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#7 前編「大澤悠大さんとデザイナーと政治の距離の話。」

この記事は、2020年の1月20日の取材を元にしています。
デザイナーの大澤悠大さんをゲストに、いつもと少し視点を変えて政治をテーマにインタビューをしました。
編集の関係で半年以上経ってからの公開となりましたが、
取材時には想定し得なかったことが世界中で起こりました。
COVID-19の世界的な蔓延を起点に、世界中の都市の自粛、東京オリンピックの開催延期、アメリカにおける警官の黒人射殺に伴う暴動とデモなど、想像だにしなかった劇的な変化がこの数ヶ月で起きています。「政治をもっとラフに語れるようになれたら」という思いから今回の企画を発想した訳ですが、奇しくも私達は政治というものと否応なく向合わざるをえない状態に移行したのです。
コロナ禍の前のインタビューなので少しズレがあるかもしれませんが、
この記事が「私たちと政治との距離感」を模索する一助になれば幸いです。

今回は、デザイナーの大澤悠大さんとお話ししてきました。
ディレクターは巣内雄平


前半導入

巣内 こんにちは。ラジオデザイン3歩。 巣内と 三上と黒岩でお送りします。
7回目の前半はあの人に会いたい企画ということで、千駄ヶ谷にある、ある人物の事務所にお邪魔しています。本日のゲストはアロエInc主催、デザイナーの大澤悠大さんです。前半はデザイナーの大澤悠大さんをゲストに迎え色々聞いていきたいと思います。では大澤さんどうぞ。

大澤 よろしくお願いします。

大澤さんを知ったきっかけ

巣内 よろしくお願いします。今回はありがとうございます。ずっと ツイッターウォッチしてました。なかなか凄い作品を作る人がいるなと思ってました。
実は2010年代頭ぐらいからウォッチさせて頂いてたんですが、その頃から気になっていた作品の紹介からさせていただきたいと思います。
これは昔あったデザインや写真のアーカイブサイトで拝見したんですが、、

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大澤 FFFFOUND!ですかね?

巣内 そうですね。

三上 FFFFOUND!ありましたね。今もうないですね。

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巣内 これは、おそらく2010年代の最初の頃に作られたものですかね?

大澤 これに反応してる人初めて見ましたw

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巣内 僕、これも名刺の資料検索でヒットしていて、いいなぁって思いました。
この辺りも初期のものですか?

大澤 そうですね、独立前に制作したものです。

巣内 このなんか現代アートとグラフィックデザインの境界をすれすれでいってる感じがいいなと思って。2014年の「楽しい反戦」のビジュアルも見て、 誰が作ってるんだろうと気になっていました。

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大澤 「楽しい反戦」はイラストレーターの小田島等さんがオーガナイズしたグループ展ですね。2014年は東日本大震災のショックもあり、シリアスな空気が漂う時期でしたね。

三上 2014〜2015年くらいの、秘密保護法で盛り上がってた時期ですかね。

大澤 ちょっと覚えてないのですが、ちょっと社会状況が不安定で、戦争を意識するような雰囲気が出てきたようなところで、それに早めに反応していたのが小田島等さんでした。そこに僕も参加させて頂いて、ビジュアルを作りました。

巣内 このビジュアルを見た時に「あ、いいな」と思いました。
こういった政治的なテーマのデザインってちょっとダサいというか、イケてない物が多い印象でした。政治に興味のない普通の人にも興味持ってもらうことがデザインのポイントだと思うんですが、そういうのをうまくやれている人たちがいない中、大澤さんのを見て「おぉ!これ作ってるの誰だんだろう?」と思いました。こんな感じで結構前から作品自体はウォッチさせていただいてました。

黒岩 2010年代からウォッチしていたのですね。

三上 作品すごい素敵ですね。

大澤 ありがとうございます。これ、ダメ元でA3サイズぐらいで出力して、ONE SHOWに出してみたら入選して年鑑にも名前載りました。

巣内 これを作った2014年ということは、独立した頃ですか?

大澤 2014年の10月に独立したので、その前ですね。


kazepro時代の話

巣内 元々、kazeproにいたのですよね?

