントとして米系企業向けの戦略系コンサルティング業務に従事。
その後、エンタープライズソフトウェア開発企業である株式会社ジャステック(東証プライム上場)の米国駐在事務所、米国法人設立を行い、類似画像認識スタートアップの仏LTUテクノロジーズ社を買収。ジャステックのグローバリゼーションを推進した。2010年に帰国し同社の代表取締役社長に就任。売り上げを約2倍、営業利益を約14倍に改善し、2022年11月に退任。
2022年12月にICE/EVコンポーネント製造のグローバル企業である仏ARaymond社の日本法人、レイモンジャパン株式会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
 

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