大澤 そうです。新卒で入社してずっとkazeproでした。

巣内 主に広告の仕事ですよね?

大澤 そうですね。大学4年の時にアルバイトで参加させてもらい、その時はまだkazeproがなくて「風とバラッド」でした。そこで宝島社の企業広告などを手掛けた、元博報堂アートディレクターの石井 原さんと出会いました。
その頃、石井さんのお仕事で某年鑑をデザインする人手が足りず、何かのつながりで学生である僕に声がかかったのでデザインのお手伝いをしました。
その当時は、あまり広告には興味なかったんですけど、石井さんのお手伝いをするうちに、広告って奥深いし面白いなと思いました。その後、kazeproが設立された時に声をかけていただいたので僕も参加したという感じですね。

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三上 それまではあまり広告の進路とかじゃなかったんですかね。

大澤 学生時代はすごい遊んでばかりで…。周りもそんな感じの人が多くて。 皆でライブ行ったりとかクラブ行ったりお酒飲んだりして。就活は「まあなんとかなるっしょ」みたいな空気があって(笑)。他の学科の人たちは就活していたみたいなんですけど、私の周りでは全然就活の話題はほとんど出なくて…。代理店がどういうものか、広告ってどういうものなのかがわからず、本当に世の中を舐めてたような感じだったので、そのタイミングで広告に触れられて良かったと思ってます。(笑)

黒岩 kazeproは何年いらっしゃったんですか?

大澤 約8年ですね。2006年から2014年です。kazeroは原宿・千駄ヶ谷エリアにあって、長年通ってこの辺りに慣れてるので事務所決めるときも、このエリアで決めました。

巣内 kazeproでは最終的にどういう立ち位置で働いてたんですか?

大澤 kazeproは、制作会社というよりクリエイティブエージェンシーという感じで、仕事をプロデューサーが取ってきて、それを全部社内で作るわけじゃなくて、外部のアートディレクターの方に仕事のディレクションをお願いするときもあり、デザイン自体はディレクションのもと社内で作るみたいな…そういう不思議な仕組みでした。

三上 それは特殊ですね!

大澤 もちろん社内のアートディレクターとデザイナーだけでやる場合もありますが、いろんな外部アートディレクターの方たちが関わっていました。 なので、僕がアートディレクションでチラシやパンフレットを作ることもありますし、例えば化粧品会社のブランディングだとアートディレクターを外部の方に発注し、そのディレクターの指示の下、僕がデザインチーフになり、社内のデザイナーを統合しながら動かしていくっていうシステムを組んだりもしていました。
僕の最終的な立ち位置としてはアートディレクターだったり、チーフデザイナーっていうところです。

巣内  kazeproさん自体はデザイナーは何人くらいいたんですか?

大澤 その当時、僕含め6人か7人ぐらいで、プロデューサーも7人程度で半々ぐらいでしたね。

巣内 プロデューサーさん達がお仕事を作ってきて、それを振り分けて、ある時は中で全部作るけど、ある時は外部のアートディレクターさんを招いたりと。

大澤 そうですね。案件ごとにメンバー変えていくシステムでした。

巣内 なんかそういうデザインスタジオごとの生態系が面白いなと思っていて。kazeproさんはそう言った仕組みを表面化しない感じですか?

大澤 一応Webポートフォリオには、プロデューサーはkazeproで、アートディレクターは別の会社の方、と記載してるので、特に伏せてはいないようです。

巣内 ギルドとか言ってる場合じゃないくらい。kazeproさんはスーパーギルドですね。

大澤 僕も石井さんだけじゃなく、たくさんのアートディレクターの方と一緒に仕事をして、いろんなデザインのディレクションがあるんだなと勉強させてもらいました。西岡ペンシルの西岡さんのお手伝いをしたときは、手書きラフを詳細に描くスタイルで当時の僕にはとても新鮮でした。

三上 提案の時も?

大澤 提案の時も手書きで提出されるときも多かったと思います。そういういろんなデザインの進め方を学んで、結構今に活かされていますね。

巣内 進め方の正解は1つではないということですね。

大澤 そうですね。クライアントに合ったプレゼンの仕方やデザインの進め方は色々な方法がある、ということを学びました。

手書きプレゼンについて

巣内 手書きいいですね。

三上 手書きでプレゼンの経験、意外と無いなあ。

大澤 なかなか出来ないですよね。クライアントとの関係性がうまく作れていれば可能なのでしょうが…。

三上 葛西薫さんとかほとんど手書きと聞いたことあります。でもやっぱりカンプ作るってなると、既存の写真とかから合うものを持ってきて加工してイメージに近づけて…となるけど、手書きだと想像の余地が広いじゃないですか。それはいいなと思います。

大澤 そうですね。結構撮影の時とかにクライアントが「おぉ!」となりやすいと思います(笑)。 それも作っていく醍醐味にもなりますよね。

巣内 手書きプレゼンたまにやるんですけど、考えることに集中できるので、いいなと思いますね。やっぱりそのカンプにする場合って、その時間もちょっと見ておかなきゃいけないので固くなっちゃうかなって…。僕も今フリーでやっててあんまりリソースないので、手書きが良いなって(笑)。

展示会の仕事と「Your silence will not protect you.」

三上 今も広告のお仕事はされているんですか?

大澤 たまにやってます。独立してからは同世代のクライアントからお仕事をもらうことが多くなったので会社ロゴや会社案内などマスでないお仕事の方が多くなりましたが。

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巣内 あとはこういう展覧会のビジュアルとか、寺田克也さんの展示のDMとか…。

三上 美術系の仕事がすごく多い印象がありますね。こういうのはどこから依頼がくるんですか?

大澤 六本木クロッシングの場合は、いきなりメールで来たんですよ。

三上 これまでのお仕事を見て?

大澤 そうですね、指名で。森美術館さんのスタンスがすごくて。 予算とか、スケジュールとか、媒体数とか全てまとめてエクセルにして、これでいくらでやりますか?ってメールがくるんですよ。僕、それ信じられなくて「コンペですか?」って聞いたら「指名です」って。

三上 すごーい!

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大澤 これの直前に「Your silence will not protect you.」っていう展示をアーティストのカナイフユキくんとやっていて、それも政治的なスタンスの展示でTシャツとかも出したりしました。それはワタリウム美術館のオンサンデーズとかにも置かしてもらったりとかして。多分、そういうのを見て頂いたりしたんじゃないかなと。僕の勝手な想像ですが笑。

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大澤 これを作ったきっかけとしては、2015年の安保法制の時にデモに参加して、『デモってこんなかっこいいんだ。。』って思って。 当時、そういう政治的なことを発言するクリエイターが周りに少なかったんですよね。僕は独立したてで怖いもの知らずということもあって、色々なトピックに反応して発言していました。でも一人で言ってるのも寂しいから「黙っててもダメだよ」みたいなものを作ってみて、「一緒にデザイナーとかアーティストとかミュージシャンも政治的な発言していこうよ!」というものを作ったんです。これに周りの人も少しずつ反応してくれたりして。 六本木クロッシングにも参加してるアーティストの竹川宣彰さんも反応してくれたりしました。

三上 こういうのを見て森美術館から。

大澤 実際のところは、クライアントに聞いてないのでわかりませんが笑。

政治的関心とSEALDs

三上 そういう社会問題に関心は前から持ってた感じですか?

大澤 20代のときは特に関心をもってなかったですね。

三上 じゃあ、やっぱりあの安保法制のあたりがきっかけですか?

大澤 そうですね。元々、親が反原発運動などのデモに参加していたので、社会運動のような存在はなんとなく知っていて。なので特に抵抗感なく安保のデモに行けました。ちょっと見物みたいな感じで行ったデモで、SEALDsがガンガンやってるのを見て「スゲーなあ」と衝撃を受けた思い出。こういうコミュニケーションのアップデートができるってとてもクリエイティビティがあるなあと。 それで完全にグッときちゃったという感じですね。

巣内 感覚的には同時代のアーティストに感化するみたいなのと、SEALDsと大澤さんの感じは近いですかね?

大澤 そうですね、でもSEALDsの主催者たちと僕の年は離れてますね。SEALDsの主催者たちは当時大学生が中心で、今は多分30歳手前くらいでしょうか。

巣内 俺、当時保田くんに安保デモ行こうぜって誘われて一緒に行ったもん(笑)

三上 あ、すみません。保田ってうちの夫です(笑)
巣内 そういうお祭りに一回行ってみよっかって。

大澤 そんなノリで僕も行きました。

巣内 ラップしてる人達が中心部にいて。人が多すぎてそこまで行けなかったんですけど、あれがSEALDsだったのかなと。そんな思い出(笑)

三上 いろんなことがありましたね(笑)


政治や社会問題との距離感について

巣内 では、話題を社会問題とか、政治の話に深く入って行きたいなーという所なんですけど、今日の大きな議題である「政治との距離感」の話なんですが、我々デザイナーは「政治とどういう距離感でいるのがいいのか?」みたいな話ができたらなと。
僕は、今は距離をとっているのが正解なんだろうなという気がしています。なぜなら「政治に参加する=イケてない」というのが現状だから。オリンピックもそうだと思うんですけど、色々問題はあれど距離を取るのが一番いいかなっていう。どうせ良くない所に着地して、一部の人たちが得をして、盛り上がって。そういうのをチェックすること自体がしんどいので…。

三上 なるほど。

巣内 左の人が「 あなたたちが戦争に行くのよ!」と若い人を脅したり、右寄りの人が「中国が攻めてきたらどうすんだ?」と迫ったり、そういう上から煽ることをしてしまうから普通の人が政治から離れていくんじゃないかと。その辺りの距離感の話とかをみんなで話せたらなと。

三上 そう悩ましいところですよね。私とか最近ニュースとか見るの辛くなっちゃって。

大澤 分かります。

三上 政治関連のニュースって知ると憤りがあったり、辛くなったり自分の生活の幸せ度は下がるんですけど、じゃあニュースを知ることをやめる、ってなると、それはそれで黙らされていくような気もして。何かを言いたくなるんだけど、憤りを表現したり何かアクションしていくと、怒ってばっかりで全然私は幸せじゃないな〜と思うこともあり(笑)距離感って凄く悩むところだなと思ったり。

大澤 今っていろんなトピックがありすぎて、不祥事や社会問題が切れ目なく続いてて、全てに反応していると本当に疲れてしまいますよね。

三上 きりがないですよね。

大澤 ほんと一時期、去年ぐらいなんですけど、全てのトピックに反応しすぎて疲れたって言う人が何人か出てきたりとかしてて、僕もその一人で、Twitterを2週間くらい休んだりしました。それぐらい社会問題のトピックが多くて、反応すること自体が難しくなってきているように感じます。 とはいえ、社会をよくするためには反応していかないとなと思うところもあり、本当に気になったものだけ反応するようにしてるという感じですね、僕の中では。

巣内 意外にネトウヨの人たちって結構その中で、主義主張はあれど、まともに反応してる人達なんですよね。 政治問題に常に張り付いている。

大澤 そういう方は右翼だけじゃなくて左翼にもいますね、常に怒っている人。

三上 やっぱ両極行くと、そのうちつながるんじゃないかって気がしたりもする。

大澤 極左みたいな人は、極右みたいな人と雰囲気が似ているなあと感じるときもあります。

巣内 そうですね。どっちも根っこが革命ですもんね。

大澤 うーん、科学的じゃなくなってるんですよね。両極端に行けば行くほど。 デマだったりとか、エビデンスのない事柄を信じてたりとか、だんだん両極は似通ってきますよね。

黒岩 大澤さんが言っていた、気になるトピックのジャンルみたいなのはなんですか?

大澤 一応、大体のものは気にしてるんですけど、 僕が何か反応したいなと思う時は、前知識なしになんだか変に見える時です。例えばオリンピックの選手のベッド画像が公開された時は、明らかに貧乏くさいというか(笑)全然イノベーティブじゃないし。桜を見る会も反社の人が参加してたりとか、そういう誰が見てもおかしいよねこれっていうところには反応するようにしています。反応するにあたり、それを見てくれる人のことを考えながら反応しようとしてますね。 結構難しいことだったり、前知識がないとわからないことを反応してもあんまりピンと来ない方が多いので、前知識がなくても反応できるようなことをツイートするようにしています。

巣内 いつも見てます。「面白いなー」って(笑)

一同 あはははは。
黒岩 そういうのは誰に向けてとか考えているんですか?

大澤 フォローしてくれている人だったり、周りの友達だったり、僕はそういう仲間を増やしていきたいので…。周りの友達って意味がやっぱ多いかもですね。
でもずっと怒ってるとやっぱりただ怒ってるだけの人になっちゃうかなとは思います。怒ることはもちろん重要なんですけど、なぜ怒ってるのかわかりやすくしないとなと心がけています。 

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デザイナーと社会的トピックの関わり方

三上 でも、デザイナーでそういう社会的なトピックに反応する人って珍しいですよね。あんまりいないのはなんでなんでしょうね?

大澤 そうですね、でもSNS上では反応しないけど、ずっと地道に活動されてる方とかも意外とたくさんいらっしゃったりして。デザイナーさんそれぞれのスタンスにもよるのかなと思ってます。 僕は割と大学の時からmixiとかでSNSネイティブみたいなところがあるので、結構現実とSNSが割と近しいものだったりするんですけど。

三上 確かに世代の問題とかもありますしね。

大澤 そう、あと単純に自分のブランディングとしてあんまりデザイン以外で余計なこと言いたくないという人もいて。それはまあ理解できるんですけど。 でも僕は割と言いたくなっちゃうタイプですね(笑)

三上 私も何か発言する時はする、何となくの線引きはあるんですけど、やっぱり自分の為でもあるっていうか、自分のスタンスを明確にすることで、外からの見られ方もその時点で淘汰されるっていうのはあるかなと思いますね。

大澤 そうですね。余計な人が寄ってこないというか、そういうのはあると思いますね。

「日本国憲法」について

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巣内 三上は、憲法の本も作ってたもんね。

三上 あれは2016から2017年のちょうど子供産んだ年ですね。

大澤 あれはなぜ作られたんですか?

三上 あの当時は安保法制とか色んなトピックがありましたけど、本当に一番国の形を規定しているのは憲法だよなと、夫ともずっと話していたんですよね。だけど「中立の立場で」とか「興味のない人にも届ける」ってかなり難しくて。自分たちの知識も足りないから「そもそも中立というものがどういうものかもわかんない」という話になり、「これはもう憲法学者の先生を呼んでイベントにしたら、自分たちも学べるしいいじゃないか」となって講演会イベントになったんですね。

大澤 そうなんですね。

三上 それで毎回憲法学者の先生を呼んで、イデオロギーとしての憲法じゃなくて、学問として、教養としての憲法学というものを講義形式で教えてもらう講座にしました。こういう歴史があって、こういう風に憲法というものは成立してきて、という、「そもそも憲法とは何か?」という所からできるだけ客観的に伝えてもらうという。本はその教材という形で、原文を全くいじらずにただ縦組みで漢数字だったものを横組みの数字表記にして読みやすくしたものを作りました。

大澤 なるほど。

巣内 すげー難しいテーマですね。

三上 難しいですね。だから自分たちだけでやるのは絶対無理だから、学者を呼ぼうと。

巣内 そもそもの日本の憲法の歴史というのが、戦争に負けてっていうのもあるだろうし…。

三上 その辺は先生方にも「多数派の意見はこう、少数はこう、こういう論争があります」っていうのは整理してお伝えいただいていて。本当に基本編って感じです。初めて学ぶ憲法みたいな。

巣内 一回行ったけど結構難しい。(笑)

日本国憲法/松本弦人

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大澤 最近これでましたね。松本弦人さんの「日本国憲法」

三上 ちなみにこの本の編集をされた島本脩二さんの授業を、夫が学生時代に受講していて。島本先生がかつて出版された「日本国憲法」にすごい影響を受けているんです。

大澤 すごい面白いですよね。

三上 しかも美術作品と対応させる感じで。

大澤 なんとなく近しいアート作品を選ばれていて。

三上 それこそ、その距離感が面白いと思っていて。すごくいい本ですよね。松本弦人さんがほとんどの作品のセレクトをされているそうですね。

大澤 装丁も松本さんですね。

三上 我々夫婦的には熱いトピックでした(笑)


憲法について

大澤 憲法九条って安倍さんがずっと改正させようとしていますね。最近改めて憲法を調べることがあって、憲法九条を作った方ってすごいなって改めて思いました。そういう安部さんみたいな人が出てくるということを、予め想定して作ってる。人間をあまり信用してないっていうか、基本スタンスが性悪説で、言い方はアレですがちょっとだけ性格悪いなーと(笑)

三上 やっぱり日本国憲法単体では捉えられないというか。例えば奴隷制であるとか、そういう世界中の歴史の文脈の上に成り立っているというのが熱いなーみたいな。

巣内 日本人単体でみると、「人権」というのはわかんないかも。

三上 まだもしかしたらまだ理解してない可能性もあるかも。

巣内 奴隷貿易とか、19世紀までのイギリス海軍の非道さとか…それはヨーロッパの歴史じゃないですか。アメリカとかも。

大澤 憲法は、そういう人間の性善説を信じていないところが凄いクレバーだと思うし、人間を信用しないような性格悪い人が作った感じがして好きです笑。

三上 そもそも権力をしばるためにあるというところが熱い成り立ちですよね。

巣内 ナチスができたときのドイツはかなりリベラルな憲法ですね。

大澤 そうですね。

三上 ワイマール憲法の中でナチスが誕生してしまったという歴史がありますね。

巣内 だから国も民主主義も暴走するという…。


参考図書(新聞記者 劇場パンフレット/ 熱風/ 本への扉)

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巣内 政治との距離感の参考にということで、いくつか本を持ってきたんですけど…。これは去年上映された新聞記者の劇場パンフレットです。

三上 あー見てないなあ。

大澤 東京新聞は取ってますけど(笑)。

巣内 新聞記者は映像の撮り方が結構面白くて。 話題の俳優さんを起用して、かなり登場人物に寄ったレイアウトになっていて、常にカメラワークがちょっと揺れてるんですよ。キャラクターの感情の起伏に呼応するように。なるべく登場人物へ感情移入させようとしていて。娯楽映画やドラマを見てる感覚と変わらない感じで撮ってるんです。狙いとしてはより多くの人に知ってほしいから感情を刺激するような撮り方なのかなと。 僕としてはこの作品の距離の作り方は結構良いんじゃないかなと見て思いました。ストーリーラインはガバガバなんですけど(笑)。難しいテーマをまずは興味持って楽しんで見てもらうって意味では成功してるんじゃないかと思います。

三上 そういう意見もありますね。見てないからわからないですけど…。

巣内 惜しいのは、もっと色んな映画館でやってればなーと思いましたね。

大澤 話題になってましたもんね。

巣内 んで、次がこれですね(笑)

三上 好きですね〜(笑)

巣内 これは熱風というジブリのオピニオン誌で、僕は年間購読してるんですけど、2011年の8月号です。表紙の写真は宮崎駿さんが三人で原発デモをやっている様子です(笑)。ジブリのスタジオの周りを一周するぐらいだったらしいんですけど。すごい表紙ですよね(笑)。熱風は、「今ジブリはこういうこと考えてます」とか、「今アニメ業界ではこういう動きがあります」ということを、宮崎さんにインプットする雑誌らしいんです。

一同 そうなんだ(笑)

巣内 内容もアニメから社会的なテーマからと、広範囲に色々扱ってて。

大澤 会報誌みたいなやつですか?

巣内 フリーマガジンですね。

三上 フリー?購読は無料なの?

巣内 書店に置いてるものは無料。購読は、年間2000円払えば月1で届きます。
鈴木敏夫さんって政治的なテーマに興味があって、アニメージュを編集していた時から原発特集とかやってたらしいんです。子供が見る雑誌だからバレないだろうと、上に相談しないでこっそりやってたら中には気付いた人がいて(笑)。「こういう政治的な問題には首を突っ込むな!」って当時の専務の方から言われるんです。でもその号は、一瞬で売り切れたそうです。そしたら怒っていた専務の方が
「原発記事って売れるんだなあ。お前、もう一回やれよ」と(笑)。

三上 なるほどね。

巣内 鈴木さんはこういう社会的なテーマに元々興味があって。 この紙が売れない時代でも、内容が良ければ売れると考えて、こういう骨太な雑誌を作っていますね。

大澤 ラインナップが珍しいですね。ホリエモン、石田ゆり子、石川直樹…。

三上 しかも結構多岐にわたってますね。

大澤 そうか、まだ2011年だから大らかな時代だったんですね(笑)

巣内 去年の11月のラインナップは…。

大澤 いしいひさいち、落合博満…。ヤバイ(笑)

巣内 書いてる人達も結構すごい。

三上 これフリーマガジンなんですか?

巣内 そうです。2000円払えば年間購読できます。これは上の世代元気いいなって思いますね。

巣内 これもジブリつながりでで宮崎駿さんの「本へのとびら」という本です。2011年に宮崎さんが3人デモやってた時期と同じぐらいに出たものです。震災後に急に社会の空気が変わったと宮崎さんは思って、こんな時だからこそ子供に読ませたい本をということで、50冊選書したんですね。しかもこれ全部解説が書いてあって、めっちゃ素敵なんですよ。我が家は去年子供が産まれて、子供に読ませる本のナビみたいな意味もあって買ったんですけど…。

大澤 去年?うちは去年の4月に生まれました。

巣内 うちは2月です。

三上 みんな子供いる(笑)

巣内 ここに書いてあったことで言うと、風が吹いている風船がはじけそうな時代に、子供に何を読ませたらいいんだろうかっていうのがすごい難しくて。
その中で、宮崎さんが震災直後に選んでくれたという…。これは2011年の本なんですけど、今の2020年ってもっと社会が混沌としてるなって感じがしてて…。

大澤 そうですね。まだ2011年の熱風の執筆陣のラインナップとか見ても、おおらかだなって感じしますね。 

三上 あの頃いろんな社会の空気が変わったとか絶望感がありつつも、でもこれを契機になんか良い方向に行くんじゃないか?みたいな一抹の希望もあったなあと。

大澤 そうですね。村上龍さんもたしかそういうこと書いてた気がします。でもそうはなってないのが現状という気がします。

三上 そうですね。twitterとかにもまだそこで議論なり、運動が生まれるんじゃないかみたいな期待がまだあった気がします。

巣内 でも結局、Twitterはポピュリズムを育てただけで、建設的なものを生んだのか?みたいなのもありますね。

2010年代、2000年代

三上 2010年代やばいですよね。震災から始まり、本当に激動の10年だったなあと。

巣内 民主党から自民党にまた戻っちゃって、結局ツケは払わずに現状維持でみたいな。 基本そんな10年間だったのかなって感じがしていましたね。

大澤 2000年代が割と牧歌的に感じるんですよね。2011年のことを考えたり、この10年のことを考えると…。

巣内 我々も学生で、まだ広告も元気良くて。

大澤 広告元気よかったですよね。

巣内 佐藤可士和さんとか原研哉さんとか、箭内道彦さんとか色んな人が出てきて…。

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大澤 2000年代の前半は広告クリエイターがとても活躍していた時代ですよね。こないだもTwitterで呟いたんですけど、佐藤可士和さんのSMAPの3色のやつとかも、広告デザインの極地というか。一番振り切ったのがあれなんじゃないかと思っていて。あの広告を当時の日本がつくれたというのがすごいと思いますね。

巣内 しかも大貫卓也さんの直系なのにっていう。大貫さんは細部をすごい作りこむことでブランドの世界観を信じさせたのに、それをやってた人の弟子が、ディティールを徹底排除したやつをやるんだと思いますね。

三上 今だったらできないかもですね。

大澤 多分もうできないでしょうね。やっても媒体がないっていう。 結局ウェブとかになってしまう気がします。ウェブでやっても意味ないですからね。

前半しめ

黒岩  もう1時間経ちました。

三上 なんとなく次のトピックにふわっと行きつつ、おやつ食べます?

一同 あははは。食べましょう。

巣内 ということで、いろいろと話し足りない部分も多いですが、前半のブロックは終了です。後半はトピックコーナーです。「2010年代が終わって思うこと」をテーマに、大澤さんを交えてディスカッションしていきたいと思います。それでは後半をお楽しみに。






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